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骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~(2023/03) レポート

doshin-playguide.jp
北海道骨髄バンク推進協会主催によるチャリティコンサート。今回は私達の札響コンマスであるヴァイオリニスト・田島高宏さんと、札響へのエキストラ出演も多いピアニスト・田島ゆみさんの夫婦デュオが出演されました。なお収益は骨髄バンクのボランティア活動に活用されるとのことです。


骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~
2023年03月14日(火)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
田島高宏(ヴァイオリン) ※札幌交響楽団コンサートマスター
田島ゆみ(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ イ長調 BWV1015
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ短調 op.108

ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
サラサーテカルメン幻想曲

(アンコール)マスネ:タイスの瞑想曲


4つの大曲を「四者四様」のバラエティ豊かな演奏で聴けて、とっても楽しかったです!同じ演奏家が同じヴァイオリンとピアノで演奏しているにもかかわらず、すべて異なるカラーの音楽。メインディッシュを一度に4つも頂けて、しかも全部味わいが違うため、毎回新鮮な気持ちで聴けました。当たり前ですがオケとは違い指揮者がいない中、演奏家のお二人で方向性を決めて多種多様な音楽を創りあげてくださったのですね。ありがとうございます!また今回はヴァイオリンの演奏会にもかかわらず、チェリストのカザルスがテーマというのもユニークでした。一人の演奏家を軸に、性格が異なる様々な演目を集めるアイデア、とっても面白いです!これから流行るかも!?

個人的には、やはり大好きなブラームスをお二人による演奏で聴けたのがうれしかったです。今回取り上げられたヴァイオリン・ソナタ第3番は、実を言うと第1番や第2番と比べ私はそこまで好きになれずにいました。第1番や第2番のブラームスらしい歌心ある音楽に対して、第3番はどうも演奏家の勝負曲として扱われるイメージが強くて、演奏家は目立ってもブラームス自身の姿はよくわからない?というモヤモヤを抱えていたのです。しかし今回、他の作曲家との組み合わせかつ前半での演奏だったのと、とにかく演奏自体が心を込めた大変素晴らしいものだったおかげで、私は第3番をとても好きになれました。強い感情の発露は、そこだけが注目されがちなのですが、ブラームスの場合はそこに至る過程とその後にも意味がある!今回の田島デュオによる演奏は、強弱や音色のニュアンスを細かく変えながら、微妙な感情の揺らぎや移ろいを丁寧に表現。その積み重ねが結果として強い感情に繋がる流れになっていて、大変説得力があると私は感じました。また、歌うところの温かさもとっても素敵!やはりブラームスは歌心が大事!派手さや技巧に凝る「演奏家ファースト」とは一線を画して、内なる繊細な感情と作曲家の思いを大切に扱ってくださる――みんなが付いていく田島コンマスはこんなお方なのだと実感し、私は胸が熱くなりました。ちなみに田島高宏さんは「ブラームスは個人的に一番好きな作曲家」なのだそうです。私、確かに聞きましたよ!今後、田島高宏&田島ゆみデュオで第1番と第2番の演奏もぜひお願いします♪

今回の演奏会の収益は寄附とのこと。頭が下がります。演奏の合間のトークでは、北海道骨髄バンクの活動についての紹介もありました。その心温まるトークも楽しかったです。お話ししたのは田島高宏さん。とても誠実なお話ぶりにはお人柄の良さが感じられました。また発言なさる度に会場には温かな微笑みがあふれ、終始和やかな雰囲気。お客さん達にとても愛されていらっしゃる!そしてお二人で演奏開始のタイミングを合わせる際は、お互いにアイコンタクトをしてニコッとスマイルされていたのが本当に素敵でした。田島高宏&田島ゆみデュオ、地元にこんな素晴らしい演奏家がいてくださることに感謝!お二人はオケや後進指導等でご多忙とは存じますが、これからも時々はデュオでの演奏を聴かせてくださいませ。チャリティーでも、もちろん通常のリサイタルでも。


お二人が舞台へ。田島ゆみさんの衣装は、限りなく白に近いグレージュ色のふわっとしたドレスでした。すぐに演奏開始です。はじめは、J.S.バッハ「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ イ長調 BWV1015」。第1楽章では、ヴァイオリンはかすれる音色で音を震わせて歌い、それを追いかけるピアノもチェンバロ風の音。この独特な音色と規則正しいテンポに、私はバロック期の音楽「らしさ」を感じました。第2楽章は、少しテンポが速くなり強弱のメリハリもある躍動感あふれる感じに。ピアノの上を高音で華やかに歌うヴァイオリンは、まるで「春」の喜びのよう!弓を大きくうねらせ軽やかに音を奏でる姿が印象的でした。第3楽章は雰囲気がガラリと変わり、陰りのある寂しげな音楽に。ヴァイオリンの震わせた音がとても切なく響いて素敵!またピアノは右手のメロディはもちろんのこと、左手の低音に存在感があると感じました。第4楽章、ヴァイオリンとピアノが会話するように細かく呼応しながら、明るくテンポ良く跳ねるような音楽が楽しい!モダン楽器による演奏で、こんなにもバロックらしい音楽を楽しめるなんて!大枠は規則正しくても、その制約の中で明るさや憂いの表情をごく自然に表現する演奏。とっても素敵でした!

ここで田島高宏さんがマイクを持ってごあいさつ。「普段演奏しているオケでは、しゃべることはないので、原稿を作ってきました」と、譜面台から原稿をさっと取り出されました。早速会場が和み、温かな雰囲気に。トークはその原稿を参照しながら進められました。はじめに「骨髄バンクチャリティー」という今回の趣旨と、「音楽を通じて楽しい時間を過ごしたい」との思いを。また今回のテーマは「カザルス没後50年」にちなんだものとのこと。チェリストであるカザルスは、バッハの無伴奏チェロ組曲を発掘し世に広めたことでも有名ですね。またブラームスをとても愛していたのだそう。そして同時代を生きて面識あるドビュッシー、同郷(スペイン)のサラサーテ。田島高宏さんは、図書館で借りたカザルスの本(こちらでしょうか?『カザルスとの対話』J.M. コレドール (著), 佐藤 良雄 (翻訳) 白水社)がとても面白かったと仰って、そこに書かれていたエピソード紹介(チャリティコンサートのゲネプロにて指揮者の心ない発言にカザルスが怒り、裁判沙汰にまでなったお話。このゲネプロにはドビュッシーもいたのだそう)もありました。

ブラームス「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ短調 op.108」。作曲当時ブラームスの周辺では同世代の知人が次々と亡くなっていて、憂いや憧れ、嘆き……といった感情を抱えつつも温かい音楽、といったお話がありました。第1楽章。厚みあるピアノに乗って、そっと入ったヴァイオリンに、早速気持ちが持っていかれました。うまく言えないのですが、繊細な感情をそっと扱ってくれる、さりげない優しさが感じられる音。私はこの音に一目ぼれです!ピアノとヴァイオリンが一緒になって、細かくクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すのが、揺らぐ気持ちを表しているよう。感情の機微を丁寧に表現してきたからこそ、ヴァイオリンによる高音の悲鳴が胸にきました。ヴァイオリンに最初のメロディが帰ってきたとき、今度は明快な音に変化していて、前向きな意思が感じられたのが素敵!楽章締めくくりに向かう流れでは、ヴァイオリンは次第に低音へ沈みながらフェードアウトして、一方のピアノは高音へ上っていったのがとても印象に残っています。ゆったりとした第2楽章は、優しい響きのピアノの上で、甘やかに歌うヴァイオリンが温かな響きで心地よかったです。感極まった重音がとっても素敵!第1番や第2番に引けを取らない「ブラームスの歌心」がなんとも温かく心に沁みました。第3楽章では、ピアノとヴァイオリンが呼応しながらの2拍子のリズム。緊迫感ある演奏に引き込まれました。細かく入る休符では2人でピタッと息が合うのが気持ちイイ!感情が頂点に達した重音のシャープさはもちろん、その後に続く切なく哀しいところに私はとても胸打たれました。少しゆったりしたところのヴァイオリンの細やかさ!そして第4楽章へ。音の刻みがなんて情熱的!またヴァイオリン小休止のときのピアノがとても良くて、特にしっかりと歩みを進めているような低音がドラマチックで印象的でした。ピアノのメロディを引き継いだヴァイオリンが、大泣きするのではなく、清濁併せのんだ大人が哀しみを内に秘めているような感じなのがブラームスらしくて超素敵!ラスト直前の休符での沈黙は間合いが絶妙!悲劇的で力強い締めくくりに圧倒されました。技巧的な面が注目されがちなブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番に、ようやく作曲当時のブラームスの姿が見えた気がして、私は感激しました!曲に隠された複雑な心の機微を丁寧にとても大切に表現してくださり、ありがとうございます!演奏後、田島高宏さんが「休憩時間は自由に過ごされて良いのですが」と前置きした上で、「(骨髄バンクに関する)ロビーの展示をご覧ください」とアナウンス。休憩時間となりました。


後半、田島ゆみさんはマーメイドラインの黒のドレスにお着替え。はじめはドビュッシー「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ。作曲家の遺作とのことです。晩年は第一次世界大戦と重なり、薪を買うお金にも困窮していたというドビュッシー。最晩年に様々な編成の室内楽を6つ作る計画をして、生み出された3番目の作品が今回取り上げるヴァイオリン・ソナタなのだそう。4番目以降は幻になってしまったのですね……。また今回のヴァイオリン・ソナタに関しては、ドビュッシーは第3楽章の推敲を繰り返したとのことで、「そのように演奏できるよう努力したい」とも仰っていました。第1楽章。はじめの幻想的なピアノの響きに続き、小さな音から入ったヴァイオリン。静かな夜を思わせる感じから、ぱっと強奏になり高音で訴えかけてきたのがインパクト大!滑らかに変化する強弱の波に、低音でたゆたうようだったり超高音で消え入ったりのヴァイオリン、ぐっと低音を効かせたり高音キラキラだったりのピアノと、変化が多く立体的な音の響きを体感できました。第2楽章。出だしのヴァイオリンが鮮烈な印象!ヴァイオリンとピアノがリズミカルに掛け合うのが小気味よく、ピアノのターンでのヴァイオリンのピッチカートがカッコイイ!この楽章も変化が多く、ヴァイオリンはフワフワ宙を彷徨うような感じだったり、一定のテンポで高音を刻み続けたりと、ミステリアスな感じなのが素敵でした。第3楽章では、幻想的な雰囲気は残しつつも、明快な音による勢いある演奏は、今を生きる人そのものだと私は感じました。クライマックスは次第に力強くなり、超高音でのトレモロがカッコイイ、生き生きとしたエンディング!希望の光が見えるようで、ドビュッシーがこれを作曲した時にはまだ生きる気満々だったのでは!?と思えた演奏でした。

サラサーテカルメン幻想曲」。「ずっとソナタを演奏してきたので、1つくらいは楽しい曲を」と考えて選曲されたそうです。でも「難しいですね……」と演奏家の本音が出て、会場が和みました。「皆さんは自由に楽しんでください」と、演奏開始です。アラゴネーズのメロディは、パワフルなピアノの序奏がクール!程なく登場したヴァイオリンの妖艶な音色にぐっと引き込まれました。超高音で歌ったかと思うとぐっと深い低音になったり、ピッチカートでも歌ったりと、多彩な表情を見せる演奏に目と耳が釘付けに。中でも弦を抑える左手を滑らせる奏法(名前がわからずごめんなさい!)が見た目にも鮮やかでとても印象に残っています。ハバネラのメロディでは、低音でゆっくりステップを踏むようなピアノの序奏から入り、重なるヴァイオリンがここでも様々な表情を見せてくれて、とても魅力的でした。出ました左手ピッチカート!また、あえてずらしていると思われますが「タタン、タッタ♪」のリズムはピアノとヴァイオリンが交互に演奏して決して重なり合わなかったのが不思議な感覚で、一筋縄ではいかないカルメンの魔力のようにも感じました。トゥ・ラララのメロディでは、ピアノは時折ポンと短い音を発する程度で、際立ったヴァイオリンソロは孤高な感じなのがカッコイイ!セギディーリャのメロディは、再びピアノ前奏から。ダンスのステップを思わせる音楽に、ピッチカートや超高音などでアクセントが入るのが素敵!ジプシーの歌では、速いテンポでの繰り返しが表情を少しずつ変えながら、どんどんスピードを増していきました。ラストスパートの超高速演奏がすごいことすごいこと。超絶技巧てんこ盛り、すごいものを見せて(聴かせて)頂きました!

拍手喝采の中、田島高宏さんのごあいさつとトーク。今回の演奏会は、骨髄バンクの活動について考えるよいきっかけになったと仰っていました。そして札響の話題に。オケ自体はもちろんのこと、メンバーそれぞれがソロや室内楽でも活躍していると仰って、「札響の応援の程をよろしくお願いします」。会場に大きな拍手が起きました。「今の争いがおさまりますように。皆様の幸せを願って」、アンコールへ。田島高宏さんが額の汗を拭ってから(大熱演でしたからね……)、演奏が始まりました。マスネ「タイスの瞑想曲」。ピアノの優しい響きに乗った、ゆったり歌うヴァイオリンが美しい!高音で歌うところも、時折低音を効かせるところも素敵で、心が安らぎました。大熱演の後にしっとりとしたアンコールまで、素敵な演奏をありがとうございます!

カーテンコールではお二人への花束贈呈がありました。終演後、私は募金箱に心ばかりの寄附をしてから帰路へ。田島高宏&田島ゆみデュオによる演奏で、個性豊かな名曲の数々を聴けて幸せです!北海道骨髄バンク推進協会さま、今年も素晴らしい企画をありがとうございました。来年以降も素敵な企画をお待ちしています!


この日の5日前に聴いた、本年度(2022年度)最後の札響主催公演はこちら。なお田島ゆみさんは前半プログラムにてピアノ兼チェレスタをご担当。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第12回」(2023/03/09)。バッハ演奏の第一人者・鈴木雅明さん指揮による、矢代秋雄とチャイ6の2つの交響曲。この2曲を組み合わせた心意気と、リズムを活かした生き生きとした演奏に感激!私にとって記念すべき出会いとなりました。

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この日のちょうど1カ月前、田島高宏さんのソロ演奏がたっぷり堪能できた特別演奏会はこちら。なお田島ゆみさんはチェンバロ奏者としてご出演されました。「札幌交響楽団 in ふきのとうホール Vol.4」(2023/02/14)。バーメルトさんと札響によるハイドン交響曲の朝・昼・晩。独奏たっぷりで各パートの見せ場も多く、物語のような展開もある、小編成ならではの魅力満載!親密で心温まる演奏会でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。