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札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲(2022/09) レポート

www.sso.or.jp
今回(2022/09)の札響名曲シリーズは、マエストロ・シモーノの指揮で超定番の三大交響曲を一度に聴ける超豪華企画!指揮の下野竜也さんは、先月(2022/08)のhitaru定期(急遽バーメルトさんの代役として登壇)での大熱演が最高だったので、私はこの日を心待ちにしていました。なお、チケットは前売り完売でした。


札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲
2022年09月03日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
下野 竜也

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
シューベルト交響曲「未完成」
ベートーヴェン交響曲第5番「運命」
ドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より


「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に堪能できてお腹いっぱい!重量級の演奏会、楽しかったです。名曲と真摯に向き合った丁寧な演奏は聞き応え抜群!とはいえ繰り返しを省略し比較的速いテンポでサクサク進めてくださったこともあり、胃もたれ感はなく、最後まで楽しく聴くことができました。下野竜也さん指揮といえば、先月のhitaru定期での大熱演が記憶に新しく、今回は私を含め聴き手の期待値がとても高まっていたはず。下野さんはそんな期待を軽々と超えて、超定番曲を誠実かつご自身のポリシーを持って演奏されていたと感じました。素晴らしいです!おそらく初心者もいたと思われる満員の会場は皆、演奏に引き込まれていました。また開演前のプレトークは大変面白かったです。作曲家それぞれの個性を下野さんなりの捉え方で解説くださったり、マイ三大交響曲を教えてくださったりと、盛りだくさん。妄想大好き仲間である私は、下野さんの妄想トークには勝手に親近感を抱きました。マエストロのとても誠実なお話ぶりは好印象で、極めつけはプレトークの締めくくりにて「(トークで)静寂を破って申し訳ない」との一言。私は胸キュンです♪個人的にはそんなことは思ってなかったですが、こだわりをお持ちの聴衆に対してもさらっと配慮できる、そのスマートさが素敵すぎます!惚れまうやろー!

なにより、こんな気力体力が求められる大変なプログラムを、最初から最後まで全集中で見事に演奏してくださったオケのお一人お一人に大拍手です。基本的な2管編成のザ・交響曲の演奏。超有名曲であるが故にそれぞれのこだわりを持つであろう聴き手を前に、中途半端な演奏はできないプレッシャーもあったことと存じます。この状況で暴動を起こさず(笑)、よくぞ3つの大曲をクールに駆け抜けてくださいました。超定番曲の演奏は、指揮者による料理が大事なのは言うまでもなく、それ以上に素材の良さ=オケのお一人お一人お力、がシビアに問われる世界かもしれません。しかし私達の札響は今回も安定の高クオリティ!各パートのトップのソロ演奏も、トゥッティの演奏も、ホレボレする良さで札響のお力を再認識しました。私はレビューではつい目立つソロパートや好きな低弦のことばかり書いてしまうのですが、それはメロディを美しく奏でる1stヴァイオリンや奥行きや厚みを作っている2ndヴァイオリンとヴィオラ等、各パートが良い仕事をしてくださっているからこそ、安心して個人的な趣味に走れているのです。超定番曲を信頼できる演奏で聴かせてくださる、地元にこんなに愛せるオケがいるのは本当にありがたいと、今回改めてそう思えました。

演奏は素晴らしかったですし、自分なりに楽しんだのは間違いありません。それでも私は三大交響曲を今度は別々に聴きたいと率直に思いました(ごめんなさい!)。いずれも個性が違う作品で飽きることはなかったのですが、これだけ聴き所満載の曲たちなのに、続けて聴いてしまうと刺激に慣れちゃって感激が薄まった気がする(私だけ?)のがもったいなかったので。短めの序曲や現代曲→ソリストに大注目の協奏曲→オケの本領発揮の交響曲、というよくある流れであれば、1曲毎に聴き方や注目ポイントが変わって気持ちがリセットされるのが良いなと、今回ついそう思ってしまいました。せっかくのご馳走ですから、無理なくじっくり味わい尽くせたらもっと素敵!しかしこんなバチ当たりなことを言えるのは、三大交響曲を一度に聴くという贅沢な体験ができたからこそ。このスペシャルな体験を、愛する札響と一緒にできて幸せです!これからもついていきます!


指揮の下野竜也さんによる開演前のプレトーク。下野さんが今回の3曲を一度に演奏するのは久しぶりだそうです。「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に料理するようなもの、とのお話に会場に笑いが起きました。皆さんにとっての三大交響曲は何ですか?と問いかけた後、この日の下野さんが選ぶなら(日によって違うのかも?)「モーツァルトのジュピター」「ベートーヴェンの第九」「ブルックナーの9番」とのこと。「この3つを一度に演奏しようとしたらオケの暴動が起きる」とのお話に、会場はまたもや笑いの渦(でも札響ならクールにやってくださるかも!)。さらに日本人作曲家の作品なら「黛敏郎の涅槃交響曲」「松村禎三の1番」「矢代秋雄」。また、妄想好き(!)な下野さんが作曲当時の作曲家に「1+1=2でしょうか?」と質問した場合、どんな答えをするか?という興味深いお話がありました。シューベルトの場合「ぼくも悩んでいます。わからない。一緒に闇に落ちてみよう」。彼の交響曲が6番までは明るいのに7番から暗くなるのは、この頃に不治の病がわかったから、という説の紹介も。ベートーヴェンの場合「そんなことを聞くな、当たり前だろう」。彼は当たり前のことを大声で言える人で、シンプルな音楽で人を感激させることができるとのこと。ドヴォルジャークの場合「そうだよ。そんなことを考えるくらいなら一緒にピクニックに行こう。ごはんを食べよう」。彼は伝記等を読んでもネガティブなことは一切出てこない、とても良い人だそうです。今回、「新世界より」はチューバを使わない(!)と下野さんが宣言し(「チューバ奏者の玉木さんの名誉のために」と強調した上で、今回は降り番をお願いしたそう)、会場は少し驚いた様子でした。一説によると、ドヴォルジャークはチューバを想定していなかったものの、楽譜出版の際に出版社側で「この音が出せない」と慌てて補強した版が一般的になったから、とのことです。「ドヴォルジャークが尊敬していたブラームスに近い響きになっているのでは?響きを楽しんでください」と下野さん。有名な曲たちであるが故に、聴く人それぞれの理想があるとした上で、「こんなのがあるのね!」「そうそう!」「ありえない!」といった感じ方ができるのもクラシック音楽の楽しみとも仰っていました。


1曲目はシューベルト交響曲「未完成」。ちなみに私はまったくの初聴きでした。第1楽章、低弦による、ごく小さな音から入る冒頭部分から早速引き込まれました。深刻一辺倒ではなく、木管が主役のところは優しく美しく、そんな剛と柔が自然に同居しているのが素敵。また、ホルンが長く音をのばした後に、コントラバスのピッチカートに乗ってチェロが歌うところが個人的にツボでした。ゆったり歌うような流れの中で、休符がきっちり揃ったりクレッシェンドでじわじわ存在感を増したりと、とても丁寧な演奏と感じました。楽章締めくくりでは引っ張らずにビシッと音を止めたのも印象的。第2楽章は、冒頭ホルンの温かな響きが最高(ちなみにこの曲でのホルンのトップは副首席の𡈽谷さん)!時折力強くなるものの、全体的にゆったりとした楽章でした。各木管のソロの柔らかな響きと、それを支える弦のリズムを作る演奏やピッチカート。ごく小さな音であってもkitara大ホールにキレイに響くのが良くて、その響きを楽しめました。ラストのフルートの高い音の余韻が印象に残っています。2つの楽章、完成度高い!ただ、ここで終わるのが惜しいとも正直思いました。作曲家が残りの楽章を書いていないので、続きを聴くことは永遠に叶わないのですが。

続く2曲目はベートーヴェン交響曲第5番「運命」。演奏機会が多い演目ではあるものの、私自身は今までチャンスがなくて、札響によるライブ演奏を聴くのは今回が初めてでした。ちなみにシンフォニック・マンボNo.5は過去2回も聴いています。第1楽章、(ン)ジャジャジャジャーン!の深刻な出だしが超カッコ良くて掴みはバッチリOK!快速で進む演奏にぐいぐい引っ張られ、シーンを変えるホルンの響きがインパクト大(この曲でのホルンのトップは首席の山田さん)!シャープな弦にホレボレしつつ、オーボエファゴットの見せ場では弦が沈黙するそのメリハリも良かったです。第2楽章、冒頭の中低弦によるメロディが素敵すぎ!落ち着きある高音弦と穏やかな木管のゆったりしたところ(こちらも素敵でした)に続き、金管が華やかに入ってからのコントラバスの重低音にやられました。その後の明るさが一層輝きを増した会心の一撃!このコントラバスの合いの手、カッコ良すぎでは!?弦がごく小さな音で下支えした上での、木管アンサンブルもとっても素敵でした。第3楽章、弦のイントロに続いて登場した、パンチあるホルンの響きがすごい!深刻なところを経て、コントラバスからチェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリンとメロディをリレーして盛り上がっていくところが素敵!今回のコントラバス、いつも以上にカッコイイ!弦がごく小さな音からエネルギーをためながら上昇して、そのまま続けて第4楽章へ。パワフルな金管ティンパニに清々しい弦!聴いている私達の気分もあがりました。初めの苦悩はここに来て歓喜へ。大熱演に熱中しながら、「ジャジャジャジャーン」を変化させてここまで感激させる曲を書くベートーヴェンはやはりすごい!と、私は改めてそう感じました。クライマックスでの、まるで小鳥が喜びを歌うようなピッコロが存在感抜群!「ジャジャジャジャーン」はよく言われる「運命が扉を叩く音」(シントラー談)ではなく、「鳥の鳴き声」(ツェルニー談)の方がやはりしっくりくるかも?「1+1=2!」と堂々と主張する清々しさ!名曲が名曲たる所以を実感できた、気持ちの良い演奏でした!圧倒的なラスボス感に、もうここで帰っても悔いは無い(※だめです)と、その時は一瞬そう思えたほど。

後半はドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より。この曲はとても演奏回数が多く、私は札響のライブ演奏でも何度か聴いています。ただ私自身は全楽章フル演奏で聴くのは久しぶりで、昨年の鉄道名曲シリーズ(2021/09/25)での楽章抜粋演奏による不完全燃焼のくすぶりを1年も引きずったままでこの日を迎えました(笑)。第1楽章、中低弦による静かな出だしはもちろん個人的なツボなのですが、この日はそこに控えめに重なるクラリネットファゴットの低音がとても刺さりました。ホルンに続いた、フルートとオーボエが美しいこと。中盤のパンチの効いたトランペットに勇ましい低音のトロンボーン!私は弦を全面的に信頼した上で、意識して木管金管の仕事ぶりを追いかけてみましたが、慣れている演目でのプロのお仕事とはいえ、その素晴らしさにホレボレしました。札響はすごい奏者が揃っていると改めて。第2楽章、金管群による出だしはチューバ無し(主にバストロンボーンが役割を引き受け?)でした。温かみのある素敵な世界!ティンパニがシーンを切り替え、弦の優しい響きに続いて「家路」へ。メロディを歌うイングリッシュホルンは、いつもの宮城さんではなく副首席の浅原さんでした。体温が感じられる温かな歌がとっても素敵!また木管や1stヴァイオリンが哀しげに歌うところでの、他の弦のトレモロコントラバスのピッチカートがぐっと来ました。メロディは当然として、メロディを支える側の仕事ぶりがまた良い!ゆっくり日が沈んでいくかのような、弦楽八重奏、続いて弦楽三重奏へ。ああ何度聴いてもイイですね!私は独奏チェロの音色に癒やされながら、このまま眠りにつきたい気持ちに。オケ全体で静かにフェードアウトした後、しかし続く第3楽章は初めから思いっきり派手に始まり、一気に目が覚めました。トライアングルは発車ベル、ザッザッザッザッと弦の音の刻みには列車が走っているのをイメージ(昨年の鉄道名曲シリーズ以降そうとしか思えないです)。そうそう、これこそ「新世界より」!ティンパニの強打にホルンの咆哮がカッコイイ!さらに今回は途中下車(?)での素朴な舞曲にも魅了されました。もしかしたらこの楽章はこちらがメイン?可愛らしいトライアングルと木管、ピッチカートに支えられたヴァイオリンも、ステップを踏みながら楽しく踊っているようで素敵でした。そして第4楽章。パワフルな低音がインパクト大の出だし、ホルンとトランペットがカッコイイ!個人的にはやはり高音弦と呼応する低弦がブラームスっぽくてうれしかったです。スピード感ある演奏にゾクゾク。少し穏やかになったところでの一打のみのシンバルをしかと見届けました!クラリネットとフルートそれぞれのソロ演奏も素敵!目まぐるしく表情が変わる音楽を、オケが軽快に駆け抜けていく流れが良くて、私はその流れに身を任せる心地よさを味わいました。またヴィオラによる中継ぎ部分がそのまま続けて木管の下支えになる、その流れが印象に残っています。ここまで交響曲を3つ演奏してきた無茶なプログラムでも、オケの皆様はお疲れを見せずラストまで全力の演奏で聴かせてくださいました。恐れ入りました!ただ座っている聴き手の方がバテそうだったのがお恥ずかしい。よく知る曲を、今回改めて札響の演奏で聴けてうれしかったです。「新世界より」は、キャッチーなメロディが聴きやすいだけでなく。オケそれぞれのパートの素晴らしさがわかる傑作だとしみじみ。今後ビギナー向け演奏会だけでなく、時々はこうして主催公演でも取り上げてください!


下野さんはカーテンコールで何度も舞台へ戻って来てくださり、その度にオケの各パートへ起立を促して讃えました。ソロ演奏を担当したかたのみならずヴィオラや2ndヴァイオリンといった縁の下の力持ちパートもすべて、結果的にオケ全員を順番に讃えた形に。本当に、オケ全員が功労者ですよね!下野さん、札響の皆様、大変なプログラムを見事な演奏で聴かせてくださりありがとうございました!下野さん、今後もぜひぜひ札響を指揮しにいらしてくださいね。下野さんのマイ三大交響曲でも、もちろん他の演目でも、お待ちしています!



この日の約1ヶ月前、指揮の下野竜也さんがバーメルトさんの代役として登壇した、札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第10回(2022/08/04)。新コンミス会田莉凡さんがソリストドヴォルジャークは、オケとの信頼関係が窺える幸せな協演で、自由にのびのびとした独奏に聴き惚れました。そしてブラ1の大熱演が最高でした!

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全席完売公演といえばこちらも。札響 読み聴かせコンサート「おばけのマールとたのしいオーケストラ」(2022/08/11)。描き下ろし(書き下ろし)たっぷりの絵本の世界に、大人が聴いても十二分に楽しめる選曲と演奏。森崎博之さんの朗読と進行も素敵で、親子で思いっきり楽しめました!

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なお、今回の「札響名曲シリーズ 下野竜也の三大交響曲」の2日後に開催された「hitaruでシネマ・ミュージック!」(2022/09/05)も全席完売だったそうです。コアなクラシック音楽好き以外にも確実に札響ファンが増えていますね♪

最後までおつきあい頂きありがとうございました。