自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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札幌交響楽団 第639回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/7)レポート

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尾高忠明さん×小曽根真さん×札幌交響楽団!絶対に聴きたい!と、私は年間プログラム発表当初から楽しみにしていた公演です。以前Eテレ『らららクラシック』で、小曽根さんがクラシックの世界に足を踏み入れるきっかけを作ったのが尾高さんだった(「モーツアルトの協奏曲ならなんでもいいから」と無茶ぶりしたんだそう)と知り、私はぜひその最強タッグを一度生演奏で聴いてみたいとずっと前から願っていました。

なお公演に先立ち、小曽根真さんからのメッセージ動画が札響公式YouTubeチャンネルで公開されました。小曽根さん、Tシャツにでかでかとモーツァルト


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また、今回の『札響オンラインロビーコンサート』はトランペット四重奏!オケでは大迫力の演奏が多いトランペット、室内楽のあたたかで繊細な演奏も似合いますね。無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。

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札幌交響楽団 第639回定期演奏会(土曜夜公演)
2021年7月10日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
尾高忠明

【独奏】
小曽根真(ピアノ)

管弦楽
札幌交響楽団(ゲストコンサートマスター:森下幸路)

【曲目】


小曽根真さん、もうすごい……すごいでは言葉足らずでも、すごいです。奇をてらった演奏ではないのに、しかも演目は王道クラシックなのに、思わず身体が動くような、血が騒ぎ「乗れる」音楽。グルーヴ感というんでしょうか?私は演奏の細かな部分に気づける素養はなく、また「(小曽根さんが)ジャズピアニストだから」という視点では語れないのですが(そもそもジャズがなんたるかわかってないので。クラシックだってあやしいですが)、あえて言うなら「小曽根真さんだから」こそのピアノに、自分でも知らなかった感受性を刺激され、なんというか超絶気持ちよかったです。私は小曽根さんがどのようなお考えで演奏に臨んでおられるかのヒントを知りたくて、BSP『クラシック倶楽部』の小曽根さん登場回の録画を見直しました(小曽根真×富士山 - クラシック倶楽部 - NHK)。そこで小曽根さんがお話されていたことをいくつかピックアップしてご紹介します。

  • クラシックの場合、譜面に書いてあることをちゃんと弾かなきゃいけない。
  • (即興の要素は)モーツァルトなんかは、僕が音を変えようとすると楽譜の向こうから「どうぞどうぞ」「そこはその場所だよ」と投げかけてくる。
  • (「ボーダーレス」について)音楽という言語にジャンルは必要無い。原語の表面的なものは全部違っても、すべて表現したいものは同じ人間の気持ち・感情・物語。
  • 僕の場合は自分が弾いているにもかかわらず、それをお客さんとして聴いている感覚がある。
  • 会場にいらっしゃるかた(この時は富士山や撮影スタッフ)に、エネルギーを頂いて、即興が出てくる。


他にも興味深いお話が盛りだくさんで、お話ぶりに謙虚さやお人柄の良さがにじみ出ていたのもとても印象的でした。即興って、当たり前かもしれませんがデタラメに弾いているわけではないんですね。作曲家とその作品に真剣かつ誠実に向き合うからこそ、「遊びしろ」の部分にその時どきの感情が出せる。さらにそれは、独りよがりではなくその場の空気と一体になって生み出されるもの。小曽根さんの演奏に、同じ空気を共有する人たちが夢中になれるのも頷けます。また長く第一線で活躍されているかたはご自分を客観視できていて、やはり謙虚だと思います。「ボーダーレス」の境地だって最初からそう思えたのではなく、努力と経験の積み重ねによるもののはず。そして、積み上げてきたものがあるからこそ、クラシックという既存の枠を尊重しながらも、そこにその瞬間だけのアツイ感情を乗せる「ボーダーレス」な演奏ができるのですよねきっと。小曽根さんは札響と同じく今年60歳。レジェンドと呼ばれても、そこにとどまっているのはもったいない勢いとパワーがおありです。年齢で区切る、それこそ「ボーダー」に意味は無いのでしょう。今回、小曽根さんの演奏に私達もエネルギーを頂きました。これからも「ボーダーレス」な演奏で私達を驚かせてください!時々は札幌にもいらしてくださいね。

また、他の演目についても私は自分なりに楽しく聴けました。交響曲や協奏曲で親しんできたシベリウスチャイコフスキーの物語の音楽はもちろんのこと、なにより個人的に少し苦手意識があった武満徹を「素敵」と思えたのが大収穫でした。武満は札響と縁がある作曲家。「1982 武満徹世界初演曲集」が先日(2021/07/07)発売されたばかりですし、今後も札響の演奏会で様々な作品が取り上げられると思われます。私、これから少しずつでもその良さをわかっていけそうな気がしています。

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最初は武満徹「3つの映画音楽」。弦のみの編成です。1曲目「訓練と休息の音楽」は、洋画のBGMのような高音弦の音色が大人っぽく、低弦のピッチカートが刻むリズムにドキドキ。掴みの曲に、これなら私でも聴ける!と素直にうれしくなりました。2曲目「葬送の音楽」は、妖しげで悲鳴のような響きと支える低弦にザワザワ。「乱」に似ているかも?と一瞬思いましたが、それよりはマイルドで私にも聴きやすかったです。そして3曲目「ワルツ」!哀しげで艶っぽいワルツ、なんて素敵なんでしょう!ヴァイオリンの美しいところも、途中でチェロが主役になったところも全部良くて、私は一瞬でこの短い曲のとりこになりました。まさかこの私がタケミツで胸キュンなんて!こんなの初めて!そしてカーテンコールでは、尾高さんはチェロパートに起立を促し、客席からは盛大な拍手がおくられました。


管楽器打楽器の皆様が入場し、編成は大所帯に。いよいよソリスト小曽根真さんによるラフマニノフピアノ協奏曲第2番です。土曜夜公演での小曽根さんの衣装は、背中側の裾が燕尾服のように長い、えんじ色のサテン生地のシャツ。どうやら日曜昼は色違いの青いシャツだったようです。第1楽章、冒頭の鐘の音のような低いピアノの音から強烈なインパクト。オケが参戦し、hitaruに弦が響き渡る最初からクライマックスな迫力ある演奏に引き込まれました。ピアノがメインになってからの重なる木管にパワフルな金管も素敵!この曲はオケも良いですよね。しかし今回はやはり小曽根さんのピアノの存在感!ただ力任せに弾いて目立とうとしているわけじゃなく、オケの演奏との重なり方が絶妙だと感じました。例えば最初の弦の旋律が繰り返されたときに合間に入ってくるピアノが、どちらも遠慮してないのに両方ちゃんと存在感があって聞こえ、お互いに高め合っている感じ。協奏曲ってやはり贅沢な体験だなと改めて思います。第2楽章は、穏やかなオケをバックに、ロマン派後期のピアノ小品のようなピアノにうっとり。ここはジャズ風や演歌調ではなく、純粋に若さや瑞々しさを私は感じました。そしてオケと一緒にのぼりつめた後の、小曽根さんのカデンツァに耳も目も釘付けに。低音から高音へ駆け上るインパクトがすごくて、羽化?ブレイクスルー?と勝手に妄想。弦が一度ピッチカートでポンと入ったのも印象に残っています。そして聴き所しかない第3楽章へ。独特のリズム感を完璧な演奏で聴かせてくれるオケと、そこに重なる唯一無二のピアノに気分があがります。元々音が多い曲ですし、小曽根さんがどれだけオリジナリティーを発揮したのか、私に正確なことは言えません。それでも華やかとか厚みとかそんな一般的な形容じゃ足りない、人の感情をすべて演奏にのせたようなピアノがすごかったです。その圧倒的なオーラに聴いている私達も血が騒ぎました。こんなの初めて!ラストのジャンジャカジャン♪までピアノがオケと一緒に全力疾走、素晴らしいです!

演奏後、小曽根さんがピアノのフタを閉じました(オケの皆様のお姿が客席から見えるよう配慮されたのかも?)。何度もカーテンコールで戻ってこられた後、小曽根さんは自らピアノのフタを開けて、ソリストアンコールに。土曜夜公演の演目は小曽根真さん作曲「ガッタ・ビー・ハッピー」テレビ朝日系『題名のない音楽会』でも演奏された曲です。ジャズのようなスイングが効いた音楽で、テレビで聴いたときとは少しアレンジが違っていたかも?上半身は忙しく鍵盤の上を動いて、足元はタップダンスのように床を鳴らし、終始ノリノリでの演奏。終わる直前に小曽根さんは一瞬沈黙して客席に視線を向け、会場から笑いが起きました。そしてhitaruのかしこまった空気をうんと楽しいノリに変えた演奏は締めくくり。拍手鳴り止まない会場に、小曽根さんは一度は舞台袖からオケに向かって両手でバイバイの仕草をしていらしたにもかかわらず、その後も舞台へ戻ってきてくださいました。小曽根さん、協奏曲での大熱演の後、ソリストアンコールまで素晴らしい演奏をありがとうございました!超楽しかったです!www.sso.or.jp

 

後半1曲目はシベリウスペレアスとメリザンド組曲。同じ物語を題材にした作品では今年2021年4月定期にフォーレの演奏がありました(そちらも大変素晴らしかったです!)が、今回はシベリウスです。札響演奏歴は過去に1回、その2007年10月も尾高さん指揮とプログラムに書かれていました。編成は金管ナシで、打楽器はティンパニ、大太鼓、トライアングル。フルート1(ピッコロ持ち替え)、オーボエ1、イングリッシュホルン1と他の木管は2つずつ。あと弦の人数はやや少なかったです。冒頭、低音かつ哀しげな弦にゾクゾクし、最初から心奪われました。シベリウスの弦、私大好きです。シベ2の低音金管がパワフルな箇所に似たところが出てきましたが、今回はチューバやトロンボーンがいないため木管によるやわらかな印象。そしてイングリッシュホルン!哀しげな響きがとても印象的、それに続くチェロパートもツボです。雷鳴のような大太鼓がインパクト大で、それにあわせた弦の高速の演奏も忘れられません。シベリウスさん、相変わらず弦への要求がハイレベルでエグいですね(褒めてます)。トライアングルから始まるワルツ風のところでは愁いを帯びた艶っぽい弦にやられ、私はこんなワルツがお好みなのね?と自分で再確認。ティンパニからのイングリッシュホルン再び。今度は2つのクラリネットも哀しげに歌うように入ってきて、ここでの弦はピッチカートでリズムを刻んでいました。木管や他の弦がメロディを演奏している間、ヴィオラがずっと蜂の大群のようなうねる音を繰り出していたのも印象に残っています。全員合奏の明るいところを経て、葬送のようなラストがとても美しく、静かに締めくくり。なおカーテンコールでは、尾高さんははじめイングリッシュホルンのみ、2回目はイングリッシュホルンクラリネットの奏者に起立を促し、客席からは盛大な拍手がおくられました。


金管打楽器ハープが加わり、木管と弦も増員して、ラストはチャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」。このシェイクスピアの有名な物語も、様々な作曲家によって音楽がつけられているようです。今回取り上げられたチャイコフスキー若かりし頃の作品、私はてっきりオペラの序曲なのかと思ったら、オペラは関係なくこの曲だけで完結した世界なんですね。クラリネットファゴットによる重々しい始まり方に、私はチャイ5の冒頭クラリネットによる運命の動機を思い出しました。低弦にぞわぞわ。その後の大迫力戦闘モードがカッコイイ!トランペットはじめ金管が効いてます。RPGのBGMみたい……という形容ではむしろ失礼かもと思えるほど、管弦楽のスケールが桁違いで素晴らしいです。穏やかになってからのヴィオラのメロディが素敵。牧歌的なホルンと美しいハープをバックに、フルートとオーボエが幸せな感じ。その後運命が急展開するかのような弦の高速の演奏がツボでした。そして再び戦闘モードに。チャイコちゃん男前!音楽の終盤は美しく、最後は力強い締めくくり。三大バレエのキラキラ・かわいらしいイメージとは違った、パワフルな音楽に圧倒されました。私、チャイコフスキーのことをまだまだ知らないみたいです。


今回の定期は特に盛りだくさんで、超お腹いっぱいの幸せな気持ちになりました。尾高さん、札響の皆様、今回も最高の演奏をありがとうございました!会場がkitaraに戻ってからの演奏もとても楽しみにしています!


前回2021年6月の定期演奏会では、ソリスト藤田真央さんによるシューマンのピアノ協奏曲が聴けました。藤田真央さんのシューマン、想像を遙かに超える素晴らしさでした!弊ブログのレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。 

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また、小曽根真さんと藤田真央さんはテレビ朝日系『題名のない音楽会』で共演されています(2021.04.17放送)。藤田さんは7歳の時(!)、小曽根さんのモーツアルト「ジュノム」の生演奏を聴いて小曽根さんのファンになったのだそう。また、小曽根さんは「クラシックは完成度が高いから、即興を同じレベルでやろうとすると何も弾けなくなる」と仰ってました。謙虚なかただからこそ重みがある発言ですよね。私は番組を大変興味深く拝見しましたが、正直30分だけではもったいないと思いました。ぜひ特番での共演企画を!お待ちしています!

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今回のプログラムによると、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番」の札響初演(1968年2月21日・指揮:奥田道明)でのソリストはなんと舘野泉さん!私、聴いてみたかったです(でもその当時まだ生まれていない・苦笑)。なお弊ブログに舘野泉さんによるブラームスのCDを聴いた感想文をアップしています。よろしければ以下のリンクからどうぞ。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

新堀聡子 ピアノリサイタル(2021/6) レポート

ウィステリアホールの企画構成とピアノ伴奏でいつも私達を楽しませてくださっている、ピアニストの新堀聡子さん。今回はソロリサイタル、しかもオールブラームス!聴きたいに決まってます!私は早い段階でチケットゲットし、当日を楽しみにしていました。

今回の会場はふきのとうホール。私は2019年12月にピアノ四重奏(その時のメインもブラームスでした)を聴いて以来でした。ふきのとうホールの主催公演は休止が続いているものの、貸しホール事業は行われているようです。今回は自由席でしたが使える座席は決まっていて、最前列を空けた上で一席飛ばしの収容率50%以下での開催でした。


新堀聡子 ピアノリサイタル
2021年6月25日(金)19:00 ふきのとうホール

【演奏】
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームス

ピアノはベーゼンドルファーでした。またプログラムノートは新堀さんご自身によるものでした。


もう感激……!五感をすべて預けて「浸れる」感覚、最高でした!私はピアノはまったく弾けませんし、クラシック音楽鑑賞を趣味にしてたかだか数年です。それでもブラームスピアノ曲が好きで好きで、今まで様々な録音を聴いてきました。そして初めて聴いたピアノ独奏曲の生演奏が、今回の新堀さんの演奏で本当によかったです。最晩年の小品の慈しむような音楽も、20代の感情迸るソナタも、そしてすべてにおいてブラームス自身が大事にしていたバス(低音)の効かせ方も、私が思う「ザ・ブラームス」な演奏。新堀さんの演奏を通じて、あこがれのブラームスに出会えたんです!私は胸がいっぱいになりました。この演奏をブラームス本人が聴いたらきっと喜んでくれるのでは?いえ私をはじめ、会場で聴いていた約100名のお客さん達がなにより喜んでいました。新堀さんのような素晴らしいピアニストがいらして、良いホールで演奏してくださり、すぐに聴きに行ける――私、札幌に住んでいてよかったと改めて思います。


濃い青のノースリーブドレスで舞台に登場した新堀さんはすぐに演奏開始。最初はブラームス最晩年のピアノ小品集から、3つの間奏曲 op.117。1曲目の「我が心の痛みの子守歌」の良さといったら!慈しんでいるのは幼子ではなく、老いた自分自身ですよね。ひとつひとつの音を大切に弾いてくださるその演奏に、私は夢を見ているような気持ちになりました。2曲目、私がブラームスにハマるきっかけとなった大好きな曲です。ああ泣ける……!主旋律も素敵ですが、重なる低音部分が個人的にとても好きで、この時の演奏ではその低音部分がよく聞こえてうれしかったです。最後は低音をきかせて締めくくり。その低音から続いているように3曲目が始まりました。はじめは低音でぽつぽつと語るよう。中盤の高音のメロディも厳選した音の響きがかえって雄弁で、個人的なツボに容赦なく刺さります。まったく派手さはなく、音も少ないop.117が、こんなにドラマチックで胸に刺さる演奏で聴けるなんて!私は最初の演奏から魂を持って行かれるほど入り込みました。

次に、自作の主題による変奏曲。作曲家20代前半の作品です。ニ長調って、確かブラ2やヴァイオリン協奏曲もそうですね。40代で大傑作を生み出すよりずっと若い頃に、同じ調性で自作の主題を使って変奏曲をしかもピアノ独奏で作ったというのが、なんだかブラームスらしいなと私は思います。この「自作の主題による変奏曲」、ブラームスの変奏曲の中では少しマイナーかも?でも私ははじめに提示される穏やかな主題から最後まで大好きです。先ほどのop.117よりずっと音が増え、演奏姿を拝見していても手が低音や高音に跳躍する大きな動きがあり、やはり「若さ」が感じられます。最初の主題、静かにゆったり語るような音楽にうっとり。大きな音ではないのにホールいっぱいに響き、余韻が残る感じだったのが印象に残っています。次々と変奏が続き、私は高音の穏やかなメロディと同時に重なる低音がとても素敵だなと聴き入っていました。後半穏やかな空気が一変し(短調に?)、パワフルさの中に激しい感情や哀しみを秘めたような感じに。更に低音が効いて音に厚みが増した演奏を聴き、私は胸打たれました。ラストは再び穏やかな変奏になり、静かに締めくくり。この最後の一音が私は忘れられません。やはり録音ではわからない、ホールに響く余韻も含めて音楽なのですよね。もちろん素晴らしい演奏があってのことです。


後半はピアノソナタ第3番。作曲家20歳の作品で、最後のピアノソナタです。全5楽章の大作。私はブラームスの3つのピアノソナタはどれも大好きですが、特にこの3番はシューマン夫妻と出会った後に作曲されたこともあり、思い入れが強いかもしれません。第1楽章、全力でくる冒頭にまずガツンとやられます。その後も着実に歩みを進めながら展開していく、ピアノ独奏曲なのにとんでもないスケールの大きさ!そして内に秘めたエネルギーがすごいです。演奏は、パワフルかつ重厚でありながら「若さ」ゆえの輝きも感じられ、楽章終わりに高みに上り詰めたときは後光が差しているかのようでした。続いて詩人シュテルナウの詩「若き恋」を引用している第2楽章。この美しさ、ああ素敵すぎ……。思い人との抱擁をこんなふうに表現しちゃうなんて、ほんっとブラームスってピュア!きれいな高音と控えめに寄り添う低音が一体となった美しい音楽が心地よいテンポで奏でられ、ずっと聴いていたいほどでした。第3楽章は、全体的に対称となっている曲の折り返し地点。ダイナミックで情熱的に踊っているような、この個性的な楽章が私はとても好きです。高音と低音が呼応しながら進む音楽、私は夢中になって聴いていました。途中、よく聴いていなければわからないレベルで何度か指がもつれた部分があったようですが、勢いを止めなかったのはさすがです。第4楽章では、第2楽章での素敵なメロディに、重なる低音が今度は「運命の動機」になって繰り返され不穏な空気が醸し出されます。美しい第2楽章があったからこそ、第4楽章の「運命の動機」が効いてくるのかも。低音は控えめなのに、ものすごいインパクトで聞こえました。そのまま続けて第5楽章へ。最後に肝となるこの楽章の演奏が本当に素晴らしかったです。細かくテンポを変化させながら、高音と低音が対話したり重なったり。音楽にまるで意思があるかのようでゾクゾクしました。そしてクライマックス直前の高速の演奏からラストまでが圧巻。新堀さんはお疲れを見せず見事に駆け抜け、気分が高まりのぼりつめた最後の一音まで完璧でした!ブラームスピアノソナタ第3番は、演奏時間の長さに加え音が多くそして基本パワフルなので、演奏には相当体力が必要だと思います。もちろん技術面でもかなり難易度が高いはず。それを最後の最後まで魂こもった、圧倒的な生命力を感じさせるピアノで聴かせてくださいました。演奏録音は多々あれど、マイベストはこの日の新堀さんの演奏で決まりです。素晴らしい演奏をありがとうございました!


新堀さんがマイクを持ってお話されました。2年前に企画したときは世の中がこうなっているとは思いもよらなかったこと、昨年開催ができず今年になったこと、お客さんへの感謝の言葉、そしてプログラムにもあった「音楽が皆様にとってかけがえのないものでありますように」といったことが語られました。こちらこそ、今の大変なご時世に演奏会を開催くださり、なによりこんなに素晴らしい演奏を聴かせてくださり感謝です。私には音楽とりわけブラームスが必要だと改めてわかりました。新堀さん、今後もぜひリサイタルでブラームスを取り上げてください。お願いします!

アンコールは、ブラームス最晩年のピアノ小品集の中から、6つの小品より 間奏曲 op.118-2。この選曲からもう感激です!最晩年の小品の中でも、特に光る珠玉の名曲。元気いっぱいで何も諦めていなかった若かりし頃のソナタ第3番からがらっと雰囲気が変わって、過去を静かに振り返る感じに。新堀さんは、はじめの美しいところも、中盤の切ないところも、終盤それらをすべて包み込む感じも、短い曲を最初から最後まで丁寧に演奏されていた印象です。楽しいだけでなく辛いことや哀しいことも色々あったはずなのに、それらを美化はしないけどすべて受け入れる。ああなんてやさしい世界!新堀さん、超大作を全力で演奏した後に、アンコールまで心を込めた素敵な演奏をありがとうございました!


WISTERIAHALL WEBCAST では、なんとアンコールで演奏された ブラームス op.118-2 を新堀聡子さんの演奏で聴けちゃいます!公開日はほぼ1年前の2020/07/17。皆様ぜひご視聴ください。


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そして今は予告のみですが、WISTERIAHALL WEBCAST でブラームス 3つの間奏曲 op.117 も近日公開予定のようです。皆様要チェックですよ!

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ウィステリアホールの今年度(2021年シーズン)は、5つの公演すべてでブラームスが聴ける予定です。ありがとうございます!まずは7月の「2台のピアノのためのソナタ」、超楽しみです!

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今年はじめ(2021年1月)にウィステリアホールで聴いた「ピアソラ生誕100周年記念」演奏会レビューは以下のリンクからどうぞ。新堀さんのピアノに、札響の岡部亜希子さん(ヴァイオリン)と小野木遼さん(チェロ)によるアルゼンチンタンゴの数々、とっても素敵でした! 

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舘野泉ブラームス(ピアノ・ソナタ第3番、ピアノ協奏曲第1番 他) CDについて」の感想記事へのリンクも置いておきます。素晴らしい録音を残してくださったことに感謝です。 

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ブラームス回想録集』では、ブラームスからピアノや作曲を教わった人達のリアルな証言が読めます。自作品の低音を生徒が弱く弾くと怒ったとか、「低音(バス)は旋律より大事」「変奏曲をやるのが一番お利口」等、素人の私でも「お?」と思うものはたくさんありました。弊ブログの愛が重い感想記事は以下のリンクからどうぞ。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第638回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/6)レポート

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チャイコフスキー国際コンクール2019で第2位となった藤田真央さん。昨年開催中止となった第1回新定期では、ソリスト藤田真央さんによるラフマニノフピアノ協奏曲第2番が聴けるはずでした。今度こそ札響との協演が実現してうれしかったです。今回の演目はシューマン!テレビで拝見したN響との演奏が良かったので、私はとても楽しみにしていました。

また、今回の『札響オンラインロビーコンサート』はなんとコントラバス六重奏!超絶カッコイイです!誰もが最前列で遠慮無く演奏をガン見できちゃうのもネット動画の良いところ。無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。 

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札幌交響楽団 第638回定期演奏会(土曜夜公演)

2021年6月19日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
川瀬賢太郎

【独奏】
藤田真央(ピアノ)
福原寿美枝(メゾソプラノ

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


藤田真央さんのシューマン、想像を遙かに超える素晴らしさでした!帰宅後もしばらくドキドキが止まらなかったほど。内緒ですが、つい最近まで私はシューマンのピアノ協奏曲は出オチだとばかり思っていました。それこそウルトラセブンの劇伴で使われた冒頭部分が最初で最後のクライマックスなんじゃないかと。とんでもない思い違いでした、ごめんなさい!ちなみに昨年藤田さんとN響が協演した際のインタビューでは、藤田さんはこんなことをおっしゃっています。

楽譜に書いてあるほんとに些細なことを忠実に弾かないとダメなんですシューマンは。(中略)なぜこういう風に書いたのかシューマンが、ということを考えなければ、ステージに堂々と立てない気がする。

私は専門的なことはわかりませんが、演奏家が自身の技巧を披露するにとどまらず、作曲家とその作品にしっかりと向き合った上で演奏して初めて「音楽が生きてくる」のかなと思いました。お若くして才能を発揮されたかたを、私達はよく「天才」という便利な言葉で片付けてしまいがちです。まるで生まれ持った才能や時の運だけが成功要因であるかのように。しかし演奏技術や音を感じ取る天賦の才能があったとしても、肝心の作品自体を解釈する努力やそれを少しでも忠実に表現しようとする誠実さがなければ「天才」にはなりえない。藤田さんの実演に触れて、私はそう考えるようになりました。そして今回の演奏を拝聴した限りでは、藤田さんは気負った感じはまったくなく、ごく自然に身体の中から湧き出るような演奏をされていた印象です。おそらくここに至るまで相当な努力を重ねてこられたのでは?今回、私は最初から最後までドラマチックな生きている音楽に引き込まれ、頭でっかちに色々と考えるヒマすらないほど夢中になれました。聴けて本当によかったですし、これからどんな演奏を聴かせてくださるのかもとっても楽しみです!藤田さん、今後もぜひ札幌にいらしてくださいね。

そして自分でも驚いたのは、この私がマーラーを聴けたこと(※きちんと理解はしていないと思われますが)。今回の交響曲第4番は、マーラーの他の交響曲よりも編成は小さく演奏時間は短めで、また変化が多く聴きやすかったのかもしれません。今回の演奏を聴いて、守備範囲がとても狭い私が「マーラーの他の楽曲にもチャレンジしてみようかな?」と思えてきたので、指揮の川瀬賢太郎さん、メゾソプラノの福原寿美枝さん、そして札響の皆様に感謝です。なお今回ソプラノ秦茂子さんの代役として舞台に立たれたメゾソプラノの福原寿美枝さんは、ネット情報によると指揮の川瀬賢太郎さんとお互いに信頼関係があるとのこと。年齢差があるお二人、同じ音楽を通じて思いを一つにできるなんて素敵です。そして、声楽とオケの組み合わせってイイですね!いつになっても良いので、ドイツレクイエムの演奏をきっと聴けますように。


前半はシューマン「ピアノ協奏曲」。指揮者・ソリストが登場してすぐに演奏が始まりました。最初から全力で来る冒頭!オーボエから続く弦、そしてそこに重なるピアノの低音の厚みに鳥肌。その後もピアノがオケの伴奏にまわったり逆に主役に躍り出たり、変化しながらも音楽が生きて続いていて次々と違った表情を見せてくれました。長めのピアノ独奏では、ピアノ一台でまるでオケのような奥行きのある演奏!ただただ圧倒されました。ここにオケが自然にシンクロしていくのが、あまりにも自然でその時はなんとなく聴いていましたが、後から思うとすごいなって。協奏曲ってイイなと改めて思います。第2楽章。ピアノがかわいらしい淑女のように登場して、リズムが心地良いです。ピアノは優しそうなチェロや木管と会話しているようで、妄想がはかどります。しかしこの小さなレディはタダモノではなさそうな、大胆さや強さも持ち合わせているように私は感じました。そのまま続けて第3楽章へ。この楽章がもうめちゃくちゃ良かったです!ピアノの音の深みがさらに増し、ダイナミックな演奏に引き込まれました。レディは広い世界に飛躍したんですね?それでも前途洋々ではなく困難な道も待ち構えているようで、時折ちょっと不安そうな胸の内を垣間見せるのがぐっときます。そして表情がめまぐるしく変化するピアノに寄り添うオケがとっても素敵。あの不穏な冒頭から始まって、ついにここまで来たんだなと希望が見えるフィナーレが清々しく、聴いていて最高の気持ちになれました。

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カーテンコールで何度も戻ってこられた指揮の川瀬さんとソリスト藤田さん。川瀬さんがピアノのイスの座面をささっと手で払い(会場に笑いが起きました)、藤田さんに着席をすすめてから川瀬さんは指揮台に腰掛けて、ソリストアンコールが始まりました。土曜夜公演ではモーツァルト ピアノソナタ第5番 ト長調 K.283 第3楽章。先ほどまでのシューマンとは雰囲気が変わり、明るくスキップしているような楽しい音楽。私達もリラックスして楽しみました。藤田さん、協奏曲での大熱演の後、ソリストアンコールまで素敵な演奏をありがとうございました!


後半はマーラー交響曲第4番」。鈴とフルートから始まった冒頭からインパクト大で、ヴァイオリンに続いてチェロと一緒にコントラバス7台がメロディを奏でたのが新鮮でした。この後もコントラバスが目立つシーンは多く、今回のロビコンがコントラバスになった理由はこれかも?と勝手に想像。全員合奏の盛り上がるときに各木管が楽器を高く持ち上げて演奏したのに驚き、楽譜にそんな指示があるの?なんのために?と個人的にとても気になっています。しかし基本おとぎ話のような雰囲気で楽しく聴けました。第2楽章はホルンから牧歌的に開始。調弦の違うヴァイオリンによるコンマスのソロが妖艶な雰囲気で、おとぎ話の世界の空気を変えていたのがとても印象的でした。第3楽章、はじめのチェロパートに心奪われて、ヴァイオリンや木管に主役が移っていくゆったりと美しい音楽を楽しめました。コンマスのソロも前の楽章とは違った美しさ。時折激しくなったり舞曲のようなリズムがあったりと変化が多く、ただのお花畑ではないんだなとなんとなくわかりました。第4楽章、演奏途中にメゾソプラノの福原寿美枝さんが静かに舞台へ。拍手でお迎えするタイミングはなく、すぐに歌が始まりました。ドイツ語はわからなくても、歌声は直接ハートに響いてきます。どの楽器や演奏もそうではあるのですが、特に人の声は生演奏が良いと私は再認識。天上世界を歌っているとはいえ、地に足をつけているというか、絵空事ではない人間らしさのようなものを私は感じました。美しい歌の合間に、冒頭で聴いた鈴がシャンシャンシャンシャンと入ってきたのが印象に残っています。消え入るようなラスト、ハープのこんな低い音を私は初めて聴いたかも。私はこの曲が意図するところを正しくわかってはいないと思われますが、演奏そのものは最初から最後まで楽しく聴くことができました。素晴らしい演奏をありがとうございました!


ヴァイオリン神尾真由子さん(チャイコフスキー国際コンクール2007で第1位)の神がかった演奏に打ちのめされた、前回2021年5月の定期演奏会のレポートは以下のリンクからどうぞ。後半「シェエラザード」では、コンマス田島さんの独奏もたっぷり聴けました。 

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ブラームスが自身のコンサートの前に一人きりでホールのピアノの前に座り、演目にあるシューマンのピアノ協奏曲とベートーヴェンの合唱幻想曲を必死に練習していたという逸話があります。名ピアニストであり、この時は既に40代で大家の仲間入りをしていたブラームス。そんな彼でも、大先輩の作品は全力で準備しなければ舞台に立てないと考えていたようです。他にも耳よりエピソードが盛りだくさんの『ブラームス回想録集』全3巻は超おすすめです!参考までに、弊ブログの愛が重いレビュー記事は以下のリンクにあります。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第637回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/5)レポート

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当初の予定通り、かつ入場人数制限もなくぶじ開催された演奏会。前回2021年4月の定期がとても良かったため、ストラヴィンスキーつながりの演目が並ぶ今回5月も私は行くことに決めました。

また、今回の『札響オンラインロビーコンサート』金管五重奏金管は大ホールでのパワフルな響きはもちろん、室内楽でのあたたかな音もとても素敵です!どなたでも下のリンク先から視聴できますよ。

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札幌交響楽団 第637回定期演奏会(土曜夜公演)

2021年5月8日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
広上淳一

【独奏】
神尾真由子(ヴァイオリン)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


ソリスト神尾真由子さん。もう、すっごい!今回初めてその実演に触れた私は、神尾真由子さんが奏でる音に打ちのめされました。ヴァイオリンってこんな音がするんですね……。テレビではその凄さがよくわからなかったので、やはり100回の再生より1回のライブが良いと今回改めてそう思いました。特に弦楽器は奏者によって音がまるで違うと私は感じますが、今回聴いた神尾さんのヴァイオリンはなんというか表層的な音ではなく「深み」がある音。神尾さんは以前テレビ番組の中で小中学生に演奏レクチャーをされていて、10歳位の子にきちんと筋道立てた話をしながら理論的に指導していらしたのが印象的でした。演奏方法は無限にある中で、なぜこの部分をそのやり方で演奏するのか、ちゃんと理由があるのですね。なんとなく感覚で弾くのではなく、音符ひとつひとつに理由がある最適解でその瞬間のベストを尽くすスタイル。しかし演奏を聴く限りでは都度頭で考えながらやっているようには見えない、まるで呼吸をするように無理のない、しかも大胆かつ繊細な演奏をする……これってまさに神業なのでは?神尾さん、札響と協演してくださりありがとうございます。そしてこれから何度でも来札をお願いします!神尾さんは公演中止となった2020年5月の札響定期ではシベリウスを演奏なさる予定でした。今私は神尾さんのシベリウスを聴きたくてたまらなくなっています!あの「女性が泣き崩れるイメージ」の部分を、今の神尾さんならどんな表現で聴かせてくださるのでしょう?またチャイコフスキー国際コンクールで優勝した際のチャイコフスキーも、ぜひ今の神尾さんの実演で拝聴したいです。そして2021年11月に予定されているkitaraでのピアノとのデュオリサイタル、ぜひとも聴かせてください!

そして広上淳一さん×札響のおかげで、またもや新たな扉が開かれました!まだ無名だった武満徹の「弦楽のためのレクイエム」を評価した、ストラヴィンスキーの音楽への愛情。また自身が愛する音楽を貫いたグラズノフ――今回のプログラムに掲載されていた広上さんの文章を拝読してから実演を聴くと、私は初聴きの曲でも愛着がわいてきました。そして後半「シェエラザード」がとっても良かったです!まっさらな私でも、まるでシェエラザードの語りで物語の世界に没頭するように、演奏を聴いているときは別世界にいました。「シェエラザード」は、前回2017年10月のエリシュカさん指揮による演奏の記憶がまだ新しく(ごめんなさい私自身は直接は存じません)、オケの皆様もお客さん達にも特別な思い入れがあるかたが多かったのでは?今回は、オケの心を込めた素晴らしい演奏と、それを聴き拍手喝采した客席、この一体感がとても素敵でした。これって愛ですよね!やっぱり私、札響も札響を愛する皆様も大好きです!


1曲目は武満徹「弦楽のためのレクイエム」。私には掴みづらかったテンポに、歌う感じではないメロディ。私が過去に聴いた武満作品と比較すると、同じく弦のみの「死と再生」(2019年8月)の不気味さや、管楽器と打楽器も入った「『乱』組曲」(2020年10月)の力強さとはまた違う、深い哀しみと先が見えない暗闇を感じました。演奏では見事なアンサンブルに加え、ヴィオラのソロが何度か登場し、終盤にはヴァイオリンのソロもありました。札響の弦の美しいだけじゃない表現力を再確認。ただ個人的には「レクイエム」というのが正直ピンとこなかったので、9月にドイツ・レクイエムを聴いた後にどう感じるか、振り返ろうと思います。


2曲目はグラズノフ「ヴァイオリン協奏曲」ソリスト神尾真由子さんは黒と白のマーメードラインのドレス姿。曲は3楽章構成でしたが区切り無く演奏されました。独奏ヴァイオリンの最初の音に心掴まれ、私はソリストに全集中する体勢に。華やかな高音も素敵でしたが、少し低めの音での様々な感情を内に秘めたような演奏が強く印象に残っています。とにかく形容しがたい「深さ」を感じました。カデンツァに入ると今度はパワフルかつ繊細な高音に引き込まれ、ギターをかきならすようなピチカートにはっとさせられたり。長い独奏の終わり頃から少しずつオケが参戦。まずオケが演奏したところを独奏ヴァイオリンが繰り返すところでは、メロディは同じでも印象はがらりと変わる、その変化を楽しみました。オケはもちろん素敵です。しかし独奏ヴァイオリンの存在感にはもう圧倒されました。ヴァイオリン協奏曲の最終楽章はどの曲も独特なリズムで個性を発揮していますが、今回のグラズノフの民謡風なリズムも楽しかったです。クライマックスでは独奏ヴァイオリンは超高速になり、その技術の高さは大前提として、演奏を聴いていると私にはダンスでだんだん速くくるくる回る女性(独奏ヴァイオリン)とそれをアシストする男性(オケ)のイメージが浮かびました。オケとソリストは見事にシンクロしています!演奏時間約20分の比較的短い曲。独奏ヴァイオリンの小休止はほとんどなく、ずっと神尾さんの意思あるヴァイオリンに引き込まれ良い意味でドキドキしっぱなしでした。

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ソリストアンコールは、「魔王」キター!エルンスト「シューベルトの『魔王』による大奇想曲」、神尾さんの演奏を以前テレビで見たことあります私!今まさに目の前で実演が繰り広げられている!と私は前のめりに。原曲ではピアノが弾く伴奏部分が一層おどろおどろしい感じになり、歌の子供の叫びにあたるところは高音で悲痛さがさらに際だつ……実演は想像を遙かに超える衝撃でした。左手ピチカートを目撃!ただここだけでなく最初から最後まで演奏は難しいと思います。ヴァイオリン1つでこんなに多彩な表現ができるのに驚き、息もつかせぬ展開にいつの間にか飲み込まれてしまいました。すっごい!神尾さん、アンコールまで神がかった演奏をありがとうございました!


後半はリムスキー=コルサコフ交響組曲シェエラザード。第1曲。冒頭、パワフル金管キター!王の横暴さを表現していても、それだけじゃなく人の温もりを感じる不思議。この掴みの金管で、月末に聴けるはずの「フィンランディア」がますます楽しみになりました。美しいヴァイオリン独奏キター!ハープの伴奏がまた素敵で、シェエラザードは魅力的な女性なんだろうなと。そんなすぐに処刑するのは惜しいですって!シェエラザードのテーマはこの後何度も形を変えて登場して、文字通りこの曲全体の語り部なんですね。独奏ホルンと各木管が会話するようなところで、独奏チェロが寄り添ってくれて、この後も独奏チェロが度々存在感のある登場をしたのが個人的にとてもうれしかったです。リムスキー=コルサコフさん大好き。第2曲。どこか哀しげなファゴットのソロと、引き継いだオーボエが印象的。はじめは不安そうな雰囲気だったこのメロディが、各パートに引き継がれてついには全員参加の堂々とした演奏になったのがすごく良くて、スケールの大きさとカッコ良さに聴き入りました。男前!管弦楽の醍醐味!全員参加の合間に登場する独奏チェロがまたまた素敵すぎです。第3曲。はじめの美しい弦のアンサンブルに、ああ私やっぱりこの音色が好き!となり、贅沢言わないからせめて月に1度か2度はこの札響の音に触れたいと改めて思いました。草木が萌え出るようなクラリネットや鳥のさえずりのようなフルートも美しく登場。曲の雰囲気が変わってからは、控えめに小さな音で鳴る打楽器たち、とりわけタンバリンがツボ。そして弦のピッチカートでかわいらしく締めくくったのが新鮮でした。第4曲、今度は勇ましく開始。シェエラザードのテーマが登場し、いくつも音を重ねて鳴る独奏ヴァイオリンを聴いて、シェエラザードが変わったとわかりました。千の夜が過ぎたんですね?今まで出てきたメロディが次々と形を変えて再登場し、大盛り上がりが楽しい!タンバリンだけでなく、スネアドラムほか5人体制の打楽器も大音量で絶好調!金管が表現するあの横暴そうだった王も変化していました。シェエラザードのテーマが初登場と同じような美しさで奏でられ締めくくり。素晴らしいです!

広上さんは、はじめにコンマス、続いてチェロ首席、ハープ、以降ホルン首席からはじまりオケ後方にいる皆様を順番に讃えられました。カーテンコールで戻ってくる度に次々と奏者のかたに起立を促していき、縁の下の力持ちのコントラバスヴィオラ、第2ヴァイオリンに至るまでパート毎に起立。その度に盛大な拍手がおくられました。結局オケ全員?いえ個人的には大賛成です!目立つソロパートだけじゃなく、オケのおひとりおひとりみんな功労者!最後はやはりコンマス田島さんにもう一度大きな拍手。広上さん、札響の皆様、今回も最高の演奏をありがとうございました!


今回(2021年5月定期)の2週間前に聴いた、前回2021年4月定期のレポートは以下のリンクからどうぞ。信頼の秋山和慶さん×札響のおかげで、今まで意識してこなかった作曲家の作品ばかりでも楽しく聴けました。私は定期会員ではないのですが(※パトロネージュです)、気がつくと札響三昧の日々です(笑)。 

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私は今年だけで札響によるヴァイオリン協奏曲を今回含め4回も聴いています。ブラームスシベリウスベートーヴェン、すべて素晴らしかったです!その中で今回はシベリウスを聴いた「音楽日和 札幌公演 in hitaru~JAF会員のための音楽会」(2021/3)のレビュー記事を紹介します。ソリスト金川真弓さん。ちなみにソリストアンコールは「魔王」でした。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第636回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/4)レポート

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2021-2022シーズン最初の定期演奏会は、当初の予定から演目はそのままにソリストおよび指揮者の変更がありました。詳細は上の演奏会詳細ページを参照ください。なお、札響首席指揮者のマティアス・バーメルトさんのビデオメッセージが公開されています。会えない時間はつらいですが、バーメルトさんのお元気な様子を拝見できてほっとしました。9月にはきっと来札が叶いますように。


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また、2021年度は『札響オンラインロビーコンサート』が開催されるそうです!ありがとうございます!初回は2つのフルートとチェロによるトリオ。うれしくて私は本番前に繰り返し聴きました。どなたでも下のリンク先から視聴できますよ。

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札幌交響楽団 第636回定期演奏会(土曜夜公演)

2021年4月24日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
秋山和慶

【独奏】
小菅優(ピアノ)

管弦楽
札幌交響楽団(ゲスト・コンサートマスター:会田莉凡)

【曲目】


3つの演目それぞれの個性と、何より独特のリズムが新鮮で、今まで意識してこなかった作曲家の作品ばかりでも楽しく聴けました。秋山和慶さん×札響を私は信頼しています。今回も期待以上!またもや新たな扉が開かれました!また小菅優さんのダイナミックなピアノには圧倒され、初めて聴く曲でも夢中になれました。依然続く出入国制限のため、恐ろしいことに私達は出演者変更に慣れつつあります。しかし突然の代役を依頼されるソリストと指揮者のかたは大変ですよね。限られた準備期間にもかかわらず、そうとは感じさせない素晴らしい演奏をありがとうございます!

バーメルトさんが掲げた2021年度のテーマは「愛と死」。プログラムには、それぞれの演目を選んだバーメルトさんの思いが綴られていました。今回に関しては前半2曲が「愛」で、「死」は次回以降のようです。いつもながらプログラム冊子は読み応えありますね。私は今までの分もすべて、演奏会後も大切に保管しています。またネット情報によると、今回登場したストラヴィンスキーは次回5月の第637回定期演奏会で取り上げられるリムスキー=コルサコフグラズノフ、そして武満徹との関連があるようですし、まさに「1年を通してひとつのプログラム」なんですね。私、次回の定期も聴きにうかがいます!

なお今回はゲスト・コンサートマスターとして会田莉凡さんがオケを牽引してくださいました。田島さんはそのお隣で演奏。ありがとうございました。会田さん、今後コンマスでもソリストでも時折札響にいらしてくださいね。そして今の田島さんお一人体勢のままだとご負担が大きいと思われますので、できれば早いうちに常任のコンマスが増えますように。


1曲目はフォーレ組曲ペレアスとメリザンド。多くの作曲家が同じ物語を題材にした作品を手がけているようですが、今回はフォーレの作品です。過去の札響演奏歴は13回で、ほか「シシリエンヌ」のみなら22回。冒頭の弦の美しさに、ああ今回も来て良かったと思い、物語をよく知らない私でも演奏そのものを楽しめました。そして超有名な「シシリエンヌ」がやはりハイライトですよね。美しいハープ、そしてメインのフルートがとっても素敵!心に染み入る音楽。メロディを鼻歌レベルで知ってはいても、生演奏を聴くと「こんなに良い曲だったんだ」とまるで別物に聞こえます。他にも木管が印象的シーンはあってそれぞれ素敵だったのですが、シシリエンヌのフルートのインパクトは絶大でした。3月の定期のラヴェルに引き続きフルート大活躍!また意外にもチェロが良い仕事していて(フランス人作曲家の管弦楽作品にそんなイメージなかったので)、今後フォーレ室内楽だけでなく管弦楽にも目を向けようと思いました。


2曲目はバルトーク「ピアノ協奏曲第3番」です。過去の札響演奏歴は2回で、前回1992年9月(ソリストは若林顕さん)の指揮も秋山和慶さん。私は小菅優さんの生演奏を聴くのは今回が初めてでした。以前ふきのとうホールでのリサイタルのチケットを取れず、今後もレジデントアーティストとして定期的にいらっしゃるから大丈夫とその時はあっさりそう思っていたんです。結果としてこの日までチャンスは訪れず……。この日ソリスト小菅優さんの衣装は濃いボルドーのドレスでした。私は初めて聴く曲でしたが、素敵ですね!バルトークは亡くなる直前の体調が思わしくない時期にこの生命力を感じさせる曲を書いたなんて、本当にすごいです。第1楽章、個人的には新緑の中を駆け抜けるような爽快さを感じました。ピアノが主役のところはもちろん素敵でしたが、オケのターンで伴奏にまわるピアノがツボ。すごい存在感!続く第2楽章の前半は晩秋の美しさかも?ピアノとオケが穏やかに語りあうのがイイですね。あと後半で個人的にとても印象に残っているのが、ピアノと見事に合った大太鼓の会心の一撃!一度きりなのにぴたっと合うのが気持ちよかったです。第3楽章、最初からピアノがカッコイイ!独特のリズムにドキドキして、オケはティンパニが印象的。そして高速かつ華やかなピアノ!小菅さんの貫禄ある演奏に引き込まれました。

 

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ソリストアンコールはバルトーク「10のやさしいピアノ小品第5曲<セーケイ人たちとの夕べ>」。私はこちらも初めて聴く曲で、時折聞こえてくる祭り囃子のような音に日本的なものを連想しました。なぜかハンガリー風のリズムは私達になじみやすいと感じます。今回の演奏を聴いて、私は今までノーマークだったバルトークに興味がわいてきました。小菅さん、素晴らしい演奏をありがとうございました!今度はふきのとうホールでのリサイタルや室内楽を拝聴したいです。


後半はストラヴィンスキー交響曲第1番」。プログラムには「ストラヴィンスキー没後50年記念」とあり、また交響曲第1番は今回が札響初演だそうです。作曲家若き日の意欲作は、生きる喜びが感じられるようで、私は自分なりに楽しく聴けました。冒頭、中低弦から静かに始まるもすぐに全員参加となり、壮大な世界が広がりました。慣れ親しんできた交響曲のスタイルと似ていたため、最初身構えていた私はすぐに安心して聴ける体勢に。「たーらららーらーらーらーらー」の主題が明るく繰り返される度に気分もアガりました。楽章の終わりではこの主題をこれでもかと引っ張ったので、ストラヴィンスキーさんはここのメロディを気に入っていたんだろうなと。第2楽章もひき続き明るく、今度は楽章の締めくくりで余韻を残さずぴたっと音が止まったのが印象的でした。徐々にフェードアウトするスタイルに私が慣れていたせいかも。第3楽章は一転して物悲しい雰囲気で、こちらも素敵。木管がメロディをリレーし、美しい弦が寄り添ってくれました。そして独奏フルートと独奏チェロが会話するようなところがあって、今回のオンラインロビコンがフルートとチェロになった理由はこれかも?と勝手に推測。第4楽章は最初から遠慮なく明るく大盛り上がり。お祭りのようでも行進曲のようでもあるユニークなリズムが楽しかったです。ストラヴィンスキーは「春の祭典」で大胆な舞踏のリズムを発表する前に、「作品1」で既に個性を発揮していたのですね。私、演奏機会が少ない曲を、最高の演奏で聴けてよかったです。ストラヴィンスキーを演奏会で取り上げるとなると、やはり有名なバレエ音楽のほうが喜ばれるのかもしれません。しかしストラヴィンスキー交響曲第1番、良い曲なのでもっと知られてもよいはず。いずれにせよ今回は札響初演でしたから、オケのメンバーには初めて演奏したかたが多かったのでは?限られた準備期間でこのハイクオリティな演奏、素晴らしいです。ありがとうございます!そして指揮の秋山和慶さん、やっぱりすごいお方です!御年80歳にしてあの見事なキレッキレの指揮。音が鳴っているときはもちろん良いのですが、私が密かに驚いたのは意味ある間合いや一瞬沈黙するところがビシッと気持ちよくキマること。指揮の動きで演奏がきっちり変化するのを目の当たりにして、私には指揮棒が魔法のステッキに見えてしまいました。素人丸出しでごめんなさい。言うまでもなく魔法なんかじゃなくて、オケと心通じ合い的確な指示が出せる秋山さんと、指揮について行ける奏者の皆様のお力があるからこそです。秋山さん、今回も札響を導いてくださりありがとうございました!


なお今シーズンから定期演奏会の開催日時は土曜17時と日曜13時に変更になり、私は今回土曜17時を選びました。個人的にはよかったと思います。私が見た限りでは、昨年度までの金曜19時は割と空席が目立つ印象でした。一方、今回の土曜17時は9割以上の席が埋まっていましたし、終演後(時計を見ると19時前!今までなら開始時刻!)に慌てて席を立つ人は少なく、分散退場がスムーズだった印象です。個人的にも帰宅後は家事諸々があるので、夜の時間に余裕があるのは助かります。もしかすると初回の今回は開始時刻を勘違いして遅刻した人がいたかも?でもこれは慣れるしかないと思います。ちなみに主催公演のうち新・定期は平日19時、名曲シリーズは土曜14時開演と、これらは変更ナシなので、従来のスケジュールの方が都合が良いかたにも配慮されています。

ちなみに私は今回1階の後方寄りのSS席を選びました。オケ全体が見渡せて、大きな音が響くときも素直に聴けるのはよかったです。ただ奏者の手元の細かな動きまでは見えなかったため、これならS席でも2階の前方のほうがもっとよいかも?とも。あとはA席になりますが、2階R1やL1の舞台に近い席にもいつか座ってみたいです。hiraruは上の階の後方は急勾配がコワく、また端のほうの席だと舞台が見えないところがあるようなので、それら以外なら色々と試せたらいいなと思っています。


ピアノの小菅優さんがクラリネットの吉田誠さんと組んだCD「ブラームスクラリネットソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか」、私はヘビロテしています。他のCDを含む感想記事を弊ブログにアップしていますので、よろしければ以下のリンクからどうぞ。今後ふきのとうホールで予定されている演奏会の数々、きっと開催実現しますように。 

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私が秋山和慶さんと出会ったのは、2020年10月のNHK主催「オーケストラでつなぐ 希望のシンフォニー」。初めて聴いた演奏会で私は秋山さんの大ファンになりました。以降、2020年10月の名曲シリーズ、2020年12月の第九、そして今回2021年4月の定期と、3度も代役として札響を指揮してくださり、私はすべて聴いています。そして今後秋山さんが札響を指揮するのが決まっているのは2021年9月の名曲シリーズ。筋金入りの鉄道マニアという秋山さんが、「鉄道」がテーマの演奏会でどんな演奏を聴かせてくださるのか、今から楽しみです! 

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そしてマティアス・バーメルトさんとの出会いは2019年1月の定期演奏会で、これが私の記念すべき定期演奏会デビューでした。私にとって札幌交響楽団=バーメルトさんなのです。私は2019年度にはセット券「バーメルトの四季」を購入し、特典の交流会ではサインを頂いて厚かましくも2ショット写真まであります。いつでも会える感覚でいたのに、まさか2020年1月の定期を最後に今日まで会えない日が続いているなんて……。様々なハードルがあることは承知していますが、2021年9月の札響60周年記念となる演奏会では、きっとバーメルトさん指揮の「ドイツレクイエム」が聴けることを願っています。 

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クラウドファンディングのリターン「札響1961-2020特別CD」には、秋山さん、バーメルトさんの演奏録音も収録されています。札響の年輪となっている演奏録音の数々、私は何度も繰り返し聴いています!弊ブログに「札響1961-2020特別CD」を含む「2020年 札幌交響楽団 動画配信および非売品CDについてのまとめ」の記事もありますので、よろしければお読みください。以下のリンクからどうぞ。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第5回 (2021/4)レポート

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今回2021年4月の新・定期は、2020年3月に公演中止となった定期演奏会が再企画されたものでした。しかし残念ながらピアノ・指揮のオリ・ムストネンさんの来日が叶わず、演目と出演者を変更しての開催。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はピアノ編曲版ではなく原曲に変更され、しかもソリスト竹澤恭子さん!彼女のライブ演奏に触れて大袈裟じゃ無く人生変わった私ですから、行くに決まってます!

また、今回の公演前に札響動画配信プロジェクト第18弾として、『札幌文化芸術劇場hitaru』での楽器搬入の様子を紹介した動画が公開されました。一般人が入れないバックヤードでの作業、舞台裏を拝見できてうれしかったです。ありがとうございます!


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札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第5回 (2021/4)
2021年4月14日(水)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
高関健

【独奏】
竹澤恭子(ヴァイオリン)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


今回もすごかったです竹澤恭子さん!その演奏を目の当たりにした人なら誰もが圧倒されるはず。実際、平日夜にもかかわらずほぼ満席だった会場は拍手の嵐でした。また帰り道「あのドレスのヴァイオリニストさん、すごかったね!」との会話が耳に入ってきて(立ち聞きごめんなさい)、竹澤恭子さんを知らないかたにも演奏の素晴らしさ響いたとわかり私はひとりでうれしくなりました。竹澤恭子さんと同じ時代に生きてそのライブ演奏に触れられる私達は幸せです。前回竹澤さんと札響が協演したkitaraでのプロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第2番」(2019年6月)も素晴らしかったですが、個人的に今回は前回より少しは落ち着いて聴けたおかげでより楽しめました。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は目を引く派手さはないのに、竹澤さんの意思ある独奏ヴァイオリンに引き込まれ、夢中になって約45分があっという間。ある意味平坦な曲(演奏は難しいはずですが)なので、ただ弾きこなすだけなら「聴ける」演奏にはならない気がします。ちなみにベートーヴェンの協奏曲は、ブラームスの朋友で名ヴァイオリニストであるヨアヒムが好んで演奏したのだそうです。またヨアヒムの全面協力のもとで作曲されたブラームスのヴァイオリン協奏曲は、ベートーヴェンと同じニ長調で、楽器編成は完全に一致(おそらくあえてそうしたのかと)。竹澤恭子さん、ブラームスのヴァイオリン協奏曲もいつか必ず聴かせてください!そしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲については、ベートーヴェン自身がカデンツァを書いたというピアノ編曲版もいつかきっと生演奏で聴きたいです。

札響とは密接なつながりがある指揮の高関健さん、私はお初にお目にかかりました。テレビでは「指揮者のシゴト」特集でオケのメンバーおひとりおひとりと誠実に向き合っていらした様子や、トークでは低めの良いお声で面白いことをボソっと仰っていらしたのがとても印象に残っています。きっと札響とも良い関係なのだと、演奏から伝わってきました。なお今回はオケの弦の配置がいつもと違っていて、舞台向かって左から第1ヴァイオリン、チェロ(その後方にコントラバス)、ヴィオラ、第2ヴァイオリン。この配置は高関さんのご意向なのでしょうか?中低弦の近くのつもりでR側の席を確保した私はちょっと当てが外れました(笑)しかし視線のまっすぐ先にチェロとコントラバスがいるのも良いですね。また私は今回かぶりつき席より気持ち後ろに下がった席にしたので(分散退場では2番目に呼ばれるエリアです)、オケ全体を見渡せましたし、パワフルな金管も素直に楽しめました。

そしてシベリウス交響曲第2番、超イイですね!私、こんな良い曲を今まで知らずに生きてきたのがもったいなかったです。ちなみにプログラムにあった札響指揮者の松本宗利音さんのコラムには、「札響によるシベリウスには、北国ならではの『抑制された内向的なアプローチの蓄積』があることを感じます」と書かれていました。やはり札響はシベリウス!私は本質的なことはわかっておらず、それこそ作曲家が「浅薄な理解に嫌気がさす」レベルの聴き手かもしれません。しかしたとえ私がきちんと理解できていないとしても、これを素敵!と感じられるのは幸せですし、また聴きたい!と思えるうちは何度でも演奏会に足を運びたいです。それにしても、札響奏者の皆様はタダモノじゃないなと改めて感じました。オケの奏者はソリストとは違う難しさがあるのだと思います。おひとりおひとりが素晴らしい演奏家でありながら、指揮者についていき周りと調和しながら自身はベストな演奏をするって、並大抵のことではないはず。プロのお仕事とはいえ、頭が下がります。協奏曲だってソリストのみでは成立しないわけで、私達がソリストに夢中になれるのはオケが信頼できるからこそでもあるんですよね。地元にこんな素晴らしいオケがいて、その演奏をご近所の良いホールで聴けるなんて、本当にありがたいです。


前半1曲目はペルト「カントゥス」です。私は作曲家の名前からして初耳でした。札響の過去の演奏歴は1回のみ。その2003年7月kitaraの演奏会での指揮も高関さんとのことで、高関さんの隠れた十八番とお見受けしました。編成は鐘(!)と弦。鐘はハンマーで叩いて音を出すものでしたが、「のど自慢」で見るような音が多いものとは違う、音が一つのシンプルなもの。その鐘のカーンという音が冒頭の一打から曲全体を通して絶妙なタイミングで入ってきて、存在感すごかったです。10分に満たない短い曲、しかも変に凝ってないつくりで、存分に札響の弦を堪能できました!最後に弦の奏者の皆様が全員同じように弓を上げた姿勢で止まっていらしたのが印象に残っています。この後に控える2つの大作の前に、純粋に弦の美しさを楽しめる曲が聴けてよかったです。


2曲目はいよいよベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」。プログラムによると今回のカデンツァはクライスラー作だそうです。竹澤恭子さん登場、待っていました!フリルの袖に胸元と背中が大きく開いたコーラルピンクのドレス、お姉様カッコイイ!はじめはオケのターン。最初にティンパニの小さな音から入るとか木管と高音弦の美しさを下支えする中低弦の存在感とか、録音でぼんやり聴いていた時は気付けなかった良さを知り、良い曲だなと今更ながら実感。私は今まで何を聴いてきたのかと……。しかしやはりソリストが登場してからが本番です。ゴメンナサイここからはソリストに全集中。高音で流れるようにメロディを奏でるときも、オケの伴奏にまわるときも素晴らしく、弱い音での演奏もインパクト大。そして長いソリストの独奏へ。竹澤さんの演奏はいつもながら期待以上、さすがです!おひとりでの演奏なのにいくつもの音が重なるふくよかな響き。二重どころかそれ以上の音が重なっているように聞こえましたが、どうやって演奏しているんでしょう?私はまた呼吸を忘れる勢いでのめり込みました。第2楽章、冒頭のオケの美しい響きで視界が開けたような感じに。穏やかに響くホルンや木管が印象的。独奏ヴァイオリンは、木管と会話するようなところも単独での高音の演奏も繊細で優雅で、私が勝手に抱いていた竹澤さんの強いイメージとは違っていたのが個人的には新鮮でした。オケががらっと雰囲気を変えてくれてそのまま第3楽章へ。民謡風のあたたかな響きが沁みます。おそらく演奏は難しいのでしょうが、そうとは感じさせない、踊ったり歌ったりしているような独奏ヴァイオリンに引き込まれます。ただひとりで突っ走るのではなく、オケと自然に呼応しながらの演奏はまるで音楽に意思があるようです。ラストはオケと一緒に締めくくり。素晴らしい!ありがとうございます!私は専門的なことはわからないですし、好きな演奏家をひいき目に見ていることは自覚しています。しかし私は、今回の生演奏を聴いて初めてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を「また聴きたい」と思えるほど好きになりました。平坦だなんてとんでもない思い違いで、音楽に生命を吹き込むのは演奏次第。あのヨアヒムがこだわり続けた理由がほんの少しわかった気がします。私、今回はソリストに夢中になっただけで曲そのものを深く味わうまではできなかったのが悔しいです。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、次に生演奏を聴けるときには少しでも本質的な良さを捉えられるよう、私は今後ピアノ編曲版も含め様々な録音を聴いていこうと思います。

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ソリストアンコールは、バッハ「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番 BWV1004 サラバンドカデンツァでも見せてくださった音の重なりを、今度はバッハで。超有名曲ですから、演奏が始まってすぐ私は「バッハだ」と気付きました。しかしよく知る曲でも初めて聴いたような鮮烈なインパクトで聞こえる、これぞ竹澤恭子マジック!目の前の演奏を堪能しつつ、私はなぜ新定期は1日だけ?2日あるなら次の日も聴きに来るのに!とか、もう一度ふきのとうホールでリサイタルを聴きたい!とか、そんなことを思ったりもしました。会場はまたまた拍手の嵐!竹澤恭子さん、突然の出演依頼にもかかわらず、今回も最高の演奏をありがとうございます!これからもオケとの協演でもリサイタルでも、何度でも札幌にいらしてください。私は万難を排して聴きにうかがいます!


休憩後の後半はシベリウス交響曲第2番」。楽器編成はブラームス交響曲第2番とほぼ同じで、違いはシベリウスのほうがトランペットが1つ多い3つになっていること。また偶然どちらの曲もニ長調でした。なお今回チューバはおひとりの奏者がシーンに応じて2つの楽器を持ち替えて演奏されていました。第1楽章、長調の曲でもどこか哀しげな雰囲気があるのは私好み。第1・第2ヴァイオリンが同じメロディを大変美しく演奏した際、舞台の左右からステレオで響いてきて、今回の配置が活きているなと感じました。そして第2楽章で私は完落ちです。ティンパニから始まり、低弦のピッチカートが印象的。そこにファゴットの低い音が重なるとぞわぞわしました。パワフル金管のド迫力すっごい!男前!ほれてまうやろー!トランペットのソロもとても素敵でした。また弦が蜂の大軍みたいなうねる音を奏でたり超高速で演奏したりと、お若いかたもベテランのかたもこのハイレベルな演奏を難なくやってしまうのですからすごすぎます。シベリウスさん、特に弦への要求が難易度高くてエグいですね(褒めてます)。第3楽章では木管が主役のターンでチェロが重なるところ(1度目は首席のみ、2度目はチェロパート全員で)があって、このさりげない登場にやられました。ほんの短い演奏でも素敵すぎ!ここ何度も繰り返し聴きたい……。シベリウスさん、ニクイ演出をありがとうございます!少しゆったりしたところからだんだんと駆け上ってそのままフィナーレの第4楽章へ。超気持ちいい!こんな身体感覚があるから生演奏はやめられない!オケ全員がフルスロットルの演奏で、しかも見事に一つの音楽になるんですね。ホレボレします。圧巻の第4楽章は、曲自体が良いだけでなく、やはり演奏が素晴らしいからこそ。ありがとうございます!シベリウス交響曲第2番」、札響の過去の演奏歴は56回。意外に少ないと思いますので、今後も積極的に演奏して頂けたらうれしいです。

カーテンコールで何度もステージに戻ってきてくださった高関さん。最後はコンマスのほうを向いて、ご自分の腕時計を指さす仕草(平日夜の遅い時間でしたものね)をして、会場に笑いが起きました。高関さん、突然の代役をお引き受けくださりかつ最高の演奏をありがとうございます!オケの皆様も夜遅くまで全力投球の素晴らしい演奏ありがとうございました。すごく楽しかったです!


シベリウスといえば、私は今年2021年3月に札響による「カレリア組曲」と「ヴァイオリン協奏曲」を聴きました。ソリスト金川真弓さん。私が知らないだけで世の中には素晴らしい演奏家がいらっしゃるのだと痛感しましたし、これからもそんな出会いが待っていると思うとワクワクします。「音楽日和 札幌公演 in hitaru~JAF会員のための音楽会」のレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。 

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今回からプログラムで札響指揮者の松本宗利音さんによる「宗利音's Diary」の連載が始まりました。今回の記事では、高関健さんとの関わりや札響との出会い、初リハの際にコンサートマスター(当時)の大平まゆみさんに励まされたこと等、興味深いお話が盛りだくさん。その松本さんが指揮された2021年3月「北海道応援コンサート~親子で聴くチャイコフスキー」のレビュー記事もアップしています。以下のリンクからどうぞ。 

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何事も熱しやすく冷めやすい私が今なおコンサート通いを続けているのは、2019年3月にふきのとうホールで「竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル」を聴いたのが大きいと思います。超ビギナーの私が「ライブでしか体感できないものが確かにある」とすり込まれた、とんでもない体験でした。これを超える生演奏に出会えたら、その時はコンサート通いをやめてもいいとさえ当時は思っていたほど。しかしどの演奏もそれぞれの良さがあるので、この時の再現を求めるのではなく、一期一会の出会いすべてを楽しんでいきたいと今はそう考えています。 

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北海道応援コンサート~親子で聴くチャイコフスキー@市民ホール(2021/3)レポート

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当日券で平日昼間の演奏会を聴いてきました。なんと先日卒業式を終えたばかりの中3の息子とコンサートデートです。この日は高校の指定品を揃えに親子で大通に出てきていました。首尾良く片付き、昼食後に時間が間に合いそうだったため、コンサートに行くことに。息子には先に帰宅してもいいよとも言いましたが、彼は聴いてみると自分で決めてついてきました。おかげさまで第一志望に進学が決まった息子は、期間限定かもしれませんが最近いつもより母親とコミュニケーションとってくれるのが、私はちょっとだけうれしいです。


北海道応援コンサート~親子で聴くチャイコフスキー@市民ホール
2021年3月19日(金)13:30~ カナモトホール(札幌市民ホール

【指揮とおはなし】
松本宗利音

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
チャイコフスキー

  • バレエ「眠りの森の美女」より
     序奏とリラの精、ワルツ
  • バレエ「白鳥の湖」より
     情景、ワルツ、4羽の白鳥の踊り、ナポリの踊り
  • バレエ「くるみ割り人形」より
     行進曲、金平糖の踊り、アラビアの踊り、中国の踊り、あし笛の踊り、花のワルツ
  • (アンコール)バレエ「くるみ割り人形」より トレパック


休憩なしの約60分間、親子でずっと夢中になれた演奏会でした。チャイコちゃんのバレエ音楽、やっぱりステキですね!2/13の北広島でのオールチャイコフスキーに行けなかった私としては、メロディメーカー・チャイコフスキーの本領発揮の音楽が聴けてとてもうれしかったです。ちなみに息子は多くは語りませんでしたが、キャッチーなメロディの数々を帰宅後も鼻歌で歌っていたくらいですから、きっと彼なりに楽しんだのだと思います。今我が家は進学に関わるやるべきことが目白押しでバタバタしています。そんな中で、この先「大変だった」だけでなく「コンサートデート楽しかった!」と良い思い出が出来たのがよかったです。少なくとも私はそう思っています(笑)。この時期に、親子で気軽に参加できる演奏会を開催してくださったことに感謝です。

私は「お初」のカナモトホール、音の響きはキレイだと感じました。今回は後ろの方の席になりましたが、お隣のhitaruより小さなホールなので舞台は遠くなくて、オペラグラスがなくても演奏の様子はそこそこ見えました。そもそもの席数が少ない上に1席飛ばしでの配席。それを大人1000円・高校生以下500円のリーズナブル価格で、しかも札響の演奏を聴けるなんて!ありがたいやら申し訳ないやら。しかしこの親しみやすい演奏会で、ファン層の裾野が広がったのは確かだと思います。惜しかったのは、「親子で」と銘打っていながら普通に学校がある平日昼間の開催だったこと。春分の日の祝日にあてたつもりがズレたのかも?結果としてお客さんは大人が多かったようでした。しかし小学生くらいの子も何人かはいましたし、卒業式が済んだと思われる大きい子もちらほらいました。

指揮とおはなしは札響指揮者の松本宗利音さん。指揮のときは素顔で、客席を向いてトークする時はマスク着用でした。曲の合間にバレエの歴史や各作品のあらすじ等の様々なお話がありましたが、個人的には「チャイコフスキーワーグナーから影響を受けている」といった趣旨のお話が印象に残っています。また松本さんのお人柄の良さがお話ぶりににじみ出ていたためか、トークのときは客席はリラックスモードでした。また演奏中に変なところで拍手が起きてしまったときには、松本さんは客席に振り返り一礼をしてから演奏に戻るスマートな振る舞いをされました。松本さん、すっかり札響の顔ですね!今月末には怒濤の地方公演ツアーがありますが、各地でもきっと音楽を身近に感じられる演奏を披露してくださることと存じます。ご武運を!雪解けの時期でもありますし、団員の皆様もどうぞ道中お気を付けていってらっしゃいませ。


指揮者が舞台に立つとすぐに演奏開始されました。はじめは「眠りの森の美女」より。「序奏とリラの精」は最初から全員参加のフルスロットル演奏で、聴いているこちらは一気に気分が高揚。続く有名な「ワルツ」はもう豪華で華やかで、私は心の中でペンラ振って声援を送っていました。私はバレエ鑑賞は未経験ですが、こんな贅沢な音楽をバックに華やかなダンスが繰り広げられるのって素敵なんでしょうね。ちょっと見てみたい気持ちにもなりました。演奏の手元が見たい派ではあるので、オーケストラピットも少しは見える席なら両方楽しめるかも?

白鳥の湖」より、まずはこれを知らない人はおそらくいない「情景」。生演奏で聴くと、やはり素晴らしい曲だからこそ超有名になったんだなと実感しました。冒頭の弦のザワザワにまず心を掴まれ、メロディを歌うオーボエ独奏にうっとり。チャイコフスキーはメロディメーカーというだけでなく、各楽器の活かし方もうまいなと思います。そう感じられるのは、もちろん素晴らしい演奏があればこそです。こちらの「ワルツ」も美しく華やかで、緩急や強弱のメリハリがきいた演奏に引き込まれました。トランペットが主役のところが印象的。木管大活躍の「4羽の白鳥の踊り」も素敵でした。そして私は初めて聴いた「ナポリの踊り」が今回のハイライトです。コルネット(小ぶりなトランペット)の独奏がめちゃくちゃカッコイイ!首席トランペット奏者のかたの独奏に全集中して聞き惚れてしまいました。トークで松本さんが「コルネットオーボエも本当に素晴らしい。一緒に演奏出来て幸せ」といった趣旨のことをおっしゃっておられましたが、本当に、奏者の皆様はすごい演奏家ばかりなのだと思います。そして奏者のかたをこのように賞賛できる指揮の松本さんも素晴らしいです。

最後は「くるみ割り人形」より。「行進曲」はメロディ部分の演奏はもちろん良くて、さらに下支えする低弦と金管が個人的にツボです。「金平糖の踊り」はチェレスタのキラキラした音色がとてもキレイ。息子は舞台をきょろきょろ見渡し、舞台の左側に配置されていたチェレスタを見つけて注目していました。この美しい音を奏でる楽器が、鍵盤楽器だとは思っていなかったようです。チェレスタと呼応するクラリネットも、弦のピッチカートも素敵でした。「アラビアの踊り」は他の曲とはちょっと毛色が違う雰囲気。同じ編成・同じ楽器でしかも他の曲と続けて演奏しているにもかかわらず、一瞬で違う世界を作る演奏が素晴らしいです。「中国の踊り」と「あし笛の踊り」は主役のフルートが素敵!後から息子が「フルートのところをファゴットに演奏させてみたい」と変なことを言ってましたが、それは演奏がインパクト大だったからだと思います。超有名な「花のワルツ」は、美しいハープの響きをたっぷり聴けて、その後のホルン→クラリネット→弦の流れが超ステキ。何度でも言いますが、この音を当たり前と思って育つ札幌の子供達がうらやましいです。そして中低弦が少し切ないメロディを奏でたり金管打楽器が華やかに盛り上げたりと、もう聴き所しかない演奏にホレボレ。チャイコフスキー管弦楽の魔術師ですね!

アンコールはバレエ「くるみ割り人形」よりもう1曲「トレパック」、これも超有名ですね。勢いのあるパワフルな演奏。華やかな高音が主役でも、一瞬バスがきいているところが個人的にはツボだったり。そしてタンバリンが激ウマです。最初から最後まで超楽しかったです!「いいとこ取り」の演奏会で、すべての曲を本気モードでの素晴らしい演奏をありがとうございます!


この演奏会の3日前にhitaruで聴いた「音楽日和 札幌公演 in hitaru~JAF会員のための音楽会」のレポートは以下のリンクからどうぞ。聴きたかったシベリウスのカレリア組曲も、ソリスト金川真弓さんの演奏に圧倒されたヴァイオリン協奏曲も、後半のオペラ序曲シリーズも最高でした! 

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小2の娘とkitaraで聴いた「札響夏休みスペシャルコンサート」のレポートは以下のリンクからどうぞ。アキラさんのエンターテイナーぶりが光るショーの楽しさに加え、トランペットのカッコ良さやクラリネットのステキな響き等、我が町のオケによる本物の演奏を親子で楽しみました。 

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チャイコフスキーは華やかでかわいらしいバレエ音楽だけでなく、骨太で男前な交響曲も書いています。2021年2月の「札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第4回」で演奏された交響曲第5番、私は一度聴いただけで好きになりました。チェリスト佐藤晴真さんがお目当てで足を運んだ演奏会でしたが、ノーマークだった他の演目にも夢中になれたのはうれしい誤算でした。レポートへのリンクは以下にあります。 

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2020年12月に無観客で開催された「第21回北洋銀行presentsクラシックコンサート~聖夜の響き~」の無料配信動画でも、札響の「くるみ割り人形」の抜粋演奏が聴けますよ。動画はメインのベト7ほか、たっぷり1時間15分超!動画を以下に貼っておきます。


第21回北洋銀行presentsクラシックコンサート~聖夜の響き~


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