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<Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ>2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトとブラームス~(2022/03) レポート

www.kitara-sapporo.or.jp


Kitara公式サイトにて、今回ご出演のクラリネット奏者・白子正樹さんからのメッセージが読めます。

札幌交響楽団のメンバー5名による、モーツァルトブラームスクラリネット五重奏曲の演奏会。私はいずれも大好きな曲で、1年前の企画発表当初からずっと楽しみにしていました。そして当日の会場は、月曜の夜の公演にもかかわらず、小ホールの1階席は8割程の席が埋まる盛況ぶりでした。

Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ>2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトブラームス
2022年03月14日(月)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
白子 正樹(クラリネット
岡部 亜希子(ヴァイオリン)
桐原 宗生(ヴァイオリン)
鈴木 勇人(ヴィオラ
小野木 遼(チェロ)

【曲目】
モーツァルトクラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
ブラームスクラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115

(アンコール)モーツァルトクラリネット五重奏曲 変ロ長調 KV.Anh-91 アレグロ(断片)


演奏会のタイトルもプログラムノートに書かれた内容にも「愛」がキーワードとして掲げられた今回。晩年にクラリネットを「愛」した2人の作曲家の名曲を、現在の若い演奏家たちによる「愛」あふれる演奏で聴けた、素晴らしい演奏会でした!地方都市の札幌に居ながらにしてこんなに素敵な演奏が聴けるなんて、本当にありがたいです。札響の皆様は室内楽も上手いと、私は常々そう思っていますが、今回はさらにその思いを強くしました。演奏家の皆様、オケでの活動もお忙しい中、オケとは勝手が違う室内楽でもいつもクオリティの高い演奏を聴かせてくださり、ありがとうございます!

今回の主役のクラリネットは、コロコロ明るく歌ったり仄暗い切なさを見せたりと表情豊か。また音色はあくまで心地よく、ずっと聴いていたい感じ。今回の演目はいずれも大作でおそらく難曲の、二大クラリネット五重奏曲ですから、続けて演奏するのは大変だったことと存じます。しかしクラリネットの白子さんはお疲れを見せず、私達にずっと心地よい響きを聴かせてくださいました。ありがとうございます!また「愛」あふれるプログラムノートも素敵でした。「対比的にも聴いて頂きたい」との記述を踏まえて、私は2つの作品の組み立て方を少し意識して実演を聴いてみました。ブラームスモーツァルトの作品の形式を「本歌取り」しているところを、私にもちょっとだけ見つけられた気がします。それも楽しかったです。

そしてクラリネットの柔らかでまるい音色を潰さない、包み込むような弦のやさしい響きがまた素晴らしかったです。弦は、共演がピアノなら割と容赦なく厳しいキツイ音でもぶつかっていくのに(例えばモーツァルト「ピアノ四重奏曲 第1番」やブラームスピアノ五重奏曲」)、クラリネット相手ならたとえシリアスな場面でも音がキツくなりすぎず繊細な感じがしました。うまく言えないのですが、例えるなら熟れた桃をそっと手に取り優しく扱うような感じで、弦の音色もクラリネットと同じくらい心地よい響き!私はしみじみ聴き入り、癒されました。おそらく作曲家がそのように書いたのだと推測しますが、細やかに表現できる演奏家が演奏してこそ作曲家の意図は生きてくるのだと思います。ありがとうございます!あとは今回、私は少しだけヴィオラを意識して追いかけてみました(いつもは好きなチェロや華やかなヴァイオリンについ目を奪われがちなので……)。今回の2曲はともに第4楽章でヴィオラの見せ場があり、そこでの演奏はもちろん素晴らしかったです。しかし主役としてもこんなに輝けるヴィオラなのに、ほとんどが目立たずに(おそらく音量も下げて)主旋律の裏でハモるお仕事。そんな役回りができるって偉いと思います。そして、てっきりヴァイオリン単独かチェロ単独で弾いていると私が勘違いしていた部分でも、それぞれの音域に合わせてヴィオラがユニゾンで演奏して、密かに増幅させていたんですね。今まで気付かなくてごめんなさい!やはりヴィオラは名バイプレーヤーですね!音楽の奥行きは目立たない部分でこそ作られていると、今回実感できました。


開演前に白子さんによるプレトークがありました。「しらこ企画」としては3回目の演奏会で、今回は初めてKitara小ホールでの開催となったそうです(過去2回はふきのとうホール)。「名曲中の名曲中の名曲中」であるモーツァルトブラームスクラリネット五重奏曲。この2曲を演奏できる喜びがあふれるトークでした。「お客さま達への感謝と、たくさんの愛と、平和への祈りを込めて」、いよいよ開演です。


前半はモーツァルトクラリネット五重奏曲 イ長調 K.581」。奏者は向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、クラリネットの順に着席。またヴァイオリンは1st岡部さん、2nd桐原さんでした。第1楽章、冒頭の多幸感あふれる弦が素敵で、早速引き込まれました。序奏に続いて登場したクラリネットがコロコロと歌うのは春を思わせる響き。チェロのピッチカートのリズムに乗って1stヴァイオリンが甘く歌ったメロディを、繰り返すクラリネットがほんの少し不安げな響きだったのがとても印象に残っています。4つの弦が幸せいっぱいのメロディをリレーしていくところがとっても素敵!もうメロメロになりました。続いてクラリネットも加わり全員によるテンポ良い流れも良かったです。明るく穏やかな締めくくりも素敵でした。第2楽章は、ゆったりと歌うクラリネットと重なるやさしい弦。美しく繊細な響きをしみじみ聴き入りました。第3楽章、素朴な舞曲のようなリズムは、弦とクラリネットがゆったりとダンスしているかのよう。中盤は弦楽四重奏になり、少し哀しげな1stヴァイオリンの歌と重なる他の弦のハーモニーがとても良かったです。第4楽章は、軽やかなステップを思わせる音の響きを、弦とコロコロ歌うクラリネットが呼応するのが楽しい。ヴィオラが切なく歌うところが印象的で、その後クラリネットが細かく音を刻みながら明るく駆け抜けるところはインパクト大でした。ラストは快活に明るく締めくくり。心地よい音色を心地よいメロディで聴けて幸せです!クラリネットが天真爛漫でいられるように、愛あふれる素敵な曲を生み出してくれたモーツァルトと、愛情込めた素晴らしい演奏で聴かせてくださった演奏家の皆様に感謝いたします。


後半はブラームスクラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115」。ヴァイオリンが前半とはパートが入れ替わり、1st桐原さん、2nd岡部さんになりました。第1楽章、冒頭の切ない弦が柔らかな音色なのに胸にきて、早速引き込まれました。序奏に続いて登場した、クラリネットの少し影がある音色がとっても素敵。チェロとヴィオラが効いたブラームスらしい渋い弦のアンサンブルに聴き入りました。全員で重音を重ねてから音を刻み、クラリネットが駆け上るところがカッコイイ!やはり引退を考えるのは早すぎたんですよブラームスさん!仄暗い雰囲気の中、ふと登場した高音弦による多幸感が光を放っていました。終盤で、クラリネットがドラマチックに歌うところを支える弦がザワザワするのもブラームスらしくて好き。静かに消え入るラストも印象に残っています。第2楽章は、ゆったりした前半から一転、クラリネットが駆け抜けていくドラマチックな展開に。弦が哀しげなメロディをリレーしてリフレインさせたり、クラリネットの伴奏でザワザワしたりするのも印象的でした。哀しみから目をそらさず、寄り添って一緒に受け止める。これがブラームス流の愛し方!もうぞっこんLOVEです。第3楽章は、ゆったりした冒頭を経て、弦楽四重奏による切なくせわしない展開に胸がざわつきました。シリアスな雰囲気での弦とクラリネットの掛け合いも、少し希望の光が見えるような締めくくりも良かったです。第4楽章は、素朴で哀しい感じの弦に、クラリネットの寂しさを感じる音色が自然にシンクロ。なおチェロの見せ場を用意するのがブラームスらしさで、クラリネットと一緒に低音で歌うチェロが素敵でした。深刻なところを経て、哀しい雰囲気の中でもクラリネットが細かく音を刻みながら駆け抜けるところが印象に残っています。チェロのピッチカートのリズムに乗ってヴィオラが切なく歌うところが素敵!第1楽章のメロディが少し姿を見せた後、次第に音が小さくなっていく様は、炎が少しずつ消えていくようにも感じました。そして、全員が呼吸を合わせて一緒にデクレッシェンドした締めくくりが大変素晴らしく、鳥肌モノでした。ブラームスは、若い頃の「ピアノ五重奏曲」ではあんなに全力だったのに、晩年の「クラリネット五重奏曲」ではこんな消え入るような締めくくりにした。ついにその境地に至ったと思うと、込み上げてくるものがありました。もちろん、素晴らしい演奏で聴かせてくださった5名の皆様のおかげです。ありがとうございます!

カーテンコールの後、白子さんがマイクを持ってご挨拶されました。アンコールは、モーツァルトクラリネット五重奏曲 変ロ長調 KV.Anh-91 アレグロ(断片)」モーツァルトの「もう一つのクラリネット五重奏曲」と紹介されたこちらの曲は、冒頭部分のみ自筆譜が残っていて、全体像は不明のようです。私はその存在すら知らなかった曲で、演奏前からワクワクしました。ヴァイオリンは1st岡部さん、2nd桐原さん。朗らかに歌うクラリネットと、それを祝福するように軽快なリズムで歌う弦。まるで春の鳥と新緑と春風のようにも感じました。ラストはきっちり締めくくったので、一つの楽章としては完成していたのかも?春の訪れを待つ今の時期にぴったりの曲の演奏を、この音が柔らかで温かなアンサンブルで聴けて、とても温かな気持ちになりました。「名曲中の名曲中の名曲中」である二大クラリネット五重奏曲に加え、幻のクラリネット五重奏曲まで、細やかで愛あふれる素晴らしい演奏をありがとうございました!


今回の演奏会の前日・前々日には札響の定期演奏会が開催されました。「愛と死」をテーマに掲げた、札響『2021-2022シーズン』の最終公演。来日を果たしたピエタリ・インキネンさん指揮による北欧プログラムは、胸のすくような澄んだ響き。ソリストの工藤重典さんのフルートはパワフルかつ多彩な響きで、透明感や儚げな美しさだけではない魅力がありました。

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今回ご出演された札響メンバーによる室内楽のコンサートを、私は以前にもいくつか聴いています。いずれも大変素晴らしかったです!オケのみならず、地元でクオリティの高い室内楽の演奏を聴かせてくださる札響の皆様。感謝しかありません!

2022/02/27 ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」(Vn.岡部亜希子さん・Vn.桐原宗生さん)

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2022/01/21 新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズSAPPORO23 トリオ イリゼ・リサイタル(Vc.小野木遼さん)

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2021/11/07 ウィステリアホール プレミアムクラシック 9th「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(Cl.白子正樹さん)

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第643回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/03)レポート

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「愛と死」をテーマに掲げた、札響『2021-2022シーズン』の最終公演。入国の水際対策の緩和はあったものの、国際情勢に不安材料がある中で、指揮のピエタリ・インキネンさんはぶじ来日を果たしました。大変な状況の中、お越しくださりありがとうございます!またソリストに札幌ご出身のフルーティスト・工藤重典さんをお迎えして、出演者・演目ともに当初の予定通りの開催となりました。

そして今回の『札響オンラインロビーコンサート』は弦楽アンサンブル&ティンパニ!弦への要求がえぐいシベリウスさんの作品をオンラインロビコンでも聴けちゃいます♪本番の準備もあってお忙しいにもかかわらず、精鋭メンバー揃いで素晴らしいアンサンブルを聴かせてくださり、本当にありがとうございます!
無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。

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札幌交響楽団 第643回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年3月12日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
ピエタリ・インキネン

【フルート】
工藤重典

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
ステーンハンマル:序曲「エクセルシオール!」
ニールセン:フルート協奏曲
ソリストアンコール)ドビュッシー無伴奏フルートのための「シランクス(パンの笛)」

シベリウス交響曲第5番


春の訪れを待つ今の時期に、北欧プログラムの清々しい演奏。とっても素敵で気持ちが晴れやかになりました。今回、私はインキネンさんの来日がわかった時点でチケットを求めましたが、本当に聴けてよかったと思います。札響に北欧が似合うことは認識していましたし、指揮のインキネンさんの印象も良く、今回の企画自体は私も以前から興味がありました。ただ、普段自分では聴かない作曲家ばかりで、室内楽の演奏会が立て込んでいた個人的な事情もあって、当初は見送るつもりでいたのです。そんな私ですが、今回は事前準備もナシでフラットに聴き、その上で感激できたのがとても良い体験となりました。むしろ強い思い入れがないからこそ素直に聴けたのかも。今回の定期を聴けたおかげで、自分好みドンピシャの演目にもかかわらず自己都合で泣く泣く見送った、先月(2022年2月)のhitaru定期と名曲シリーズへの未練がようやく消えました。札響とKitara、いつでも帰ってこれる場所があることに感謝です。

今回の協奏曲はフルート。工藤重典さんのフルートはパワフルかつ多彩な響きで、透明感や儚げな美しさだけではない魅力がありました。また、オケの管楽器との掛け合いが多く、各パートの奏者のかた達もソリストに引けを取らない存在感!後半の交響曲でも、今回のシベ5は管楽器がメロディを受け持つことが多くて、そこでの管楽器の活躍も大変素晴らしかったです。そして個人的には、メロディの下地となる部分で頑張ってくださった弦に魅了されました。透明感とか清涼感とか、一言で片付けてしまうのはもったいない。この札響の弦の音色は、比較対象はないけど最高だと私は思います。お一人お一人が素晴らしい演奏家で、そんな皆様が気持ちを一つにしてこの幾重にも重なる音の層を作るって、とても贅沢なことだと改めて実感しました。

ちょっとだけ打ち明け話。実は私、以前インキネンさん指揮による「プラハ交響楽団ニューイヤー名曲コンサート 札幌公演」(2019/01/10)をhitaruで聴いています。その頃の私はまだコンサート通いを始めたばかりで、正直良し悪しなんかわからなかったです。しかしその時思ったのが、真珠の鑑定士の卵が来る日も来る日も最高級品に触れて審美眼を養うように、上質の演奏を聴き続けていればいつか私もその良さをわかるようになるかも、ということ。私は札幌にいながらかつ自分に合いそうな企画を選びながらではありましたが、それからいくつものコンサートに足を運んで自分なりに聴いてきました。もちろん私はまだまだひよっ子で、今でもきちんとわかっている気はしません。それでも今回、インキネンさんの背中とおなじみの札響メンバーの姿を拝見しながら、胸のすくような澄んだ響きの演奏を聴いて、私は心から素敵と感じて感激できました。それが何よりうれしかったです。札響の皆様、オケでも室内楽でもいつも珠玉の演奏を聴かせてくださり、ありがとうございます。これからも信じてついて行きます!私は思いつきを書いてはネット公開したりたまには部分的なところで大はしゃぎしたりするかもしれませんが、愛を叫びたくてたまらないこの気持ちを、どうかこれからも大目に見て頂けましたらうれしいです。そして我が町のオケからこんなに素晴らしい響きを導き出しくださったインキネンさん、今後もぜひ札幌にいらしてくださいね。


1曲目はステーンハンマルの序曲「エクセルシオール!」。今回が札響初演。低音の重厚な下支えがあった上で高音弦が駆け上る冒頭から、私好みで早速引き込まれました。低音はドイツ風でも、高音の透明感は北欧らしい印象。木管が歌うところは草木の芽吹きのようにも感じました。チェロと管楽器が会話する少し不穏なところでは、他の弦がザワザワと小刻みな音を奏でていたのも印象に残っています。コンマス独奏も素敵でした。クライマックス直前のジェットコースターのような流れにはゾクゾクしました。金管が盛り上げたラストは、引っ張らずにピタっと終わったのが印象的。初演とは思えない素晴らしい演奏でした!札響に似合う曲だと思いますので、今後も時々は演目に取り上げてください!


ソリストの工藤重典さんをお迎えして、2曲目はニールセン「フルート協奏曲」。オケの編成は、1曲目から弦も管も人数が減り(オケのフルートはナシで、他の木管は2つずつ)、金管は唯一バストロンボーンが入りました。第1楽章、オケの序奏がパワフルでカッコイイ!程なく登場した独奏フルートが美しいのに力強く、存在感抜群でした。各管楽器との掛け合いはどれも素晴らしかったですが、インパクト大だったのは低音のバストロンボーンとの絡み。低音と高音のコントラストがテンポ良く掛け合って、計算されているはずなのにとても自由な感じがしました。オケのターンでは、指揮のインキネンさんが全身でリズムに乗ってノリノリでした。ティンパニが併走したカデンツァでは、ティンパニの鼓動にシンクロして音を刻む演奏があったのが印象に残っています。第2楽章では、独奏フルートとの掛け合いで、ホルンと一緒に独奏ヴィオラが登場したのが新鮮でした。オケをバックに、独奏フルートの音を刻みながらの高速演奏が圧巻!クライマックス直前のバストロンボーンと今度はティンパニも加わった三つ巴でも、こんなパワフル低音にのまれることなく、独奏フルートは最後まで存在感ある演奏を聴かせてくださいました。

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ソリストアンコールはドビュッシー無伴奏フルートのための「シランクス(パンの笛)」。神秘的な響きで、ちょっと妖しい雰囲気も感じられる曲。説得力のある独奏とは対照的に、ラストは静かに消え入ったのがインパクト大でした。工藤さん、協奏曲からソリストアンコールに至るまで素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半はシベリウス交響曲第5番。第1楽章、冒頭ホルンがとっても素敵!木管楽器が順番に入ってきて、ティンパニに導かれながら景色が広がっていくようでした。華やかなトランペットにパワフルなトロンボーンが堂々とした響き!管楽器の活躍がとても良かったです。また個人的に注目したのは弦です。ここでの弦は主役の管楽器の下地になる役割が多く、不穏なところではやや深刻に、かわいらしいところではごく小さな音で控えめに弾く等、管楽器の活躍が映えるカラーを作り出していました。また、メロディではなくてもクレッシェンドで盛り上がりを作ったり、ザワザワとした音の刻みで雰囲気を作ったりと、丁寧な音の層は音楽全体の奥行きを感じさせてくれました。主役として華やかにメロディを奏でるのとはまた違う難しさがあるのでは?相変わらず弦への要求がエグいシベリウスさん。しかし札響の弦はどんなシーンでも音がキレイで、強弱やメリハリがはっきりした演奏。素晴らしいです!そして楽章締めくくりは全員参加で思いっきり盛り上がったと思ったら、ぱっと音が止まり、その潔さがとても印象的でした。第2楽章、木管の素朴な響きに、弦は基本ピッチカートで時々は音を刻む演奏。同じ繰り返しのように見えて、少しずつ変化していくのが面白かったので、ずっと聴いていられると個人的には思いました。続けて第3楽章へ。ティンパニの一撃と金管の堂々とした響きから気分があがります!それでも弦はすぐには上昇せず、エネルギーを溜めるように音を小刻みにする演奏を継続。ついに上り詰め、ホルンと続く他の管楽器の伸びやかな歌がとても心に沁み入りました。こんな幸せを噛みしめるような盛り上がり方、イイですね!また弦が歌うところでは、シベ2とはまた違った大人の落ち着きが感じられたのもツボでした。ラストは全員参加で盛り上がった後、タンッ!タンッ!タンッ!……と強奏を何度も繰り返し、別れを惜しむかのよう。ついに清々しく締めくくり。気持ちの良い演奏でした!ありがとうございました!


前回の札響定期(2022/01/29)。指揮は当初予定されていたマティアス・バーメルトさんの来日が叶わず、11月より来日中のユベール・スダーンさんへ交代。私にとってはこの会も、今までの自分の固定観念が変わる出会いでした。

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今回の札響定期の前、私は札響メンバーが出演する室内楽のコンサートを2つ聴きました。オケの皆様は室内楽もスゴイんです!また、今回の札響定期の直後にも、札響メンバーが出演する2つの演奏会がkitara小ホールで予定されています。いずれもとても楽しみです!

2022/02/27 ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」(Vn.岡部亜希子さん・Vn.桐原宗生さん・Vc.武田芽衣さん)
※桐原さんと岡部さんは、2022/03/14開催の「2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトブラームス~」にもご出演。

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2022/03/05 骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート(Vc.石川祐支さん)
※石川さんは、2022/03/17開催予定の「安永 徹&市野 あゆみ~札響・九響の室内楽」にもご出演予定。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート(2022/03) レポート

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札響首席チェロ奏者の石川祐支さんと地元札幌でご活躍のピアニスト・大平由美子さんのデュオコンサートが開催されました。北海道骨髄バンク推進協会の主催によるチャリティコンサートで、収益は骨髄バンク患者支援基金等に寄付されるとのことです。


骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート
2022年03月05日(土)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
大平由美子(ピアノ)
石川祐支(チェロ)

【曲目】
エルガー:愛の挨拶
ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲
シューベルト:「楽響の時」より第3曲 ( ピアノ・ソロ)
バッハ:羊は安らかに草を食み ( ペトリ編曲 ピアノ・ソロ)
メンデルスゾーンベネチア舟歌 ( ピアノ・ソロ)
フランク:チェロ・ソナタ イ長調( ヴァイオリン・ソナタ編曲版) より 第1楽章・第2楽章

ドビュッシー亜麻色の髪の乙女 ( ピアノ・ソロ)
ドビュッシー:美しき夕べ
フォーレシチリアーナ
ドヴォルジャーク:母の教え給いし歌
ショパンノクターン第2番 変ホ長調 ( ピアノ・ソロ)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
ラフマニノフ:ここは美しい
カサド:親愛なる言葉

(アンコール)サン=サーンス:白鳥


2019年12月に地下鉄大通駅で開催された駅ピアノのイベント以来、ようやく石川さんと大平さんのデュオに再会できました!その時はまさにコロナ禍に入る直前。いつでも会える感覚でいたのに、結果としてあれから2年以上が経過したのですね。お待ちしていました!そして今回はチャリティイベントへの出演依頼を受けてとのこと。通常のリサイタルでも大勢の人が集まる、人気と実力を兼ね備えたお二人です。しかしどのようなオファーも快諾し、クオリティの高い演奏を聴かせてくださるその姿勢に頭が下がります。また今回のチャリティに関しては、演奏を聴く私達にとっても、自分の楽しみが結果として何らかの支援に繋がるのはありがたいこと。そんな場を提供くださった関係スタッフの皆様にも感謝です。

今回はその趣旨から、お客さん達の中にはクラシック音楽のコンサートになじみがないかたも大勢いらっしゃったと思われます。そんなかたたちを含め、会場の皆様は演奏をとても楽しまれていたようにお見受けしました。演目は有名曲が中心のアットホームな会ではありましたが、いざ演奏が始まると会場の空気は一変。お客さん達は皆、演奏に気持ちが引き込まれていた様子でした。素晴らしいです!まっさらな人に響いてこそ本物ですよね!またトークでは(トークの時はマスク着用されていました)お二人のお人柄の良さがうかがえ、会場は終始和やかな雰囲気でした。

そして以前からのファンである私も心から楽しむことができました。私はこれでも少しは場数を踏んできたため、「何でも大喜び」する時期は既に過ぎています。舞い上がって大事なことを見逃してはいけないと、最近ではむしろ努めて冷静になって演奏と向き合いたいと考えているほど。それなのにいざお二人の実演に触れると、私は頭で理屈が考えられなくなり、ただただ夢中になっていました。冷静でなんかいられない(笑)。それでもとてもとても楽しかったので、素直にもっと聴きたいと思いました。次はできるだけ落ち着いて聴く努力をしますので、お忙しいことと存じますが、今後もぜひ演奏会で再会できますことを心待ちにしています!チャリティでも、もちろん通常のデュオリサイタルでも。


大平由美子さんは白地に若葉が描かれた春らしいドレス姿、石川祐支さんは黒シャツの装い。出演者のお二人が拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目はエルガー「愛の挨拶」。ちなみに2019年12月の地下鉄駅イベントでも1曲目はこの曲でした。温かみのあるピアノに、甘く優しい音色のチェロ。そうこの感じ!と、私は石川さんと大平さんのデュオに再会できた喜びで胸がいっぱいに。演奏後、お二人がマイクを持ち「ごあいさつの1曲目です」とご挨拶。「エルガーが後に妻となる女性へのプレゼントとして書いた曲」と解説してくださいました。なお、この日配布されたプログラムには曲目解説はなく、曲についてのエピソードはトークの中で楽しく紹介するスタイルでした。

続いて、ベートーヴェン「『魔笛』の主題による7つの変奏曲」。ピアノが主役のときは低音で伴奏していたチェロが主役になった途端に高音になったり、ピアノにピッチカートで合いの手を入れたりと、テンポの良い掛け合いはお二人の息ぴったりでした。カラーが異なる7つの変奏は、いずれも素朴な舞曲のようでもあり、リズミカルでとっても楽しかったです!あとはチェロの小休止のとき、石川さんがピアノのリズムにのって弓や身体を小さく動かしてノリノリだったのが印象に残っています。そのクールなイメージから、ちょっと意外な感じがして新鮮でした。

チェロ石川さんがいったん退場されて、ピアノ大平さんによるソロ演奏に。いずれも独墺の作曲家による有名曲が3曲続きました。はじめは、現在も放送中のラジオ番組『音楽の泉』のテーマ曲と紹介された、シューベルト「楽響の時」より第3曲。切なく哀しげな感じなのに優しさや希望が見える、素敵な演奏でした。また昔のラジオ番組『バロックの森』のオープニングテーマだった、バッハ「羊は安らかに草を食み」は、領主への誕生日プレゼントとして作られた曲だそうです。牧歌的で幸せに満ちた響き!厳格なイメージのバッハはこんな曲も書いていたんですね。そして「なかなか旅行に行けない今、ベネチアの情景を思い浮かべて」と紹介された、メンデルスゾーンベネチア舟歌は、哀しくも美しいピアノが心に沁みました。

いよいよ大曲のフランク「チェロ・ソナタ イ長調( ヴァイオリン・ソナタ編曲版)」より、第1楽章・第2楽章の抜粋演奏です。ドイツ系の重厚さも感じられるフランスの音楽。私はヴァイオリンの演奏でなじんでいました。石川さんの「先生の先生」の説によると、この曲は「フランクは最初はチェロのつもりで書いたけれど、当時弾けるチェリストがいなくて、ヴァイオリン用に書き換えた」(!)とのこと。「作曲当時、誰も弾けなかった曲を、今日は石川さんが演奏します」と大平さん。会場に大きな拍手が起きました。でもこの曲はおそらくピアノだって難しいですよね。第1楽章、繊細に情緒豊かにメロディを奏でるチェロ。その美しさに私は引き込まれ、チェロの感情が最高潮に達したところでは思わず感嘆の溜息が出ました。生演奏は聴いた瞬間に消えてしまうのが惜しい、ずっと覚えていられたらいいのに!また引き継いだピアノ独奏も素敵でした。続く第2楽章は、冒頭の情熱的なピアノからもうドキドキ。満を持して登場したチェロの第1音からドストライクで私のツボに刺さりました!もう絶対に敵いません。ヴァイオリンでは低めの音でやや深刻に演奏されるところが、チェロだとさらに深みが感じられて、やはりこれはチェロのための曲では?と思ったり。ピアノとチェロの掛け合いも素晴らしかったです。そしてクライマックスでは、主役のピアノの下で、チェロがごく小さな低音でゆっくり入って、グラデーションでだんだん音量を上げながら音域を高くしながら加速していき、遂には主役に躍り出る様を目の当たりにしました。もうすごいことすごいこと……。石川さんは涼しい顔で演奏なさっていましたが、弦を抑える手も弓の動きも超高速の超絶技巧。演奏は素人目で見ても絶対に難しいと思われます。何より石川さんのチェロの音色がドハマりしていて超素敵!すごいものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!それにしても、全部で4楽章ある曲なのに、今回は前半2つの楽章だけだったのがもったいない。いつか必ず全楽章の演奏を聴かせてください!また他楽器をチェロに置き換えた曲なら、シューベルトアルペジオーネ・ソナタ」をお二人の演奏でぜひ聴いてみたいです。絶対に素敵なはず!


後半の1曲目はピアノ独奏。いきなりホール全体の照明が真っ暗になり(!)、カツカツとヒールの音が聞こえ、ドビュッシー亜麻色の髪の乙女の演奏が始まるとピアノ演奏をする大平さんにスポットライトがあたって、少しずつ会場も明るくなりました。ぽつぽつ語るようなピアノは乙女への優しい眼差しのようで、とっても素敵!演奏後に大平さんが「(照明をこのようにしたのは)一度やってみたかったんです」と茶目っ気たっぷりにお話されて、会場がほっこりしました。他の曲でも照明は色々と工夫されているとのこと。ムードに直結する照明は大事ですよね。わかる!なおドビュッシー亜麻色の髪の乙女」については、どこか懐かしい感じがするのは東洋の音階で作られているからとか、ピアノ曲で有名になっているけど元々は歌曲、といったお話がありました。

次はチェロとピアノでの演奏で、ドビュッシー「美しき夕べ」。この曲も元々は歌曲なのだそう。前半のフランクのソナタの真剣勝負とはまた違った、ゆったりと美しい響きをたっぷりと聴かせてくださいました。いつまでも聴いていたい心地よさ。夕暮れだったのが遂に日が沈んだ(?)かのように、ふっと消え入るようなラストも印象的でした。

フランスものが続きました。フォーレシチリアーナは、管弦楽作品であるフォーレ組曲ペレアスとメリザンド」の中ではハープとフルートで演奏される美しい曲。しかし元々はピアノとチェロの曲だったそうです。ちなみに私は管弦楽の演奏を2021年4月の札響定期で聴いています。なお今回の演奏会チラシには書かれていなかった演目で、取り上げられるのは当日知りました。それでも私は、超有名な「シシリエンヌ」ね、この曲ならよく知ってる!と、演奏前は気楽に構えていました。そして演奏が始まると……ごめんなさい私が甘かったです。神秘的なピアノの序奏に続いて登場したチェロに、私は息を呑み一瞬で気持ちを持って行かれました。うまく言えないのですが、チェロの哀しみを抱えた切ない音色は形容しがたい良さで、容赦なく心の奥底の一番弱いところに響いてきました。また弦楽器なのに、音をのばすところでなぜか木管楽器のような空気の流れが感じられる不思議な響き。ピッチカートはハープのようでもありました。しかしチェロの演奏でこんなに心かき乱されるとは、想定外だったんです。こんな演奏に出会えてうれしいと、大はしゃぎできたらよかったのに、想像を超えた体験に私は茫然自失となって、完全に余裕をなくしてしまいました。

そして次のドヴォルジャーク「母の教え給いし歌」の切なく美しい音楽が始まると、私は参ってしまい、コップの水があふれたように涙がボロボロ止まらなくなって困りました。一生懸命に聴こうとしても、自分のコンディションのせいできちんと聴けていなかったのがとても心残りです。私この曲の演奏を叶うことならもう一度聴き直したい!あとフォーレにはチェロの良い曲がたくさんありますが、お二人に今後再び演奏して頂けるならやはり今回の「シチリアーナ」をお願いしたいです。次は平常心で聴きたいと思います。

ここでピアノ独奏が1曲入りました。ショパンノクターン第2番 変ホ長調。このタイミングでこの曲の演奏を大平さんのピアノで聴けて、本当によかったです。耳なじみのある曲を丁寧な演奏で聴くと、純粋な美しさに心洗われました。私の場合は、ここでもまだ本来の「鑑賞」はできていなかったかもしれません(ごめんなさい!)。しかし心地よいピアノの響きを味わいながら、私は落ち着きを取り戻すことができました。

再びデュオでの演奏へ。ロシア出身の作曲家ということで、現在の戦禍のお話も少しありました。ラフマニノフ「ヴォカリーズ」は、歌詞がない歌曲。ソプラノ歌手に献呈されたそうですが、低音のチェロがよく似合う曲ですよね。切なく朗々と歌い上げるチェロがストレートに心に響いてきました。この曲、確かに歌詞は必要無いかも。ちなみに2020年のStayHome期間中、札響のYouTubeチャンネルにて公開されたチェロアンサンブルの1曲がこの「ヴォカリーズ」でした。私はついあの頃を思い出してしまいましたが、今こうして生演奏を聴けるありがたみをしみじみ実感。今回聴けてよかったです。ありがとうございます。

続くラフマニノフ「ここは美しい」も、元々は歌曲だそうです。演奏前に「自分と神と自然が重なる」と大平さんから解説がありました。ピアノのやさしい響きに、大人の落ち着きで幸せを噛みしめるように歌うチェロがとっても素敵。短い曲でしたが、じんわり心に染み入り、癒やされました。

プログラム最後となる曲はカサド「親愛なる言葉」。カサドはスペインの作曲家で、この曲は尊敬するカザルスのために書かれたそう。こちらの演奏、石川さんのチェロを聴いた女性(男性も?)はもれなく恋に落ちると思います!なにこの胸を焦がす音色は……この日は既に様々な音色を聴かせてくださっているのに、さらに別の切り札を出してくるなんて!一体どれだけ引き出しあるんですかもう訳わかんない(※褒めてます)。スペインの舞曲のような独特のリズム感があり、ピアノの安定した下支えがあった上で、胸を焦がす音色のチェロが歌うのがたまらなく良かったです。そして例えば「愛の挨拶」の女性へ向けた甘さもいいけど、男同士の信頼関係がわかるクールさもすごくイイ!それでいて情熱的かつ愛(親愛)が感じられて、もう訳わかんないほどカッコイイ!スペイン系、イイですよね!私、スペインの曲なら、グラナドス「アンダルーサ」やカザルス「鳥の歌」、あとはファリャの曲も好きです(訳:ぜひお二人による実演で聴きたいです)。いえ詰まるところ演目は何でもいいので、これからもお二人の演奏をもっと聴きたいです!


カーテンコールで出演者のお二人に花束が贈られました。大平さんから、骨髄バンクの活動について簡単なご紹介があり(演奏会の企画・準備や当日の会場スタッフもすべてボランティアなのだそうです)、アンコールの演奏へ。定番のサン=サーンス「白鳥」。水面のようなピアノと優雅に泳ぐ白鳥のようなチェロ……ああ素敵すぎ!この曲はお二人の演奏動画がネット上で公開されていて、私は何度もリピートしていますが、やはり生演奏で聴けるのは格別です!この日の演奏1曲1曲すべてが私にとってスペシャルな体験となりました。

分散退場の後、私はロビーで心ばかりの募金をしてkitaraを後に。あこがれのデュオの実演をたっぷり聴けて、私はとっても幸せな時間を過ごすことができました。本当にありがとうございました!次回開催もぜひお待ちしています!


ロビーで販売されていたCDはこちら。私の愛聴盤です♪ブラームスの2つのチェロソナタと、シューマンドヴォルジャーク。いずれの演奏も必聴です!CD収録曲のすべてをいつかお二人による実演で聴けたらいいなと、私はずっと願っています。

tower.jp


ピアノの大平由美子さんのYouTubeチャンネルでは、たくさんの演奏動画が公開されています。ピアノ独奏やチェロとの共演では今回取り上げられた演目も多数!演奏の素晴らしさはもちろんのこと、演出や編集にも美学が感じられます。要チェックです♪

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チェロの石川祐支さんは、チャリティの演奏活動を行っているピアノ三重奏団「トリオ・ミーナ」にも参加されています。Trio MiinA トリオ・ミーナ第3回公演 小児がんチャリティコンサート(2021/11/23)では、隠れた名曲グラナドスに、斬新なパスカル・ヒメノ(世界初演)と、前半はスペインの作曲家の作品が取り上げられました。また後半は王道のメンデルスゾーン第1番でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」(2022/02) レポート

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック。2021年度の最後となる今回はブラームスの「弦楽四重奏とピアノ五重奏」です。ピアノはもちろん新堀聡子さん。そして弦は我らが札響の3名(Vn.岡部亜希子さん・Vn.桐原宗生さん・Vc.武田芽衣さん)と都響から1名(Vla.村田恵子さん)をお迎えしての布陣。このメンバーによるブラームスの代表的な室内楽が聴けるとあって、会場は90席(収容率50%以下)ほぼ満席でした。


ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」
2022年02月27日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
岡部亜希子(ヴァイオリン)
桐原宗生(ヴァイオリン)
村田恵子(ヴィオラ
武田芽衣(チェロ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームス弦楽四重奏曲 第1番 Op.51-1
ブラームスピアノ五重奏曲 Op.34

(アンコール)ブラームス:16のワルツ Op.39-第15番 ※ピアノ五重奏アレンジ


ブラームス自己批判で同編成の曲を20作以上破棄した後に世に送り出した、渾身の「第1番」の弦楽四重奏曲。そしてウィーンに移り住んだばかりでまだ味方らしい人がいなかった頃に、紆余曲折を経て若き日の思いを昇華させたピアノ五重奏曲。そんな作曲家自身の強い思いが込められた今回の2作品の演奏は、技術面だけでは形にならない難しさがあると思われます。しかし今回の演奏は曲自体が持つパワーに負けない大変な熱量で、私達はどっぷりと作品の世界に浸ることができました。奏者お一人お一人の技術レベルの高さは言うまでもなく、なによりアンサンブルが素晴らしかったです!各人がバラバラに主張し合うのではなく、全員で一つの人格のように各パートが有機的に絡み合い、小さな綻びは全体で瞬時に吸収して流れを止めず音楽が生き続ける演奏。当たり前のように細かなテンポや強弱の変化そして呼吸や間合いを揃えて、音楽自体が心臓の鼓動を打っているような「生きた音楽」を聴かせてくださいました。その上で「ここぞ」という場面では遠慮のない感情の発露!オケとは勝手が違う上に所属オケ以外のかたとも共演してこのクオリティ、素晴らしいです!しかも札響はこの日の前日に主催公演があり、またVla.村田さんは東京からお越し下さったわけですから、全員揃ってのリハーサル時間はごく限られていたのでは?なお今回ご出演のヴァイオリンの桐原さんと岡部さんは、2022年3月にkitara小ホールで開催される「2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトとブラームス~」にも札響メンバーと一緒にご出演予定。そちらも今からとても楽しみです!

ブラームスLOVEの私でも、実は今まで彼の弦楽四重奏曲が正直ピンときませんでした。なんだか凝り固まっている印象があって、他の編成の室内楽はもっと自由なのに……と。しかし今回の演奏は、かっちりした中でも抑えきれない情熱があふれているのが感じられ、夢中になれたのがうれしかったです。そしてピアノ五重奏曲では、作品に真摯に向き合い全身全霊で思いを表現した演奏を聴けて感激しました!作曲家自身のターニングポイントとも言えるこの作品。個人的に思い入れが強すぎて、演奏が始まる前の私は期待に胸膨らませながらも、内緒ですが「中途半端な演奏なら承知しない(←過激派 ←何様)」と、少し身構えていたのです。いざ演奏を聴くと、私のつまらない意地は吹き飛び、本気の演奏に自分の感受性をすべて預けられました。素直にすごくうれしい!そして私は、やはりこの曲は弦がいてこそ一層輝くと感じました。シャイなブラームスがここまで胸の内をさらけ出している曲は他にないです(と私は思っています)から、心かき乱す弦で思いっきり感情の発露をするのがハマる!とはいえ姉妹曲の2台ピアノ版だって今も変わらず大好きです、念のため。ちなみにウィステリアホールの2021年度最初の公演(2021/07/22)では、今回のピアノ五重奏曲Op.34の姉妹曲「2台のピアノのためのソナタOp.34b」が取り上げられました。Op.34は、最初の弦楽五重奏が行き詰まって(破棄)、2台ピアノ版に作り直し(Op.34b)、さらにピアノ五重奏版にした(Op.34)経緯があります。ブラームスが大切に手をかけた曲の、2台ピアノ版とピアノ五重奏版。その両方をウィステリアホール・シーズン企画の素晴らしい演奏で聴けた私は幸せ者です!


プレトークは新堀さんと桐原さん。なお私はトークの途中から入室したため(ごめんなさい!)、聞けた範囲でのレポートになります。桐原さんによると、ブラームス室内楽は「弦では表現しきれない要求をしていることがある(※要旨)」。そこでヨアヒム(ヴァイオリニストでブラームスの盟友)の名前が出て、私は思わずふふっとなりました。ブラームスは、クララさんの助言は割とすんなり受け入れるのに、ヨアヒムとは結構もめたりしたんですよね……。ブラームス室内楽は弦奏者泣かせの難曲揃いなんだろうなと想像します。そして「オーケストラ的なところと、(歌曲や合唱曲を得意とした)歌心」との解説が、すとんと腑に落ち、これから始まる演奏がますます楽しみになりました。

前半はブラームス弦楽四重奏曲 第1番」。奏者は向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順に着席。またヴァイオリンは1st桐原さん、2nd岡部さんでした。第1楽章、渋い音のヴァイオリンがクレッシェンドで駆け上る冒頭からインパクト大!全員で頂点に達した後にヴィオラひとりが音をのばしたのも印象的で、早速引き込まれました。重厚でありながら情熱あふれる演奏にゾクゾク。中盤の不穏なチェロや、メロディをヴァイオリンに繋ぐヴィオラの「歌」も印象に残っています。第2楽章は一転して穏やかでやさしい響き。美しく「歌う」弦のまるい音色が心地よく、しみじみ聴き入りました。控えめなピッチカートでの締めくくりも素敵。第3楽章、個人的にはこの楽章の演奏をとても良いと感じました。速すぎないテンポで、不安定な揺らぎを各奏者で見事に繋いで、時折入るピッチカートがアクセントになって曲の表情を変化させる。緻密でもそうとは感じさせない、血の通った演奏が素晴らしいです。そして力強いユニゾンで始まる第4楽章は、第1楽章の情熱再び。メロディを演奏するヴァイオリンと、中低弦が刻むリズムにドキドキ。厳しい響きの中でも時々ふっと穏やかな表情が垣間見えることがあり、そんな細かな変化もごく自然に表現されていました。曲は情熱的に力強く締めくくり。私、ブラームス弦楽四重奏曲の演奏でここまで夢中になれたのは初めてです!きちっとした作りでも、内に秘めた情熱は隠しきれない。熱く流れる血が感じられる、素晴らしい演奏でした。


後半はブラームスピアノ五重奏曲。ヴァイオリンが前半とはパートが入れ替わり、1st岡部さん、2nd桐原さんになりました。第1楽章、ピアノトリオによる少し不穏なユニゾンから始まり、ピアノが駆け上り弦の強奏が重なるところからパワフルかつ情熱的で、掴みはバッチリOK!激しいだけでなく、少し穏やかなところや不安定になるところ等、変化が多い楽章。強弱・緩急のメリハリがある演奏は、若き日のブラームスの複雑な胸の内を表しているかのようでした。激しさが最高潮に達したクライマックスも良かったです。第2楽章は少しゆったりして、ピアノのやさしい響きと弦のまるい音色を堪能。個人的には、中盤のピアノが切なくメロディを奏でるところ(ここももちろん素敵でした)の直前に、ピアノを導くように2ndヴァイオリンが少し低めの音で切なく歌ったところ(細かすぎて伝わっている気がしない)がとても刺さりました。声高な主張をしない2ndヴァイオリンに心かき乱されるなんて!と、不意打ちに私は動揺して、ここからはあれこれ考えるのをやめ演奏に身を任せることに。そして第3楽章が最高に良かったです!冒頭の低弦のピッチカートから入り、全員ピアニッシモで鼓動を打っていたのが、一転フォルテッシモで力強く感情爆発!聴いている私達のテンションもMAXに。ピアノが「運命が扉を叩く音」を響かせ、弦もそれに負けずに力強く歌ってと、ピアノも弦も全力で感情をぶつけ合う大熱演!私は圧倒され、期待を遙かに超える演奏と出会えた喜びに感極まりました。息つく暇も無い目まぐるしい展開の中でも、例えば次の鼓動はフォルテッシモになっている等、単純な繰り返しではなく違いをきっちり表現されていたのが素晴らしいです。ピアノとチェロから入った中盤の温かみがあるところでは少しほっとでき、そこでの弦は先ほどまでの激しさとは違う優しさが感じられたのも印象に残っています。全力の感情の発露で楽章締めくくり、続く第4楽章もまた良かったです。神秘的な序奏、ピアノとチェロによる仄暗い足音、からの急展開。ここのピアノと弦の重なりが重厚かつドラマチックで超素敵!不安げだったり激しい感情だったりと次々と表情が移ろうこの楽章を、細かくリズムとテンポを変化させながらハートに刺さり続ける演奏で聴かせてくださいました。加速しながら思いをすべて音楽に乗せたようなクライマックスに、ピアノから入り弦が追いかけ全員で力強く締めくくる個性的なラストが鮮烈な印象を残して、この日限りのスペシャルな演奏は終了。私、この日この演奏に出会えて本当によかったです!


カーテンコールの後、大熱演の直後で息を切らせた新堀さんからシンプルなご挨拶があり、すぐにアンコールの演奏へ。アンコールブラームス「ワルツ 第15番」のピアノ五重奏アレンジ!ちなみに今回のピアノ五重奏曲の2台ピアノ版が取り上げられた「2台のピアノによる2つのソナタ」演奏会(2021/07/22)でも、アンコールはこの有名なワルツでした。ピアノ五重奏曲のほんの少し後、ブラームスがウィーンになじみ始めた頃の作品です。主に桐原さんのヴァイオリンがメロディを歌い、寄り添うピアノとブラームスらしい中低弦の下支え、高音弦のハモりが幸せな感じ!先ほどまでとはガラリと雰囲気が変わった、そのやさしい響きに私は思わず涙が出てきました。ああブラームスってこんな人なんですね……!よく知る曲を素敵なアレンジと演奏で聴けてうれしかったです。アンコールに至るまで、ブラームスに誠心誠意向き合った素晴らしい演奏をありがとうございました!


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。2021年度はブラームスをシーズンテーマに掲げ、全6公演が開催されました。

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私はすべての公演を拝聴。今回より以前の5公演のレビュー記事へのリンクを以下に掲載します。ブラームス三昧できた本年度はとても幸せでした!

2021/07/22 2台のピアノによる2つのソナタ
2021/08/29 チェロアンサンブル
2021/10/24 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」
2021/11/07 ソプラノ・クラリネット・ピアノ
2022/01/16 ピアノ三重奏


そして、ウィステリアホール プレミアムクラシックの2022年度ラインナップが発表されました。6つの企画はどれも魅力的!来年度もウィステリアホールに通う幸せな1年になりそうです♪

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オルガンウィンターコンサート(2022/02) レポート

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↑「Kitara NEWS 2022年2月-3月号」に、今回ご出演のニコラ・プロカッチーニさんへのインタビュー記事が掲載されています。

オルガンのみのコンサートは久しぶりです。年始に購入したKitaraの福袋にペアチケット引換券が入っていて、良い機会なので聴いてみようと気軽な気持ちで参加。高1の息子が付き合ってくれました。ちなみに座席は2階LBブロックでした。

特に子供向けの企画ではありませんでしたが、チケット価格はワンコイン(500円!)のリーズナブル設定のためか、会場には小さな子を含む家族連れが多数。座席も9割程が埋まる大盛況でした。Kitaraさん、良質な企画をありがとうございます!


オルガンウィンターコンサート
2022年2月11日(土)15:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【オルガン】
ニコラ・プロカッチーニ(第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト

【曲目】
ロッシーニ/プロカッチーニ編曲:歌劇「セビーリャの理髪師」序曲
J.S.バッハ:さまざまな手法による18のライプツィヒ・コーラル集より いと高きにある神にのみ栄光あれ BWV664
プロカッチーニ:フランチェスコ・スカラビッキの詩に基づく即興演奏
モーツァルト:自動オルガンのためのアダージョアレグロ ヘ短調 K.594
プロカッチーニオスヴァルド・リチーニの絵画に基づく即興演奏
ブラームス:11のコーラル前奏曲より わが心の切なる願い 作品122-10
モランディ:グランド・モダン・オルガンのためのラッコルタより シンフォニアニ長調 作品21-4

(アンコール)ヴィエルヌ:幻想的小品集より 即興曲 作品54-2


オルガンの魅力に気付かされた濃い1時間、めいいっぱい楽しませて頂きました。あくまで私の場合ですが、オルガンは録音を聴いてもピンとこない上に、演奏会で取り上げられる曲も厳格なバロック期のものばかりだし……と、偏ったイメージから今まであまり興味を持てずにいました。しかし今回聴いたオルガンは、オーケストラのようだったり、木管楽器を思わせる音や声楽の澄んだ歌声のようにも聞こえたりと、とても多彩で豊かな響き。録音とは比べものにならない心地よい響きをKitara大ホールで堪能できました。またオルガンのための作品はバロック期だけでなく、古典派やロマン派以降にもあってバリエーション豊か。今回はそんな個性的な作品を色々と聴けたのも面白かったです。そして今回、個人的に最も強く印象に残ったのは即興演奏です。プログラムと一緒に配布された資料を参照しながら(即興の時のみ照明が明るくなりました)、その演奏を聴くと、優しく純粋な響きに心洗われるようでした。音楽ってイイですね!書き言葉や視覚で捉えるものって、勝手な自分フィルターがかかるのかどうも荒っぽさを感じます(私だけかも?)が、そこからこぼれ落ちてしまう心の機微を演奏から感じ取れた気がしました。お若いプロカッチーニさんの感受性、素晴らしいです!さらに心を込めた演奏のみならず、トークでは覚えたての日本語で精一杯お話されていて、実直なお人柄が伝わってきました。プロカッチーニさん、温暖なイタリアから厳寒の札幌までようこそお越し下さいました、ありがとうございます!ちなみにプロカッチーニさんは2月の札響名曲シリーズでもJ.S.バッハのオルガン曲を演奏予定。楽しみです!


私は当日会場に入ってから演目を確認し、ブラームス最後の作品(作品122)の中の1曲があるのを見つけてビックリ!ブラームスが残した作品を時系列で並べると、途中はすっぽり抜けていますが最初と最後はピンポイントでオルガン曲なんですよね。最近そのことに気づき、でも聴ける機会ってほぼ無いだろうな……とぼんやり考えていた、まさにドンピシャのタイミングでの出会い!不思議なご縁を感じ、私は開演前からワクワクしていました。

プロカッチーニさんが拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目はロッシーニの歌劇「セビーリャの理髪師」序曲(編曲はプロカッチーニさんご自身)。大音量から始まり、メロディの演奏では木管を思わせる響き。様々な音色が重なる様はまるでオーケストラのようでした。よく知る曲をオルガンの演奏で聴くと、とても新鮮に感じられました。編曲も演奏も素晴らしかったです!

オルガンといえばやはりバロック期のこのお方!J.S.バッハ「さまざまな手法による18のライプツィヒ・コーラル集より いと高きにある神にのみ栄光あれ BWV664」。私はJ.S.バッハには厳格なイメージを持っていましたが、この日聴いたこの曲の演奏はとても柔らかなやさしい響き。これもバッハなのね!と私は良い意味で驚かされました。しかし同じ音型の追いかけっこ等で構成はきっちりとしていて、紛れもなくバッハだなと。ちなみに息子はこのバッハの演奏が最も印象に残ったようです。

続いては「フランチェスコ・スカラビッキの詩に基づく即興演奏」。配布された資料には、イタリア語の原詩と日本語対訳がありました。3編の詩はいずれも雪や冬を詠んだもの。冒頭の印象的な低音は厳しい寒さ、キラキラとした美しい高音は雪のイメージでしょうか?寒さや雪をこんなふうに表現できる感受性の瑞々しさに、私ははっとさせられました。北国に長く暮らしていると、寒さや雪がつい疎ましく思えて、その美しさを私はすっかり忘れていたのかもしれません。

モーツァルト「自動オルガンのためのアダージョアレグロ ヘ短調 K.594」。プログラムノートを読んで驚いたのが、モーツァルトの時代のオルガンは即興演奏で、譜面に残されていないとのこと(なんともったいない!)。今回の曲は「自動オルガン」という仕掛けがあったおかげで、結果的に現代まで伝わっているようです。あのモーツァルトが残した数少ないオルガン曲を、今回はオルガニストによる生演奏で聴くことが出来ました。幻想的で美しい響きでしたが、基本的に一定のテンポでの繰り返しが多い印象(当時のカラクリの限界?)。私はついぼんやり聴いていたことを白状します。モーツァルトの即興演奏は一体どんな感じだったのか、聴けないとわかっているからこそかえって興味が湧きました。

再びプロカッチーニさんの即興演奏へ。オスヴァルド・リチーニの絵画に基づく即興演奏」では、演奏前にプロカッチーニさんから絵画の紹介がありました。2枚とも抽象画で、素養が無い私はどう捉えればよいかわからず、お話を聞いても正直ピンとこなくて(ごめんなさい!)。しかし演奏は大変素晴らしく、引き込まれました。1枚目の青い絵では、ミステリアスな高音がインパクト大で、下支えの低音にも存在感がありました。2枚目の赤い絵は、情熱的でダイナミックな拡がり!それでも厳しすぎず、柔らかさや温かみも感じられました。血の色をおどろおどろしく表現するやり方ではなく、あくまで優しく純粋。素晴らしいです!

ブラームス「11のコーラル前奏曲より わが心の切なる願い 作品122-10」。安定感あるザ・ブラームスな低音にまず惹きつけられ、美しいメロディを歌う高音が重なると、まるでブラームスの歌曲のような響きに。最愛の人を喪い自分自身の死期も迫っていたブラームスが書いた曲は、ただただ純粋でこのまま天に昇っていきそうな印象でした。内に秘めた感情をぐっと抑えながらも情熱的だったブラームスが、最後はこんな境地に至った……と感慨深く、聴けて本当によかったです。ありがとうございます!

プログラム最後の曲は、モランディ「グランド・モダン・オルガンのためのラッコルタより シンフォニアニ長調 作品21-4」。モランディはロッシーニと密接な関係がある音楽家だそうです。先ほどブラームスで昇天したばかりなのに、こちらのモランディは地上での生を謳歌するような楽しさ!陽気なオペラのような曲で気分も上向きました。1曲目に有名なロッシーニを持ってきて、ラストをロッシーニ関連の作曲家の作品で締めくくる。気の利いたプログラムでとても楽しく聴けました。

カーテンコールではプロカッチーニさんがマイクを持ってごあいさつ。片言の日本語でのお話ぶりからお人柄の良さが感じられ、会場は温かい拍手で包まれました。アンコールヴィエルヌ「幻想的小品集より 即興曲 作品54-2」。グラスハープのような音色で軽やかなステップを思わせる音楽と、少し不穏なところが交互に。幻想的でとっても素敵!最初から最後まで、今まで知らなかったオルガンの魅力に気付かされた演奏会でした。素晴らしい演奏をありがとうございました!


改修後のkitaraで私が初めてオルガンの演奏に触れたのは、「ワールド・チャリティーコンサート ヴァイオリンの名手 大谷康子と札響3人の首席奏者たち&ピアノ佐藤卓史」(2021/09/02)。1曲目が吉村怜子さんによるオルガンの演奏で、荘厳なオルガンの音色を全身で味わいました。遠方よりお越しの皆様にも喜んで頂けたのでは?kitara大ホールは、大編成オーケストラはもちろんのこと、オルガンも室内楽も素晴らしい音響で楽しめると改めて実感できました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第642回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/01)レポート

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2022年1月の札響定期演奏会は、当初予定されていたマティアス・バーメルトさんの来日が叶わず、11月より来日中のユベール・スダーンさんへ指揮者の交代がありました。また同じ出演者と同じプログラムで2/8に東京公演が予定されています。

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なお、1/29札響642回定期は、2/27にNHK-FMでラジオ放送される予定とのこと。要チェックです!

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そして今回の『札響オンラインロビーコンサート』は打楽器アンサンブル!伊福部昭の演奏では日本人の血が騒ぐリズムを見事に刻んでくださった打楽器チーム。そんな4名の皆様による、息の合ったキレッキレの演奏です。特殊奏法やアレンジも楽しい♪無料動画の視聴は以下のリンク先からどうぞ。

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札幌交響楽団 第642回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年1月29日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
ユベール・スダーン

【ヴァイオリン】
山根一仁

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
ベルリオーズ:「ロメオとジュリエット」より「愛の場面」
伊福部 昭:ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲

シューマン交響曲第2番


札響での演奏回数が少ない(ベルリオーズは2回目、伊福部は初演!そしてシューマン第2番は8回目)演目が並んだ今回。しかし当然ながらクオリティの高い演奏で、なじみが薄い演目でも楽しく聴けました。東京公演にも同じ布陣で臨む気鋭のプログラム。言うまでも無くバーメルトさんご自身が指揮されたかったでしょうし、私達もバーメルトさんとの再会を心待ちにしていました。私はさびしい気持ちを少し引きずったまま迎えた当日でしたが、スダーンさん指揮による演奏は大変素晴らしく、聴けて良かったと今は思います。スダーンさん、演目そのままに代役をお引き受けくださり、特に札響初演の伊福部でもカオスにならずソリストと大編成オケをしっかりと導いてくださり、ありがとうございます!そしてソリスト山根一仁さんも素晴らしい演奏を披露くださいました。ヴァイオリンと管弦楽のための作品は星の数ほどあれど、メイドインジャパンの曲は演奏機会が少なく、さらに今回の伊福部は独特のリズム感もあって、メジャーな曲の演奏とはかなり勝手が違ったと思われます。それでも独奏ヴァイオリンは、まるで今その瞬間身体の内から湧き出たように自然かつ血の通った演奏!またソリスト小休止のときでも、山根さんはオケに合わせて弓を振ったり身体を動かしたりと終始ノリノリで、最初から最後までオケと一緒に生き生きとした音楽を聴かせてくださいました。ありがとうございます!もちろんオケの皆様にも感謝です。

個人的には、今まであまり聴いてこなかったシューマンを自分なりに聴けたのがよかったです。中でも今回は第3楽章に魅了されました。この交響曲第2番を作曲した頃のシューマンは精神の病に苦しんでいたはずなのに、短調でもこんなに穏やかで美しい音楽を生み出したんですね。なんということでしょう!そして第3楽章のおかげで、第4楽章の堂々たる響きが一層輝かしく感じられました。私はシューマンの鬱展開に苦手意識があって、好きな室内楽でも知的で明るい部分ばかりを好んで聴いてきました。しかし今回この第3楽章に出会えたことで、今後は室内楽や歌曲の聴き方も変わりそうです。今回の演奏を聴いて、私にとってシューマンは、「ものすごく好き」とは言えないけれど気になって仕方が無い存在になりました。これからはできるだけえり好みせずに色々聴いていこうと思います。


1曲目はベルリオーズ「ロメオとジュリエット」より「愛の場面」です。あの幻想交響曲の作曲家ですが、この曲に関しては編成が小さく(木管は基本2管ずつで、金管なし、打楽器はティンパニ含めナシ)、「ちょっと意外」と感じたのが演奏前の第一印象。演奏は、温かなホルンに優しい木管、美しい高音弦ももちろん素敵でしたが、何と言ってもチェロとヴィオラ!チェロにとっては高音となる音域にて、中低弦全員がユニゾンで愛の歌を奏でるところがもう素敵すぎました。それも一瞬ではなく何度も!ベルリオーズさん大好きです。そしてなにより奏者の皆様ありがとうございます!室内楽でお一人お一人の演奏を拝聴してもすごいかたたちばかりなのに、そんな皆様が全員揃って同じ美しいメロディを奏でるって最強です!地元ですぐに会いに行ける場所にこんな奏者の皆様がいらして、超素敵な演奏が聴けちゃう幸せを、私は全人類に自慢したいくらい。最初の曲からはしゃぎすぎましたが、私はまたもや「ノーマークからの不意打ち」演奏に出会えてうれしかったです。


ソリストの山根一仁さんをお迎えして、2曲目は伊福部昭「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」。なおプログラム冊子には、伊福部玲さんによる「父・伊福部昭とヴァイオリンと札響と」という文章が掲載されており、作曲家の近くにいたかたならではのお話で作品の背景を知ることができました。オケの編成は、前の曲より弦の人数が減り、金管に、低音木管バスクラリネットコントラファゴットティンパニと打楽器(札響の4名が担当しゲストはナシ)、そしてハープが加わりました。前半、オケの短い序奏の後、すぐに独奏ヴァイオリンのターンに。低い深みのある音からしだいに高音域へと、じっくりとソロ演奏を聴かせてくださいました。徐々にオケが参戦し、大盛り上がりになってからの躍動するような独奏ヴァイオリンもよかったです。途中、オケが「ゴジラ」そのまんまのメロディを演奏して驚きましたが、そうかこの曲はゴジラの「ゴ」にアクセントがくるリズムがベースになっているのかも?と私はこの時にそう感じました。ずっとテンション高いわけではなく、例えば低音木管が効いた不穏なところも印象に残っています。そこから再び独奏ヴァイオリンのターンになった時、今度は木管、独奏チェロ、ハープが順番に寄り添い、いっそう独奏ヴァイオリンの存在感を際立たせていました。ハープは和琴や琵琶を思わせる響きで、和楽器はいないのに日本的な色合いに。後半は少しリズムが変化し、はじめのティンパニだけでなく、オケの弦がピッチカートや小刻みな音で心臓の鼓動のようなリズムを刻んでいたのが印象に残っています。この速いテンポで独奏ヴァイオリンが弦を擦るのとピッチカートを交互に演奏したところがカッコイイ!フィナーレは再びゴジラのリズムで金管打楽器も全員参加のお祭りのような盛り上がりに。独奏ヴァイオリンのみの演奏が一瞬入って、最後はオケ全体で力強く締めくくり。初演とは思えないほど完成度が高い演奏、素晴らしいです!


後半はシューマン交響曲第2番」。一部配置換えがあり、ホルンがトロンボーンの手前に、ティンパニが第2ヴァイオリンの後ろあたりに移動。またティンパニは前半とは違う楽器(胴体が金ぴかのもの)になっていました。第1楽章、冒頭の弦に重なるトランペットのまるい音色が素敵。まさにこのトランペットが作曲当時シューマンの頭の中で鳴っていた?彼自身が聴こえていた音よりも穏やかな感じに昇華させたのかもしれませんが、これなら抵抗なくすっと入っていけると思いました。時折ふっと陰りを見せながらも基本は明るい音楽。しかし抑揚やメリハリがあって聴きやすかったです。楽章最後は、冒頭のトランペット含め管楽器オールスターズも弦もティンパニも全員参加の盛り上がり。また、締めくくりの音をのばすところで思いの外早くピタッと音を止めていたのが印象的でした。第2楽章は、弦が全員揃って素早く小刻みに音を刻む演奏(おそらく難易度高い)の職人技を披露くださり、タイミング良く重なる管楽器のリズム感を楽しみました。中盤の少し穏やかなところも素敵でした。第3楽章はこの曲で唯一の短調ですが、個人的にはこの楽章の演奏がとても良かったです。短調でも重苦しくなく、温かみがあって美しい響き!まず弦の美しさに惹かれ、これがオーケストラの醍醐味!と私は一人で感激していました。また前の楽章までは同時に演奏することが多かった管楽器が、ここでは単独の出番が増えて、魅惑的なオーボエや牧歌的なホルン等それぞれの良さを味わえたのもよかったです。ラストを美しく静かに締めくくったのも印象に残っています。この第3楽章からの、第4楽章!音を駆け上るザ・シューマンな序奏から華やか!聴いている私達のテンションもあがりました。弦の超高速演奏(シューマン先生も要求エグいですね)がインパクト大で、そこからの盛り上がりに気持ちも最高潮に。しかし緩急はあって、少しクールダウンした時の歌う木管金管も素敵でした。ラストは全員参加の堂々たる演奏で締めくくり。素晴らしい演奏をありがとうございました!


この日の約1週間前(2022/01/21)に聴いた「トリオイリゼ・リサイタル」。札響の赤間さゆらさん(Vn)と小野木遼さん(Vc)、そして地元札幌でご活躍の水口真由さん(Pf)の新進演奏家3名によるピアノ三重奏団。重厚な独墺プログラムの演奏は圧倒的な熱量で素晴らしかったです!

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第638回札響定期(2021/06/19)。ソリスト藤田真央さんによるシューマン「ピアノ協奏曲」は想像を遙かに超える素晴らしさで、インパクト大の冒頭部分だけでなく最初から最後まで夢中になれました。この日を境に、シューマンのピアコンは大好きな曲の一つになっています。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズSAPPORO23 トリオ イリゼ・リサイタル(2022/01) レポート

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トリオ・イリゼは、札響の赤間さゆらさん(Vn)と小野木遼さん(Vc)、そして地元札幌でご活躍の水口真由さん(Pf)の新進演奏家3名によるピアノ三重奏団です。私は今回の演奏会をKitara公式サイトの公演情報で知りました。王道のメントリをあえて前半に持ってきて、後半にブラームス第2番(演奏機会が多い第1番ではなく第2番!)。チャレンジ精神あふれるプログラムを期待のメンバーの演奏で聴ける!とあって、私は早い段階から当日を楽しみにしていました。

出演者のかたならびに関係者の皆様におことわりです。弊ブログは素人が趣味で思いつきを書いているだけのものです。今回のレポートもおそらく勘違いや大事なところの見逃し等が多々あるかと思われます。おそれいりますが、私の勝手な感想についてはどうぞ真に受けずに聞き流してくださいませ。


新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズSAPPORO23 トリオ イリゼ・リサイタル
2022年01月21日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
水口真由(ピアノ)
赤間さゆら(ヴァイオリン)
小野木遼(チェロ)

【曲目】
W.A.モーツァルトピアノ三重奏曲第6番 ト長調 KV564
F.メンデルスゾーンピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49 Q29
J.ブラームスピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87

(アンコール)J.ブラームス:メロディのように op.105-1


全身全霊のとんでもない熱量が伝わってきた演奏、素晴らしかったです!音楽は情熱が命!奏者の皆様は、お若くてもオケの一員としての演奏やピアノ伴奏の経験を積んでいらっしゃるので、きれいにまとめる演奏はお手の物と思われます。しかしこの日のトリオイリゼの皆様が選んだのは、いつもの「お約束」とは違う道。最初から最後まで誰一人遠慮せず全力投球で重厚な独墺プログラムに挑み、見事に駆け抜けられました。今の世の中に蔓延する「ガチはダサい」みたいな風潮を跳ね飛ばす圧倒的な熱量、もう最高にカッコイイ!会場には制服姿の高校生(ご招待でしょうか?)も大勢来ていましたが、若い彼らにも良い刺激になったのでは?うちの高校生の息子も誘えばよかったです。この日の特別な空気を多くのかたと共有したかったのに、1席飛ばし収容率50%以下での開催だったのがもったいない。今度はKitara小ホールを満席にして、第2回公演の開催をお待ちしています!

聴き手に絶大なインパクトを与えたトリオイリゼでしたが、演奏はどこまでも丁寧で曲へのリスペクトが感じられました。書に例えるなら、原型が分からないほど崩した草書ではなく、思い切った筆づかいでありながらも輪郭がはっきりした楷書(あくまで個人的な印象です)。もとより技術があり全体の調和を大事にできるかたたちですから、誰かが浮くことはなくしっかりとアンサンブルが成立していました。実際フォルテッシモや華やかなメロディが主張するシーンに限らず、穏やかなところや伴奏にまわるところも皆様大変な集中力でベストを尽くしておられた印象です。また特に弦は、プロ奏者でも高音や低音に振り切った際に妙な音を発する場合がありますが、この日はそれすら皆無。個人的に好きなヴァイオリンの低音もチェロの高音も上質な音色を聴かせてくださいました。楽章の合間にも細かく調弦されていましたし、美しい響きになるように相当気を遣われていたのかも。そんな音のすべてに魂が込められた演奏のおかげで、私達はその曲を書いた頃の作曲家の思いをうかがい知ることもできました。モーツァルトは心地よいBGMで片付けられないロマン派の先駆けのような感情が垣間見え、あらゆることに恵まれていたメンデルスゾーンだって人知れず苦悩を抱え悲痛な叫びをあげる。そしてブラームスです!ピアノトリオ第2番はブラームス40代後半の作品。21歳で作曲したピアノトリオ第1番(初版)の天真爛漫さと比べたらもちろん渋くなってはいるのですが、第2番は朗らかで情熱的!少なくともこの頃のブラームスには、時々言われる諦念や厭世感といった表現はあてはまらない!と、今回の演奏を拝聴して私はそう確信しました。さらにアンコールのブラームス歌曲ではその純粋さに胸打たれ、こんなブラームスに出会えてよかったと心から思いました。本当にありがとうございます。


出演者の皆様が舞台に登場。水口さんは白のドレス、赤間さんは上半身にラメが入った黒のドレス、小野木さんは黒シャツの装い。また演奏以外の時は皆様マスク着用されていました。そして弦のお2人は紙の楽譜、ピアノの水口さんはタブレット端末の楽譜で譜めくり係はいませんでした。すぐに演奏開始です。最初の曲はモーツァルトのピアノトリオ第6番。第1楽章、弦が低い音を重ねるインパクト大な冒頭に早速引き込まれました。モーツァルトらしい軽やかなピアノに、春の日差しのようで時折鳥がさえずるようにも聞こえた弦が心地よく、途中少し日の光が陰ったような深みのある弦の音も良かったです。第2楽章は、ぽつぽつ語るようなピアノに重なる繊細な弦が素敵。この楽章では、チェロが下支えだけでなくメロディを担当する部分が増えたのも印象に残っています。中盤のちょっと切ない音楽を聴いていると、モーツァルトなのにロマン派っぽいなと思ったり。第3楽章は、軽やかなステップの素朴なダンスを思わせる音楽がじんわりと心に沁みます。ここでも中盤少し明るさに陰りが見えたのが印象的で、ラストは静かに締めくくったのも新鮮。とっても素敵でした!この後に控える大曲の前に、シンプルでもピアノトリオの三者三様の良さが感じられる曲を聴けて、私達の気持ちも温まりました。


2曲目はメンデルスゾーンのピアノトリオ第1番。第1楽章、あの冒頭チェロと続くヴァイオリンを素敵♪とゆっくり構えていた私が甘かったです。ほどなく三者が全力でぶつかり合うものすごい熱量の演奏に。緩急はありましたが力強い部分は容赦なく、全員が一歩も譲らずフォルテッシモで音を重ねるところや、弦が速いテンポで小刻みに音を刻むところ等、どこをとっても演奏の内から湧き上がるパワーがすごすぎて、私は息つく暇がないほどその勢いにのまれました。お坊ちゃんイメージのメンデルスゾーンにこんなに心かき乱されるなんて!と、楽章が終わってもしばらく呆然としてしまったほど。第2楽章は一転して「無言歌」のような音楽に。はじめの方の穏やかなピアノにうっとり。続いて歌うような弦が重なるとさらに美しさが増し、やさしい響きの良さを味わいました。個人的には、前の楽章で打ちのめされた後に少しほっとできたのもよかったです。第3楽章は、軽やかなステップを思わせる楽しい音楽が心地よく、中でもヴァイオリンのメロディを引き継いだチェロがヴァイオリンのような高音域で歌ったところや、ラストのかわいらしい弦のピッチカートとピアノの重なりが印象に残っています。第4楽章は、舞曲のようなリズムとスピード感にゾクゾク。勢いを止めること無く各楽器がメロディを受け渡していって、サブに回っても小刻みに音を刻む等で忙しく、少しでもズレたら大惨事になりそう。しかし当然ながら今回のトリオイリゼの皆様は見事に演奏されて、心配ご無用でした。速いテンポのところはもちろん素晴らしかったですが、それだけでなく、例えば中盤の少しゆったりとチェロが歌い後からヴァイオリンが重なったところの美しさが印象的でした。ラストは全員全力でのパワフルな演奏で締めくくり。大熱演、素晴らしい演奏でした!


後半はブラームスのピアノトリオ第2番。第1楽章、弦のユニゾンによる堂々とした冒頭が良すぎて、私は全幅の信頼を寄せて演奏について行こうと決めました。今回の演奏会は3曲とも掴みがすごく良かったです。ブラームスらしい重厚さがありながら、低音から高音へ上昇する高揚感が素敵!時折ぐっと情熱を抑える感じになるのもまた「らしく」て、その抑えたところの演奏も良かったです。クライマックスは冒頭のユニゾンをピアノも加わって全員で明るく演奏し楽章締めくくりへ。清々しい!第2楽章は、ゆったりしたピアノに添って弦がユニゾンで哀しげなメロディを演奏。弦は時折交互に演奏しながらも、基本ずっとシンクロ。緻密なのにそうとは感じさせない演奏が素晴らしいです。中盤の、一瞬ピアノが沈黙して弦2つが重音を重ねるところの厳粛さにはリアルに鳥肌!後の方にはヴァイオリンもチェロもピアノ伴奏に合わせたソロパートがあり、またピアノ独奏もあって、それぞれの見せ場も楽しめました。第3楽章、はじめのピアノと小刻みな弦による不安げな雰囲気にまたもや引き込まれました。中盤のブラームスらしいキラキラしたピアノとチェロの低音に支えられた、神秘的なヴァイオリンにぞわぞわ。この研ぎ澄まされたヴァイオリンの音色が超素敵でした!そしてヴァイオリンがチェロと一緒に比較的低い音域で美しいメロディを奏でたところや、ラストの低音でのピアノと弦のピッチカートが印象に残っています。ブラームス21歳当時の作品である第1番が、超高音で喜びを歌ったり可憐なピッチカートで楽章締めくくったりしたのとは大違い。もう渋くなっちゃって(笑)。第4楽章では、はじめ低音域で歌っていた弦が、ぱっと高音域になって高らかに喜びを歌い出すのがインパクト大で、聴いている私達の気持ちも上向きに。ピアノも速いテンポで多くの音を奏でて、あふれる思いを語っているかのよう。重厚さはあってもここまでまっすぐ朗らかに歌うブラームスはとても珍しく、私は演奏に全集中してその良さを噛みしめました。ラストは全員参加の幾重にも重ねた音をのばして明るく締めくくり。こんなに情熱的なブラームスが聴けて本当にうれしかったです。ありがとうございます!


カーテンコールの後、ピアノの水口さんがマイクを持ってごあいさつ。このコロナ禍の中、演奏会に来場したお客さん達と、開催に尽力くださった皆様への感謝の気持ちをお話されました。そして、会場のお客さん達は皆マスク姿ということで、マスクなしで顔を合わせられる日が一日も早く来ますようにとのお話も。こちらこそ、大変な状況の中で演奏会の準備を進め、なによりこの日に全身全霊での演奏を披露くださったことに感謝です。


アンコールは、ブラームスの歌曲「メロディのように」のピアノトリオ版!年齢を重ねるほどに偏屈になっていったブラームスですが、大家になってもこんなに素直で美しい曲を生み出しているんですよね。よく知る曲の演奏が聴ける!と私は心の中で大喜び。演奏は、ピアノの伴奏にあわせて、メロディをまずはチェロが歌い、途中からヴァイオリンがメロディを引き継いでチェロがハモるスタイルでした。つい先ほどまでパワフルで情熱的な演奏をしていた皆様が、やさしく美しい音色で歌うような演奏を聴かせてくださり、私は胸がいっぱいに。円熟期のブラームス、なんてピュアなの!私は自然と涙が出てきました。ラストはチェロ独奏が徐々にフェードアウトして控えめなピッチカートで締めくくり。演奏もアレンジも素敵でした!最初から最後まで本気の素晴らしい演奏をありがとうございました!


今回の5日前(2022/01/16)に聴いたウィステリアホールのコンサートでは、シューマンブラームスのいずれも第1番のピアノトリオが取り上げられました。ブラームス第1番は、シューマン夫妻と出会ったばかりの天真爛漫さと晩年のほの暗さ重厚さが同居。そんな多面性がある曲を、表情豊かな演奏で楽しませてくださいました。

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トリオ・イリゼのチェロ・小野木遼さんは、ウィステリアホール「チェロアンサンブル&ピアノ」(2021/08/29)にもご出演。今回のアンコールで取り上げられたブラームスの歌曲「メロディのように」は、ピアノ伴奏で小野木さんのチェロが歌う形の演奏を聴かせてくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。