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札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~ようこそマエストロ川瀬!(2022/05) レポート

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2022年度最初の名曲シリーズに、4月から札響の正指揮者となった川瀬賢太郎さんが登場です。代役での登板となった先月のhitaru定期(2022年4月)に引き続き、ようこそようこそマエストロ!また昨年コロナ禍で来日が叶わなかったホルン奏者のラドヴァン・ヴラトコヴィチさんと札響との協演が今回ようやく実現しました。注目の出演者と、子供達にも親しみやすい演目のおかげか、会場は9割程の席が埋まっていました。


札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~ようこそマエストロ川瀬!
2022年05月14日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
川瀬 賢太郎(札響正指揮者2022年4月~)

【ホルン】
ラドヴァン・ヴラトコヴィチ

【ナレーション】
駒ヶ嶺 ゆかり

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
ラヴェル:「マ・メール・ロワ組曲
プロコフィエフピーターと狼(ナレーション付)

R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番
ソリストアンコール)メシアン:峡谷から星たちへ...より 恒星の呼び声

ラヴェルボレロ
(アンコール)ビゼー:「カルメン」より"トレアドール"


豪華4本立ての演目とソリストアンコールにオケのアンコール。盛りだくさんな内容はいずれも大変素晴らしい演奏で、気分爽快になれました!明るく視界が開けるような響きは、まさに今の新緑の季節にぴったり。前半の子供向け音楽劇2つは、多彩な音色で情景や動きが感じられ、楽しく物語の世界に浸れました。また指揮者が牽引し奏者お一人お一人が職人技で緻密に各パートの音を重ねていくボレロでは、オーケストラの良さを堪能。そしてラドヴァン・ヴラトコヴィチさんとの協演が最高でした!ヴラトコヴィチさんのホルンは、「スケール大きい」とか「豊か」とかありきたりの言葉では足りない、初めて聴く人をも一瞬で虜にしてしまう魅力がありました。素人コメントで申し訳ないのですが、金属を鳴らす音ではなく、体温を感じる生きた人の声のようにも私は感じ、とても心地かったです。聴けて本当によかった!指揮の川瀬さんはヴラトコヴィチさんのことを「神様」と仰っていましたが、世界的な演奏家を迎えて見事な協演ができる札響と川瀬さんもまた「神」です。いずれの演目も、川瀬さん指揮による演奏は、思い切りの良さに加えて細かなニュアンスの変化も感じられる素晴らしいものでした。マエストロの指揮の導きに添ってオケの演奏が変化するのを目の当たりにし、札響との信頼関係が生まれていることを実感。これからきっと長いお付き合いとなる指揮の川瀬さん、改めまして我が町のオケにようこそ!これからの演奏も楽しみにしています!


名曲シリーズでは、本年度から開演前のプレトークが始まりました。今回のトーク担当は指揮の川瀬さん。「ようこそマエストロ川瀬!」という演奏会タイトルを「小っ恥ずかしい」(!)と正直にぶっちゃけて、会場が和みました。正指揮者就任後、今回が本来の初登場となる予定だったものの、(先月hitaruで代役を務めたので)2回目です、とのこと。今回のプログラムについては「オーケストラの魅力、楽器の魅力」を味わって欲しいと仰った上で、各曲についてもお話されました。「マ・メール・ロワ」は、楽器の組み合わせで色の移り変わり・グラデーションを札響と作ったのだそう。「ピーターと狼」について、プロコフィエフは動物を描くのが上手で、配役が適材適所、性格まで想像できる。オペラのようにすべてが有機的に繋がっている分、演奏が崩れると現実に引き戻されてしまうとか。また川瀬さんは、「ホルン協奏曲」ソリストのラドヴァン・ヴラトコヴィチさんのCDを子供の頃から愛聴していらしたそうです。ヴラトコヴィチさんはまさに神様のようで、彼の身体から音楽が生まれている――と、リハでの印象はかなりの好感触だった様子。そして「ボレロ」は、オーケストラの楽器を隅々まで味わえる曲で、札響の魅力を隅々まで味わって!といったお話でした。


団員の皆様、続いて指揮の川瀬さんが入場し、すぐに演奏開始です。1曲目はラヴェルの「マ・メール・ロワ組曲。子供達のために、様々な童話を音楽で描いた作品。元々はピアノ連弾曲ですが、今回取り上げられたのは管弦楽の魔術師ラヴェル自らによる管弦楽編曲版です。ちなみに私は2021年3月に尾高さん指揮の札響定期でも聴いています。その時は丸腰で臨み、音の響きそのものを楽しみました(これもアリだと私は思います)。しかし今回は物語の内容を少しだけ予習してきたため、どのシーンの演奏なのかを想像しながら聴くことができました。「眠りの森の美女パヴァーヌ」では、神秘的な木管と澄んだ音色の弦が素敵。「おやゆび小僧」は、薄暗い森の中のような弦に、道なき道を行く子供達は木管群。中でもオーボエイングリッシュホルンがおやゆび小僧との理解でOKでしょうか?オーボエイングリッシュホルンそれぞれのソロは、ほの暗さがありながらも前向きな感じ。また、コンマスがソロで鳥の鳴き声のようなキュイキュイ♪という音を奏でたのと、ラストのオーボエの余韻も素敵でした。「パゴダの女王レドロネット」は、華やかでエキゾチックな中華風の音楽が新鮮。ホルンから始まり管楽器が順番にメロディを演奏したところが壮大で、大蛇のイメージが浮かびました。「美女と野獣の対話」では、美しい序奏の後に登場した重低音の木管コントラファゴット?)がインパクト大!これが野獣のイメージでしょうか?重なる低弦も妖しげな効果を倍増させてくれました。対するハープや木管が美女?重なる高音弦が不安そうな雰囲気でした。オケの音の盛り上がりは二人の間の緊迫感のよう。そしてラストのコンマスソロとチェロのソロがとっても素敵!野獣が王子の姿に戻った、ここはやはりチェロですよね!終曲「妖精の園」は、まず冒頭の繊細な弦アンサンブルにぐっと引き込まれました。コンマスソロと今度はヴィオラのソロが登場。美しい!眠りの森の美女は王子のキスで目を覚まし、オケの華やかな演奏で締めくくり。ハッピーエンド!様々な物語を描いた、多彩な音色によるカラフルな演奏はとっても楽しかったです!


続く2曲目のプロコフィエフピーターと狼も子供向けの音楽物語です。ナレーションはメゾソプラノ歌手・駒ヶ嶺ゆかりさん。聴きやすい落ち着いた語り口でした。まずは登場人物の紹介。各楽器は、それぞれのテーマ(ライトモチーフ?)を演奏して自己紹介しました。小鳥(フルート)、アヒルオーボエ)、猫(クラリネット)、おじいさん(ファゴット)、は楽器1台ずつ。そして3台のホルンによる狼が、不気味な感じでありながらもクールでカッコイイ!私、この狼になら食われてもいい(真顔)。狩人たちは大音量のティンパニと大太鼓。銃のイメージでしょうか?ピーターは弦楽器たち。品の良い響きで、育ちがよさそう。ナレーションでストーリーは全部わかるシステムですが、テーマの演奏に細かな変化を付けてあったことで各登場人物の振る舞いが生き生きと感じられました。例えばピーターのテーマを1stヴァイオリンだけでなく2ndが演奏したり(その間1stはスキップするような伴奏)、低弦が力強く入ったり、おじいさんと会話するときは少しトーンを落としたりと、動きや心情の細やかな変化を表現。また、小鳥とアヒルの口喧嘩が楽しく、スペシャルごはん(小鳥)を狙う猫はなんだかコミカルで憎めない感じ。不気味な音色で忍び寄る狼には、ぞわっとしました。みんな逃げて!のんびり屋のアヒルが精一杯急いでいる様がオーボエの演奏から伝わってきました。結局アヒルが狼にひと飲みにされてしまい(オケの演奏がスリリングでした)、ピーターは狼を生け捕ることに。ピーターの作戦で小鳥が狼を挑発するとき、小鳥役のフルートが速いテンポでピーターのテーマを演奏したのが面白かったです。狼の捕獲成功。狩人が現れた!でも「撃たないで!」とピーターは懇願。優しい世界。動物園へ向かう行進は全員が一緒で、ピーターのテーマをオケ全体が壮大に演奏したのがとっても素敵!ついてきたおじいさんは、ぶつぶつ文句言っているのに、ファゴットのまるい音色にピーターへの愛情が感じられました。そして物語のオチは、狼のお腹の中にいるアヒルの台詞「ここはどこ?まあ、いっか……」。まずい、このままじゃアヒルは消化されて狼の養分になっちゃう……?ちなみに、昨年度に札響が演奏した際は、狼に吐き出させる結末だったらしいです。楽譜によって色々あるのかも?いずれにしても、今回の演奏は登場人物のキャラクターが際立ち、またテンポ良いストーリー展開のおかげで、大人の私も子供向け音楽劇に夢中になれました。


後半1曲目はソリストのラドヴァン・ヴラトコヴィチさんをお迎えして(指揮者・コンマスとは握手で挨拶されました)、R.シュトラウス「ホルン協奏曲第1番」。作曲家が18歳で書いた曲は、後年の管弦楽作品の大編成とは異なり、基本的な2管編成。全3楽章を切れ目無く演奏するスタイルでした。オケのパワフルな冒頭に続いて登場した独奏ホルン!スケールの大きさに加え、包容力や温かみも感じられる音色に私は一瞬で引き込まれました。この特上の響きはずっと聴いていられる!華やかで壮大なオケと交互に登場する独奏ホルンは、力強く歌う中にも歌曲のような柔らかさやふと寂しげな表情を垣間見せたのが印象に残っています。特にチェロ2台と会話するような、独奏ホルンの繊細な演奏が素敵すぎました!チェロの音をかき消さないようにホルンは音量を下げているにもかかわらず、ささやくように歌うのがとても良く響いて、チェロの音色と絶妙に溶け合っていました。続けてその柔らかい響きの独奏ホルンに寄り添ったオケが、独奏ホルンとシンクロして一緒に盛り上がった流れも素晴らしかったです。中盤の、ほの暗い独奏ホルンと木管群の会話するようなやり取りも素敵でした。そして音量下げたオケをバックにして歌った独奏ホルンがすごく良かったです!かなり息が長いのに、途切れることなく流れるように、切なく美しい音色での演奏を聴かせてくださいました。再び明るくなってからの、清々しいオケと視界が開けるような独奏ホルンは聴いていて気持ちが良かったです。ラストはオケと一緒に独奏ホルンの堂々たる響きで締めくくり。ホルンの豊かな響きを堪能できた、素晴らしい演奏でした!

カーテンコールの後、ヴラトコヴィチさんがマイクなしでご挨拶。声がよく通り聴きやすいお話でしたが、英語で話されたため私には細かい内容はわかりませんでした(ごめんなさい!)。ソリストアンコールメシアン「峡谷から星たちへ...」より 恒星の呼び声。電波が乱れているようなガーピーといった音や、扇風機に向かって「ワレワレハウチュウジンダ」と言っているような(例えがひどい)ガラガラした音、モールス信号のような途切れ途切れな音……。特殊奏法によるホルンのユニークな音色の数々、私は初めて耳にするものばかりでした。それをさらりと演奏できるヴラトコヴィチさん、やはりすごいお方です!交信が途絶えたような、静かに消え入るラストも印象的でした。先ほどの協奏曲の優等生的な音色とは全く違う、個性的な音色が聴けて楽しかったです。スケールの大きな協奏曲から難易度が高いアンコール曲まで、「神様」の形容がふさわしい唯一無二の演奏をありがとうございました!

プログラム最後の曲は、ラヴェルボレロ。同じラヴェルでも前半のマメロワよりさらに多彩な楽器が入る大編成です。メインのスネアドラムは2ndヴァイオリンとチェロの間、指揮者の真正面に配置されました。ちなみに終盤で援護射撃に入るサブのスネアドラムは、舞台向かって左奥のハープの後ろに配置。この曲の要となるスネアドラムは実に見事な仕事ぶりでした!ごく小さな音から始まりゆっくりとクレッシェンドしながらずっと同じリズムを刻み続ける様は、まさにラヴェルの神髄である時計職人のよう。終盤に重なったサブのスネアドラムも、メインと驚くほど完全にシンクロしていました。なお私がスネアドラムと同じ位に注目していたのは、メインのスネアドラムの隣にいたチェロです。他の弦は後から入ってきて比較的早くメロディに移りますが、チェロは最初からピッチカートで参戦しメロディに移るのも最後。ひたすらピッチカートのためか、チェロ奏者の皆様は弓を床に置いていました(!)。またヴァイオリンとヴィオラは、ピッチカートの際は楽器をギターのようにお腹の前に構えて演奏していたのが印象的でした。このスネアドラムと弦ピッチカートが刻む職人技のリズムに乗って、順番にメロディを演奏する各楽器がいずれも素晴らしかったです。どの楽器もそれぞれ個性的な音色が素敵でしたが、いくつか例をあげると、先陣を切ったフルートはいつもより低い味わい深い音色で掴みはバッチリOK!いつもより高い音程で登場したファゴットは「ピーターと狼」の低音とはまるで違う都会的な雰囲気だったのが印象に残っています。ハモる役目では、他楽器とあえて調が違う演奏をするピッコロの重なりが良かったです。倍音の効果って、もしかしてオルガンのような奥行きが作られることでしょうか?メロディへ参戦する楽器が徐々に増えていくに従って、聴いている私達の気分も少しずつ上昇。チェロ奏者の皆様が一斉に身をかがめて弓を手に取り(!)、盛り上がりに加わったのも見届けました。そして大音量となったオケが転調でさらに高みへ上ったのが超カッコ良くて、私達のテンションも最高潮に。クライマックスは、ドラやシンバル等の打楽器群が強烈なインパクト、低音管楽器群のパワフルさで、ド派手な盛り上がり!ラストのみのメロディで(スネアドラムも最後だけ違うリズムを刻みました)、オケ全員参加による全力のビシッとした締めくくりが気持ちよかったです。これぞオーケストラの醍醐味!とっても楽しかったです!

ボレロの興奮冷めやらぬ会場は拍手喝采。カーテンコールの後、会場が熱量高い状態のままアンコールの演奏へ。アンコールビゼーの「カルメン」より トレアドール。最初からテンションモリモリMAXな演奏が超楽しい!先ほどのボレロとカラーが異なる、1,2,1,2のリズムでスピード感ある音楽はとても新鮮な気持ちで聴けました。中盤の弦が美しくメロディを奏でるところも素敵。音楽は再び盛り上がり大迫力のまま締めくくり。札響の皆様、マエストロ川瀬、大好きです!今後の演奏も楽しみにしています!


指揮の川瀬賢太郎さんがご出演された「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回」(2022/04/14)。私が守備範囲外の幻想交響曲に期せずしてドハマリした、記念すべき出会いでした!ラヴェルのピアコンはピアノが緩急つけて高音低音を自在に行き来し、オケと息のあった掛け合い。豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新体制・新年度のスタートでした。

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R.シュトラウス交響詩英雄の生涯」が聴けた「札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)」(2022/04/23)。指揮は川瀬さんの師匠である広上淳一さん。「英雄の生涯」は、驚きの一体感の大編成による壮大な物語の世界。新コンマス会田さんのソロと各パートの掛け合いは素晴らしく、ラストが圧巻!またベートーヴェンのピアコン第3番に胸打たれ、意欲的な武満作品に札響の底力を再確認しました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。