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〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル(2022/09) レポート

doshin-playguide.jp

 

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↑東京公演(札幌と同じプログラム)のページでは、出演者お二人のメッセージ動画やインタビュー記事などを見ることができます。


ソプラノの森麻季さんとハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんのデュオ・リサイタルがKitara小ホールで開催されました。ソプラノ&ハープというめずらしい組み合わせ。私はテレビで聴いたお二人のそれぞれの演奏(森さんはピアノ、メストレさんはカスタネットとの共演)がとても素敵だったので、今回お二人の共演をライブで聴けるのを楽しみにしていました。なお、チケットは全席完売だったそうです。


Kitaraワールドソリストシリーズ〉森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル
2022年09月18日(火)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール

【演奏】
森 麻季(ソプラノ)
グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)

【曲目】
フォーレ:5つのヴェネツィアの歌より マンドリン 作品58-1
     2つの歌より 月の光 作品46-2
           リディア 作品4-2
     3つの歌より 夢のあとに 作品7-1
ドビュッシー:2つのアラベスクより 第1番 ホ長調(ハープ・ソロ)
       ベルガマスク組曲より 第3番 月の光(ハープ・ソロ)
フォーレ即興曲 第6番 変ニ長調 作品86(ハープ・ソロ)
越谷 達之助:初恋
山田 耕筰:からたちの花
     曼珠沙華

ロッシーニ:歌劇『オテロ』より 柳の歌
スメタナ/トゥルネチェック編曲:連作交響詩『わが祖国』より 交響詩モルダウ」(ハープ・ソロ)
プッチーニ:歌劇『つばめ』より ドレッタの美しい夢
リスト/ルニエ編曲:ロシアの2つの旋律より ナイチンゲール(ハープ・ソロ)
ベッリーニ:歌劇『ノルマ』より 清らかな女神よ

(アンコール)
プッチーニ:私のお父さん
シューベルトアヴェ・マリア


ソプラノの森麻季さんと、ハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんという、スターお二人のとても豪華な共演。美しい響きに酔いしれ、天上世界にいたかのような幸せな時間を過ごすことができました。理屈抜きで、美しいものを美しいと感じる喜び!世の中はつらいことや理不尽なことがあふれていますから、荒んだ心を癒やしてくれるこんな時間は大切だと、私は心からそう思いました。また、リモートやソーシャルディスタンスが言われて久しいですが、人の心が満たされるのはやはり直接ふれあうからこそです!大人気のお二人のこと。この日の前日はそれぞれ別の演奏会(森さんはピアノとの共演、メストレさんはソロ)が本州であり、2日後には東京でのデュオ・リサイタルも予定されていました。さらに大型台風の影響で、移動に不安もあったことと存じます。そんな中、札幌までお越し下さり、私達に生の演奏を聴かせてくださりありがとうございます!

お二人の演奏は、しかし美しいだけじゃない魅力がありました。ソプラノの森麻季さんは、持ち味の透明感ある美声に加えて、影や深さを感じさせる表現だったり、短い演奏時間で曲の世界観を演じたりと、多彩な表現も魅力的でした。そして華やかなオーラ!森さんが多くの人に愛されるのも頷けます!またハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレさんの演奏には、私は良い意味で驚かされました。個人的に今までのハープのイメージは、管弦楽で華やかさを添えるものであり、作品によっては2台配置されることもあるため、1台では出来ることが限られているとさえ思っていました。ところが今回触れたメストレさんのハープ演奏は、繊細さやキラキラした高音のみならず、力強さやダイナミックさ、低音のアクセントもあり、とても情熱的!特にソロ演奏では、本当に1台のハープをお一人で奏でているの!?と思うほど、メロディとそれを支える伴奏部分、さらに奥行きを作る音の響きまで、幾重にも重なる響きはまるでオーケストラのよう!こんなハープは初めて!私のハープへのイメージはガラリと変わりました。しかも、これほどの圧倒的な存在感なのに、デュオではソプラノの繊細な響きを活かすためか、ハープはやや音量を下げて優しく温かく寄り添う伴奏をされていたのがまた素晴らしいです。なんという男前!満員の会場の7割以上を占めていた女性陣(あと3割の男性も?)は、メストレさんのハープにぞっこんになったはず!


開演前に森さんがマイクを持ってステージへ。ごあいさつとプレトークがありました。森さんの装いはアンシンメトリーなデザインの白いシンプルなドレス、なのにそこにいるだけで華やかなオーラ!演目については、前半はフランスご出身のメストレさんへのリスペクトでフランスものを、後半はオペラアリアを中心に、と紹介。またフォーレについての解説では、音楽史の中での位置づけや作風といったお話の中で、個人的には「(フランスの画家)モネの『睡蓮』のよう」と表現されたことがとても印象に残っています。

前半。はじめはフォーレの歌曲を4つ、デュオによる演奏でした。「マンドリン 作品58-1」はリズミカルなハープ伴奏(マンドリンの音を意識?)が楽しく、程なく登場したソプラノのあまりにも美しいお声に驚愕!やはり生音はテレビとは比べものにならない良さ!最初から気持ちを持って行かれました。来て良かった!「月の光 作品46-2」は、神秘的でどこか東洋の雰囲気もあるハープに惹きつけられ、幻想的なソプラノに魅了されました。まるでそこに月の精がいるかのよう。朧月の月明かりのように、はかなく消えてしまいそうな感じが素敵!「リディア 作品4-2」は、少し哀しみを帯びた気品あるソプラノに、控えめながらも温かな響きのハープ。また余韻を残すハープの後奏が印象的でした。「夢のあとに 作品7-1」は、個人的にはチェロによる演奏でなじんでいた曲です。今回のソプラノ&ハープによる演奏、めちゃくちゃ心に刺さりました!しかしチェロとは刺さる場所が違う気がします。ゆっくり高音に上っていくところはもちろん、やや低音に転じてからの深さがとても素敵。またフランス語の発音に特徴的な、鼻腔の奥で転がすような発声の余韻も良かったです。

続いてはハープ・ソロで3曲。まずはドビュッシーの有名なピアノ独奏曲から、「2つのアラベスクより 第1番」。美しいアルペジオに、私は水面のキラキラを連想。異国情緒たっぷりな音楽に聴き惚れました。「ベルガマスク組曲より 第3番 月の光」。プログラムノートによると、先ほどのフォーレの「月の光」と同じく、ヴェルレーヌの詩に触発されて生まれた作品だそうです。高音の美しく儚げな響きと、中間部のダイナミックさが自然に同居する、満月のように存在感ある「月の光」でした。またドビュッシーの2曲に共通して、時折コントラバスのピッチカートのような重低音が聞こえたのがとても印象に残っています。ハープは想像以上に音域が広いと思ったのと同時に、高音の美しい音楽に重低音のアクセントが入るとぐっと深みが増すんだなとも感じました。そしてハープのために書かれた作品、フォーレ即興曲 第6番 変ニ長調 作品86」。力強い冒頭からインパクト大!グリッサンドを多用したハープの見せ場たっぷりの音楽を、生き生きとした演奏で聴かせてくださいました。情熱的なところと繊細なところをクレッシェンドとデクレッシェンドで行き来する変化も魅力的!ハープの楽器としての幅広さと、メストレさんの多彩な表現力を味わえました。

前半最後は日本の歌曲を3つ、デュオによる演奏です。越谷達之助「初恋」、作詞は石川啄木。「砂にはらばい」のところで、ふっと寂しげになったのが印象的で、続く「初恋のいたみを」の高まりがいっそう心に染み入りました。続いて山田耕筰の作品2つ、いずれも作詞は北原白秋です。「からたちの花」は、素朴な伴奏に、おなじみの歌曲を丁寧に歌い上げる演奏。高音をのばした後の余韻が印象的でした。続く「曼珠沙華」は、和楽器の箏を思わせるハープに、力のこもったソプラノ。独特のリズム感と、女の怨念を感じさせる演奏に、胸打たれました。肩から長い布を垂らしたシンプルな白のドレスが、和装の白喪服(昔は白が一般的だったようです)にも見えてくる不思議。ほんの数分でドラマを見せてくださる演奏、素晴らしいです!


後半は、デュオによるオペラアリアとハープ・ソロが交互に演奏されました。森さんはダークカラーのゴージャスなドレスに衣装替え。はじめはロッシーニの歌劇『オテロ』より 柳の歌。哀しげな伴奏に、揺らぐソプラノのお声が心に染み入りました。しかし微妙な機微で、時折ほんの少し光が垣間見えたようにも。また温かな希望に満ちたハープの後奏が印象的でした。

ハープ・ソロでスメタナの連作交響詩『わが祖国』より 交響詩モルダウ。こちらの演奏が圧巻でした。川の速い流れのような音の波の序奏が、そのまま伴奏となり、哀しげなメロディを支える大きな流れに。ハープ1台と奏者1人で、オーケストラのような音の重なりと奥行きが作られるのが素晴らしく、客席は皆引き込まれていました。雄弁なところはもちろんのこと、中間部の繊細に歌うところも素敵!音が多いクライマックスの超絶技巧がすごい!希望の光が見えるラストに私は胸がいっぱいになりました。こんなに心に響く音楽を生み出す人達の祖国(チェコ)は、古くから他民族の侵略に苦しめられてきた歴史があるのですよね。私に何が出来るかはわからないですが、ただこれから続く未来には希望があってほしいと願います。

プッチーニの歌劇『つばめ』より ドレッタの美しい夢。これは森さんのためにあると思えた曲でした。まるで大輪の花が咲いたよう!感極まったような高音を長くのばすお声のなんと美しいこと!恋の瑞々しさがストレートに伝わってくる、シンプルなのにとても華やかで、インパクト大の演奏でした。

ハープ・ソロでリストのロシアの2つの旋律より ナイチンゲール。同じ恋でもこちらは切なく哀しい雰囲気。ハープの高音域(奏者に最も近いところ)の弦を小刻みにはじく演奏が、ナイチンゲールの悲痛な鳴き声のようにも感じられました。中盤のロシア民謡風の哀愁に満ちたメロディが素敵!少し低音が効いたところの、ギターのような深みのある音色も印象に残っています。華やかさだけではないハープの魅力がわかる演奏でした。

プログラム最後の演目は、ベッリーニの歌劇『ノルマ』より 清らかな女神よ。ハープによる優しく温かな前奏にまず引き込まれ、意思あるソプラノの登場に心奪われました。美しさの中に切なさや哀しみがある、そんな心の機微を揺らぐお声の響きから感じられる演奏。平和への祈り。昨今の情勢に対してだけでなく、未来永劫平和を願いたいと私はしみじみ思います。


カーテンコールで森さんが客席にお礼を仰った後、アンコールへ。森さんから口頭で演目紹介がありました。1曲目は、プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」。透明感あるソプラノの響きを温かみのあるハープが包み込む、幸せあふれる感じ。これは愛!ラスト直前では、ハープが沈黙し、無伴奏で森さんが高音で伸びやかに歌うシーンも。森さんとメストレさんの良さがすべて凝縮されている演奏に、会場はどよめく拍手の渦!2曲目はシューベルトアヴェ・マリア。演奏前、森さんはメストレさんのハープがとても素敵なことをアピール。ハープによる美しい前奏の際、森さんは胸の前で十字を切り、指を組んで、祈りを捧げていらっしゃいました。第一声の「アヴェ・マリア」のささやくような繊細な響きに、会場は感嘆の溜息。誰もが知る名曲を、天上的な響きで味わう贅沢!後半は、メストレさんのハープ・ソロによる演奏で、メロディ部分もハープが歌うスタイルに。ゆったりと揺りかごのような伴奏部分と、美しいメロディ部分の重なりが素敵すぎて、ずっと聴いていたいほどでした。ラスト直前で、ハープに合わせて森さんが「アヴェ・マリア」と歌い、ハープの後奏の最後はポン、ポンと2回弦を優しくはじき、フェードアウトして締めくくり。心洗われる素晴らしい演奏!お二人とも十八番にしている演目を、デュオでの演奏で聴けた、最高のアンコールでした!2階席の何名かはスタンディングオベーション。最高潮の盛り上がりのまま、会はお開きとなりました。夢のような時間を過ごすことが出来て幸せです!素敵な演奏をありがとうございました!


弊ブログの演奏会レポートのうち、本年度に聴いたものから2つご紹介します。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ(2022/07/31)。Sop中江さん&Pf.新堀さんによる愛の物語。シューマン「女の愛と生涯」や中田喜直「魚とオレンジ」、直江香世子さんの小品等、魂の込められた演奏を通じて様々な人生を生きたスペシャルな体験でした。

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藤木大地 カウンターテナー・リサイタル(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。