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札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第5回 (2021/4)レポート

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今回2021年4月の新・定期は、2020年3月に公演中止となった定期演奏会が再企画されたものでした。しかし残念ながらピアノ・指揮のオリ・ムストネンさんの来日が叶わず、演目と出演者を変更しての開催。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はピアノ編曲版ではなく原曲に変更され、しかもソリスト竹澤恭子さん!彼女のライブ演奏に触れて大袈裟じゃ無く人生変わった私ですから、行くに決まってます!

また、今回の公演前に札響動画配信プロジェクト第18弾として、『札幌文化芸術劇場hitaru』での楽器搬入の様子を紹介した動画が公開されました。一般人が入れないバックヤードでの作業、舞台裏を拝見できてうれしかったです。ありがとうございます!


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札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第5回 (2021/4)
2021年4月14日(水)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
高関健

【独奏】
竹澤恭子(ヴァイオリン)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


今回もすごかったです竹澤恭子さん!その演奏を目の当たりにした人なら誰もが圧倒されるはず。実際、平日夜にもかかわらずほぼ満席だった会場は拍手の嵐でした。また帰り道「あのドレスのヴァイオリニストさん、すごかったね!」との会話が耳に入ってきて(立ち聞きごめんなさい)、竹澤恭子さんを知らないかたにも演奏の素晴らしさ響いたとわかり私はひとりでうれしくなりました。竹澤恭子さんと同じ時代に生きてそのライブ演奏に触れられる私達は幸せです。前回竹澤さんと札響が協演したkitaraでのプロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第2番」(2019年6月)も素晴らしかったですが、個人的に今回は前回より少しは落ち着いて聴けたおかげでより楽しめました。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は目を引く派手さはないのに、竹澤さんの意思ある独奏ヴァイオリンに引き込まれ、夢中になって約45分があっという間。ある意味平坦な曲(演奏は難しいはずですが)なので、ただ弾きこなすだけなら「聴ける」演奏にはならない気がします。ちなみにベートーヴェンの協奏曲は、ブラームスの朋友で名ヴァイオリニストであるヨアヒムが好んで演奏したのだそうです。またヨアヒムの全面協力のもとで作曲されたブラームスのヴァイオリン協奏曲は、ベートーヴェンと同じニ長調で、楽器編成は完全に一致(おそらくあえてそうしたのかと)。竹澤恭子さん、ブラームスのヴァイオリン協奏曲もいつか必ず聴かせてください!そしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲については、ベートーヴェン自身がカデンツァを書いたというピアノ編曲版もいつかきっと生演奏で聴きたいです。

札響とは密接なつながりがある指揮の高関健さん、私はお初にお目にかかりました。テレビでは「指揮者のシゴト」特集でオケのメンバーおひとりおひとりと誠実に向き合っていらした様子や、トークでは低めの良いお声で面白いことをボソっと仰っていらしたのがとても印象に残っています。きっと札響とも良い関係なのだと、演奏から伝わってきました。なお今回はオケの弦の配置がいつもと違っていて、舞台向かって左から第1ヴァイオリン、チェロ(その後方にコントラバス)、ヴィオラ、第2ヴァイオリン。この配置は高関さんのご意向なのでしょうか?中低弦の近くのつもりでR側の席を確保した私はちょっと当てが外れました(笑)しかし視線のまっすぐ先にチェロとコントラバスがいるのも良いですね。また私は今回かぶりつき席より気持ち後ろに下がった席にしたので(分散退場では2番目に呼ばれるエリアです)、オケ全体を見渡せましたし、パワフルな金管も素直に楽しめました。

そしてシベリウス交響曲第2番、超イイですね!私、こんな良い曲を今まで知らずに生きてきたのがもったいなかったです。ちなみにプログラムにあった札響指揮者の松本宗利音さんのコラムには、「札響によるシベリウスには、北国ならではの『抑制された内向的なアプローチの蓄積』があることを感じます」と書かれていました。やはり札響はシベリウス!私は本質的なことはわかっておらず、それこそ作曲家が「浅薄な理解に嫌気がさす」レベルの聴き手かもしれません。しかしたとえ私がきちんと理解できていないとしても、これを素敵!と感じられるのは幸せですし、また聴きたい!と思えるうちは何度でも演奏会に足を運びたいです。それにしても、札響奏者の皆様はタダモノじゃないなと改めて感じました。オケの奏者はソリストとは違う難しさがあるのだと思います。おひとりおひとりが素晴らしい演奏家でありながら、指揮者についていき周りと調和しながら自身はベストな演奏をするって、並大抵のことではないはず。プロのお仕事とはいえ、頭が下がります。協奏曲だってソリストのみでは成立しないわけで、私達がソリストに夢中になれるのはオケが信頼できるからこそでもあるんですよね。地元にこんな素晴らしいオケがいて、その演奏をご近所の良いホールで聴けるなんて、本当にありがたいです。


前半1曲目はペルト「カントゥス」です。私は作曲家の名前からして初耳でした。札響の過去の演奏歴は1回のみ。その2003年7月kitaraの演奏会での指揮も高関さんとのことで、高関さんの隠れた十八番とお見受けしました。編成は鐘(!)と弦。鐘はハンマーで叩いて音を出すものでしたが、「のど自慢」で見るような音が多いものとは違う、音が一つのシンプルなもの。その鐘のカーンという音が冒頭の一打から曲全体を通して絶妙なタイミングで入ってきて、存在感すごかったです。10分に満たない短い曲、しかも変に凝ってないつくりで、存分に札響の弦を堪能できました!最後に弦の奏者の皆様が全員同じように弓を上げた姿勢で止まっていらしたのが印象に残っています。この後に控える2つの大作の前に、純粋に弦の美しさを楽しめる曲が聴けてよかったです。


2曲目はいよいよベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」。プログラムによると今回のカデンツァはクライスラー作だそうです。竹澤恭子さん登場、待っていました!フリルの袖に胸元と背中が大きく開いたコーラルピンクのドレス、お姉様カッコイイ!はじめはオケのターン。最初にティンパニの小さな音から入るとか木管と高音弦の美しさを下支えする中低弦の存在感とか、録音でぼんやり聴いていた時は気付けなかった良さを知り、良い曲だなと今更ながら実感。私は今まで何を聴いてきたのかと……。しかしやはりソリストが登場してからが本番です。ゴメンナサイここからはソリストに全集中。高音で流れるようにメロディを奏でるときも、オケの伴奏にまわるときも素晴らしく、弱い音での演奏もインパクト大。そして長いソリストの独奏へ。竹澤さんの演奏はいつもながら期待以上、さすがです!おひとりでの演奏なのにいくつもの音が重なるふくよかな響き。二重どころかそれ以上の音が重なっているように聞こえましたが、どうやって演奏しているんでしょう?私はまた呼吸を忘れる勢いでのめり込みました。第2楽章、冒頭のオケの美しい響きで視界が開けたような感じに。穏やかに響くホルンや木管が印象的。独奏ヴァイオリンは、木管と会話するようなところも単独での高音の演奏も繊細で優雅で、私が勝手に抱いていた竹澤さんの強いイメージとは違っていたのが個人的には新鮮でした。オケががらっと雰囲気を変えてくれてそのまま第3楽章へ。民謡風のあたたかな響きが沁みます。おそらく演奏は難しいのでしょうが、そうとは感じさせない、踊ったり歌ったりしているような独奏ヴァイオリンに引き込まれます。ただひとりで突っ走るのではなく、オケと自然に呼応しながらの演奏はまるで音楽に意思があるようです。ラストはオケと一緒に締めくくり。素晴らしい!ありがとうございます!私は専門的なことはわからないですし、好きな演奏家をひいき目に見ていることは自覚しています。しかし私は、今回の生演奏を聴いて初めてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を「また聴きたい」と思えるほど好きになりました。平坦だなんてとんでもない思い違いで、音楽に生命を吹き込むのは演奏次第。あのヨアヒムがこだわり続けた理由がほんの少しわかった気がします。私、今回はソリストに夢中になっただけで曲そのものを深く味わうまではできなかったのが悔しいです。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、次に生演奏を聴けるときには少しでも本質的な良さを捉えられるよう、私は今後ピアノ編曲版も含め様々な録音を聴いていこうと思います。

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ソリストアンコールは、バッハ「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番 BWV1004 サラバンドカデンツァでも見せてくださった音の重なりを、今度はバッハで。超有名曲ですから、演奏が始まってすぐ私は「バッハだ」と気付きました。しかしよく知る曲でも初めて聴いたような鮮烈なインパクトで聞こえる、これぞ竹澤恭子マジック!目の前の演奏を堪能しつつ、私はなぜ新定期は1日だけ?2日あるなら次の日も聴きに来るのに!とか、もう一度ふきのとうホールでリサイタルを聴きたい!とか、そんなことを思ったりもしました。会場はまたまた拍手の嵐!竹澤恭子さん、突然の出演依頼にもかかわらず、今回も最高の演奏をありがとうございます!これからもオケとの協演でもリサイタルでも、何度でも札幌にいらしてください。私は万難を排して聴きにうかがいます!


休憩後の後半はシベリウス交響曲第2番」。楽器編成はブラームス交響曲第2番とほぼ同じで、違いはシベリウスのほうがトランペットが1つ多い3つになっていること。また偶然どちらの曲もニ長調でした。なお今回チューバはおひとりの奏者がシーンに応じて2つの楽器を持ち替えて演奏されていました。第1楽章、長調の曲でもどこか哀しげな雰囲気があるのは私好み。第1・第2ヴァイオリンが同じメロディを大変美しく演奏した際、舞台の左右からステレオで響いてきて、今回の配置が活きているなと感じました。そして第2楽章で私は完落ちです。ティンパニから始まり、低弦のピッチカートが印象的。そこにファゴットの低い音が重なるとぞわぞわしました。パワフル金管のド迫力すっごい!男前!ほれてまうやろー!トランペットのソロもとても素敵でした。また弦が蜂の大軍みたいなうねる音を奏でたり超高速で演奏したりと、お若いかたもベテランのかたもこのハイレベルな演奏を難なくやってしまうのですからすごすぎます。シベリウスさん、特に弦への要求が難易度高くてエグいですね(褒めてます)。第3楽章では木管が主役のターンでチェロが重なるところ(1度目は首席のみ、2度目はチェロパート全員で)があって、このさりげない登場にやられました。ほんの短い演奏でも素敵すぎ!ここ何度も繰り返し聴きたい……。シベリウスさん、ニクイ演出をありがとうございます!少しゆったりしたところからだんだんと駆け上ってそのままフィナーレの第4楽章へ。超気持ちいい!こんな身体感覚があるから生演奏はやめられない!オケ全員がフルスロットルの演奏で、しかも見事に一つの音楽になるんですね。ホレボレします。圧巻の第4楽章は、曲自体が良いだけでなく、やはり演奏が素晴らしいからこそ。ありがとうございます!シベリウス交響曲第2番」、札響の過去の演奏歴は56回。意外に少ないと思いますので、今後も積極的に演奏して頂けたらうれしいです。

カーテンコールで何度もステージに戻ってきてくださった高関さん。最後はコンマスのほうを向いて、ご自分の腕時計を指さす仕草(平日夜の遅い時間でしたものね)をして、会場に笑いが起きました。高関さん、突然の代役をお引き受けくださりかつ最高の演奏をありがとうございます!オケの皆様も夜遅くまで全力投球の素晴らしい演奏ありがとうございました。すごく楽しかったです!


シベリウスといえば、私は今年2021年3月に札響による「カレリア組曲」と「ヴァイオリン協奏曲」を聴きました。ソリスト金川真弓さん。私が知らないだけで世の中には素晴らしい演奏家がいらっしゃるのだと痛感しましたし、これからもそんな出会いが待っていると思うとワクワクします。「音楽日和 札幌公演 in hitaru~JAF会員のための音楽会」のレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。 

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今回からプログラムで札響指揮者の松本宗利音さんによる「宗利音's Diary」の連載が始まりました。今回の記事では、高関健さんとの関わりや札響との出会い、初リハの際にコンサートマスター(当時)の大平まゆみさんに励まされたこと等、興味深いお話が盛りだくさん。その松本さんが指揮された2021年3月「北海道応援コンサート~親子で聴くチャイコフスキー」のレビュー記事もアップしています。以下のリンクからどうぞ。 

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何事も熱しやすく冷めやすい私が今なおコンサート通いを続けているのは、2019年3月にふきのとうホールで「竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル」を聴いたのが大きいと思います。超ビギナーの私が「ライブでしか体感できないものが確かにある」とすり込まれた、とんでもない体験でした。これを超える生演奏に出会えたら、その時はコンサート通いをやめてもいいとさえ当時は思っていたほど。しかしどの演奏もそれぞれの良さがあるので、この時の再現を求めるのではなく、一期一会の出会いすべてを楽しんでいきたいと今はそう考えています。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。