昨年2020年2月17日のふれあいコンサート以来、実に11ヶ月ぶりにウィステリアホールで演奏会が開催されました。この間いくつもの企画が流れ、大変な思いをされながらこの日の開催に尽力くださった関係者の皆様に感謝です。再始動、おめでとうございます!私達もこの日を心待ちにしていました。
ホール定員の約半数90席での開催で、チケットは早々に完売。お客さん達は入場前に1階ロビーで検温と手の消毒を済ませ、地下のホールへ。自由席でしたが使える座席は決まっていて、1席飛ばしでの着席でした。小学生以上は入場可で、親子連れも数組お見かけしました。
WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅶ ピアソラ生誕100周年記念
2021年1月17日(日)14:00~ ウィステリアホール
【演奏】
岡部亜希子(ヴァイオリン)
小野木遼(チェロ)
新堀聡子(ピアノ)
【曲目】
A.ヒナステラ/
- 3つの小品 Op.6
- パンペアーナ 第1番 Op.16
- パンペアーナ 第2番 Op.21
A.ピアソラ/
ピアノはベーゼンドルファーでした。
約2時間、夢中になれる演奏を聴けて最高に幸せでした!自分では普段ほとんど聴かないジャンルの曲を聴いて新鮮だっただけでなく、あの場ですごい演奏の熱量を肌で感じられたのがうれしくて。やっぱりライブは最高です!うまく伝えられなくてもどかしいですが、演奏に聴き入っていると、何と言えばいいか時空が歪む感覚がしたんです。11ヶ月という長いブランクは瞬時に縮み、演奏を聴いているときはそれが永遠に続くとすら思えるのに、終わってからは一瞬の出来事だったような不思議な感覚。今は長距離の移動がままならず、世界的なアーティストの来札は激減している状況です。しかしご近所にこんなに素晴らしい演奏家がいらっしゃるんですよ!しかもその演奏を奏者と聴衆の距離が近いホールで聴けるなんて、大変ありがたいです。やはり札幌は恵まれていると改めて思いました。
札響の奏者でいらっしゃる岡部亜希子さんと小野木遼さん。オケとは勝手が違う環境での演奏、大変素晴らしかったです!こんなに個性的で素敵な演奏をなさるのに、札響の演奏会でいつもお見かけしてその演奏も聴いているはずなのに、私はうっかりしていました。いつも首席・副首席ばかりに注目していてごめんなさい!岡部さんと小野木さんのこと、次の演奏会からは絶対に見逃しません!そして新堀聡子さんのピアノがとてもステキでした。「ブラームスが大好き」と仰る新堀さん、ヒナステラもピアソラもブラームスとはまるで違うピアノなのに、独奏曲も伴奏もすべてクオリティ高い!プロのお仕事とはいえ、おそれいりました。おそらく演奏会の企画を進めているときから自主練を積み重ねてこられたのですよね。流れた数多の企画でもそうだったのかもと思うと、私は胸が痛みます。11ヶ月の間に公演中止となった企画の数々も、今後ぜひ実現して頂きたいです。
また曲の合間のトークも楽しかったです。岡部さんは、前日は札響の小樽ニューイヤーコンサートから戻って即リハーサルで、ウィンナ・ワルツとは毛色が違う曲を弾いて頭がぐちゃぐちゃになったとおっしゃっていました。その前日リハでは、小野木さんはチェロの弦が切れた(D線?)そうで、張り直す前の弦のほうが音が良かったとか。弦の種類や素材で価格が異なり、実際の購入価格といったちょっと生々しいお話も。小野木さんは「タンゴは2回目同じところが出てきても同じにはならない」ともおっしゃっていて、それに注意しながら演奏を聴くとより細かな変化を楽しめました。まったく楽器は弾けない素人の目から見ても、ピチカートがまるでクラシックギターをかき鳴らすような動作に見える部分もあり、耳だけでなく目でも刺激的な演奏が次々と。ご多忙な中、どんな音楽でも弾きこなした上で聴き手を思いっきり楽しませてくださりありがとうございます!
前半はヒナステラ。私は作曲家の名前からして初耳でした。プログラムノートによるとヒナステラはピアソラの師匠なのだそうです。鮮やかな赤のノースリーブドレスで舞台に登場した新堀さんはすぐに演奏開始。ピアノ独奏曲「3つの小品」はアルゼンチンの各土地とその民族をイメージした曲とのことで、3つの個性的で美しいピアノを聴かせてくださいました。私がイメージする「タンゴ」とは違いましたが、ヨーロッパ圏の音楽とも違っていて、めったに聴けない曲を素敵な演奏で聴けてよかったです。この後はずっと伴奏になるピアノですが、この新堀さんがリードしてくださるなら大丈夫と、大船に乗った気分に。続くヴァイオリンとピアノによるパンペアーナ第1番では、岡部さんは黒のベアトップドレスで登場。きちんとまとめた髪には赤い小さな花の髪飾りをつけていらっしゃいました。岡部さんの演奏、超カッコイイです!小刻みに音を刻んだり高音がキュイーと鳴ったり、おそらく演奏はとても難しいのだと思われます。しかし緩急も音の変化もよどみなくつながっていて、曲がまるで生きているように感じられました。前半最後となる曲は、チェロとピアノによるパンペアーナ第2番。小野木さんは、黒の長袖シャツに赤いネクタイで女性お2人の衣装と色を揃えた装いでした。小野木さんはまさに全力投球、目まぐるしく雰囲気が変わる曲を低音がぐっとくる演奏で聴かせてくださいました。私チェロ好きを自認しているのに、この作品を知らずにいたなんて、もったいなかったです。またひとつチェロの好きな曲が増えました。
15分間の休憩中、舞台のスクリーンに次回公演の予告動画(※記事の末尾にその演奏会情報のリンクがあります)が流れました。バリトンの駒田敏章さん、お話するときの落ち着いた声もステキ。もう3月が楽しみすぎます!
後半はピアソラで、1曲目はヴァイオリンとピアノによるエスクアロ<鮫>。ほんの3分ほどの短い曲、良い意味で大変驚かされました。スリリングでドキドキして、「食われる」ような、こちらが獲物にされた気持ちに。演奏を聴いていると、華奢な岡部さんからものすごいオーラが放たれているように感じました。すごい……!そしてチェロとピアノのル・グラン・タンゴは、私は生演奏で聴くのは3回目。何度でも聴きたいので、全世界のチェリストに弾いて頂きたいほど大好きな曲です。ル・グラン・タンゴを書いたピアソラは偉大!この曲を47,8回は舞台で弾いているという小野木さんの演奏は、聴いている側の感覚では大人の余裕で変化を楽しませてくれて、独特のリズムも音色もたまらなくて、私は完全に小野木さんの演奏に呑まれてしまいました。だめ、ホテレマウ。困ったな。
ここからはピアノ三重奏による演奏でした。映画音楽のオブリビオン<忘却>は、映画そのものよりも曲のほうが有名になったのだそう。今までとはうってかわって少しスローテンポになり、イケイケドンドンではなく大人の哀愁に満ちた雰囲気がとっても素敵でした。これなら映画そっちのけでも聴きたい曲だと妙に納得。演奏は、ピアノがベースを作りながら、チェロが先に弾いたところをヴァイオリンが少し変化して再現するのが基本スタイルで、その変化を楽しめました。ああピアノトリオってイイですね!室内楽だとこの編成が一番好きかもしれないです私。
ブエノスアイレスの四季 より<夏>と<冬>は、バンドネオンが入った室内楽や管弦楽等の様々な編曲をテレビ放送などで耳にする機会は多いものの、私はピアノトリオでの演奏を聴いたのは初めてでした。<夏>では、全員が同時に演奏するところも素敵でしたが、私は特にヴァイオリンが主役のところが下支えのチェロとセットで印象に残っています。私の中でブエノスアイレスの四季はイコール<夏>で、それを素晴らしい演奏で聴けてうれしかったです。続く<冬>は、ピアノソロのところでまず心奪われ、その後にシンクロする弦でゾクゾク。三者三様の個性がぶつかりながらも当たり前のように一つになっている印象でした。<春>と<秋>もいつか聴いてみたいです。
プログラム最後の曲はおなじみリベルタンゴ。真打ち登場、めちゃくちゃカッコイイ!私が以前聴いた別のピアノトリオの演奏でもそう感じましたし、何を基準にそう思うのか自分でもわからないのですが、テンポ速いんですねこの曲。新堀さんのお話によると、文字通り「自由な」タンゴなのだそうで、ネットにピアソラ自身のアレンジや演奏があるので聴いてみてくださいとのこと。そうですよね。今年2021年はピアソラ生誕100周年とのことですし、私も意識して色々と聴いてみたいと思いました。昨年のベートーヴェンアニバーサリーイヤーほどは騒がれないかもしれませんが、演奏会やテレビ放送でもピアソラの出番が増えるかも!
アンコールはピアソラのアヴェ・マリア。ピアソラがこんな美しい曲も残しているなんて!それぞれのパートでのソロも楽しめる演奏で、私はうっとりと聴き入りましたよ。もちろん全部良かった上で、個人的には中でも特にヴァイオリンに魅了されました。だって先ほどまではハンターのようだったヴァイオリンが、この曲ではまるで乙女の祈り。同じ楽器を同じ演奏家が演奏しても、がらりと違う表情になるのですね。素晴らしい!岡部亜希子さん、小野木遼さん、新堀聡子さん、最後まで素敵な演奏をありがとうございました!
今回はアンケートはwebで、出演者とのふれあいはナシでした。分散退場後に内装が黒いホールから外へ出ると真っ白な雪景色が広がり、一気に現実世界へ。言うまでも無く外の世界は何一つ変わってはいません。しかし私は確かに別次元へ行って帰ってくる特別な体験をしました。誰だって生きている限り色々とあるけれど、生きづらい世の中を一生懸命に生きているんですから、ほんの少し夢を見る時間があってもいいですよね。当たり前のように生演奏が聴ける環境があることを、私はしみじみとありがたく思います。ウィステリアホールさん、様々なハードルを乗り越えて演奏会を再開してくださり本当にありがとうございます!チケット代はリーズナブル設定な上、ホール定員半数で演奏会を開催するとなると、興行的には大変かと存じます。本来の意味での満員御礼でコンサート開催される日が一日も早く来ますように。
ちょうど11ヶ月前に開催された「ウィステリアホール ふれあいコンサートVol.3」のレポートは以下のリンクからどうぞ。コントラバスが主役の演奏会、最高でした!ピアノは新堀聡子さんで、コントラバスは札響首席奏者の吉田聖也さん。ピアソラの曲「キーチョ」も聴けたんですよ。
WISTERIAHALL WEB CAST では、無観客収録の演奏動画が無料で公開されています。ウィステリアホールの企画構成ご担当の新堀聡子さんはもちろん、今回の演奏会にご出演のヴァイオリン岡部亜希子さん、次回の連作歌曲が楽しみなバリトン駒田敏章さんの演奏も聴けますよ。演奏会が出来なかった間もこのような形で音楽を届けてくださり感謝です。
2021年3月28日(日)に開催予定の WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅷ は「朗読と歌で綴るマゲローネのロマンス」。若き日のブラームスが書いた連作歌曲、札幌で生演奏を聴けるなんて夢のようです。どうか無事に開催されますように。リンク先では予告動画を観ることが出来ます。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。