プログラム発表当初から気になっていた公演です。しかし一次販売では望む席が取れず、私は二次販売を待ってチケットゲット。札響の定期公演が金曜夜&土曜昼で開催される最後の演奏会でもあり、また尾高惇忠「チェロ協奏曲」が正真正銘の「世界初演」となる金曜夜を選びました。
ちなみに私が聴いた2021年3月5日の金曜夜公演は3月28日にNHK-FMで放送されるそうです。皆様ぜひお聴きください!
なお、この日が世界初演となった「チェロ協奏曲」の作曲者・尾高惇忠さんが2021年2月16日に逝去され、その訃報が札響から発信されました。演奏会の前には舞台でも札響のかたからお話がありました。
はじめから公演は2021年3月と決まっていたものの、尾高惇忠さん存命中に演奏されたうえでせめて中継か録音でもご本人に聴いて頂けたら……とつい思ってしまった私。とはいえ感染症拡大の影響で演奏会の中止が相次いだ今シーズン、もし早い時期に開催予定されていたら演奏機会自体がなくなっていた可能性もありますから、結果として予定通りに演奏会開催されて良かったと捉えたほうがよいのかもしれません。今回、お兄様をなくされたばかりの尾高忠明さんは、いつものようににこやかに当たり前のように見事な演奏を聴かせてくださいました。ありがとうございます。作曲家ご逝去から日が浅い今言うことではないかもしれませんが、命に限りはあっても作品は生き続けるという「クラシック音楽」の本質を、この定期公演に居合わせたすべての人が感じ取れたと思います。生前の希望が叶った尾高惇忠さんも天国で喜んでいらっしゃるに違いありません。
札幌交響楽団 第635回定期演奏会(金曜夜公演)
2021年3月5日(金)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru
【指揮】
尾高忠明
【独奏】
宮田大(チェロ)
【管弦楽】
札幌交響楽団(ゲスト・コンサートマスター:小林壱成)
【曲目】
- リャードフ 「魔法にかけられた湖」
- 尾高惇忠 チェロ協奏曲(世界初演)
- (ソリストアンコール)J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第1番よりメヌエット、ジーグ
- ラヴェル 「マ・メール・ロワ」組曲
- ラヴェル 「ダフニスとクロエ」第2組曲
「新・定期」とは違って容赦ない「定期」。しかし私は自分なりに聴いた上で、やはり聴いてよかったと思います。お目当てのチェロ協奏曲は、自分が耳慣れたスタイルとは違っていましたが、演奏の凄みと人間の内面をえぐるようなただならぬ雰囲気に引き込まれました。世界初演の瞬間に立ち会える機会は二度と無いわけですから、聴きたいのであればその時の自分で聴くしかありません。とはいえ我慢してお勉強のように聴いたわけではなく、いつの間にか演奏に没頭していましたし、たとえその本質的な良さまで完全にはわからなかったとしても、今の自分のレベルで感じ取れるものは確かにありました。また守備範囲外(私の場合全体の9割5分までがそうなのですが)の作曲家の曲でも、その美しさを素直に味わいリラックスして聴けました。管弦楽の魔術師ラヴェル、素敵ですね!木管金管打楽器の活かし方が上手いだけでなく、弦もピッチカートだけでない個性的な奏法が色々とあって、個人的にはとても新鮮でした。なお私は今回も知らない曲ばかりを予習なしの丸腰で臨みました。
今回はゲスト・コンサートマスターとして小林壱成さんがオケを牽引してくださいました。田島さんはそのお隣で演奏。協奏曲以外ではコンマスのソロパートが多く、小林さんは観客にも目に見える形でその素晴らしい演奏を披露してくださいました。ありがとうございます!今後も時々は札響にいらしてくださいね。
1曲目はリャードフ「魔法にかけられた湖」。札響演奏歴は過去3回。そのうち2回までもが尾高忠明さんによる指揮で、尾高忠明さんの隠れた十八番とお見受けしました。プログラムノートによると、リャードフ自身が「おとぎ話的な絵画」という副題をつけているそうです。本シーズンのテーマ「Fairy Tale フェアリーテール~おとぎ話」にぴったりの選曲。木管のゆったりした響きにハープやチェレスタも加わり、さらに高音の弦がとてもキレイでした。下支えしている低弦が奥行きを出してくれて、まさに「絵画」のよう。8分ほどの短い曲に、私は聴き入りました。この後に控える世界初演の協奏曲の前に、美しい曲を聴いてリラックスできてよかったです。
2曲目はいよいよ世界初演となる尾高惇忠「チェロ協奏曲」です。プログラムノートはなんと作曲家ご本人によるものでした。それによると、尾高惇忠さんは自身の作品「独奏チェロのための瞑想」を宮田大さんがコンサートで演奏したのを聴いて、協奏曲の独奏チェロを宮田大さんに、指揮は弟さんの尾高忠明さんにと心に決めたのだそう。初演のソリストと指揮者は作曲者である尾高惇忠さんの希望通りとなったのですね。さらに縁あってオケが札響となったことに感謝です。ソリストの宮田大さんは黒シャツをラフな着こなし。30代前半のお若い宮田さんですが、第一印象ではその佇まいから余裕と貫禄が感じられました。オケの編成は大きく、金管・打楽器も多彩でした。曲の冒頭は独奏チェロのごく小さな音から入り、私は1週間前に聴いたハイドンの協奏曲のような美しさを一瞬期待したものの、甘かったです。心地よい美メロとは違う、妖しげな雰囲気。チェロのことを私はまだまだ知らないと痛感しました。しかしこんな曲を見事に弾きこなし、大編成のオケと対等に渡り合える宮田さんは、やはり素晴らしいチェリストなのだと実感。よくテレビでお見かけして、流行の曲のアレンジでもジャンル違いの楽器とのコラボでも何でも演奏されていらっしゃいますが、それだけで彼の演奏を知った気になるのは大間違いですね。私はきちんと受け止められなかったにせよ、この日の演奏を目の当たりにできたのをありがたく思います。オケから入った第2楽章もまた「楽しい」わけではない独特な雰囲気。プログラムノートによると、第1楽章は「独奏チェロのための瞑想」からの発展、第2楽章は「12のピアノ作品」から「レクイエム」の編曲と、いずれも尾高惇忠さんの過去作品がベースなのだそうです。個人的に、少し慣れてきたのか、第3楽章は比較的聴けたように思います。はじめ短めの演奏を独奏チェロ→ヴィオラ→ティンパニ→(鐘のような打楽器)とリレー、これが形を変えて何度か出てきました。独奏チェロがクラシックギターを弾くように弦をかきならす演奏もあり、目と耳は演奏に釘付けに。宮田さん、最近はクラシックギターとの協演も多いようですね。圧巻はラストの独奏チェロです。オケは沈黙する中、独奏チェロの高音がだんだんと小さくなっていって、ついには消えてしまう(でもいつ消えたのかははっきりとしない)ような終わり方。曲の始まりと終わりが対称になっている?私は演奏を聴いたその時、本当に不謹慎なのですが、自分が人生を終えるときはこんなふうに消え入りたいなと思ってしまいました。たとえば一定の明るさで燃えていたろうそくが消える直前に一瞬輝くのではなく、炎がやがて小さな火種となりいつの間にか消えていたような。できれば長くくすぶっていたくはなくて、でも最期くらいはひとり静かに少しずつ消えていきたいなと。勝手な妄想に発展させてごめんなさい!しかし私ははじめのうちは少し戸惑ってしまった曲でも、だんだんと演奏に引き込まれて最後の方は全集中していました。作品自体の素晴らしさはもちろん、作曲家の意思を受け止め演奏に昇華した指揮の尾高忠明さん、ソリストの宮田大さん、そして札響のお力によるものです。唯一無二の演奏をありがとうございました!
ソリストアンコールはJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」よりメヌエットとジーグ。先ほどの協奏曲とはまるで違う表情、チェロって奥が深い!なじみのある舞曲のリズムと歌うようなメロディを素敵な演奏で楽しませてくださって、私はやっぱりチェロが好き!と再確認。推しのチェリストがまたおひとり増えました。宮田大さん、オケとの協演でも室内楽でも、今後何度でも演奏会でお目にかかれるのを楽しみにしています!テレビでも追いかけますよ!
後半はラヴェルの「おとぎ話」のような演目が2つ続き、私はリラックスして楽しみました。はじめは「マ・メール・ロワ」組曲。最初の曲から木管大活躍でヴァイオリンがキレイだったので、前半のリャードフ「魔法にかけられた湖」をつい思い出しました。コンマスのヴァイオリンが超高音で♪キュイキュイ♪と鳥の鳴き声のような音を鳴らしフルートと会話していたのがツボ。華やかな終曲まで、予備知識なしの私でも楽しく聴くことができました。尾高さんはカーテンコールの際、フルートから始まりオケ後方の皆様、続いて弦はソロパートがあったコンマスとヴィオラ・チェロの首席のかたに順番に起立を促され、讃えられました。
トリを飾るのは「ダフニスとクロエ」第2組曲。先ほどよりも金管打楽器が増え、オケは大所帯となりました。はじめハープと木管と弦の美しさに感激。スケールの大きさで、まるで視界が開けたように感じました。ここでもフルートが大活躍。金管打楽器も入って大迫力のところには圧倒され、バレエ音楽らしいけどこれなら踊りよりも音楽の方が目立つのでは?と変なことを思ったり(失礼)。しかしこんなに楽器の種類が多いのに、カオスにならず一つの美しい音楽になるのには素直に驚きました。スイーツに例えるなら、様々な素材を集めて一つの芸術品に仕上げる、名前の通り完璧なパルフェなのかも。普段はザッハトルテのような、えり抜きの素材をガッツリ固めたドイツ系の音楽ばかり好んで聴く私にはとても新鮮でした。私はこの日の演奏を拝聴し、ラヴェルはボレロだけじゃないんだ、今後他の曲も聴いてみたい、と思うように。素晴らしい演奏をありがとうございました!
ちなみに私、例によってソリスト宮田大さんをかぶりつきでガン見しようと(←)今回もかなり前の方の席をとっていました。大好きな弦の演奏を間近に見ることが出来るのは良いとしても、金管打楽器のパワフルな音がダイレクトに来てビックリ。聴けなくなる程ではなかったですが、音の響きに関しては席はもう少し後ろの方がより楽しめたかもしれません。今後は少しは予習をして、演目次第では舞台に近すぎない席を選ぼうと思いました。しかし個人的に「低音がよく響く」と勝手に思っていたhitaruが、実は高音も得意なんじゃないかと感じたのは今回の収穫でした。座る席を色々と試して、hitaruをもっと楽しみたいです。
この定期演奏会の約1週間前に聴いた「札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第4回」のレポートは以下のリンクからどうぞ。佐藤晴真さんのチェロに夢中になれただけでなく、日本人の血が騒ぐ伊福部昭、一度聴いただけで好きになったチャイ5。最初から最後まで楽しかったです!
希望は言ってみる!私、尾高忠明さん×札響によるシベリウス「フィンランディア」をぜひとも生演奏で拝聴したいです。クラウドファンディングのリターン「札響1961-2020特別CD」に収録された2013年3月の演奏録音に私は衝撃を受けました。一般販売されているCD「グリーグ&シベリウス 北欧音楽の新伝説」収録の2009年3月の演奏録音も素敵ですが、非売品CDの2013年3月の演奏は以前よりさらに磨きがかかって素晴らしいと感じます。なお弊ブログに「札響1961-2020特別CD」を含む「2020年 札幌交響楽団 動画配信および非売品CDについてのまとめ」の記事もありますので、よろしければお読みください。以下のリンクからどうぞ。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。