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仙台フィルハーモニー管弦楽団 第355回定期演奏会(金曜夜公演)(2022/05) レポート

www.sendaiphil.jp


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↑プログラムノートが仙台フィルの公式サイトで公開されています。


私にとっては初めての仙台フィルです。指揮・飯守泰次郎さんのフィナーレ第1弾となる、オールブラームスのプログラム。2回公演のうち、私は金曜夜公演を聴きました。なお翌日の土曜昼公演は全席完売だったそうです。


仙台フィルハーモニー管弦楽団 第355回定期演奏会(金曜夜公演)
2022年5月6日(金)19:00~ 日立システムズホール仙台・コンサートホール

【指揮】
飯守 泰次郎

【ピアノ】
菊池 洋子

管弦楽
仙台フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター:西本幸弘)

【曲目】
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
ソリストアンコール)ブラームス(A.コルトー編曲):子守歌 作品49-4

ブラームス交響曲第4番 ホ短調 作品98


札幌から仙台へはるばるやって来て、この演奏を聴けて本当によかったです!ブラームスを愛してやまない私ですが、ここしばらく彼の管弦楽作品の生演奏を聴く機会がありませんでした。その渇望感を十二分に満たしてくださる、熱量高い本気の演奏をありがとうございます!演奏と会場の空気から、飯守マエストロと仙台フィル奏者の皆様そしてファンの皆様との信頼関係がうがかえました。ブラームスが原点回帰した円熟期の作品である交響曲第4番では、骨太で重厚感ある演奏の中でも、各旋律が素敵に響く歌心が素敵。また音楽がプツプツ途切れることなく流れるように歌っていると私は感じました。そして個人的にとてもうれしかったのが、ブラームス20代の作品であるピアノ協奏曲第1番の良さに気づけたことです。他の3つの協奏曲と4つの交響曲はいずれも作曲家40代以降の作品。それらの安定感と比べて、ピアコン1番の不安定さをどう捉えればよいか、今までの私は正直掴みかねていたのです。しかし今回のソリスト菊池洋子さんのピアノは、まさにその不安定さを魅力に昇華させた、大変素晴らしいものでした。溢れる情熱を抑えきれず余裕が無く前のめりな印象(もちろん演出としてそうなさったと拝察します)のピアノの響きは、内省的でありながら情熱的でひたむきな若き日のブラームスそのもの。これは後年の作品には見られない魅力!そんなピアノに私は心酔し、作曲当時の彼を思い胃がキリキリしたり涙したり。私が作品の世界観に没頭できたのは、菊池さんのピアノに加えて、ピアノと密に絡み合ったオケのお力も大きいです。今回の演奏を拝聴して、私はようやくブラームスのピアコン1番を愛せるようになりました。ありがとうございます!今後叶うことなら、菊池さんには他のブラームス作品、特に20代前半のピアノ・ソナタ3曲をぜひ演奏して頂きたいです。若き情熱迸る感じの、きっと素晴らしい演奏になると思います。

開演前にコンサートマスターの西本幸弘さんによるプレトークがありました。以下、私が聞き取れた範囲でレポートしますが、もし大きな間違い等がありましたらどなたでもご指摘くださいませ。なお公式YouTubeチャンネルで西本さんがお話しした内容とも共通するところがあるそうです。今回は、ブラームスの若い頃の作品・ピアノ協奏曲第1番と、円熟期の作品・交響曲第4番の「コントラスト」を楽しんで頂きたいとのこと。協奏曲は、ソリストの菊池さん自ら希望された演目で、第1楽章では室内楽のような響き、第2楽章では祈り、第3楽章では情熱・若さ・ジプシー風な旋律を意識。またブラ4は起承転結の「結」にあたる、本来のブラームスの姿に帰ってきた作品で、西本さんは特に冒頭部分に思い入れがあるそうです。そして飯守マエストロはスコアには“sing”とたくさん書かれてあり、歌うように演奏することを意識したい。「アコーギグ」な、糸を織りなして布となる、演奏の度に違ってくる音楽を毎回楽しみにしている。といったお話でした。また、仙台フィル公式LINEアカウントについての宣伝もありました。


前半はブラームス「ピアノ協奏曲第1番」。第1楽章、重厚なオケから既にブラームス!高音弦のメロディを重低音で追いかける低弦にしびれる!ティンパニの鼓動が、周りの期待が重すぎた頃の若き日のブラームスが自分を鼓舞しているようで、ゾクゾクしました。感情のうねりを体現したオケの長い序奏を経て、ついに独奏ピアノが登場。はじめはどこか不安げだったのに、ためらいを振り切って高音へ駆け上る気迫!独白のようなピアノ独奏では、低音が効いて一歩一歩踏みしめながら前へ進む感じが胸アツ!そこに優しく包み込むように寄り添う木管群と続く弦、奥行きを感じさせるホルンの響きも良かったです。そこからの縦横無尽に鍵盤を全力で鳴らすところが、抑えきれない感情が噴出したようで鳥肌モノでした。こんなにキツイ感情を抱えているのに、ブラームスらしいキラキラしたピアノもあり、その演奏も印象的でした。オケの序奏を再現したピアノが素晴らしい!穏やかに歌うところを経て、楽章締めくくりのクライマックスでは、オケの演奏と絡み合いながら、高音による心の叫びのようなドラマチックな響きのピアノが圧巻!私はただただ圧倒され、若き日のブラームスの心情を思い胃がキリキリするほどでした。続いて「祈り」の第2楽章。ゆったりと穏やかなオケと、静かに語らうようなピアノが素敵。比較的音が少ないピアノは、現実を噛みしめながらも、ゆらぐ感情をとても繊細に表しているようでした。感極まったように低音から高音へ上るオケと続くピアノが美しいこと!私は自然と涙が溢れてきました。木管がゆったりと歌ったのに寄り添う、低音が効いた力強いピアノも素敵でした。天に昇ったようなオケによる締めくくりも印象に残っています。そして情熱的な第3楽章へ。まずはじめのピアノ独奏にガツンとやられました。うまく言えないのですが、高音と低音の進む方向がちぐはぐ(不適切なら申し訳ありません)なのが、内なる思いに行動が追いつかない前のめりな感じで、まさに若き日のブラームスと私は感じたのです。疾走するピアノを追いかけたオケの重厚な演奏も良かったです。ああこの速いテンポのピアノは、第1楽章で一歩一歩踏みしめながら前へ進んでいたあの旋律では?今度は気がせくように駆け抜け、また切ない中でも明るさが見えたのに私は胸打たれました。上へ上へと目指してきたにもかかわらず、ホルンの咆哮がキマって、高音から低音へ駆け下りるピアノ!ここまで説得力ある演奏を重ねてきたからこそのインパクト!素晴らしかったです!ピアノとオケが自然にシンクロしながら、深刻なところと明るいところを行き来し、フィナーレへ。第3楽章のはじめに登場したピアノの旋律が、今度は右手のメロディと左手の支えは同じ方向性になり、確実に前進する形に。ホルンの後、今度は低音から高音へ着実に上がっていくピアノ!もう迷いはないですね。穏やかに祝福してくれるような木管群に、清々しい弦の音色。ピアノもオケも希望に満ちていて、私は胸いっぱいになりました。ピアノの強奏を引き継ぎ、ラストはオケによる堂々たる締めくくり!ものすごい演奏を聴きました……。あまりの衝撃に、演奏後に私はしばし呆然となったほど。私の拙い文で綴ってもその感激をうまく表現できないのがもどかしい。ブラームスのピアノ協奏曲第1番、唯一無二の名曲を最高の名演奏で聴けて幸せです!聴けて本当によかった。ありがとうございます!

カーテンコールの後、ソリスト菊池さん自ら曲名をアナウンスして(なお休憩に入る前にも放送で曲名のお知らせがありました)、ソリストアンコールブラームス(A.コルトー編曲)「子守歌」。有名な歌曲のピアノ独奏版です。こちらも最高に素晴らしい演奏でした!先ほどの協奏曲の情熱迸る感じとはガラリと変わり、か弱い存在を慈しむようなやさしい響きのピアノ。なんて素敵なの……と私は思わず涙。メロディを、歌でいうところの1番は左手(低音)で、2番と3番は右手(高音)でゆったり歌うスタイルでした。美しく優しい調べ……どんなに作曲家本人が卑下しても、ブラームスは紛れもなくメロディメーカーだと私は言いたい。そしてその珠玉のメロディに重なる伴奏の安定感も素晴らしかったです。低音を長くのばして余韻を残す締めくくりも見事でした。一見厳めしい印象でも、ブラームスの本質は愛と優しさだと私は思います。菊池さんのピアノを通して、私は本来の姿のブラームスに会えた気がしました。大熱演の協奏曲からソリストアンコールに至るまで、ブラームスの本質に迫る素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半はブラームス交響曲第4番」。第1楽章。静かに始まる冒頭部分、素晴らしかったです!すっと懐に入ってきました。ピアコン1番のパワーみなぎるスタートもイイけど、ブラ4の円熟した落ち着きある出だしもイイ!高音弦が最初の楽想を繰り返している裏で木管が歌ったり、今度は木管が主役になったりと、途切れなく流れるような演奏に聴き入りました。私のイチオシの、チェロが主役になるところが素敵!また「コントラスト」は1つの曲の中にもあって、高音弦の悲劇的なメロディを、重低音で支えたり追いかけたりする重厚な低弦、この対比もとても良かったです。私は大好きなブラームスの低弦にしびれながら、高音弦の美しさにもハッとさせられました。ささやくようなところとパワフルなところのメリハリも、好対照だったと思います。ティンパニが印象的なラストは、冒頭の静けさとは対照的な全員参加の全力での重厚な締めくくり。続く第2楽章は、飯守マエストロによると「夜の葬送行進曲」。はじめの哀しげなホルンと続く木管群の荘厳な響き、その後の木管の穏やかな歌がしみじみ良かったです。どちらかというと葬送というよりは子守歌のような優しさや温かさを私は感じました(素人の思いつきです)が、心に染み入る素敵な演奏でした。ピッチカートでそっと寄り添っていた弦が、主役になってから奏でた旋律の美しいこと!また穏やかなところと深刻なところが、スイッチで切り替わるのではなくグラデーションで変化していったように私には感じられました。天に昇ったようなラストは、若い頃のピアコン1番に似ているかも?と思ったり。そしてこの曲の中で唯一明るい第3楽章へ。個人的には、場違いとも思える明るい楽章を作曲家があえて入れた理由はわからないけど、大好きな楽章です。はじめからテンションMAXの、パワフルで勢いある演奏に気分があがります。インパクト大のトライアングル!高音の華やかさに続く低音のコントラスト!ティンパニと弦のパンチが効いた低音にはゾクゾクしました。パワフルな中でも、時折登場するかわいらしい木管の歌が印象的。全員参加で思いっきり盛り上がった後、第4楽章へ。厳かな始まりに気持ちが引き締まります。ティンパニ木管金管、特にこの楽章に来て初めて登場したトロンボーンが最初からバッチリキメてくれました。弦の悲劇的で流れるような演奏がすごく良かったです。ホルンに支えられたフルートが透明感ある音色で悲愴感を歌い、その後の木管金管による温かみのある演奏もとっても素敵でした。熱量が頂点に達したクライマックスでのトロンボーンの重低音がカッコイイ!全員参加の全力での悲劇的な締めくくり。オケの本気が伝わってくる、熱量高い演奏でした!ブラームスの最初の協奏曲と最後の交響曲、この2つの重要な作品を、素晴らしい演奏で聴かせてくださりありがとうございます。20代の情熱的で前のめりな感じのピアコン1番も、円熟期に原点回帰した重厚感あるブラ4も、私はどちらも大好きです!


終演後、分散退場がユニークでした。会場スタッフではなく、コンマス西本さんがマイクを持ちアナウンスするスタイル(!)に驚きです。まずは仙台フィル公式LINEアカウントの宣伝(ぬかりないですね・笑)から入り、座席ブロック毎に退場の案内をされました。さらに驚いたのは、その間ずっと団員さん達が客席に大きく手を振り続けていたこと(!!)。大熱演でお疲れのところ、恐縮です……。演奏だけでなくこのような親しみやすい振る舞いも、地元で愛されている所以ですね。お客さん達も終始にこやかだったのが印象に残っています。そして地元民ではない私も調子に乗って、舞台に大きく手を振りながら会場を後にしました。ありがとうございました。楽しかったです!楽都仙台、また来ますね!

今回、私にとっては初の宿泊込みの遠征でした。昨年、仙台フィルのチェロ ソロ首席・三宅さんと首席・吉岡さんが出演された札幌でのチェロアンサンブルを聴いて以来、いつか仙台フィルさんを聴きたい!と願っていました。その望みが今回、大好きなブラームスで叶い、うれしかったです。ドキドキの初対面となった仙台フィルさんは、クオリティの高い演奏と親しみやすさがある素敵なオケでした。この出会いに大感謝!ちなみに今回は有効期限ギリギリの航空会社マイレージを使用。気持ちよく送り出してくれた家族にも感謝です。


私のホーム・札幌で聴いた演奏会レビュー記事をいくつか紹介します。

札響ではピアニストをソリストにお迎えしての公演が続いています。この日の4日前に聴いた「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック」(2022/05/03)では、ピアノ・角野隼斗さんによるガーシュウィンラプソディ・イン・ブルー」をはじめ、アメリカ音楽の魅力をたっぷり味わえました。指揮は札幌ご出身の若手指揮者・太田弦さん。太田さんは2023シーズンより仙台フィルの指揮者就任が決まっていますね。勢いのあるかたで、これからのご活躍に期待大です!

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チェロの三宅さんと吉岡さんが札幌で出演された演奏会はこちら。「ウィステリアホールプレミアムクラシック 11 チェロアンサンブル&ピアノ」(2021/08/29)。仙台フィル&札響のチェリスト4名の協演!豪華メンバーによる演奏で大好きなチェロをたっぷり聴けて、とっても幸せな時間を過ごせました。MC三宅さんによるトークも楽しかったです♪

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最高のブラームスに出会えた演奏会といえばこちら。「Kitaraアクロス福岡連携事業>安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」(2022/03/17)。オーケストラのような重厚なアンサンブルによる全身全霊での熱量高い演奏は、想像を遙かに超えるものでした。心を強く揺さぶられたこの日の演奏会を、私はずっと忘れないと思います。

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終わりにこちらも紹介させてください。「舘野泉ブラームス(ピアノ・ソナタ第3番、ピアノ協奏曲第1番 他) CDについて」。ブラームスのピアノ協奏曲第1番について、私は舘野泉さんの演奏録音2つを聴き比べして以来、その真の魅力とは何かを考え続けてきました。そして今回、菊池洋子さん×飯守マエストロ×仙台フィルによる素晴らしい演奏に出会えて、私はようやくこの曲を心から好きになりました。感謝しかありません!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック(2022/05) レポート

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実に3年ぶりの開催となった、ゴールデンウィーク恒例のKitaraあ・ら・かると。今回の「きがるにオーケストラ」は、札幌ご出身の若手指揮者・太田弦さんと札響によるアメリカ音楽です。またソリストには第18回ショパン国際ピアノコンクール(2021年開催)のセミ・ファイナリストである角野隼斗さんをお迎えするということで、企画発表当時から話題になっていました。なおチケットは全席完売。また高校生以下500円(!)というサービス価格設定のためか、会場には親子連れが大勢いらっしゃいました。ちなみに私も今回は高2の息子と一緒でした。

Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック
2022年5月3日(火)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮・お話】
太田 弦

【ピアノ】
角野 隼斗

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
スーザ:星条旗よ永遠なれ
アンダーソン:シンコペイテッド・クロック
アンダーソン:フィドル・ファドル
ガーシュウィンラプソディ・イン・ブルー
ソリストアンコール)ガーシュウィン:スワニー

バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」より シンフォニック・ダンス
バーバー:弦楽のためのアダージョ 作品11
J.ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」より メイン・タイトル
(アンコール)J.ウィリアムズ:映画「スター・ウォーズ組曲より インペリアル・マーチ


音楽って楽しい♪改めてそう思えた、とっても楽しい演奏会でした!私はいつもの札響定期はかなり背伸びして聴いていますが(こちらのピリッとした空気も良いモノです)、今回のようにリラックスして文字通り「きがるに」聴くコンサートも楽しい♪会場は終始和やかな雰囲気だったので、普段クラシック音楽になじみがない人達も思いっきり楽しんでいらしたのでは?親しみやすい演目が揃っていたのに加え、今をときめくピアニスト・角野隼斗さんに、勢いがある若手指揮者・太田弦さんが、トークや演出でも盛り上げてくださいました。しかし何より演奏自体が素晴らしいからこその盛り上がりだったと私は思います。私は角野隼斗さんの生演奏に触れるのは初めてでしたが、鍵盤ハーモニカ(!)を使う離れ業以外にも、素人目には即興的でとっても自由に楽しく演奏されているように感じました。これは聴いていて楽しい!もちろん土台がしっかりしているからこそ「外せる」のだと思われますが、そんな水面下の努力や苦労を微塵も感じさせない、生き生きとした演奏には誰もが惹きつけられるはず。また指揮の太田弦さんは、思いっきり勢いのあるところも、しっとりと美しいところも、メリハリがはっきりした演奏で、オケから多彩な表情を引き出してくださいました。札響とは何度もご一緒くださっている太田さん、オケとの信頼関係がしっかり出来上がっていますね!そして若きマエストロの思いを形にする札響だってすごいです。言うまでも無く「きがるに」というのは聴く側の視点で、演奏自体は真剣そのもの。アメリカ音楽と一言で言っても、個性が異なる演目をいくつも取り上げるのはそれぞれ別のアプローチで向き合うことになり、準備は大変だったと存じます。個人的には、札響は独墺系の重厚な管弦楽のイメージが強く、それとはカラーがまるで違う曲の演奏をクールにキメてくれたのにはドキドキしちゃいました。華やかなソロパートをカッコ良く演奏してくださったかたはもちろん、澄んだ音色で土台となる弦に美しく彩る木管、パワフルな生命力の金管、キレッキレのリズムを刻む打楽器。オケのお一人お一人が最高のパフォーマンスをなさっていた印象です。札響の皆様、普段とは客層が異なる今回も、本気モードかつ素敵な演奏をありがとうございます!我が町のオケ最高です!


札響の皆様、続いて指揮の太田さんが拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目はスーザ「星条旗よ永遠なれ」金管打楽器がド派手に来る冒頭から一気に気分があがります。この勢い、すごくイイ!高音が華やかなトランペットに、低音でぐっと来るトロンボーンとチューバが、お互いに高め合ってカッコイイ!ホルンや弦がメロディを担当した時の華やかな木管(特にピッコロ)も印象に残っています。マーチのリズムが生き生きとしていて、全力で来るところと少し穏やかになるところのメリハリがはっきりした、気持ちが良い演奏でした!また演奏後には、指揮の太田さんがマイクを持ってごあいさつ。この後も、演奏の合間は太田さんがトークで盛り上げてくださいました。

次はアンダーソンの曲を2つ続けての演奏。アンダーソンは言語学者だったそうで、音の一つ一つに意味があるといった趣旨のお話がありました。「シンコペイテッド・クロック」は、イオンの店内で流れているあの曲!打楽器のカッコンカッコンという音の刻みに乗って、優雅なメロディの弦が心地よいです。ジャズテイストの木管も素敵。全員参加の華やかな盛り上がりの中で、かわいらしいチリチリーンという目覚ましアラームの音。それにはトライアングルではなく小ぶりな鈴が使われていました。少しテンポが速くなるフィドル・ファドル」は、忙しそうでも楽しそうな弦がとっても素敵!中盤のピッチカートのかわいらしさと、少しだけ低弦がメロディを弾いたのがツボ。ラストは金管打楽器が華やか盛り上げてくれました。

ソリストの角野隼斗さんをお迎えして、今回の目玉!ガーシュウィンラプソディ・イン・ブルーガーシュウィンは流行作曲家で、ラプソディ・イン・ブルーオーケストレーションは別の人が行ったこと。しかし翌年に書いたピアノ協奏曲はクラシック音楽を勉強した上でガーシュウィン一人ですべて書き上げた、というエピソード紹介がありました。なお指揮の太田さんとピアノの角野さんはこの日が初共演(以前他のオケで企画があったものの取りやめとなったそう)。また、角野さんと札響は約1ヶ月ぶりの共演です。ひときわ大きな拍手で迎えられた角野さんは、手に鍵盤ハーモニカを持って登場。ええっ二刀流!?期待せずにはいられません!演奏はオケから入り、冒頭のクラリネットがもうとにかく素敵すぎ!私は先日、クラリネット首席の三瓶さんの室内楽を聴いたばかり。その時のフランスのエスプリとはガラリと印象が違う、アメリカ音楽のジャズテイストのクラリネットが聴けてとてもうれしかったです。併走するオケのナイスアシストぶりと、クラリネットからメロディを引き継いだトランペットも素敵でした。満を持して独奏ピアノが登場。はじめの方のピアノは、大人の落ち着きが感じられるムーディーな印象でした。しかし、低音から高音へ駆け上るところで徐々にテンションをあげていき、そのままオケの大盛り上がりに自然と繋げたのが素晴らしいです。オケのターンでも、自由な感じで楽しそうにオケの伴奏に入るピアノが印象的でした。そしてカデンツァへ。出ました鍵盤ハーモニカ!ピアノの右手パートを鍵盤ハーモニカで、左手パートをピアノで演奏するスタイル。音の響きは左手が勝ることなく、鍵盤ハーモニカによるメロディもキレイに聴けました。なお後半は両手ともピアノになりました。カデンツァの後の、景色が広がるような澄んだ弦とホルンの響きが良かったです。コンマスソロも素敵でした。そのオケのメロディを引き継いだピアノの、高速かつ情熱的な演奏がすごくて、お客さん達は皆惹きつけられていた様子。フィナーレの、オケと一緒に盛り上がるパワフルなピアノが存在感抜群でした。ピアノもオケもノリノリで、とても幸せな共演!聴いていてとても楽しかったです!

カーテンコールの後、角野さんがマイクを持ってお話されました。「ラプソディ・イン・ブルー」は何度も弾いている曲で、「いかに過去の自分を裏切っていくか」と考えているのだそう。角野さんの演奏にかけるその姿勢と演奏そのものに、聴き手の私達も良い意味で裏切られましたよ!ソリストアンコールガーシュウィン「スワニー」。ジャズのようで都会的なダンスミュージックを、情熱的かつ自由な感じで弾くピアノが素敵でした。角野さん、オケと共演した大熱演の後に、ソリストアンコールの素敵な独奏まで、ありがとうございました!


後半の1曲目はバーンスタインウェスト・サイド・ストーリー」より シンフォニック・ダンス。オケの演奏が始まると、合間に奏者の皆様が指パッチンで合いの手。この後も何度か出てきましたが、この指パッチンが超うまい!一流演奏家は指パッチンもこのクオリティの高さでできちゃうんですね。華やかな金管群に、ドラムセットが超カッコイイ!低弦のテンポが速いピッチカートがまたジャズっぽくて素敵!ピーッとホイッスルの音!?大盛り上がりの後に静寂が訪れて、なんとヴィオラが主役の弦楽四重奏に。その影のある音色でのメロディに、チェロが低音で寄り添い、1stと2ndのヴァイオリンが続く。なんて素敵なの……と私はしみじみ聴き入りました。メロディを引き継いだホルン&寄り添うオーボエも素敵で、感極まった感じの高音弦の盛り上がりがすごく良かったです!そしてテンポ良いボンゴを皮切りに、ド派手なマンボへ。かけ声やパフォーマンスはナシでしたが、金管打楽器が大活躍する演奏はキレッキレでした。木管のターンで少しほっとして、続くコンマスと1stヴァイオリンの一部の計4名によるアンサンブル!超素敵!全員参加の盛り上がりを経て、フィナーレへ。静寂の中での美しいフルート独奏に続き、透明感ある弦。ラストは静かに締めくくり。変化が多い曲を、テンポ良くメリハリはっきりした演奏で聴かせてくださいました。楽しかったです!演奏後のトークで、「マンボ!のかけ声がなくて、楽しみにしていたかた申し訳ありません」と太田さん。まさに楽しみにしていた一人である私は思わずドキっとしました。そ、そんな恐縮です。確かに期待してましたけど、今はコロナもありますし、何より演奏そのものが良かったんですから、いいんですよ……。ただ、太田さん(先生の先生がバーンスタイン)のお話によると、バーンスタイン自身の指揮による演奏でも、かけ声なしバージョンはあって、厳密ではないとのことでした。

指揮の太田さんはスターウォーズ好きを公言しているためか、アメリカ音楽を依頼されることが多いそうです。「どうしてもテンション高いモリモリMAXな曲が多くなる」とのことで、少し毛色が違うものをと考え選曲したのが、この曲。弦のみで演奏されるバーバー「弦楽のためのアダージョ。厳かな出だしから胸に来る、圧倒的なクオリティの高さ!基本は高音弦、時には低弦がメロディを演奏し、そのどちらも味わい深い音色で切なさや哀しみを歌うのが素敵すぎました。また原曲(弦楽四重奏)にはいないコントラバスがぐっと重低音で支えてくれたのがすごく良かったです。一度ピタッと止まってからの再開の流れも見事。静かに消え入るラストもとっても素敵でした。ああ私、やっぱり札響の弦が大好きです!ちなみにうちの高2の息子、この日の演奏で最も印象に残ったのがこちらの「弦楽のためのアダージョ」だそうです。

プログラム最後の曲はJ.ウィリアムズ「スター・ウォーズ」より メイン・タイトル。今回の演目で最も古い作曲家はスーザ、そして新しいのは90歳の今も現役であるJ.ウィリアムズ。J.ウィリアムズの映画音楽も何百年か後には「クラシック」音楽になっているのを期待したい、といった趣旨のお話がありました。ド派手で壮大な冒頭からモリモリMAX!一気に気分があがりました。トランペットの高音にトロンボーンやチューバの低音、堂々たるホルンの響きにティンパニ金管打楽器が最高にカッコイイ!ハープやフルートが華やか!明るく透明感ある弦が素敵すぎ!中低弦が主役のところがあったのが個人的にはうれしかったです。短い曲の中でもパワフルだったり美しかったりと、変化が多い演奏にはずっと夢中になれました。まるでオペラの序曲のようで、スター・ウォーズの音楽も未来には必ず「クラシック」音楽となると私は確信しました。

拍手鳴り止まぬ中、何度目かのカーテンコールで、指揮の太田さんはなんとダースベイダーのコスプレで登場!黒いマントを羽織ってフルフェイスのメットを被り、ご丁寧に手には赤い棒ッコまで持っていました。会場はどよめき大盛り上がり!太田さんはごあいさつの後、メットを外し、棒ッコも置いて、アンコールの演奏へ。インパクト大の冒頭!ダースベイダーのテーマ、キター!……余談ですが、私は予想ドンピシャだったため思わずきゃあと小声が出てしまって、隣にいた息子に膝を叩かれ注意されました……。アンコールJ.ウィリアムズ「スター・ウォーズ」より インペリアル・マーチ。ドラムセットと弦がキレッキレの特徴的なリズムを刻むイントロから、超パワフルな金管によるテーマ!中盤のごく小さな音での演奏もkitara大ホールにキレイに響きました。私はネタ的な使われ方で認識していた曲でしたが、札響の本気モードの演奏にはゾクゾクし、その良さを堪能しました。例えばジャジャジャジャーンとかチャラリーン鼻から牛乳とか、超有名なクラシック音楽はネタになる法則があるようなので、スター・ウォーズは既にクラシック音楽なのかも!

カーテンコールでは指揮の太田さんは何度も戻って来て下さいました。最後にはピアノの角野さんも一緒に舞台へ。まだ舞台衣装のまま待機してくださっていたのですね。2000人超のKitara大ホールは割れんばかりの大拍手!今まさに旬のお若いお二人に良い意味でぐいぐい引っ張って頂いた、ココロおどるアメリカン・ミュージックはとっても楽しかったです!ゴールデンウィークの素敵な思い出になりました。ありがとうございました!


札響ではピアニストをソリストにお迎えしての公演が続いています。この日の10日前に聴いた「札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)」(2022/04/23)での、ソリスト小山実稚恵さんによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番も心に刻まれる素晴らしい演奏でした。また後半メインのR.シュトラウス英雄の生涯」は、多くのエキストラを含む超・大編成による、スケール桁違いの音楽で綴る物語の世界!奏者の皆様も楽しそうで、聴いている私達も夢中になれました。

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ラプソディ・イン・ブルー」の冒頭、ジャジークラリネットインパクト大だった札響首席クラリネット奏者・三瓶佳紀さん。この日の4日前に開催された「ウィステリアホール プレミアムクラシック 15th クラリネットファゴット&ピアノ」(2022/04/29)では、フランス系のエスプリが洒落ているふくよかな音色での演奏を聴かせてくださいました。

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「シンフォニック・ダンス」での、ヴィオラが主役の弦楽四重奏で存在感抜群の演奏を聴かせてくださった、札響副首席ヴィオラ奏者・青木晃一さん。私はこの日の1ヶ月前に「札幌室内管弦楽団 第20回演奏会」(2022/04/03)にて、青木さんソリストによるバルトークヴィオラ協奏曲」を聴いています。高音の華やかさから低音の深さまで、多彩な表情で私達を魅了してくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 15th クラリネット&ファゴット&ピアノ(2022/04) レポート

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2022年度最初のウィステリアホール主催公演です。クラリネットファゴットとピアノによる、フランス系中心のプログラム。ブラームスをシーズンテーマに掲げた昨年度(2021年度)の主催公演をすべて聴いた私は、本年度もウィステリアホールさんに全幅の信頼を寄せて、守備範囲外の演目も積極的に聴いていきたいと考えています。そして2022年度シーズン初回となる今回を楽しみにしていました。


ウィステリアホール プレミアムクラシック2022シーズン 15th クラリネットファゴット&ピアノ
2022年04月29日(金・祝)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
三瓶佳紀(クラリネット) ※札幌交響楽団首席クラリネット奏者
森純一(ファゴット) ※東京フィルハーモニー交響楽団ファゴット奏者
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
サン=サーンス クラリネットソナタ 変ホ長調 作品167
サン=サーンス ファゴットソナタ ト長調 作品168
プーランク クラリネットファゴットのためのソナタ FP 32

ジャンジャン プレリュードとスケルツォ
ボザ イタリア幻想曲
グリンカ 悲愴三重奏曲 ニ短調

(アンコール)ダンディ クラリネット三重奏曲 より 第3楽章


クラリネットファゴットによるフランス系の曲の演奏、超素敵でした!今回私は初聴きの曲ばかりでしたが、いずれも聴いていて心地よく、とても癒やされました。今回の演奏を聴いて、多くの作曲家が最晩年にクラリネットファゴット室内楽を書き残している理由が私にも少しわかった気がします。今の私が言うと叱られるかもしれませんが、人は特に人生の終盤において、人生のままならなさや自分のふがいなさを自覚させられてしまうのかもと想像します。そんな時に、クラリネットファゴットの落ち着いた深みのある音色はあくまでやさしい響きで、つらさを感じる人の心にそっと寄り添ってくれる良さがあるなと感じました。しかも今回の演目では、木管は奏法や音の高さを変える工夫で、時々「なーんてね」と洒落た外し方をしてくれるのがまた良かったです。これをエスプリというでしょうか?私、今後人生に疲れたときは、フランス系の木管室内楽を聴きたいと思います。

素人が思いつきで物を言うのをお許しください。クラリネット、なんてふくよかで素敵な音色なんでしょう!今回の演目のカラーもあるかと思われますが、穏やかとか楽しいとかそんなシンプルな形容詞一つではとても表現しきれない、様々な感情をむき出しにせずまるい音色で包んでくれているような良さが感じられました。これは本当に素敵!今後、個人的になじんできた独墺系の作品を聴き直した際に、今までとは違った印象で聴けるような気がします。そしてファゴットです!オケでは深刻な弦の合間にまるい音色で一息つかせてくれる和み系の存在と、今まで私はそんなイメージでしか認識していませんでした(ひどすぎ。ごめんなさい!)。しかし、弦がいない室内楽ファゴットはカッコ良くて頼もしい!持ち前の低音の良さはもちろんのこと、高音での速いテンポの演奏では金管のような華やかさも感じられました。今後は室内楽でもオケでも、私はクラリネットファゴットに大注目することになりそうです。木管の多彩な表情を素晴らしい演奏で聴かせてくださった三瓶さんと森さん、そしてピアノ伴奏で支えてくださった新堀さんのおかげです。ありがとうございます!


開演前に新堀さんからご挨拶。2022シーズン最初の公演ということで、年間公演予定のお話も少しありました。また、この日の新堀さんは白地に赤のグラデーション模様がデザインされたノースリーブドレス姿、木管のお二人はスーツにネクタイ姿でした。

前半1曲目はサン=サーンスクラリネットソナタ。作曲家最晩年の作品です。第1楽章、ピアノの短い序奏に続いて登場した穏やかなクラリネット。もうなんて素敵なの!と、最初から私は心掴まれました。うまく言えないのですが、穏やかで温かみがある上で哀しみも内包しているような、とてもふくよかな音色。中盤のコロコロ歌うようなクラリネットも、また寄り添うピアノがどっしり下支えしたり繊細な音で語りかけるようだったりするのも素敵でした。静かに消え入るような締めくくりも良かったです。第2楽章は、スキップするようなリズムが楽しい。メロディは明るいのに、クラリネットがほんの少しほの暗い表情を垣間見せたのが印象的でした。第3楽章はピアノの重低音とクラリネットの低い音でドラマチックな音楽に。クラリネットの深みのある音色をじっくり味わえました。またピアノの間奏を経て、後半ではクラリネットが高音で優しくささやくような感じになったのがまた素敵でした。第4楽章は、快活に速いテンポで自由に駆け抜けるクラリネットがすごい!ずっと歌っていて息継ぎできるタイミングが見当たらないのに、情熱的なメロディを区切りなく一息で演奏するのには驚かされました。多彩な表情を見せてくれた後、第1楽章のテーマが帰ってきて、最初に心掴まれたあの音色に再会。私は胸いっぱいになりました。そして第1楽章と同じようにラストは静かに締めくくり。個人的に耳慣れたブラームスとはまったくカラーが違う曲。しかし私は三瓶さんのクラリネットのおかげで、サン=サーンスクラリネットソナタに完全に魅了されてしまいました。ありがとうございます!最初の曲にドハマリした私は、この後に続く演目もとても楽しみになりました。

2曲目はサン=サーンスファゴットソナタ。作品番号はクラリネットソナタのすぐ次で、やはり作曲家最晩年の作品です。第1楽章、キラキラしたピアノに続いてファゴットが登場。なんなの超カッコイイ!と、私はまたもや冒頭で落ちました。まるく温かみのある音色なのに、影のある大人な印象。ゆったりと歌い、ふと低音から高音へ駆け上ったところは胸焦がす感じで、私もう参りました。第2楽章は、出だしの低音から早速ズキュンと胸を打ち抜かれました。舞曲の独特のリズムを、ミステリアスな音色で奏でるファゴットがとっても魅力的。第3楽章は、ゆったりしたテンポで歌うファゴットが大人の落ち着いた雰囲気で、時折高音から重低音になるのが印象的でした。一転して軽快なリズムになったフィナーレは、音を小刻みにしながら駆け抜けるファゴットがとても華やかで、ラストは明るく締めくくり。ファゴットって素敵です!クラリネットソナタと比べて数が少ないと思われるファゴットソナタですが、サン=サーンスが亡くなる年に最後のソナタとしてこの作品を残してくれたことに感謝です。もちろんそれを魅力的なファゴットによる演奏で聴かせてくださった森さんには、もっと感謝です!

3曲目に入る前に、木管のお二人のトークがありました。お二人は武蔵野音楽大学の同級生で、在学中は木管五重奏で一緒に演奏した仲だそうです。卒業後はなかなか共演する機会がなく、この日は約30年ぶりとなる共演とのこと。今回、同級生デュオで演奏するプーランククラリネットファゴットソナタについて、「同じ長さの音符を2つの楽器で違うように演奏することもできる、楽しい曲」と三瓶さん。また森さんは、プーランクが最晩年にクラリネットソナタを書いていることに触れて「ファゴットソナタを書き残してくれたら、きっと素晴らしい作品だったと思う」と仰っていました。

プーランククラリネットファゴットのためのソナタクラリネットファゴットというめずらしい編成で、作曲家20代前半に作曲されたものだそうです。基本クラリネットが高音域でメロディを担当し、ファゴットが下支えするスタイルでした。第1楽章、コロコロ高らかに歌うクラリネットに重低音で支えるファゴット!個人的にはこの低音がクセになりそう。交互に演奏して掛け合うところやピタッと音を止めるところもきっちり揃う、驚異のシンクロ率での演奏でした。ゆったりとした第2楽章は、クラリネットは低音での深みを感じる演奏もあり、ファゴットは支える役目でありながらも時折クラリネットと足並み揃えて同じように演奏するところがあったのが面白かったです。第3楽章は変化が多く、自由な感じのクラリネットに片時も離れず併走するファゴット。間合いやテンポが気持ちいいほど息ぴったり!素晴らしい演奏を聴かせて頂きました。ありがとうございます!


後半の1曲目はジャンジャン「プレリュードとスケルツォファゴット&ピアノによる演奏です。ゆったりした前半は、私は勝手にキラキラしたピアノ=海、大人びた雰囲気のファゴット=船乗り、のようなイメージで聴きました。ファゴットは基本サクソフォーンのような高音で歌い、時折ファゴットにしか出せない重低音になるのがインパクト大。ピアノの間奏を経て、後半は一転して速いテンポの楽しい感じに。ファゴットは音を小刻みにしたり何度も低音から高音へ駆け上ったり、重厚さのある音色で軽やかに歌ったのがとても素敵でした。

ボザ「イタリア幻想曲」は、クラリネット&ピアノによる演奏。ピアノの重厚な序奏から入り、クラリネットが登場。速いテンポで駆け抜けるクラリネットの超絶技巧に聴き入りました。そして中盤のシチリアーナ風の舞曲の美しさ切なさに私は胸打たれ、思わず涙。すっと懐に入ってくるようなやさしい響き、もう素敵すぎます!シチリアーナはどうやら私の弱点のようです。終盤、ピアノと掛け合いながら、まるい音色で跳ねるようなクラリネットも素敵でした。

プログラム最後の演目は、グリンカ「悲愴三重奏曲」クラリネットファゴット&ピアノというめずらしい編成の曲で、この日初めて出演者全員が揃っての演奏でした。プログラムノートによると、この曲はグリンカがイタリア留学中の青年時代に作曲したトリオで、自筆譜には「その苦しみ故に私は初めて愛を知った」と記されているそうです。第1楽章、インパクト大な強奏から入り、哀しげなメロディをクラリネットファゴットが交互に演奏。木管のあたたかみのある音色のおかげで、哀しげではあっても、一度にわーっと感情揺さぶられるのではなく、哀しみが層になってじわじわと重なる印象でした。第2楽章は、ピアノの軽快なリズムに乗って、クラリネットファゴットの掛け合いが楽しい。中盤の少しゆったりしたところも素敵でした。第3楽章、はじめのクラリネットのターンではピアノが刻む力強い一定のリズムにあわせ低音から高音まで自在に行き来しながら歌い、続いてファゴットのターンでは穏やかでありながら少し哀しみを感じる歌い方で、時折入る重低音がアクセントに。そして高音でキラキラと感情の高まりを奏でるピアノに対し、クラリネットファゴットが重なって穏やかに歌うのが印象に残っています。第4楽章は情熱的なピアノに、クラリネットファゴットの掛け合いが素朴な音色でありながら胸に来ました。しみじみ聴き入る、とっても素敵な演奏でした!こちらを聴いた限りでは、若き日のグリンカが異国の地で苦しみや哀しみを超えて知った「愛」は、きっと良いものだったのでは?と私は感じました。そして、仮にこの曲を木管ではなく弦で演奏したら、もしかすると哀しみや苦しみが強すぎて「愛」が違った印象できこえてしまうかも?と、私は後からそう思いました。ちなみにネット検索でざっと見たところ、グリンカ「悲愴三重奏曲」は木管を弦に置き換えたピアノトリオによる演奏もあるようです。しかしこの曲に関しては、私は弦での演奏は聴かずにおこうと思います。

アンコールダンディ「クラリネット三重奏曲」より 第3楽章。本来の編成(クラリネット&チェロ&ピアノ)の、チェロをファゴットに置き換えたスペシャルバージョンです。ピアノの序奏から入り、ピアノ伴奏でまずはクラリネットが、続いてファゴットがゆったりと歌い、ほどなくファゴットに寄り添うようにクラリネットも重なりました。素朴に語らうようなクラリネットファゴットが沁みます。一瞬感情が昂ぶるところもあたたかな音色が心地よく、日が沈むような静かな締めくくりも印象的でした。こんなに素敵な曲があったのですね!普段あまりに偏った作品ばかり聴いている私にとって、フランス系中心のプログラムはとても新鮮で楽しかったです。クラリネットファゴットの魅力をたっぷり堪能できました。最初からアンコールに至るまで、素晴らしい演奏をありがとうございました!


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。昨年度(2021年度)の公演から「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)のレビュー記事を紹介します。クラリネットは札響副首席の白子正樹さん。ブラームスの歌曲とクラリネットソナタ。めずらしい編成でのシュポアシューベルト。アンコールに至るまで、耳に身体に心地よい響きで、ずっと聴いていたい演奏でした。

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クラリネット室内楽として、こちらも紹介させてください。「2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトブラームス~」(2022/03/14)。表情豊かなクラリネットと、やさしい響きの弦。晩年にクラリネットを愛した2人の作曲家の名曲を、札響メンバー5名による愛あふれる演奏で聴けた、素晴らしい演奏会でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/04)レポート

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2022年度の初回となるKitaraでの札響定期は、当初予定から演目と指揮者はそのままに、協奏曲のソリストのみ出演者の交代がありました。前の週に開催された川瀬賢太郎さん指揮のhitaruシリーズ定期が大変素晴らしかったため、川瀬さんの師匠の広上淳一さん指揮による今回の公演を私はとても楽しみにしていました。

また2022年度は、「オンラインロビーコンサート」に代わり「オンラインプレトーク」が配信されるとのことです。初回はコンサートマスターお二方(会田莉凡さん、田島高宏さん)がご出演。以下のリンク先から動画視聴できます。

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札幌交響楽団 第644回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年4月23日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
広上 淳一(札響友情指揮者)

【ピアノ】
小山 実稚恵

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
武満 徹:群島S.
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
R.シュトラウス交響詩英雄の生涯


最高に楽しかったです!少人数かつユニークな配置の現代曲に、オーソドックスな編成の古典派の協奏曲、そして超・大編成によるロマン派の交響詩。カラーがまったく異なる3つの演目をクオリティ高い演奏で一度に聴けちゃうなんて、とても贅沢な体験でした。指揮の広上さんと、多くのエキストラのかたを含む奏者の皆様に全力拍手です!すべて良かった上で、今回はなんといってもメインプログラムの「英雄の生涯」がハイライトですよね。これだけの大所帯なのに、全力出すところやピタッと止めるところのメリハリがはっきりした演奏で、スケール桁違いの音楽で綴る物語の世界は超素晴らしかったです!今回Kitaraでの札響定期デビューとなった、新コンマスの会田莉凡さん。改めまして札響へようこそ!存在感抜群のソロパートの素晴らしさはもちろんのこと、既に奏者の皆様に信頼され慕われている様子が演奏からうかがえて、聴いている私達もとてもうれしくなりました。札響の新時代の幕開けですね。これから末永くよろしくお願いします!

なお、「英雄の生涯」の札響での演奏は実に13年ぶりだそう。オリジナルメンバーだけでは演奏不可能な超・大編成の曲は、一定水準以上の実力をお持ちの客演奏者を大勢招く必要があります。しかも地理的に不利な札幌に集まって頂くことは、平時においても難しいはずです。加えて今はコロナ禍ということもあり、様々な要素が絡んで、この日を迎えるまでには大変な困難があったのでは?この状況の中、今回の演奏を実現くださった関係するすべての皆様に敬意を表します。また奏者の皆様にとっても、旧知の演奏家仲間が久しぶりに再会し同じ曲を演奏するのはスペシャルな体験だったに違いありません。終演後に、奏者の皆様の喜びの声と各パートの集合写真がたくさんSNS上にアップされていたのが素敵でした。同じ志を持つ仲間同士が気持ちを一つにして取り組んだからこそ、ほんの数日間の準備でも驚きの一体感が生まれたのですね。この日の奏者お一人お一人が「英雄」です!

また前半のベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番も、心に刻まれる素晴らしい演奏でした。重厚なオケに、きらびやかさパワフルさに加えて内なる繊細な感情をも映し出す層の厚いピアノ!ソリスト小山実稚恵さんのベートーヴェン、私は2020年10月の名曲シリーズでの「皇帝」以来でしたが、今回も期待以上の素晴らしさでした。もう全面的に信頼しています!ちなみに極めて個人的なことですが、私は窮屈だった実家を思い起こさせるベートーヴェンには正直複雑な感情を抱いていました。にもかかわらず、今回のザ・ベートーヴェンな演奏は、ほぼ初聴きの曲なのに自分のDNAにストレートに響き、素直に素敵だと感じたのです。やはり私は父のオーディオから流れるベートーヴェン(曲はごく限られていましたが)のリズムと音が、心身に刻まれていると認めざるをえない。しかしそれも今の私を形成している一部であり、そのおかげで私は今こうして演奏会通いをしている訳で、どうやら悪いことばかりではなかったようです。過去から目を背け続けるのは過去にとどまることと同じ。清濁併せ呑み、今更どうしようもない自分の過去を受け入れることで、はじめて心は自由になれるような気がしてきました。こんなことを言っている時点で甘ちゃんなのは自覚していますが、自分の新たな扉が開けたのが私はとてもうれしかったのです。そんな今回の演奏との出会いに、心から感謝いたします。

そして大変意欲的な武満作品!これを見事に形にできるオケは、世界広しといえども今の札響くらいでは?どんな曲も演奏されなければ忘れられてしまいますから、折に触れてこのような作品を取り上げていくことはとても大切。それが出来る札響ってやっぱりすごいです。なによりメインの大編成だけでも相当大変と思われるのに、カラーが違う3曲すべてを演奏されたトップ奏者のかた達、もうすごすぎます!いつもありがとうございます、頼りにしています!聴き手である私達は、たとえこの後の有名曲がお目当てだったとしても、今回の武満作品の演奏に触れられたのは大変意義あることだったと思います。


1曲目は武満徹「群島S.」。今回が札響初演です。21名の奏者は、クラリネットの2名がそれぞれステージの右端と左端に、金管の5名がステージの奥に、後は弦と木管と打楽器その他の混合で7名ずつのチームがステージの左側と右側にそれぞれ配置されました。クラリネット以外の3つのチームが、3つの群島(ストックホルム、シアトル、瀬戸内海の島々)のイメージとの理解で合っていますでしょうか?ユニークな配置によって、奥行きや方向の違いから響きが多彩になり、音が立体的に聞こえる面白さがありました。ハープから入り、グロッケンシュピールを弦の弓で擦る音、チーンという鐘の音……ぞわっとする始まり方でした。妖しげな弦に、神秘的な木管の存在感、また終盤の長いホルンソロと続くトランペットソロが印象に残っています。わかりやすいメロディやリズムはありませんでしたが、映画音楽ではキャッチーなメロディを書いている武満徹ですから、今回の作品は空間と響きそのものに意識が向くようあえてメロディに引っ張られない作りにしたのかも(間違っていましたら申し訳ありません)。曲そのものの性質が特徴的なのに加えて普段とは配置がまるで違うため、各パートの演奏を合わせるのはとても難しそう。しかしトップ奏者揃いのアンサンブルはさすがのクオリティの高さでした。独特の空気感の中で、重なるところも、孤高のソロも、濁りのない純な響き。私は正直つかみ所のなさを感じつつも、響きをただ純粋に五感で受け止め、自分なりに楽しみました。ちなみに札響は武満徹の作品を積極的に取り上げているため、私も札響の演奏を通じて様々な武満作品に接してきました。そして今回もそうでしたが、新たな作品を聴く度に今までとはまったく異なる独特の世界観に出会い、いつも驚かされます。このような作品を見事に演奏できる札響の底力と、kitara大ホールの音響の良さを再確認しました。


ソリスト小山実稚恵さんをお迎えして、2曲目はベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」。オケは基本的な2管編成で、金管はトランペット2つ、打楽器はティンパニのみです。第1楽章、オケによる重厚な出だしから早速心掴まれました。高音弦によるメロディもがっちり支える低弦も骨太。木管が穏やかに歌うところも重なる弦のシリアスな響きも良くて、ベートーヴェン「らしさ」に聴き入りました。満を持して独奏ピアノが登場。最初の低音から高音へ駆け上るところからインパクト大!ピアノが少し切なくなるところの響きも美しく、繊細に寄り添うオケも印象に残っています。生命力が感じられる切れ目のない音楽の流れの中で、ピアノとオケの会話のようなやりとりや、重なりながらも主役とサブが交代するバトンの受け渡し方などがとても自然で、気持ちよく流れに乗れました。カデンツァでは、はじめにバーンと骨太の主題を出すところも、高音での細やかな響きもとっても素敵でした。第2楽章では、まず冒頭の美しいピアノ独奏に私はとても胸打たれました。うまく言えないのですが、一見なんでもない語り口のようでいて内面に哀しみをたたえている感じ。寄り添うようにやさしい響きのオケが登場すると、私は思わず涙があふれてきました。低弦が重低音でメロディを歌うのも素敵!ファゴットとフルートが穏やかに会話するようなところでは、弦はピッチカートで、ピアノはキラキラした音で寄り添う形に。ここがもう良すぎて、私は一人でボロ泣きしていました。穏やかで限りなく優しく美しい音楽。もしかしてベートーヴェンって、とても繊細で優しい人でした?私は今まで誤解していたかも、ごめんなさい!再び短調になる第3楽章は、冒頭の切ないピアノに引き込まれ、メロディを受け継いだ木管も素敵。ほどなく全員参加で登場した骨太なオケが超カッコイイ!金管ティンパニにパワフルに呼応するピアノも印象に残っています。ダンスのステップを踏むようなピアノが鮮烈な印象で、重厚なオケに負けない存在感。個人的には、ピアノなら左手、オケなら低弦が演奏する、メロディと対になる低音部分にものすごくベートーヴェンらしさを感じ、私はこれがDNAレベルで好きなのだと強く認識。ラストはピアノが駆け抜け、オケが華やかな締めくくり。ザ・ベートーヴェンな演奏、超素晴らしかったです。ありがとうございます!私、ベートーヴェンにはもう絶対に敵わない。良い物はイイ!ベートーヴェンさん、これから改めてよろしくお願いします!


後半はR.シュトラウス交響詩英雄の生涯。大編成で、木管は前半ベートーヴェンの倍となる4管編成に。金管、打楽器、弦も増員され、kitaraのステージは奏者の皆様がひしめき合っていました。ちなみに今回のハープ2台はステージ向かって左側前方に配置。冒頭、中低弦による「英雄」の登場が超カッコイイ!いつもカッコイイ中低弦がこの日は普段より輪をかけてカッコ良くて、早速引き込まれました。コントラバスは8名も!うれしすぎ!全員参加の華やかな盛り上がりになってからはさらに気分があがりました。ホルン(なんと9名!)による「英雄」のテーマが勇ましく、低弦と重なるのがとても良かったです。続いて登場したフルートから始まる管楽器たちは「英雄の敵」でしょうか?わいわい騒ぎ立てる感じの演出でしたが、音自体は美しかったです。それに対する低弦のぐっと低い音が印象的で、他の弦も一緒に英雄の重々しい心情を表しているようでした。待ってました、コンマスソロによる「英雄の伴侶」が登場!美しい!でもそれだけじゃない、深みが感じられる音色でぐいぐい来るコンマスソロは、まるで姉さん女房な頼れる印象でした。ペアで会話するように、コンマスソロ(伴侶)とホルンや低弦(英雄)が交互に演奏。音自体大きく(そもそも奏者の人数が違いますし)強そうな英雄に、一歩も引かずに主張するコンマスソロの存在感がすごく良かったです。勇ましい英雄も伴侶の発言にはきちんと耳を傾ける感じなのが好印象。ただ、そこから全員参加に移った際に、まだ続いていたコンマスソロの主張がかき消された気がして、あれ?と一瞬思いました。しかし私はこの曲をよく知らないので、それが通常の演出でしたら申し訳ありません。その後の、ハープや木管のやさしい響きに支えられたコンマスソロと弦の首席・副首席による室内楽のような重なりも、全員参加の美しく壮大な盛り上がりも、穏やかな場面締めくくりも、とっても素敵でした。次の「英雄の戦場」は、舞台裏のトランペット(奏者3名が事前にステージから退出していました)による華々しいファンファーレで開始。続くオケは重低音の効いた重々しい演奏で、厳しさが感じられました。ここからの戦場の様子がすごかったです。小太鼓の刻むリズムに、シンバルのアクセント、低音管楽器群のパワフルさ。この大人数によるスケールが大きいド派手な盛り上がりには、理屈ではなくゾクゾクしました。最後には弦とホルンに英雄のテーマが現れて、勝利を確信。続く「英雄の業績」は、R.シュトラウスの様々な作品からの引用があるそうなので、気づける人ならより一層楽しめたと思われます。ちなみに私は一つもわかりません(ごめんなさい!)。それでも華やかな演奏を楽しめました。個人的には、美しいハープを支えに木管コンマスソロがゆったりと歌ったところが印象に残っています。なお区切りが私にはわからなかったのですが、いつしか物語は終盤の「英雄の隠遁と完成」へ。深刻なところを経て、ティンパニの鼓動に乗ってイングリッシュホルンが歌う穏やかなところがとっても素敵でした。牧歌的なホルンに美しい弦は、次第にゆっくりになって、まるで日が沈んでいくような印象。そしてラストが圧巻でした。コンマスソロとホルンソロが静かに語り合っているようで、それが消え入ると、厳かな金管群で締めくくり。英雄は天に召されたのですね?永遠の別れなのに、私はなぜか哀しくはなかったです。神々しい響きの余韻に浸りながら、英雄は彼の人生を生ききった!と、むしろ清々しさで胸いっぱいになっていました。きっと会場にいたすべてのかたが胸打たれたのでしょう。音が消えてからも客席はしんと静まりかえり、指揮の広上さんがゆっくりと腕を下ろしてから、ようやく割れんばかりの拍手が起きました。

指揮の広上さんは、最初に今回のコンマス・会田さん、続いてホルンソロを担当された𡈽谷さんを讃えられました。カーテンコールで戻ってこられる度に、ハープお2人に、ステージ後方の管楽器や打楽器の皆様を。また弦もチェロから始まりヴィオラコントラバス、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリン(はじめは皆様着席のままでコンマス会田さんのみでしたが)と、順にすべての奏者の皆様に起立を促し、この大所帯のオケ全員を讃えられました。プログラムに掲載された、指揮・広上さんのシーズン開幕メッセージには「人類が造った世界遺産、それがオーケストラなのです!」とありました。ミニマムな編成でも超・大編成でも、お一人お一人のご活躍があって一つの壮大な音楽となるオーケストラの醍醐味を堪能できた、とてもとても素晴らしい演奏会でした!この感激を多くの人と共有できるうちは、人類はまだ大丈夫だと私は信じたい。きっと伝説になる、この日の演奏が聴けた私達は幸せです。ありがとうございました!


この日の9日前(2022/04/14)には「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回」が開催されました。指揮は広上淳一さんの愛弟子である川瀬賢太郎さんで、ソリストは岡田奏さん。守備範囲外の幻想交響曲にドハマリ!ラヴェルのピアコンはピアノが緩急つけて高音低音を自在に行き来し、オケと息のあった掛け合い。豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新体制・新年度のスタートでした。

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広上淳一さん指揮による札響の演奏、私は約1年前の札響定期(2021/05/08)を聴いています。1曲目は武満徹。2曲目はソリスト神尾真由子さんによる神業が冴えるグラズノフ。後半メインのリムスキー=コルサコフシェエラザード」(コンマスは田島高宏さん)では、音楽による物語の世界にどっぷりと浸れました。

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おわりにこちらも紹介させてください。オペラも交響詩も残していないブラームスが、物語の世界を音楽で描いた唯一とも言える作品『美しきマゲローネのロマンス』op.33。その作品が取り上げられた、ウィステリアホールプレミアムクラシック12 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」(2021/10/24)。ピアノとバリトンと朗読のみで創る、中世の物語の世界。おそらく首都圏でもめずらしい、ブラームスの連作歌曲の演奏会を札幌にいながらにして聴けたのは、とてもスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回(2022/04) レポート

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2022年度最初の札響主催公演です。今回から「新」が取れ定番となったhitaruシリーズの第9回目。2022年4月から正式就任となる正指揮者・川瀬賢太郎さんとコンサートマスター・会田莉凡さんが、年度初回公演の今回から早速登板です!当初の予定から出演者と演目の変更があり、1曲目は藤倉大さんの現代曲、後半メインはベルリオーズ幻想交響曲に。また演目の中では唯一変更ナシだった協奏曲は、ソリストに函館ご出身のピアニスト・岡田奏さんをお迎えして、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調が演奏されました。

なお前回2022年2月のhitaruシリーズにおいて、藤倉大さんの別作品が諸事情により演奏取りやめとなった経緯がありました。今回は出演者と演目の大幅な変更に加えて、藤倉大さんの作品を改めて取り上げるという計らいまで!関係する皆様のご尽力に頭が下がります。


札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第9回(2022/04)
2022年4月14日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
川瀬 賢太郎(札響正指揮者2022年4月~)

【独奏】
岡田 奏(ピアノ)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡 ※2022年4月就任)

【曲目】
藤倉 大:トカール・イ・ルチャール
ラヴェル:ピアノ協奏曲
ソリストアンコール)ラヴェルクープランの墓よりメヌエット

ベルリオーズ幻想交響曲


豪華な演目を気合いの入った演奏で聴けた、幸先の良い新年度のスタートでした。指揮の川瀬さん、コンミス会田さん、そしてオーボエ副首席奏者の浅原さん、ようこそ我が町のオケへ!素晴らしいデビュー演奏をありがとうございます!大編成だったり多彩な楽器が登場したりする大曲の数々を、清々しいほどパワフルな演奏で聴かせてくださいました。また、ここぞという時の全力投球とあえての静けさのメリハリが明確だったおかげで、素人の私にも聴きどころが何となく掴めた気がします。そして大勢の客演奏者のかたを含む大所帯でも、バラバラにならず同じ方向性でぐいぐい引っ張っていたとも感じました。言うまでも無く大変な集中力を持ってハイレベルな演奏でこたえた、オケお一人お一人のお力も素晴らしいです。我が町のオケ、もう全面的に信頼しています!この後に続く主催公演、川瀬さんの師匠である広上さん指揮の4月定期も、川瀬さん指揮の5月名曲シリーズも、私は今から楽しみです。大編成も、標題音楽も、私はもうコワくありません!

もちろんすべての演目が素晴らしい演奏でしたが、この日の私が最も感銘を受けたのはベルリオーズ幻想交響曲です。自分の価値観がひっくり返るコペルニクス的転回。今までノーマークどころか避けたいとさえ感じていた演目に期せずしてドハマりし、自分でもすごく驚いています。しかも比較的美しい前半よりも、どんどんグロくなる後半に進むほどのめり込んでいったのが信じられなくて。私自身、申し訳ないですがこの曲の物語の世界は not for me で、大編成オケに苦手意識もあったことから、聴く前は正直「少しは良いところを見つけようチャレンジ」のつもりでした(字面にするとひどいですね……本当にごめんなさい!)。いざ実演を聴くと、いつの間にか演奏に没頭していて良い意味で期待を裏切られました!ありがとうございます!これからもぜひ幻想交響曲を積極的に演目に取り上げてください。今後は「幻想交響曲を聴くために」、私は演奏会に足を運びます!

ちなみに私が幻想交響曲の実演を聴いたのは今回が2回目。前回は約3年前の2019年5月、バーメルトさん指揮の札響定期でした。その時の私はまだ経験が浅くてうまく聴けず、ただひたすら怖いのを耐え忍んでいた記憶があります。申し訳ありません。良い演奏だったに違いないのですが、当時の私にはまだ早かったのだと思います。そして、少しは場数を踏んできた私が、今このタイミングで川瀬さん指揮・札響によるものすごい演奏に出会えたのは本当によかったと心から感謝しています。石の上にも三年?いえまだまだです。私にとって、幻想交響曲の物語の世界そのものは、これから先も not for me かもしれません。しかし曲の演奏自体は今後何度でも聴いていきたいです。きれい事を抜きにすれば、人間誰しもがグロテスクな感情や人には言えない性癖を持っているはず(もちろん私にだってあります)。甘ちゃんな私でも、今回の演奏を聴くことによって、図らずもその現実を直視できた気がします。この特別な体験は癖になりそうです。もちろん今の私にはまだ見えていないことの方が多いはずですが、この先また違ったものが見えてくるかもしれないと思うと、とってもワクワクしています!札幌交響楽団の皆様、これからもどうぞよろしくお願いします!


前半1曲目は藤倉大「トカール・イ・ルチャール」。2010年に発表されたごく最近の曲ですが、プログラムノートによると指揮の川瀬さんは過去に別のオケでの演奏経験があるとのこと。曲のタイトルは「奏でること、闘うこと」という意味のスペイン語。今回が札響初演です。hitaruの広いステージが密になる大編成!木管から入り、妖しげな雰囲気でオケ全員によるクレッシェンドとデクレッシェンドで作る音の波は、人間の感情のムーブメントのように感じられました(?違っていたらごめんなさい)。聴きやすいメロディはないものの、高音が悲鳴のようだったり、低音が心の底でうごめく感情のようだったり。雷鳴のようなティンパニと大太鼓の大音量の連打、金管木管の叫びはインパクト大でした。また弦はコル・レーニョ奏法も出てきましたが、弦を擦る演奏でも音色がいつもの透明感とは違う、演出として妙な音を発していたのが個人的にはちょっと刺激が強すぎたかも。これは私向きじゃない……と肌感覚で察知してしまうと上手く聴けなくなってしまいました。申し訳ありません。今回の曲は今の私にはちょっと難しくて、意図するところをきちんと理解できませんでしたが(ごめんなさい!)、札響はこのような曲も演奏出来るとわかり、その底力を認識しました。おそらく演奏は難しく、定番曲とは勝手が違うにもかかわらず、オケの皆様は短期間で準備しきちんと仕上げてこられたのが素晴らしいです。


2曲目はソリストの岡田奏さんをお迎えして、ラヴェル「ピアノ協奏曲」。私、とても楽しみにしていました!前の曲よりもオケの編成はコンパクトで、オケ奏者は少数精鋭に。しかしハープや多彩な打楽器が入り、華やかな楽器編成だと思います。第1楽章、最初にパーンと鞭の一打が決まって、ピアノとオケによるスピード感あるきらびやかな盛り上がりになり、初めから気分があがります。テンポが速いところも、少しゆったりするところも、緩急つけて高音低音を自在に行き来するピアノが超カッコイイ!管楽器の、少しくぐもった特徴ある音色での演奏も印象に残っています。また弦の音色はあくまで美しく、これが札響の弦!と私は一人で感激していました。途中入った美しいハープも素敵。ピアノの低音を効かせた演奏では重厚さが感じられ、それに合いの手を入れた中低弦も良かったです。ラヴェルの低音ってやっぱりイイですよね!続く第2楽章は、先ほどまでのスピード感とはガラリと変わり、ゆったりした大人っぽいピアノ独奏がとっても素敵。このピアノを尊重するように、オケが静かに参戦して包み込むような演奏をしたのも素敵でした。イングリッシュホルンによる美しいメロディと、それにやさしい響きで寄り添ったピアノが本当に素晴らしかったです。第3楽章は、スピード感再び。ピアノの高速演奏も、管楽器がその超スピードに乗るのもすごい。ピアノに一瞬ゴジラっぽい音の刻みを感じましたが、華やかな音色はむしろ都会的な印象でした。ピアノもオケも同じ高速の流れに乗りながら一緒にリズムを刻むのがキレッキレで、聴いていて気持ちが良かったです。ピアノが高速で駆け抜け、ラストはオケが大音量でパンっ・パンっパンっ・パンっパンっ・(ドン)と見事なリズムを刻んで締めくくったのがインパクト大!最初から最後までずっと夢中になれた、素晴らしい演奏でした!ちなみに私は、ソリスト岡田奏さんの協奏曲の演奏については、昨年末にチャイコフスキー第1番の楽章抜粋演奏を聴いたきりでした。今回はがっつりフルで、しかも我が町のオケと息のあった掛け合いでの演奏を聴けてうれしかったです。

ソリストアンコールは、ラヴェルクープランの墓」よりメヌエット。しっとりとした舞曲にうっとり聴き入りました。高音と低音がゆったりとダンスしているかのよう。また音色の美しさから、個人的には札響シーズンテーマの「水」のイメージも感じられました。岡田さん、協奏曲の大熱演の後に、とっても素敵なピアノ独奏までありがとうございました!今後機会があれば、室内楽での演奏もぜひ拝聴したいです。


後半はベルリオーズ幻想交響曲。客演奏者のかたが大勢入る大編成です。2台のハープが最前列で指揮台を挟んで向かい合う配置だったのが新鮮でした。第1楽章、木管から入り、素敵なアンサンブルに聴き入りました。ヴァイオリンの美しいメロディで憧れの彼女が登場!それに対しての低弦のドキッドキッもはっきりわかりました。金管ティンパニも加わった華やかな盛り上がりは、恋の始まりの一番楽しい時のよう。しかしまだ現実世界にいるような地に足が着いた印象。第2楽章は舞踏会。ちょっと不穏な弦による序奏、そこに重なる左右交互に聞こえてくる美しいハープに気分があがります。私好みの澄んだ音色による華やかなワルツは、ストーリー抜きにしても純粋に音楽を楽しめました。木管のメロディに憧れの彼女が登場し、おそらく低弦のドキッドキッもあったと思うのですが、第1楽章よりも控えめだったので定かではありません。人が多くて遠目ではよくわからなかったという演出なのかも?大盛り上がりで楽章締めくくり。ここでハープ奏者お二人が退場。しかしオーボエ首席奏者は着席のままでした。場面は人の多い舞踏会から二人きりになれる田園へ。第3楽章の冒頭は、イングリッシュホルンと舞台裏のオーボエ(演奏は副首席のかた?)の対話。主人公(イングリッシュホルン)の声ははっきり聞こえるのに、妄想の産物であるバーチャル彼女(舞台裏のオーボエ)の声が遠いのはすごい演出だと改めて感じました。木管と高音弦によるゆったりとしたメロディは、穏やかな田園風景のよう。しかしそれは夢だったのか、終盤イングリッシュホルンの呼びかけに舞台裏のオーボエは答えてくれず、4連ティンパニによる黒い感情の波のような連打(札響の4名の打楽器奏者による全力の連打が素晴らしい!)。嵐が去った後の静かな締めくくりにはぞっとしました。一体何が起きたんでしょう……。続く第4楽章は断頭台への行進(!)。低音管楽器群にチェロの重厚なメロディが印象的で、トランペットが華やか!弦による音の波や刻む音も効果を倍増させ、全員がフルスロットル演奏で盛り上げます。処刑を外野がわいわいはやし立てるおぞましい光景なのに、私はまずいことに聴いていて妙にゾクゾクしました。いざ土壇場で、木管によるあのメロディ。憧れの彼女が一瞬脳裏をよぎったのですね?続いてジャンッ!と容赦なく裁断、またもや大盛り上がり!このドラマチックな流れには圧倒されました。そして第5楽章がもうすごすぎて!序奏の不気味な雰囲気の低弦に、私はぞわっとなりました。もうベルリオーズさん大好きです。木管のメロディは変わり果てた彼女!ここでしか聴けない鐘!2台のチューバのグレゴリオ聖歌!弦が音を駆け上るのもインパクト大でした。何度目かの「怒りの日」登場の時に、大太鼓と低弦が全力で下支えするところがあって、おどろおどろしさに拍車がかかったのも印象に残っています。この低音、ベルリオーズさん天才!宴のような盛り上がりを経て、出ました弦バンバン(コル・レーニョ奏法)の骸骨!どのシーンも躊躇なくバーンと打ち出してくるのが痛快で、私はただ我を忘れて演奏を追いかけていました。ラストはリミッター振り切った全員参加の全力盛り上がりで締めくくり。ものすごい演奏を聴かせて頂きました。超楽しかったです!

指揮の川瀬さんはカーテンコールで何度も舞台に戻ってきてくださり、私達は全力の拍手を送りました。控えていらしたハープ奏者お二人とオーボエ奏者のかたも舞台へ。川瀬さんは、イングリッシュホルンに始まり管楽器から打楽器まで順に奏者に起立を促した後は、弦の最前列にいるコンマスや首席・副首席と肘タッチ。後方にいるコントラバスの方にまで行って肘タッチしていました。川瀬さん、札響の皆様、最初から最後まで夢中になれる大熱演をありがとうございました!



守備範囲外の演目にドハマリしたのが今回なら、最推し大本命の演目で打ちのめされた演奏会はこちら。「安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」(2022/03/17)。札響からはヴィオラ首席の廣狩亮さんとチェロ首席の石川祐支さんがご出演。心を強く揺さぶられたこの日の演奏会を、私はずっと忘れないと思います。

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マティアス・バーメルト指揮、札幌交響楽団による名曲シリーズ「バーメルトとワルツを」(2021/11/27)。バラエティ豊かなワルツの数々を、バーメルトさん流の強弱のメリハリがあって各楽器の個性が際立つ澄んだ響きで聴けた、とっても素敵な演奏会でした。その演奏会のライブ録音CD「The Waltz 夢幻∞ワルツ」には、ベルリオーズ幻想交響曲」第2楽章のワルツも収録されています。こちらのCD、私はヘビロテしています♪

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌室内管弦楽団 第20回演奏会(2022/04) レポート

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プロアマ混合オケの札幌室内管弦楽団。第20回となる定期演奏会は、コロナ禍による開催延期を経て無事この日に開催されました。おめでとうございます!今回の企画は、札響副首席ヴィオラ奏者・青木晃一さんをソリストにお迎えしての協奏曲に、定番中の定番であるベートーヴェンの「運命」。私は企画発表当初からずっと楽しみにしていました。


札幌室内管弦楽団 第20回演奏会
2022年04月03日(日)18:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
松本寛之

ヴィオラ
青木晃一 ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者

管弦楽
札幌室内管弦楽団コンサートマスター:野村聡)

【曲目】
バルトークヴィオラ協奏曲 Sz.120
ソリストアンコール)ケンジ・バンチ:The 3Gs

ベートーヴェン交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
(アンコール)J.S.バッハG線上のアリア


ヴィオラ協奏曲。もう、もう超カッコイイ!すぐ近くにこんなに魅力的な存在がいたのに、今まであまり気にかけてこなかった自分に戸惑いすら覚えるレベルのインパクトでした。ヴァイオリンやチェロのための協奏曲は多々あれど、ヴィオラが主役の協奏曲はめずらしく、私も聴いたのはこの日が「お初」。しかしそんな私を含め、ソリストの青木さんと札幌室内管弦楽団によるこの日の演奏が聴けた人達は超ラッキーだったと思います。広い音域を活かし、高音の華やかさから低音の深さまで自在に行き来する独奏ヴィオラは、まるでカメレオン俳優のような多彩な表情で私達聴き手を魅了してくださいました。しかも、この日の独奏ヴィオラはどんなに存在感があっても喧嘩腰にならず、オケとの掛け合いがごく自然でオケの中にすっと溶け込む親和性があったのにも良い意味で驚かされました。オケを尊重した上で、その流れに乗りながらも主張すべきところは主張する独奏ヴィオラ。これは青木さんの演奏がそうなのか、あるいは曲の特徴なのか(それとも両方?)、私にはわからないのですが、まっさらな私が聴いた限りではとても幸せな共演だったように感じました。この演奏に出会えて本当にうれしかったです!

ちなみに私は以前、青木さんがピアニストと組んだデュオ・リサイタルを聴いたことがあります(2021/10/30 下の方にそのレビュー記事へのリンクがあります)。その時ももちろん素敵でしたが、今回のオケとの共演による「主役としてのヴィオラ」はさらに魅力的!やはり音響の良いkitara大ホールで、オケと一緒にスケールが大きい協奏曲を演奏するのは良いですね。音の響きの美しさに加えて、天井が高く横への広がりがある大ホールでの演奏はヴィジュアル面でもとても映える!この大舞台で聴衆を魅了した青木さん、素敵すぎる独奏を本当にありがとうございます!優劣ではなく役割分担として、いつもは「縁の下の力持ち」的な存在のヴィオラ。しかし私は「主役としてのヴィオラ」によってヴィオラの魅力を知ったことで、これから室内楽でも管弦楽でも「縁の下の力持ち」的なヴィオラの仕事ぶりにも大注目すると思います。今後のますますのご活躍に期待しています!

そして定番の交響曲も、クオリティの高い堂々たる響きで素晴らしかったです。基本的に同じモチーフの繰り返しである「運命」を、緩急や強弱のメリハリがはっきりした丁寧な演奏で聴かせてくださり、私は最初から最後までずっと夢中になれました。コロナ禍で全員揃っての練習時間は限られていたと思われますが、オケ団員のお一人お一人が入念な準備をされてきたこと、そして指揮の松本さんへの信頼が厚いことが演奏からうかがえました。音楽への愛情を持った人達が非営利で集まり、活動を続けてこられたことによって、一朝一夕には完成しえない、オーケストラ全体のまとまりや良い空気が出来ているようにお見受けしました。とっても素敵です!これからも良い演奏を聴かせてください!

弊ブログをお読みくださっている皆様へ。もしも、場違い感や費用面など様々な理由で札響の定期演奏会に足を運べないというかたがいらっしゃいましたら、札幌室内管弦楽団の演奏会をぜひおすすめします。リーズナブルなチケット価格で質の高い演奏が聴けますよ!そして百戦錬磨の演奏会通いの先輩方も、札幌室内管弦楽団の演奏をぜひ一度フラットに聴いてみてくださいませ。音楽への愛が感じられる真摯で丁寧な演奏は完成度が高く、何より音が美しいので、きっと楽しめますから!私は、ちょっと背伸びして聴く札響の主催公演も、少しリラックスして楽しめる札幌室内管弦楽団の演奏会も、どちらも好きです。


オケ団員の皆様と、指揮の松本さん、ソリストの青木さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。前半はバルトークヴィオラ協奏曲」。ネット情報によると、この曲はバルトークが未完のまま残した遺作の一つで、シェルイという作曲家が補筆完成させた作品のようです。全部で3楽章構成のようですが、私には楽章の区切りがはっきりとわからなかったので(ごめんなさい!)、レビューは楽章区切りナシで書きます。冒頭の神秘的な独奏ヴィオラに、首席チェロと首席コントラバスのピッチカートが重なるところから私のツボに刺さり、早速引き込まれました。少しずつ他のパートが参戦してからも、独奏ヴィオラは切れ目無く流暢な演奏で高音域から低音域まで自在に行き来して存在感抜群。ソリスト小休止のときのオケの盛り上がりでは、同じくバルトークの遺作である「ピアノ協奏曲第3番」のような爽快さが感じられました。独奏ヴィオラとオケの各パートとの掛け合いはテンポ良く、またオケのターンで独奏ヴィオラが伴奏に回ったところも印象に残っています。今回は主役なのに下支えもやるんですね……。オケがごく小さな音で寄り添い(このオケの仕事ぶりも素晴らしかったです!)、少しゆったりした独奏ヴィオラの見せ場がとっても素敵!ヴァイオリンともチェロとも違う、ヴィオラの中性的な音色はニュートラルにすっとハートに響いてきました。私やみつきになりそうです。ティンパニ金管を皮切りに始まった、ハンガリーの舞曲のようなところでは、独特のリズム感で踊るような独奏ヴィオラインパクト大。そして個人的に大好きなバルトークルーマニア民俗舞曲」の冒頭部分に似た部分でのオケの弦に痺れ、木管が歌ったメロディを切なく歌い上げた独奏ヴィオラが超良かったです。クライマックスでの独奏ヴィオラの超絶技巧かつメロディアスな演奏は圧巻でした!ラストは独奏ヴィオラとオケが一緒に駆け上り潔く締めくくり。聴いていてとても気持ちの良い演奏でした!

カーテンコールでは青木さんは何度も舞台へ戻ってきてくださり、ソリストアンコールへ。青木さんは弓を指揮の譜面台にそっと置いて、速いテンポのピッチカートで演奏開始。ああこの曲は!ケンジ・バンチ「The 3Gs」!昨年のリサイタルでも取り上げられた曲で、その鮮烈な印象のため私の記憶に刻まれていました。弦4つのうち3つが「ソ」(ドイツ語の音名では「G」)の特別な調弦がされたヴィオラによる演奏です。まずは聴き手の度肝を抜く連続ピッチカート!続いて弓を手に取り、低めの妖艶な音色でぐいぐい迫る高速演奏!ヴィオラ本体をがっちりホールドした上で弦をおさえる左手は超高速。弓が大きく規則正しく動いて独特のリズムを刻み、特別な音を奏でるのは超カッコ良くて、もうゾクゾクしました。会場全体の空気が一変したのがよくわかったので、初聴きの人にとってもインパクト大な演奏だったに違いありません。聴くのは2度目の私だって、前回よりさらに打ちのめされました!青木さん、協奏曲からソリストアンコールに至るまで素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半、演奏前に指揮の松本さんがマイクを持ってお話されました。今回の協奏曲は、今から約1年半前に青木さんからお申し出があって実現した企画だそうです。コロナ禍でいくつもの公演が中止・延期され、ようやくこの日を迎えることができたというお話に、会場からは大きな拍手が起きました。

ベートーヴェン交響曲第5番「運命」。第1楽章、最初の休符に続く「ジャジャジャジャーン」の第一声が見事にキマりました!深刻な雰囲気のこの楽章、少しゆったりしたテンポで丁寧に音楽の流れを作っていた印象です。シャープな弦は、主役の時はもちろん良かったですが、木管のターンでのごく小さな音での支えと、その後クレッシェンドで再び表舞台へ出てくる流れも素晴らしかったです。管楽器の各パートも素敵で、中でも音を長くのばしたオーボエが個人的には印象に残っています。第2楽章は、冒頭の中低弦が超素敵!弦と木管による穏やかなところと、金管ティンパニも加わった華やかなところのメリハリがはっきりした演奏で、ずっと楽しめました。また、木管の掛け合いによる可愛らしいところも印象的でした。第3楽章、弦と木管による序奏に続いて登場したホルンが超カッコイイ!深刻なところと、低弦から始まり少しずつ盛り上がる明るいところがグラデーションで変化するのが素敵。そしてごく小さな音からクレッシェンドで上昇し、そのまま続けて第4楽章へ。華やかなトランペットが最高!苦悩から歓喜へ。全員参加による生命力あふれる盛り上がりがとても良くて、聴いていて清々しい気持ちになれました。少し穏やかになるところも、そこから再び盛り上がるのもごく自然な流れで、大盛り上がりの締めくくりまで全力疾走。誰もが知る名曲を、正統派の丁寧な演奏で聴かせてくださいました。私、「運命」の生演奏による初聴きが今回の演奏会でよかったです!


アンコールはJ.S.バッハG線上のアリアを弦楽アンサンブルによる演奏で。高音弦による美しいメロディと、低弦のピッチカートによる下支えの重なりがとっても素敵!おなじみの曲を澄んだ響きの丁寧な演奏で聴けてうれしかったです。アンコールに至るまで素晴らしい演奏をありがとうございました!最後は「お足元に気をつけてお帰りください」との松本さんのご挨拶で会はお開きとなりました。とっても楽しかったです!次回開催も楽しみにしています!


札幌室内管弦楽団 Xmasコンサート2021(2021/12/19)。親しみある曲の演奏と楽しいトークに、会場は和やかな雰囲気。リラックスして演奏を楽しむことが出来ました。

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「青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2021/10/30)のレポートは以下のリンクからどうぞ。味わい深い音色に超絶技巧の数々。札響副首席・青木さんのヴィオラはヴァイオリンに引けを取らない表現力で、「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

<Kitara・アクロス福岡連携事業> 安永 徹&市野 あゆみ~札響・九響の室内楽(2022/03) レポート

https://www.kitara-sapporo.or.jp/about/dl/news2107.pdf

↑「Kitara News 2021/7」にて、出演者の皆様へのインタビュー記事が読めます。 ※pdfファイルです。

www.acros.or.jp

↑福岡公演の情報はこちら。出演者の皆様へのインタビュー記事が読めます。


ベルリンフィルコンサートマスター安永徹さんと、安永さんのパートナーでピアニストの市野あゆみさん。クラシック音楽界の先達であるお二人と、札響・九響の首席奏者が共演する室内楽のコンサートが開催されました。Kitaraアクロス福岡の連携事業で、先に福岡公演が開催され(2021年7月)、今回2022年3月は札幌公演です。当初は2021年9月に予定されていたものが延期となり、今回は待ちに待った開催でした。そして今回のKitara小ホールは2階席も解放され、平日夜にもかかわらず8割程の席が埋まっていました。


Kitaraアクロス福岡連携事業> 安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽
2022年03月17日(木)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
市野 あゆみ(ピアノ)
安永 徹(1stヴァイオリン)
山下 大樹(2ndヴァイオリン) ※九州交響楽団 第2ヴァイオリン首席
廣狩 亮(ヴィオラ) ※札幌交響楽団 ヴィオラ首席
石川 祐支(チェロ) ※札幌交響楽団 チェロ首席

※なお出演者はチェロのみ福岡と札幌で異なり(福岡は九響首席の山本直輝さん)、チェロ以外のメンバーは両方の公演にご出演されています。

【曲目】
ラヴェルピアノ三重奏曲 イ短調
ヴェーベルン弦楽四重奏曲
ブラームスピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34


想像を遙かに超える名演奏に出会いました。あまりの衝撃に、私は終演後しばらく震えが止まらなかったほど。オーケストラのような重厚なアンサンブルが素晴らしいのはもちろんのこと、特に後半のブラームスでの熱量がすごかったです。このメンバーであれば、手堅い演奏で聴き手を納得させることだってできたと思われます。しかしこの日の演奏は、低音への力の込め方や高音での感情の振り切り方、感傷的なところの細やかさまで、どこをとっても全身全霊。背負うものが大きいかた達が、ためらいなく全力で取り組まれて、おそろしいほどに力強く気迫に満ちた演奏を聴かせてくださいました。これほどまでのかた達が、ひたむきに熱くなれるって、最高にクールです!この演奏を聴けた喜びはありきたりの言葉では表せません。ただただ、私はこの場にいられたことに心から感謝いたします。

ブラームスピアノ五重奏曲は、個人的に思い入れが強い作品です。作曲家自身のターニングポイントとも言えるこの曲は、ブラームス「らしい」重厚さと「らしくない」感情の揺らぎが同居しているのが魅力の一つだと私は思っています。名盤の中にはひどく取り乱しているように聞こえる録音もありますが、今回のように堅牢なアンサンブルがあった上で感情を振り切る演奏だと、「揺らぎ」すら糧にして強い意思で前へ突き進んでいるように感じられました。これはすごい……。この作品の元となった弦楽五重奏曲(破棄)についての、朋友ヨアヒムによる「男性的な力と活気に満ちている」との評が、私にもようやくわかった気がします。しかしヨアヒムは同時に「演奏は難しい。精力的な演奏でないと不明瞭に響く」とも言っています。その後2台ピアノ版を経て、改訂を重ねてようやく完成したピアノ五重奏曲。やはり難曲であることは変わりないと思われますが、まさに今回はその難曲をとても精力的に演奏し、清々しいほど明瞭に響かせたのだと私は感じました。なお私達聴き手にとって、演奏家の過去の実績や今の肩書きは関係ありません。目の前の演奏が心に響くかどうか、ただそれだけです。その上でこの日の演奏は、いちブラームスファンである私の心を強く揺さぶるものだったと、私は掛け値なしではっきりと言えます。本当にありがとうございます。ブラームス本人もヨアヒムも、今回の演奏を聴いたらきっと喜んでくれるのでは?

これは私の勝手な想像ですので、もし違っていましたら申し訳ありません。今回の熱量や力強さは、単に腕力に任せた大きな音ではなく、もっと心の奥底にうごめく感情がぐっと込められた魂の叫びだったのかも?だからこそ強く心に響いたのかも?と、私は後からふと思いました。今回ご出演の皆様は、背負うものが大きい立場にあるが故に、大変なプレッシャーを感じたり理不尽な出来事に遭遇したりといった経験は山ほどされてきたと拝察します。人並み外れた感受性をお持ちのかた達ですから、心労の大きさも桁違いで、おつらい思いをたくさん重ねてこられたのでは?しかし、たとえどんなにおつらい状況であっても、常に奏でる音楽のみで前へ進むしかないお仕事。そんな今日に至るまで積み重なった様々な思いが、自己表現ではないとしても、演奏の熱量に込められていたのでは?と想像しました。いずれにしても、これほどまでの演奏を聴かせてくださったら、聴衆もオケ団員もスタッフも絶対に惚れますって!様々な思いは胸に秘めたまま、演奏そのもので周りを魅了する。周りがついて行くコンマスや首席奏者とはそんなかた達なのだと、今回私はそう感じました。九響には素晴らしい首席奏者がいらっしゃると知ったことも、もちろん私達の札響の首席奏者たちを今まで以上に素晴らしいと思えたことも、私はうれしかったです。そして、彼らに信頼され彼らと共にアンサンブルを創りあげ、ご自身も説得力ある演奏をなさる、安永徹さんと市野あゆみさんは超一流の音楽家でいらっしゃると、私は強く思いました。今回ご出演の皆様と同じ時代に生きて、その演奏を聴ける私達は幸せです。

私は今回の感激が忘れられず、できれば同じメンバーによる演奏をまた聴きたいと願っています。次は大らかな感じの演奏も聴いてみたいです。例えばシューマンピアノ五重奏曲とか。いえ詰まるところ演目は何でもいいですし、いつになってもいいので、ぜひ次回開催をご検討お願いいたします。楽しみにしています!


1曲目の出演者の皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。ちなみに今回の演奏家の皆様の装いは、ピアノの市野さんが黒いドレスで、弦の皆様はスーツにネクタイ姿でした。1曲目はラヴェルピアノ三重奏曲 イ短調。第1楽章、透明感あるピアノから始まり2つの弦が重なる切ない冒頭から早速引き込まれました。独特のリズム感に、私はなぜかスペインの海の風景を連想。少しゆったりするところでのチェロ独奏とヴァイオリン独奏は、登場する度に少しずつ音が深みを増し、ピアノの低音も相まってまるで海に少しずつ沈んでいくかのような印象を受けました。ピアノのターンでも弦は細かく弓を動かして奥行きを作り、また時折登場した情熱的な弦の高速演奏も良かったです。だんだん音が小さくなり、ごく小さなピッチカートで終わった楽章締めくくりも印象に残っています。続く第2楽章は超カッコイイ!ピッチカートで合いの手を入れながら、情熱的な舞曲を弦が奏でるのがとっても素敵でした。弓も弦を抑える手の動きも大忙しで、素人目で見ても演奏は難しそう。特徴的なテンポで3名息を揃えての演奏が素晴らしかったです。第3楽章、個人的にはこの楽章がとても印象深かったです。ゆっくりしたテンポでぐっと低音のピアノの下支えに、弦もまた低音で深みのある演奏。この深さに胸打たれました。弦2つによる盛り上がりになったときの凄みには圧倒され、ラストは弦2つで今度は高音域にて深みが感じられる演奏に。派手さがない、じっくり深い演奏でここまで感銘を受けたのは、私は初めてかもしれません。第4楽章は明るく情熱的な盛り上がりに。速いテンポのピアノと重なる生き生きとした弦がとても良くて、感情が上り詰めてからの、力強いピアノと音を震わせる弦がすごい!ラストは最高潮の盛り上がりで締めくくり。私、このメンバーによるピアノトリオの演奏を聴けて幸せです!自分で選ぶ曲は独墺系に偏りがちですが、今回の演奏を聴けてラヴェルのピアノトリオがとても好きになったので、これからはフランス系の室内楽も聴いていきたいと思いました。

2曲目はヴェーベルン弦楽四重奏曲。奏者は向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順に着席(弦の配置は後半も同様)。この曲は私には難解で、聴いてはいましたがよくわかりませんでした(ごめんなさい!)。ごくたまに美しいメロディのようなものが聞こえるものの、聴きやすいメロディがほぼなく、ずっと陰鬱な感じ。チェロが低音を長くのばし、その上を3つの弦が、役割分担ではなくそれぞれソロ演奏して重なっているように感じました。派手さやメロディに頼らず、また2ndヴァイオリンやヴィオラも1stヴァイオリンと同列の役割を担い、ずっと足並み揃えて演奏。おそらく演奏は難しく、4名の奏者の皆様はタイミングがずれないよう全集中して演奏されていたような印象を持ちました。

後半はブラームスピアノ五重奏曲 ヘ短調。第1楽章、ピアノトリオによる暗い冒頭から、ピアノが駆け上り、力強い弦のユニゾン!ドラマチックな展開に早速心つかまれました。穏やかなところでも細やかな変化をごく自然な流れで表現していく演奏。さすがのクオリティの高さで、私はずっと夢中になっていました。またピアノに重なるチェロのピッチカートが印象的なところに続く、弦全員による遠慮のないユニゾンの気迫がすごい!ある意味で不安定さが魅力のところなのに、ここまで男性的な力みなぎる感じでの演奏は、私は初めて聴いた気がします。揺るぎない決意が感じられて、私は胸が熱くなりました。クライマックスでは、他の弦とピアノによる全力での激しい下支えのさらに上をいく、慟哭のような1stヴァイオリンが圧巻!私はあっと声を上げそうになりました。土台が堅牢な上でなら、ここまで振り切っても女々しくならず、男泣きの印象。素晴らしいです!第2楽章は、ピアノのメロディの穏やかな響きと、重なる弦の優しい音色にうっとり。また中盤の、多幸感に少し影がかかる、2ndヴァイオリンとヴィオラが少し低めの甘い音色で切なく歌ったところがとっても素敵でした!ここ好きなんです、ありがとうございます!続く切ないピアノも良かったです。楽章終わりの静かな締めくくりも印象的でした。そして第3楽章の完成度の高さと感情表現がすごすぎました。どの表現にも意味があるとわかる、ものすごい説得力が感じられる演奏。最初から最後まで良かったのですが、一つの例として、ピアノが一人で逡巡しているようなところで、併走する弦が音の波で揺らぐ気持ちを表現するのがすごい!これがあるおかげで、続く弦全員による力強い音の刻みが強い決意での前進のように感じられました。クレッシェンドで低い音から高い音へ熱を帯びて上昇する弦は、心の奥底にうごめく感情を内包しているようで鳥肌モノ!また中盤のピアノとチェロがゆったり歌うところが素敵で、ほっとできた束の間でした。楽章締めくくりの、情熱的なピアノに、重なる弦の高速演奏も素晴らしかったです。第4楽章、神秘的な序奏からピアノとチェロによる仄暗い歌を経て、ドラマチックな展開へ。泣き崩れるようなピアノと1stヴァイオリンに対しての、他の弦による力強い低音の下支えがすごく良かったです。揺らいでいた1stヴァイオリンが遂に意思ある前進を始めてからの展開も素晴らしく、息つく暇もない怒濤の展開のクライマックスにはただ圧倒され、低音のピアノから始まり弦が追いかけ激しく締めくくる全力疾走のラストが最高でした。ああブラームスピアノ五重奏曲はこんな曲だったんですね。私は今までこの曲の本来の姿を知らずに好きと言っていたなんて、何ということでしょう……。でもこの演奏に出会えた今なら胸を張って言えます。ブラームスピアノ五重奏曲、私はたまらなく愛しい!繊細しかし力強い、この曲の本質を見極め見事に体現した演奏を本当にありがとうございます!この出会いに心から感謝いたします。

カーテンコールでは、出演者の皆様は何度も舞台に戻ってきてくださいました。私達は大きな拍手を送りながら、全身全霊での熱量高い名演奏の余韻をしばらく味わい、会はお開きとなりました。この日の演奏会を私はずっと忘れないと思います。想像を遙かに超える、熱くてクールな夜をありがとうございました!


この日の3日前(2022/03/14)には、札響メンバー5名によるモーツァルトブラームスクラリネット五重奏曲の演奏会が開催されました。こちらも大変素晴らしかったです!最近札幌では偶然にもブラームス室内楽が取り上げられる演奏会が多く、しかも毎回クオリティ高い演奏で聴けるのが、私はとてもうれしいです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。