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WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅺ チェロアンサンブル&ピアノ(2021/08) レポート

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ウィステリアホールでの演奏会、今回はチェロアンサンブル&ピアノです。チェロ1つだけでもうれしいのに4つも!?と低弦好きな私は企画発表当初から楽しみにしていました。緊急事態宣言が出ている中で、様々な困難を乗り越え開催くださり感謝です(公演開催・当日券販売・払戻しについて)。収容率50%を上限・定員90席の会場は、ほぼ定員近くの人で埋まっていました。


WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC チェロアンサンブル&ピアノ
2021年8月29日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
三宅 進(仙台フィルソロ首席チェロ奏者)
吉岡 知広(仙台フィル首席チェロ奏者)
武田 芽衣(札響チェロ奏者)
小野木 遼(札響チェロ奏者)

新堀聡子(ピアノ)

【曲目】

  • ブラームス
    “愛の歌” op.71-5
    “メロディのように” op.105-1
    “まどろみはますます浅く” op.105-2
    “教会墓地にて” op.105-4
  • ヴィヴァルディ 2つのチェロのための協奏曲
  • バッハ (ヴァルガ編) シャコンヌ
  • ドローヌ アンダンテとスケルツォ
  • レンゲル
    主題と変奏 op.28
    即興曲 op.30
  • ポッパー レクイエム op.66

(アンコール)


ピアノはベーゼンドルファーでした。


仙台フィル&札響のチェリスト4名の協演!この豪華メンバーによる演奏で大好きなチェロをたっぷり聴けて、もう幸せです!一般的な室内楽ではついチェロばかりを追いかけてしまう私ですが、今回は全員チェロなので(笑)、選べない!なんて贅沢な悩み!おかげで本来は2ndヴァイオリンやヴィオラの役目になる演奏も主旋律と同じウエイトで聞けました。そのアンサンブルも素人目にはまったく無理がないように見えて、普段別々に活動している皆様にもかかわらず驚きの一体感。実際、全員揃ってのリハは本番直前の限られた時間しかなかったのでは?それでもお互いを信頼しておられるようで、皆様ご自身の演奏にためらいがなくかつ全員で呼吸を合わせて……素晴らしいです!「チェリスト同士はみんな仲が良い」はきっと真実ですね。そして仙台からはるばるお越し下さった三宅さんと吉岡さんは、アウェイの舞台にもかかわらず、その演奏であっという間に会場にいる人達をとりこにしてくださいました。ありがとうございます!こんな素晴らしいチェリスト仙台フィルのソロ首席と首席でいらっしゃるんですね。私、演奏を聴きにお2人のホームの仙台まで飛んでいきたいです!今は難しいですが、感染症拡大が落ち着いた暁には必ず!

開演前に新堀さんと武田さんによるお話がありました。今回の企画は、まずチェロアンサンブルをしたいと新堀さんが武田さんに相談→武田さんが「基礎をたたき込んでくれた」師の三宅さんにお声がけ→三宅さんが吉岡さんを、武田さんが小野木さんを誘ってチェリスト4名揃った、という流れだったそうです。そして曲の合間のトークは三宅さんがメインで、必要に応じて他のかたにマイクを向けるスタイルでした。そのトークも楽しく、トークの最中は時折笑いが起きて会場は和やかな雰囲気に。あんなに心の奥深くに響くチェロをお弾きになる三宅さんのお話ぶりが、例えばだじゃれを言おうとしてやっぱりやめたり「タンホイザー」の男女の話を具体的にできずちょっと詰まったりと、なんだかかわいらしくて(大人の男性に向かってごめんなさい!)、客席にはそのギャップにやられてしまった女性(男性も?)が多数いたようです。三宅さんは、片足でチェロを支えて(!)立ったままでちょこっと演奏(パッヘルベルのカノンをさわりだけ)する離れ業までさらっと披露。なお、4名のチェリストの皆様はそれぞれ最適なイス・譜面台の高さが違っていて、曲の演奏が終わる度に次の曲の席順に合わせて配置換えがありました。頑張ってくださったステージスタッフのかたにも感謝です。


演目に入ります。いつもはトリをつとめることが多いブラームスですが、今回は前座です。ブラームスの歌曲を4つ、いずれもピアノ伴奏とチェロ1つによる演奏でした。小野木さんによる「愛の歌」と「メロディのように」は、愛を語るような甘い音色のチェロが心に染み入ります。こんなラブソングの演奏を聴くと、ブラームスってほんっとピュア!と改めて思います。続いて武田さんの「まどろみはますます浅く」は今際の際にある人のはっとするような美しさを、「教会墓地にて」は死を見つめる生きた人の強さを感じました。「まどろみはますます浅く」はブラームスピアノ協奏曲第2番第3楽章の独奏チェロと似ていて、私はますますピアノ協奏曲第2番を生オケで聴いてみたいと思うように。また「教会墓地にて」を聴くと、ついドイツレクイエムを連想してしまいました。ドイツレクイエムもいつか必ず実演を聴きたいです!そして、歌の感情を体現したドラマチックなザ・ブラームスのピアノが素敵すぎました。ブラームスはこうでなくっちゃ!私達札幌市民にとっても、なじみのある札響のチェリストと新堀さんのピアノによる演奏を安心して聴くことができ、掴みはバッチリOKでした。

ヴィヴァルディ「2つのチェロのための協奏曲」は、チェロ2つとピアノによる演奏。チェロは武田さん(1st)と三宅さん(2nd)の師弟デュオです。こちらの演奏が想像を超えた良さで、私はぐいぐい引き込まれてしまいました。2つのチェロが丁々発止のやり取りをしているような、またあるときは協力し合っているような。演奏はお互い遠慮していないにもかかわらず呼吸はバッチリ揃っていて、もうすごいものを聴きました……。弦楽器は演奏する人によって音が違うと私は思っているのですが、それぞれの個性がぶつかったり重なったりすることでお互い高め合うのですね。バロック期の音楽に特徴的な同じ旋律の繰り返しを「素敵」と感じたの、初めてかもしれません私……。今回のヴィヴァルディがとても良かったので、私はチェロが複数いる協奏曲を他にももっと知りたくなりました。

バッハ(ヴァルガ編)「シャコンヌ。原曲は無伴奏ヴァイオリンの有名な曲ですね。今回はチェロ四重奏による演奏。4人揃っての冒頭からガツンとやられて、私は思わず背筋がのびました。原曲ではヴァイオリンが表現する悲壮感だけでなく、チェロの重量感や奥深さや切なさ等が全部一度に来たようなとんでもない衝撃。原曲は「ソロヴァイオリンで表現できる限界に挑戦」ではあるのでしょうが、もし楽器を増やしたならバッハ自身もこうしたかったのでは?と思えるような、原曲にない支える旋律がものすごくマッチしていたのも印象的でした。ちなみにメイン担当は次々と入れ替わる演奏で、「カノン」のような追いかけっこも見事でした。三宅さんは「手前味噌ではありますが」と前置きした上で、「同族アンサンブルによる『シャコンヌ』の演奏はチェロが一番良いと思う」と仰っていました。おそらくそうなのでしょうね、と他のアンサンブルを聴いたことがない私でもそう思います。チェロアンサンブルはある意味で原曲の無伴奏ヴァイオリンを超えているかも!


後半最初のドローヌ「アンダンテとスケルツォはチェロ3つとピアノによる演奏。ドローヌはラヴェルと同時代のフランスの作曲家だそうです。チェロは吉岡さん(1st)、武田さん、小野木さん。はじめのアンダンテに、私は不覚にもハートをがしっと鷲掴みにされました。上手く言えないですが、いやらしくない色気と優しさが感じられるチェロの音色がとっても素敵!生きてて良かった!直前に聴いたシャコンヌは確かに素晴らしく、聴けて良かったと思っています。しかしとても厳格で、演奏が良かったからこそその厳しさに直面したことを、個人的に少ししんどく感じたのは否めません。そんなときに、アンダンテのあたたかでまるいチェロの音色が身も心も丸ごと包み込んでくれて、とてもとてもありがたかったです。続くスケルツォはジェットコースターのようなスリリングなスピード感のある演奏にドキドキ。チェロは優等生路線から少し外れた音色も超素敵です!トークで「(シーズンテーマの)ブラームスと関係ないけど、さし色として選曲」との解説がありましたが、こんな鮮やかな「さし色」は大歓迎です!普段ブラームスばかり聴いている私の死角になっていた部分にすっと入ってきました。

レンゲルの2曲はいずれもチェロ四重奏でした。三宅さんのお話によると、現在日本で活躍するチェリストは皆、師匠の師匠……と辿っていくと齋藤秀雄さんが教えを受けたクレンゲルに繋がるのだそう。クレンゲルの2曲は弦楽四重奏のような役割分担があるアンサンブルで、チェロの音域と表現力の幅広さには改めて驚かされました。とはいえ、高音域担当の奏者がいきなり低音で演奏することもあり、役割分担はフレキシブルでした。「主題と変奏」は舞台向かって左から武田さん(1st)、三宅さん、吉岡さん、小野木さんの席順。はじめに提示される穏やかな主題が、どんどん形を変えて変奏されていくのを楽しく聴きました。ブラームスも変奏を大事にしている人ですし、このジャンルは個人的に開拓の余地があるなと改めて。続いて「即興曲」は舞台向かって左から小野木さん(1st)、武田さん、吉岡さん、三宅さんの席順。四者四様の音域が違うチェロが重なるのはとても素敵です。曲の後半には有名なメンデルスゾーン「結婚行進曲」のメロディが現れました。チェロ四重奏だとメロディも下支えする演奏も落ち着いていて、大人の結婚式なイメージ。聴いているこちらもじんわり気持ちが高揚します。三宅さんは、メインを演奏した小野木さんのことを「さらっと演奏なさっていますが、超絶技巧なんですよ。上手い人が弾くと難しそうに聞こえない」と仰っていました。そうですよね。この日の出演者の皆様は演奏姿がとてもクールで、水面上の白鳥のようにビジュアル面でも美しく、チェロの優雅な音を聴かせてくださいました。もちろん水面下では表には見えない大変な思いをなさっていることと存じます。

ポッパー「レクイエム」はチェロ3つとピアノによる演奏。チェロは武田さん(1st)、吉岡さん、三宅さんでした。高・中・低の3つのパートのチェロはすべてが魅力的!穏やかで美しい音楽に心洗われます。また、ここのピアノに私はとてもブラームス的なものを感じました(素人の勝手な思いつきです)。しかし私はただ「美しい」と感じるだけで、「レクイエム」の本質的な部分はわかっていないのだと思います。ドイツレクイエムの実演に触れる前に、私はまだまだやることが色々とありそうです。

アンコールは2曲。まずはワーグナ「タンホイザー」より巡礼の合唱(うろ覚えです。間違っていましたらごめんなさい)をチェロ四重奏で。ワーグナーは勇ましい管弦楽だけでなく、室内楽にも合うしっとりした曲も書いているんですね。編曲者がわからないのですが、この日の演奏は弦楽四重奏のようなスタイルでした。四者四様の演奏、美しいメロディと支える対旋律が重なる良さにうっとり。続いてマスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲は、チェロ四重奏とピアノの編成で、この日初めて出演者5名全員そろっての演奏でした。この編成は珍しいらしく(ですよね!)、三宅さんが楽譜を探し出してくださったのだそう。クライマックスの、4つのチェロがユニゾンで奏でるところがとにかく素晴らしかったです!この日の演奏会はここを目指していたのではないかと思えるほど、皆が同列でお互いに高めあうチェロ・アンサンブルの良さを肌で感じられる演奏。私は胸がいっぱいになりました。やっぱり私はチェロが好き!素晴らしい企画と最高の演奏を本当にありがとうございました!

※新堀さんのツイートへのリンク失礼します。


WISTERIAHALL WEBCAST では、武田芽衣さん、小野木遼さん(ピアノはいずれももちろん新堀聡子さん)の演奏動画が数多く公開されています。また、今回はチェロが歌ったブラームス「教会墓地にて」op.105-4は、バリトン駒田敏章さんによる演奏が解説・対訳歌詞付きで聴けますよ。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回2021/07/22は2台のピアノのためのソナタでした。「のだめ」でおなじみのMozartの華やかさと、ピアノ五重奏曲2台ピアノ版のBrahmsの内に秘めた情熱や力強さ、鎌倉亮太さんと新堀聡子さんによる最高の演奏で聴けて本当によかったです!

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少し前の演奏会になりますが、2020/02/17のウィステリアホール ふれあいコンサート Vol.3 の過去記事紹介もさせてください。コントラバスとピアノのコンサートで、コントラバスは札響首席奏者の吉田聖也さん!いつもは下支えのコントラバスが主役の1時間強。小さな会場でお客さん達と一体感を味わいながらお腹に響く重低音を堪能でき、とても幸せな時間を過ごすことができました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。