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札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/04)レポート

www.sso.or.jp


2022年度の初回となるKitaraでの札響定期は、当初予定から演目と指揮者はそのままに、協奏曲のソリストのみ出演者の交代がありました。前の週に開催された川瀬賢太郎さん指揮のhitaruシリーズ定期が大変素晴らしかったため、川瀬さんの師匠の広上淳一さん指揮による今回の公演を私はとても楽しみにしていました。

また2022年度は、「オンラインロビーコンサート」に代わり「オンラインプレトーク」が配信されるとのことです。初回はコンサートマスターお二方(会田莉凡さん、田島高宏さん)がご出演。以下のリンク先から動画視聴できます。

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札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年4月23日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
広上 淳一(札響友情指揮者)

【ピアノ】
小山 実稚恵

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
武満 徹:群島S.
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
R.シュトラウス交響詩英雄の生涯


最高に楽しかったです!少人数かつユニークな配置の現代曲に、オーソドックスな編成の古典派の協奏曲、そして超・大編成によるロマン派の交響詩。カラーがまったく異なる3つの演目をクオリティ高い演奏で一度に聴けちゃうなんて、とても贅沢な体験でした。指揮の広上さんと、多くのエキストラのかたを含む奏者の皆様に全力拍手です!すべて良かった上で、今回はなんといってもメインプログラムの「英雄の生涯」がハイライトですよね。これだけの大所帯なのに、全力出すところやピタッと止めるところのメリハリがはっきりした演奏で、スケール桁違いの音楽で綴る物語の世界は超素晴らしかったです!今回Kitaraでの札響定期デビューとなった、新コンマスの会田莉凡さん。改めまして札響へようこそ!存在感抜群のソロパートの素晴らしさはもちろんのこと、既に奏者の皆様に信頼され慕われている様子が演奏からうかがえて、聴いている私達もとてもうれしくなりました。札響の新時代の幕開けですね。これから末永くよろしくお願いします!

なお、「英雄の生涯」の札響での演奏は実に13年ぶりだそう。オリジナルメンバーだけでは演奏不可能な超・大編成の曲は、一定水準以上の実力をお持ちの客演奏者を大勢招く必要があります。しかも地理的に不利な札幌に集まって頂くことは、平時においても難しいはずです。加えて今はコロナ禍ということもあり、様々な要素が絡んで、この日を迎えるまでには大変な困難があったのでは?この状況の中、今回の演奏を実現くださった関係するすべての皆様に敬意を表します。また奏者の皆様にとっても、旧知の演奏家仲間が久しぶりに再会し同じ曲を演奏するのはスペシャルな体験だったに違いありません。終演後に、奏者の皆様の喜びの声と各パートの集合写真がたくさんSNS上にアップされていたのが素敵でした。同じ志を持つ仲間同士が気持ちを一つにして取り組んだからこそ、ほんの数日間の準備でも驚きの一体感が生まれたのですね。この日の奏者お一人お一人が「英雄」です!

また前半のベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番も、心に刻まれる素晴らしい演奏でした。重厚なオケに、きらびやかさパワフルさに加えて内なる繊細な感情をも映し出す層の厚いピアノ!ソリスト小山実稚恵さんのベートーヴェン、私は2020年10月の名曲シリーズでの「皇帝」以来でしたが、今回も期待以上の素晴らしさでした。もう全面的に信頼しています!ちなみに極めて個人的なことですが、私は窮屈だった実家を思い起こさせるベートーヴェンには正直複雑な感情を抱いていました。にもかかわらず、今回のザ・ベートーヴェンな演奏は、ほぼ初聴きの曲なのに自分のDNAにストレートに響き、素直に素敵だと感じたのです。やはり私は父のオーディオから流れるベートーヴェン(曲はごく限られていましたが)のリズムと音が、心身に刻まれていると認めざるをえない。しかしそれも今の私を形成している一部であり、そのおかげで私は今こうして演奏会通いをしている訳で、どうやら悪いことばかりではなかったようです。過去から目を背け続けるのは過去にとどまることと同じ。清濁併せ呑み、今更どうしようもない自分の過去を受け入れることで、はじめて心は自由になれるような気がしてきました。こんなことを言っている時点で甘ちゃんなのは自覚していますが、自分の新たな扉が開けたのが私はとてもうれしかったのです。そんな今回の演奏との出会いに、心から感謝いたします。

そして大変意欲的な武満作品!これを見事に形にできるオケは、世界広しといえども今の札響くらいでは?どんな曲も演奏されなければ忘れられてしまいますから、折に触れてこのような作品を取り上げていくことはとても大切。それが出来る札響ってやっぱりすごいです。なによりメインの大編成だけでも相当大変と思われるのに、カラーが違う3曲すべてを演奏されたトップ奏者のかた達、もうすごすぎます!いつもありがとうございます、頼りにしています!聴き手である私達は、たとえこの後の有名曲がお目当てだったとしても、今回の武満作品の演奏に触れられたのは大変意義あることだったと思います。


1曲目は武満徹「群島S.」。今回が札響初演です。21名の奏者は、クラリネットの2名がそれぞれステージの右端と左端に、金管の5名がステージの奥に、後は弦と木管と打楽器その他の混合で7名ずつのチームがステージの左側と右側にそれぞれ配置されました。クラリネット以外の3つのチームが、3つの群島(ストックホルム、シアトル、瀬戸内海の島々)のイメージとの理解で合っていますでしょうか?ユニークな配置によって、奥行きや方向の違いから響きが多彩になり、音が立体的に聞こえる面白さがありました。ハープから入り、グロッケンシュピールを弦の弓で擦る音、チーンという鐘の音……ぞわっとする始まり方でした。妖しげな弦に、神秘的な木管の存在感、また終盤の長いホルンソロと続くトランペットソロが印象に残っています。わかりやすいメロディやリズムはありませんでしたが、映画音楽ではキャッチーなメロディを書いている武満徹ですから、今回の作品は空間と響きそのものに意識が向くようあえてメロディに引っ張られない作りにしたのかも(間違っていましたら申し訳ありません)。曲そのものの性質が特徴的なのに加えて普段とは配置がまるで違うため、各パートの演奏を合わせるのはとても難しそう。しかしトップ奏者揃いのアンサンブルはさすがのクオリティの高さでした。独特の空気感の中で、重なるところも、孤高のソロも、濁りのない純な響き。私は正直つかみ所のなさを感じつつも、響きをただ純粋に五感で受け止め、自分なりに楽しみました。ちなみに札響は武満徹の作品を積極的に取り上げているため、私も札響の演奏を通じて様々な武満作品に接してきました。そして今回もそうでしたが、新たな作品を聴く度に今までとはまったく異なる独特の世界観に出会い、いつも驚かされます。このような作品を見事に演奏できる札響の底力と、kitara大ホールの音響の良さを再確認しました。


ソリスト小山実稚恵さんをお迎えして、2曲目はベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」。オケは基本的な2管編成で、金管はトランペット2つ、打楽器はティンパニのみです。第1楽章、オケによる重厚な出だしから早速心掴まれました。高音弦によるメロディもがっちり支える低弦も骨太。木管が穏やかに歌うところも重なる弦のシリアスな響きも良くて、ベートーヴェン「らしさ」に聴き入りました。満を持して独奏ピアノが登場。最初の低音から高音へ駆け上るところからインパクト大!ピアノが少し切なくなるところの響きも美しく、繊細に寄り添うオケも印象に残っています。生命力が感じられる切れ目のない音楽の流れの中で、ピアノとオケの会話のようなやりとりや、重なりながらも主役とサブが交代するバトンの受け渡し方などがとても自然で、気持ちよく流れに乗れました。カデンツァでは、はじめにバーンと骨太の主題を出すところも、高音での細やかな響きもとっても素敵でした。第2楽章では、まず冒頭の美しいピアノ独奏に私はとても胸打たれました。うまく言えないのですが、一見なんでもない語り口のようでいて内面に哀しみをたたえている感じ。寄り添うようにやさしい響きのオケが登場すると、私は思わず涙があふれてきました。低弦が重低音でメロディを歌うのも素敵!ファゴットとフルートが穏やかに会話するようなところでは、弦はピッチカートで、ピアノはキラキラした音で寄り添う形に。ここがもう良すぎて、私は一人でボロ泣きしていました。穏やかで限りなく優しく美しい音楽。もしかしてベートーヴェンって、とても繊細で優しい人でした?私は今まで誤解していたかも、ごめんなさい!再び短調になる第3楽章は、冒頭の切ないピアノに引き込まれ、メロディを受け継いだ木管も素敵。ほどなく全員参加で登場した骨太なオケが超カッコイイ!金管ティンパニにパワフルに呼応するピアノも印象に残っています。ダンスのステップを踏むようなピアノが鮮烈な印象で、重厚なオケに負けない存在感。個人的には、ピアノなら左手、オケなら低弦が演奏する、メロディと対になる低音部分にものすごくベートーヴェンらしさを感じ、私はこれがDNAレベルで好きなのだと強く認識。ラストはピアノが駆け抜け、オケが華やかな締めくくり。ザ・ベートーヴェンな演奏、超素晴らしかったです。ありがとうございます!私、ベートーヴェンにはもう絶対に敵わない。良い物はイイ!ベートーヴェンさん、これから改めてよろしくお願いします!


後半はR.シュトラウス交響詩英雄の生涯。大編成で、木管は前半ベートーヴェンの倍となる4管編成に。金管、打楽器、弦も増員され、kitaraのステージは奏者の皆様がひしめき合っていました。ちなみに今回のハープ2台はステージ向かって左側前方に配置。冒頭、中低弦による「英雄」の登場が超カッコイイ!いつもカッコイイ中低弦がこの日は普段より輪をかけてカッコ良くて、早速引き込まれました。コントラバスは8名も!うれしすぎ!全員参加の華やかな盛り上がりになってからはさらに気分があがりました。ホルン(なんと9名!)による「英雄」のテーマが勇ましく、低弦と重なるのがとても良かったです。続いて登場したフルートから始まる管楽器たちは「英雄の敵」でしょうか?わいわい騒ぎ立てる感じの演出でしたが、音自体は美しかったです。それに対する低弦のぐっと低い音が印象的で、他の弦も一緒に英雄の重々しい心情を表しているようでした。待ってました、コンマスソロによる「英雄の伴侶」が登場!美しい!でもそれだけじゃない、深みが感じられる音色でぐいぐい来るコンマスソロは、まるで姉さん女房な頼れる印象でした。ペアで会話するように、コンマスソロ(伴侶)とホルンや低弦(英雄)が交互に演奏。音自体大きく(そもそも奏者の人数が違いますし)強そうな英雄に、一歩も引かずに主張するコンマスソロの存在感がすごく良かったです。勇ましい英雄も伴侶の発言にはきちんと耳を傾ける感じなのが好印象。ただ、そこから全員参加に移った際に、まだ続いていたコンマスソロの主張がかき消された気がして、あれ?と一瞬思いました。しかし私はこの曲をよく知らないので、それが通常の演出でしたら申し訳ありません。その後の、ハープや木管のやさしい響きに支えられたコンマスソロと弦の首席・副首席による室内楽のような重なりも、全員参加の美しく壮大な盛り上がりも、穏やかな場面締めくくりも、とっても素敵でした。次の「英雄の戦場」は、舞台裏のトランペット(奏者3名が事前にステージから退出していました)による華々しいファンファーレで開始。続くオケは重低音の効いた重々しい演奏で、厳しさが感じられました。ここからの戦場の様子がすごかったです。小太鼓の刻むリズムに、シンバルのアクセント、低音管楽器群のパワフルさ。この大人数によるスケールが大きいド派手な盛り上がりには、理屈ではなくゾクゾクしました。最後には弦とホルンに英雄のテーマが現れて、勝利を確信。続く「英雄の業績」は、R.シュトラウスの様々な作品からの引用があるそうなので、気づける人ならより一層楽しめたと思われます。ちなみに私は一つもわかりません(ごめんなさい!)。それでも華やかな演奏を楽しめました。個人的には、美しいハープを支えに木管コンマスソロがゆったりと歌ったところが印象に残っています。なお区切りが私にはわからなかったのですが、いつしか物語は終盤の「英雄の隠遁と完成」へ。深刻なところを経て、ティンパニの鼓動に乗ってイングリッシュホルンが歌う穏やかなところがとっても素敵でした。牧歌的なホルンに美しい弦は、次第にゆっくりになって、まるで日が沈んでいくような印象。そしてラストが圧巻でした。コンマスソロとホルンソロが静かに語り合っているようで、それが消え入ると、厳かな金管群で締めくくり。英雄は天に召されたのですね?永遠の別れなのに、私はなぜか哀しくはなかったです。神々しい響きの余韻に浸りながら、英雄は彼の人生を生ききった!と、むしろ清々しさで胸いっぱいになっていました。きっと会場にいたすべてのかたが胸打たれたのでしょう。音が消えてからも客席はしんと静まりかえり、指揮の広上さんがゆっくりと腕を下ろしてから、ようやく割れんばかりの拍手が起きました。

指揮の広上さんは、最初に今回のコンマス・会田さん、続いてホルンソロを担当された𡈽谷さんを讃えられました。カーテンコールで戻ってこられる度に、ハープお2人に、ステージ後方の管楽器や打楽器の皆様を。また弦もチェロから始まりヴィオラコントラバス、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリン(はじめは皆様着席のままでコンマス会田さんのみでしたが)と、順にすべての奏者の皆様に起立を促し、この大所帯のオケ全員を讃えられました。プログラムに掲載された、指揮・広上さんのシーズン開幕メッセージには「人類が造った世界遺産、それがオーケストラなのです!」とありました。ミニマムな編成でも超・大編成でも、お一人お一人のご活躍があって一つの壮大な音楽となるオーケストラの醍醐味を堪能できた、とてもとても素晴らしい演奏会でした!この感激を多くの人と共有できるうちは、人類はまだ大丈夫だと私は信じたい。きっと伝説になる、この日の演奏が聴けた私達は幸せです。ありがとうございました!


この日の9日前(2022/04/14)には「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回」が開催されました。指揮は広上淳一さんの愛弟子である川瀬賢太郎さんで、ソリストは岡田奏さん。守備範囲外の幻想交響曲にドハマリ!ラヴェルのピアコンはピアノが緩急つけて高音低音を自在に行き来し、オケと息のあった掛け合い。豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新体制・新年度のスタートでした。

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広上淳一さん指揮による札響の演奏、私は約1年前の札響定期(2021/05/08)を聴いています。1曲目は武満徹。2曲目はソリスト神尾真由子さんによる神業が冴えるグラズノフ。後半メインのリムスキー=コルサコフシェエラザード」(コンマスは田島高宏さん)では、音楽による物語の世界にどっぷりと浸れました。

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おわりにこちらも紹介させてください。オペラも交響詩も残していないブラームスが、物語の世界を音楽で描いた唯一とも言える作品『美しきマゲローネのロマンス』op.33。その作品が取り上げられた、ウィステリアホールプレミアムクラシック12 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」(2021/10/24)。ピアノとバリトンと朗読のみで創る、中世の物語の世界。おそらく首都圏でもめずらしい、ブラームスの連作歌曲の演奏会を札幌にいながらにして聴けたのは、とてもスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。