自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

コメント・ご連絡はすべてツイッターにお願いします。ツイッターID:@faf40085924 ※アカウント変更しました。
※無断転載を禁じます。

札幌交響楽団 第638回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/6)レポート

www.sso.or.jp


チャイコフスキー国際コンクール2019で第2位となった藤田真央さん。昨年開催中止となった第1回新定期では、ソリスト藤田真央さんによるラフマニノフピアノ協奏曲第2番が聴けるはずでした。今度こそ札響との協演が実現してうれしかったです。今回の演目はシューマン!テレビで拝見したN響との演奏が良かったので、私はとても楽しみにしていました。

また、今回の『札響オンラインロビーコンサート』はなんとコントラバス六重奏!超絶カッコイイです!誰もが最前列で遠慮無く演奏をガン見できちゃうのもネット動画の良いところ。無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。 

www.sso.or.jp


札幌交響楽団 第638回定期演奏会(土曜夜公演)

2021年6月19日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
川瀬賢太郎

【独奏】
藤田真央(ピアノ)
福原寿美枝(メゾソプラノ

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】


藤田真央さんのシューマン、想像を遙かに超える素晴らしさでした!帰宅後もしばらくドキドキが止まらなかったほど。内緒ですが、つい最近まで私はシューマンのピアノ協奏曲は出オチだとばかり思っていました。それこそウルトラセブンの劇伴で使われた冒頭部分が最初で最後のクライマックスなんじゃないかと。とんでもない思い違いでした、ごめんなさい!ちなみに昨年藤田さんとN響が協演した際のインタビューでは、藤田さんはこんなことをおっしゃっています。

楽譜に書いてあるほんとに些細なことを忠実に弾かないとダメなんですシューマンは。(中略)なぜこういう風に書いたのかシューマンが、ということを考えなければ、ステージに堂々と立てない気がする。

私は専門的なことはわかりませんが、演奏家が自身の技巧を披露するにとどまらず、作曲家とその作品にしっかりと向き合った上で演奏して初めて「音楽が生きてくる」のかなと思いました。お若くして才能を発揮されたかたを、私達はよく「天才」という便利な言葉で片付けてしまいがちです。まるで生まれ持った才能や時の運だけが成功要因であるかのように。しかし演奏技術や音を感じ取る天賦の才能があったとしても、肝心の作品自体を解釈する努力やそれを少しでも忠実に表現しようとする誠実さがなければ「天才」にはなりえない。藤田さんの実演に触れて、私はそう考えるようになりました。そして今回の演奏を拝聴した限りでは、藤田さんは気負った感じはまったくなく、ごく自然に身体の中から湧き出るような演奏をされていた印象です。おそらくここに至るまで相当な努力を重ねてこられたのでは?今回、私は最初から最後までドラマチックな生きている音楽に引き込まれ、頭でっかちに色々と考えるヒマすらないほど夢中になれました。聴けて本当によかったですし、これからどんな演奏を聴かせてくださるのかもとっても楽しみです!藤田さん、今後もぜひ札幌にいらしてくださいね。

そして自分でも驚いたのは、この私がマーラーを聴けたこと(※きちんと理解はしていないと思われますが)。今回の交響曲第4番は、マーラーの他の交響曲よりも編成は小さく演奏時間は短めで、また変化が多く聴きやすかったのかもしれません。今回の演奏を聴いて、守備範囲がとても狭い私が「マーラーの他の楽曲にもチャレンジしてみようかな?」と思えてきたので、指揮の川瀬賢太郎さん、メゾソプラノの福原寿美枝さん、そして札響の皆様に感謝です。なお今回ソプラノ秦茂子さんの代役として舞台に立たれたメゾソプラノの福原寿美枝さんは、ネット情報によると指揮の川瀬賢太郎さんとお互いに信頼関係があるとのこと。年齢差があるお二人、同じ音楽を通じて思いを一つにできるなんて素敵です。そして、声楽とオケの組み合わせってイイですね!いつになっても良いので、ドイツレクイエムの演奏をきっと聴けますように。


前半はシューマン「ピアノ協奏曲」。指揮者・ソリストが登場してすぐに演奏が始まりました。最初から全力で来る冒頭!オーボエから続く弦、そしてそこに重なるピアノの低音の厚みに鳥肌。その後もピアノがオケの伴奏にまわったり逆に主役に躍り出たり、変化しながらも音楽が生きて続いていて次々と違った表情を見せてくれました。長めのピアノ独奏では、ピアノ一台でまるでオケのような奥行きのある演奏!ただただ圧倒されました。ここにオケが自然にシンクロしていくのが、あまりにも自然でその時はなんとなく聴いていましたが、後から思うとすごいなって。協奏曲ってイイなと改めて思います。第2楽章。ピアノがかわいらしい淑女のように登場して、リズムが心地良いです。ピアノは優しそうなチェロや木管と会話しているようで、妄想がはかどります。しかしこの小さなレディはタダモノではなさそうな、大胆さや強さも持ち合わせているように私は感じました。そのまま続けて第3楽章へ。この楽章がもうめちゃくちゃ良かったです!ピアノの音の深みがさらに増し、ダイナミックな演奏に引き込まれました。レディは広い世界に飛躍したんですね?それでも前途洋々ではなく困難な道も待ち構えているようで、時折ちょっと不安そうな胸の内を垣間見せるのがぐっときます。そして表情がめまぐるしく変化するピアノに寄り添うオケがとっても素敵。あの不穏な冒頭から始まって、ついにここまで来たんだなと希望が見えるフィナーレが清々しく、聴いていて最高の気持ちになれました。

www.sso.or.jp


カーテンコールで何度も戻ってこられた指揮の川瀬さんとソリスト藤田さん。川瀬さんがピアノのイスの座面をささっと手で払い(会場に笑いが起きました)、藤田さんに着席をすすめてから川瀬さんは指揮台に腰掛けて、ソリストアンコールが始まりました。土曜夜公演ではモーツァルト ピアノソナタ第5番 ト長調 K.283 第3楽章。先ほどまでのシューマンとは雰囲気が変わり、明るくスキップしているような楽しい音楽。私達もリラックスして楽しみました。藤田さん、協奏曲での大熱演の後、ソリストアンコールまで素敵な演奏をありがとうございました!


後半はマーラー交響曲第4番」。鈴とフルートから始まった冒頭からインパクト大で、ヴァイオリンに続いてチェロと一緒にコントラバス7台がメロディを奏でたのが新鮮でした。この後もコントラバスが目立つシーンは多く、今回のロビコンがコントラバスになった理由はこれかも?と勝手に想像。全員合奏の盛り上がるときに各木管が楽器を高く持ち上げて演奏したのに驚き、楽譜にそんな指示があるの?なんのために?と個人的にとても気になっています。しかし基本おとぎ話のような雰囲気で楽しく聴けました。第2楽章はホルンから牧歌的に開始。調弦の違うヴァイオリンによるコンマスのソロが妖艶な雰囲気で、おとぎ話の世界の空気を変えていたのがとても印象的でした。第3楽章、はじめのチェロパートに心奪われて、ヴァイオリンや木管に主役が移っていくゆったりと美しい音楽を楽しめました。コンマスのソロも前の楽章とは違った美しさ。時折激しくなったり舞曲のようなリズムがあったりと変化が多く、ただのお花畑ではないんだなとなんとなくわかりました。第4楽章、演奏途中にメゾソプラノの福原寿美枝さんが静かに舞台へ。拍手でお迎えするタイミングはなく、すぐに歌が始まりました。ドイツ語はわからなくても、歌声は直接ハートに響いてきます。どの楽器や演奏もそうではあるのですが、特に人の声は生演奏が良いと私は再認識。天上世界を歌っているとはいえ、地に足をつけているというか、絵空事ではない人間らしさのようなものを私は感じました。美しい歌の合間に、冒頭で聴いた鈴がシャンシャンシャンシャンと入ってきたのが印象に残っています。消え入るようなラスト、ハープのこんな低い音を私は初めて聴いたかも。私はこの曲が意図するところを正しくわかってはいないと思われますが、演奏そのものは最初から最後まで楽しく聴くことができました。素晴らしい演奏をありがとうございました!


ヴァイオリン神尾真由子さん(チャイコフスキー国際コンクール2007で第1位)の神がかった演奏に打ちのめされた、前回2021年5月の定期演奏会のレポートは以下のリンクからどうぞ。後半「シェエラザード」では、コンマス田島さんの独奏もたっぷり聴けました。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

ブラームスが自身のコンサートの前に一人きりでホールのピアノの前に座り、演目にあるシューマンのピアノ協奏曲とベートーヴェンの合唱幻想曲を必死に練習していたという逸話があります。名ピアニストであり、この時は既に40代で大家の仲間入りをしていたブラームス。そんな彼でも、大先輩の作品は全力で準備しなければ舞台に立てないと考えていたようです。他にも耳よりエピソードが盛りだくさんの『ブラームス回想録集』全3巻は超おすすめです!参考までに、弊ブログの愛が重いレビュー記事は以下のリンクにあります。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。