自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第4回 (2021/2)レポート

当初出演を予定していたホルンのラドヴァン・ヴラトコヴィチさんの来日が叶わず、急遽演目とソリストが変更された演奏会です。協奏曲はホルンではなくチェロの曲に変更され、しかもソリストは佐藤晴真さん!彼が演奏する協奏曲をこんなに早く札幌で聴けるなんて!私は2次販売でチケットゲット。チケットセンターに置かれたチラシは片面カラーコピーの急ごしらえでした。また演奏会の当日は、当日券売り場に列が出来ていました。

楽器は異なりますが、ラドヴァン・ヴラトコヴィチさんも佐藤晴真さんもミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得していらっしゃると後から知りました。それにしても、本来は1年ほど前にプログラムが決まり、時間をかけて心の準備をしてから演奏会当日を迎えるのだと思います。突然の決定にもかかわらず、大役をお引き受けくださった佐藤晴真さんには大感謝です。個人的には「いつか佐藤晴真さんと我が町のオケの協演を聴きたい」と願っていた「いつか」が思いの外早くに来てしまいましたが、もちろん聴きたいに決まっています!チケット2段階販売のおかげで直前でも良い席が取れるのはありがたいです。

なお、同じ日のお昼休みの時間帯に、「第48回北海道議会議場コンサート」が開催され、札響メンバーによる弦楽四重奏の演奏がありました。

www.gikai.pref.hokkaido.lg.jp


私は残念ながら会場には行けませんでしたが、ネットのライブ中継で拝聴。ハイドン弦楽四重奏曲「皇帝」に始まり、アンコールの「虹と雪のバラード」まで、とっても素敵でした!曲の合間には、夜の演奏会の宣伝も。演奏会前のロビーコンサートが取りやめになっている今、夜の演奏会の前にオケ精鋭メンバーによる室内楽が聴けてうれしかったです。しかも普段のロビコン5回分くらいのボリュームたっぷり!4名の奏者の皆様、夜の大本番が控えているにもかかわらず、素晴らしい演奏をありがとうございました。多くのかたに聴いて頂きたいので、録画の配信をぜひお願いします道議会さん!


札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第4回
2021年2月25日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
広上淳一

【独奏】
佐藤晴真(チェロ)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


佐藤晴真さんが演奏する協奏曲がお目当てだった私。しかし佐藤さんのチェロに夢中になれただけでなく、ノーマークの曲でも最初から最後まで楽しかったです!私は音楽を聴き始めてまだ数年ですが、最初の頃よりも興味や許容範囲が広がり、聴いて楽しめる演奏が増えたのは自分でも本当にうれしくて。またhitaruシリーズ新・定期はプログラムが気が利いているんですよね。定番の交響曲を後半に置き、前半は注目のソリストを迎えての協奏曲と普段聴く機会が少ない日本人作曲家の曲。一度で3通りの楽しみがあって、私自身はまだ2回目の参加でもすっかり新・定期が好きになりました。ちなみに、私は思い入れが強すぎるとむしろきちんと聴けない経験をしているので(2020年12月の定期は指揮の広上さんにも奏者の皆様にも大変申し訳なかったです)、今回は知らない曲ばかりでもあえて予習なしで臨みました。


1曲目は伊福部昭「交響譚詩」。打楽器はティンパニのみで、管楽器と弦楽器の人数は多く、ハープが入った編成でした。1月に聴いた早坂文雄「左方の舞と右方の舞」のやんごとなき殿上人の世界とは違って、こちらは裸足で土の上に立っているイメージ。前半は「お祭り騒ぎ」のようで、後半は「祭りの後」のようでした。和楽器はいないのに、日本人の血が騒ぐ独特のリズムが心地よく、楽しかったです!ヴィオラが主役になるところも素敵でした。普段自分ではなかなか聴こうとしない日本人作曲家の管弦楽作品。生演奏で聴く機会があるのは良いですね。たとえこの後の協奏曲や交響曲がお目当てだったとしても、こんな機会に聴ければ、自分のルーツに思いをはせることができます。日本人作曲家を積極的に取り上げたいと考え、それを実現してくださっているバーメルトさんに感謝です。


2曲目はお待ちかね佐藤晴真さんの登場。ハイドン「チェロ協奏曲第1番」ソリストは暗譜での演奏でした。チェロを抱えて颯爽と登場した佐藤晴真さんは、指揮者やコンマスとは手を直接触れないエア握手。衣装は黒いスーツに白いシャツを首元まできちっとボタンを閉じ、ノータイでした。オケは1曲目よりずっとコンパクトな編成で、少数精鋭の弦にオーボエとホルンのみ。曲の冒頭はオケの演奏です。昼間に生配信で聴いた弦楽四重奏を思い出しながら、ハイドンって弦の活かし方がうまいなと聴き入りました。そして独奏チェロ登場。キタコレ!この「佐藤晴真さんのチェロの音色」を待っていたんです私。2019年7月にふきのとうホールで拝聴したときよりグレードアップした味わい深い音色に、一瞬でハートを鷲掴みにされ、もうここからはソリストだけに全集中。独奏チェロはとても優雅な響きでも、高音域を高速で演奏するのはきっと難しいのだと思います。それでも佐藤さんの演奏姿はクールで美しかったです。オケのターンでソリスト小休止のときに、hitaruの高い天井を見上げたその表情には既に大演奏家の風格すら感じられました。この演奏を目の当たりにしたら、「お若いのに」なんて色眼鏡は瞬時に消え去ります。第2楽章で、独奏チェロがごくごく小さな音からだんだん大きな音になって登場する(何度もありました)のがツボ。私は、ソリストの演奏姿をよーく見て耳をそばだてて、オケの音の中からグラデーションで現れる独奏チェロを追いかけました。独奏チェロは、前の楽章では低い音を重ねてバーンとインパクトを与える登場をした(これも好きです)のに、この楽章ではじわじわ来るスタイル。ハイドンさん、やりますね!曲の良さに夢中になれるのは、もちろん素晴らしい演奏があればこそです。第3楽章は、独奏チェロが高音域を超高速で演奏するのに圧倒されました。ただ、演奏の手元はあんなに忙しそうなのに、奏でる音色が滑らかで美しかったためか、聴く側はゆったりとした気持ちで音楽に浸れました。佐藤さんが十八番にされているブラームスのチェロ・ソナタとはまた違ったチェロの魅力満載。今の佐藤さんの演奏を目の前で聴けて、私はとてもうれしかったです。佐藤晴真さん、突然の抜擢にもかかわらず、はるばる札幌までいらしてくださり、素晴らしい演奏を聴かせてくださってありがとうございます!

ソリストアンコールはバッハ「無伴奏チェロ組曲第1番より サラバンド。たったお一人での演奏で、大きなhitaruを別世界にしてしまう力量。素晴らしいです!私、佐藤さんには室内楽を極めてほしいななんて勝手な願望を持っていたのですが、やはり室内楽だけではもったいない。大ホールでの演奏もどんどんお願いします!佐藤さんには、これからドヴォルザークシューマンほかチェロ協奏曲は何でも演奏して頂きたいです。あとは独奏チェロの高音が美しいベートーヴェンの三重協奏曲もぜひ!そしていつか必ずブラームスの二重協奏曲を聴かせてくださいね。私、佐藤晴真さんの演奏を一生追いかけます!


後半はチャイコフスキー交響曲第5番。私は第4楽章を部分的に知っていたものの、通しで聴くのはこの時が初めてでした。休憩時間中に読んだプログラムノートには「運命」のモチーフとあり、ん?ジャジャジャジャーンがどこかに仕込まれているの?なんて貧弱な想像をした始末。しかし演奏の冒頭、クラリネットの旋律を聴き、これは第4楽章にも形を変えて出てくるし重要なモチーフなのねと認識しました。その後も、全部ではないかもしれませんが、このモチーフが様々な形で登場するのに気づけたのはうれしかったです。第1楽章は、なんといっても冒頭クラリネットとそれに寄り添う中低弦がすてき!掴みって大事。また木管とシンクロする弦の美しさが個人的にツボでした。やっぱり先日の北広島でのオール・チャイコフスキー、特に「弦楽セレナーデ」は聴きたかったなと心の中で蒸し返してしまったほど。時折パンチの効いた金管ティンパニが入ってくるのも良くて、メリハリがあって退屈させない展開でしたが、やはりそこはビシッとキメてくれる演奏があるからこそですよね。コントラバスの重低音で静かに締めくくるところはぐっと来ました。しかもコントラバスは7台もいてうれしい!続く第2楽章も中低弦で始まるんですね。そこにホルンソロが加わるなんて、ブラームスのお得意分野じゃないですか。リアルで会う以前はブラームスの音楽をディスっていたらしいチャイコフスキーですが、実際はブラームスのこと好きだったのでは?なんて妄想したり。木管のリレーが美しく、それをいったんコントラバスが受け取ってからチェロのターンに。もう、もう大好きです。前半のチェロ協奏曲ではソリストしか見てなくてごめんなさい!そして曲が盛り上がってもどこか哀しげな雰囲気なのが心に染み入りました。第3楽章、ワルツはチャイコフスキーの本領発揮ですよね。耳慣れた白鳥の湖くるみ割り人形のワルツよりはおとなしめな印象で、それでもメロディメーカー・チャイコフスキーの美しいメロディを楽しませて頂きました。第4楽章の始まり、超イイです。これも運命のモチーフだったなんて!その弦が主役のところはもちろんイイのですが、木管のターンでのピッチカートや金管が主役のときの強奏も印象的でした。そしてクライマックスの盛り上がりが超絶すごくて、こちらのテンションもMAXに。チャイコフスキーさん、あなたはお強い!私、チャイコフスキーのことを何も知らなかったみたいです。某音楽アニメでは北国訛りの美少女設定にされたチャイコちゃん。そんなイメージとは裏腹に、こんなに骨太で男前な交響曲を書いていたんですね!例えばベートーヴェンの生命力爆発とは違うけれど、繊細な人イコール弱い人ではないと思える、芯の強さ。私は一度聴いただけでチャイ5のことを好きになりました。札響演奏歴は98回という定番曲。私は何度でも聴きたいので、これからもぜひ積極的に演奏をお願いします!

ところで、疑問がひとつだけ。チャイコフスキー交響曲第5番について、ブラームスは「4楽章の最後以外は素晴らしい」とチャイコフスキー本人に話し、チャイコフスキー自身もそう思っていたのだそうですね。なぜ?とっても素敵なフィナーレですよ!?当時は第6番悲愴が世に出る前だったから、チャイ5の華やかな締めくくりが浮いているように感じた?あるいはもっと単純な話で、本当は弱っているのに空元気だったとか?いえどうもピンとこないです。素晴らしい演奏を聴いた後だけに、私は以前から気になっていたこの逸話の真相がかえってわからなくなりました(苦笑)。なお、この有名なエピソードについては、指揮者・藤岡幸夫さんのオフィシャルファンサイトでも紹介されていましたので参考までに。リンク失礼します。

www.fujioka-sachio.com


カーテンコールでは、指揮の広上さんがオケの中のほうに入っていき、ホルン首席奏者のかたから始まり、順番に木管金管ティンパニの奏者のかたに起立を促されました。その度に会場からは大きな拍手が。私、今回は佐藤晴真さんをかぶりつきでガン見しようと(←)かなり前の方の席をとったせいで、演奏中はオケの後ろの方は見えなかったんですよね。最後に奏者の皆様のお顔を拝見できたのがよかったです。客演のかたも大活躍、ありがとうございます!広上さんは、オケ後方のメンバーを一通り讃えた後、弦は最前列の首席・副首席のかたたちと順番に肘タッチ。演奏中、広上さんは指揮台の上を所狭しと動き回り、踊るように楽しそうに全身全霊で指揮されていました。オケもノリノリでしたよね。特に今回は舞台に近い席だったため、熱気がダイレクトに伝わってきて、音楽ってこんなに楽しいんだ!と、私も肌で感じました。録音や動画配信ではこうはいかない、時間と空間と空気を共有するこの快感。やっぱりライブは最高です!素晴らしい演奏をありがとうございました!


佐藤晴真さんのデビュー・アルバム『The Senses ~ブラームス作品集~』。私は発売日当日に入手し、以来ヘビロテしています。いま現在の佐藤さんの演奏、必聴ですよ!弊ブログに他のCDを含む感想文をアップしていますので、よろしければお読みください。以下のリンクからどうぞ。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

hitaruで平日夜に開催される札響の新・定期。第3回(2021年1月)のレポートは以下のリンクからどうぞ。最高のベートーヴェン「三重協奏曲」を聴かせてくださった葵トリオ。彼らもまたミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得しているのですね。世界の大舞台で実力を認められた日本人の若手演奏家の演奏を、地元オケで聴けるのは大変ありがたいです。 

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新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第58回札幌(2021年2月)のレポートも弊ブログにアップしています。札響からはコントラバス下川朗さんとヴァイオリン鶴野紘之さんがソリストとしてご出演。大舞台で素晴らしい演奏を披露してくださいました!私はその演奏を拝聴し、お一人お一人が特別な演奏家でいらっしゃることを今更ながら強く認識。今回の演奏会ではもちろんオケの一員として演奏されていた下川さんと鶴野さん。オーケストラは、そんなすごい演奏家たちが大勢集まって一つの音楽を創りあげているんですね! 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。