自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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新堀聡子 ピアノリサイタル(2021/6) レポート

ウィステリアホールの企画構成とピアノ伴奏でいつも私達を楽しませてくださっている、ピアニストの新堀聡子さん。今回はソロリサイタル、しかもオールブラームス!聴きたいに決まってます!私は早い段階でチケットゲットし、当日を楽しみにしていました。

今回の会場はふきのとうホール。私は2019年12月にピアノ四重奏(その時のメインもブラームスでした)を聴いて以来でした。ふきのとうホールの主催公演は休止が続いているものの、貸しホール事業は行われているようです。今回は自由席でしたが使える座席は決まっていて、最前列を空けた上で一席飛ばしの収容率50%以下での開催でした。


新堀聡子 ピアノリサイタル
2021年6月25日(金)19:00 ふきのとうホール

【演奏】
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームス

ピアノはベーゼンドルファーでした。またプログラムノートは新堀さんご自身によるものでした。


もう感激……!五感をすべて預けて「浸れる」感覚、最高でした!私はピアノはまったく弾けませんし、クラシック音楽鑑賞を趣味にしてたかだか数年です。それでもブラームスピアノ曲が好きで好きで、今まで様々な録音を聴いてきました。そして初めて聴いたピアノ独奏曲の生演奏が、今回の新堀さんの演奏で本当によかったです。最晩年の小品の慈しむような音楽も、20代の感情迸るソナタも、そしてすべてにおいてブラームス自身が大事にしていたバス(低音)の効かせ方も、私が思う「ザ・ブラームス」な演奏。新堀さんの演奏を通じて、あこがれのブラームスに出会えたんです!私は胸がいっぱいになりました。この演奏をブラームス本人が聴いたらきっと喜んでくれるのでは?いえ私をはじめ、会場で聴いていた約100名のお客さん達がなにより喜んでいました。新堀さんのような素晴らしいピアニストがいらして、良いホールで演奏してくださり、すぐに聴きに行ける――私、札幌に住んでいてよかったと改めて思います。


濃い青のノースリーブドレスで舞台に登場した新堀さんはすぐに演奏開始。最初はブラームス最晩年のピアノ小品集から、3つの間奏曲 op.117。1曲目の「我が心の痛みの子守歌」の良さといったら!慈しんでいるのは幼子ではなく、老いた自分自身ですよね。ひとつひとつの音を大切に弾いてくださるその演奏に、私は夢を見ているような気持ちになりました。2曲目、私がブラームスにハマるきっかけとなった大好きな曲です。ああ泣ける……!主旋律も素敵ですが、重なる低音部分が個人的にとても好きで、この時の演奏ではその低音部分がよく聞こえてうれしかったです。最後は低音をきかせて締めくくり。その低音から続いているように3曲目が始まりました。はじめは低音でぽつぽつと語るよう。中盤の高音のメロディも厳選した音の響きがかえって雄弁で、個人的なツボに容赦なく刺さります。まったく派手さはなく、音も少ないop.117が、こんなにドラマチックで胸に刺さる演奏で聴けるなんて!私は最初の演奏から魂を持って行かれるほど入り込みました。

次に、自作の主題による変奏曲。作曲家20代前半の作品です。ニ長調って、確かブラ2やヴァイオリン協奏曲もそうですね。40代で大傑作を生み出すよりずっと若い頃に、同じ調性で自作の主題を使って変奏曲をしかもピアノ独奏で作ったというのが、なんだかブラームスらしいなと私は思います。この「自作の主題による変奏曲」、ブラームスの変奏曲の中では少しマイナーかも?でも私ははじめに提示される穏やかな主題から最後まで大好きです。先ほどのop.117よりずっと音が増え、演奏姿を拝見していても手が低音や高音に跳躍する大きな動きがあり、やはり「若さ」が感じられます。最初の主題、静かにゆったり語るような音楽にうっとり。大きな音ではないのにホールいっぱいに響き、余韻が残る感じだったのが印象に残っています。次々と変奏が続き、私は高音の穏やかなメロディと同時に重なる低音がとても素敵だなと聴き入っていました。後半穏やかな空気が一変し(短調に?)、パワフルさの中に激しい感情や哀しみを秘めたような感じに。更に低音が効いて音に厚みが増した演奏を聴き、私は胸打たれました。ラストは再び穏やかな変奏になり、静かに締めくくり。この最後の一音が私は忘れられません。やはり録音ではわからない、ホールに響く余韻も含めて音楽なのですよね。もちろん素晴らしい演奏があってのことです。


後半はピアノソナタ第3番。作曲家20歳の作品で、最後のピアノソナタです。全5楽章の大作。私はブラームスの3つのピアノソナタはどれも大好きですが、特にこの3番はシューマン夫妻と出会った後に作曲されたこともあり、思い入れが強いかもしれません。第1楽章、全力でくる冒頭にまずガツンとやられます。その後も着実に歩みを進めながら展開していく、ピアノ独奏曲なのにとんでもないスケールの大きさ!そして内に秘めたエネルギーがすごいです。演奏は、パワフルかつ重厚でありながら「若さ」ゆえの輝きも感じられ、楽章終わりに高みに上り詰めたときは後光が差しているかのようでした。続いて詩人シュテルナウの詩「若き恋」を引用している第2楽章。この美しさ、ああ素敵すぎ……。思い人との抱擁をこんなふうに表現しちゃうなんて、ほんっとブラームスってピュア!きれいな高音と控えめに寄り添う低音が一体となった美しい音楽が心地よいテンポで奏でられ、ずっと聴いていたいほどでした。第3楽章は、全体的に対称となっている曲の折り返し地点。ダイナミックで情熱的に踊っているような、この個性的な楽章が私はとても好きです。高音と低音が呼応しながら進む音楽、私は夢中になって聴いていました。途中、よく聴いていなければわからないレベルで何度か指がもつれた部分があったようですが、勢いを止めなかったのはさすがです。第4楽章では、第2楽章での素敵なメロディに、重なる低音が今度は「運命の動機」になって繰り返され不穏な空気が醸し出されます。美しい第2楽章があったからこそ、第4楽章の「運命の動機」が効いてくるのかも。低音は控えめなのに、ものすごいインパクトで聞こえました。そのまま続けて第5楽章へ。最後に肝となるこの楽章の演奏が本当に素晴らしかったです。細かくテンポを変化させながら、高音と低音が対話したり重なったり。音楽にまるで意思があるかのようでゾクゾクしました。そしてクライマックス直前の高速の演奏からラストまでが圧巻。新堀さんはお疲れを見せず見事に駆け抜け、気分が高まりのぼりつめた最後の一音まで完璧でした!ブラームスピアノソナタ第3番は、演奏時間の長さに加え音が多くそして基本パワフルなので、演奏には相当体力が必要だと思います。もちろん技術面でもかなり難易度が高いはず。それを最後の最後まで魂こもった、圧倒的な生命力を感じさせるピアノで聴かせてくださいました。演奏録音は多々あれど、マイベストはこの日の新堀さんの演奏で決まりです。素晴らしい演奏をありがとうございました!


新堀さんがマイクを持ってお話されました。2年前に企画したときは世の中がこうなっているとは思いもよらなかったこと、昨年開催ができず今年になったこと、お客さんへの感謝の言葉、そしてプログラムにもあった「音楽が皆様にとってかけがえのないものでありますように」といったことが語られました。こちらこそ、今の大変なご時世に演奏会を開催くださり、なによりこんなに素晴らしい演奏を聴かせてくださり感謝です。私には音楽とりわけブラームスが必要だと改めてわかりました。新堀さん、今後もぜひリサイタルでブラームスを取り上げてください。お願いします!

アンコールは、ブラームス最晩年のピアノ小品集の中から、6つの小品より 間奏曲 op.118-2。この選曲からもう感激です!最晩年の小品の中でも、特に光る珠玉の名曲。元気いっぱいで何も諦めていなかった若かりし頃のソナタ第3番からがらっと雰囲気が変わって、過去を静かに振り返る感じに。新堀さんは、はじめの美しいところも、中盤の切ないところも、終盤それらをすべて包み込む感じも、短い曲を最初から最後まで丁寧に演奏されていた印象です。楽しいだけでなく辛いことや哀しいことも色々あったはずなのに、それらを美化はしないけどすべて受け入れる。ああなんてやさしい世界!新堀さん、超大作を全力で演奏した後に、アンコールまで心を込めた素敵な演奏をありがとうございました!


WISTERIAHALL WEBCAST では、なんとアンコールで演奏された ブラームス op.118-2 を新堀聡子さんの演奏で聴けちゃいます!公開日はほぼ1年前の2020/07/17。皆様ぜひご視聴ください。


www.youtube.com


そして今は予告のみですが、WISTERIAHALL WEBCAST でブラームス 3つの間奏曲 op.117 も近日公開予定のようです。皆様要チェックですよ!

www.msnw-wishall.jp


ウィステリアホールの今年度(2021年シーズン)は、5つの公演すべてでブラームスが聴ける予定です。ありがとうございます!まずは7月の「2台のピアノのためのソナタ」、超楽しみです!

www.msnw-wishall.jp


今年はじめ(2021年1月)にウィステリアホールで聴いた「ピアソラ生誕100周年記念」演奏会レビューは以下のリンクからどうぞ。新堀さんのピアノに、札響の岡部亜希子さん(ヴァイオリン)と小野木遼さん(チェロ)によるアルゼンチンタンゴの数々、とっても素敵でした! 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

舘野泉ブラームス(ピアノ・ソナタ第3番、ピアノ協奏曲第1番 他) CDについて」の感想記事へのリンクも置いておきます。素晴らしい録音を残してくださったことに感謝です。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

ブラームス回想録集』では、ブラームスからピアノや作曲を教わった人達のリアルな証言が読めます。自作品の低音を生徒が弱く弾くと怒ったとか、「低音(バス)は旋律より大事」「変奏曲をやるのが一番お利口」等、素人の私でも「お?」と思うものはたくさんありました。弊ブログの愛が重い感想記事は以下のリンクからどうぞ。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。