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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回(2022/04) レポート

www.sso.or.jp

 

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2022年度最初の札響主催公演です。今回から「新」が取れ定番となったhitaruシリーズの第9回目。2022年4月から正式就任となる正指揮者・川瀬賢太郎さんとコンサートマスター・会田莉凡さんが、年度初回公演の今回から早速登板です!当初の予定から出演者と演目の変更があり、1曲目は藤倉大さんの現代曲、後半メインはベルリオーズ幻想交響曲に。また演目の中では唯一変更ナシだった協奏曲は、ソリストに函館ご出身のピアニスト・岡田奏さんをお迎えして、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調が演奏されました。

なお前回2022年2月のhitaruシリーズにおいて、藤倉大さんの別作品が諸事情により演奏取りやめとなった経緯がありました。今回は出演者と演目の大幅な変更に加えて、藤倉大さんの作品を改めて取り上げるという計らいまで!関係する皆様のご尽力に頭が下がります。


札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回(2022/04)
2022年4月14日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
川瀬 賢太郎(札響正指揮者2022年4月~)

【独奏】
岡田 奏(ピアノ)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡 ※2022年4月就任)

【曲目】
藤倉 大:トカール・イ・ルチャール
ラヴェル:ピアノ協奏曲
ソリストアンコール)ラヴェルクープランの墓よりメヌエット

ベルリオーズ幻想交響曲


豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新年度のスタートでした。指揮の川瀬さん、コンミス会田さん、そしてオーボエ副首席奏者の浅原さん、ようこそ我が町のオケへ!素晴らしいデビュー演奏をありがとうございます!大編成だったり多彩な楽器が登場したりする大曲の数々を、清々しいほどパワフルな演奏で聴かせてくださいました。また、ここぞという時の全力投球とあえての静けさのメリハリが明確だったおかげで、素人の私にも聴きどころが何となく掴めた気がします。そして大勢の客演奏者のかたを含む大所帯でも、バラバラにならず同じ方向性でぐいぐい引っ張っていたとも感じました。言うまでも無く大変な集中力を持ってハイレベルな演奏でこたえた、オケお一人お一人のお力も素晴らしいです。我が町のオケ、もう全面的に信頼しています!この後に続く主催公演、川瀬さんの師匠である広上さん指揮の4月定期も、川瀬さん指揮の5月名曲シリーズも、私は今から楽しみです。大編成も、標題音楽も、私はもうコワくありません!

もちろんすべての演目が素晴らしい演奏でしたが、この日の私が最も感銘を受けたのはベルリオーズ幻想交響曲です。自分の価値観がひっくり返るコペルニクス的転回。今までノーマークどころか避けたいとさえ感じていた演目に期せずしてドハマりし、自分でもすごく驚いています。しかも比較的美しい前半よりも、どんどんグロくなる後半に進むほどのめり込んでいったのが信じられなくて。私自身、申し訳ないですがこの曲の物語の世界は not for me で、大編成オケに苦手意識もあったことから、聴く前は正直「少しは良いところを見つけようチャレンジ」のつもりでした(字面にするとひどいですね……本当にごめんなさい!)。いざ実演を聴くと、いつの間にか演奏に没頭していて良い意味で期待を裏切られました!ありがとうございます!これからもぜひ幻想交響曲を積極的に演目に取り上げてください。今後は「幻想交響曲を聴くために」、私は演奏会に足を運びます!

ちなみに私が幻想交響曲の実演を聴いたのは今回が2回目。前回は約3年前の2019年5月、バーメルトさん指揮の札響定期でした。その時の私はまだ経験が浅くてうまく聴けず、ただひたすら怖いのを耐え忍んでいた記憶があります。申し訳ありません。良い演奏だったに違いないのですが、当時の私にはまだ早かったのだと思います。そして、少しは場数を踏んできた私が、今このタイミングで川瀬さん指揮・札響によるものすごい演奏に出会えたのは本当によかったと心から感謝しています。石の上にも三年?いえまだまだです。私にとって、幻想交響曲の物語の世界そのものは、これから先も not for me かもしれません。しかし曲の演奏自体は今後何度でも聴いていきたいです。きれい事を抜きにすれば、人間誰しもがグロテスクな感情や人には言えない性癖を持っているはず(もちろん私にだってあります)。甘ちゃんな私でも、今回の演奏を聴くことによって、図らずもその現実を直視できた気がします。この特別な体験は癖になりそうです。もちろん今の私にはまだ見えていないことの方が多いはずですが、この先また違ったものが見えてくるかもしれないと思うと、とってもワクワクしています!札幌交響楽団の皆様、これからもどうぞよろしくお願いします!


前半1曲目は藤倉大「トカール・イ・ルチャール」。2010年に発表されたごく最近の曲ですが、プログラムノートによると指揮の川瀬さんは過去に別のオケでの演奏経験があるとのこと。曲のタイトルは「奏でること、闘うこと」という意味のスペイン語。今回が札響初演です。hitaruの広いステージが密になる大編成!木管から入り、妖しげな雰囲気でオケ全員によるクレッシェンドとデクレッシェンドで作る音の波は、人間の感情のムーブメントのように感じられました(?違っていたらごめんなさい)。聴きやすいメロディはないものの、高音が悲鳴のようだったり、低音が心の底でうごめく感情のようだったり。雷鳴のようなティンパニと大太鼓の大音量の連打、金管木管の叫びはインパクト大でした。また弦はコル・レーニョ奏法も出てきましたが、弦を擦る演奏でも音色がいつもの透明感とは違う、演出として妙な音を発していたのが個人的にはちょっと刺激が強すぎたかも。これは私向きじゃない……と肌感覚で察知してしまうと上手く聴けなくなってしまいました。申し訳ありません。今回の曲は今の私にはちょっと難しくて、意図するところをきちんと理解できませんでしたが(ごめんなさい!)、札響はこのような曲も演奏出来るとわかり、その底力を認識しました。おそらく演奏は難しく、定番曲とは勝手が違うにもかかわらず、オケの皆様は短期間で準備しきちんと仕上げてこられたのが素晴らしいです。


2曲目はソリストの岡田奏さんをお迎えして、ラヴェル「ピアノ協奏曲」。私、とても楽しみにしていました!前の曲よりもオケの編成はコンパクトで、オケ奏者は少数精鋭に。しかしハープや多彩な打楽器が入り、華やかな楽器編成だと思います。第1楽章、最初にパーンと鞭の一打が決まって、ピアノとオケによるスピード感あるきらびやかな盛り上がりになり、初めから気分があがります。テンポが速いところも、少しゆったりするところも、緩急つけて高音低音を自在に行き来するピアノが超カッコイイ!管楽器の、少しくぐもった特徴ある音色での演奏も印象に残っています。また弦の音色はあくまで美しく、これが札響の弦!と私は一人で感激していました。途中入った美しいハープも素敵。ピアノの低音を効かせた演奏では重厚さが感じられ、それに合いの手を入れた中低弦も良かったです。ラヴェルの低音ってやっぱりイイですよね!続く第2楽章は、先ほどまでのスピード感とはガラリと変わり、ゆったりした大人っぽいピアノ独奏がとっても素敵。このピアノを尊重するように、オケが静かに参戦して包み込むような演奏をしたのも素敵でした。イングリッシュホルンによる美しいメロディと、それにやさしい響きで寄り添ったピアノが本当に素晴らしかったです。第3楽章は、スピード感再び。ピアノの高速演奏も、管楽器がその超スピードに乗るのもすごい。ピアノに一瞬ゴジラっぽい音の刻みを感じましたが、華やかな音色はむしろ都会的な印象でした。ピアノもオケも同じ高速の流れに乗りながら一緒にリズムを刻むのがキレッキレで、聴いていて気持ちが良かったです。ピアノが高速で駆け抜け、ラストはオケが大音量でパンっ・パンっパンっ・パンっパンっ・(ドン)と見事なリズムを刻んで締めくくったのがインパクト大!最初から最後までずっと夢中になれた、素晴らしい演奏でした!ちなみに私は、ソリスト岡田奏さんの協奏曲の演奏については、昨年末にチャイコフスキー第1番の楽章抜粋演奏を聴いたきりでした。今回はがっつりフルで、しかも我が町のオケと息のあった掛け合いでの演奏を聴けてうれしかったです。

ソリストアンコールは、ラヴェルクープランの墓」よりメヌエット。しっとりとした舞曲にうっとり聴き入りました。高音と低音がゆったりとダンスしているかのよう。また音色の美しさから、個人的には札響シーズンテーマの「水」のイメージも感じられました。岡田さん、協奏曲の大熱演の後に、とっても素敵なピアノ独奏までありがとうございました!今後機会があれば、室内楽での演奏もぜひ拝聴したいです。


後半はベルリオーズ幻想交響曲。客演奏者のかたが大勢入る大編成です。2台のハープが最前列で指揮台を挟んで向かい合う配置だったのが新鮮でした。第1楽章、木管から入り、素敵なアンサンブルに聴き入りました。ヴァイオリンの美しいメロディで憧れの彼女が登場!それに対しての低弦のドキッドキッもはっきりわかりました。金管ティンパニも加わった華やかな盛り上がりは、恋の始まりの一番楽しい時のよう。しかしまだ現実世界にいるような地に足が着いた印象。第2楽章は舞踏会。ちょっと不穏な弦による序奏、そこに重なる左右交互に聞こえてくる美しいハープに気分があがります。私好みの澄んだ音色による華やかなワルツは、ストーリー抜きにしても純粋に音楽を楽しめました。木管のメロディに憧れの彼女が登場し、おそらく低弦のドキッドキッもあったと思うのですが、第1楽章よりも控えめだったので定かではありません。人が多くて遠目ではよくわからなかったという演出なのかも?大盛り上がりで楽章締めくくり。ここでハープ奏者お二人が退場。しかしオーボエ首席奏者は着席のままでした。場面は人の多い舞踏会から二人きりになれる田園へ。第3楽章の冒頭は、イングリッシュホルンと舞台裏のオーボエ(演奏は副首席のかた?)の対話。主人公(イングリッシュホルン)の声ははっきり聞こえるのに、妄想の産物であるバーチャル彼女(舞台裏のオーボエ)の声が遠いのはすごい演出だと改めて感じました。木管と高音弦によるゆったりとしたメロディは、穏やかな田園風景のよう。しかしそれは夢だったのか、終盤イングリッシュホルンの呼びかけに舞台裏のオーボエは答えてくれず、4連ティンパニによる黒い感情の波のような連打(札響の4名の打楽器奏者による全力の連打が素晴らしい!)。嵐が去った後の静かな締めくくりにはぞっとしました。一体何が起きたんでしょう……。続く第4楽章は断頭台への行進(!)。低音管楽器群にチェロの重厚なメロディが印象的で、トランペットが華やか!弦による音の波や刻む音も効果を倍増させ、全員がフルスロットル演奏で盛り上げます。処刑を外野がわいわいはやし立てるおぞましい光景なのに、私はまずいことに聴いていて妙にゾクゾクしました。いざ土壇場で、木管によるあのメロディ。憧れの彼女が一瞬脳裏をよぎったのですね?続いてジャンッ!と容赦なく裁断、またもや大盛り上がり!このドラマチックな流れには圧倒されました。そして第5楽章がもうすごすぎて!序奏の不気味な雰囲気の低弦に、私はぞわっとなりました。もうベルリオーズさん大好きです。木管のメロディは変わり果てた彼女!ここでしか聴けない鐘!2台のチューバのグレゴリオ聖歌!弦が音を駆け上るのもインパクト大でした。何度目かの「怒りの日」登場の時に、大太鼓と低弦が全力で下支えするところがあって、おどろおどろしさに拍車がかかったのも印象に残っています。この低音、ベルリオーズさん天才!宴のような盛り上がりを経て、出ました弦バンバン(コル・レーニョ奏法)の骸骨!どのシーンも躊躇なくバーンと打ち出してくるのが痛快で、私はただ我を忘れて演奏を追いかけていました。ラストはリミッター振り切った全員参加の全力盛り上がりで締めくくり。ものすごい演奏を聴かせて頂きました。超楽しかったです!

指揮の川瀬さんはカーテンコールで何度も舞台に戻ってきてくださり、私達は全力の拍手を送りました。控えていらしたハープ奏者お二人とオーボエ奏者のかたも舞台へ。川瀬さんは、イングリッシュホルンに始まり管楽器から打楽器まで順に奏者に起立を促した後は、弦の最前列にいるコンマスや首席・副首席と肘タッチ。後方にいるコントラバスの方にまで行って肘タッチしていました。川瀬さん、札響の皆様、最初から最後まで夢中になれる大熱演をありがとうございました!



守備範囲外の演目にドハマリしたのが今回なら、最推し大本命の演目で打ちのめされた演奏会はこちら。「安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」(2022/03/17)。札響からはヴィオラ首席の廣狩亮さんとチェロ首席の石川祐支さんがご出演。心を強く揺さぶられたこの日の演奏会を、私はずっと忘れないと思います。

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マティアス・バーメルト指揮、札幌交響楽団による名曲シリーズ「バーメルトとワルツを」(2021/11/27)。バラエティ豊かなワルツの数々を、バーメルトさん流の強弱のメリハリがあって各楽器の個性が際立つ澄んだ響きで聴けた、とっても素敵な演奏会でした。その演奏会のライブ録音CD「The Waltz 夢幻∞ワルツ」には、ベルリオーズ幻想交響曲」第2楽章のワルツも収録されています。こちらのCD、私はヘビロテしています♪

tower.jp


最後までおつきあい頂きありがとうございました。