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ウィステリアホール プレミアムクラシック 16th バリトン&ピアノ(2022/06) レポート

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、今回はドイツ歌曲です。ヴォルフとシューマン、いずれも詩人・アイヒェンドルフの詩に曲をつけた作品が取り上げられました。昨年度のブラームス『美しきマゲローネのロマンス』の演奏会(今回と同じくバリトン駒田さん&ピアノ新堀さんがご出演)が大変素晴らしかったので、私は今回の演奏会も楽しみにしていました。


ウィステリアホール プレミアムクラシック2022シーズン 16th バリトン&ピアノ
2022年06月05日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
駒田敏章(バリトン
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ヴォルフ:アイヒェンドルフ歌曲集 より
「友人」「音楽師」「寡黙な愛」「セレナーデ」「望郷」「愛の喜び」「海の男の別れ」

シューマン:リーダークライス 作品39 (全12曲)
「1.異郷にて」「2.間奏曲」「3.森の対話」「4.静けさ」「5.月の夜」「6.美しき異郷」「7.古城にて」「8.異郷にて」「9.悲しみ」「10.たそがれ」「11.森にて」「12.春の夜」

(アンコール)シューマン:献呈


ピアノはベーゼンドルファーでした。


バリトン駒田さん&ピアノ新堀さんによる演奏で、ドイツ歌曲をたっぷり聴けて幸せです!同じ詩人を題材にしていても、詩の選び方も曲そのもののカラーも作曲家によって個性が違うのは楽しく、1曲1曲を新鮮な気持ちで聴けました。また前半のヴォルフでは、演奏の合間の駒田さんによるトークがすごく面白かったです!トークそのものが楽しかったのはもちろんのこと、事前に作曲家やその曲について少し知ることができたおかげで、食わず嫌いの私でもヴォルフを楽しく聴けました。ヴォルフはブラームスを敵対視していた作曲家なので(これについては今回の演奏会では一切触れられていません。念のため)、「私の推しとは合わない人」イメージで今までずっと避けてきました。そして初聴きだった今回、もしトークなしの演奏のみだったなら「なにこれ!?」となってしまい、私はうまく受け止められなかったかもしれません。今回の演奏を聴いて、私はヴォルフの歌曲を「好き」と言えるには至りませんでしたが、少なくとも独特の個性を「面白い」と感じ、これからも聴いてみたいと思えるようになりました。駒田さんと新堀さんの、作曲家への愛あふれるトークと真摯な演奏のおかげです。ありがとうございます!

そしてシューマン。しみじみ素敵で聴き入りました。ブラームスとはまた違う個性でも、シューマンの歌曲は心に身体にすっと入ってきて、私にはしっくり来ます。また今回の作品については、感情は揺れ動くものの極端に大きな揺さぶりはなく、心穏やかに聴けました。なおシューマントークなしで全曲続けての演奏。現実に引き戻されることなく、音楽の世界にずっと浸ることができました。私は、ドイツ音楽が好き、ドイツ語の響きも好き、そして低い声LOVEなので、音の響きを味わうだけでも十分楽しめます。しかしせっかく歌詞がある歌曲ですから、今回は字幕を追いできるだけ言葉の意味を把握しながら演奏を聴いてみました。すると、歌詞の言葉そのものよりむしろ声とピアノの表情に「言外の意味」があると感じるように。奥が深い世界!今の私はまだ気づきが少ないですが、今後も自分なりに歌曲を聴いていき、今よりも色々なことが見えてきたらもっと楽しめそうな気がしています。

今回、歌詞の印刷物は配布されず、歌詞の日本語訳は正面のスクリーンに大きく表示される形式でした。演奏の様子と歌詞を同時に見ることができるのと、今どの部分を歌っているのかが一目瞭然なので、個人的にはこのスタイルは歓迎です!詩の中での引用符で囲まれた部分はフォントを変える等の工夫も親切でした。一つ思ったのは、ドイツ語を知らなくてもアルファベット表記で発音は想像できるので、ドイツ語を併記しても良いかも?ということ。しかし画面がごちゃごちゃになったり、文字が小さくなって読みづらくなったりするようでしたら、今回のように日本語のみでOKだと思います。いち個人の思いつきでした。


ピアノの新堀さんとご一緒に舞台へ登場したバリトンの駒田さんは、「髪を後ろで束ねてメガネをかけると、ショパンコンクール第2位のあの人に間違えられる駒田です」と自己紹介。会場が和み、掴みはOK!なお駒田さんは前半・後半ともすべて暗譜でした。本記事ではまず、前半でのトーク内容のうち曲の解説(これは各曲のレビューの中に書きます)以外について、私が聞き取れた範囲でまとめてレポートします(※トピックの順番は前後しています)。内容について間違いや漏れ等がありましたら、どなたでもご指摘くださいませ。日本ではなじみが薄いヴォルフ。しかし駒田さんはヴォルフが大好きで、大学院の卒業試験も日本音楽コンクールでもヴォルフを演奏されたそうです。今回の作品集の詩人・アイヒェンドルフの詩は「ストーリーがあまりなく雰囲気を味わう詩」。ヴォルフは「詩」をとても大切にしていた作曲家で、基本的にわかりやすいメロディではなくハーモニーで詞の世界観を表現している。詩の内容によっては後奏で引っ張らずに詩が終わると同時に曲が終わったり、「朗読付きピアノソロ」とも言えるものだったり。転調を多用するもそれが想像を外してくる独特なもので、例えば……と「狸小路商店街」(!?)のテーマソングをまず普通に歌い、続けてヴォルフ風にアレンジ(すごいものを聴いてしまいました……)。確かに終わり方が落ち着かないかも?と私は感じましたが、駒田さんは「これにハマれるとヴォルフが好きになる」とおっしゃっていました。ちなみに歌曲伴奏のスペシャリストであるピアニストのジェラルド・ムーアは、「シューベルトかヴォルフ、選べない」と言うほど、ヴォルフの歌曲を高く評価していたとのことです。またヴォルフを語る上で外せないのはワーグナー。ヴォルフはワーグナーを神のように崇拝していたそうです。ワーグナーの楽劇を休憩なしで長時間続けて聴くのがつらい人にはヴォルフの歌曲をお勧めしたい、というお話では会場が和みました。ワーグナーに関連して、宮崎駿監督のジブリ作品『崖の上のポニョ』のワンシーンにワーグナーの「ワルキューレの騎行」が使われているというトリビア紹介も。そして前半のトークの中で、後半のシューマンについての紹介もありました。シューマンは一定期間を1つのジャンルに集中して作曲する傾向があり、クララと結婚した1840年は「歌曲の年」。今回の「リーダークライス 作品39」も「歌曲の年」の作品とのこと。シューマンの愛の喜びと憂いや不安が混ざっている作品、といったお話でした。


演奏内容に入ります。前半はヴォルフのアイヒェンドルフ歌曲集 より、7曲をチョイス。「友人」は、人生の荒波を乗り越えた人を私は友としたい、という趣旨の曲。演奏は、緩から急へ移ったのが私には唐突に感じられ、いきなりクライマックス!?まって心の準備が!と面食らってしまいました(ごめんなさい!)。しかし揺るぎない決意が感じられるインパクト。また歌とピアノはほぼ同時に終わりました。「音楽師」は、路上でルンペン生活をする音楽師が、真冬の外(ドイツの冬だと札幌と同じく命に関わる寒さ)で陽気に生きていて、ピアノパートは音楽師が奏でる音楽、とのことです。ピアノの明るい素朴なメロディに合わせて、音楽師が「彼女(自分を憐れむ道行く女性)に家がある旦那を与えますよう!」と努めて明るく歌うのがとても刺さりました。「寡黙な愛」は、内面の愛を見つめる曲で、転調を多用しているそう。バリトンもピアノも揺れる心をひとり静かに噛みしめている感じ。男前が繊細な心を持ち合わせているようで、この曲のバリトンは個人的にツボでした。また後奏のピアノのやさしい響きもとっても素敵でした。「セレナーデ」は、夜、女性の家の前で求愛する若い男が歌う(セレナーデとはそんな曲)のを、聞いている年老いた自分(愛した女性は既に他界)の思いを歌った曲で、ピアノが若い男の歌、バリトンが年老いた自分、とのこと。ピアノは素朴でも美しいのに、重なるバリトンの心情は寂しくて、このズレに心がざわつく感じ。またラストにピアノが低い音をのばさず2回、ボン、ボン、と発したのが私はすごく気になりました。これは一体何の描写なんでしょう……。「望郷」は、一人で言葉が通じない外国にいるときに感じる孤独と故郷への懐かしさ。ピアノによる後奏で激しい内面を表現しているとのこと。ちなみに東西ドイツ統一の時によく歌われた曲だそうです。初めの方では、穏やかに語るようなバリトンがとっても素敵!私は詩の内容とは直接関係なく「子守歌」のような雰囲気を感じました。クライマックスは前向きで勇ましくなり、あ、フロイデだ!ドイッチュランドだ!と、何となくわかる単語が聞き取れたのがちょっとうれしかったです(このレベルで申し訳ないです)。ピアノの堂々とした締めくくりも素敵でした。「愛の喜び」は、ドイツ語で話しているのに一番近い演奏で、短い詩に対して前奏や後奏で引っ張らずにパッと始まりパッと終わる曲、と解説。ピアノもバリトンもウキウキと恋の喜びを饒舌に語っているようで、とっても楽しかったです。青臭い詩にはこんな曲をつけた方が、冗談っぽくできていいのかも?この演奏を聴いて、私はついブラームスの「我が恋は緑」を連想。「我が恋は緑」は個人的に大好きな曲ですが、青臭い詩を大袈裟な曲にして笑えない感じになっちゃったなとは思います。最後の「海の男の別れ」は、駒田さんが大好きな曲とのこと。飲んだくれの海の男が、自分を振った女や仕事の同僚に対して、あばよ!と捨て台詞を吐き、おまえらにもう一度ノアの洪水をお見舞いしてやる!俺は楽園に行く!と啖呵を切る、というストーリー。ピアノの後奏では男が妄想する楽園を表現しているとのこと。また海の荒波を表現するピアノの和声が強烈(人によっては耳障り)で、この和声にはブルックナーが嫉妬したのだそうです。確かにピアノの和声はインパクトありました。ただ、個人的にはちょっと無理(ごめんなさい!)。しかしバリトン演じる海の男が、大きな声で強がってみたり、ささやき声になったり(悪だくみ?)と表情豊かで、どうしようもない男なのに憎めない感じがして楽しく聴けました。ピアノによる明るい締めくくりには「楽園へ行ってらっしゃい!」と、聴いている私達の気分も晴れやかに。演奏が終わると、駒田さんの「休憩です」との一言で、前半終了。


後半はシューマンのリーダークライス 作品39 (全12曲)。トークは無く、全曲続けての演奏でした。「1.異郷にて」は、既に父母が他界して自分自身も消え入りたいといった歌で、寄せては返す波のようなピアノに、パリトンの揺らぐ声が深い悲しみを表しているよう。「2.間奏曲」はラブソング。思いはあふれているのに、貴女の元へ急ぐのだという決意表明(?)のところで、なぜかふっと寂しげな感じになったのが印象的でした。「3.森の対話」は、男女の会話形式の詩で、女性の発言は字幕のフォントを変えてありました。ピアノとバリトンも人物を演じ分け、とてもドラマチックな演奏。穏やかで明るい感じだったのが、女が魔女だとわかったときのパリトンの「ローレライ!」がインパクト大!その後の対話を経て、何事も無かったようにピアノが最初の穏やかな響きになったのにはぞっとしました。一体どうなってしまったのでしょう……。「4.静けさ」は、控えめにスキップするようなピアノに、恋心を秘めたバリトンのささやくような声が素敵でした。「5.月の夜」は、ひそやかな月の光を思わせるピアノとバリトンのゆったりとした響きが心に染み入りました。「6.美しき異郷」は、夜の情景を描いていても内に秘めた情熱が感じられ、希望に満ちた力強いラストが印象的。「7.古城にて」は、時が止まった古城を、重々しいピアノと語るようなバリトンで。ラストはピアノの後奏なしでふっと消え入ったのが印象に残っています。「8.異郷にて」(同じタイトルでも1曲目とは別の曲)は、ピアノとテンポ良く掛け合うバリトンが、どこか落ち着かない印象で、心がざわつきました。彼女との死別はずっと前のことでも、時間が経ってから感じる喪失感?「9.悲しみ」は、大泣きするのではなくて、深い悲しみを心の奥にしまい穏やかに受け入れている印象。個人的には子守唄のようにも感じる、心地よい響きでした。「10.たそがれ」は、淡々としているようで、歌詞を読むと「友を信じてはいけない」等、何かつらい過去があった?と。音楽の響きも心なしか孤独で悲しげに感じました。ラストに音を区切って2回、ボン、ボン、と発したピアノ……ヴォルフにも似た終わり方があったのを思い出しました。これは一体……。「11.森にて」は、陽気で力強く始まったのに、後半はやや不穏な感じに。ものすごく暗いわけではなく、穏やかなのがかえってインパクトありました。「12.春の夜」は、華やかなピアノに自信に満ちたバリトンの響き!最後に幸せに満ちた曲の演奏が聴けてうれしかったです。12の小さな物語の世界、最初から最後まで夢中になれました。

カーテンコールでは、駒田さんから次回のウィステリアホール公演(2022/07/31 ソプラノ&ピアノ)の宣伝がありました。クララ・シューマンの作品と、ロベルト・シューマンの「女の愛と一生」が取り上げられること。「女の愛と一生」は男から見た女性像でけしからんという向きがあるけれど、「僕はそうは思いません」と駒田さん。そしてアンコールの演奏へ。シューマン「献呈」。ウィステリアホールの公式YouTubeチャンネルで公開されている演奏を、今回は生演奏で聴ける!と、私は心の中で大喜びでした。男性から女性への愛あふれる歌詞は、作曲当時新婚だったシューマン夫妻のロベルトから妻クララへの熱烈な愛情表現そのもの。幸せな響きのピアノに、語りかけるようなバリトン。貴女と呼びかける、ドイツ語の du が最高!何度でも呼んでほしいです!バリトンは次第に自信に満ちあふれた感じになり、愛をまっすぐに歌うのがとっても素敵でした。演奏が終わると、駒田さんの「おしまいです!」でお開きに。個性豊かなドイツ歌曲の数々をたっぷり聴けて楽しかったです!今回も素敵な演奏をありがとうございました。次の開催もお待ちしています!


WISTERIAHALL WEBCAST にて、今回のアンコールで取り上げられたシューマン「献呈」のバリトン駒田敏章さんによる演奏(日本語字幕付き)が公開されています。超おすすめです!


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バリトン駒田さん&ピアノ新堀さんがご出演された、昨年度のウィステリアホールプレミアムクラシック 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」(2021/10/24)。ピアノとバリトンと朗読のみで創る、中世の物語の世界。おそらく首都圏でもめずらしい、ブラームスの連作歌曲の演奏会を札幌にいながらにして聴けたのはとてもスペシャルな体験でした。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回は「クラリネットファゴット&ピアノ」(2022/04/29)でした。ふくよかな音色のクラリネットに、カッコ良くて頼もしいファゴット。フランス系中心のプログラムは聴いていて心地よく、木管の魅力をたっぷり堪能できました。

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この日の1週間前に聴いた「札幌交響楽団 第645回定期演奏会」(日曜昼公演は2022/05/29)では、シューマン交響曲第3番「ライン」が取り上げられました。華やかな「水上の音楽」に、アンヌ・ケフェレックさんの可憐で繊細なピアノによるモーツァルトライン川を思わせる壮大な響きのシューマン。シーズンテーマ「水」がよどみなく流れるような演奏に、清々しい気持ちになれました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。