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タナカメディカルグループ主催 札幌交響楽団 無料招待コンサート2022(2022/09) レポート

www.sso.or.jp
3年ぶりに開催された、タナカメディカルグループ主催・札幌交響楽団の無料招待コンサート。今回のメインプログラムは、地元札幌でご活躍のピアニスト・石田敏明さんをお迎えしてのリストの協奏曲です。ぜひ聴きたい!と私は事前に応募。ありがたいことに「当選」し、聴くことができました。お招き感謝いたします。なお平日日中の開催にもかかわらず、2000人超のKitara大ホールは満席でした。


タナカメディカルグループ主催 札幌交響楽団 無料招待コンサート2022
2022年09月21日(水)13:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
横山 奏

【ピアノ】
石田 敏明

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
リスト:ピアノ協奏曲第1番

デュカス:「ラ・ペリ」のファンファーレ
モーツァルトアイネ・クライネ・ナハトムジーク
チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」より“花のワルツ”
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番

(アンコール)オッフェンバック:天国と地獄


今回楽しみにしていたリストの協奏曲、ソリストの石田敏明さんのピアノに耳と目が釘付けになりました。聴けてよかったです!すごく音が多い音楽をほぼ休みなしでずっと流れるように奏でるのは、素人目からも相当難しそう。しかし難曲をよどみなく演奏し、力強さや迫力に加えてロマン派らしい感情も表現されていたように私は感じました。重厚なオケに埋もれることないインパクト大のピアノにもかかわらず、優雅で美しい響き!指揮の横山奏さんが仰った通り、地元にこんな素晴らしいピアニストがいてくださるなんて、本当に素晴らしいこと。また、ピアノと重なるオケの演奏も素敵でした。特に後半でのスピード感あるピアノにリズミカルに呼応するオケがカッコイイ!このところ非公開公演や地方公演等も立て込んでいて、超ご多忙にもかかわらず、限られた準備期間でソリストと指揮者とすり合わせハイクオリティの演奏に仕上げるオケの皆様。敬服します。

また後半の有名曲の数々もさすがのクオリティの高さでした。今回のような特別演奏会では、ゲストが入ったりトップがいつもの首席以外のパートもあったりして、特別なチームが出来ます。個人的にはそれも楽しみの一つです。そして今回のチームも安定感ある仕事ぶりで、安心して聴くことができました。また今回は、協奏曲以外の演目ではいずれもややゆっくりめなテンポでじっくり聴かせる演奏だったように思います(あくまで私の肌感覚です)。演奏は丁寧な一方で、指揮の横山さんのトークが短めでサクサク進んたため、時間が押すことはなく、年配の方が中心かつビギナーも大勢いたと思われるお客さん達の集中力は最後まで続いた様子。これは地味に大事なことですよね。おかげで私達は最後まで気持ちよく演奏を聴くことができました。ありがとうございます。


前半。オケの皆様、指揮の横山奏さん、ソリストの石田敏明さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。リスト「ピアノ協奏曲第1番」。楽章の区切り無くすべて続けて演奏されました。第1楽章。重厚なオケの序奏に続いて登場した独奏ピアノは、はじめから全力で音が多く華やか!これがピアノの魔術師・リスト流!と、私は最初から気持ちを持っていかれました。独奏ピアノが少しゆったりとするところでは、重なるクラリネットの響きが素敵!1stヴァイオリンの2トップ、独奏チェロにも引きつけられました。加速したオケの金管群がカッコイイ!その後の独奏ピアノの分厚さがすごかったです。木管や弦が最初のメロディを繰り返す上を、キラキラと高音で駆け抜けるピアノ。リストはピアノを休ませないんですね……。それを流れるような演奏で体現できるピアノの石田さん、素晴らしいです。第2楽章は、冒頭の低弦にまず心掴まれ、ゆったりしたピアノのカデンツァに聴き惚れました。やはり音は多い印象でしたが、ロマンティックなメロディをじっくり聴かせる演奏がとっても素敵!弦のトレモロに乗るピアノがドラマチック!サブにまわったピアノの上を、フルートとクラリネットと独奏チェロが美しいメロディをリレーしていくところも印象的でした。第3楽章、来ました初登場トライアングル!リズミカルなピアノやオケの弦・木管の間隙を、絶妙なタイミングで入るトライアングルが存在感抜群でした。最初のメロディをピアノからオケの各パートでリレーしていき、金管群の重低音がインパクト大!ピアノもオケも遠慮なく全力で盛り上がり、第4楽章へ。リズミカルな独奏ピアノが、深刻だったり楽しげだったりと表情が変化していくのに惹きつけられました。オケの方はトライアングルだけでなく他のパートもピアノの波長に合わせてシンクロするのにゾクゾク。フィナーレの盛り上がりでは、オケ全員参加の盛り上がりの中で、さらに音が多くダイナミックな独奏ピアノが圧巻でした。すごい演奏を聴かせて頂きました!ありがとうございます!


後半はおなじみの演目が並びました。はじめは金管アンサンブルによる、デュカスの「ラ・ペリ」のファンファーレ金管奏者の皆様はステージの後方に扇型に整列。チューバ以外は立って演奏されました。華々しい出だしから大迫力!一気に気分があがりました。主に高音のトランペットとホルンがメロディを担い、低音のトロンボーンとチューバが下支え。大きな音でも耳に障る感じはなく、kitara大ホールにキレイに響く力強いかつまろやかな音色を楽しみました。

ここで指揮の横山さんがマイクを持ってトーク。お客さん達へのごあいさつ、タナカメディカルグループの紹介と札響への支援そして演奏会開催のお礼に続いて、前半についてのお話がありました。リストの協奏曲は演奏がとても難しく、地元に石田敏明さんのような素晴らしい演奏家がいるのは「ほんっっっっとうに素晴らしい!」。また、演奏の合間には、後半の各演目についての簡単な解説もありました。

弦楽アンサンブルによる、モーツァルトアイネ・クライネ・ナハトムジーク。「第1楽章が特に有名。でも全楽章を聴く機会はあまりないのでは?」との横山さんのお話に、会場はうんうんと頷いていました。ちなみに私自身に関して言えば、全楽章を聴いたのは過去一度だけで、抜粋なら何度もあります。ありがたいことにいずれも札響の演奏でした。オケの皆様にとっては数え切れないほど何度も演奏してこられた演目。演奏はさすがの安定感!もちろん最初から最後まで全部良かったです。その上で、今回は細かすぎて伝わらない私のイチオシポイントに絞ってレビューします。第1楽章、1stヴァイオリンが鳥のさえずりのように歌うところはとっても素敵で、続く華やかなところでの高音弦と鏡映しの低弦がツボ。第2楽章は、はじめのゆったりしたところでの、2ndヴァイオリンが1stと少しズレて演奏するところや、少し速くなるところでのヴァイオリンと低弦が交互に演奏する間を音を小刻みに演奏するヴィオラが素敵。第3楽章は、メヌエットのゆっくりステップを踏むようなところと、アレグレットの滑らかにくるくる踊っているようなところの変化が面白くて、またいずれも低弦の下支えがイイ!第4楽章、メロディを弾く1stヴァイオリンの下で密かに2ndヴァイオリンとヴィオラが忙しそう。繰り返しがまったく同じではなく少しずつ変化しているのと、部分的にパート毎で追いかけっこがあるのにも気付けました。聴き所しかない名曲!まだまだ大事なポイントはあるはずなので、次に全楽章聴く機会に(きっと何度でもあると思います)は別のところにも着目したいと思います。

ここからはフルオケでの演奏です。指揮の横山さんから改めて札幌交響楽団の紹介があり、曲の解説に続いて、オケがチューニングをしてから演奏へ。チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」より“花のワルツ”木管群に続いてのハープのきらびやかなソロ。弦のズンチャッチャに乗ってのふくよかなホルンの響き。気分があがるクラリネット・ソロ。弦の美しいメロディを支えるコントラバスに、合いの手を入れる木管群。木管群が歌う下支えをする弦の選抜メンバー。中低弦が主役になるところ。クライマックスを華やかに盛り上げる金管打楽器。美しいメロディはもちろん、各パートの活かし方が上手いチャイコフスキー!私は各パートの活躍ぶりをしっかり見届けました。指揮の横山さんが仰った通り「とても癒やされる」音楽。もちろん素敵な演奏で聴かせてくださったおかげです。

前の曲から続けて演奏された、プログラム最後の曲はエルガーの行進曲「威風堂々」第1番。指揮の横山さんはトークの中で、中間部の「イギリス第2の国歌」と呼ばれる部分について、先日崩御したイギリスのエリザベス女王戴冠式にも演奏されたとご紹介。「女王陛下に敬意を払って」の演奏とのこと。なお今回の演奏は本来の編成と少し異なり、オルガンはナシ、ハープは1台のみでした。最初の行進曲のようなところでの、クールな弦、リズムを作る打楽器に、パンチのあるトランペットがカッコイイ!主題が移る直前の、パワフルな低音で音階をゆっくり上っていくところがとっても良かったです。そして「イギリス第2の国歌」の温かなホルンの響きが超素敵!クライマックスでもう一度「イギリス第2の国歌」が来たときは全員参加となり、その大盛り上がりも最高!明るく視界が開けたようで、清々しい気持ちになれました。リミッター振り切って派手に盛り上げていくスタイル。何度聴いてもイイですね!

カーテンコールの後、そのままアンコールの演奏へ。演奏が始まると、聞き覚えがあるメロディにお客さん達はピンときたようでした。これは運動会の定番曲、オッフェンバック「天国と地獄」よりカンカンですね。かけっこしているような軽快な弦と木管群に、超パワフルな金管打楽器。先ほどの威風堂々の勢いそのままに、ド派手な演奏!大盛り上がりのまま会はお開きに。秋晴れの午後のひととき、気分爽快になりました!今回も素敵な演奏をありがとうございました!そして演奏会を企画し、無料招待くださったタナカメディカルグループ様に重ねてお礼申し上げます。


今回ソリストとしてご出演のピアニスト・石田敏明さんと、今回はヴィオラのトップを務められた札響副首席ヴィオラ奏者・青木晃一さん。お二人はデュオとして活動されています。弊ブログの過去記事よりこちらをご紹介。「第43回もいわ山麓コンサート 青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2021/10/30)。味わい深い音色に超絶技巧の数々。札響副首席・青木さんのヴィオラはヴァイオリンに引けを取らない表現力で、「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめました! ※1年近く前の記事で申し訳ありません。お二人は他にも数多くの演奏会に出演されています。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

無料招待コンサートといえばこちらも。 2022年7月26日(火)に開催された、音楽宅急便2022「クロネコ ファミリーコンサート」 北斗公演(指揮:飯森範親 演奏:札幌交響楽団。2022/09/09より、YouTubeヤマトグループ公式チャンネルにてアーカイブ動画が無料公開されています。今回取り上げられたデュカスの「ラ・ペリ」のファンファーレの演奏もありますよ。他地域で開催された別オケの演奏との聞き比べも楽しい♪ ※なお順次古い動画から削除されていくようですので、視聴はお早めに。

www.yamato-hd.co.jp


www.youtube.com


最後までおつきあい頂きありがとうございました。

〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル(2022/09) レポート

doshin-playguide.jp

 

www.japanarts.co.jp
↑東京公演(札幌と同じプログラム)のページでは、出演者お二人のメッセージ動画やインタビュー記事などを見ることができます。


ソプラノの森麻季さんとハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんのデュオ・リサイタルがKitara小ホールで開催されました。ソプラノ&ハープというめずらしい組み合わせ。私はテレビで聴いたお二人のそれぞれの演奏(森さんはピアノ、メストレさんはカスタネットとの共演)がとても素敵だったので、今回お二人の共演をライブで聴けるのを楽しみにしていました。なお、チケットは全席完売だったそうです。


Kitaraワールドソリストシリーズ〉森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル
2022年09月18日(火)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール

【演奏】
森 麻季(ソプラノ)
グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)

【曲目】
フォーレ:5つのヴェネツィアの歌より マンドリン 作品58-1
     2つの歌より 月の光 作品46-2
           リディア 作品4-2
     3つの歌より 夢のあとに 作品7-1
ドビュッシー:2つのアラベスクより 第1番 ホ長調(ハープ・ソロ)
       ベルガマスク組曲より 第3番 月の光(ハープ・ソロ)
フォーレ即興曲 第6番 変ニ長調 作品86(ハープ・ソロ)
越谷 達之助:初恋
山田 耕筰:からたちの花
     曼珠沙華

ロッシーニ:歌劇『オテロ』より 柳の歌
スメタナ/トゥルネチェック編曲:連作交響詩『わが祖国』より 交響詩モルダウ」(ハープ・ソロ)
プッチーニ:歌劇『つばめ』より ドレッタの美しい夢
リスト/ルニエ編曲:ロシアの2つの旋律より ナイチンゲール(ハープ・ソロ)
ベッリーニ:歌劇『ノルマ』より 清らかな女神よ

(アンコール)
プッチーニ:私のお父さん
シューベルトアヴェ・マリア


ソプラノの森麻季さんと、ハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんという、スターお二人のとても豪華な共演。美しい響きに酔いしれ、天上世界にいたかのような幸せな時間を過ごすことができました。理屈抜きで、美しいものを美しいと感じる喜び!世の中はつらいことや理不尽なことがあふれていますから、荒んだ心を癒やしてくれるこんな時間は大切だと、私は心からそう思いました。また、リモートやソーシャルディスタンスが言われて久しいですが、人の心が満たされるのはやはり直接ふれあうからこそです!大人気のお二人のこと。この日の前日はそれぞれ別の演奏会(森さんはピアノとの共演、メストレさんはソロ)が本州であり、2日後には東京でのデュオ・リサイタルも予定されていました。さらに大型台風の影響で、移動に不安もあったことと存じます。そんな中、札幌までお越し下さり、私達に生の演奏を聴かせてくださりありがとうございます!

お二人の演奏は、しかし美しいだけじゃない魅力がありました。ソプラノの森麻季さんは、持ち味の透明感ある美声に加えて、影や深さを感じさせる表現だったり、短い演奏時間で曲の世界観を演じたりと、多彩な表現も魅力的でした。そして華やかなオーラ!森さんが多くの人に愛されるのも頷けます!またハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんの演奏には、私は良い意味で驚かされました。個人的に今までのハープのイメージは、管弦楽で華やかさを添えるものであり、作品によっては2台配置されることもあるため、1台では出来ることが限られているとさえ思っていました。ところが今回触れたメストレさんのハープ演奏は、繊細さやキラキラした高音のみならず、力強さやダイナミックさ、低音のアクセントもあり、とても情熱的!特にソロ演奏では、本当に1台のハープをお一人で奏でているの!?と思うほど、メロディとそれを支える伴奏部分、さらに奥行きを作る音の響きまで、幾重にも重なる響きはまるでオーケストラのよう!こんなハープは初めて!私のハープへのイメージはガラリと変わりました。しかも、これほどの圧倒的な存在感なのに、デュオではソプラノの繊細な響きを活かすためか、ハープはやや音量を下げて優しく温かく寄り添う伴奏をされていたのがまた素晴らしいです。なんという男前!満員の会場の7割以上を占めていた女性陣(あと3割の男性も?)は、メストレさんのハープにぞっこんになったはず!


開演前に森さんがマイクを持ってステージへ。ごあいさつとプレトークがありました。森さんの装いはアンシンメトリーなデザインの白いシンプルなドレス、なのにそこにいるだけで華やかなオーラ!演目については、前半はフランスご出身のメストレさんへのリスペクトでフランスものを、後半はオペラアリアを中心に、と紹介。またフォーレについての解説では、音楽史の中での位置づけや作風といったお話の中で、個人的には「(フランスの画家)モネの『睡蓮』のよう」と表現されたことがとても印象に残っています。

前半。はじめはフォーレの歌曲を4つ、デュオによる演奏でした。「マンドリン 作品58-1」はリズミカルなハープ伴奏(マンドリンの音を意識?)が楽しく、程なく登場したソプラノのあまりにも美しいお声に驚愕!やはり生音はテレビとは比べものにならない良さ!最初から気持ちを持って行かれました。来て良かった!「月の光 作品46-2」は、神秘的でどこか東洋の雰囲気もあるハープに惹きつけられ、幻想的なソプラノに魅了されました。まるでそこに月の精がいるかのよう。朧月の月明かりのように、はかなく消えてしまいそうな感じが素敵!「リディア 作品4-2」は、少し哀しみを帯びた気品あるソプラノに、控えめながらも温かな響きのハープ。また余韻を残すハープの後奏が印象的でした。「夢のあとに 作品7-1」は、個人的にはチェロによる演奏でなじんでいた曲です。今回のソプラノ&ハープによる演奏、めちゃくちゃ心に刺さりました!しかしチェロとは刺さる場所が違う気がします。ゆっくり高音に上っていくところはもちろん、やや低音に転じてからの深さがとても素敵。またフランス語の発音に特徴的な、鼻腔の奥で転がすような発声の余韻も良かったです。

続いてはハープ・ソロで3曲。まずはドビュッシーの有名なピアノ独奏曲から、「2つのアラベスクより 第1番」。美しいアルペジオに、私は水面のキラキラを連想。異国情緒たっぷりな音楽に聴き惚れました。「ベルガマスク組曲より 第3番 月の光」。プログラムノートによると、先ほどのフォーレの「月の光」と同じく、ヴェルレーヌの詩に触発されて生まれた作品だそうです。高音の美しく儚げな響きと、中間部のダイナミックさが自然に同居する、満月のように存在感ある「月の光」でした。またドビュッシーの2曲に共通して、時折コントラバスのピッチカートのような重低音が聞こえたのがとても印象に残っています。ハープは想像以上に音域が広いと思ったのと同時に、高音の美しい音楽に重低音のアクセントが入るとぐっと深みが増すんだなとも感じました。そしてハープのために書かれた作品、フォーレ即興曲 第6番 変ニ長調 作品86」。力強い冒頭からインパクト大!グリッサンドを多用したハープの見せ場たっぷりの音楽を、生き生きとした演奏で聴かせてくださいました。情熱的なところと繊細なところをクレッシェンドとデクレッシェンドで行き来する変化も魅力的!ハープの楽器としての幅広さと、メストレさんの多彩な表現力を味わえました。

前半最後は日本の歌曲を3つ、デュオによる演奏です。越谷達之助「初恋」、作詞は石川啄木。「砂にはらばい」のところで、ふっと寂しげになったのが印象的で、続く「初恋のいたみを」の高まりがいっそう心に染み入りました。続いて山田耕筰の作品2つ、いずれも作詞は北原白秋です。「からたちの花」は、素朴な伴奏に、おなじみの歌曲を丁寧に歌い上げる演奏。高音をのばした後の余韻が印象的でした。続く「曼珠沙華」は、和楽器の箏を思わせるハープに、力のこもったソプラノ。独特のリズム感と、女の怨念を感じさせる演奏に、胸打たれました。肩から長い布を垂らしたシンプルな白のドレスが、和装の白喪服(昔は白が一般的だったようです)にも見えてくる不思議。ほんの数分でドラマを見せてくださる演奏、素晴らしいです!


後半は、デュオによるオペラアリアとハープ・ソロが交互に演奏されました。森さんはダークカラーのゴージャスなドレスに衣装替え。はじめはロッシーニの歌劇『オテロ』より 柳の歌。哀しげな伴奏に、揺らぐソプラノのお声が心に染み入りました。しかし微妙な機微で、時折ほんの少し光が垣間見えたようにも。また温かな希望に満ちたハープの後奏が印象的でした。

ハープ・ソロでスメタナの連作交響詩『わが祖国』より 交響詩モルダウ。こちらの演奏が圧巻でした。川の速い流れのような音の波の序奏が、そのまま伴奏となり、哀しげなメロディを支える大きな流れに。ハープ1台と奏者1人で、オーケストラのような音の重なりと奥行きが作られるのが素晴らしく、客席は皆引き込まれていました。雄弁なところはもちろんのこと、中間部の繊細に歌うところも素敵!音が多いクライマックスの超絶技巧がすごい!希望の光が見えるラストに私は胸がいっぱいになりました。こんなに心に響く音楽を生み出す人達の祖国(チェコ)は、古くから他民族の侵略に苦しめられてきた歴史があるのですよね。私に何が出来るかはわからないですが、ただこれから続く未来には希望があってほしいと願います。

プッチーニの歌劇『つばめ』より ドレッタの美しい夢。これは森さんのためにあると思えた曲でした。まるで大輪の花が咲いたよう!感極まったような高音を長くのばすお声のなんと美しいこと!恋の瑞々しさがストレートに伝わってくる、シンプルなのにとても華やかで、インパクト大の演奏でした。

ハープ・ソロでリストのロシアの2つの旋律より ナイチンゲール。同じ恋でもこちらは切なく哀しい雰囲気。ハープの高音域(奏者に最も近いところ)の弦を小刻みにはじく演奏が、ナイチンゲールの悲痛な鳴き声のようにも感じられました。中盤のロシア民謡風の哀愁に満ちたメロディが素敵!少し低音が効いたところの、ギターのような深みのある音色も印象に残っています。華やかさだけではないハープの魅力がわかる演奏でした。

プログラム最後の演目は、ベッリーニの歌劇『ノルマ』より 清らかな女神よ。ハープによる優しく温かな前奏にまず引き込まれ、意思あるソプラノの登場に心奪われました。美しさの中に切なさや哀しみがある、そんな心の機微を揺らぐお声の響きから感じられる演奏。平和への祈り。昨今の情勢に対してだけでなく、未来永劫平和を願いたいと私はしみじみ思います。


カーテンコールで森さんが客席にお礼を仰った後、アンコールへ。森さんから口頭で演目紹介がありました。1曲目は、プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」。透明感あるソプラノの響きを温かみのあるハープが包み込む、幸せあふれる感じ。これは愛!ラスト直前では、ハープが沈黙し、無伴奏で森さんが高音で伸びやかに歌うシーンも。森さんとメストレさんの良さがすべて凝縮されている演奏に、会場はどよめく拍手の渦!2曲目はシューベルトアヴェ・マリア。演奏前、森さんはメストレさんのハープがとても素敵なことをアピール。ハープによる美しい前奏の際、森さんは胸の前で十字を切り、指を組んで、祈りを捧げていらっしゃいました。第一声の「アヴェ・マリア」のささやくような繊細な響きに、会場は感嘆の溜息。誰もが知る名曲を、天上的な響きで味わう贅沢!後半は、メストレさんのハープ・ソロによる演奏で、メロディ部分もハープが歌うスタイルに。ゆったりと揺りかごのような伴奏部分と、美しいメロディ部分の重なりが素敵すぎて、ずっと聴いていたいほどでした。ラスト直前で、ハープに合わせて森さんが「アヴェ・マリア」と歌い、ハープの後奏の最後はポン、ポンと2回弦を優しくはじき、フェードアウトして締めくくり。心洗われる素晴らしい演奏!お二人とも十八番にしている演目を、デュオでの演奏で聴けた、最高のアンコールでした!2階席の何名かはスタンディングオベーション。最高潮の盛り上がりのまま、会はお開きとなりました。夢のような時間を過ごすことが出来て幸せです!素敵な演奏をありがとうございました!


弊ブログの演奏会レポートのうち、本年度に聴いたものから2つご紹介します。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ(2022/07/31)。Sop中江さん&Pf.新堀さんによる愛の物語。シューマン「女の愛と生涯」や中田喜直「魚とオレンジ」、直江香世子さんの小品等、魂の込められた演奏を通じて様々な人生を生きたスペシャルな体験でした。

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藤木大地 カウンターテナー・リサイタル(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第647回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/09)レポート

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↑札響公式サイトで、今回のソリスト三浦文彰さんのメッセージ動画を見ることができます。

今回(2022/09)の札響定期は、フィンランド出身の指揮者オッコ・カムさんによるオールシベリウスプログラムです。オッコ・カムさんと札響の共演は、コロナ禍での公演中止(2020年5月)を経て、2005年以来17年ぶりとなるそう。シベリウスを十八番とするマエストロの導きで、札響が得意とするシベリウスの演奏!そして協奏曲のソリストは今をときめくヴァイオリニストの三浦文彰さん!絶対良いに決まってる!と、私はとても楽しみにしていました。

今回の「オンラインプレトーク」は、札響のヴァイオリン奏者・岡部亜希子さん、オーボエ奏者・宮城完爾さんがご出演。オッコ・カムさんと札響が前回共演した時のお話やソリスト三浦さんの子供時代のお話など、長く札響と共に歩んできた宮城さんはまるで生き字引!また協奏曲の注目ポイントについては、ヴァイオリニストならではの岡部さんの視点が興味深かったです。

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札幌交響楽団 第647回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年09月10日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
オッコ・カム

【ヴァイオリン】
三浦 文彰

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
シベリウス交響詩「大洋女神」
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
ソリストアンコール)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV.1002 サラバンド ドゥーブル

シベリウス:レンミンカイネン組曲(四つの伝説曲)


なんて素敵なシベリウス!同じシベリウスでも、2022年3月のピエタリ・インキネンさん指揮では胸のすくような澄んだ音がとても印象的でした。一方、今回のオッコ・カムさん指揮では、音の波やうねりに驚かされ、細かく変化するテンポやリズムに気分が高揚(グルーヴ感というのでしょうか?)、超気持ち良かったです!波やうねり、とまとめちゃうのがもったいないほど、どこをとっても同じ音や表現はなく、シーン毎に新たな表情の音楽が生まれているような演奏。それが面白くてワクワクして、私は初聴きの曲もよく知る曲も最初から最後までかなり前のめりで聴いていました。札響の新たな一面(いえ百面くらい)とシベリウスの魅力を再確認。この組み合わせは「鉄板」よね、との予想のはるか斜め上を行く、こんなサプライズは大歓迎です!

ソリスト三浦文彰さんの演奏、私は生演奏では「お初」でした。なんて美しい!私の印象では力ずくでゴリゴリ進めるのではなく、軽やかでしなやかな演奏のように感じました。名器ストラディヴァリウスの音色(超素敵!)が、まるでご自身の声と同じく自然に身体から発せられたもののよう。ただ個人的にシベリウスのヴァイオリン協奏曲の独奏は、もっと力強いイメージを持っていたので、はじめ儚げな独奏ヴァイオリンが登場したときは正直ちょっとだけ戸惑いました(ごめんなさい!)。しかし演奏に説得力が感じられ、いつの間にか繊細で壊れそうな存在に惹きつけられていました。また低音が効いたオケは独奏と対立するのではなく、どっしり構えて優しく包み込むのが良かったです。ドラマチックな第1楽章も、愛ある第2楽章も、グルーヴ感の第3楽章も、独奏とオケがぴたっと身体を密着させて同じ鼓動を感じているようで、聴いている私はドキドキしました。

それにしても、前回の定期のドミトリー・シトコヴェツキーさん然り今回のオッコ・カムさん然り、世界的な指揮者が自身の十八番の演目を振り、それに対して演奏で結果を出せる我が町のオケって、やっぱりすごいなとつくづく思います。特に弦は、前回のドミトリー・シトコヴェツキーさんはもとより、今回だってシベリウスもオッコ・カムさんも元々はヴァイオリニストでもあることから、要求されるレベルがすごく高かったのでは?しかしトゥッティもソロも当たり前のように見事な演奏をしてくださいました。力強い波や微妙なニュアンスなどの幅広い表現と作品への愛情で、奥行きや立体感のある音楽が生まれたのは、まさに奏者お一人お一人のお力によるもの。もちろん他のパートも素晴らしかったです。私は「シベリウスは弦」のイメージが強かったのですが、今回3つの作品を一度に聴くシベリウス祭りを体験したことで、実はシベリウス木管金管・打楽器・ハープの活かし方がとても上手いと、今更ながらそう思いました。管弦楽の魔術師がここにも!


1曲目は交響詩「大洋女神」。演奏機会がとても少ない演目だそうです。プログラムによると札響の過去の演奏歴は2回で、いずれも2005年3月(指揮:尾高忠明)の演奏。編成では、低音木管バスクラリネットコントラファゴット)が入り、ティンパニとハープがそれぞれ2台ずつあったのが目を引きました。中低弦とティンパニの重低音から静かに始まった冒頭、深海を思わせる響きでインパクト大!フルートの登場で、大きな存在が海面へ浮かび上がってきたように感じられました。また時折入るハープが水面のキラキラを、雄大なホルンには壮大な海のイメージが浮かびました。大きな波のように、弦がクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すところが、海の深さや大きさだけでなく底知れぬ恐ろしさも感じられてすごく良かったです。オーボエに続き低音木管が登場してからはさらに不気味な感じに。うねりのような低弦が超カッコイイ!金管群が登場してからの力強さ!弦の音の波も一層激しくなり、圧倒されました。終盤は次第に波が穏やかになり、ラストは静かに締めくくり。音響の良いkitaraにて札響による演奏だからこその、壮大さに加えて底知れぬ深さまで感じられるダイナミックな音楽!隠れた名曲を生命力感じさせる素晴らしい演奏で聴けてうれしかったです。

ソリスト三浦文彰さんをお迎えして、2曲目は「ヴァイオリン協奏曲」。個人的にとても好きな曲です。ちなみに私は札響での前回の演奏(2021/03/16 指揮:飯森範親 ヴァイオリン:金川真弓)も聴いています。第1楽章、1st・2ndヴァイオリンのごく小さな音に続いて登場した独奏ヴァイオリン。儚げな美しい音色をとても素敵と感じた一方で、個人的なイメージとは少し違うかも?と、少しだけ戸惑いました。しかし、高音から低音に移った時の深さにぐっと来て、以降はソリストの個性ある音色と演奏に引き込まれました。壮大なオケ演奏を経て、ファゴット続いてクラリネットがメロディを先取りしてからの、独奏ヴァイオリンによる慟哭!なんて繊細で美しい!この壊れそうな存在を包むオケも素敵でした。ソリスト小休止のときの、低音の効いたオケにゾクゾク。低弦の重低音の波(これが個人的にツボでした)に続き、再登場した独奏ヴァイオリンの超高音がインパクト大!オケが沈黙してからの長い独奏では、kitaraに響くふくよかで美しいヴァイオリンを堪能しました。楽章の終盤では、駆け抜けていく独奏ヴァイオリンはもちろんのこと、ぴたっと併走するオケも素晴らしかったです。第2楽章、木管群の前奏に続いて登場した独奏ヴァイオリンが、落ち着きある感じでゆったりと歌うのが美しい!オケのターンでの、コントラバスの重低音(ツボ)とティンパニに乗って、弦と管がやり取りしながら高揚していくところもとっても素敵。再登場した独奏ヴァイオリンの哀しげな響きが胸を打ちました。さらにこの後の流れが良かったです。独奏ヴァイオリンとオケがゆったり対話していくうちに、いつしか独奏ヴァイオリンは幸せあふれる感じに。これはまさに愛!独奏ヴァイオリンとオケの弦が、天国的な響きで一緒にフェードアウトしたラストが印象的でした。そして第3楽章へ。中低弦とティンパニによる重低音の序奏からテンションがあがり、続いた妖艶な独奏ヴァイオリン!おそらく演奏は難しいのに、軽やかにステップを踏むようなリズミカルな演奏、超素敵でした。また今回驚いたのは、独奏ヴァイオリンが登場したタイミングで、オケの弦はヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1と、首席・副首席のみが演奏する形になったこと。後から加わった2nd・1stヴァイオリンもそれぞれトップ2人ずつでした。独奏ヴァイオリンを際立たせる粋な演出!来ました、オケ全員参加の重低音でのメロディ!超男前!変わった音を発したホルンやファゴットも印象に残っています。メロディを今度は高音で演奏する独奏ヴァイオリンもクールで超カッコイイ!その下で音の波を作るオケの弦がまた素敵でした。独奏ヴァイオリンが頂点に達した後の壮大なオケが気持ちイイ!クライマックスでの駆け抜ける独奏ヴァイオリンには目と耳が釘付けになりました。シンクロするオケの弦の、ポンと一度きりのピッチカートがドンピシャのタイミングで入ったのが気持ち良かったです。金管群のアクセントが入るラストは独奏ヴァイオリンが駆け上り、オケも全員参加で力強い1音で潔く締めくくり。気分爽快になれる演奏でした!よく知る曲を新鮮な気持ちで聴けて、私はますますこの曲を好きになりました。

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ソリストアンコール、土曜夜公演では「J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV.1002 サラバンド ドゥーブル」。最初の重音に私は「バッハだ」とピンときて、有名なサラバンドでは美しい音色に聞き惚れました。続くドゥーブルでは、原曲にあるのかどうかわからないのですが、時折プチッとごく控えめなピッチカートが入った(違っていましたら申し訳ありません)のが印象的でした。感情を込めない純粋な音楽、やはりバッハこそ原点!ちなみに日曜昼公演では別の演目だったようです。できれば私はそちらの超絶技巧アルプス一万尺も聴いてみたかった、なんて思ったり。三浦さん、難易度エグすぎる超ハイレベルのシベリウスの協奏曲に加えて、ソリストアンコールに至るまで、素敵な演奏をありがとうございます!ぜひまた札響との協演をお待ちしています!


後半は「レンミンカイネン組曲(四つの伝説曲)」。なお今回「トゥオネラの白鳥」は3番目に演奏されました。プログラムノートによると、シベリウスは全曲版の出版の際に「白鳥」を2番目にしたとのことですが、元々は3番目だったそう。最初は「レンミンカイネンとサーリの乙女たち」。1st・2ndヴァイオリンのごく小さな音に木管群が重なる出だしに続き、中低弦が入ると木管群は軽やかに走り出して、冒険の始まりのイメージが浮かびました。低音が効いた音の波が、行く道には困難も多そうな印象。トランペットのパンチのある響きで空気が変わりました。光が見えたように明るくなってからは、歌う木管金管を支えるジェットコースターのような弦がすごい!シベリウスさんお得意の超ハイレベルでえぐい弦!高音弦が低めの音でメロディを歌うところでの、さらに低い音での低弦によるうねりが男前!ティンパニで気分があがり、爽快な音楽には視界が開けるようでした。2番目は「トゥオネラのレンミンカイネン」。コントラバスから入りすぐチェロも参戦して、細かく音を刻む低音での演奏がぞっとするような妖しさ。ヴィオラ、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリンが順番に入ってからの、弦のトレモロによる音の波にはぞわぞわしました。木管群が入ると弦はさらに心ざわつかせる感じになり、金管群が加わると気持ちは最高潮に。感情の波が何度も寄せては返す流れの中で、弦の変化の素晴らしさはもちろんのこと、波を導く大太鼓がとても印象に残っています。何度目かの頂点に達した時の、シンバルの一撃がインパクト大!弦が一層ザワザワした後は、ずっと動いていた弦が沈黙(!)し、木管群による寂しげな音楽に。一体何が……。タンバリンに導かれてのごく小さな音による高音弦が美しい!そこに重なる高音域で歌う独奏チェロ!恐ろしい場面の描写にもかかわらず、音色の美しさに引き込まれました。3番目はいよいよ「トゥオネラの白鳥」。「オンラインプレトーク」にて宮城さんが「コールアングレ協奏曲」と仰っていた、オーボエ奏者の見せ場です!なお今回コールアングレイングリッシュホルン)独奏を担当したのは、いつもの宮城さんではなく副首席の浅原さんでした。高音弦のごく小さな音による神秘的な音の波(水面)の上を、妖しくも美しく泳ぐコールアングレ(白鳥)。楽器自体の音域のためか、チャイコフスキーの「白鳥の湖」情景でのオーボエよりも深みのある落ち着いた印象。周りで何が起きようと変わらず優雅に泳ぐ白鳥の存在感=コールアングレ独奏、素晴らしかったです!そこに時折入る独奏チェロ!前の曲では高音域だった独奏チェロは、ここでは低音域での演奏でした。やはり素敵すぎ!出番はそれほど多くないにもかかわらず、登場する度に気持ちを全部持って行かれました。そして今回、独奏チェロの一部にシンクロした独奏ヴィオラと独奏ヴァイオリンの存在に私は気付きました。影ながら響きを増幅させたりそのままメロディを引き継いで高音域を駆け上ったりしていたんですね!ありがとうございます!また一度だけ入った美しいハープも印象的でした。そして最後は「レンミンカイネンの帰郷」。中低弦とティンパニに乗って、クラリネットファゴットの低音。続いて登場した金管群のパンチのある響きが超カッコイイ!ポンと一瞬入るピッチカートにタンバリンのリズム感が気持ちイイ!メロディを高らかに歌う木管群とジェットコースターのような弦の音の波にゾクゾクし、パワフルな金管群の響きに勝利をイメージしました。クライマックス直前の、低音パート(弦も管も)とティンパニによる地鳴りのような音のうねりがすごい!ラストは全員参加で華々しく締めくくり。ものすごく夢中になれた演奏でした!録音ではよくわからなかった、緻密さと立体感、そしてこの日のグルーヴ感がもう最高!オッコ・カムさんと札響という最強タッグによるシベリウス、この日の演奏を聴けた私達は幸せです。ありがとうございました!オッコ・カムさん、ぜひまた札響と一緒にシベリウスの最高の演奏を聴かせてください。お待ちしています!


この日の1週間前に開催された「札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲」(2022/09/03)。「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に堪能!完成度の高い未完成、当たり前を堂々と主張する運命、聴きやすさと各パートの良さの新世界より。名曲と真摯に向き合った丁寧な演奏は聞き応え抜群でした。

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前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第646回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/06/25)。シトコヴェツキーさん編曲の弦楽合奏ゴルトベルク変奏曲は、緻密かつ心に染み入る演奏でバッハの偉大さを再認識。「白鳥の湖」では、美メロだけじゃないチャイコフスキーの骨太な魅力も堪能できました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲(2022/09) レポート

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今回(2022/09)の札響名曲シリーズは、マエストロ・シモーノの指揮で超定番の三大交響曲を一度に聴ける超豪華企画!指揮の下野竜也さんは、先月(2022/08)のhitaru定期(急遽バーメルトさんの代役として登壇)での大熱演が最高だったので、私はこの日を心待ちにしていました。なお、チケットは前売り完売でした。


札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲
2022年09月03日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
下野 竜也

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
シューベルト交響曲「未完成」
ベートーヴェン交響曲第5番「運命」
ドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より


「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に堪能できてお腹いっぱい!重量級の演奏会、楽しかったです。名曲と真摯に向き合った丁寧な演奏は聞き応え抜群!とはいえ繰り返しを省略し比較的速いテンポでサクサク進めてくださったこともあり、胃もたれ感はなく、最後まで楽しく聴くことができました。下野竜也さん指揮といえば、先月のhitaru定期での大熱演が記憶に新しく、今回は私を含め聴き手の期待値がとても高まっていたはず。下野さんはそんな期待を軽々と超えて、超定番曲を誠実かつご自身のポリシーを持って演奏されていたと感じました。素晴らしいです!おそらく初心者もいたと思われる満員の会場は皆、演奏に引き込まれていました。また開演前のプレトークは大変面白かったです。作曲家それぞれの個性を下野さんなりの捉え方で解説くださったり、マイ三大交響曲を教えてくださったりと、盛りだくさん。妄想大好き仲間である私は、下野さんの妄想トークには勝手に親近感を抱きました。マエストロのとても誠実なお話ぶりは好印象で、極めつけはプレトークの締めくくりにて「(トークで)静寂を破って申し訳ない」との一言。私は胸キュンです♪個人的にはそんなことは思ってなかったですが、こだわりをお持ちの聴衆に対してもさらっと配慮できる、そのスマートさが素敵すぎます!惚れまうやろー!

なにより、こんな気力体力が求められる大変なプログラムを、最初から最後まで全集中で見事に演奏してくださったオケのお一人お一人に大拍手です。基本的な2管編成のザ・交響曲の演奏。超有名曲であるが故にそれぞれのこだわりを持つであろう聴き手を前に、中途半端な演奏はできないプレッシャーもあったことと存じます。この状況で暴動を起こさず(笑)、よくぞ3つの大曲をクールに駆け抜けてくださいました。超定番曲の演奏は、指揮者による料理が大事なのは言うまでもなく、それ以上に素材の良さ=オケのお一人お一人お力、がシビアに問われる世界かもしれません。しかし私達の札響は今回も安定の高クオリティ!各パートのトップのソロ演奏も、トゥッティの演奏も、ホレボレする良さで札響のお力を再認識しました。私はレビューではつい目立つソロパートや好きな低弦のことばかり書いてしまうのですが、それはメロディを美しく奏でる1stヴァイオリンや奥行きや厚みを作っている2ndヴァイオリンとヴィオラ等、各パートが良い仕事をしてくださっているからこそ、安心して個人的な趣味に走れているのです。超定番曲を信頼できる演奏で聴かせてくださる、地元にこんなに愛せるオケがいるのは本当にありがたいと、今回改めてそう思えました。

演奏は素晴らしかったですし、自分なりに楽しんだのは間違いありません。それでも私は三大交響曲を今度は別々に聴きたいと率直に思いました(ごめんなさい!)。いずれも個性が違う作品で飽きることはなかったのですが、これだけ聴き所満載の曲たちなのに、続けて聴いてしまうと刺激に慣れちゃって感激が薄まった気がする(私だけ?)のがもったいなかったので。短めの序曲や現代曲→ソリストに大注目の協奏曲→オケの本領発揮の交響曲、というよくある流れであれば、1曲毎に聴き方や注目ポイントが変わって気持ちがリセットされるのが良いなと、今回ついそう思ってしまいました。せっかくのご馳走ですから、無理なくじっくり味わい尽くせたらもっと素敵!しかしこんなバチ当たりなことを言えるのは、三大交響曲を一度に聴くという贅沢な体験ができたからこそ。このスペシャルな体験を、愛する札響と一緒にできて幸せです!これからもついていきます!


指揮の下野竜也さんによる開演前のプレトーク。下野さんが今回の3曲を一度に演奏するのは久しぶりだそうです。「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に料理するようなもの、とのお話に会場に笑いが起きました。皆さんにとっての三大交響曲は何ですか?と問いかけた後、この日の下野さんが選ぶなら(日によって違うのかも?)「モーツァルトのジュピター」「ベートーヴェンの第九」「ブルックナーの9番」とのこと。「この3つを一度に演奏しようとしたらオケの暴動が起きる」とのお話に、会場はまたもや笑いの渦(でも札響ならクールにやってくださるかも!)。さらに日本人作曲家の作品なら「黛敏郎の涅槃交響曲」「松村禎三の1番」「矢代秋雄」。また、妄想好き(!)な下野さんが作曲当時の作曲家に「1+1=2でしょうか?」と質問した場合、どんな答えをするか?という興味深いお話がありました。シューベルトの場合「ぼくも悩んでいます。わからない。一緒に闇に落ちてみよう」。彼の交響曲が6番までは明るいのに7番から暗くなるのは、この頃に不治の病がわかったから、という説の紹介も。ベートーヴェンの場合「そんなことを聞くな、当たり前だろう」。彼は当たり前のことを大声で言える人で、シンプルな音楽で人を感激させることができるとのこと。ドヴォルジャークの場合「そうだよ。そんなことを考えるくらいなら一緒にピクニックに行こう。ごはんを食べよう」。彼は伝記等を読んでもネガティブなことは一切出てこない、とても良い人だそうです。今回、「新世界より」はチューバを使わない(!)と下野さんが宣言し(「チューバ奏者の玉木さんの名誉のために」と強調した上で、今回は降り番をお願いしたそう)、会場は少し驚いた様子でした。一説によると、ドヴォルジャークはチューバを想定していなかったものの、楽譜出版の際に出版社側で「この音が出せない」と慌てて補強した版が一般的になったから、とのことです。「ドヴォルジャークが尊敬していたブラームスに近い響きになっているのでは?響きを楽しんでください」と下野さん。有名な曲たちであるが故に、聴く人それぞれの理想があるとした上で、「こんなのがあるのね!」「そうそう!」「ありえない!」といった感じ方ができるのもクラシック音楽の楽しみとも仰っていました。


1曲目はシューベルト交響曲「未完成」。ちなみに私はまったくの初聴きでした。第1楽章、低弦による、ごく小さな音から入る冒頭部分から早速引き込まれました。深刻一辺倒ではなく、木管が主役のところは優しく美しく、そんな剛と柔が自然に同居しているのが素敵。また、ホルンが長く音をのばした後に、コントラバスのピッチカートに乗ってチェロが歌うところが個人的にツボでした。ゆったり歌うような流れの中で、休符がきっちり揃ったりクレッシェンドでじわじわ存在感を増したりと、とても丁寧な演奏と感じました。楽章締めくくりでは引っ張らずにビシッと音を止めたのも印象的。第2楽章は、冒頭ホルンの温かな響きが最高(ちなみにこの曲でのホルンのトップは副首席の𡈽谷さん)!時折力強くなるものの、全体的にゆったりとした楽章でした。各木管のソロの柔らかな響きと、それを支える弦のリズムを作る演奏やピッチカート。ごく小さな音であってもkitara大ホールにキレイに響くのが良くて、その響きを楽しめました。ラストのフルートの高い音の余韻が印象に残っています。2つの楽章、完成度高い!ただ、ここで終わるのが惜しいとも正直思いました。作曲家が残りの楽章を書いていないので、続きを聴くことは永遠に叶わないのですが。

続く2曲目はベートーヴェン交響曲第5番「運命」。演奏機会が多い演目ではあるものの、私自身は今までチャンスがなくて、札響によるライブ演奏を聴くのは今回が初めてでした。ちなみにシンフォニック・マンボNo.5は過去2回も聴いています。第1楽章、(ン)ジャジャジャジャーン!の深刻な出だしが超カッコ良くて掴みはバッチリOK!快速で進む演奏にぐいぐい引っ張られ、シーンを変えるホルンの響きがインパクト大(この曲でのホルンのトップは首席の山田さん)!シャープな弦にホレボレしつつ、オーボエファゴットの見せ場では弦が沈黙するそのメリハリも良かったです。第2楽章、冒頭の中低弦によるメロディが素敵すぎ!落ち着きある高音弦と穏やかな木管のゆったりしたところ(こちらも素敵でした)に続き、金管が華やかに入ってからのコントラバスの重低音にやられました。その後の明るさが一層輝きを増した会心の一撃!このコントラバスの合いの手、カッコ良すぎでは!?弦がごく小さな音で下支えした上での、木管アンサンブルもとっても素敵でした。第3楽章、弦のイントロに続いて登場した、パンチあるホルンの響きがすごい!深刻なところを経て、コントラバスからチェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリンとメロディをリレーして盛り上がっていくところが素敵!今回のコントラバス、いつも以上にカッコイイ!弦がごく小さな音からエネルギーをためながら上昇して、そのまま続けて第4楽章へ。パワフルな金管ティンパニに清々しい弦!聴いている私達の気分もあがりました。初めの苦悩はここに来て歓喜へ。大熱演に熱中しながら、「ジャジャジャジャーン」を変化させてここまで感激させる曲を書くベートーヴェンはやはりすごい!と、私は改めてそう感じました。クライマックスでの、まるで小鳥が喜びを歌うようなピッコロが存在感抜群!「ジャジャジャジャーン」はよく言われる「運命が扉を叩く音」(シントラー談)ではなく、「鳥の鳴き声」(ツェルニー談)の方がやはりしっくりくるかも?「1+1=2!」と堂々と主張する清々しさ!名曲が名曲たる所以を実感できた、気持ちの良い演奏でした!圧倒的なラスボス感に、もうここで帰っても悔いは無い(※だめです)と、その時は一瞬そう思えたほど。

後半はドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より。この曲はとても演奏回数が多く、私は札響のライブ演奏でも何度か聴いています。ただ私自身は全楽章フル演奏で聴くのは久しぶりで、昨年の鉄道名曲シリーズ(2021/09/25)での楽章抜粋演奏による不完全燃焼のくすぶりを1年も引きずったままでこの日を迎えました(笑)。第1楽章、中低弦による静かな出だしはもちろん個人的なツボなのですが、この日はそこに控えめに重なるクラリネットファゴットの低音がとても刺さりました。ホルンに続いた、フルートとオーボエが美しいこと。中盤のパンチの効いたトランペットに勇ましい低音のトロンボーン!私は弦を全面的に信頼した上で、意識して木管金管の仕事ぶりを追いかけてみましたが、慣れている演目でのプロのお仕事とはいえ、その素晴らしさにホレボレしました。札響はすごい奏者が揃っていると改めて。第2楽章、金管群による出だしはチューバ無し(主にバストロンボーンが役割を引き受け?)でした。温かみのある素敵な世界!ティンパニがシーンを切り替え、弦の優しい響きに続いて「家路」へ。メロディを歌うイングリッシュホルンは、いつもの宮城さんではなく副首席の浅原さんでした。体温が感じられる温かな歌がとっても素敵!また木管や1stヴァイオリンが哀しげに歌うところでの、他の弦のトレモロコントラバスのピッチカートがぐっと来ました。メロディは当然として、メロディを支える側の仕事ぶりがまた良い!ゆっくり日が沈んでいくかのような、弦楽八重奏、続いて弦楽三重奏へ。ああ何度聴いてもイイですね!私は独奏チェロの音色に癒やされながら、このまま眠りにつきたい気持ちに。オケ全体で静かにフェードアウトした後、しかし続く第3楽章は初めから思いっきり派手に始まり、一気に目が覚めました。トライアングルは発車ベル、ザッザッザッザッと弦の音の刻みには列車が走っているのをイメージ(昨年の鉄道名曲シリーズ以降そうとしか思えないです)。そうそう、これこそ「新世界より」!ティンパニの強打にホルンの咆哮がカッコイイ!さらに今回は途中下車(?)での素朴な舞曲にも魅了されました。もしかしたらこの楽章はこちらがメイン?可愛らしいトライアングルと木管、ピッチカートに支えられたヴァイオリンも、ステップを踏みながら楽しく踊っているようで素敵でした。そして第4楽章。パワフルな低音がインパクト大の出だし、ホルンとトランペットがカッコイイ!個人的にはやはり高音弦と呼応する低弦がブラームスっぽくてうれしかったです。スピード感ある演奏にゾクゾク。少し穏やかになったところでの一打のみのシンバルをしかと見届けました!クラリネットとフルートそれぞれのソロ演奏も素敵!目まぐるしく表情が変わる音楽を、オケが軽快に駆け抜けていく流れが良くて、私はその流れに身を任せる心地よさを味わいました。またヴィオラによる中継ぎ部分がそのまま続けて木管の下支えになる、その流れが印象に残っています。ここまで交響曲を3つ演奏してきた無茶なプログラムでも、オケの皆様はお疲れを見せずラストまで全力の演奏で聴かせてくださいました。恐れ入りました!ただ座っている聴き手の方がバテそうだったのがお恥ずかしい。よく知る曲を、今回改めて札響の演奏で聴けてうれしかったです。「新世界より」は、キャッチーなメロディが聴きやすいだけでなく。オケそれぞれのパートの素晴らしさがわかる傑作だとしみじみ。今後ビギナー向け演奏会だけでなく、時々はこうして主催公演でも取り上げてください!


下野さんはカーテンコールで何度も舞台へ戻って来てくださり、その度にオケの各パートへ起立を促して讃えました。ソロ演奏を担当したかたのみならずヴィオラや2ndヴァイオリンといった縁の下の力持ちパートもすべて、結果的にオケ全員を順番に讃えた形に。本当に、オケ全員が功労者ですよね!下野さん、札響の皆様、大変なプログラムを見事な演奏で聴かせてくださりありがとうございました!下野さん、今後もぜひぜひ札響を指揮しにいらしてくださいね。下野さんのマイ三大交響曲でも、もちろん他の演目でも、お待ちしています!



この日の約1ヶ月前、指揮の下野竜也さんがバーメルトさんの代役として登壇した、札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第10回(2022/08/04)。新コンミス会田莉凡さんがソリストドヴォルジャークは、オケとの信頼関係が窺える幸せな協演で、自由にのびのびとした独奏に聴き惚れました。そしてブラ1の大熱演が最高でした!

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全席完売公演といえばこちらも。札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」(2022/08/11)。描き下ろし(書き下ろし)たっぷりの絵本の世界に、大人が聴いても十二分に楽しめる選曲と演奏。森崎博之さんの朗読と進行も素敵で、親子で思いっきり楽しめました!

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なお、今回の「札響名曲シリーズ 下野竜也の三大交響曲」の2日後に開催された「hitaruでシネマ・ミュージック!」(2022/09/05)も全席完売だったそうです。コアなクラシック音楽好き以外にも確実に札響ファンが増えていますね♪

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」(午後の部)(2022/08) レポート

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夏休み恒例の札響の親子向けコンサート。今年は、絵本「おばけのマール」シリーズとのコラボ企画です。私は小4娘と一緒に参戦。同日2回公演のうち、私達が聴いたのは午後の部です。なお、午前・午後の部ともに早い段階でチケット完売(!)。当日はスクリーンが見づらい「見切れ席」が追加で販売されました。

また、指揮者は来日が叶わなかった首席指揮者のマティアス・バーメルトさんに代わり、円光寺雅彦さんへ。円光寺さんは8/7の砂川公演に引き続いての登壇です。急遽代役をお引き受けくださりありがとうございます。

私にとっては通い慣れているkitaraなのに、この日はまるで違うところへ来たようでした。開演前、ロビーではグッズ販売や記念撮影用のパネルに並ぶ親子連れで賑わい、ベビーカー置き場にずらりと並ぶベビーカーが壮観。案内パネルにもマールとキャラクター達の絵がたくさんあって心和みました。お客さんは親子連れがほとんどでしたが、大人のお一人様(クラシック音楽好きなかたや森崎リーダーのファンのかた?)もいらしたようでした。


札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」(午後の部)
2022年08月11日(木・祝)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
円光寺 雅彦

【出演】
スペシャルゲスト / 森崎 博之(TEAM NACS)
/ 絵 / なかいれい、文 / けーたろう

管弦楽
札幌交響楽団(ゲストコンサートマスター:戸原 直)

【曲目】
ウェーバーベルリオーズ編):「舞踏への招待」より
ハイドン交響曲第101番「時計」 第2楽章より
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ 第2楽章
ビゼー:小組曲「こどもの遊び」より 第5曲 舞踏会(ギャロップ

シベリウス:「カレリア」組曲 第1曲「行進曲風に」

モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲
ビゼー:小組曲「こどもの遊び」より 第2曲 お人形(子守歌)
グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲 第4曲「山の魔王の宮殿にて」
チャイコフスキー:「眠りの森の美女」よりワルツ

(アンコール)J.シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲


いつもと違う特別な演奏会。親子で思いっきり楽しめ、夏休みの良い思い出になりました!小さい子向けの企画……と、少々渋っていた小4のうちの娘(少し難しいお年頃に入りかけています)も、いざ演奏会が始まると、おばけのマールのかわいらしさや札響が奏でる素敵な音楽を彼女なりに楽しんでいた様子。絵本で親しんできたお話を、音楽と一緒に親子で楽しめたのはとても良かったです。また、絵本の形をしたプログラムがとっても素敵で、なかいれいさんの絵とけーたろうさんの文による描き下ろし(書き下ろし)もたっぷり。ここだけのスペシャルな体験に、記念になるプログラム冊子まで、感激です!私はこちら大切に保管して、折に触れて親子で絵本と一緒に読み返したいと思います。

自身も3人のお子さんの父親である森崎博之さんの朗読と進行も素敵でした。時折身振りを交えての、ゆっくりはっきりした朗読は聞きやすかったですし、会場を和ませるトークはさすが。演奏中は身体を揺らしてノリノリで音楽を聴いていらして、お人柄の良さがうかがえました。そして森崎さんがおっしゃった、演奏会の注意事項は「一つだけ」。「お子さんが泣いたり騒いだりしても、周りの人はどうか温かく見守ってください」……ありがとうございます。本当に、今回はこれがすべてなんですよね。ルールが厳しいイメージのクラシック音楽の演奏会に、小さな子を連れてきたことで、緊張している親御さんたちも多かったと思います。リーダーのこの一言で、きっと皆さん救われたのでは?

そして言うまでもなく札響による演奏が素晴らしかったです!小さな子達への配慮なのか、大きな音は従来より控えめ(音量を少し下げてもキレイに響かせるのはさすがです)。しかし、演奏はいつものようにプロのお仕事で手を抜くことはなく、私は慣れ親しんだ響きを安心して聴けました。ファーストコンサートがこの札響サウンドなんて、札幌の子供達が本当にうらやましい!また、おそらくはバーメルトさんのアイデアも入っていると思われる選曲がとても良かったです。超有名曲に偏ることなく、バラエティ豊かな曲の数々を物語のシーンに合わせてチョイス。大人が聴いても十二分に楽しめる内容になっていました。個人的には、中でもマールとカシミヤがkitaraへ向かう道でのシベリウス「カレリア」組曲がイチオシ!小さな子供と出かける時の心情に、描き下ろし絵の細やかさと札響お得意のシベリウスの音楽が優しく響き、私は胸いっぱいになりました。「おばけのマール」と札響とkitaraがある札幌で子育てできて、本当に良かったと改めてそう思います。

舞台の後方には大きなスクリーンが設置され、お話や演奏に合わせて絵本のページや描き下ろしの絵が大きく映し出されました。また、今回の演奏会では、絵本とは登場する絵の順番が少し前後して、物語の行間を補足した内容となっていました。これらすべてを体験できたのは会場にいた人達の特権!それは私も理解していますので、以下レポートでは過剰なネタバレを避けます。ストーリーと絵の大まかな説明は書きますが、絵本本体の文は最小限の引用にとどめ、書き下ろし文の引用はナシで(もちろん問題ある場合はご指摘くださいませ)。ひらがなで書かれた文も絵と同じく心温まる素敵なものでしたよ。また、賑やかな会場で(想定内です・笑)、演奏の細かいところは聞き取れなかったのですが、今回の演奏会の趣旨(子供達と楽しい時間を過ごす)に甘えて、演奏についてはざっくりしたレビューにてお許しください。


団員の皆様が入場してチューニング、続いて指揮の円光寺さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。ごあいさつの1曲目はウェーバーベルリオーズ編) 「舞踏への招待」より。中間部の華やかなところのみの抜粋演奏でした。透明感ある弦にかわいらしいピッコロ、木管の温かさ。華やかでも上品な響きは、札響の紹介にぴったり。どこかで聞き覚えのあるメロディに、客席も程よく温まった様子。もちろん演奏は素晴らしいものでした。ただ、個人的には省略された冒頭とラストの独奏チェロがやっぱり聴きたかった……と少しだけ思いました(内緒です)。

ここでリーダー森崎さんが舞台へ。スクリーンに映し出された絵と同じ、白のベストスーツを着用されていました。「指揮・円光寺雅彦、演奏・札幌交響楽団!」と演奏者の紹介とごあいさつに始まり、楽しいトーク(0さい1さいはともかく、「僕と同じ50歳の人」の呼びかけに反応した大人の方、えらいです!)、「一つだけ」の注意事項、「おばけのマ~ル」の紹介、等々。会場はとても和やかな雰囲気になりました。

物語が始まりました。演奏会へ出かけるまでの3曲は、物語の朗読と演奏が交互に。スクリーンには絵本の絵が順番に登場しました。大人おばけ・カシミヤが住む「ウルトラマリンブルーのホテル」(どう見ても豊平館)での、子供おばけ・マールとの楽しいやりとり。大きな柱時計を2人で見ているシーンで、ハイドン 交響曲第101番「時計」 第2楽章より。低弦ピッチカートとファゴットが刻む規則正しいリズムに合わせて、ヴァイオリンがかわいらしくメロディを奏でました。まるで柱時計を見ているマールのよう!マールがお耳をピッとつけるシーンで、チャイコフスキー 弦楽セレナーデ 第2楽章。今回は抜粋演奏では比較的めずらしい第2楽章が取り上げられました。ちなみに「オー人事」のCM(古い?)で有名な悲劇的な旋律は第1楽章です。同じチャイコフスキーでも、後半に控えるゴージャスなワルツとは違って、こちらのワルツはささやくような優しい響き。音楽もマールもカワイイ!カシミヤがレコードにハリを落とすシーンでは、この音楽が流れたという設定でしょうか?ビゼー組曲「こどもの遊び」より 第5曲 舞踏会(ギャロップ。少しテンポが速い音楽で、時折来る音の波に少しずつ気分も上昇。こんな楽しい音楽をもっと聴きたいというマールの気持ち、わかる!

ここで「みんなの参加コーナー」が入りました。森崎さんの取り仕切りで、お客さん達は自席に座ったまま拍手と手拍子の練習です。小さい拍手から大きな拍手になったり、リズム良く拍子を取ったり。ティンパニはじめ打楽器陣が併走してくださったおかげで、私達は手拍子で演奏に参加しているような気持ちになれました。

マールとカシミヤがkitaraへ向かう道は、シベリウス「カレリア」組曲 第1曲「行進曲風に」。絵本にはなかったシーンのため、今回は描き下ろし絵がスクリーンに映し出されました。プログラムに掲載されていた絵はその出発地点のみでしたが、実際は横に長い絵で、曲が進むのに合わせてスクリーン上の絵はゆっくりと横にスライドしていきました。ニコニコの音符たちが踊る五線譜の道を、マールとカシミヤが歩きます。軽やかでもどこか哀しい雰囲気の弦は、楽しいだけじゃないちょっぴり不安な気持ちも表しているよう。途中、池のほとりにしゃがんでカモの親子を見る2人。そうそう、子連れのお出かけは寄り道が多い!効率とは程遠いこんな時間も愛しい……。温かな管楽器群の響きに、私は思わず涙が。ウキウキのクラリネットが聴こえるとkitaraの姿が見えてきて、曲の輝かしいフィナーレでマールとカシミヤがちょうどkitaraの前に到着。ああなんて幸せなお出かけ!私は今後「カレリア」組曲を聴いたときには、きっとこの日の「マールとカシミヤがkitaraへ向かう道」が目に浮かぶと思います。

スクリーンには、人がいっぱいのロビーの絵、続いてkitara自慢の大きなオルガンがアップになった絵にマールとカシミヤの絵が重なった絵本のワンシーンが。物語の中でカシミヤがマールにオーケストラの簡単な説明をして、「いよいよ えんそうかいのはじまりです」。ここで森崎さんが一旦退場。「えんそうかい」の本番の流れは、途中トークなしで4曲続けての演奏でした。演奏会の流れにきっちり添って、オケがチューニングし、指揮の円光寺さんが指揮台へ。いよいよ演奏開始です。演奏会の最初はやはり定番のこの曲、モーツァルトフィガロの結婚」序曲。画面は絵本「おばけのマールとまるやまどうぶつえん」より、動物たちが大集合している絵。ファゴットと弦の序奏からワクワク。のびやかな木管を経て華やかな盛り上がりになり、一気に気分があがります。音楽の流れの中で時折パン!とアクセントが入ったり、個人的に好きな低弦が主役になるところがあったり。ああ何度聴いてもイイですね!ビゼー組曲「こどもの遊び」より 第2曲 お人形(子守歌)。画面はポストカードより、マールが時計台の上でギターを弾きながら月を見ている絵。ゆりかごのようなゆったりとした美しいチェロ(!)に合わせて、ヴァイオリンや木管が優しく歌うのがとてもとても素敵でした。ああこの曲、できれば次は演奏に集中できる環境で聴きたいです。わがまま言ってごめんなさい!グリーグペール・ギュント」第1組曲 第4曲「山の魔王の宮殿にて」。画面は絵本「おばけのマールとみんなのとしょかん」のキャラクター達が登場する描き下ろし絵。冒頭の低弦ピッチカートとファゴットのあやしげな響きにゾクゾク。はじめはゆっくりだったのが、次々と他の楽器が参戦しながら徐々に加速していき、しまいにはフルスロットルに。クライマックスでビシッとキメてくれた金管打楽器がカッコイイ!「ペール・ギュント組曲、いつか札響の演奏でフルで聴きたい!チャイコフスキー 「眠りの森の美女」よりワルツ。画面は、色とりどりの花が咲き乱れ、お花も虫や鳥たちもにっこにこの描き下ろし絵。少し穏やかなところの艶っぽい弦も、かわいらしい木管とトライアングルも、ゴージャスな盛り上がりの金管打楽器も、最初から最後まで素敵すぎ!聴いている私達もにっこにこになれました。

ここで森崎さんが再び舞台へ。「みんな、大きな拍手ー!良いことがあるかもよ!」との呼びかけで、会場はさらに大きな拍手で包まれました。そしてオケはアンコールの演奏へ。定番のJ.シュトラウス1世「ラデツキー行進曲。画面には、絵本にあったオーケストラ全員がにっこにこで演奏しているあの見開きページが!音楽は超華やかな冒頭から気分があがります。指揮の円光寺さんはほぼ客席の方を向いて、森崎さんと一緒に手拍子しながらお客さん達の音頭取り。「みんなの参加コーナー」の練習の成果もあって、強弱緩急つけながらの手拍子がみんな上手い!オケと客席の気持ちが一つになって、大盛り上がりで演奏は締めくくり。お話(スタンディングオベーションのシーン)の朗読で物語は幕を下ろしました。

拍手喝采の会場で、森崎さんから、客席にいらした著者お二人の紹介がありました。そして「札幌にはオーケストラがあります。おばけのマールがいます。みんな、また音楽を聴きに来てください」といった趣旨のお話が。ラスト「指揮・円光寺雅彦、演奏・札幌交響楽団!」との声かけで、会場は更なる大きな拍手の渦に。団員の皆様が会場に向かって大きく手を振ってくださいました(ええっ!?)。クールな札響メンバーがこんなふうに手を振ってくださったの、私は初めて目にしたかも?演奏でお疲れのところ、ありがとうございます!私は調子に乗って舞台へ大きく手を振り返し、分散退場でホールを後にしました。


演奏会お開きの後、ロビーでは絵本購入者で希望する人を対象に著者お二人によるサイン会が開催されました。ホールの出口には、なんと絵本の最終ページ、コンサートのアフターにマールとカシミヤがテラスレストランで食事しているシーンの絵と文が大きく引き延ばされて展示されていました。そこで娘と記念撮影。絵本のラストの文は「とってもしあわせでした おしまい」。とっても楽しかったです!ありがとうございました!スペシャルなプログラムと購入したタオルハンカチは家宝にします。

ホールを出てから周りを見渡すと、大人も子供も皆さんにっこにこのとても良い表情をされていて、私はうれしくなりました。親子向けコンサートでも0歳から入れるものはめずらしく、今回は早い段階でチケット完売になったようです。託児への抵抗感や、家族揃って演奏会を楽しみたい!というニーズにマッチしたのでは?「子供はすぐ大きくなるから」と外野は言いますが、新米ママ・パパが赤ちゃんのお世話でいっぱいいっぱいになっている最中は、出口が見えず辛くなることがありますからね。そんなせわしない日々にあって少しほっとできるような、0歳から参加できるイベントがあるのはとてもありがたいです。「赤ちゃんにはわからないから連れてきてかわいそう」って、それは違います!確かに物語の内容やクラシック音楽の本質的な部分はまだわからないかもしれません。しかし、自分を抱いている親が楽しんでいる様子を肌で感じ取るのは、赤ちゃん自身の癒やしになります。それに、素敵な音ね、きれいな色ね……こんな語りかけがその子なりの気づきにつながりますし、なにより大切なのは一緒にいる両親や兄・姉との心のふれあいが生まれること。こんな心のふれあいがあった子は、きっと思いやりのある人に育つと思います。赤ちゃん泣いてるじゃないかって?いいんですよ想定内です(笑)。赤ちゃんはどうしたって泣くときは泣きますから。例えばその子が大好きなキャラクターショーに連れて行ってあげても「思ってたんと違う」やら「眠い」やらで当の子供がギャン泣きなんて、子育てあるあるです(子のためを思って頑張った親の徒労感ハンパない・苦笑)。24時間365日子供ファーストで過ごしている親御さんたちが、たまには大人だって楽しめるイベントを選んでもいいじゃないですか。親の心の安らぎは、心にゆとりある子育てに繋がるはず。この不安定な時代に子供を産み育てている親御さんたちに、心安らげる機会が少しでも多くありますようにと、私は切に願います。今回、親子向け演奏会の企画・実行くださった札響には大感謝です!0歳からのコンサートを楽しんだお客さん達は、近い将来きっと通常の演奏会にも足を運ぶ札響ファンになりますよ。今回のような素晴らしい企画、今後もぜひ開催を続けてください!おしまい。


絵本『おばけのマ~ルとたのしいオーケストラ』は、札幌市広報部公式アカウントにて公開されている札幌中央図書館による読み聞かせ動画でも読むことができます。しかし小さなお子さんにはできれば紙の絵本そのものを手に取り、その子のペースで読み聞かせすることをおすすめします!


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札響は「大人のビギナー向け」コンサートも開催しています。特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)は、有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん。思い立ったらすぐに聴きに行けるご近所に札響とkitaraがある札幌は最高!と改めて思えました。

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「ウルトラマリンブルーのホテル」(豊平館)では室内楽のコンサートが開催されています。「第15回 Sound Space クラシックコンサート ファゴットとピアノの奏」(2022/07/30)。ブラームスクラリネットソナタファゴット版をはじめ、クラシックからモダン作品まで、札響副首席ファゴット奏者の夏山朋子さん(今回の「おばけのマール」演奏会では、「ペール・ギュント」の冒頭で印象的なファゴットを演奏された、あのかたです)とピアノ・水口真由さんによるファゴットの魅力と愛がいっぱいの演奏会、とっても楽しかったです!

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昨年度の夏休みコンサートはこちら。「札響夏休みスペシャル2021『アキラさん×札幌交響楽団」(2021/08/15)。オーケストラの森やクインテット名曲集など、マツケンサンバだけじゃない宮川彬良さんの多彩な作品&神アレンジの数々と、宮川安利さんのパフォーマンス。親子で超楽しめました!

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なお今年度は、アキラさんは「札響名曲コンサート」シリーズにご出演予定。2023年2月18日(土)14:00~、今からとても楽しみです!

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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第10回(2022/08) レポート

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今回(2022/08)のhitaru定期のソリストは、今年4月から札響のコンサートマスターに就任した会田莉凡さん!また会田さんと誕生日が同じ(7/5)という首席指揮者のマティアス・バーメルトさんがhitaru初登壇の予定でしたが、バーメルトさんが検査でコロナ陽性となったため来日が叶わず、急遽指揮者は下野竜也さんへ交代。演目は当初の予定通りで開催されました。

また、演奏会当日は「りぼん & Ribbon」コラボ企画の一環として、ポッカサッポロ北海道・Ribbonブランドのキャラクターのりぼんちゃんがロビーに登場。来場者へのリボンナポリン(470mlペットボトル)のプレゼントもありました。

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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第10回(2022/08)

2022年08月04日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
下野 竜也

【ヴァイオリン】
会田 莉凡 ※2022年4月~札響コンサートマスター

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
廣瀬 量平:北へ (1981札響創立20周年記念委嘱作品)
ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲
ソリストアンコール)バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番よりラルゴ

ブラームス交響曲第1番


真夏の札幌都心で超アツイ夜、とっても楽しかったです!会田莉凡さん、改めまして我が町のオケへようこそ!協奏曲では、オケと楽しそうに絡み合う、自由にのびのびとした印象の独奏に聴き惚れました。難曲を当たり前のように弾ける技術力の高さと、美メロをたっぷり「聴かせる」芸術的な力量はもちろんのこと、個人的にぐっと来たのは例えば高音に振り切った際に「ゆらぎ」が見られたこと。狙ったものかどうかは私にはわからないのですが、ただそつなくかっちりした演奏よりも血が通った感じがして好印象でした。他にも様々なものを「持っている」かたとお見受けしますが、多くの人に愛されるのも才能の一つですよね。演奏からは、コンミス就任4カ月で既にオケとの信頼関係が出来上がっていると感じられましたし、拍手喝采の会場にいたお客さん達も大歓迎している様子がうかがえました。本当に、ご縁があって会田さんが札響の新コンミスに就任くださたことに感謝です。会田さんは今、多方面で引っぱりだこ。お若く勢いがあるかたですが、どうかお身体を大切になさって、これからの札響を末永くよろしくお願いします。また、先輩のコンマス田島高宏さんにも改めてお礼申し上げます。札幌の地に足を付け、一人態勢の時も長い期間にわたり札響を率いてきた田島さんが、今回もしっかりオケを牽引してくださいました。いつもありがとうございます!頼りにしています!もちろんソリストだけ、コンマスだけでは管弦楽は成り立ちません。気持ちを一つにして演奏を作り上げる、オケのお一人お一人すべての奏者の皆様が功労者です。

そして突然のオファーを快諾くださり、我が町のオケの底力を十二分に引き出してくださった、マエストロ下野に大感謝です!中でも廣瀬量平「北へ」は演奏機会が少なく、短かい期間で取り組むのは大変だったと存じます。にもかかわらず、これぞまさに「札響の音」と感じられる演奏!またドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲は、下野さんの十八番というのも頷ける素晴らしい演奏で、私達は大船に乗った気持ちで聴けました。そしてブラ1の大熱演が最高!本当にありがとうございます。来月の三大交響曲もすごく楽しみです!

それにしても、ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲はとっても素敵な曲なのに、チェロ協奏曲より影が薄い印象です。理由はわかりませんが、ヴァイオリン協奏曲を献呈されたヴァイオリニストのヨアヒムは一度も演奏しなかったそう。もったいない……。しかし今回のように、素晴らしい演奏で披露される機会が増えれば、この作品への世の中の見方が変わってくるかも!また、後半ブラームス交響曲第1番は、クールなイメージの札響がリミッター外して全力投球してくださり、すごくうれしかったです。細かいところも、例えばブラ1で多用されている弦ピッチカートや、奥行きを感じさせるホルン等がとても良い仕事をしていると感じました。今回は、決してメインをかき消すことはないけれど、メインを引き立ててくれるサブの部分がよく聞こえた気がして、hitaruってこんなに良い響きだっけ?と思ったり。あと個人的には特にがっちり骨太な低弦にやられました!ブラ1の場合、美メロはヴァイオリンと木管の役目(こちらももちろん素敵でした)で、低弦はあくまで下支え。しかしこんな重低音の振動を全身で感じられるのは、室内楽にはないオケの醍醐味!ブラームスの低弦、大好き!ちなみに私はブラ1を生演奏で聴くのは、今回が3年ぶり2回目。なお、プログラムによるとブラ1の札響演奏歴は過去89回。創立61周年にして今回が90回目……意外に少ないと個人的には思います。もっと聴きたいので、今後ぜひ積極的に取り上げてください!


1曲目は廣瀬量平「北へ」。1981年・札響創立20周年記念委託作品で、札響での演奏は今回が3回目となるそうです。木管は各3管編成で、多彩な打楽器、ハープ、ピアノ、チェレスタが入る大編成でした。大きな音の響きが波のように来るのには北の大地の壮大さや厳しさ、また神秘的なハープと弦の重なりには未知の自然への畏敬の念が感じられました。音のうねりやクールな響きに、私は札響が得意とする武満徹作品を連想。聴きやすいメロディはなく、私には正直掴みづらい音楽でしたが、札響の底力を再認識しました。

いよいよ私達のコンミス、会田莉凡さんをソリストにお迎えして、2曲目はドヴォルジャーク「ヴァイオリン協奏曲」。第1楽章と第2楽章は続けての演奏でした。第1楽章、重厚なオケの序奏に続いて登場した、哀愁あるメロディの独奏ヴァイオリンが圧倒的な存在感!独奏ヴァイオリンがオケのメロディを引き継いで切なく歌い、感極まったようにキュイーと高音を発した後はまたオケのターン……と、独奏ヴァイオリンとオケが交互にメインとなる流れが絶妙で、聴いていて気持ちが良かったです。独奏ヴァイオリンがゆったりと美しく歌ったところでの、木管の温かな響きとの重なりが素敵!終盤、独奏ヴァイオリンが、高音で頂点に達したときは儚げな感じだったのが、続くホルンとの重なりでは低音で貫禄ある感じになり、その振り幅の大きさがとても印象的でした。続く第2楽章は、美メロをゆったりと美しく響かせた独奏ヴァイオリンにうっとり。木管の優しい響きや牧歌的なホルンとの重なりも素敵!中盤、少しシリアスになるところでの、オケのホルンとトランペットのパンチある響きも印象に残っています。そして第3楽章へ。初めの方にアクセントが来るスラブ舞曲のようなリズムで、軽快で華やかに歌う独奏ヴァイオリンがとっても素敵!独奏とは小さな音でシンクロしていたオケの弦が、主役に躍り出た時はうんと華やかに盛り上げてくれたのもうれしかったです。生き生きと自由な感じの独奏ヴァイオリンと温かく包むオケは、まるで一緒にダンスしているかのよう。ティンパニのリズミカルな強打に気分があがる!中低弦と重なり、独奏ヴァイオリンが哀愁を帯びたメロディを歌うところがすごく素敵でした。独奏ヴァイオリンが次第に盛り上がっていくところでの、オケの弦がメロディをリレーしながら一緒に盛り上がりを作ったのが個人的にツボ。超スピードでぐいぐい来ながら美しいメロディを奏でる独奏ヴァイオリンにホレボレ。オケと一緒に力一杯駆け抜けたラストが清々しい!幸せな協演を目の当たりにした、私達聴き手もとっても幸せです!

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ソリストアンコールバッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番」よりラルゴ。ゆったりと美しい音楽で、切ないメロディに時折さりげなく入る重音が印象的でした。少ない音でこんなにも豊かな響き!札響は本当に素敵なコンミスをお迎えできたんだなと改めて実感しました。会田莉凡さん、我が町のオケに来て下さりありがとうございます。末永くよろしくお願いします!


後半はブラームス交響曲第1番」。第1楽章、ティンパニインパクト大の厳かな出だし!個人的には少しテンポが速い気がして戸惑いましたが、繰り返しに入るところでの区切りの1音がすとんと腑に落ちて、それからは流れに乗れました。全員が全力で来るパワフルな演奏に圧倒されながら、悲劇的な高音とぐっと重厚な低音の重なりにゾクゾク。やはりブラームスはイイ!深刻なところでの初めのティンパニと同じ鼓動を刻むコントラバスや、木管のターンでの弦ピッチカート等、主役じゃないパートもよく聞こえて、その良い仕事ぶりがわかったのもうれしかったです。厳格な中でふと光が見える、ホルンと各木管がこだまするように穏やかな響きがあったのが印象的。これは第4楽章の伏線なのかも?と、私はこの日初めてそう思いました。厳かな楽章が、締めくくりでは曇天から青空が広がるような感じの爽やかさになるのも好きです。この締めくくりにも第4楽章への道筋?第2楽章は、クールな弦による出だしから素敵!この楽章では寄せては返すような音の波がすごく良くて、hitaruの響きともちろん札響のお力を再認識。オーボエソロ(コンマスソロのメロディを先取り)に始まり、各木管のソロでは様々な個性を楽しめました。そしてコンマスソロ!穏やかなオケをバックに、ブラームスの美メロをたっぷり美しく聴かせてくださいました。私達のコンマス田島高宏さん、超素敵です!ありがとうございます!第3楽章、ホルンとファゴットと低弦ピッチカートに支えられてのクラリネット、続いてフルートのソロがとっても素敵。管と弦が会話するように交互に演奏する流れで、呼吸が絶妙に合うのが良かったです。木管の切ないメロディと出番が少ないトランペットのパワフルな響きも印象的でした。第4楽章、重厚な音楽再び!はじめのクレッシェンドで全体像が浮かび上がるところがすごく良くて、この後への期待が高まりました。ティンパニの連打までは超スピード!そして苦悩から歓喜へ。景色を一変させたホルン(クララさんへのプレゼント)の響き、美しいフルートに続き、この楽章で初登場のトロンボーンの天国的な響き……じっくり聴かせてくださったこの流れが良すぎました。ここからのメロディを歌う高音弦の音色が超素敵で、メロディを木管に引き継いだ後の、全員参加の大盛り上がりがすごい!大音量大迫力に圧倒されました。高音弦と鏡映しだったり呼応したりする低弦が超カッコイイ!少し穏やかなところを経て、ヴィオラから始まる盛り上がりの波に私達のテンションも上昇。クライマックスでの、ティンパニの鼓動に乗ったオケ全員参加の自信に満ちあふれた響きに、金管群の神々しさ!私は胸いっぱいになりました。ラストは全力で駆け抜け、堂々たる締めくくり。ああ、やっぱりブラ1はイイですね!熱量高いこの日の演奏が聴けて幸せです!ありがとうございました!


前回のhitaru定期はこちら。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回」(2022/04/14)。守備範囲外の幻想交響曲にドハマリ!ラヴェルのピアコンはピアノが緩急つけて高音低音を自在に行き来し、オケと息のあった掛け合い。豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新体制・新年度のスタートでした。

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会田莉凡さんのソロ演奏が光った「札幌交響楽団 第644回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/04/23)。「英雄の生涯」は、驚きの一体感の大編成による壮大な物語の世界。新コンミス会田さんのソロと各パートの掛け合いは素晴らしく、ラストが圧巻!またベートーヴェンのピアコン第3番に胸打たれ、意欲的な武満作品に札響の底力を再確認しました。

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ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ(2022/07) レポート

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今回のウィステリアホール プレミアムクラシックはソプラノ&ピアノ。昨年の「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)で中江さんの大ファンになった私は、別会場のブラ2を含む公演を見送り、迷わずこちらの公演へ足を運びました。演奏会当日、ほぼすべての座席を使用した会場は、他の大規模な公演と被ったにもかかわらず9割ほどの席が埋まっていました。


ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ
2022年07月31日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
中江早希(ソプラノ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
中田喜直:魚とオレンジ/阪田寛夫 (作詩)
 1. はなやぐ朝 / 2. 顔 / 3. あいつ / 4. 魔法のりんご 5. 艶やかなる歌 / 6. ケッコン / 7. 祝辞 / 8. らくだの耳から(魚とオレンジ)

山田耕筰:風に寄せてうたへる春のうた/三木露風(作詩)
 1. 青き臥床をわれ飾る / 2. 君がため織る綾錦 / 3. 光に顫ひ日に舞へる / 4. たゝへよ、しらべよ、歌ひつれよ

直江香世子:金子みすゞの詩による三つの小品/金子みすゞ(作詩)
 1. つゆ / 2. 花屋の爺さん / 3. 雪

クララ・シューマン
 ワルツ/リザー(作詩)
 我が星/ゼレ(作詩)

ロベルト・シューマン:女の愛と生涯 作品42/シャミッソー(作詩)
 1. 彼に会ってから / 2. 彼は誰よりも素晴らしい人 / 3. わからない、信じられない / 4. わたしの指の指輪よ / 5. 手伝って、妹たち / 6. 愛しい人、あなたは見つめる / 7. わたしの心に、わたしの胸に / 8. 今あなたは初めてわたしを悲しませる

アルノルト・シェーンベルク:4つの歌曲 作品2/Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ :デーメル、 Ⅳ:シュラーフ(作詩)
 1. 期待 / 2. ぼくにあなたの金色の櫛をください / 3. 高揚 / 4. 森の日差し

(アンコール)越谷達之助:初恋/石川啄木(作詩)


ピアノはベーゼンドルファーでした。


中身の濃い「濃厚なプログラム」の演奏を通じて、2時間たっぷり様々な人生を生ききった演奏会でした!今回、私はすべての演目が初聴き(まっさらな気持ちで聴きたくてあえて予習ナシで臨みました)で、開演前は中江さんの美声を味わいたい♪と、のんびり構えていたのです。しかし演奏が始まると、時にどす黒い感情をも全力で表現する演奏に圧倒され、私は良い意味で中江さんへの見方が変わりました。一切の手加減なしでごまかしのない演奏は、表現者としての矜持であり、同時に私達聴き手を信頼してくださっている証。私はますます中江さんのファンになりました。こんなに素晴らしい演奏家が、地方都市である札幌の小さな会場で、ここだけのプログラムを上演してくださるなんて!その会場に私もいられたなんて、感激です!ありがとうございます!いうまでもなく、中江さんとご一緒にプログラムから当日の演奏まで作り上げた新堀さんにも大感謝です。そして企画立案から開催まで取り仕切ってくださったウィステリアホールさんにお礼申し上げます。

演奏は最初から最後まで素晴らしいものでしたが、今回私が最も感銘を受けたのは、最初の中田喜直「魚とオレンジ」です。ものを言うことが許されなかった時代の女性の感情を、ここまで赤裸々に描いた作品があったとは!ヒロインは、醜い感情を持ち自分の運命を嘆く、有り体に言えば「かわいげがない」女性。しかし男性である詩人も作曲家も、この女性への眼差しが優しいと私は思いました。感情をありのままに吐露させ(それすら女性には許されなかった時代)、最後には救いがある物語。作品を生み出した詩人と作曲家、そして魂の込められた演奏のおかげで、私は凄みに圧倒されながらも、作品中で「愛がない」と絶望していたこのヒロインをたまらなく愛しく思いました。この出会いに感謝!もちろんそう思えたのは、何より演奏が素晴らしかったからです。「かわいげがある」女性を演じるより遙かに難しいはずの、「魚とオレンジ」のヒロインに命を吹き込んだ演奏は、見事としか言いようがありません。もちろん他の作品も、懸命に生きる人が目の前にいると感じられる素晴らしい演奏で聴かせてくださいました。時代が今とは違うから、あるいは詩人や作曲家が男だから女だから、そんなことは大した問題ではありません。どんな時代でも置かれた場所で懸命に生きる人は尊い存在であり、また他者を想像して描いている以上、どんな作品も多かれ少なかれファンタジーだと私は思っています。そんな作品の中にいる人達を、リアリティのある生きた存在として私達の目の前に出現させてくださった、中江さんと新堀さんを心よりリスペクトします。本当にありがとうございます。


開演前のプレトークは中江さんと新堀さんのお二人で。今回のテーマは「作品から見る女の愛と生涯」。シューマンの作品を取り上げることが真っ先に決まったそうです。女声だと音程低めのメゾソプラノやアルトのかたがよく演奏する演目を、ソプラノの中江さんは勉強したいと以前から考えていらして、新堀さんにお話したとのこと。今回取り上げる直江さんの作品は、直江さんが大学の試験で作曲されたもので、大学の同級生である中江さんが初演。「3曲で一つの物語になるように作曲した」ものだそうです。また他の演目についても簡単な解説がありました。

前半は日本語の歌です。最初の演目は中田喜直「魚とオレンジ」。1曲目の「はなやぐ朝」は、和風で華やかなピアノ前奏から入り、ソプラノの高く美しいお声に初めから気分があがりました。さらにもう一段高い声で玉を転がすように歌ったところが素晴らしい!中江さんの十八番の「夜の女王のアリア」を思わせる貫禄でした。天真爛漫な少女がそこにいるようで、聴いている私達も爽快な気分に。また育った家の庭の描写(?)で「魚の目玉」や「みかん」という台詞が出てきたので、私の中で意味は繋がらなかったのですが、これがタイトルの元になった?とは思いました。ただ驚いたのは2曲目以降。1曲目の明るさは何だったの……と戸惑うほどの変化。しかし魂の込められた演奏は、まるで舞台演劇のようで、聴いている私達もその世界観に引き込まれました。2曲目「顔」は、不穏なピアノ伴奏に合わせて澄んだソプラノが思春期にありがちな容姿コンプレックスを歌っている、とゆったり構えていたら、「そんな目で見ないでください」とピシャッと厳しく言い放たれ、会場の空気が一変。3曲目「あいつ」は、自分を挑発したあいつに恨みを募らせ、ころす!と強く言い放ち、しかもそれは結婚した後にって……。続く、白雪姫の毒リンゴを欲しがる4曲目「魔法のりんご」も、おどろおどろしいピアノの響きに、高く澄んだソプラノが発する怖い台詞が、ぞっとする恐ろしさでした。少し華やかになった5曲目「艶やかなる歌」では、聴いて頂戴、と世の中の人達に自分がプロポーズされたのを自慢するも、「なんていうのかな、嫌いじゃ無かったのよ」と普通のおしゃべりのように言ったのと、ラストの「私をみーてー!」がとても印象に残っています。6曲目「ケッコン」は、おめでたいはずなのに、けだるく「金襴緞子」「花嫁ざんす」と最後の「す」に韻を踏みながら言い捨てるように言葉を発し、「ゴケッコンでーす」と機械的に言ったのに胸が締め付られました。人生すごろくを進めてはいても、結婚に対して希望などない、そんな心情が痛いほど伝わってくる演奏。7曲目「祝辞」では、結婚式の最中に目で会話した母親に、二十数年後の自分の姿を見るというもので、夫に子供2人にイヌがいて、でも愛がない……聴いていてとてもつらくなってしまいました。日本の女の人生は何と窮屈なことか。先は全部見えているのに「(それでもこの人に)ついて行くの」との悲痛な叫びが忘れられません。そして終曲は、最初のほうはうまく聞き取れなかったのですが、地球を離れた私を「みてみてみてみて」(ものすごい気迫が感じられました)と、何にだってなれる「私は魚、私はオレンジ」。どんな形かはわからないけれど、この女性の魂が解放されたように感じられました。よかった……と言っていいかはわかりません。しかし、音楽に1曲目の明るさが戻って来たのを聴き、もし彼女が天真爛漫だった少女の気持ちに戻れたのだったら、救いなのかなと。美声だけじゃない中江さんの愛(ある意味型破りなこの作品の女性に命を吹き込んだ演奏、これこそ愛だと私は思います)と表現力に、ただただ打ちのめされました。隠れた名曲を、希代の名演奏で聴かせてくださりありがとうございます!

続いて山田耕筰「風に寄せてうたへる春のうた」。壮大なピアノとのびやかに歌うソプラノ、あふれる生命力!3曲目に少し心の揺らぎが垣間見られたのが印象的で、ラストの4曲目のきらびやかで幸福に満ちあふれた感じがインパクト大!古風な歌詞で正確な意味を把握できなかったのですが、字面通りの春を讃える歌というよりは、恋の始まりの喜びを表現しているように個人的には感じました。そして、もしもこの作品を単体で聴いたなら、清々しくて素敵!と、私は素直に楽しめたかもしれません。しかし、「魚とオレンジ」を聴いた直後だったためか、純粋無垢な恋にどこか哀しみを感じました。この先、窮屈な人生が待っていることにまだ気付いていないのか、あるいは気付かないふりをしてほんの短い春を必死で謳歌しているのか。いずれにしても居たたまれないなと。あくまで個人の感想です。

直江香世子「金子みすゞの詩による三つの小品」。「誰にも言わずにおきましょう」と、ささやくように始まった「つゆ」は、ピュアな少女が思い浮かびました。ピアノの響きがはじめスキップするようだったのが次第に夕暮れの寂しさを思わせるように変化した「花屋の爺さん」は、ラストの「花屋の爺さん夢に見る、売ったお花の幸せを」がとても印象深かったです。1曲目からの流れで、娘をお嫁に出した男親の心情の暗喩とも考えられるなと、個人的にはそう思いました。ドラマチックなピアノの序奏から入った「雪」は、はじめ「青い小鳥が死にました」と淡々と歌われたのに、ぎょっとした私。しかし後半、魂が天に召される描写ではソプラノもピアノもとても温かで、ちっぽけな存在への愛を感じました。深読みするなら、3曲の流れから「青い小鳥」は遠くへ嫁いだ女とも考えられるかも?大切な作品を心の込もった演奏で、良いものを聴かせて頂きました。


後半はドイツ歌曲で、演奏に合わせてスクリーンには中江さん訳による日本語訳が映し出されました。初めはクララ・シューマンの作品から2つ。「ワルツ」はピアノによるワルツの軽快なリズムに乗って、春の咲き誇る花のように歌うソプラノにホレボレ。私は、中江さんのドイツ語の発声、特に語尾で鼻に抜ける感じの柔らかい発声が好きなんです!これが聴きたかったの!と自席でひとり喜んでいました。歌詞を追うと、どうやら男が若い娘にアプローチしている内容。「一度咲いてしまったものは、二度と咲くことはありません」といった趣旨のところが、ソプラノもピアノも意味深な響きになったように感ました。「我が星」は、会えない夜に愛する人を思う内容でしょうか。透明感あるソプラノに、夜空の広がりを思わせるピアノがとっても素敵!一定のリズムを刻むピアノが、高音キラキラではなく厚みのある響きだったのにはぐっと来ました。クララの夫・ロベルトや友人・ブラームスの作品に見られるピアノ伴奏と似ている気がして、個人的にうれしかったです。それにしてもクララさんのラブソング、とってもピュア!初聴きだった今回の2曲を、私はすっかり好きになりました。

そして今回の山場、ロベルト・シューマン「女の愛と生涯 作品42」。おそらくは平凡な女性が恋をして結婚・出産して……というストーリー。愛に一途な一人の女性が目の前にいるように感じられる演奏で、私は最初から最後まで没頭しました。1曲目は、恋をして「何も見えなくなったみたい」という女性の心情。控えめなピアノに、ひとりで物思いにふける感じのソプラノが、純粋でうぶな乙女のようでとっても素敵!2曲目は、彼は素晴らしい人と讃えながらも、自分は不釣り合いだと卑下しふさわしい女性と一緒になるのを願う内容。力強い演奏は、自分に言い聞かせている感じもしました。3曲目はあこがれの彼が自分を選んでくれた戸惑い、4曲目は婚約指輪を身につけて静かに結婚への覚悟を決める内容。あんなに不安な気持ちでいっぱいだったのが、結婚が決まると彼と生きる道を迷わず進む、その変化がとても印象的でした。5曲目、結婚式当日に花嫁衣装を身につける際に、手伝ってくれている妹たちへの語りかけ。自分の幸せのことで頭がいっぱい(それでいいと私は思います)と思いきや、ラストは妹たちとの別れにしんみり。ピアノの後奏がちょっと切なく余韻を残したのが素敵。6曲目は、直接的な表現はありませんでしたが、おそらく初夜を迎えた後に妻が夫に語りかけているシーン。個人的にはこの曲が最も印象深かったです。娘が女に生まれ変わった、というのは肉体的な意味では無く精神的な成長という意味で、そう感じられました。ゆったりとした揺りかごのようなピアノに、優しく愛に満ちたソプラノが神々しい!娘時代は不安で揺れる自分の気持ち中心だった女性が、今や夫を胸に抱き寄せて愛で包んでいる!すごい!中江さんのお声が愛に満ちあふれていて素敵すぎました。揺りかごの置き場所を確認して、赤ちゃんを待ち望んでいるといった歌詞も印象に残っています。7曲目は、赤ちゃんが生まれて喜びを歌う内容。スキップのようなかわいらしいリズムを刻むピアノに乗った、意思が感じられるソプラノに「母」になったという自覚がうかがえました。そして終曲は……どうやら私は盛大な勘違いをしていたようです。大変失礼しました。後日復習しようと日本語訳を見直した際に、ようやく自分の解釈間違いに気付きました。思い込みが激しい性分で、お恥ずかしい限りです。他にも細かな思い違いはあるかもしれませんが、この終曲の件は許容できる範囲を超えていると思いますので、終曲についての私の感想はここには書かないことにします。一番の肝である終曲を正しく受け止められず、申し訳ありません。

ここでトークが入りました。作品を通じて、昔も今も同じような苦しみがあると思えること。まだまだ世の中は不安定な状況でも、音楽に触れることで心の中のわだかまりが少しでも晴れてくれたら……といった趣旨のお話がありました。そして最後の演目であるシェーンベルク作品についての紹介へ。ちなみに中江さんは大学院では近現代の音楽の研究をされていたそうです。シェーンベルク新婚当時に、妻がシェーンベルクの友人の画家と駆け落ちした(!)頃に作曲された作品で、不安定さと妻への熱い想いがあるとのこと。十二音技法より前の、官能的でシェーンベルク本来の姿が浮かび上がる、といった解説でした。

プログラム最後の曲はシェーンベルク「4つの歌曲 作品2」。男性が女性を想う愛の歌でした。1曲目は、月明かりを思わせる幻想的な響きがとっても素敵!2曲目は、翻訳を目で追っていると、暗喩でも性的な表現が出てきて私はぞっとしてしまいました。肉欲から離れられない男の性を頭では理解しても、気持ちはどうしても受け入れられず(ごめんなさい!)。しかし音楽は美しく、女の愛を求める男の切ない気持ちが感じられ、胸打たれました。3曲目は華やかなピアノに高らかに歌うソプラノが情熱的で、ロマン派の作品のように感じられ印象深かったです。4曲目は、穏やかで幸せな時間を思わせる音楽で、繊細で優しい響きのピアノと、一層柔らかいお声のソプラノの重なりが素敵でした。男性の愛だってこんなにロマンティック!シェーンベルクにこんな一面があったなんて!作品の紹介と素敵な演奏に感謝です。

アンコール越谷達之助「初恋」。最後にゆったりとした穏やかな音楽で中江さんの美しいお声を聴けてうれしかったです。「初恋の痛みを」と高い声で切なく歌うところがとても印象的でした。恋や愛の痛みは、真剣に向き合ったからこそ!今回の演奏会は、魂が揺さぶられる演奏を通じて、様々な人生を生ききったスペシャルな体験でした。本当にありがとうございます!これからも中江さん&新堀さんデュオによる演奏を聴きたいです。ぜひ企画と開催を続けて頂きたく、お願いします!


ソプラノ中江さん&ピアノ新堀さんがご出演された、昨年度のウィステリアホールプレミアムクラシック 「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)ブラームスの歌曲とクラリネットソナタ。めずらしい編成でのシュポアシューベルト。アンコールに至るまで、耳に身体に心地よい響きで、ずっと聴いていたい演奏でした。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回はバリトン&ピアノ」(2022/06/05)でした。ヴォルフとシューマン、いずれも詩人・アイヒェンドルフの詩に曲をつけたドイツ歌曲。作曲家の個性の違いが楽しく、愛あふれるトークと演奏のおかげで食わず嫌いの私でもヴォルフを楽しく聴けました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。