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仙台フィルハーモニー管弦楽団 第355回定期演奏会(金曜夜公演)(2022/05) レポート

www.sendaiphil.jp


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↑プログラムノートが仙台フィルの公式サイトで公開されています。


私にとっては初めての仙台フィルです。指揮・飯守泰次郎さんのフィナーレ第1弾となる、オールブラームスのプログラム。2回公演のうち、私は金曜夜公演を聴きました。なお翌日の土曜昼公演は全席完売だったそうです。


仙台フィルハーモニー管弦楽団 第355回定期演奏会(金曜夜公演)
2022年5月6日(金)19:00~ 日立システムズホール仙台・コンサートホール

【指揮】
飯守 泰次郎

【ピアノ】
菊池 洋子

管弦楽
仙台フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター:西本幸弘)

【曲目】
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
ソリストアンコール)ブラームス(A.コルトー編曲):子守歌 作品49-4

ブラームス交響曲第4番 ホ短調 作品98


札幌から仙台へはるばるやって来て、この演奏を聴けて本当によかったです!ブラームスを愛してやまない私ですが、ここしばらく彼の管弦楽作品の生演奏を聴く機会がありませんでした。その渇望感を十二分に満たしてくださる、熱量高い本気の演奏をありがとうございます!演奏と会場の空気から、飯守マエストロと仙台フィル奏者の皆様そしてファンの皆様との信頼関係がうがかえました。ブラームスが原点回帰した円熟期の作品である交響曲第4番では、骨太で重厚感ある演奏の中でも、各旋律が素敵に響く歌心が素敵。また音楽がプツプツ途切れることなく流れるように歌っていると私は感じました。そして個人的にとてもうれしかったのが、ブラームス20代の作品であるピアノ協奏曲第1番の良さに気づけたことです。他の3つの協奏曲と4つの交響曲はいずれも作曲家40代以降の作品。それらの安定感と比べて、ピアコン1番の不安定さをどう捉えればよいか、今までの私は正直掴みかねていたのです。しかし今回のソリスト菊池洋子さんのピアノは、まさにその不安定さを魅力に昇華させた、大変素晴らしいものでした。溢れる情熱を抑えきれず余裕が無く前のめりな印象(もちろん演出としてそうなさったと拝察します)のピアノの響きは、内省的でありながら情熱的でひたむきな若き日のブラームスそのもの。これは後年の作品には見られない魅力!そんなピアノに私は心酔し、作曲当時の彼を思い胃がキリキリしたり涙したり。私が作品の世界観に没頭できたのは、菊池さんのピアノに加えて、ピアノと密に絡み合ったオケのお力も大きいです。今回の演奏を拝聴して、私はようやくブラームスのピアコン1番を愛せるようになりました。ありがとうございます!今後叶うことなら、菊池さんには他のブラームス作品、特に20代前半のピアノ・ソナタ3曲をぜひ演奏して頂きたいです。若き情熱迸る感じの、きっと素晴らしい演奏になると思います。

開演前にコンサートマスターの西本幸弘さんによるプレトークがありました。以下、私が聞き取れた範囲でレポートしますが、もし大きな間違い等がありましたらどなたでもご指摘くださいませ。なお公式YouTubeチャンネルで西本さんがお話しした内容とも共通するところがあるそうです。今回は、ブラームスの若い頃の作品・ピアノ協奏曲第1番と、円熟期の作品・交響曲第4番の「コントラスト」を楽しんで頂きたいとのこと。協奏曲は、ソリストの菊池さん自ら希望された演目で、第1楽章では室内楽のような響き、第2楽章では祈り、第3楽章では情熱・若さ・ジプシー風な旋律を意識。またブラ4は起承転結の「結」にあたる、本来のブラームスの姿に帰ってきた作品で、西本さんは特に冒頭部分に思い入れがあるそうです。そして飯守マエストロはスコアには“sing”とたくさん書かれてあり、歌うように演奏することを意識したい。「アコーギグ」な、糸を織りなして布となる、演奏の度に違ってくる音楽を毎回楽しみにしている。といったお話でした。また、仙台フィル公式LINEアカウントについての宣伝もありました。


前半はブラームス「ピアノ協奏曲第1番」。第1楽章、重厚なオケから既にブラームス!高音弦のメロディを重低音で追いかける低弦にしびれる!ティンパニの鼓動が、周りの期待が重すぎた頃の若き日のブラームスが自分を鼓舞しているようで、ゾクゾクしました。感情のうねりを体現したオケの長い序奏を経て、ついに独奏ピアノが登場。はじめはどこか不安げだったのに、ためらいを振り切って高音へ駆け上る気迫!独白のようなピアノ独奏では、低音が効いて一歩一歩踏みしめながら前へ進む感じが胸アツ!そこに優しく包み込むように寄り添う木管群と続く弦、奥行きを感じさせるホルンの響きも良かったです。そこからの縦横無尽に鍵盤を全力で鳴らすところが、抑えきれない感情が噴出したようで鳥肌モノでした。こんなにキツイ感情を抱えているのに、ブラームスらしいキラキラしたピアノもあり、その演奏も印象的でした。オケの序奏を再現したピアノが素晴らしい!穏やかに歌うところを経て、楽章締めくくりのクライマックスでは、オケの演奏と絡み合いながら、高音による心の叫びのようなドラマチックな響きのピアノが圧巻!私はただただ圧倒され、若き日のブラームスの心情を思い胃がキリキリするほどでした。続いて「祈り」の第2楽章。ゆったりと穏やかなオケと、静かに語らうようなピアノが素敵。比較的音が少ないピアノは、現実を噛みしめながらも、ゆらぐ感情をとても繊細に表しているようでした。感極まったように低音から高音へ上るオケと続くピアノが美しいこと!私は自然と涙が溢れてきました。木管がゆったりと歌ったのに寄り添う、低音が効いた力強いピアノも素敵でした。天に昇ったようなオケによる締めくくりも印象に残っています。そして情熱的な第3楽章へ。まずはじめのピアノ独奏にガツンとやられました。うまく言えないのですが、高音と低音の進む方向がちぐはぐ(不適切なら申し訳ありません)なのが、内なる思いに行動が追いつかない前のめりな感じで、まさに若き日のブラームスと私は感じたのです。疾走するピアノを追いかけたオケの重厚な演奏も良かったです。ああこの速いテンポのピアノは、第1楽章で一歩一歩踏みしめながら前へ進んでいたあの旋律では?今度は気がせくように駆け抜け、また切ない中でも明るさが見えたのに私は胸打たれました。上へ上へと目指してきたにもかかわらず、ホルンの咆哮がキマって、高音から低音へ駆け下りるピアノ!ここまで説得力ある演奏を重ねてきたからこそのインパクト!素晴らしかったです!ピアノとオケが自然にシンクロしながら、深刻なところと明るいところを行き来し、フィナーレへ。第3楽章のはじめに登場したピアノの旋律が、今度は右手のメロディと左手の支えは同じ方向性になり、確実に前進する形に。ホルンの後、今度は低音から高音へ着実に上がっていくピアノ!もう迷いはないですね。穏やかに祝福してくれるような木管群に、清々しい弦の音色。ピアノもオケも希望に満ちていて、私は胸いっぱいになりました。ピアノの強奏を引き継ぎ、ラストはオケによる堂々たる締めくくり!ものすごい演奏を聴きました……。あまりの衝撃に、演奏後に私はしばし呆然となったほど。私の拙い文で綴ってもその感激をうまく表現できないのがもどかしい。ブラームスのピアノ協奏曲第1番、唯一無二の名曲を最高の名演奏で聴けて幸せです!聴けて本当によかった。ありがとうございます!

カーテンコールの後、ソリスト菊池さん自ら曲名をアナウンスして(なお休憩に入る前にも放送で曲名のお知らせがありました)、ソリストアンコールブラームス(A.コルトー編曲)「子守歌」。有名な歌曲のピアノ独奏版です。こちらも最高に素晴らしい演奏でした!先ほどの協奏曲の情熱迸る感じとはガラリと変わり、か弱い存在を慈しむようなやさしい響きのピアノ。なんて素敵なの……と私は思わず涙。メロディを、歌でいうところの1番は左手(低音)で、2番と3番は右手(高音)でゆったり歌うスタイルでした。美しく優しい調べ……どんなに作曲家本人が卑下しても、ブラームスは紛れもなくメロディメーカーだと私は言いたい。そしてその珠玉のメロディに重なる伴奏の安定感も素晴らしかったです。低音を長くのばして余韻を残す締めくくりも見事でした。一見厳めしい印象でも、ブラームスの本質は愛と優しさだと私は思います。菊池さんのピアノを通して、私は本来の姿のブラームスに会えた気がしました。大熱演の協奏曲からソリストアンコールに至るまで、ブラームスの本質に迫る素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半はブラームス交響曲第4番」。第1楽章。静かに始まる冒頭部分、素晴らしかったです!すっと懐に入ってきました。ピアコン1番のパワーみなぎるスタートもイイけど、ブラ4の円熟した落ち着きある出だしもイイ!高音弦が最初の楽想を繰り返している裏で木管が歌ったり、今度は木管が主役になったりと、途切れなく流れるような演奏に聴き入りました。私のイチオシの、チェロが主役になるところが素敵!また「コントラスト」は1つの曲の中にもあって、高音弦の悲劇的なメロディを、重低音で支えたり追いかけたりする重厚な低弦、この対比もとても良かったです。私は大好きなブラームスの低弦にしびれながら、高音弦の美しさにもハッとさせられました。ささやくようなところとパワフルなところのメリハリも、好対照だったと思います。ティンパニが印象的なラストは、冒頭の静けさとは対照的な全員参加の全力での重厚な締めくくり。続く第2楽章は、飯守マエストロによると「夜の葬送行進曲」。はじめの哀しげなホルンと続く木管群の荘厳な響き、その後の木管の穏やかな歌がしみじみ良かったです。どちらかというと葬送というよりは子守歌のような優しさや温かさを私は感じました(素人の思いつきです)が、心に染み入る素敵な演奏でした。ピッチカートでそっと寄り添っていた弦が、主役になってから奏でた旋律の美しいこと!また穏やかなところと深刻なところが、スイッチで切り替わるのではなくグラデーションで変化していったように私には感じられました。天に昇ったようなラストは、若い頃のピアコン1番に似ているかも?と思ったり。そしてこの曲の中で唯一明るい第3楽章へ。個人的には、場違いとも思える明るい楽章を作曲家があえて入れた理由はわからないけど、大好きな楽章です。はじめからテンションMAXの、パワフルで勢いある演奏に気分があがります。インパクト大のトライアングル!高音の華やかさに続く低音のコントラスト!ティンパニと弦のパンチが効いた低音にはゾクゾクしました。パワフルな中でも、時折登場するかわいらしい木管の歌が印象的。全員参加で思いっきり盛り上がった後、第4楽章へ。厳かな始まりに気持ちが引き締まります。ティンパニ木管金管、特にこの楽章に来て初めて登場したトロンボーンが最初からバッチリキメてくれました。弦の悲劇的で流れるような演奏がすごく良かったです。ホルンに支えられたフルートが透明感ある音色で悲愴感を歌い、その後の木管金管による温かみのある演奏もとっても素敵でした。熱量が頂点に達したクライマックスでのトロンボーンの重低音がカッコイイ!全員参加の全力での悲劇的な締めくくり。オケの本気が伝わってくる、熱量高い演奏でした!ブラームスの最初の協奏曲と最後の交響曲、この2つの重要な作品を、素晴らしい演奏で聴かせてくださりありがとうございます。20代の情熱的で前のめりな感じのピアコン1番も、円熟期に原点回帰した重厚感あるブラ4も、私はどちらも大好きです!


終演後、分散退場がユニークでした。会場スタッフではなく、コンマス西本さんがマイクを持ちアナウンスするスタイル(!)に驚きです。まずは仙台フィル公式LINEアカウントの宣伝(ぬかりないですね・笑)から入り、座席ブロック毎に退場の案内をされました。さらに驚いたのは、その間ずっと団員さん達が客席に大きく手を振り続けていたこと(!!)。大熱演でお疲れのところ、恐縮です……。演奏だけでなくこのような親しみやすい振る舞いも、地元で愛されている所以ですね。お客さん達も終始にこやかだったのが印象に残っています。そして地元民ではない私も調子に乗って、舞台に大きく手を振りながら会場を後にしました。ありがとうございました。楽しかったです!楽都仙台、また来ますね!

今回、私にとっては初の宿泊込みの遠征でした。昨年、仙台フィルのチェロ ソロ首席・三宅さんと首席・吉岡さんが出演された札幌でのチェロアンサンブルを聴いて以来、いつか仙台フィルさんを聴きたい!と願っていました。その望みが今回、大好きなブラームスで叶い、うれしかったです。ドキドキの初対面となった仙台フィルさんは、クオリティの高い演奏と親しみやすさがある素敵なオケでした。この出会いに大感謝!ちなみに今回は有効期限ギリギリの航空会社マイレージを使用。気持ちよく送り出してくれた家族にも感謝です。


私のホーム・札幌で聴いた演奏会レビュー記事をいくつか紹介します。

札響ではピアニストをソリストにお迎えしての公演が続いています。この日の4日前に聴いた「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック」(2022/05/03)では、ピアノ・角野隼斗さんによるガーシュウィンラプソディ・イン・ブルー」をはじめ、アメリカ音楽の魅力をたっぷり味わえました。指揮は札幌ご出身の若手指揮者・太田弦さん。太田さんは2023シーズンより仙台フィルの指揮者就任が決まっていますね。勢いのあるかたで、これからのご活躍に期待大です!

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チェロの三宅さんと吉岡さんが札幌で出演された演奏会はこちら。「ウィステリアホールプレミアムクラシック 11 チェロアンサンブル&ピアノ」(2021/08/29)。仙台フィル&札響のチェリスト4名の協演!豪華メンバーによる演奏で大好きなチェロをたっぷり聴けて、とっても幸せな時間を過ごせました。MC三宅さんによるトークも楽しかったです♪

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最高のブラームスに出会えた演奏会といえばこちら。「Kitaraアクロス福岡連携事業>安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」(2022/03/17)。オーケストラのような重厚なアンサンブルによる全身全霊での熱量高い演奏は、想像を遙かに超えるものでした。心を強く揺さぶられたこの日の演奏会を、私はずっと忘れないと思います。

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終わりにこちらも紹介させてください。「舘野泉ブラームス(ピアノ・ソナタ第3番、ピアノ協奏曲第1番 他) CDについて」。ブラームスのピアノ協奏曲第1番について、私は舘野泉さんの演奏録音2つを聴き比べして以来、その真の魅力とは何かを考え続けてきました。そして今回、菊池洋子さん×飯守マエストロ×仙台フィルによる素晴らしい演奏に出会えて、私はようやくこの曲を心から好きになりました。感謝しかありません!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。