夏休み恒例の札響の親子向けコンサート。今年は、絵本「おばけのマール」シリーズとのコラボ企画です。私は小4娘と一緒に参戦。同日2回公演のうち、私達が聴いたのは午後の部です。なお、午前・午後の部ともに早い段階でチケット完売(!)。当日はスクリーンが見づらい「見切れ席」が追加で販売されました。
また、指揮者は来日が叶わなかった首席指揮者のマティアス・バーメルトさんに代わり、円光寺雅彦さんへ。円光寺さんは8/7の砂川公演に引き続いての登壇です。急遽代役をお引き受けくださりありがとうございます。
私にとっては通い慣れているkitaraなのに、この日はまるで違うところへ来たようでした。開演前、ロビーではグッズ販売や記念撮影用のパネルに並ぶ親子連れで賑わい、ベビーカー置き場にずらりと並ぶベビーカーが壮観。案内パネルにもマールとキャラクター達の絵がたくさんあって心和みました。お客さんは親子連れがほとんどでしたが、大人のお一人様(クラシック音楽好きなかたや森崎リーダーのファンのかた?)もいらしたようでした。
札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」(午後の部)
2022年08月11日(木・祝)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
円光寺 雅彦
【出演】
スペシャルゲスト / 森崎 博之(TEAM NACS)
/ 絵 / なかいれい、文 / けーたろう
【管弦楽】
札幌交響楽団(ゲストコンサートマスター:戸原 直)
【曲目】
ウェーバー(ベルリオーズ編):「舞踏への招待」より
ハイドン:交響曲第101番「時計」 第2楽章より
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ 第2楽章
ビゼー:小組曲「こどもの遊び」より 第5曲 舞踏会(ギャロップ)
モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲
ビゼー:小組曲「こどもの遊び」より 第2曲 お人形(子守歌)
グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲 第4曲「山の魔王の宮殿にて」
チャイコフスキー:「眠りの森の美女」よりワルツ
いつもと違う特別な演奏会。親子で思いっきり楽しめ、夏休みの良い思い出になりました!小さい子向けの企画……と、少々渋っていた小4のうちの娘(少し難しいお年頃に入りかけています)も、いざ演奏会が始まると、おばけのマールのかわいらしさや札響が奏でる素敵な音楽を彼女なりに楽しんでいた様子。絵本で親しんできたお話を、音楽と一緒に親子で楽しめたのはとても良かったです。また、絵本の形をしたプログラムがとっても素敵で、なかいれいさんの絵とけーたろうさんの文による描き下ろし(書き下ろし)もたっぷり。ここだけのスペシャルな体験に、記念になるプログラム冊子まで、感激です!私はこちら大切に保管して、折に触れて親子で絵本と一緒に読み返したいと思います。
自身も3人のお子さんの父親である森崎博之さんの朗読と進行も素敵でした。時折身振りを交えての、ゆっくりはっきりした朗読は聞きやすかったですし、会場を和ませるトークはさすが。演奏中は身体を揺らしてノリノリで音楽を聴いていらして、お人柄の良さがうかがえました。そして森崎さんがおっしゃった、演奏会の注意事項は「一つだけ」。「お子さんが泣いたり騒いだりしても、周りの人はどうか温かく見守ってください」……ありがとうございます。本当に、今回はこれがすべてなんですよね。ルールが厳しいイメージのクラシック音楽の演奏会に、小さな子を連れてきたことで、緊張している親御さんたちも多かったと思います。リーダーのこの一言で、きっと皆さん救われたのでは?
そして言うまでもなく札響による演奏が素晴らしかったです!小さな子達への配慮なのか、大きな音は従来より控えめ(音量を少し下げてもキレイに響かせるのはさすがです)。しかし、演奏はいつものようにプロのお仕事で手を抜くことはなく、私は慣れ親しんだ響きを安心して聴けました。ファーストコンサートがこの札響サウンドなんて、札幌の子供達が本当にうらやましい!また、おそらくはバーメルトさんのアイデアも入っていると思われる選曲がとても良かったです。超有名曲に偏ることなく、バラエティ豊かな曲の数々を物語のシーンに合わせてチョイス。大人が聴いても十二分に楽しめる内容になっていました。個人的には、中でもマールとカシミヤがkitaraへ向かう道でのシベリウス「カレリア」組曲がイチオシ!小さな子供と出かける時の心情に、描き下ろし絵の細やかさと札響お得意のシベリウスの音楽が優しく響き、私は胸いっぱいになりました。「おばけのマール」と札響とkitaraがある札幌で子育てできて、本当に良かったと改めてそう思います。
舞台の後方には大きなスクリーンが設置され、お話や演奏に合わせて絵本のページや描き下ろしの絵が大きく映し出されました。また、今回の演奏会では、絵本とは登場する絵の順番が少し前後して、物語の行間を補足した内容となっていました。これらすべてを体験できたのは会場にいた人達の特権!それは私も理解していますので、以下レポートでは過剰なネタバレを避けます。ストーリーと絵の大まかな説明は書きますが、絵本本体の文は最小限の引用にとどめ、書き下ろし文の引用はナシで(もちろん問題ある場合はご指摘くださいませ)。ひらがなで書かれた文も絵と同じく心温まる素敵なものでしたよ。また、賑やかな会場で(想定内です・笑)、演奏の細かいところは聞き取れなかったのですが、今回の演奏会の趣旨(子供達と楽しい時間を過ごす)に甘えて、演奏についてはざっくりしたレビューにてお許しください。
団員の皆様が入場してチューニング、続いて指揮の円光寺さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。ごあいさつの1曲目はウェーバー(ベルリオーズ編) 「舞踏への招待」より。中間部の華やかなところのみの抜粋演奏でした。透明感ある弦にかわいらしいピッコロ、木管の温かさ。華やかでも上品な響きは、札響の紹介にぴったり。どこかで聞き覚えのあるメロディに、客席も程よく温まった様子。もちろん演奏は素晴らしいものでした。ただ、個人的には省略された冒頭とラストの独奏チェロがやっぱり聴きたかった……と少しだけ思いました(内緒です)。
ここでリーダー森崎さんが舞台へ。スクリーンに映し出された絵と同じ、白のベストスーツを着用されていました。「指揮・円光寺雅彦、演奏・札幌交響楽団!」と演奏者の紹介とごあいさつに始まり、楽しいトーク(0さい1さいはともかく、「僕と同じ50歳の人」の呼びかけに反応した大人の方、えらいです!)、「一つだけ」の注意事項、「おばけのマ~ル」の紹介、等々。会場はとても和やかな雰囲気になりました。
物語が始まりました。演奏会へ出かけるまでの3曲は、物語の朗読と演奏が交互に。スクリーンには絵本の絵が順番に登場しました。大人おばけ・カシミヤが住む「ウルトラマリンブルーのホテル」(どう見ても豊平館)での、子供おばけ・マールとの楽しいやりとり。大きな柱時計を2人で見ているシーンで、ハイドン 交響曲第101番「時計」 第2楽章より。低弦ピッチカートとファゴットが刻む規則正しいリズムに合わせて、ヴァイオリンがかわいらしくメロディを奏でました。まるで柱時計を見ているマールのよう!マールがお耳をピッとつけるシーンで、チャイコフスキー 弦楽セレナーデ 第2楽章。今回は抜粋演奏では比較的めずらしい第2楽章が取り上げられました。ちなみに「オー人事」のCM(古い?)で有名な悲劇的な旋律は第1楽章です。同じチャイコフスキーでも、後半に控えるゴージャスなワルツとは違って、こちらのワルツはささやくような優しい響き。音楽もマールもカワイイ!カシミヤがレコードにハリを落とすシーンでは、この音楽が流れたという設定でしょうか?ビゼー 小組曲「こどもの遊び」より 第5曲 舞踏会(ギャロップ)。少しテンポが速い音楽で、時折来る音の波に少しずつ気分も上昇。こんな楽しい音楽をもっと聴きたいというマールの気持ち、わかる!
ここで「みんなの参加コーナー」が入りました。森崎さんの取り仕切りで、お客さん達は自席に座ったまま拍手と手拍子の練習です。小さい拍手から大きな拍手になったり、リズム良く拍子を取ったり。ティンパニはじめ打楽器陣が併走してくださったおかげで、私達は手拍子で演奏に参加しているような気持ちになれました。
マールとカシミヤがkitaraへ向かう道は、シベリウス「カレリア」組曲 第1曲「行進曲風に」。絵本にはなかったシーンのため、今回は描き下ろし絵がスクリーンに映し出されました。プログラムに掲載されていた絵はその出発地点のみでしたが、実際は横に長い絵で、曲が進むのに合わせてスクリーン上の絵はゆっくりと横にスライドしていきました。ニコニコの音符たちが踊る五線譜の道を、マールとカシミヤが歩きます。軽やかでもどこか哀しい雰囲気の弦は、楽しいだけじゃないちょっぴり不安な気持ちも表しているよう。途中、池のほとりにしゃがんでカモの親子を見る2人。そうそう、子連れのお出かけは寄り道が多い!効率とは程遠いこんな時間も愛しい……。温かな管楽器群の響きに、私は思わず涙が。ウキウキのクラリネットが聴こえるとkitaraの姿が見えてきて、曲の輝かしいフィナーレでマールとカシミヤがちょうどkitaraの前に到着。ああなんて幸せなお出かけ!私は今後「カレリア」組曲を聴いたときには、きっとこの日の「マールとカシミヤがkitaraへ向かう道」が目に浮かぶと思います。
スクリーンには、人がいっぱいのロビーの絵、続いてkitara自慢の大きなオルガンがアップになった絵にマールとカシミヤの絵が重なった絵本のワンシーンが。物語の中でカシミヤがマールにオーケストラの簡単な説明をして、「いよいよ えんそうかいのはじまりです」。ここで森崎さんが一旦退場。「えんそうかい」の本番の流れは、途中トークなしで4曲続けての演奏でした。演奏会の流れにきっちり添って、オケがチューニングし、指揮の円光寺さんが指揮台へ。いよいよ演奏開始です。演奏会の最初はやはり定番のこの曲、モーツァルト 「フィガロの結婚」序曲。画面は絵本「おばけのマールとまるやまどうぶつえん」より、動物たちが大集合している絵。ファゴットと弦の序奏からワクワク。のびやかな木管を経て華やかな盛り上がりになり、一気に気分があがります。音楽の流れの中で時折パン!とアクセントが入ったり、個人的に好きな低弦が主役になるところがあったり。ああ何度聴いてもイイですね!ビゼー 小組曲「こどもの遊び」より 第2曲 お人形(子守歌)。画面はポストカードより、マールが時計台の上でギターを弾きながら月を見ている絵。ゆりかごのようなゆったりとした美しいチェロ(!)に合わせて、ヴァイオリンや木管が優しく歌うのがとてもとても素敵でした。ああこの曲、できれば次は演奏に集中できる環境で聴きたいです。わがまま言ってごめんなさい!グリーグ 「ペール・ギュント」第1組曲 第4曲「山の魔王の宮殿にて」。画面は絵本「おばけのマールとみんなのとしょかん」のキャラクター達が登場する描き下ろし絵。冒頭の低弦ピッチカートとファゴットのあやしげな響きにゾクゾク。はじめはゆっくりだったのが、次々と他の楽器が参戦しながら徐々に加速していき、しまいにはフルスロットルに。クライマックスでビシッとキメてくれた金管打楽器がカッコイイ!「ペール・ギュント」組曲、いつか札響の演奏でフルで聴きたい!チャイコフスキー 「眠りの森の美女」よりワルツ。画面は、色とりどりの花が咲き乱れ、お花も虫や鳥たちもにっこにこの描き下ろし絵。少し穏やかなところの艶っぽい弦も、かわいらしい木管とトライアングルも、ゴージャスな盛り上がりの金管打楽器も、最初から最後まで素敵すぎ!聴いている私達もにっこにこになれました。
ここで森崎さんが再び舞台へ。「みんな、大きな拍手ー!良いことがあるかもよ!」との呼びかけで、会場はさらに大きな拍手で包まれました。そしてオケはアンコールの演奏へ。定番のJ.シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」。画面には、絵本にあったオーケストラ全員がにっこにこで演奏しているあの見開きページが!音楽は超華やかな冒頭から気分があがります。指揮の円光寺さんはほぼ客席の方を向いて、森崎さんと一緒に手拍子しながらお客さん達の音頭取り。「みんなの参加コーナー」の練習の成果もあって、強弱緩急つけながらの手拍子がみんな上手い!オケと客席の気持ちが一つになって、大盛り上がりで演奏は締めくくり。お話(スタンディングオベーションのシーン)の朗読で物語は幕を下ろしました。
拍手喝采の会場で、森崎さんから、客席にいらした著者お二人の紹介がありました。そして「札幌にはオーケストラがあります。おばけのマールがいます。みんな、また音楽を聴きに来てください」といった趣旨のお話が。ラスト「指揮・円光寺雅彦、演奏・札幌交響楽団!」との声かけで、会場は更なる大きな拍手の渦に。団員の皆様が会場に向かって大きく手を振ってくださいました(ええっ!?)。クールな札響メンバーがこんなふうに手を振ってくださったの、私は初めて目にしたかも?演奏でお疲れのところ、ありがとうございます!私は調子に乗って舞台へ大きく手を振り返し、分散退場でホールを後にしました。
【読み聴かせコンサート】
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2022年8月11日
本日(8/11)開催、円光寺雅彦(指揮)、森崎博之(スペシャルゲスト)、なかいれい(絵)、けーたろう(文)、札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」にご来場いただきありがとうございました。#札響 pic.twitter.com/CW2zJGF9Oh
演奏会お開きの後、ロビーでは絵本購入者で希望する人を対象に著者お二人によるサイン会が開催されました。ホールの出口には、なんと絵本の最終ページ、コンサートのアフターにマールとカシミヤがテラスレストランで食事しているシーンの絵と文が大きく引き延ばされて展示されていました。そこで娘と記念撮影。絵本のラストの文は「とってもしあわせでした おしまい」。とっても楽しかったです!ありがとうございました!スペシャルなプログラムと購入したタオルハンカチは家宝にします。
ホールを出てから周りを見渡すと、大人も子供も皆さんにっこにこのとても良い表情をされていて、私はうれしくなりました。親子向けコンサートでも0歳から入れるものはめずらしく、今回は早い段階でチケット完売になったようです。託児への抵抗感や、家族揃って演奏会を楽しみたい!というニーズにマッチしたのでは?「子供はすぐ大きくなるから」と外野は言いますが、新米ママ・パパが赤ちゃんのお世話でいっぱいいっぱいになっている最中は、出口が見えず辛くなることがありますからね。そんなせわしない日々にあって少しほっとできるような、0歳から参加できるイベントがあるのはとてもありがたいです。「赤ちゃんにはわからないから連れてきてかわいそう」って、それは違います!確かに物語の内容やクラシック音楽の本質的な部分はまだわからないかもしれません。しかし、自分を抱いている親が楽しんでいる様子を肌で感じ取るのは、赤ちゃん自身の癒やしになります。それに、素敵な音ね、きれいな色ね……こんな語りかけがその子なりの気づきにつながりますし、なにより大切なのは一緒にいる両親や兄・姉との心のふれあいが生まれること。こんな心のふれあいがあった子は、きっと思いやりのある人に育つと思います。赤ちゃん泣いてるじゃないかって?いいんですよ想定内です(笑)。赤ちゃんはどうしたって泣くときは泣きますから。例えばその子が大好きなキャラクターショーに連れて行ってあげても「思ってたんと違う」やら「眠い」やらで当の子供がギャン泣きなんて、子育てあるあるです(子のためを思って頑張った親の徒労感ハンパない・苦笑)。24時間365日子供ファーストで過ごしている親御さんたちが、たまには大人だって楽しめるイベントを選んでもいいじゃないですか。親の心の安らぎは、心にゆとりある子育てに繋がるはず。この不安定な時代に子供を産み育てている親御さんたちに、心安らげる機会が少しでも多くありますようにと、私は切に願います。今回、親子向け演奏会の企画・実行くださった札響には大感謝です!0歳からのコンサートを楽しんだお客さん達は、近い将来きっと通常の演奏会にも足を運ぶ札響ファンになりますよ。今回のような素晴らしい企画、今後もぜひ開催を続けてください!おしまい。
絵本『おばけのマ~ルとたのしいオーケストラ』は、札幌市広報部公式アカウントにて公開されている札幌中央図書館による読み聞かせ動画でも読むことができます。しかし小さなお子さんにはできれば紙の絵本そのものを手に取り、その子のペースで読み聞かせすることをおすすめします!
札響は「大人のビギナー向け」コンサートも開催しています。特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)は、有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん。思い立ったらすぐに聴きに行けるご近所に札響とkitaraがある札幌は最高!と改めて思えました。
「ウルトラマリンブルーのホテル」(豊平館)では室内楽のコンサートが開催されています。「第15回 Sound Space クラシックコンサート ファゴットとピアノの奏」(2022/07/30)。ブラームスのクラリネットソナタのファゴット版をはじめ、クラシックからモダン作品まで、札響副首席ファゴット奏者の夏山朋子さん(今回の「おばけのマール」演奏会では、「ペール・ギュント」の冒頭で印象的なファゴットを演奏された、あのかたです)とピアノ・水口真由さんによるファゴットの魅力と愛がいっぱいの演奏会、とっても楽しかったです!
昨年度の夏休みコンサートはこちら。「札響夏休みスペシャル2021『アキラさん×札幌交響楽団』」(2021/08/15)。オーケストラの森やクインテット名曲集など、マツケンサンバだけじゃない宮川彬良さんの多彩な作品&神アレンジの数々と、宮川安利さんのパフォーマンス。親子で超楽しめました!
なお今年度は、アキラさんは「札響名曲コンサート」シリーズにご出演予定。2023年2月18日(土)14:00~、今からとても楽しみです!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。