自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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札幌交響楽団 第639回定期演奏会(土曜夜公演)(2021/7)レポート

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尾高忠明さん×小曽根真さん×札幌交響楽団!絶対に聴きたい!と、私は年間プログラム発表当初から楽しみにしていた公演です。以前Eテレ『らららクラシック』で、小曽根さんがクラシックの世界に足を踏み入れるきっかけを作ったのが尾高さんだった(「モーツアルトの協奏曲ならなんでもいいから」と無茶ぶりしたんだそう)と知り、私はぜひその最強タッグを一度生演奏で聴いてみたいとずっと前から願っていました。

なお公演に先立ち、小曽根真さんからのメッセージ動画が札響公式YouTubeチャンネルで公開されました。小曽根さん、Tシャツにでかでかとモーツァルト


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また、今回の『札響オンラインロビーコンサート』はトランペット四重奏!オケでは大迫力の演奏が多いトランペット、室内楽のあたたかで繊細な演奏も似合いますね。無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。

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札幌交響楽団 第639回定期演奏会(土曜夜公演)
2021年7月10日(土)17:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
尾高忠明

【独奏】
小曽根真(ピアノ)

管弦楽
札幌交響楽団(ゲストコンサートマスター:森下幸路)

【曲目】


小曽根真さん、もうすごい……すごいでは言葉足らずでも、すごいです。奇をてらった演奏ではないのに、しかも演目は王道クラシックなのに、思わず身体が動くような、血が騒ぎ「乗れる」音楽。グルーヴ感というんでしょうか?私は演奏の細かな部分に気づける素養はなく、また「(小曽根さんが)ジャズピアニストだから」という視点では語れないのですが(そもそもジャズがなんたるかわかってないので。クラシックだってあやしいですが)、あえて言うなら「小曽根真さんだから」こそのピアノに、自分でも知らなかった感受性を刺激され、なんというか超絶気持ちよかったです。私は小曽根さんがどのようなお考えで演奏に臨んでおられるかのヒントを知りたくて、BSP『クラシック倶楽部』の小曽根さん登場回の録画を見直しました(小曽根真×富士山 - クラシック倶楽部 - NHK)。そこで小曽根さんがお話されていたことをいくつかピックアップしてご紹介します。

  • クラシックの場合、譜面に書いてあることをちゃんと弾かなきゃいけない。
  • (即興の要素は)モーツァルトなんかは、僕が音を変えようとすると楽譜の向こうから「どうぞどうぞ」「そこはその場所だよ」と投げかけてくる。
  • (「ボーダーレス」について)音楽という言語にジャンルは必要無い。原語の表面的なものは全部違っても、すべて表現したいものは同じ人間の気持ち・感情・物語。
  • 僕の場合は自分が弾いているにもかかわらず、それをお客さんとして聴いている感覚がある。
  • 会場にいらっしゃるかた(この時は富士山や撮影スタッフ)に、エネルギーを頂いて、即興が出てくる。


他にも興味深いお話が盛りだくさんで、お話ぶりに謙虚さやお人柄の良さがにじみ出ていたのもとても印象的でした。即興って、当たり前かもしれませんがデタラメに弾いているわけではないんですね。作曲家とその作品に真剣かつ誠実に向き合うからこそ、「遊びしろ」の部分にその時どきの感情が出せる。さらにそれは、独りよがりではなくその場の空気と一体になって生み出されるもの。小曽根さんの演奏に、同じ空気を共有する人たちが夢中になれるのも頷けます。また長く第一線で活躍されているかたはご自分を客観視できていて、やはり謙虚だと思います。「ボーダーレス」の境地だって最初からそう思えたのではなく、努力と経験の積み重ねによるもののはず。そして、積み上げてきたものがあるからこそ、クラシックという既存の枠を尊重しながらも、そこにその瞬間だけのアツイ感情を乗せる「ボーダーレス」な演奏ができるのですよねきっと。小曽根さんは札響と同じく今年60歳。レジェンドと呼ばれても、そこにとどまっているのはもったいない勢いとパワーがおありです。年齢で区切る、それこそ「ボーダー」に意味は無いのでしょう。今回、小曽根さんの演奏に私達もエネルギーを頂きました。これからも「ボーダーレス」な演奏で私達を驚かせてください!時々は札幌にもいらしてくださいね。

また、他の演目についても私は自分なりに楽しく聴けました。交響曲や協奏曲で親しんできたシベリウスチャイコフスキーの物語の音楽はもちろんのこと、なにより個人的に少し苦手意識があった武満徹を「素敵」と思えたのが大収穫でした。武満は札響と縁がある作曲家。「1982 武満徹世界初演曲集」が先日(2021/07/07)発売されたばかりですし、今後も札響の演奏会で様々な作品が取り上げられると思われます。私、これから少しずつでもその良さをわかっていけそうな気がしています。

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最初は武満徹「3つの映画音楽」。弦のみの編成です。1曲目「訓練と休息の音楽」は、洋画のBGMのような高音弦の音色が大人っぽく、低弦のピッチカートが刻むリズムにドキドキ。掴みの曲に、これなら私でも聴ける!と素直にうれしくなりました。2曲目「葬送の音楽」は、妖しげで悲鳴のような響きと支える低弦にザワザワ。「乱」に似ているかも?と一瞬思いましたが、それよりはマイルドで私にも聴きやすかったです。そして3曲目「ワルツ」!哀しげで艶っぽいワルツ、なんて素敵なんでしょう!ヴァイオリンの美しいところも、途中でチェロが主役になったところも全部良くて、私は一瞬でこの短い曲のとりこになりました。まさかこの私がタケミツで胸キュンなんて!こんなの初めて!そしてカーテンコールでは、尾高さんはチェロパートに起立を促し、客席からは盛大な拍手がおくられました。


管楽器打楽器の皆様が入場し、編成は大所帯に。いよいよソリスト小曽根真さんによるラフマニノフピアノ協奏曲第2番です。土曜夜公演での小曽根さんの衣装は、背中側の裾が燕尾服のように長い、えんじ色のサテン生地のシャツ。どうやら日曜昼は色違いの青いシャツだったようです。第1楽章、冒頭の鐘の音のような低いピアノの音から強烈なインパクト。オケが参戦し、hitaruに弦が響き渡る最初からクライマックスな迫力ある演奏に引き込まれました。ピアノがメインになってからの重なる木管にパワフルな金管も素敵!この曲はオケも良いですよね。しかし今回はやはり小曽根さんのピアノの存在感!ただ力任せに弾いて目立とうとしているわけじゃなく、オケの演奏との重なり方が絶妙だと感じました。例えば最初の弦の旋律が繰り返されたときに合間に入ってくるピアノが、どちらも遠慮してないのに両方ちゃんと存在感があって聞こえ、お互いに高め合っている感じ。協奏曲ってやはり贅沢な体験だなと改めて思います。第2楽章は、穏やかなオケをバックに、ロマン派後期のピアノ小品のようなピアノにうっとり。ここはジャズ風や演歌調ではなく、純粋に若さや瑞々しさを私は感じました。そしてオケと一緒にのぼりつめた後の、小曽根さんのカデンツァに耳も目も釘付けに。低音から高音へ駆け上るインパクトがすごくて、羽化?ブレイクスルー?と勝手に妄想。弦が一度ピッチカートでポンと入ったのも印象に残っています。そして聴き所しかない第3楽章へ。独特のリズム感を完璧な演奏で聴かせてくれるオケと、そこに重なる唯一無二のピアノに気分があがります。元々音が多い曲ですし、小曽根さんがどれだけオリジナリティーを発揮したのか、私に正確なことは言えません。それでも華やかとか厚みとかそんな一般的な形容じゃ足りない、人の感情をすべて演奏にのせたようなピアノがすごかったです。その圧倒的なオーラに聴いている私達も血が騒ぎました。こんなの初めて!ラストのジャンジャカジャン♪までピアノがオケと一緒に全力疾走、素晴らしいです!

演奏後、小曽根さんがピアノのフタを閉じました(オケの皆様のお姿が客席から見えるよう配慮されたのかも?)。何度もカーテンコールで戻ってこられた後、小曽根さんは自らピアノのフタを開けて、ソリストアンコールに。土曜夜公演の演目は小曽根真さん作曲「ガッタ・ビー・ハッピー」テレビ朝日系『題名のない音楽会』でも演奏された曲です。ジャズのようなスイングが効いた音楽で、テレビで聴いたときとは少しアレンジが違っていたかも?上半身は忙しく鍵盤の上を動いて、足元はタップダンスのように床を鳴らし、終始ノリノリでの演奏。終わる直前に小曽根さんは一瞬沈黙して客席に視線を向け、会場から笑いが起きました。そしてhitaruのかしこまった空気をうんと楽しいノリに変えた演奏は締めくくり。拍手鳴り止まない会場に、小曽根さんは一度は舞台袖からオケに向かって両手でバイバイの仕草をしていらしたにもかかわらず、その後も舞台へ戻ってきてくださいました。小曽根さん、協奏曲での大熱演の後、ソリストアンコールまで素晴らしい演奏をありがとうございました!超楽しかったです!www.sso.or.jp

 

後半1曲目はシベリウスペレアスとメリザンド組曲。同じ物語を題材にした作品では今年2021年4月定期にフォーレの演奏がありました(そちらも大変素晴らしかったです!)が、今回はシベリウスです。札響演奏歴は過去に1回、その2007年10月も尾高さん指揮とプログラムに書かれていました。編成は金管ナシで、打楽器はティンパニ、大太鼓、トライアングル。フルート1(ピッコロ持ち替え)、オーボエ1、イングリッシュホルン1と他の木管は2つずつ。あと弦の人数はやや少なかったです。冒頭、低音かつ哀しげな弦にゾクゾクし、最初から心奪われました。シベリウスの弦、私大好きです。シベ2の低音金管がパワフルな箇所に似たところが出てきましたが、今回はチューバやトロンボーンがいないため木管によるやわらかな印象。そしてイングリッシュホルン!哀しげな響きがとても印象的、それに続くチェロパートもツボです。雷鳴のような大太鼓がインパクト大で、それにあわせた弦の高速の演奏も忘れられません。シベリウスさん、相変わらず弦への要求がハイレベルでエグいですね(褒めてます)。トライアングルから始まるワルツ風のところでは愁いを帯びた艶っぽい弦にやられ、私はこんなワルツがお好みなのね?と自分で再確認。ティンパニからのイングリッシュホルン再び。今度は2つのクラリネットも哀しげに歌うように入ってきて、ここでの弦はピッチカートでリズムを刻んでいました。木管や他の弦がメロディを演奏している間、ヴィオラがずっと蜂の大群のようなうねる音を繰り出していたのも印象に残っています。全員合奏の明るいところを経て、葬送のようなラストがとても美しく、静かに締めくくり。なおカーテンコールでは、尾高さんははじめイングリッシュホルンのみ、2回目はイングリッシュホルンクラリネットの奏者に起立を促し、客席からは盛大な拍手がおくられました。


金管打楽器ハープが加わり、木管と弦も増員して、ラストはチャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」。このシェイクスピアの有名な物語も、様々な作曲家によって音楽がつけられているようです。今回取り上げられたチャイコフスキー若かりし頃の作品、私はてっきりオペラの序曲なのかと思ったら、オペラは関係なくこの曲だけで完結した世界なんですね。クラリネットファゴットによる重々しい始まり方に、私はチャイ5の冒頭クラリネットによる運命の動機を思い出しました。低弦にぞわぞわ。その後の大迫力戦闘モードがカッコイイ!トランペットはじめ金管が効いてます。RPGのBGMみたい……という形容ではむしろ失礼かもと思えるほど、管弦楽のスケールが桁違いで素晴らしいです。穏やかになってからのヴィオラのメロディが素敵。牧歌的なホルンと美しいハープをバックに、フルートとオーボエが幸せな感じ。その後運命が急展開するかのような弦の高速の演奏がツボでした。そして再び戦闘モードに。チャイコちゃん男前!音楽の終盤は美しく、最後は力強い締めくくり。三大バレエのキラキラ・かわいらしいイメージとは違った、パワフルな音楽に圧倒されました。私、チャイコフスキーのことをまだまだ知らないみたいです。


今回の定期は特に盛りだくさんで、超お腹いっぱいの幸せな気持ちになりました。尾高さん、札響の皆様、今回も最高の演奏をありがとうございました!会場がkitaraに戻ってからの演奏もとても楽しみにしています!


前回2021年6月の定期演奏会では、ソリスト藤田真央さんによるシューマンのピアノ協奏曲が聴けました。藤田真央さんのシューマン、想像を遙かに超える素晴らしさでした!弊ブログのレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。 

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また、小曽根真さんと藤田真央さんはテレビ朝日系『題名のない音楽会』で共演されています(2021.04.17放送)。藤田さんは7歳の時(!)、小曽根さんのモーツアルト「ジュノム」の生演奏を聴いて小曽根さんのファンになったのだそう。また、小曽根さんは「クラシックは完成度が高いから、即興を同じレベルでやろうとすると何も弾けなくなる」と仰ってました。謙虚なかただからこそ重みがある発言ですよね。私は番組を大変興味深く拝見しましたが、正直30分だけではもったいないと思いました。ぜひ特番での共演企画を!お待ちしています!

www.tv-asahi.co.jp


今回のプログラムによると、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番」の札響初演(1968年2月21日・指揮:奥田道明)でのソリストはなんと舘野泉さん!私、聴いてみたかったです(でもその当時まだ生まれていない・苦笑)。なお弊ブログに舘野泉さんによるブラームスのCDを聴いた感想文をアップしています。よろしければ以下のリンクからどうぞ。 

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。