蘭越パームホールにて、メゾ・ソプラノ、ヴィオラ、ピアノによるコンサートが開催されました。おなじみヴィオラの青木晃一さん&ピアノの石田敏明さんのデュオと、私にとっては「初めまして」のメゾ・ソプラノの松田久美さんが共演!しかもブラームスの「アルトとヴィオラのための2つの歌 op.91」が聴ける、とても楽しみな会です。私は今回もJRの「1日散歩きっぷ」を使って札幌から日帰りでうかがいました。好天に恵まれた日、列車は観光客らしき人達でいっぱい!また会場には早い時間から多くのお客さん達が集まり、札幌から来た方も数名いらっしゃいました。
蘭越パームホール メゾ・ソプラノ、ヴィオラ、ピアノで奏でるロマンの旋律
2024年10月06日(日)15:00~ 蘭越パームホール
【演奏】
松田 久美(メゾ・ソプラノ)
青木 晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
石田 敏明(ピアノ)
【曲目】
J.マスネー:エレジー
F.シューベルト:
ます
夜と夢
J.ブラームス:
すみれに
五月の夜
R.シューマン:3つのロマンス op.94
F.リスト:ラ・カンパネラ
M.レーガー:無伴奏ヴィオラ組曲 第1番ト短調作品131d-1より
Ⅲ Andante sostenuto
IV Molto vivace
H.ヴォルフ:「ゲーテ歌曲集」より
ミニヨンⅢ 「このままでいさせて」
ミニヨン 「レモンの花咲く国」
A.ベルク:『7つの初期の歌』より
IV 夢を戴きて
VI 愛の賛歌
Ⅶ 夏の日々
J.ブラームス:アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91
I ひそやかな憧れ
II 子守歌
(アンコール)
R.シュトラウス:モルゲン!
小椋佳(作詞・作曲):愛燦燦(あいさんさん)
地域の人達に愛される「蘭越パームホール」。居心地の良いこの場所で、心が込められたクオリティの高い演奏をゆったり味わい、楽しいトークでリラックスできたひとときでした。この特別な場所にて新しいトリオと出会えた幸せ!ヴィオラの青木晃一さん&ピアノの石田敏明さんのデュオは、またしても素敵なサプライズを用意して私達を迎えてくださいました。なにより、メゾ・ソプラノの松田久美さんとの出会いに感謝!アルトに近いやや低めの奥深いお声そのものの良さ、たっぷりの声量に豊かな表現力はもちろんのこと、私が特に惹かれたのは「ドイツ語の発声の良さと説得力ある歌唱」です。私はドイツ語の会話も読み書きも出来ず、音から感じるイメージでしかないのですが、ドイツ語は日本語で言うところの濁音が多く、強くハッキリ言い切る言語という印象があります。力強い男声であれば難なくフィットしても、女声だと工夫が必要なのでは(?想像で書いています)。例えばハニーボイスのソプラノが、言い切らずに語尾を消え入るように柔らかく発声する(これももちろん素敵です)とか。しかし松田さんの演奏は、女声の曲線美を大切にしながらも1つ1つの言葉の発声にとても力があり、カタカナではなく生きたドイツ語として聴き手に伝わってきました。その上で、感情やシーンに応じて声色だったり強弱や勢いだったりを変化させていて、そこに込められた思いは、たとえ言葉の意味がわからなくても聴き手にはしっかりと届きました。そんな歌唱を通じてなら、ドイツリートはすごく面白く聴けるという大発見!今回、個人的に遠い存在だったヴォルフとベルクも自分なりに楽しく聴くことができました。さらに、これから深追いしていきたいブラームス(私も歌曲ジャンルはまだまだです)も、歌曲王シューベルト(今回は特に「夜と夢」が素晴らしかったです!)も、興味深く聴きました。歌曲はお宝の宝庫なのでは?と、私はいま宝石箱を開けたようにワクワクしています。ぜひ札幌市民のかたは2024年11月15日の札幌でのリサイタルに足を運び、松田さんによるドイツ歌曲をご自身の耳でお確かめくださいませ(この日は残念ながら私はうかがえず、申し訳ありません)。
今回の目玉であるブラームス「アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91」。このメンバーによる演奏で聴けた私達は幸せです。音色・音域が似通っていてるアルトとヴィオラは、例えがあれですが「合わせ出汁」のように溶け合いながらもお互いが高め合う良さ!信頼関係で結ばれたメンバーによる演奏は、頑張って揃えるのではなく自然と呼吸が合う感じ。聴き手も自然体で聴くことができました。青木さんが松田さんにお声がけして実現したトリオ、大成功ですね!青木さんと石田さんのデュオでの演奏は今まで何度も拝聴している私ですが、その音楽がまた新たなステージへ進んだ記念すべき場に居られてうれしかったです。いつも素敵なサプライズをありがとうございます!これからも様々な音楽を私達に聴かせてくださいませ。
それにしても、なぜブラームスはわざわざ「アルト」を指定し、「ヴィオラ」と組み合わせたのか?私が調べたところ、2つの歌 op.91 は、腰を据えて作曲を進め出版に至ったのは壮年期になるものの、構想自体は「ドイツ・レクイエム」を世に送り出す直前の若い頃からあったようです。若い頃から「人の声」に「神の声」を聴いていたブラームス。「人の声」は、「ミサ・カノニカ WoO 18」(※破棄)や「アルト・ラプソディ op.53」等、とりわけアルトにこだわっていたようです。これは私の勝手な推測ですが、「ドイツ・レクイエム」にアルトを入れられなかった分、ブラームスはアルトを活かした曲をどうしても作りたかったのでは?加えて音域・音色が似通っているヴィオラにも歌わせたら面白い、さらに合わせたら相乗効果でもっと美味しくなるに違いない!と考えたのかも?最晩年のヴィオラ・ソナタも先にクラリネットを念頭に置いて書いていますし、ブラームスはヴィオラが好きなはずなのに思い出すのは2番目だなんてひどい(※勝手な妄想でひどいと言う私はもっとひどい)。作曲家にどんな思惑があったのかはともかく、「アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91」は、他の声域のお声と他の弦による演奏はもはや想像つかないほど、アルトとヴィオラの奥深い音色だからこその歌が味わい深く素晴らしい!と、今回私はしみじみ実感しました。そしてその歌は、少し哀しくて優しいブラームスそのものだとも思いました。
開演前にパームホールのオーナーの金子さんからごあいさつとトーク。今回の話題は「サントリー地域文化賞」受賞についてでした。
第46回 サントリー地域文化賞 選評・受賞者活動概要
金子さんが今回の受賞について告げると、会場から大きな拍手が起きました。おめでとうございます!「こんな小さなところで」と金子さんは恐縮されたそうですが、「だから良いのです。地域が一体化して楽しめる、これこそ文化の始まり」と説得を受けたとのこと。評論家・山崎正和さんの著書(金子さん曰く「難しい」とか!)を読むと、ここ「蘭越パームホール」が受賞すべきことがわかる、と仰っていました。「(受賞したからには)少なくとも3、4年は続けてください」と言われたと冗談っぽく仰ってから、金子さんは今年81歳になられる事(素晴らしい!)、そして「これからもお付き合いください」。会場は大拍手!会場に駆けつけた金子さんの高校時代の同級生(女性4名)から、花束とお祝いの言葉が贈られました。
出演者の皆様が舞台へ。メゾ・ソプラノの松田久美さんはスモーキーピンク色のドレス。ヴィオラの青木晃一さんとピアノの石田敏明さんは黒シャツ姿でした。すぐに演奏開始です。1曲目は、J.マスネー「エレジー」。声楽&ピアノあるいは弦&ピアノで演奏されることが多い曲を、今回はメゾ・ソプラノ&ヴィオラ&ピアノによるスペシャルバージョンでの演奏でした。歌でいうところの1番をヴィオラ&ピアノが歌い、2番をメゾ・ソプラノ&ピアノが歌ってヴィオラが伴奏に加わるスタイル。ヴィオラの低音から高音への盛り上がりのインパクト!哀しみを抑えきれずあふれ出た感じがズシンときました。低めの音程でじっくり歌うところは哀しみの深さを表しているよう。メゾ・ソプラノもまた、低音から高音への盛り上がりが素晴らしく、そのお声の力に胸打たれました。演出として声が揺らぐところは、ぐっと哀しみを堪えているよう。青木さんと松田さんそれぞれの音色の良さを味わえた、インパクトある最初の演目でした。
ここでごあいさつとトーク。以降も節目ごとにトークと曲目解説が入りました。なお多岐にわたった楽しいトークについては、本レビューではダイジェスト版として書きます。ご了承ください。はじめに出演者が順番に自己紹介。蘭越パームホールには「ずっと前から」のご縁の石田さんと、石田さんとのデュオで何度もいらしている青木さん、そして「初めまして」(ごあいさつでのハッキリした発声がとっても素敵!)の松田さん。石田さんによると、今回この3名で演奏会を行うのは、ブラームス「アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91」をぜひ紹介したくて、とのことです。和気藹々とした楽しいトークから、御三方がすっかり打ち解けていらっしゃるのが伝わってきました。「陽気な3人が悲しい歌から入りました」(石田さん)と1曲目をさらっと面白く(!)振り返ってから、次の演目へ入りました。
メゾ・ソプラノ&ピアノによる演奏で歌曲を4つ。F.シューベルト「ます」。水が跳ねるようなピアノに、お声もウキウキとした感じで楽しい!「釣り人が川をかき回す」展開のところはお声もピアノも不穏な感じに変化してドラマチック!短いながらも情景が目に浮かび、ショートドラマを見ているような気持ちになりました。F.シューベルト「夜と夢」。私にとって初聴きだったこちら、とても印象に残っています。ゆったりと落ち着いたピアノに乗って、歌うお声の透明感ある美しさに驚愕!少しビブラートをかけながら、一息で長く長くのばしながら囁くように歌うお声がとにかく素晴らしかったです。中間部でピアノが変化(転調?)してからの、強い意思を感じる力強いお声がすごい!ほのかにかつ永遠に照らし続けてくれる、月明かりのようなお声のお力に、私はすっかり魅了されました。
J.ブラームス「すみれに」。この曲は「若い男の子が失恋した歌」だそうで、松田さんはオペラの「ズボン役(低い声域の女性が男子を演じる役)」になぞらえて「悲劇のヒロイン的に演じたい」といった事を仰っていました。お声は(哀しみを堪えながら?)独り言のように思いを打ち明けているように私は感じました。対するピアノは厚みのある響きがドラマチックで、内心では動揺している?この2つの裏腹な性格が1つになっているのは、ブラームス「らしさ」かなと思いました。J.ブラームス「五月の夜」。暗闇を思わせる、囁くようなお声に引き込まれ、月明かり(?)が差したのか、前向きな感じに変化したのがぐっと来ました!暗いのに温かく美しい、魅力が幾重にも重なった歌。これもまたブラームス「らしさ」ですよね。それを見事に体現くださったお2人に大拍手!
「シューベルトはオーストリア、ブラームスはドイツ、そして次に取り上げるシューマンもドイツで、ブラームスのちょっと先輩です」と石田さん。次の演奏に入る前に、青木さんによるトークと演目解説がありました。まずは先ほど素晴らしい歌曲を聴かせてくださった松田さんについて。青木さんは札響にソリストとして招かれた松田さんの演奏を聴いて魅了され、「ぜひ共演したい」とお声がけしたのだそうです。「松田さんと共演できてうれしい」と喜びを語られました。次に取り上げるシューマンの作品は、元々はオーボエのために書かれた曲。ヴィオラで演奏してもマッチする、オーボエの雰囲気と少し違う、といった事を仰っていました。また「ロマンス」は愛を語る歌で、メランコリック、ノスタルジックといった言葉も出ました。
ヴィオラ&ピアノによる演奏で、R.シューマン「3つのロマンス op.94」。第1曲 ヴィオラの最初の高音のインパクト!切なく美しい音色に早速心掴まれました。柔らかな高音から物憂げな低音まで、ヴィオラはしなやかで美しい!寄り添うピアノは、ヴィオラに併走したりヴィオラのフレーズをリフレインしたりはさすがの間合い。(演出として)気持ちが先走って、ピアノがヴィオラより先に出るところが印象的でした。長く一緒に活動してきたデュオだからこその、阿吽の呼吸と一体感が最高!第2曲 大らかなピアノに乗って、高音で滑らかに歌うヴィオラは、まさに歌曲のよう!どこか懐かしい感じがする歌が心に染み入りました。中盤シリアスなところでは、ピアノのダイナミックさとヴィオラの深い低音の凄みがぐっと来ました。第3曲 シリアスな歩みから突如スキップに変化するスイッチの見事さ、もう絶対に信頼できる!中盤のヴィオラの歌は明るさも陰りもある豊かな表情。ピアノも重厚さと軽やかさをごく自然な流れで変化させていました。相反する性格がすべて地続きで、すべてが本物だと感じられる演奏!お2人の演奏を聴く度に、私はこの曲が好きになっていきます。ありがとうございます!
石田さんによるトーク。「『(今回のテーマに掲げた)ロマン』とは何か?」について、石田さんは「心が込められていること」と仰っていました。今回の演目には、ロマン派の作品の中でもメロディが美しいものを集めたとのこと。続いて次の演目であるリスト「ラ・カンパネラ」について、先日(2024年4月)亡くなったピアニストのフジコ・ヘミングさんの代名詞的な作品、と紹介がありました。そのドキュメンタリー番組がテレビ放送された事に触れ、「そこで大事な事を言ってました。『間違いは気にするな』と」。客席は大ウケでした。またリストは、ヴァイオリニストのパガニーニに衝撃を受けて「ピアノのパガニーニになる」と決めた事や、パガニーニの作品をピアノ向けに編曲したのが「ラ・カンパネラ」、という解説も。「小さな鐘から大きな鐘まで、とにかくたくさんの音を弾いて、美しいメロディをお届けするつもりで演奏します」と仰って、演奏へ。
前半最後はピアノ独奏でF.リスト「ラ・カンパネラ」。今回私はちょうどピアノの手元が見える席にいたので、演奏の手元にも注目して聴き入りました。超高音の鐘の音が美しい!それを響かせる右手は左右に跳躍してとても忙しそう。同時に左手は切ないメロディを歌うのですから、素人目にはとても人間業には思えなかったです(それこそ「悪魔に魂を売った」と言われたパガニーニのよう)。粒立ちした高音の鐘の音の美しさはもちろんのこと、踊るように歌うメロディのリズム感も素敵!終盤になるとメロディに重低音が入るようになり、その厚みと力強さも印象深かったです。切なさも力強さも躍動感も全部入りなクライマックスが圧巻!すっごい!ちなみに私は以前、石田さんソリストによるリスト「ピアノ協奏曲第1番」の演奏を聴いたことがあります(2022/09/21)。その時ももちろん素晴らしかったですが、今回はリストの代表曲「ラ・カンパネラ」にて石田さんの超絶技巧とこの上なく美しい音楽に触れられて、とてもうれしかったです。ありがとうございます!
15分間の休憩時間には、別棟でお菓子と飲み物のサービスがありました。手作りトマトジュースがとても美味しかったです。ごちそうさまでした!
後半。はじめはヴィオラ独奏です。ロマン派後期の作曲家レーガーは、近代に移行する時代にあってロマン派の音楽を発展させた人。43歳の若さで亡くなる前年に、無伴奏ヴィオラの曲を3つ書いた、と青木さんから紹介がありました。今回取り上げる作品は、古き良きバッハが活躍した時代の雰囲気がある曲とのこと。「M.レーガー:無伴奏ヴィオラ組曲 第1番ト短調作品131d-1」より、「Ⅲ Andante sostenuto」。「歩くような速度で」流れる音楽は、強弱の変化の波が滑らかで、重音がなんとも優しく心地良い!囁くような弱音に惹きつけられました。「IV Molto vivace」。音盛り盛りで、息つく暇も無く一気に駆け抜ける演奏がすごい!聴いている方はついていくのに精一杯でしたが、超絶技巧を駆使しながらも難易度の高さを感じさせない流麗さ!その勢いを収束させた、ラストの低い深みのある音が印象深かったです。ごく短い演奏時間で、こんなにも表情豊かなヴィオラ!ちなみに青木さん演奏によるレーガーの無伴奏ヴィオラ組曲 第1番、私は昨年(2023/11/26)に第1曲&第2曲を聴かせて頂きました。そして今回は第3曲&第4曲で、めでたくコンプリート!この先の演奏会にて、ぜひレーガーの組曲の第2番と第3番の演奏も聴かせてください!
メゾ・ソプラノ&ピアノによる演奏で歌曲を5つ。演奏前に松田さんによる解説がありました。「根強いファンがいる」ヴォルフは、ゲーテの詩で4曲ほど歌曲を書いていて、今回選んだのはいずれも女性目線のもの。ドイツリート(に限らないのかもしれませんが)は、作詞も作曲もほぼ男性で、やはり男性目線のものが多いそうです。ただ男性目線の歌でも女性が歌うことは珍しくはなく、松田さんも以前に石田さんのピアノでシューベルト「冬の旅」を演奏した事がある、とも仰っていました。ベルクはシェーンベルクの弟子。しかし無調性ではないそうです。彼の歌曲には暗いものがあまりなく、今回も幸せな詩だと教えてくださいました。この時は原詩と対訳はありませんでしたが(なお11月のリサイタルでは対訳を配布するそうです)、「かっこいいなと感じて頂ければ」「ドイツリートを普及させて行きたい」と語られました。また石田さんによると、「ベルクはピアノパートも難しい」。今回の演奏会の前に、石田さんも松田さんとご一緒に作曲家の方のレクチャーを受けたそうで、「かなり考えられて作られた曲」と仰っていました。
H.ヴォルフ「ゲーテ歌曲集」より、ミニヨンⅢ 「このままでいさせて」。ミニヨンが死を迎える(!)内容。はじめ、ピアノが美しく冷たい高音で音を刻むのにゾクッとしました。刻一刻と死が近付いているよう!お声は、取り乱したりすることなく既に死を自覚しているようで、神秘的な美しさにこちらの魂も持っていかれてしまいそう。ピアノが自分の予想とは異なる和音を響かせるたびに、心がざわつきました。そして後奏のピアノがすごい!最初と同じような冷たい高音を刻みながら、少しずつ音が小さくなってついに消え入ったのにはぞわっとしました。命の灯火が消えた!?ミニヨン「レモンの花咲く国」。こちらはミニヨンが故郷に思いを馳せる内容で、時系列は前後するも、「回想的」な位置付けだそうです。ピアノがリードして、はじめは穏やかで幸せな感じ。そこからピアノが思いっきりダイナミックに、お声も思いの丈をぶつけるように歌い上げたのがインパクト大!1つ前の曲は観念して死を受け入れる感じだったのに、ここではまだまだ生きる力がみなぎっている!ピアノの心ざわつく和音(個人の感想です)が、歩みを進めるようだったのが大きなうねりに変化して、お声もさらに力強く壮大になったのには圧倒されました。ラストのピアノの和音は、幸せな未来を予感させるもので、個人的にはホッとしました。
A.ベルク『7つの初期の歌』より、「IV 夢を戴きて」。はじめの方はピアノもお声も幸せな感じだったのが、ちょっと不穏な空気に。内緒話をするようなお声と暗く重いピアノの響きが印象的でした。そこから駆け出して一気に幸せの絶頂へ向かった、ピアノの躍動感とお声の力強さがすごい!「VI 愛の賛歌」。最初から最後まで朗々と賛歌を歌い上げるお声の素晴らしさ!ピアノも生命力あふれる感じのダイナミックさ!そしていきなり(と私は感じました)曲が終わって、濃厚な音楽はあっという間に過ぎ去っていきました。「Ⅶ 夏の日々」。個人的には「ミュージカルみたい!」と感じ、感激した曲。管弦楽を思わせる壮大なピアノと、そのさらに上を行くお声の気迫!ヒロインが真っ直ぐに思いを歌い上げているようで、清々しい!3つの歌はいずれもとても短いものでしたが、中身の大変濃い、充実したものでした。
プログラム最後の演目に入る前に、少し長めのトークがありました。「(最後の演目は)ハーモニーにホッとするかも」と石田さん。そうですよね、後半は個性的な曲が続いたので、私もそろそろブラームスが恋しくなってきた頃でした(笑)。「アルト、ヴィオラ、ピアノ」という珍しい編成の曲は、他にブリテンの作品もあり(石田さんはネットでお調べになったそうです!)、そちらも同じメンバーでやってみたい、とも(確かに聞きましたからね!笑)。松田さんは作品の解説にて「I は詩が素敵な雰囲気、II はドイツでは有名で、クリスマスキャロルの前奏に付いている」と教えてくださり、「ドイツの子ども達に負けないよう歌います」。青木さんは、「アルトとヴィオラは音色・音域が似通っていて、2つの“楽器”がどのように溶け合うかに着目してほしい」とのこと。このメンバーでの演奏をお客さんへ披露するのはこの時が初めてで、リハーサルでは十分に手応えがあったようです。いよいよお待ちかね、演奏へ。
J.ブラームス「アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91」。ちなみにブラームスを追いかけ続けている私でも、実演ではこの時が初聴きでした。「I ひそやかな憧れ」。序奏での、低めの音程でじっくり歌うヴィオラの良さ!そこにお声がすっと入ってきて、境目を感じさせない自然な流れが良かったです。やや低めの音程でゆったりと歌うアルト(メゾソプラノ)は温かみがあり、心穏やかになれました。その声と絡むヴィオラは、高音域でほのかに彩ったり低音で沈みいったり。夕暮れ時に少しずつ空の色が変わっていくような、繊細な変化が感じられました。中盤の盛り上がりがドラマチック!ただ慟哭という感じではなく、お声はどこか達観しているようで、控えめにざわめくヴィオラやピアノの方に抑えきれない感情が表れていると個人的には感じました。締めくくりでのピアノのずっしりした和音とヴィオラの深みのある重音がまた良い!「II 子守歌」。序奏のヴィオラの歌の素晴らしさ!穏やかなピアノに乗って歌うヴィオラは、素朴で温かでほっとできる心地良さで、はじめから「子守歌」全開でした。お声は優しく温かく、訴えかけるように盛り上がったり一転して静まったりと、細やかな変化が素晴らしい!絡みあうヴィオラとピアノは、お声と一緒に感情の波を演出し、お声が沈黙するときはぱっと浮かび上がって、やはり子守歌を歌うのが素敵!また、ずっとベースに揺りかごのようなリズムがあると感じました。中間部の嵐のような盛り上がりがドラマチック!個人的には、ここは子を寝かしつけているというよりは、子守をしている人の感情の高まりと捉えました。ブラームスは子守歌を何種類も書いていますが、子守する人の気持ちをきちんとくみ取るのが偉いと思います。再び穏やかになってからは、お声はさらに優しくなり、お声が穏やかに終わってからの後奏のヴィオラの歌がこの上なく素晴らしかったです!子と子守する人を一緒に癒やしてくれる、これこそ子守歌の神髄!ピアノが優しく音階を上ったラストは、そのまま天に昇ったかのよう!ブラームスらしい、しっかりした作りと歌心だけでなく、その信仰心に根ざした優しさまでもが伝わってくる、厚み奥行きと真心のある演奏。この日の演奏に出会えてとてもうれしかったです。本当にありがとうございます!
カーテンコール。出演者の皆様から順番にごあいさつがありました。そしてアンコールの演奏へ。アンコール1曲目は、R.シュトラウス「モルゲン!」。松田さんがとても大切にしている曲で、ピアノがメインになるシーンも多く、「素敵なピアニストさんが参加する時にやる曲」なのだそうです。トリオによるスペシャルバージョンでの演奏。1番をヴィオラ&ピアノが歌い、2番をメゾ・ソプラノ&ピアノが歌ってヴィオラが伴奏に加わるスタイルでした。ヴィオラの温かみのある歌、メゾ・ソプラノのやや儚さのあるお声での美しい歌、どちらも心安らぐ良さ!またゆったりと支えるピアノは、ヴィオラやメゾ・ソプラノが沈黙する時(この瞬間はハッとなりました)に、穏やかで美しい響きにて「大丈夫」と寄り添ってくれる感じがとても良かったです。ラストはヴィオラが高音でフェードアウトし、明日への希望が見えるよう!アレンジも素晴らしい、スペシャルな演奏でした!
客席からの熱い声援に応えてくださり(感謝!)、アンコール2曲目は、小椋佳(作詞・作曲)「愛燦燦(あいさんさん)」。美空ひばりさんが歌った、昭和の名曲!なんとこの演奏会当日にようやく楽譜を入手し、開演直前に集中してご準備くださったとのこと。重ねてありがとうございます!こちらもトリオによるスペシャルバージョンでの演奏でした。温かなピアノに乗って歌う松田さんのお声は、しっかりと地に足をつけた意思の強さ!かつ私達の気持ちに寄り添ってくれる優しさもあって、「人は哀しい 哀しいものですね」や「人生って 嬉しいものですね」の日本語の言葉はすんなり心に入ってきました。途中から伴奏に加わったヴィオラもまた、すっと心に入ってくる優しさで、メゾ・ソプラノのお声とさりげなく受け答えしていたりユニゾンで歌っていたり。この溶け合う良さ!私は胸いっぱいになりました。素晴らしいトリオが誕生した瞬間に居合わせて、幸せです!これからもぜひトリオでの演奏を聞かせてくださいませ。
最後にオーナーの金子さんからごあいさつ。今回は特別に、事前配布されたチラシに記載のアルファベットに応じて「A:蘭越産の新米」か「B:自家製トマトジュース」のお土産が用意されていました。外は薄暗くなっており、金子さんはお客さん達へ気遣い(帰り道に気をつけてという趣旨)まで。ありがとうございます!会はお開きとなり、私はありがたく新米を頂いてから、帰路につきました。今回も心温まる特別な時間を過ごすことができ、感謝です。「蘭越パームホール」に、これからも私は何度でも訪れたい!良い形でいつまでも続いていきますように。
お知らせ。2024年11月15日(金)18時半より、kitara小ホールにて「松田久美メゾソプラノ・リサイタルVol.2」が開催されます!ドイツリートたっぷり♪ブラームス「アルト、ヴィオラとピアノのための2つの歌 op.91」は必聴です!
札響チェロ奏者・小野木遼さんによるブラームスのチェロ・ソナタ第2番が聴けた会です。ピアノ・成毛涼香さんのソロによるリスト「ため息」も!「第23回 Sound Space クラシックコンサート チェロ&ピアノの奏」(2024/09/29)。ブラームスの傑作「チェロ・ソナタ第2番」は、熱量高くかつ知的に高みを目指し、未知なるブラームスの魅力を鮮やかに浮かび上がらせた大熱演!地元・札幌にて、こんなにも夢中にさせてくれる演奏に出会えて大感激でした!
「第21回 楽興の時 青木晃一×石田敏明 ~ロベルトとクララ、そしてヨハネスの愛~」(2024/03/24)。ブラームスのソナタはレクチャー付き!演奏もトークも盛りだくさんの愛あふれる演奏会で、シューマン家の居間で音楽とお話を楽しんでいるような、幸せなひとときを過ごすことができました。
こちらの読書感想文もご参考までに。「『《ドイツ・レクイエム》への道: ブラームスと神の声・人の声』西原稔(著) 読みました」
最後までおつきあい頂きありがとうございました。