自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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吉田誠&小菅優「ブラームス:クラリネット・ソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか」/佐藤晴真「The Senses ブラームス作品集」 (2020年11月25日発売)CDについて

今回はブラームス室内楽のCD2つを紹介します。いずれも発売日は2020年11月25日、日本人の若い演奏家による演奏です。私は2枚とも発売日前にネット予約。いざ手元に届いて聴き、期待以上の素晴らしい演奏にとてもうれしくなりました。今これほどまでの録音を世に送り出した若い皆様が、この先どんな演奏をして私達を驚かせてくださるのか、私は今わくわくしています。ブラームスに真正面から向き合う若い演奏家のかたたちと同じ時代を生きているなんて、私は幸せ者です。

ブラームスが特に好んだ楽器は、まず自身が名手だったピアノ、演奏経験があるチェロとホルン、朋友ヨアヒムのヴァイオリン、そして晩年に出会ったミュールフェルト(彼に出会うまでブラームスは作曲を引退するつもりでいたそう)のクラリネット、があげられるでしょうか。あとは合唱団の指導経験や多くの歌手との出会いがあり、歌曲もたくさん残しています。

私は「ブラームスの作品は全部好き」と言いつつも、今まで歌曲はほとんど聴いてきませんでしたし、室内楽もよく聴くのは弦とピアノが入ったものが中心でした。チェロ・ソナタのCDは山ほどコレクションして様々な録音を聴いてきた一方、クラリネットと歌曲はほぼノーマークで今に至ります。なお、私は歌曲のop.105-1とop.105-2はヴァイオリンとピアノ、op.105-2は歌曲のコンサートで生演奏を聴いており(いずれも2018年11月)、チェロ・ソナタ第2番はなんと佐藤晴真さんと大伏啓太さんによるライブ演奏を聴いたことがあります(2019年7月、下の方にその演奏会レビュー記事のリンクを置いています)。とはいえクラシック音楽を聴き始めてほんの数年のひよっこですし、専門的な知識はありませんので、レビュー内容はいずれも極めて個人的な感覚になるのをお許しください。


※当ブログはアフィリエイトを行っていないため、以下記事内に出てくる商品ページへのリンクはいずれもシンプルにCDの紹介です。

まずは、クラリネット・吉田誠さん、ピアノ・小菅優さんによる「ブラームスクラリネットソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか」です。リンク先の商品ページでは試聴可能です。森の中に佇むお二人、ジャケット写真がとっても素敵!

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タワーレコードのニューリリースに吉田誠さんと小菅優さんのメッセージが掲載されています。

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さらに「ぶらあぼ」にもお二人のメッセージが掲載されています。

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吉田誠さんはミュールフェルトの演奏へのアプローチ、小菅優さんはブラームス晩年のピアノ曲ソナタとの共通性と、深いところまでとことん音楽性を追求されている印象です。また、「偉大な芸術家達が集った、音楽と愛に満ちたクララ邸の小さなサロン」……彼らがまるで親しく会話するように音楽を楽しんでいた、クララを中心としたサロン。いちファンが入れる場所ではなかったのですが、私はとても憧れます。それを想像力を働かせてCDとして再現してくださったことに感謝です。そして「すべては出会いで始まります」……ほんとこれに尽きますよね。内向的で人当たりが良くなかったブラームスですが、人の縁には大変恵まれた人物だと思います。存命中に直接関わった人達はもちろんのこと、このように今の時代にも誠実に向き合う音楽家が何人もいるのですから。

CDの冒頭は歌曲が5曲、人の声ではなくクラリネットが歌います。ライナーノートには、なんと吉田誠さんと小菅優さんによる歌詞対訳が載っていました。「内容をより深く理解していただくため、原曲の歌詞とその対訳を掲載」したとのこと。私は歌詞対訳を読みながら演奏を拝聴したところ、歌詞で語られる字面通りの意味に加えて、その言葉が発せられた胸の内を垣間見たような気持ちに。クラリネットは、大きなホールでパワフルに歌う感じではなく、それこそ仲間うちで静かに語っている印象で、それがかえって心にしみました。続いてクラリネットソナタが2曲。私はクラリネットヴィオラに置き換えた「ヴィオラソナタ」として聴くことが多かったのですが、これはやはりクラリネットの曲ですね。もしかすると弦は雄弁すぎるのかも。クラリネットのやわらかな音がこんなにドラマチックにきこえるなんて、私は今まで気付かずにいたのが悔しいです。また、とにかくピアノが素敵すぎて。弦がいるとつい弦ばかりに注目してしまう私ですが、今回はピアノにも引き込まれました。ブラームス最晩年のピアノ小品よりはまだ情熱が感じられて、それでも何も諦めていない若者とは違う年輪が感じられるピアノ。まったくもう、引退を考えるのは早すぎたんですよブラームスさん!しかしこのブラームスのピアノに負けない、ミュールフェルトのクラリネットがいたからこそ世に出た作品でもあるんですよね。ブラームス晩年の作品を、吉田誠さんと小菅優さんによる演奏で聴けて本当によかったです。最後はシューマン「幻想小曲集」op.73。私はチェロとピアノによる演奏が耳になじんでいますが、本来はクラリネットとピアノの曲だそう。この演奏、私には不意打ちだったのです……。クラリネット、良いですね!例えがあれなのですが、チェロが「意中のあの人が振り向いてくれた!人生バラ色!」だとすれば、クラリネットは仲良しの異性の友達から突然告白されて、驚きや戸惑いや胸キュンや色々な思いがごちゃまぜになって、それでも心の奥底ではうれしいのに気付いてしまう、そんな気持ち。人生にドラマみたいなことはそうそう起きないですから、後者の方がよりリアルに響いてきます。こんなことしか言えなくてごめんなさい!しかし私はシューマン「幻想小曲集」op.73のクラリネットによる演奏が大好きになりました。チェロの演奏も変わらずに好きではあるのですが。

この先ブラームスの作品を取り上げてくださるなら、吉田誠さんには「クラリネット五重奏曲」を弦楽四重奏団と組んで演奏して頂きたいですし、小菅優さんには最晩年のピアノ小品集を全曲演奏して頂きたいです。お二人で一緒に演奏できる曲となると「クラリネット三重奏曲」がありますが、これはチェロが影の主役のような曲ですから、相性の良いチェリストがいらしたらぜひそのかたを加えたお三方で演奏お願いします。

実は札幌のふきのとうホールにて2020年12月に吉田誠さんと小菅優さんの演奏会が企画されていたのですが、開催中止となりました。ブラームスクラリネットとピアノのためのソナタ 第2番」やシューマン「幻想小曲集」op.73に、有名な子守唄を含む2人の歌曲、それにドビュッシーサン=サーンスという盛りだくさんな演目。しかしいつの日か必ず吉田誠さんと小菅優さんの演奏会が開催されることを願っています。その暁には、私は万難を排して聴きにうかがいます!


続いて、チェロ・佐藤晴真さん、ピアノ・大伏啓太さんによる「The Senses ブラームス作品集」。こちらもリンク先の商品ページで試聴できますよ。演奏姿が少しだけ拝見できるPR動画もあります。ジャケット写真は佐藤晴真さんお一人で、ドイツ・グラモフォンの黄色いロゴがまぶしい。ちなみにタワレコオリジナル特典のチケットホルダーには、CDのジャケット写真がそのまま使われていました。

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タワーレコードのニューリリースでは大絶賛されています。

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さらにUNIVERSAL MUSIC JAPAN のアーティストページには佐藤晴真さんご本人のコメントが、またSPICEにはインタビュー記事がありました。

www.universal-music.co.jp

spice.eplus.jp


収録曲についてどのようなお考えで演奏されたのか、アルバムタイトルへの思いなど、佐藤晴真さん自身の言葉でしっかりと語られています。「五感で感じる」は、おっしゃる通りですよね。音楽は耳で聴くだけではなく肌で感じるものだと、私も実感しています。ところで佐藤晴真さんがさらっとおっしゃっている「音楽する」という表現について。確かドイツ語では独立した単語があって(musizieren ムジツィーレン?うろ覚えです。間違っていたら指摘ください)、日本語にはぴったり当てはまる言葉はないようです。私が正しく理解しているかどうかは自信ないのですが、様々な思惑や言外の意味を持たせることから離れて、純粋に音楽そのものを「する」……これってまさにブラームスの音楽の精神なのでは?現在ドイツで学ばれているお若い佐藤晴真さんは、既に「掴んで」おられるのかも。なお、CDのライナーノートではなく、帯の小さな紙の部分にも佐藤晴真さんのメッセージがあります。そちらはぜひCDをご購入の上でお読みくださいね。

CDの最初に収録されているのは、佐藤晴真さんの十八番であるチェロ・ソナタ第2番。この自信に満ちあふれた演奏、聴く人すべてを圧倒するのでは?私はフルニエもロストロポーヴィチヨーヨー・マも普段よく聴いていて、優劣ではなくそれぞれに個性があって素晴らしいと思っていますが、佐藤晴真さんの演奏は彼らに引けを取らないと感じました。ただ技術面で正確に音をなぞるだけではこんな強力なインパクトにはならないでしょうから、曲そのものと背景について相当勉強された上で想像力を働かせて今この域に達したのですよね。20代前半でここまで!素晴らしい!そしてこの先10年後20年後30年後にどのような演奏を聴かせてくださるのか、期待せずにはいられなくなりました。続いて歌曲4曲をチェロが歌う演奏。op.105-1は、上で紹介した吉田誠さん・小菅優さんのCDにも収録されていますね。歌曲も血の通った人の心を感じさせる美しい「歌」で、何度でも聴きたくなる演奏でした。ブラームスの曲は、のっぺり弾くと途端に退屈なものになってしまう怖さがあると私は思っています。それを退屈どころか生命を感じさせる演奏で聴かせてくださるとは、おそれいりました。最後はチェロ・ソナタ第1番。はじめの方は「ちょっと慎重に演奏しているかな?」と少しだけ感じましたが、曲が進むにつれ勢いが出てきたようでした。低音に込められた、内に秘めたる力がぐっと来る感じが若き日のブラームスらしい。佐藤晴真さん、ブラームスの第2番だけでなく第1番もご自分のものにされましたね。もちろん、お若い佐藤晴真さんに併走し、弦の添え物ではない「ブラームスのピアノ」を見事に演奏してくださった大伏啓太さんのお力も大きいのでしょう。

チェロが活躍するブラームス作品はたくさんあるので、これから佐藤晴真さんがどんな曲を演奏なさるのか、私はとても楽しみです。近い将来「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」のソリストとしてオケと共演すると思われますし、その日が来るのを私は心待ちにしています。しかしその前に、大伏啓太さんというピアノの良きパートナーがいらっしゃるのですから、ピアノが入った室内楽をぜひ!中でも、ピアノとチェロにヴァイオリンが加わった「ピアノ三重奏曲」全3曲を、波長が合うヴァイオリニストとご一緒に!ちなみに二重協奏曲の初演のソリストと指揮者であるヨアヒム、ハウスマン、ブラームスだって、ピアノ三重奏曲第3番の私的な試演(譜めくりはクララ!)をしています。また作品番号8のピアノ三重奏曲第1番は、ブラームスが20歳でシューマン宅を訪問しシューマン夫妻と幸せな時間を過ごした頃の作品で、ブラームスの原点とも言える曲。ぜひともチェロ・佐藤晴真さん、ピアノ・大伏啓太さんとどなたかヴァイオリニストとのトリオでの演奏を拝聴したいです。好き勝手を言ってスミマセン。

なお私は2019年7月にふきのとうホールのランチタイムミニコンサートで、佐藤晴真さんと大伏啓太さんによるブラームス「チェロ・ソナタ第2番」のライブ演奏を聴きました。レビュー記事は以下のリンクからどうぞ。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

ものすごく上から厳しいこと書いてますね私……本当にごめんなさい!その時は演奏姿にビックリしてしまって。思えば20歳のまだ無名だった時にシューマンに期待ゲージMAXの記事を書かれ、早い段階からベートーヴェンの後継者と見られたブラームス本人だって、若い頃はがむしゃらだったに違いありません。佐藤晴真さん、素人の私が言うのもおこがましいですが、周りの雑音はどうぞ気にせずひたすら「音楽する」ことに専念してください。そしてふきのとうホールには、今度はぜひ通常の演奏会でいらしてくださいね。この先何度でもその演奏を拝聴したいです。

それにしても、ふきのとうホールさんの若手演奏家を見いだす目は素晴らしいです。小菅優さんはレジデントアーティストとして定期的に演奏されていますし、佐藤晴真さんが登場したランチタイムミニコンサートでは、同じく若手チェリストの水野優也さんの演奏も私は聴いています。現在は感染症拡大の影響で演奏会の中止が続いていますが、今の状況が落ち着いた暁には、通常の演奏会はもとよりランチタイムミニコンサートもご無理のない範囲で再開して頂きたいです。いちファンとして心待ちにしています。


そして今回ご紹介した2枚のCDとの聞き比べにおすすめ、私の愛聴盤もあわせてご紹介します。チェロ・石川祐支さん、ピアノ・大平由美子さんによる「ブラームス:チェロ・ソナタ(全2曲)」。ブラームスの2つのチェロ・ソナタはもちろん、シューマン「幻想小曲集」op.73とドヴォルザーク「森の静けさ」op.68-5もとっても素敵なんですよ。リンク先の商品ページで試聴できます。しかし上の2つの録音と聞き比べるなら、一瞬で終わる試聴ではなくCD本体で聴きましょう!

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お二人とも札幌を拠点に活動されています。昨年2019年12月には、札幌大通の地下鉄駅構内での駅ピアノのオープニングイベントにて演奏され、私も拝聴しました。こんなに素晴らしい演奏家があんな場所で(失礼)、本物の演奏をしてくださったのです。お二人には頭が下がりますし、札幌は音楽を聴く環境に恵まれているなとつくづく思います。また普段から、石川祐支さんは札響の演奏会で、大平由美子さんはライブハウスや動画配信で、その演奏を間近に聴けるのは本当にありがたいこと。しかし叶うことなら、お二人のデュオリサイタルをコンサートホールで私は聴きたいです。今年は開催中止となってしまいましたが、今の状況が落ち着いたらきっと演奏会が開催されますように。

また、石川祐支さんはトリオ・ミーナとしてチャリティー活動もされています。「Trio MiinA 第2回公演(無観客収録・無料配信)およびクラウドファンディングについて(2020年)」の記事は以下のリンクからどうぞ。なおリンク先の記事から、2019年12月の第1回公演(演目はブラームスピアノ三重奏曲第1番」ほか)のレポートに遡ることができます。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後に、『ブラームス回想録集』全3巻の愛が重い感想記事のリンクも置いておきます。ブラームスが若い頃にチェロを弾いていた話や、クララの家でのすごいメンバーによる私的な演奏会の数々、晩年のミュールフェルトとの交流など、耳よりエピソードが盛りだくさん。この先何度でも読み返したい本です。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。