自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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『ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録』 秋山和慶(著) 冨沢佐一 (著) 読みました

 

今回ご紹介するのは『ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録』 秋山和慶(著) 冨沢佐一 (著) です。2015年2月 アルテスパブリッシング。文化功労者顕彰&指揮者生活50年記念出版。2014年に中国新聞文化面で連載された聞き書き「生きて」をもとに、大幅な加筆をして再構成されたものとのこと。巻末には索引と年表、CD・DVD一覧も掲載されています。

読みやすい構成と充実した内容で一気に読める、超おすすめの本です!弊ブログをお読みくださる皆様は、私のレビューはあくまで参考程度にとどめ、どうか本そのものを手に取りご一読くださいませ。では感想に入ります。以下、ネタバレが含まれます。ご了承頂けるかたのみ「続きを読む」からお進みください。

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オリジナル楽器で聴くブラームスⅡ 佐藤俊介×鈴木秀美×スーアン・チャイ(2022/11) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2022/08/221127.pdf

↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

今回(2022/11/27)のふきのとうホール主催公演は、「オリジナル楽器で聴くブラームス」の第2回目です(第1回は2017/07/04)。ブラームスの時代に一般的だった、フォルテピアノとガット弦を張った弦楽器による演奏。大好きなブラームス室内楽を、作曲当時のものと近い楽器による演奏で聴ける!とあって、私は企画発表当初から楽しみにしていました。


オリジナル楽器で聴くブラームス佐藤俊介×鈴木秀美×スーアン・チャイ
2022年11月27日(日)16:00~ ふきのとうホール

【演奏】
佐藤 俊介(ヴァイオリン)
鈴木 秀美(チェロ)
スーアン・チャイ(フォルテピアノ

【曲目】
R.シューマン:幻想小曲集 op.73
J.ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99
J.ブラームスピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87

(アンコール)J.ブラームスピアノ三重奏曲第3番より 第3楽章

ピアノはフォルテピアノ(持ち込みとのことです)。ヴァイオリンとチェロはガット弦を張ったもので、またチェロはエンドピンがないものでした。


ブラームス自身が意図していたであろう響きで、ブラームスと出会えた喜び!オリジナル楽器の「音」を楽しめたのに加え、何よりブラームスの本質に迫った演奏そのものが大変素晴らしかったことに私は感激しました。音の表情には血の通った温かさがあり、ブラームスがとりわけ重視したテンポには呼吸や鼓動が感じられる、まさに生きた音楽。そんな音楽が生まれたのは、奏者の皆様が作品そのものと真摯に向き合い、作曲家の想いを心を込めて体現くださったからと拝察します。しかもモダン楽器とは勝手が違うオリジナル楽器による演奏。一筋縄ではいかないはずですのに、奏者の皆様は、端から見る限りはスマートな演奏姿にて、思いっきり情熱的に生き生きと演奏してくださいました。本当にありがとうございます。私は第1回公演を聞き逃してしまったことが悔やまれてなりません。今回ご出演された皆様による「オリジナル楽器で聴くブラームス」、ぜひ今後も第3回、第4回……とシリーズ化して聴かせてくださいませ。ヴァイオリンソナタチェロソナタ、ピアノトリオはもちろんのこと、例えばゲスト奏者をお招きしてのナチュラルホルンによる「ホルン三重奏曲」や、ミュールフェルトが愛用した型の楽器による「クラリネット三重奏曲」など、聴いてみたい演目はいくつもあります。いつかきっとお願いいたします。札幌にてお待ちしています!

演奏自体の素晴らしさはもちろんのこと、今回はオリジナル楽器だからこその新たな発見がありました。以下に書くことは音楽経験ナシのいち個人による感覚的なものですので、間違いや勘違いがありましたら申し訳ありません。今回のオリジナル楽器について、私はいずれも生演奏では初対面でした。しかし、ふきのとうホールの最高な音響のおかげで、録音ではよくわからなかったモダン楽器との違いを自分なりに感じ取ることができました。率直な印象として、フォルテピアノの響きはモダンピアノよりも素朴で、ガット弦の響きは温かさがあり、いずれも残響は少ないようでした。また「温かさ」は音質そのものだけでなく、うまく言えないのですが音を発した後のゆらぎ(ヴィブラート等で演出するのではなく自然に響く音)の味わい深さにあるのでは?と感じました。音のゆらぎは、スチール弦は振れ幅が安定していて、ガット弦はその時その時で違う(これが人間らしくて親近感ある?)気がします。演奏方法自体もモダン楽器とは異なると思われますが、私が特に注目したのはチェロです。エンドピンがないため、楽器を脚の間に挟み身体全体で抱えこむような体勢での演奏。弓のあて方もモダン楽器とは異なっていたかもしれません。この体勢でガット弦を強奏するのは、もしかすると相当な力が必要なのかも?そしてこのことをブラームスは把握して曲作りをしていたのでは?と私が思ったのは、チェロ・ソナタ第2番のはじめの方の、強奏の合間に細かく入れられた休符の存在です。なぜわざわざそうしているのか、私は以前からずっと疑問に思っていました。おそらく強奏に力が必要なオリジナル楽器の場合、休符で一呼吸おくことによって、都度全力で強奏できてインパクトある音を生み出せるからですね!今回ようやく腑に落ちました。また、ピアノトリオ第2番での3つの楽器の重なりにもブラームスの工夫が感じられました。どうやら弦の響きの合間にピアノを鳴らすことで、細かく呼応し合ってリズムを作り、音楽を生き生きとさせている?これは残響が多いモダン楽器による演奏では気付きにくい発見でした。改めて、ブラームスってすごい!言うまでもなく、オリジナル楽器による素晴らしい演奏を聴かせてくださった奏者の皆様のおかげです。重ねてありがとうございます。


最初の演目はシューマン「幻想小曲集 op.73」。元々はクラリネット&ピアノのために書かれたものですが、クラリネット以外の楽器でもよく演奏される作品。この日はヴァイオリン&ピアノによる演奏でした。第1曲、ピアノは美しくも素朴な感じでした。続いて登場したヴァイオリンの、穏やかで心温まる音色がとても新鮮!特にぐっと深い低音と、感極まった高音のゆらぎが印象に残っています。第2曲は、ヴァイオリンとピアノが楽しく会話しているよう。残響が少ない(あくまで私の素人感覚です)ためか、きっちり交互に姿を現す印象。何度も音階を駆け上るところは、穏やかながらも少し前のめりで、秘めた想いが感じられて素敵でした。そして第3曲へ。情熱的に音階を駆け上るヴァイオリンの、最初の低音に心掴まれました!何度も登場する音階の駆け上りですが、起点となる低音はこの一番初めが特に良かったです。中間部の独白のようなヴァイオリンは、あふれる想いがありながらも一言一言を大切に発しているように感じられました。堂々たるフィナーレは、すぱっと潔い締めくくり。個人的にモダン楽器(チェロ&ピアノ)による演奏で何度も聴いてきた演目でしたが、この日の演奏でのラストは想像よりもずっと早く音が消えてしまったので少し戸惑ってしまいました(ごめんなさい!)。しかし、これがガット弦の弦楽器とフォルテピアノ「らしさ」であり、作曲家が意図した本来の響き(クラリネットでの演奏ならあえて息をのばさない)なのかも?とも思いました。

ブラームス「チェロ・ソナタ第2番」。第1楽章、ピアノの分厚い響きに乗っての、チェロの強奏は最初の1音から骨太でものすごく圧倒されました。細かく休符が入るそのタイミングで深く呼吸し、また次の瞬間は強奏になるため、新たな音が来るたびに鮮烈で強いインパクトが感じられました。なんと情熱的で力強いこと!またチェロの低音は、コントラバスのような少しくぐもった音で、私は瞬時にこの低音のとりこに。高音のゆらぎも、やはりスチール弦とは振れ幅が違う感じなのがとても良かったです。盛り上がりが重音で頂点に達した後の、弓をダイナミックに動かしながら音が沈んでいく様がドラマチックで超素敵!ピアノのターンでの、チェロの弓を大きくうねらせる演奏(トレモロ?)が、うごめく感情のようだったのも印象的でした。第2楽章、訥々と語るようなピアノに合わせた、チェロのピッチカートの音色に私は魅了されました。ガット弦のピッチカートは初めて聴きましたが、弦を強くはじいても奥ゆかしい感じの響き。ピッチカートと滑らかに歌うところが交互にくる流れで、優しく穏やかな歌にもしみじみ聴き入りました。そしてこの楽章で圧巻だったのは、音を長くのばしながらフェードアウトするラストです。放っておけばすぐに音が消えてしまうところを、少しずつ力を抜きながらギリギリまで弦を擦る演奏で表現されていたとお見受けしました。男性的な性格の作品の中で異彩を放った、この繊細な音が忘れられません。第3楽章、冒頭のピアノが私には新鮮に感じられました。残響が残るモダンピアノのきらびやかな響きがツヤ肌なら、フォルテピアノの落ち着いた響きはマット肌!どちらも素敵!ブラームスの遊び心ある音楽を、ピアノとチェロが呼応しながらリズミカルに生き生きと情熱的に演奏。自信に満ちあふれた力強いチェロが超カッコイイ!中盤の高音域で歌うところも素敵でした。低く太い音をバーンとのばしたラストが前の楽章と好対比で強く印象に残っています。第4楽章、はじめのピアノとチェロは歌曲のような優しい響き。変化が多い流れの中で、低音での音の刻みやパワフルな重音、軽快なピッチカート、哀愁を帯びた歌と、精力的な演奏によるチェロの様々な表情が魅力的!低く太い音をのばす堂々たる締めくくりに、私は気分爽快になりました。骨太で力強くしかし繊細な、これこそがブラームスのチェロ!個人的に愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタを、「ブラームスのチェロ」で聴けた喜びはひとしおでした。


後半はブラームス「ピアノトリオ第2番」。第1楽章、冒頭の堂々たる弦のユニゾンがすごい!ガット弦を全力で弾いたこの音色は格別でした。音階を上る高揚感!穏やかなところからクレッシェンドで浮かび上がるところは、音の自然なゆらぎも相まって生命力あふれる感じ。また、弦の響きの間隙を縫うようにピアノの響きが聞こえて、細かく呼応しあうリズム感が心地よかったです。ヴァイオリンとチェロが甘やかに歌ったり、時折ふと陰りを見せたり、ピアノがドラマチックだったりと、変化の多い生き生きとした流れが素晴らしい!第2楽章は、弦が奏でる哀しげなメロディが、やわらかな響きなのに胸に来る感じで、ここでもピアノが弦に合いの手を入れるような響きだったのが印象的でした。一瞬ピアノが沈黙して弦2つが重音を重ねる、悲劇的な響きがインパクト大!しかし、音がキツすぎず温かな印象でした。ピアノの支えの上でチェロとヴァイオリンが交互に歌ったところが、高音域の自然な音のゆらぎもありとても美しかったです。第3楽章、はじめのピアノと小刻みな弦の妖艶さにぞわぞわ。研ぎ澄まされたヴァイオリンの神秘的な音色がすごく素敵!下支えするキラキラしたピアノとぐっと重低音のチェロも神秘性を際立たせていました。続いてヴァイオリンとチェロが一緒に甘やかに歌ったところがまた素敵で、喜びが感じられる落ち着いた優しい音色が心に染み入りました。楽章締めくくりの低音ピッチカートとピアノの一打は、渋いのにとても温かみがある響き!第4楽章では、冒頭の弦の音色がとっても良かったです!穏やかでも幸せな思いを内に秘めている感じ。高らかに喜びを歌い出すヴァイオリンが素敵!またピアノが速いテンポで軽快に歌うところでは、シンクロしたチェロの渋さが印象的でした。緩急の波をつけながら朗らかに歌う音楽は、聴いていて清々しかったです。ラストは分厚い音の重なりで、明るく輝かしい締めくくり。なんて幸せな音楽!3つの楽器が密に絡み合う響きには、情熱だけでなく愛が感じられ、まさにブラームスの本質に触れたと感じました。

カーテンコールの後、アンコールへ。ブラームス「ピアノトリオ第3番」より 第3楽章。弦2つの重なりとピアノが交互に出てくる流れは、穏やかな大人の会話を思わせる優雅な響き。甘やかなピアノに、ポンポンと合いの手を入れた弦のピッチカートが可憐!中盤やや不穏な空気になり、少し影を感じる音色による演奏には温かな雰囲気を感じました。まるでシューマン家の居間でくつろぐ3人(ロベルトとクララそしてブラームス)のような親密さ!大熱演の後に心温まるアンコールまでありがとうございます!「オリジナル楽器で聴くブラームス」、今後ふきのとうホールにて再会できる日を心待ちにしています!


ふきのとうホール主催公演で、ブラームスの再発見があったこちらのレポートを紹介します。「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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こちらの演奏会でも素晴らしいブラームスとの出会いがありました。「Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組」(2022/11/12)。3つのホールによる共同委嘱新作・ハイドンバリエーションやきらきら星変装曲等、オーケストラの響きをぎゅっと濃縮したカラフルな演奏はとっても楽しかったです!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

〈Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組(2022/11) レポート

www.kitara-sapporo.or.jp

kitaraの公式サイトにて、PR動画を観ることができます。

木管五重奏&ピアノの編成による「東京六人組」は、オケの首席奏者やソリストとして活躍する同世代のメンバーで結成された、今注目のアンサンブルです。その演奏会がKitara小ホールにて開催されました。札幌市民の期待は大きく、開演前の小ホール入り口には当日券を求める人達による長蛇の列が出来ていました。また会場はほぼ満席に近い盛況ぶりでした。なお今回(2022年)の企画は、日本各地のコンサートホール企画連携会議事業(札幌・新潟・すみだ・所沢・京都・福岡)の一環のようです。


Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組
2022年11月12日(土)15:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
東京六人組
 上野 由恵(フルート)
 荒 絵理子(オーボエ
 金子 平(クラリネット
 福士 マリ子(ファゴット
 福川 伸陽(ホルン)
 三浦 友理枝(ピアノ)

【曲目】
ブラームス/岩岡 一志 編曲:ハンガリー舞曲より 第1番、第5番、第6番
プーランク:六重奏曲 FP100
デュカス/浦壁 信二 編曲:交響詩魔法使いの弟子

磯部 周平:きらきら星変装曲
  1.主題 きらきら星  2.三星のテーマ  3.ケッヘル博士の忘れ物  4.嵐のハイリゲンシュタット  5.クララのためのロマンス  6.紅葉のマズルカ  7.指輪(リング)はお嫌い?  8.コスモスの舞踏  9.オレンジ色の行進曲  10.星に憑かれた12音  11.たそがれどきのレント  12.もう一つのフーガ  13.主題 きらきら星

ブラームス/夏田 昌和 編曲:ハイドンの主題による変奏曲(札幌コンサートホール・所沢ミューズ・アクロス福岡共同委嘱新作)

(アンコール)ハチャトゥリアンバレエ音楽「ガイーヌ」より レズギンカ


「オーケストラの響きをぎゅっと濃縮」した「カラフルな」演奏、とっても楽しかったです!お一人お一人の個性的な音色は、シーンによって様々に変化して、次はどんな音に出会えるかと最初から最後までわくわくしながら聴けました。それらが重なる良さと、何よりアンサンブルの緻密さが素晴らしい!指揮者なしで6名の呼吸を合わせるのはおそらくとても難しいことと思われますが、素人目には音楽の流れはごく自然で、足並みを揃えながらも全員が遠慮無く表現していたと感じました。また自称ブラームスおたくの私としては、ブラームスが重視していたバス(低音)がしっかり聞こえたのがうれしかったです。土台が堅牢だからこそ奥行きが感じられ、主役のメロディが引き立つ!しかし人数が多く得意分野で分業できるオーケストラとは違い、この少人数で、有り体に言えば無茶なこと(音域や音の出し方や息継ぎする暇がない忙しさなど)をなさっていると拝察します。それでも「<無理>の二文字は我々の辞書に存在しません」(by.三浦 友理枝さん)なのですよね!安全策をとらずに最高のパフォーマンスを追求する姿勢と、無茶を無茶だと感じさせない完成度の高さに、ただただ敬服いたします。私にとっては「お初」だった東京六人組。その魅力は、オリジナル作品が少ない編成という物珍しさよりも、このアンサンブルだからこそ創れる音楽そのものにあると強く実感しました。この出会いに感謝です。

そして曲の合間のトークも楽しかったです。その時によってお一人だったりお二人だったりしましたが、メンバーの一部が代表して舞台に出てお話してくださいました。曲の解説のみならず、編曲についての思い入れやホールの印象(kitaraのことを絶賛!)、札幌で食べたもの(ジンギスカンとかスープカレーとか)や「紅葉を見て、気分が高揚(!)」なんてダジャレまで!ちなみにこの渾身のダジャレを、後から登場した他のメンバーがあえて繰り返したりも(会場は大ウケでした)。お互いが信頼し合う仲間だからこそのノリの良さが素敵です♪


東京六人組の皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。配置は、ピアノの前に木管が扇形に並び、向かって左からフルート・オーボエファゴット・ホルン・クラリネットの順に着席。また演目によってフルートはピッコロ、クラリネットは数種類の持ち替えがありました。「名刺代わりの」最初の演目は、ブラームス(岩岡 一志 編曲)「ハンガリー舞曲」より3曲を抜粋で。まずは、PR動画にも少しだけ入っていた第1番。ほの暗いメロディの上を高音で彩るフルートがインパクト大!ベースを作るファゴットの低音のリズムと、ホルンとクラリネットによる対旋律が印象的でした。第5番は、低音が効いた勢いある演奏がクール!第6番は、オーボエが歌うメロディが心地良く、クライマックスの華やかさが素敵!また3曲とも、中間部のテンポが細かく変化していく流れが阿吽の呼吸でぴったり揃っていて、とても気持ち良かったです。耳慣れたハンガリー舞曲なのに、木管とピアノによるカラフルな響きが新鮮!しかも、このコンパクトな編成でオーケストラに引けを取らない壮大さと奥行き!この後に続く演奏への期待が一気に高まりました。

木管楽器といえばこの人!フランス六人組の一人であるプーランクの「六重奏曲 FP100」木管五重奏とピアノの編成にとって「金字塔」という、この編成のために書かれたオリジナル作品です。「この編成ならではのカラフルさが一番よく出ている作品」とトークの中で紹介がありました。第1楽章、リズミカルでがっちりしたピアノのベースの上を、自由な感じで跳ね回る各木管の響きが楽しい!シーンを切り替えた、ファゴットの語るような長い独奏がとても素敵でした。続くピアノ独奏がドラマチック!中間部のゆったりしたところは、ホルンと他の木管が会話しているように感じました。オーボエから入った第2楽章は、穏やかな流れの中で各楽器が順番に主役となったり、2つの木管が同じ旋律をユニゾンで演奏したり、一部の木管が即興的に駆け足の演奏で彩ったりと、細やかな変化とそれらが重なる良さが素敵でした。第3楽章は、フランスの流の軽快なリズム感が楽しい!高音が華やかな中で、クラリネットの低い音を刻むような演奏が差し色になっていたのが印象的でした。盛り上がるところのホルンがカッコイイ!ラストはゆったりになって、ぐっと重厚なピアノの上を順番に歌った木管の音色を味わいました。そして全員揃っての強奏で締めくくり。ピアノ&単独の木管によるデュオ作品にはない、木管同士の重なりや呼応が楽しい、彩りある演奏。重要なレパートリーを緻密なアンサンブルで聴けてうれしかったです。

デュカス(浦壁 信二 編曲)の交響詩魔法使いの弟子。原曲はゲーテの詩を元に作られた作品で、ディズニー「ファンタジア」でアニメ化もされていると紹介がありました。ちなみに、編曲版初稿は木管の息継ぎ等に配慮してからか、ピアノが引き受ける部分が多かったそうですが、メンバーが「もっともりもりで!」と希望して、木管群にとって難易度の高いものになったとのことです。冒頭の神秘的なところでは、ベースの低音とキラキラしたピアノの上で、高音パートの長くのばす澄んだ音がとても印象的でした。歩みを進めるようなファゴットクラリネットの存在感!ホルンがトランペットのような高音で音を刻んだのには驚きました。しかも次のシーンはザ・ホルンの伸びやかな音に戻っている!また、ホルンは時折ミュートを使用(?間違っていたら申し訳ありません)して、ザラザラした重低音を発していたのも印象に残っています。ストーリー上でどんどんピンチになっていく様を、だんだんとテンポが速くなる演奏で表現。その緊迫感に、聴いていた私達も引き込まれました。ピッコロの悲鳴のような盛り上がりがインパクト大!一瞬の静寂の後、持ち替えたフルートで今度は怪しげな雰囲気の響き!そしてファゴットクラリネットの歩みは、先ほどよりも速くなり、クライマックスの盛り上がりも一層パワフルに。またもや一瞬の静寂の後、次に登場したフルートは不安と安堵がごちゃまぜになったような音色だったのがとても印象的でした。全員によるジャジャジャジャン!の強奏で締めくくり。物語を見ているような、テンポや音の変化がとても面白く、最初から最後まで夢中になれた演奏でした!


後半。はじめは磯部周平「きらきら星変装曲」。「変奏」ではなく「変装」なのがポイントだそうです。有名な「きらきら星」のテーマを、様々な作曲家風に着替えていくスタイルの作品。どの作曲家が登場するかは、各副題と「音楽史の順に登場」がヒントです、と解説がありました。はじめの「主題」は、キラキラしたピアノの上を各木管が伸びやかに歌う「きらきら星」。音を震わせるフルートの余韻が印象的でした。「変装」のトップバッターはおそらくバッハ(小フーガト短調フーガの技法?)。チェンバロ風に音をのばさないピアノから入り、各木管が追いかけっこをしながら重なる厳かな響き。次はモーツァルト「きらきら星変奏曲」の更なるアレンジでしょうか?明るい音楽に私はついブラームス「大学祝典序曲」を連想……。その次はベートーヴェンと思われますが、明るさから悲壮感までてんこ盛りで、次から次へと展開される音楽を(途中で曲名推測は諦めて・苦笑)素直に味わいました。そして個人的に楽しみにしていた「クララのためのロマンス」へ。副題からシューマンかな?ブラームスかな?と始まる直前までワクワクドキドキ。フタを開けたらブラームスでした!ホルンが歌ったのはピアノトリオ第1番の最初のメロディでは!?クラリネットはブラ1の第4楽章の穏やかなメロディ?いずれも原曲では弦が奏でるメロディを、作曲家が愛した楽器による温かな響きにて聴けてうれしかったです。他の楽器も重なった壮大なクライマックスに、私は胸がいっぱいに。以降は副題からショパンワーグナーサン=サーンスシェーンベルクを思い浮かべましたが、原曲をよく知らない私は具体的に誰のどのメロディが引用されているかはピンとこなくて(ごめんなさい!)。しかし元を知らなくても、例えばスウィングのようなノリの良さだったり、調性が掴みにくい感じだったりと、表情が変化する演奏はフラットに聴いて楽しかったです。そして「変装」のトリである「もう一つのフーガ」(こちらについては、オマージュしたのは「ブリテン青少年のための管弦楽入門』のフィナーレのフーガ」と後から補足がありました)の演奏に圧倒されました。バッハとはカラーが違う、テンポが速く音が多い追いかけっこは百花繚乱の華やかな響き!ラストはもう一度はじめの「主題」が登場。よく知る「きらきら星」のテーマがそのままの形で帰ってきてほっとすると同時に、このシンプルなメロディが様々な作曲家風に衣替えした今回の「変装」曲のすごさを改めて実感しました。とてもとても面白かったです!こんなにも様々な要素が詰まった遊び心あふれる演目を、各楽器の多彩な響きによる演奏で聴けた私達は超ラッキーでした。

プログラム最後の演目は、ブラームス(夏田 昌和 編曲)「ハイドンの主題による変奏曲」。こちらは東京六人組のために今回新たに編曲されたもので、3つのホール(札幌コンサートホールkitara・所沢ミューズ・アクロス福岡)の共同委嘱新作とのことです。はじめの主題は、原曲でも木管大活躍のところですが、今回の東京六人組も温かみのあるメロディを各木管が美しく柔らかな響きにて聴かせてくださいました。また下支えとなる低弦ピッチカートを、低音が出せる木管群とピアノで自然に表現していたのがすごい!このように、原曲と同じ楽器のところの良さはもちろんのこと、置き換えで演奏するところの工夫と表現が素晴らしかったです。最初から最後まですべて良かった上で、以降については個人的なイチオシ部分に絞って書きます。ほの暗く情熱的な第2変奏の、小刻みでリズミカルなメロディと、対する低音の重厚さ!第4変奏では、各木管の追いかけっこがフーガのようでもあり、その緻密さと重なる美しさが素敵!ホルンとファゴットから入った第6変奏は、各木管が高らかに歌い上けるところがまさに演奏家の真骨頂!また原曲の弦パートの再現(ピアノとその時に主役ではない木管が担当)の壮大さが素晴らしかったです。美しいフルートと牧歌的なクラリネットファゴット・ホルンの第7変奏では、澄んだ高音弦を表現したオーボエがとにかく素敵でした。第8変奏では、ミステリアスな雰囲気による各木管の掛け合いが素晴らしい!あえてホルンが沈黙して、他の4つの木管の密なアンサンブルを演出していたのが印象的でした。そして終曲では、クライマックスでの音の多い盛り上がりがすごい!それぞれの楽器が次々と音階を何度も駆け上ったり駆け下りたり、最初の素朴な主題が華やかでパワフルになっていて、聴いている私達も気分があがりました。ラストは力強く明るく締めくくり。たった6人による演奏で、こんなにも贅沢な響き!ブラームスハイドンバリエーションはこんなに面白い曲だったんですね!すごいものを聴かせて頂きました。夏田昌和さまによる「もりもり」な編曲と、何より見事な演奏で披露くださった東京六人組の皆様、ありがとうございます!


カーテンコール。ごあいさつと、kitaraのスタッフ手作りによる「東京六人組のPRパネル」(ホワイエに展示されていました)の紹介、CD販売(先着順で6名のサイン入りポストカード付き!)についての案内がありました。アンコールは最新CDにも収録されている、ハチャトゥリアのバレエ音楽「ガイーヌ」より レズギンカ。速いテンポの元気な舞曲で、各木管が切れ目無く音を小刻みに演奏するのがすごい!重なるところと各ソロが順番に演奏するところの変化も楽しい!クライマックスでは、パワフルなピアノとホルンの咆哮(超カッコイイ!)に乗って、他の4つの楽器による強奏が最高潮の盛り上がりを見せてくださいました。最後に最高に気分があがる演奏!本プログラムからアンコールに至るまで多彩な響きに浸れて、とっても楽しかったです!最後は6名の皆様が会場ににこやかに手を振ってくださいました。ありがとうございます!この日会場にいたお客さん達は皆、東京六人組のとりこになったはず!近い将来、新たなレパートリーと一緒に再び札幌にいらしてくださいね。紅葉だけでなく、雪の白さにも春の息吹にも夏の爽やかさにも、きっと気分が高揚することうけあいです♪お待ちしています!



木管クラリネット)とピアノによる演奏で、ブラームスの再発見があったこちらの公演のレポートを紹介します。「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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「きらきら星」のテーマを使った遊び心あふれる新作(委嘱作品・初演)が聴けたこちらの公演も。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第3回公演 小児がんチャリティコンサート」(2021/11/23)。クオリティの高さと楽しさ親しみやすさが同居する、心温まる演奏会。隠れた名曲グラナドスに王道メントリの素晴らしさ。そして世界初演パスカル・ヒメノは斬新で超面白かったです!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~日曜日の宗利音(2022/11) レポート

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今回(2022年11月)の札響名曲シリーズは、若手指揮者の松本宗利音さん(~2021年3月 札響指揮者)によるオールロシアプログラムです。協奏曲のソリストは、6歳からロシアで研鑽を積んだというピアニストの松田華音さん。親しみやすい演目が揃っていたためか、会場は9割ほどの席が埋まっていました。また、今回私は高2の息子を誘い一緒に聴きました。


札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~日曜日の宗利音
2022年11月06日(日)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
松本 宗利音

【ピアノ】
松田 華音

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
バラキレフ:3つのロシア民謡の主題による序曲
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
ソリストアンコール)チャイコフスキー:18の小品op.72より第18曲「踊りの情景(トレパークへの誘い)」

グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲
ムソルグスキーリムスキー=コルサコフ編曲):「ホヴァンシチナ」より"モスクワ川の夜明け"
ボロディン:「イーゴリ公」より"だったん人の踊り"
ハチャトゥリアン:「ガイーヌ」より剣の舞、子守歌
チャイコフスキー:スラヴ行進曲
(アンコール)チャイコフスキー:「弦楽セレナーデ」よりワルツ


松本宗利音さん、おかえりなさい!松本さんが大好きというロシア(スラブ)音楽は、民族色の濃いものから都会的なものまで個性豊か。いずれも気合いの入った演奏でとっても楽しかったです!若きマエストロの里帰りに、札響メンバーもノリノリだったのでは?オケは、金管打楽器の大活躍ぶりに、木管の歌心、そして土台を作る弦の美しさと安定感――奏者の皆様が、帰ってきた私達のシューリヒトの思いをすべてくみ取ろうと、全身全霊で応えていらした好演と私は感じました。また、「ロシア音楽の伝道師」である松田華音さんのピアノは、力強さと音の厚み(ロシアピアニズム?)に加えて、1音1音がキレイ(※素人の感覚的な話で失礼します)で洗練された印象と、特に中間楽章では繊細さも感じられる、とても贅沢なものでした。この布陣でロシア音楽をたっぷり堪能できた私達は幸せです!ロシアによるウクライナへの侵攻が行われている現在、もしかするとオールロシアプログラムの演奏会開催への抵抗感はあったかもしれません。しかし松本さんも仰った通り「芸術に罪はない」ですよね。当初の予定通りで開催し、かつ素晴らしい演奏で客席を沸かせたことに敬意を表します。

今回、耳なじみのある演目が多いこともあってか、うちの高2の息子(※授業以外での音楽経験ナシ)も楽しく聴いたようです。のめり込むように聴きながら、演奏の様子を3階席から双眼鏡で熱心に観察していました。そして終演後は、例えばピアノ協奏曲のピアノのすごさや、"だったん人の踊り"の「異国の雰囲気」など、彼なりに感じたことを私に話してもくれました。私が息子に教えられることは何もありませんが、親子で同じ演奏を聴いてフラットに色々とおしゃべりできたのはうれしかったです。U25のチケット料金はお安く設定されていますし、今回のように聴きやすい名曲が揃った会ならビギナーでも無理なく聴けます。若い人達への門戸を広くしている札響に改めて感謝です。


指揮の松本宗利音さんによるプレトーク。昨年に3年間の任期満了で札響を離れたことと、その札響に戻ってこれたことに感謝している、といったお話から始まりました。札響とのご縁は、2017年に札響から松本さんへFacebookのメッセージャー経由で出演依頼が来たのが始まりだそう。まだ事務所に所属していなかったため直接連絡となったわけですが、最初は「詐欺かと思った」そうです(笑)。その後2018年に北広島でのコンサートに登壇したのが初仕事。プロデビュー後のお仕事としてもまだ2回目だったそうで、その時のプログラムはベートーヴェンの序曲「コリオラン」と交響曲第2番という「玄人向けの選曲をしてしまった」。しかし初仕事以降、当時のコンミス・大平まゆみさんが目をかけてくださって、大平さんにはとても感謝していると仰っていました。2019年に札響指揮者に就任してからは紋別や釧路など様々なところに行き、「美味しい物を食べた」(!)……旅の楽しみはなんといっても食べる事ですよね。わかります!また、コロナ禍で半年ほど仕事が無くて「やべえ」(お若いですね・笑)となったことも。ちなみに持続化給付金を元手にして車を購入したそうですよ。任期満了後も札響とは良い関係でいられて幸せ、と仰る松本さんが今回挑むのは「大好きなロシア(スラブ)の演奏会」。なおプログラムが決まったときはまだ戦争は起きていなかったことと、「芸術に罪はない」とも仰っていました。今回共演するピアニストの松田華音さんについては、小さい頃からロシアで研鑽を積んだことをご紹介くださり、「ロシア音楽の伝道師」である素晴らしい音楽家、と絶賛。演目については、「ロシア五人組の中では比較的マイナーな」バラギレフの作品について、「チャイコフスキーストラヴィンスキー?と思うようなメロディが登場します」と解説。「しゃべりすぎてもいけないので」と、ここで区切り、ごあいさつしてトーク終了となりました。


1曲目は、バラキレフ「3つのロシア民謡の主題による序曲」。パワフルな序奏に続いて登場した主題は、素朴でゆったりした優しい響き。木管が歌うのを支える、高音弦の透明感や弦ピッチカートのパート毎のリレーが印象的でした。次に登場した主題が、チャイ4でも引用されている「野に立つ白樺」でしょうか?クラリネットから始まった素朴な主題が変化しながらテンポ良く流れ、派手な盛り上がりに。弦ピッチカートやシンバルと大太鼓が活躍するところ等、楽しく聴けました。ただ、私はストラヴィンスキーバレエ音楽ペトルーシカ」にも引用された「ピーテル街道に沿って」がどこに登場したかを掴めず(ごめんなさい!)。静かに消え入るラストは木管群、中でもフルートの余韻がとても印象的でした。

ソリスト松田華音さんをお迎えして、チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」。第1楽章、開口一番のカッコ良すぎるホルンとパワフルなオケに続いて、ピアノの登場。なんて華やか!なんて生命力!低音から高音まで自在に駆け抜ける躍動感や音のきらびやかさに、私は瞬時に心掴まれました。ゴージャスなオケの、シーンを変えた金管群の温かな音色が心に染み入り、続くピアノは細かくステップを踏むような前のめりな演奏。また次にシーンを変えた木管群に続いたピアノは切なく美しく歌う演奏と、その変化が素敵でした。そこから厚みを増していくピアノの力強さがインパクト大!弦のピッチカートに乗って細かく音を刻むピアノと、弦の滑らかな流れに乗ってピアノもまた滑らかに奏でる、ここにも表情の変化が。長いピアノ独奏では、キラキラした高音にぐっと深みのある低音といった多彩な音を、緩急つけドラマチックに聴かせてくださいました。オケと一緒に駆け抜けた楽章締めくくりの重厚さがすごい!第2楽章、穏やかな流れで、やわらかなフルート独奏とオーボエ独奏にまず心奪われました。対話するピアノ独奏もまたやわらかな響きで、前楽章とは違う魅力がありました。同じメロディをチェロの2トップが歌ったのも素敵!後半、ホルンの牧歌的な響きに重なるピアノ独奏は、やわらかさだけでなくきらびやかさが加わったと感じ、その繊細な変化がとても印象的でした。第3楽章は、ピアノが奏でる有名なメロディがクールでカッコイイ!輪郭がくっきりと感じられ、舞曲のようなリズム感でも洗練された都会的な印象を受けました。オケとテンポよく掛け合うのが気持ちイイ!オケが沈黙したところでのピアノ独奏は、華やかと力強さそして音の厚みが素晴らしく、圧倒されました。クライマックスでは、壮大なオケと対等な、ピアノの音の多さとパワフルさがすごい!なんて贅沢な音の響き!ロシア音楽の伝道師・松田華音さんと札響によるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。この最高のコラボによる好演はとても清々しく、私は気分爽快になりました。

ソリストアンコールは、チャイコフスキーの18の小品op.72より第18曲「踊りの情景(トレパークへの誘い)」。はじめのうちは休符を挟みながらタッ・タンというリズムで、ダンスする2人が互いに距離感を確かめているようにも感じました。次第にテンポが速くなり、2人がくるくると回って踊るような音楽が楽しい!また私はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」にある「トレパーク」を思い起こし、それと同じリズムを感じられたのもうれしかったです。協奏曲のダイナミックで厚みのあるピアノから、素朴な舞曲の楽しさまで、松田華音さんのピアノの魅力を堪能できました。素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半。最初は、グリンカルスランとリュドミラ」序曲。冒頭、弦の高速演奏がすごい!勢いのある華やかな音楽に気分があがりました。独特のリズムが楽しく、一度聴いたら忘れられない元気なメロディ!それを弦が歌うと華やかで、木管が歌うとなんだかかわいらしい感じがしました。また、チェロが優雅に奏でた民謡風のメロディを引き継いだヴァイオリンがふと陰りを見せたのが印象に残っています。金管群が華々しいフィナーレがカッコイイ!

ムソルグスキー「ホヴァンシチナ」より"モスクワ川の夜明け"。今回はムソルグスキーと同じくロシア5人組リムスキー=コルサコフによる編曲版が取り上げられました。ヴィオラ、続いてフルートによる出だしは、穏やかに朝日が差し込んできたかのよう。木管が順番に歌う、美しくどこか哀しいメロディが心に染み入りました。主役の木管を下支えする弦も良い仕事をしていて、高音のトレモロや音階を駆け上る演奏は川のさざ波のよう。壮大なホルンの下で、ティンパニタムタムがごく控えめに入っていたのも印象的でした。ラストのフルートの余韻が素敵!

ボロディンイーゴリ公」より"だったん人の踊り"。個人的には、実家の父が聴いていた合唱入りバージョンの録音でなじんでいましたが、今回のように管弦楽のみでの演奏もとても楽しめました。冒頭の木管群の美しさ!そして、来ましたオーボエ独奏!東洋的なメロディを首席の関さんが艶やかに魅力的に聴かせてくださいました。引き継いだイングリッシュホルン独奏は宮城さん。オーボエより低い音色での歌が音楽に深みを作って素敵でした。北の大地を駆け抜けるような壮大なところを経て、ティンパニの強打からの全員参加の大盛り上がり!打楽器大活躍!音階を一歩ずつ上がるところも、一気に下るところも、重低音が効いたところも、超カッコイイ!ダイナミックな響きに理屈抜きで血が騒ぎます!また低音金管とホルンが個性的なザラザラした音を発して、ある種の不気味さを演出したのもとても良かったです。盛り上がりの谷間での、次を期待させる弦のピッチカート&音を刻む演奏とスピード感ある木管にゾクゾク。冒頭のオーボエのメロディを弦が奏でたところが美しく、ほっと一息つけました。パワフルで明るいフィナーレまで、気合いの入った全力疾走の演奏に、会場の熱気も最高潮に達したようでした。

ハチャトゥリアン「ガイーヌ」より。まずは「剣の舞」。はじめのティンパニ&打楽器陣からガツンと来る、高速大迫力テンションMAXの演奏!否応なしに勢いに飲み込まれました。木琴がキレッキレ!メロディを高速で歌う木管群と金管群の大音量が気持ちイイ!中盤ほんの少し落ち着いたところがあり、チェロとサックスの重なりが素敵でした。続いて「子守歌」は、雰囲気がガラリと変わり穏やかな音楽に。オーボエ独奏から入った、木管群の少し哀しげな歌がとっても素敵!メロディを引き継いだ弦が美しい!鉄琴(演奏は先ほどの木琴と同じく大家さん)が控えめにアクセントを入れたのも印象的でした。ラストの高音でフェードアウトしたフルートが素敵!ちなみに息子は有名な「剣の舞」とのギャップからか、この「子守歌」の演奏がとても印象に残っていると後から言っていました。

プログラム最後の演目は、チャイコフスキー「スラヴ行進曲」。低弦とティンパニによるぐっと重厚な出だしに心掴まれ、ロシアの民謡風の哀愁あるメロディが心に染み入りました。音の数が多い弦楽合奏(この演奏には圧倒されました)は確実に歩みを進めながら徐々にエネルギーを増していき、感情の高まりが頂点に。そこからの壮大な演奏がすごい!金管のパワフルかつ温かな音色と、リズムを刻むパンチの効いた打楽器群。中でも何度もジャーンと鳴るシンバルの存在感!3日前の「新世界より」で一度きりのシンバルを控えめに鳴らした大垣内さんの快演はとても清々しかったです。フィナーレでは、打楽器だけでなく弦も音を刻んで行進曲のリズムを作り、全員参加の大迫力の中、トランペットのファンファーレが超カッコイイ!可憐さ美しさのバレエ音楽とはひと味違う、チャイコフスキーの骨太な魅力が感じられ、最後に思いっきり気分があがりました!

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アンコールは、チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」よりワルツ。優雅で美しい音楽を札響の弦で味わえる幸せ!他の弦が沈黙し、ヴァイオリンだけで奏でたところは天使が舞い降りたかと思うほどの美しさ!そしてチェロが主役となって最初のメロディを奏でた、甘く優しい音色が素敵すぎました。このチェロはヴァイオリンに恋してますよきっと。私はバレエ音楽の華やかなワルツももちろん好きですが、弦のみで穏やかに美しく奏でるワルツも好き!ちなみに息子はこの曲を気に入ったようで、演奏が終わってすぐ「今のは何て曲?」と私に質問。「チャイコちゃんの弦楽セレナーデの第2楽章だと思う」と答えた私は、ホールを出てからロビーでアンコールボードを確認し、ほっとしました。よかった合ってた(笑)。おかげさまで親子で楽しい時間を過ごすことが出来ました。松本宗利音さんと札響の皆様、素敵な演奏をありがとうございました!松本さん、これからも時々は札響に里帰りしてくださいね。既に決まっている2023年年末の第九の指揮、楽しみです!


この日の3日前に聴いた「第19回 北海道信用金庫 札響クラシック&ポップスConcert」(2022/11/03)。尾高忠明さん指揮による定番曲の安心感とジョン・ウィリアムズの映画音楽。ソロ演奏はさすが私達のコンミスと首席!耳なじみある音楽を迫力のサウンドで思いっきり楽しませて頂きました。

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こちらも私は高2の息子と一緒に聴きました。「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック」(2022/05/03)。札響を指揮したのは、松本宗利音さんと同期の太田弦さん!角野隼斗さんのピアノは自由な感じで、ソリストもオケもノリノリ♪マエストロのコスプレまで、モリモリMAXな楽しい演奏会でした。

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約1年半前の演奏会になりますが、こちらも息子と一緒に聴きました。「北海道応援コンサート~親子で聴くチャイコフスキー@市民ホール」(2021/03/19)。指揮・松本宗利音さんと札響による、チャイコフスキーバレエ音楽の「いいとこ取り」コンサート。休憩なしの約60分間、親子でずっと夢中になれた演奏会でした。高校受験が終わってほっとしていたこの頃がまるで昨日のことのように感じられるのに、来年はもう大学受験……月日の経つのが早すぎます(苦笑)。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

第19回 北海道信用金庫 札響クラシック&ポップスConcert(2022/11)レポート

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北海道信用金庫が毎年開催している、札響クラシック&ポップスConcert。原則として文化の日に開催され、親しみやすい演目が取り上げられます。第19回となる今年(2022年)のポップスは、ジョン・ウィリアムズの映画音楽がテーマ。また指揮は北海道信用金庫の主催公演ではおなじみの尾高忠明さんが3年ぶりの登壇です。なお、チケットは早い段階で全席完売したそうです。

 

第19回 北海道信用金庫 札響クラシック&ポップスConcert
2022年11月03日(木)13:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
尾高 忠明(名誉音楽監督

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】(司会:宇都宮 庸子)
<オープニング>
村井邦彦:虹と雪のバラード

<第1部>クラシック
ドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より

<第2部>ポップス~ジョン・ウィリアムズの世界~
「レイダース/失われたアーク」より レイダース・マーチ
シンドラーのリスト」より メイン・タイトル(ヴァイオリン独奏:会田 莉凡)
E.T.」より フライングテーマ
セブン・イヤーズ・イン・チベット」より テーマ(チェロ独奏:石川 祐支)
スターウォーズ」より メインタイトル

(アンコール)J.シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲


耳なじみのある音楽を迫力の札響サウンドで思いっきり楽しませて頂きました!当日の満員の会場の熱気からも、また販売開始して早々にチケットが完売したことからも、このような企画を札幌市民は待ち望んでいると私は強く感じました。コロナ禍において感染症対策を万全にした上で、全席2500円というリーズナブルな価格で、こんなに充実した演奏会を提供くださった北海道信用金庫さんにお礼申し上げます。また、一部の座席は盲学校の生徒さん達をご招待したとのこと。「ひまわり財団」を通じての社会貢献活動にも頭が下がります。

個人的に楽しみにしていたジョン・ウィリアムズの映画音楽は、壮大で明るくパワフルな音楽と、じっくりしっとり聴かせるソロ演奏が素敵な音楽、その両方をたっぷり楽しめてうれしかったです。ソロ演奏はさすが私達のコンミスと首席!札響メンバーはお一人お一人が素晴らしい演奏家でいらっしゃると改めて実感しました。スターソリストをお招きするのも良いけれど、もっと札響メンバーによるソロ演奏を聴きたいと、私は率直に思います。また尾高さんはご自分のことを「映画のセールスマンみたい」と仰るほど、曲の合間のトークでの映画にまつわるお話のあれこれは多岐にわたり、尾高さんの映画への愛が伝わってきました。ちなみに2018年の第16回公演の際、尾高さんは「指揮者になっていなければ映画監督になりたかった」と仰っていたと私は記憶しています。尾高さんの作品への理解と何より愛がある演奏のおかげで、ほんの短い演奏時間でも私達はその映画の世界にどっぷり浸ることができました。今回取り上げられたジョン・ウィリアムズの映画音楽は、クラシック音楽ではなかなか出会えないリズム感が新鮮!その一方、高音の美メロだけでなくがっちり低音の支えが効いている曲作りはクラシック音楽とも共通すると私は感じました。「100年後にはクラシック音楽の定番曲になっている」との尾高さんの言葉、本当にその通りだと思います。クラシック音楽とポピュラー音楽に本来垣根はないはず。来年度以降も、ぜひ尾高さんセレクトによるポピュラー音楽を、愛あふれる演奏で聴かせてくださいませ!

そして、超定番の「虹と雪のバラード」と「新世界より」、アンコールの「ラデツキー行進曲」も楽しかったです。いつものレパートリーを誠実に演奏するのはとても大切なことですよね。それに定番曲は聴く度に新たな発見があるのが楽しいです。例えば「新世界より」では、フルートが1stだけでなく2ndもソロ演奏をするとか、金管オンリーと思っていたところは木管も入っていたとか(※こんなレベルで申し訳ないです)。ちなみに今回私は2RAで聴いていましたが、オケを横から見ることで普段は見逃してしまいそうな魅力にも気付くことができました。特に、弦の皆様の演奏姿の美しさにはホレボレ!2階のステージ横の席は、一般的にはチケット代がお安いエリアでもありますから、一部の見切れを承知の上で選ぶのはアリ!と思いました。


オープニングはおなじみ村井邦彦「虹と雪のバラード」。1972年2月開催の札幌オリンピックのテーマソングで、北海道信用金庫が主催する札響コンサートでもテーマ曲として取り上げてきた演目だそう。冒頭のティンパニから気持ちを掴まれ、おなじみのメロディに聴き入りました。ほんの一部ですが、チェロが2パートに別れて演奏していたところを発見。サビの盛り上がるところの金管群とドラムセットがカッコイイ!今回の演奏もとっても素敵でした!

今回の「クラシック」は、超定番のドヴォルジャーク交響曲第9番新世界よりです。第1楽章、中低弦による静かな出だしに、重なる木管群。安定の演奏に聴き入りました。大迫力のティンパニに続いた、弦のトレモロにホレボレ。シャープな音もさることながら、その一糸乱れぬ弓の動きが超カッコイイ!比較的舞台に近い座席で横からオケを拝見すると、こんな発見もあるのがうれしかったです。クレッシェンドで盛り上がっていくところの力強さ!そして今回、フルートがやや低めの音で物悲しく優しく歌うところがとても心に染み入りました。第2楽章、低音木管金管群による出だしは、チューバもいるオーソドックスなスタイル。ぐっと重厚感のある響きでした。「家路」のメロディを歌うイングリッシュホルンは宮城さんがご担当。耳なじみのある温かな響きに癒やされました。併走するクラリネットの低音も素敵!弦楽合奏の澄んだ響きに、やはり弓の動きが美しく、耳と目でそれを堪能。また木管群が哀しく歌うところでは、弦の下支えの職人技を今更ながら実感しました。そして、弦楽八重奏、続いて弦楽三重奏へ。まるで惹かれ合う恋人同士の語らいのような、温かで優しい響き!kitara大ホールでのフルオケ演奏の中、この一瞬だけ弦楽三重奏に浸れる贅沢!何度でも聴きたい!雰囲気がガラリと変わる第3楽章は、新大陸を列車が走る勇ましさにゾクゾク。それだけでなく、各パートで細かくメロディを受け渡すところの職人技を目でも確認できたのがうれしかったです。途中下車(?)での明るい舞曲では、楽しくステップを踏むような木管群やヴァイオリンと、それを下支えする中低弦の重なりが素敵!再び盛り上がってくる波がまた良かったです。全員参加の力強い1音によるシメから、そのまま続けて第4楽章へ。冒頭の、弦楽合奏による低音が超カッコイイ!金管群の勇ましいところは、実は木管群も頑張ってくださっていたとは……今まで気付かずごめんなさい!また高音弦と呼応する低弦がやはり個人的にツボ。一打のみのシンバルを見届け、木管群が順番に歌うところで、合いの手を入れるチェロが印象的でした。これが別のところでは弦楽合奏が歌うところで木管群が合いの手を入れたのが面白かったです。聴きやすいメロディに変化が多い流れで、一瞬たりとも退屈しない音楽。何より毎回真剣な演奏で聴かせてくださる札響の皆様のおかげで、今回も楽しく聴くことができました。


後半は「ポップス」。今回は「ジョン・ウィリアムズの世界」です。最初は「レイダース/失われたアーク」より レイダース・マーチ。♪ダッ・ダダダダ・ダッダ♪のリズムに乗って、パワフルな金管がカッコイイ!迫力ある演奏によるおなじみのメロディに、客席のテンションも一気にアップした印象。中盤、少し落ち着いたところでのホルンと低弦の重なり、そこに続いたヴァイオリンとチェロが語らうようなところが個人的にツボでした。チェロはいつもクールですが、対するヴァイオリンの甘やかで美しい音色がすごく良くて!このヴァイオリンはチェロに恋してますよきっと!こんな素敵なシーンがあった意外性も楽しかったです。

シンドラーのリスト」より メイン・タイトル。ヴァイオリン独奏はコンミスの会田莉凡さんです。会田さんは、着席していたイスの前に立って演奏されました。オケの序奏に続いて登場した、独奏ヴァイオリンのぐっと深く哀しい音色!瞬時に世界を変えた音に、私ははっとさせられました。私の場合、弦は最初の音に心掴まれてしまったら、もう完敗です。いっそう切なさを際立たせたハープ、ありがとうございます!深い哀しみは、高音になると魂の叫びのようにも感じられ、包み込むオケが哀しいのにどこか温かく、心に染み入りました。木管群と呼応したところでは、中でもイングリッシュホルンの低く物悲しい響きが印象に残っています。ラストは、独奏ヴァイオリンがはかない高音でフェードアウト。短い演奏時間でこれほどまでに感情を揺さぶるヴァイオリン!超素敵でした!

E.T.」より フライングテーマ。最初からテンションMAXの清々しいオーケストラサウンドに、広大な世界が広がったようでした。華やかな高音だけでなく、ぐっとアンカーとなる低音もしっかり効いているのが好き。ハープや鉄琴など、客演による演奏も存在感抜群!澄んだ響きの弦、楽しくかわいらしい木管、パワフル金管と、札響の良さが全部入り!全体的に大音量大迫力での演奏の中、クライマックス直前での清涼剤のようなピッコロ独奏が印象的でした。

セブン・イヤーズ・イン・チベット」より テーマ。チェロ独奏は首席奏者の石川祐支さんです。トークの時間で第1ヴァイオリンの前に演奏台が設置され、石川さんはそちらに移動。またチェロパートは副首席から順番に繰り上がりで座席を移動なさっていました。壮大なオケの前奏に続いて、独奏チェロの登場。なんというか、哀しみをたたえた艶やかな音が素敵すぎて……もう絶対に敵いません。歌う独奏チェロに引き込まれ、特に高音に振れたときの切なさに胸打たれました。中盤、オケが東洋的な響きになって(中国の音階のような?また個性的な打楽器も存在感ありました)、そこに続いた独奏チェロもまた東洋的な音色に変化(!)。演出として揺らぐ音がすごく良かったです。ラストは、独奏チェロがぐっと低い音で闇に沈んでいくような演奏をされたのが忘れられません。私はまだまだチェロの魅力を知らなすぎる……今回もまた未知の音に出会えました!

プログラム最後の曲は、スターウォーズ」より メインタイトル。最初からテンションもりもりMAXの華々しいオーケストラサウンドに、スケール無限大の世界が広がりました。少し穏やかになってからの、美しいハープと重なるピッコロ独奏が素敵!♪ダン・ダン・ダダダダ♪のティンパニ強奏と同じリズムで音を刻む弦が楽しい!ホルンのパワフルでスケールの大きな響き!中低弦が主役となって歌うところがあったのがウレシイ。フィナーレは、パワフルな金管群にティンパニとドラムセットが超カッコイイ!大盛り上がりの締めくくりに、満員の客席の気持ちも最高潮に達しました。

カーテンコールの後、アンコールへ。定番のJ.シュトラウス1世「ラデツキー行進曲。指揮の尾高さんは時々客席の方を向いて、手拍子しながらお客さん達の音頭取り。今回の客席は比較的慣れているかたが多かったのか、手拍子はうまくてテンポが合っていたと私は思います。舞台にいる奏者のかたも、出番がないピアノや管楽器・打楽器の一部のかたが一緒に手拍子に加わってくださいました。中間部は手拍子はお休み(ここを間違える人はいませんでした)、じっくり演奏を聴くことができました。後半はまた手拍子で盛り上がり、華やかに締めくくり。とっても楽しかったです!定番曲の安心感と、多彩なジョン・ウィリアムズの世界。100年後もきっと聴かれている曲の数々を、尾高さん指揮による札響の演奏で聴けてうれしかったです。素晴らしい企画と演奏をありがとうございました!

終演後、司会のかたからご挨拶と、「ひまわり財団」への支援呼びかけ、来年度も11月3日にコンサート開催予定などのお話がありました。そして分散退場へ。最近は分散退場を取りやめている公演も多いですが、今回は満席だったこともありますし、混雑緩和のためにも良かったのでは?ちなみにチケット購入時には、時間を区切った入場整理券もセットで渡されました。万全の感染症対策をした上での演奏会の開催、改めて感謝です。来年度以降も素敵な企画をお待ちしています。


企業主催公演といえばこちらも。「タナカメディカルグループ主催 札幌交響楽団 無料招待コンサート2022」(2022/09/21)。指揮・横山奏さん ピアノ・石田敏明さん。リストの協奏曲では重厚なオケに負けない力強く優雅で美しい響きのピアノに魅了され、後半の有名曲の数々も高クオリティ。気分爽快になりました!

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kitara大ホールにて堂々たるソロ演奏で2000人超を魅了した、札響首席チェロ奏者・石川祐支さんが、20人弱の聴衆を前に弾いてくださった演奏会はこちら。「第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ」(2022/10/15)。小さな会場にて、少人数で聴くサロンコンサートはとても贅沢!秋に聴きたいチェロの小品の数々を、作品への愛が感じられる素敵な演奏で聴かせてくださいました。トークも楽しかったです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第648回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/10)レポート

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今回(2022年10月)の札響定期は、首席指揮者のバーメルトさんが今年5月以来となる久しぶりの登場です。また、今をときめく若手チェリストの佐藤晴真をソリストにお迎えするのは2021年2月のhitaru定期から1年9ヶ月ぶり。そしてメインの「戦時のミサ」では、第九以外で札響合唱団が出演するのは3年ぶりとのことで、大変注目されていました。

今回のオンラインプレトークは、札響の首席チェロ奏者 石川祐支さんと首席ティンパニ・打楽器奏者 入川奨さんがご出演。今回ソロの見せ場がたっぷりあるお二人が、ソロパートだけじゃない今回のプログラムの魅力をたっぷり語ってくださっています♪

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札幌交響楽団 第648回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年10月22日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
マティアス・バーメルト

【出演】
佐藤 晴真(チェロ)

安井 陽子(ソプラノ)
山下 牧子(メゾソプラノ
櫻田 亮(テノール
甲斐 栄次郎(バリトン

札響合唱団(合唱)
(合唱指揮:長内勲、大嶋恵人、中原聡章)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」
C. P. E. バッハ:チェロ協奏曲 イ長調
ソリストアンコール)J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 より サラバンド

ハイドン:ミサ曲ハ長調「戦時のミサ」


自分にとってはなじみが薄いミサ曲に、やや構えていた私。しかし今回の「戦時のミサ」は、合唱と4名の独唱がストレートに心に響き、その美しさに浸ることができました。人の声って良いですね!たとえ言葉の意味がわからなくても、その思いは共有できたと感じます。結局のところ人が歌うのは音楽の原点なのかも。そして演奏はもちろんのこと、ラストの音が消え入った後の静寂がとても良かったです。国際情勢や感染症拡大、それ以前にただまっとうに生きていくだけでも、心がざわつくことばかりの昨今。心の平穏を求める祈りのような時間があったのは、大変ありがたいことでした。一般受けする演目ではないためか、会場に空席が目立ったのがもったいない。しかし、トレンドとも奇抜さとも無縁の、長く生き続ける作品を折に触れて取り上げていくことが、クラシック音楽ではとても大切なのだと私は思います。多くの財団からの支援があったのもありがたいです。今の時代に大変重要な演目を取り上げ、素晴らしい演奏で私達に聴かせてくださった、バーメルトさんと札響の皆様、そして札響合唱団の皆様にお礼申し上げます。特に合唱は、コロナ禍もあり、人が集まっての練習は大変だったことと存じます。思いを一つにした合唱はとても心に響きました。ありがとうございます!

またC.P.E バッハのチェロ協奏曲では、まずソリスト・佐藤晴真さんの以前よりさらに深みを増した音に触れられたのがうれしかったです。独奏チェロは存在感ありながらもオケに溶け込んでいたと私は感じました。加えて、オケの室内楽のような緻密なアンサンブルによる古風な響きがとても新鮮!私が古風だと感じたのは、チェンバロの影響だけでなく、弦の音色自体がバロック期の音楽を思わせる硬質な音(うまく言えず申し訳ありません)だったからだと思います。おそらくスチール弦を張ったモダン楽器でも、こんな音で表現できるんですね!札響の弦メンバーのお力を改めて認識しました。こんなチェロ協奏曲に出会えてうれしい!個人的に、チェロはヴァイオリンと比べて協奏曲の数が少ないのをもどかしく感じていました。しかし私が知らないだけで、隠れた名曲はまだまだあるのかも!?これからもあまり知られていない作品を積極的に取り上げ、私達に聴かせてくださいませ。

そして1曲目のメンデルスゾーンの序曲では、バーメルトさん流の強弱の変化がしっかり感じられたのがうれしく、前回の定期での「海」とはまた違った「海」に出会えました。シーズンテーマに添って毎回異なる曲が聴けるのは良いですね!今回の「水」にまつわる曲も楽しかったです。


1曲目はシーズンテーマ「水」にちなんだ曲、メンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」。プログラムによると札響演奏歴は過去に5回で、前回の演奏は2009年10月だそうです。静かな出だしでは、海の深さのような重低音の低弦がとても印象的でした。高音弦と木管が美しい、穏やかな音楽は凪を思わせる響き。ヴィオラが美メロを奏でたところも印象に残っています。穏やかなところから少しずつ盛り上がり、パワフルな強奏に気分があがりました。盛り上がっては少し穏やかになる流れは、さすがバーメルトさん流の強弱の変化!また弦のうねりに、前回の定期での「大洋女神」のうねりとは違う海が感じられました。チェロパートが主役のところがあったのがウレシイ。そしてクラリネットが大活躍でした。来ましたティンパニのソロ!オンラインプレトークでお話があったため、私は楽しみにしていました。パワフルで存在感抜群!またティンパニが強く鼓動を刻むリズムで、オケの弦も跳ねるような演奏をしたのも楽しかったです。クライマックスでは、ティンパニに乗った金管が華やか!そしてオケ全体で盛り上がった後、ラストは波が引いていくように、冒頭の静かな凪を思わせる響きで締めくくったのも素敵でした。深く大きな海の上を、希望を抱いて航海する楽しさが感じられ、聴いていて気分爽快になりました。

ソリストの佐藤晴真さんをお迎えして、2曲目はC.P.E.バッハ「チェロ協奏曲 イ長調。札響初演です。編成は、独奏チェロと弦そしてチェンバロ。弦の5パートの人数は8-6-4-3-1と、少数精鋭でした。第1楽章、華やかな冒頭から素敵!高音の澄んだ明るさに、対する低音の安定感。独奏チェロははじめのうちはオケのチェロパートと同じ低音を演奏し、ずっとベースを作っているチェンバロとの重なりが古風に感じられて新鮮でした。満を持して独奏チェロのソロ演奏が登場。最初の深い音がぐっと来て引き込まれました。ああ佐藤さんのこの音!以前hitaruで聴いたハイドンの協奏曲より、さらに深みが増したように感じました。チェンバロとシンクロして歌う独奏チェロは、大声で主張するというよりは、大人の落ち着きで幸せを語っているよう。オケの弦が独奏の合間でさらに明るく盛り上げてくれて、独奏とオケとの室内楽のような密な絡みが素晴らしく、多幸感に聴き入りました。第2楽章は、重く哀しげな音楽に。ゆったりした流れの中で、じっくり歩みを進めるオケに続いて登場した独奏チェロ。はじめの高音の儚さも、少し低音になってからの切なさもとても素敵で、心に染み入りました。独奏を控えめに下支えするオケの低弦とチェンバロが、ぐっと深みを作ってくれたのも印象に残っています。再び快活になる第3楽章は、オケの高音弦が明るいのにどこか哀しい感じなのが印象的。独奏チェロもまた、甘く優しく歌っても内に秘めたものがあるようで心に響きました。また速いテンポかつ明るい流れの中で、少しゆったりするところの優しい響きがかえって印象に残り、良いアクセントになっていたと感じました。独奏とオケがダンスしているように、軽やかに駆け抜けた音楽。独奏チェロとオケの弦、いずれもその古風な響きの良さをしみじみ味わえました。

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ソリストアンコール、22日はJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番」より サラバンド。2021年2月のhitaru定期でも演奏された曲です。ゆったりとした舞曲のリズムに、重音の深い厳かな響きがとても印象的。hitaruとkitaraの響きの違い以上に、佐藤さんの音自体がグレードアップしたと、おこがましくも私は率直に感じました。やはり大バッハ無伴奏チェロ組曲は原点ですね!今の佐藤さんの演奏で拝聴することができ、うれしかったです。演奏機会が少ない協奏曲に加え、ソリストアンコールまで、素晴らしい演奏をありがとうございます!これからますますのご活躍を期待しています!これから先も佐藤さんのその時の音に、私は出会いたいです。お忙しいことと存じますが、時々は札幌にいらして演奏を聴かせてください!


後半はハイドンのミサ曲ハ長調「戦時のミサ」。こちらも札響初演です。プログラムには歌詞とその日本語訳が掲載されていました。4名のソリストの皆様はマスクなしでステージ前方に。合唱団の皆様はP席に1席飛ばしで入り、口元は大きな布(コーラスマスク?)で覆うスタイルでした。またオルガンはパイプオルガンではなく、コンパクトなものがオケ内に配置されていました。「キリエ」では、はじめの弦と木管の澄んだ響きに引き込まれ、合唱の登場で一気に気持ちが高揚。人の声は理屈抜きでハートに直接響きます!ソプラノ独唱の美しさ!ソリストの四重唱は神々しい!続けて合唱が盛り上がりを作ったところでは、あわせて強奏になったオケの高音も一緒に歌っているようでした。また、高音の下支えをする低音の良さが、全編にわたり個人的にツボでした。「グローリア」は合唱とオケ(トランペットの響きが素敵!)による華やかなところを経て、首席による独奏チェロの登場!穏やかなオケをバックに歌うチェロの心地良い響きは、ずっと聴いていたいほどでした。そしてほどなく登場したバリトン独唱は、穏やかなのにものすごく心に響く存在感!主を称える賛歌に説得力が感じられました。バリトン独唱や合唱のちょうど谷間に合わせて、美しいメロディの盛り上がりを歌う独奏チェロはさすがです。華やかな合唱再び。アーメンの繰り返しが印象的でした。「クレド」でも、はじめは華やかな合唱とオケ。中盤は厳かになり、バリトンから始まった各独唱と合唱が順番に語るような演奏。私は歌唱している部分をリアルタイムでは正しく把握できませんでしたが、ここは受難の場面かなとは想像しました。合唱と4名の独唱が交互にアーメンを繰り返す華やかなところでは、精神の高みが感じられました。「サンクトゥス」は、初めの穏やかなメゾソプラノ独唱に、重なるオケも繊細な響き。ここでは高音を活かすためか、低弦はチェロとコントラバスのそれぞれトップのみが演奏していたと思います。また穏やかな合唱に重なる木管の優しい響きが素敵でした。テノール独唱による賛歌が力強く華やか!「ベネディクトゥス」での、ソプラノが主役の四重唱がとても良くて、その神々しさに心が洗われるようでした。短調から長調へ、ほんの少しの変化で希望の光が見えてきた流れも素敵!「アニュス・デイ」は、穏やかな合唱とオケが、ティンパニに導かれてクレッシェンドしていくのが素晴らしかったです。強弱に一切の妥協をしないバーメルトさん流!ティンパニはごく小さな音から大音量まで存在感抜群で、まさに「太鼓ミサ」の要!そしてクライマックスの盛り上がりの合唱は圧巻でした。ラストに音が静かに消え入ってからも、しばらく会場は沈黙。祈りのような静寂の後に大きな拍手が起きました。オケと客席の気持ちが一つとなった感覚、この場にいられた私は幸せです!札響も札響合唱団も初演の大曲を、最後まで集中力を持って澄んだ響きで聴かせてくださり、ありがとうございます!来年度の「ドイツレクイエム」もどうぞよろしくお願いします!


【速報】2023-2024シーズン『札幌交響楽団主催演奏会』ラインナップが発表されました。定期演奏会のテーマは「夜」。合唱が入る「ドイツレクイエム」をはじめ、注目の公演が盛りだくさん♪今からとても楽しみです!

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前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第647回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/09/10)。フィンランド出身の指揮者オッコ・カムさんによるオールシベリウスプログラム。ソリスト三浦さんの独奏とオケの一体感。オケの音の波やうねり、グルーヴ感ある演奏に、札響とシベリウスの魅力を再確認しました。

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Quartet Explloce カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演(2022/10) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2022/08/221015.pdf
↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

「響炎する4本のチェロ」、カルテット・エクスプローチェが結成9年目にして北海道初上陸です。2022年の全国ツアーの初回が札幌公演でした。私は、ふきのとうホールのサイトでこの公演を知り、早速申し込み。なお平日夜開催かつチケットは直接販売のみだったにもかかわらず、会場はほぼ満席。またロビーにはフラワースタンドやフラワーアレンジメントがいくつも飾られていました。

Quartet Explloce  カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演
2022年10月17日(月)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
辻本 玲(N響チェロ首席奏者)
市 寛也(N響チェロ奏者)
森山 涼介(都響チェロ奏者)
髙木 慶太(読売日響チェロ奏者)

【曲目】
J.S.バッハ(ヴァルガ編):シャコンヌ
A.クライン:叙情的断章 op.1a
ポッパー:2つのチェロのための組曲 op.16

レンゲル:2つのチェロのための組曲 op.22
レンゲル即興曲 op.30

ペルト:主よ、平和を与えたまえ
ピアッティ:ヴァカンスにて

(アンコール)
フィッツェンハーゲン:アヴェ・マリア
ピアソラリベルタンゴ


カルテット・エクスプローチェ、最高です!この日までカルテット・エクスプローチェを知らなかったことを悔やむほど、私はこの日の演奏に夢中になりました。デュオ作品で魅せてくださった技術力と表現力の高さ。お一人お一人がこれほどまでのチェリストでありながら、カルテットでの驚きの一体感。そしてリミッター振り切るときは全力で行く底力!チェロ好きを自認していた私ですが、今までチェロの魅力を知らなすぎたとつくづく思います。これは素人考えで当たり前のことを言っていると叱られてしまうかもしれませんが、中でも私が驚かされたのは、それぞれ個性的な4つのチェロが見事に溶け合う親和性です。例えば弦楽四重奏やピアノトリオのようにチェロは1つだけの編成ならわからなくても、チェロが複数いる場合は1つでも微妙にズレがあるとそこが悪目立ちする気がします(あくまで個人的な感覚です)。そんな違和感がこの日のエクスプローチェには皆無でした。普段は文化が異なる別々のオケで活動されている皆様が、短期間で調弦や細かな奏法・表現方法そして音楽への思いをすり合わせ、このカルテットの音を創りあげているって、すごいことでは!?一朝一夕には到達し得ない、長く一緒に活動してこられた方達ならではの、メンバー全員が同じ方向を目指す気持ちの良い音!このブレない音があった上での気合いの入った演奏、素晴らしいです!今回のプログラムは、「エクスプローチェ始まって以来初めてのチェロアンサンブルのオリジナル作品にスポットを当てた」とのこと。原点回帰とも言えるチェロアンサンブルの古典作品の数々を、結成9年の経験を活かした最高の演奏で聴けた幸せ!今回がカルテット・エクスプローチェ初体験だった私は超ラッキーだったと思います。私はカルテット・エクスプローチェの演奏をもっと聴きたいです。古典作品でも編曲モノでも、詰まるところ演目は何でも大歓迎!近い将来、再び札幌に来て下さる日を心待ちにしています。

また演奏の合間のトークも楽しかったです。曲の解説のみならず、メンバーのキャラ紹介や学生時代の思い出やプライベートなことまで話題は多岐にわたり、会場は大いに盛り上がりました。一応メインMCは髙木さん(北海道当別町出身。なお各会場でのメインMCは出身地が一番近いメンバーが担当するそうです)でしたが、メンバー全員が次々とマイクを持ち発言。その交代の流れはとても自然で、学生時代からずっと付き合ってきた人達だからこその、良い意味での気を遣わない関係性がうかがえました。普段は別々に活動されている皆様が、ひとたび集まると学生時代と同じ気心知れた仲間に戻れるって、すごく良いですね!こんなにも心通い合った仲間が一緒に活動できるって、素直にうらやましいです。トークは楽しくて、すべてのトピックにツッコミを入れたいのはヤマヤマですが、ここでは一つだけ!「事務担当」と同じノリで出た、「イケメン担当(!)」というパワーワードについて。もちろん任命されたかたは間違いなくイケメンでいらっしゃいます。しかし、これほどまでにカッコ良くチェロを奏で、かつアンサンブルで爆発的な魅力を開花させる、カルテット・エクスプローチェの皆様は4名全員が超イケメンだと私は思います!


メンバーの皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、J.S.バッハ(ヴァルガ編)「シャコンヌ。カルテット・エクスプローチェのバイブル的な作品で、演奏会では必ず取り上げるそうです。4台のチェロによる重音の重なりが全力で来る冒頭からすごいインパクト!こんなにもガツンと来るにもかかわらず、最初からすっと受け入れられたのには自分でも驚きました。それはホールの音響の良さ以上に、やはり迷いのない説得力ある音がストレートに心に響いたからだと思います。メロディを丁寧にリレーしていくところの緻密さ。高音メロディに呼応する息の合った低音伴奏。堅牢な建築物のように音をきっちりと組み立てていく一方で、優しいメロディのところは柔らかな布のように心地良い響きでした。中盤に長調になり温かな音色で歌うところは、厳格な中に光がさしたよう。続く少し駆け足になる明るいところの多幸感。そしてラスト直前の、ぐっと空気を引き締めてくれた重低音がとても印象に残っています。こんなにたくさんの音が重なる贅沢な響きにもかかわらず、まるでソロ演奏のようにも感じられる一体感!そして完成度の高さ!1曲目にがっちり心掴まれ、私はこの後の演奏への期待が一気に高まりました。

A.クライン「叙情的断章 op.1a」。先ほどの厳格さから一転、ロマンティックな月夜の情景が目に浮かぶような、優しい響きの音楽でした。ゆったりと美メロを歌う高音が美しい!また、支える低音の安定感も良く、この支えがあるからこそ高音のメロディが映えるとも私は感じました。ラストの儚げなピッチカートによる締めくくりも印象に残っています。

前半最後はデュオの曲。市さんと辻本さんによる演奏で、ポッパー「2つのチェロのための組曲 op.16」。こちらの演奏がとにかく良かったです!はじめの柔らかな響きに早速気持ちが持って行かれ、美メロを2台が音程をずらして併走したり、伴奏側が音を小刻みにしたりと、デュオならではの良さを感じました。バロック期の舞曲のようなところでは、メインとサブが呼吸を合わせ、1音ずつ交代し演奏するのがすごい!これ絶対に難しいはず!しかしまるでソロ演奏のような脅威のシンクロ率で、流れを止めずに細かくテンポを変化させながら見事な演奏を聴かせてくださいました。田舎の舞曲風のところは、スキップするような音楽が楽しかったです。その後の、歌うチェロが表情豊かですごく素敵!まるで映画音楽のよう!支える方も、ジェットコースターのように波を作ったり、ピッチカートで寄り添ったりと、変化が多くとても良い効果を生み出してくださっていたと感じました。終盤は、ラブソングを歌っているように甘やかかつ情熱的!チェロの一番高い音と思われる音域で歌うところはインパクト大!そしてこの高音域から低音域へ駆け下りるところで、対するサブは低音域から高音域へ駆け上ったのも印象的でした。主役にも下支えにもなれるチェロ。そのチェロの両方の魅力が満載の演奏、思いっきり楽しめました!


後半の1曲目もデュオ。こちらは髙木さんと森山さんによる演奏で、レンゲル「2つのチェロのための組曲 op.22」。こちらも大変素晴らしかったです!インパクトある低音から入った出だしに、私は一瞬バッハの無伴奏を連想。重音がさらに重なる、厳格な響きがとても素敵でした。ほどなく、2台とも休みなしで忙しく弓を動かす演奏に。目の前で繰り広げられるすご技に圧倒されつつ、古風でありながら情熱的な響きを味わいました。歌曲を歌うようなところに心癒やされ、少し哀しげで繊細なところのリズム感がよかったです。ゆったりとしたところでは、温かく美しい響きがとても心に染み入りました。そして、終盤のメロディをリレーしながらの高速演奏がすごい!またもや圧倒されました。バッハの無伴奏を思わせる厳格さとチェロの歌心が同居する作品を、超絶技巧も歌うのも見事な演奏で聴けてうれしかったです。

再びカルテットによる演奏へ。レンゲル即興曲 op.30」。前半、穏やかで美しい音の重なりにうっとり。デュオも素敵だけど、やはりカルテットの四者四様の音色が重なるのはとても贅沢でさらに素敵!曲の後半、まずは1台から「パパパパーン♪」を低音で奏で、次第に参加者が増えていく、このだんだんと盛り上げていく流れがすごく良かったです。来ましたメンデルスゾーン「結婚行進曲」!高音のメロディがとっても華やか!超絶技巧をそうとは感じさせず、とても美しく歌ってくださいました。また対する低音が、美しいソプラノにハモる男前なバリトンのようで超カッコ良かったです。やっぱりチェロカルテットはイイですね!

ペルト「主よ、平和を与えたまえ」。ペルトは現在も存命で、エストニアの作曲家ですと紹介がありました。今回の演目は、元々は声楽の曲をチェロ四重奏へ編曲したもの。昨今の情勢から、「平和への願いを込めて」とのことです。3台による低音の重なりが、まるでオルガンの響きのように多声的!その上を、儚くかすれる声で歌う高音がとても美しく、崇高な教会音楽を聴いているようでした。チェロって、こんな音も出せてこんな表現もできるんですね!チェロの可能性と何よりメンバーの皆様のお力、ただただ敬服いたします。

プログラム最後の演目は、ピアッティ「ヴァカンスにて」。出発・到着・田舎の踊りと、ピクニックに出かける感じの3曲構成です。第1曲、ウキウキと4人で歩き出したような、1,2,1,2の小気味よいテンポの音楽が楽しい。4人それぞれの個性があり、しかし重なると同じ目的地へ向かっていると感じられたのがよかったです。第2曲、ピッチカートのリズムに乗ってゆったりと歌うチェロの音色がとっても素敵で、聴き入りました。中盤の高速演奏は、(演出として)仲間内で少し波風が立った感じ。第3曲、くるくると回っているような速いところも、ゆっくりステップを踏むようなところも、ずっと楽しい!細かくテンポが変化していくのを、4名全員が見事に同じ波長で演奏し、生き生きとした音楽を聴かせてくださいました。

カーテンコール。ごあいさつの後、「聴き足りないかたは、明日の福岡公演にいらしてください」との発言で会場に笑いが起きました。「来年のことはまだ何も決まっていませんが……」で、会場は大きな拍手。来年のツアーでもぜひ札幌へ来て頂きたいと、その日の会場にいた人達は皆そう思っていたはずです。「時間も時間なので」と、早速アンコールへ。フィッツェンハーゲン「アヴェ・マリア。やわらかな響きの美しい音楽。ゆったりとした流れの中、控えめに主張する美メロが心に染み入りました。秋の夜にそのまま眠りにつきたくなるような心地良さ。エクスプローチェの表現の幅広さを改めて実感しました。拍手喝采の会場にメンバー全員が戻ってきてくださり、なんとアンコール2曲目はピアソラリベルタンゴ!いったん心穏やかにさせておきながら、最後に超ド級の切り札を持ってくるとは!反則技では(最高に褒めてます)!?速いテンポで情熱的にガンガン攻める演奏は最高にアツイ!長丁場を全集中で演奏してきた皆様の、どこにこんなパワーが残っていたのかと思うほどの大熱演!クライマックス直前に2台のみで静かにじっくり聴かせるところがあり、次の瞬間、ガンと4名全員で床を踏み鳴らしてからのラストまでの全力疾走がすさまじかったです。会場がどよめき、ものすごい熱気の中で会はお開きに。「響炎する4本のチェロ」の初体験は超最高でした!アツイ夜を本当にありがとうございます!来年のツアーでもぜひ札幌はマストで!お待ちしています!


2016年7月リリースのCD「クァルテット・エクスプローチェ~響炎する4本のチェロ~」。私は自宅にてヘビロテ中です。どの曲の演奏も魅力的♪中でも私はポッパー「演奏会用ポロネーズ」とピアソラの3曲が好きすぎてつらいです(笑)。こちらのCD収録曲についても、いつか実演で聴けることを私は願っています。
※以下のリンク先で試聴および単品購入ができます。

www.e-onkyo.com


こちらは、ふきのとうホール主催公演です。この日の2日前に聴いた「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。札幌での演奏会を待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。