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↑HTBのニュース記事です。この日は新聞やテレビ等の報道機関各社が取材に来ていました。
↑土田英順さんのブログにて、この日の演奏会のレポートがUPされています。当日のプログラムに掲載されていたエッセイが全文読めますよ。
元・札響首席チェロ奏者の土田英順さんが、東日本大震災の復興支援として全国各地で行っているチャリティーコンサート。その節目となる500回目の公演が札幌のザ・ルーテルホールにて開催されました。つい1年ほど前にCDを手にしたことから土田英順さんの事を知った私は、ようやく演奏会にうかがうことができる!と、この日を楽しみにしていました。なおチケットは完売し、満席での開催だったそうです。
第500回東日本大震災復興支援チャリティーコンサート
2023年12月17日(日)15:00~ ザ・ルーテルホール
【演奏】
土田 英順(チェロ)
鳥居 はゆき(ピアノ)
【曲目】
カタルーニャ民謡:鳥の歌
カッチーニ(伝):アヴェマリア
バッハ:G線上のアリア
マスネ:エレジー
ゴダール:ジョスランの子守歌
斎藤 歩:春のノクターン
斎藤 歩:秋のソナチネ
ショパン:ノクターン第2番
ピアソラ:リベルタンゴ
ルヴォー&フランソワ:マイ・ウェイ
ロイド・ウエッバー:オペラ座の怪人 より「私の想い」
ロイド・ウエッバー:エビータ より「アルゼンチンよ泣かないで」
コスマ:枯葉
フランシス・レイ:ある愛の詩
ハーライン:ピノキオ より「星に願いを」
アラン・メンケン:美女と野獣 より「美女と野獣」
ロイド・ウエッバー:キャッツ より「メモリー」
(アンコール)竹内まりや(作詞:Miyabi 作曲:村松崇継):いのちのうた
名曲の名演奏とトークが盛りだくさん!御年86歳の土田さんの素敵な演奏とお話をたっぷり味わえ、そして勇気づけられた、心温まる会でした。バラエティに富んだ作品たちの演奏を、アンコールを含め18曲も!演奏の合間には多岐にわたるお話があり、土田さんは最初から最後まで弾きっぱなししゃべりっぱなしで、さらには終演後のサイン会まで!このタフさ、おそれいりました!東日本大震災復興支援チャリティーコンサートは、第1回の2011年3月29日から回数を重ね、この日が500回目。土田さんは震災が起きた時「自分には一体何が出来るか?」と考え、「一生懸命チェロを弾く」と決めて、「悲しみや苦しみを少しでも和らげることができたらいい」と、12年9ヶ月にわたり地道に活動を続けてこられたそうです。とはいえ、おそらくは言うは易く行うは難しであり、今日に至るまでには様々な困難や人知れぬご苦労があったことと拝察します。なお土田さんが使用するチェロは、元々は津波の犠牲となった女性のもので、被災してボロボロだったものを修理し蘇らせたものだそう。このチェロを土田さんはまるでご自分の身体の一部のようにごく自然に弾いていらっしゃいました。これもまた険しい道だったのでは?本当に頭が下がります。こんなに立派なかたにもかかわらず、土田さんは演奏も振る舞いも親しみやすくて偉そうなところが一切無いのも素敵です。もちろん演奏は大変素晴らしく、自然体で歌うチェロは人の体温を感じる温かさがありました。また土田さんは独自の素敵な音と表情をいくつもお持ちで、演奏の中で次々と登場する新たな顔に、私は驚かされそして魅了されました。トークでは土田さんがボストン響にいた頃のお話もあり、それによると当時の土田さんは毎週のようにオケの演奏ツアーで都会に出ていて、そこで数多くのミュージカルを観たとのこと。その時の体験も年輪の一部となって、今の土田さんの音楽ができあがったのですね!様々な人生経験を経てここに至った土田さんの音楽に出会ったことで、まだまだ若輩者の部類に入る私も頑張って生きていこうと素直に思えました。この出会いに感謝いたします。
「自分の体験を全部話すと講演会になってしまうけど、少しずつお話しできれば」と、土田さんは演奏の合間に、ご自身が見聞きした被災地に関する様々な事をお話しくださいました。被災したかたの生々しい証言もあり、私は衝撃を受けたと同時に、自分が出来る事は何かを深く考えさせられました。なお真意が正しく伝わらないおそれがありますので、被災したかたの証言等をここに私が中途半端に書き起こす事は控えます。具体的な内容については、ぜひ土田さんのコンサートに足を運んで直接お話をお聞き頂ければと思います。津波で多くの方が犠牲になった土地や、原発事故で今なお多くの住民が避難生活を余儀なくされている土地に何度も訪れている土田さん。東京オリンピックで「復興」と繰り返し唱えられていた事には怒りを覚えた、とも仰っていました。一方で、演奏に訪れた岩手のある中学校にて、生徒会から会費の一部を支援金として渡され、感激したというお話も。ちなみに土田さんは、子ども達に関しては「今はまっすぐ育つことが仕事で、募金の事は考えなくていい」というスタンス。しかし中学生が自分たちが出来る事は何か?と考えた上で出してくれたお金は、ありがたく預かったそうです。そして被災地の事から離れた楽しいトピックも色々とお話しくださり、特に後半のトーク時間は時折笑いが起きる和やかな雰囲気になりました。土田さんの演奏とお話、私はもっと聴きたいです!これからもぜひご自身のペースで演奏活動を続けてくださいませ。私もできる限り聴きにうかがいます!
出演者のお2人が舞台へ。すぐに演奏開始です。第1部は「クラシックの名曲」。はじめは暗譜で3曲続けて演奏されました。カタルーニャ民謡「鳥の歌」。往年のチェリストであるカザルス編曲のものでしょうか。寂しく切ないピアノの序奏に続いた、力強く哀しいチェロにハッとさせられました。ややゆっくりのテンポでの演奏は、万感の思いが込められているよう。超高音でのフェードアウトするラストがすごい!カッチーニ(伝)「アヴェマリア」。ピアノの和音に乗って、チェロははじめから雄弁に歌い、時折ささやくようなところも登場。ビブラートはかけず、切ないメロディをまっすぐに歌い上げるのがストレートに心に響きました。バッハ「G線上のアリア」。優しいピアノの響きに、重なるチェロもおなじみのメロディを柔らかに歌うのが心地よかったです。時折入るビブラート、フレーズ最後にふっと消え入る音も素敵でした。
被災地に関連するお話の後、鎮魂歌のような作品を2曲続けての演奏。マスネ「エレジー」。最初のフレーズで私はたちまち恋に落ちました!艶っぽい音色による歌は、悲しみも美しい思い出もひとりで飲み込んだ、大人の悲哀のよう。フェードアウトするラストまで愛しい!ゴダール「ジョスランの子守歌」。私は最初に哀しく寂しいピアノの序奏に驚き、子守歌「らしくない」と率直に感じました。ほどなく登場したチェロも最初は哀しく歌い、私は1曲目に取り上げられたカタルーニャ民謡「鳥の歌」をつい連想。そしてこの哀しみから、希望が見える温かな雰囲気に変化して、そこでの柔らかで愛あふれるチェロが素敵すぎました!悲しみの中から希望を見いだせる、強さと愛!人生の年輪があるからこその演奏と私は感じました。この2曲の演奏に強く惹かれた私は、終演後に会場で販売していたCDの中からこの2曲が収録されたものを見つけて即購入。こんな出会いはとてもうれしいです。
斎藤歩さんの作品が2つ取り上げられました。演奏前のトークによると、斎藤歩さんは札幌で活躍する演劇人で、色々なことをされている「21世紀のチャンプルー」。ご縁があり、土田さんは斎藤歩さんの舞台へ役者として(!)出演された事があるそうです。台詞を覚えるのが大変で、その涙ぐましい努力のエピソードを面白おかしくお話くださいました。ちなみに役どころは、「大酒飲みで札響をクビになるチェリスト」(!)だったとか。1曲目「春のノクターン」は、明るいピアノに乗って、チェロの柔らかな響きが心地よく、重音のふくよかさ温かさがとても素敵でした。2曲目「秋のソナチネ」は、「春」から一変、もの悲しい感じに。ピアノは枯れ葉が舞い落ちるよう。チェロの低音に存在感があり、重音の厳しさが印象的でした。2つの曲は、作りはよく似ている(と私は感じました)にもかかわらず、ほんの少しの違いで表情がガラリと変化するのが興味深かったです。音楽家も「役者」なんですね!
被災地に関連するお話の後、前半最後となる2曲が続けて演奏されました。ショパン「ノクターン第2番」。3拍子のリズムが心地よく、重音で歌うところのふくよかで温かな響きの良さ!音階を上っていき、超高音で歌うところがとても印象的でした。カデンツァのような即興的な独奏が素敵!ピアソラ「リベルタンゴ」。ピアノの序奏にチェロが何度か合いの手を入れ、そのカカカッ♪という鳴り方がカッコイイ!メロディに入ると、とても艶っぽい音色で私は驚愕!今までの曲に登場した音とはまったく違う音!すごい!速いテンポで前のめりに情熱的に歌うチェロにゾクゾクさせられ、ピアノのターンでの弦をかき鳴らすチェロが超カッコイイ!このアツさこの色気!さすがの貫禄、素晴らしかったです!
休憩後、第2部は「ポピュラーの名曲」。後半でのトーク内容は、作品の解説に加え、土田さんが実際にミュージカルを観た時の思い出話、ボストン響での演奏旅行の事などでした。いずれも大変面白かったです!すべてをご紹介したいのは山々ですが、分量が多いため本レポートでは一部を除き割愛いたします。申し訳ありません。ルヴォー&フランソワ「マイ・ウェイ」。低音域でじっくり歌う思慮深さ、高音域で思いがあふれるように歌うひたむきさ。ピアノが主役の時の、温かで自信に満ちた重音は最高に素敵でした!堂々とした力強い締めくくりが輝かしい! ロイド・ウエッバー「オペラ座の怪人」より「私の想い」。ピアノのリズムは気持ちを鼓舞してくれるよう。チェロは前向きで明るく、その音色の良さが心に染み入りました。終盤にピアノが沈黙し、チェロがソロで解放されたように歌ったのがとても良かったです。意思ある強さが感じられました。ロイド・ウエッバー「エビータ」より「アルゼンチンよ泣かないで」。「エビータ」は実在の人物でファーストレディになった女性とのこと。高音域でメロディをゆったり歌うチェロの優しさ美しさ!深い悲しみを思わせる低音のトレモロも素敵で、気持ちにそっと寄り添ってくれる良さを感じました。
コスマ「枯葉」。はじめの方でのチェロのゆらぐ音は、はらはらと舞い落ちる枯葉のよう。タタタター♪のフレーズ最後でふっと丸くなる音がはかなく美しい!盛り上がりではテンポが速くなり、思いを吐露するような歌い方に胸打たれました。フランシス・レイ「ある愛の詩」。切なく哀しく歌うチェロがなんとも色気があって、ずっと浸っていたいと思える響きでした。ハーライン「ピノキオ」より「星に願いを」。おなじみのメロディを優雅に奏でるチェロの音色が良く、聴き入りました。メロディを繰り返す度に、即興的なアレンジがあったのも素敵!アラン・メンケン「美女と野獣」より「美女と野獣」。チェロが優しく歌うメロディは、美女と野獣の2人が語り合っているようでした。ここから一歩踏み出す決意のような、ダンダンダーン♪と力強く奏でたところがとても印象深かったです。
ロイド・ウエッバー「キャッツ」より「メモリー」。ちなみに土田さんは、このミュージカルをロンドンで観たのだそうです。小さな会場は、客席の通路を通って役者が舞台に出るスタイル。そこで土田さんの横を通過した雄猫役の役者に、土田さんはいきなりガブッと耳をかじられた(!)と仰っていました。今でもこの曲を弾くと、その時の災難を思い出すのだとか(笑)。タタン タタン♪と輝かしいピアノに、チェロは切なく美しく、しかし愛ある温かさ優しさ!同じメロディは登場する度に色合いが変化して、単純には割り切れない人の心の機微が感じられました。ピアノもチェロも力強く前向きになっていき、希望に満ちたラストが最高!トリにふさわしい、胸がすく快演でした!ただ困ったことに、今後私は手持ちの土田さんのCD(ミュージカルナンバーや映画音楽が収録されています)を聴く度に、「耳かじられ事件」を思い出してしまいそうです(笑)。
カーテンコールの後、まず土田さんからごあいさつとお話しがありました。お話しの中では、今回の会場であるザ・ルーテルホールの調律師さんのご紹介も(会場にいらしていて、お客さん達から拍手が送られました)。土田さんによると、「日本一の調律師」であるそのかたは、チャリティコンサートの時は調律料金を頑として受け取ってくださらないのだとか。「501回目のコンサートからは受け取ってもらいたいと思います」と、土田さんは仰っていました。続いて鳥居さんからもごあいさつ。土田さんとご一緒にチャリティ活動を始めた時は30代で、今は50代。少し体調面の不安も出てきているとのことですが、たくさんの方々に支えられてここまで続けてこれた事と、これからも支援を続けていけたら、と仰っていました。
アンコールは、竹内まりや(作詞:Miyabi 作曲:村松崇継)「いのちのうた」。鳥居さんのピアノの弾き語りに、土田さんのチェロが彩りを添えるスタイルの演奏で、歌の間奏部分ではチェロが高らかに歌いました。心に染み入る歌に、客席には涙している人もちらほら。土田さんのチャリティ活動をピアノ伴奏として支え続けてくださっている鳥居さんにも大感謝です。ありがとうございます!
私は募金箱に心ばかりの金額を入れ、会場でCDを1枚購入し、サイン会の列へ。土田さんはCDにささっとサインをしてくださってから、ぱっと私の手を両手でしっかり握って握手してくださり、この日のお礼の言葉までかけてくださいました(!)。突然のことで私はビックリし、何とお返事したのかよく覚えていません(ごめんなさい!)。しかし帰る道すがら、盛りだくさんだったコンサートの演奏とトーク、そして土田さんの大きな手の感触を思い返すと、胸がいっぱいになり、じわじわとこみ上げてくるものがありました。この日の出会いに感謝し、私もこれから自分ができる事を少しでもやっていこうと静かに決意。そして今後も土田英順さんの活動を応援するとともに、もっと演奏とお話を聴かせて頂こうと思いました。これからも末永くよろしくお願いいたします!
現・札響首席チェロ奏者の石川祐支さんが参加する、小児がんチャリティの演奏会です。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第5回公演 小児がんチャリティーコンサート」(2023/09/22)。彩り豊かな新作初演、凄まじさに打ちのめされたショスタコーヴィッチ、お初のピアノカルテットによるシューマンの充実ぶり!今回もうれしい驚きの連続で、最初から最後までとても楽しかったです!
この日の8日前に聴いた、フルート&ピアノ&チェロの演奏会。こちらにもチェロの石川祐支さんがご出演されています。「クリスマスコンサート ~チャペルに響くフルート・チェロ・ピアノの調べ~」(2023/12/09)。めずらしい編成による難曲からおなじみのレパートリーまで盛りだくさん!信頼のデュオと新進フルーティスト・類家千裕さんによる演奏をたっぷり聴けた、幸せな時間でした!
「クァルテット・エクスプローチェ Quartet Explloce TOUR 2023 札幌公演」(2023/10/23)。宇宙空間を旅したような「シャコンヌ」や、ミュージカルのシーンが目の前に浮かぶような「オペラ座の怪人」の超充実した演奏。「響炎する4本のチェロ」の完全燃焼に身も心も焦がされた、熱いアツイ夜でした!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。