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Quartet Explloce カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演(2022/10) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2022/08/221015.pdf
↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

「響炎する4本のチェロ」、カルテット・エクスプローチェが結成9年目にして北海道初上陸です。2022年の全国ツアーの初回が札幌公演でした。私は、ふきのとうホールのサイトでこの公演を知り、早速申し込み。なお平日夜開催かつチケットは直接販売のみだったにもかかわらず、会場はほぼ満席。またロビーにはフラワースタンドやフラワーアレンジメントがいくつも飾られていました。

Quartet Explloce  カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演
2022年10月17日(月)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
辻本 玲(N響チェロ首席奏者)
市 寛也(N響チェロ奏者)
森山 涼介(都響チェロ奏者)
髙木 慶太(読売日響チェロ奏者)

【曲目】
J.S.バッハ(ヴァルガ編):シャコンヌ
A.クライン:叙情的断章 op.1a
ポッパー:2つのチェロのための組曲 op.16

レンゲル:2つのチェロのための組曲 op.22
レンゲル即興曲 op.30

ペルト:主よ、平和を与えたまえ
ピアッティ:ヴァカンスにて

(アンコール)
フィッツェンハーゲン:アヴェ・マリア
ピアソラリベルタンゴ


カルテット・エクスプローチェ、最高です!この日までカルテット・エクスプローチェを知らなかったことを悔やむほど、私はこの日の演奏に夢中になりました。デュオ作品で魅せてくださった技術力と表現力の高さ。お一人お一人がこれほどまでのチェリストでありながら、カルテットでの驚きの一体感。そしてリミッター振り切るときは全力で行く底力!チェロ好きを自認していた私ですが、今までチェロの魅力を知らなすぎたとつくづく思います。これは素人考えで当たり前のことを言っていると叱られてしまうかもしれませんが、中でも私が驚かされたのは、それぞれ個性的な4つのチェロが見事に溶け合う親和性です。例えば弦楽四重奏やピアノトリオのようにチェロは1つだけの編成ならわからなくても、チェロが複数いる場合は1つでも微妙にズレがあるとそこが悪目立ちする気がします(あくまで個人的な感覚です)。そんな違和感がこの日のエクスプローチェには皆無でした。普段は文化が異なる別々のオケで活動されている皆様が、短期間で調弦や細かな奏法・表現方法そして音楽への思いをすり合わせ、このカルテットの音を創りあげているって、すごいことでは!?一朝一夕には到達し得ない、長く一緒に活動してこられた方達ならではの、メンバー全員が同じ方向を目指す気持ちの良い音!このブレない音があった上での気合いの入った演奏、素晴らしいです!今回のプログラムは、「エクスプローチェ始まって以来初めてのチェロアンサンブルのオリジナル作品にスポットを当てた」とのこと。原点回帰とも言えるチェロアンサンブルの古典作品の数々を、結成9年の経験を活かした最高の演奏で聴けた幸せ!今回がカルテット・エクスプローチェ初体験だった私は超ラッキーだったと思います。私はカルテット・エクスプローチェの演奏をもっと聴きたいです。古典作品でも編曲モノでも、詰まるところ演目は何でも大歓迎!近い将来、再び札幌に来て下さる日を心待ちにしています。

また演奏の合間のトークも楽しかったです。曲の解説のみならず、メンバーのキャラ紹介や学生時代の思い出やプライベートなことまで話題は多岐にわたり、会場は大いに盛り上がりました。一応メインMCは髙木さん(北海道当別町出身。なお各会場でのメインMCは出身地が一番近いメンバーが担当するそうです)でしたが、メンバー全員が次々とマイクを持ち発言。その交代の流れはとても自然で、学生時代からずっと付き合ってきた人達だからこその、良い意味での気を遣わない関係性がうかがえました。普段は別々に活動されている皆様が、ひとたび集まると学生時代と同じ気心知れた仲間に戻れるって、すごく良いですね!こんなにも心通い合った仲間が一緒に活動できるって、素直にうらやましいです。トークは楽しくて、すべてのトピックにツッコミを入れたいのはヤマヤマですが、ここでは一つだけ!「事務担当」と同じノリで出た、「イケメン担当(!)」というパワーワードについて。もちろん任命されたかたは間違いなくイケメンでいらっしゃいます。しかし、これほどまでにカッコ良くチェロを奏で、かつアンサンブルで爆発的な魅力を開花させる、カルテット・エクスプローチェの皆様は4名全員が超イケメンだと私は思います!


メンバーの皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、J.S.バッハ(ヴァルガ編)「シャコンヌ。カルテット・エクスプローチェのバイブル的な作品で、演奏会では必ず取り上げるそうです。4台のチェロによる重音の重なりが全力で来る冒頭からすごいインパクト!こんなにもガツンと来るにもかかわらず、最初からすっと受け入れられたのには自分でも驚きました。それはホールの音響の良さ以上に、やはり迷いのない説得力ある音がストレートに心に響いたからだと思います。メロディを丁寧にリレーしていくところの緻密さ。高音メロディに呼応する息の合った低音伴奏。堅牢な建築物のように音をきっちりと組み立てていく一方で、優しいメロディのところは柔らかな布のように心地良い響きでした。中盤に長調になり温かな音色で歌うところは、厳格な中に光がさしたよう。続く少し駆け足になる明るいところの多幸感。そしてラスト直前の、ぐっと空気を引き締めてくれた重低音がとても印象に残っています。こんなにたくさんの音が重なる贅沢な響きにもかかわらず、まるでソロ演奏のようにも感じられる一体感!そして完成度の高さ!1曲目にがっちり心掴まれ、私はこの後の演奏への期待が一気に高まりました。

A.クライン「叙情的断章 op.1a」。先ほどの厳格さから一転、ロマンティックな月夜の情景が目に浮かぶような、優しい響きの音楽でした。ゆったりと美メロを歌う高音が美しい!また、支える低音の安定感も良く、この支えがあるからこそ高音のメロディが映えるとも私は感じました。ラストの儚げなピッチカートによる締めくくりも印象に残っています。

前半最後はデュオの曲。市さんと辻本さんによる演奏で、ポッパー「2つのチェロのための組曲 op.16」。こちらの演奏がとにかく良かったです!はじめの柔らかな響きに早速気持ちが持って行かれ、美メロを2台が音程をずらして併走したり、伴奏側が音を小刻みにしたりと、デュオならではの良さを感じました。バロック期の舞曲のようなところでは、メインとサブが呼吸を合わせ、1音ずつ交代し演奏するのがすごい!これ絶対に難しいはず!しかしまるでソロ演奏のような脅威のシンクロ率で、流れを止めずに細かくテンポを変化させながら見事な演奏を聴かせてくださいました。田舎の舞曲風のところは、スキップするような音楽が楽しかったです。その後の、歌うチェロが表情豊かですごく素敵!まるで映画音楽のよう!支える方も、ジェットコースターのように波を作ったり、ピッチカートで寄り添ったりと、変化が多くとても良い効果を生み出してくださっていたと感じました。終盤は、ラブソングを歌っているように甘やかかつ情熱的!チェロの一番高い音と思われる音域で歌うところはインパクト大!そしてこの高音域から低音域へ駆け下りるところで、対するサブは低音域から高音域へ駆け上ったのも印象的でした。主役にも下支えにもなれるチェロ。そのチェロの両方の魅力が満載の演奏、思いっきり楽しめました!


後半の1曲目もデュオ。こちらは髙木さんと森山さんによる演奏で、レンゲル「2つのチェロのための組曲 op.22」。こちらも大変素晴らしかったです!インパクトある低音から入った出だしに、私は一瞬バッハの無伴奏を連想。重音がさらに重なる、厳格な響きがとても素敵でした。ほどなく、2台とも休みなしで忙しく弓を動かす演奏に。目の前で繰り広げられるすご技に圧倒されつつ、古風でありながら情熱的な響きを味わいました。歌曲を歌うようなところに心癒やされ、少し哀しげで繊細なところのリズム感がよかったです。ゆったりとしたところでは、温かく美しい響きがとても心に染み入りました。そして、終盤のメロディをリレーしながらの高速演奏がすごい!またもや圧倒されました。バッハの無伴奏を思わせる厳格さとチェロの歌心が同居する作品を、超絶技巧も歌うのも見事な演奏で聴けてうれしかったです。

再びカルテットによる演奏へ。レンゲル即興曲 op.30」。前半、穏やかで美しい音の重なりにうっとり。デュオも素敵だけど、やはりカルテットの四者四様の音色が重なるのはとても贅沢でさらに素敵!曲の後半、まずは1台から「パパパパーン♪」を低音で奏で、次第に参加者が増えていく、このだんだんと盛り上げていく流れがすごく良かったです。来ましたメンデルスゾーン「結婚行進曲」!高音のメロディがとっても華やか!超絶技巧をそうとは感じさせず、とても美しく歌ってくださいました。また対する低音が、美しいソプラノにハモる男前なバリトンのようで超カッコ良かったです。やっぱりチェロカルテットはイイですね!

ペルト「主よ、平和を与えたまえ」。ペルトは現在も存命で、エストニアの作曲家ですと紹介がありました。今回の演目は、元々は声楽の曲をチェロ四重奏へ編曲したもの。昨今の情勢から、「平和への願いを込めて」とのことです。3台による低音の重なりが、まるでオルガンの響きのように多声的!その上を、儚くかすれる声で歌う高音がとても美しく、崇高な教会音楽を聴いているようでした。チェロって、こんな音も出せてこんな表現もできるんですね!チェロの可能性と何よりメンバーの皆様のお力、ただただ敬服いたします。

プログラム最後の演目は、ピアッティ「ヴァカンスにて」。出発・到着・田舎の踊りと、ピクニックに出かける感じの3曲構成です。第1曲、ウキウキと4人で歩き出したような、1,2,1,2の小気味よいテンポの音楽が楽しい。4人それぞれの個性があり、しかし重なると同じ目的地へ向かっていると感じられたのがよかったです。第2曲、ピッチカートのリズムに乗ってゆったりと歌うチェロの音色がとっても素敵で、聴き入りました。中盤の高速演奏は、(演出として)仲間内で少し波風が立った感じ。第3曲、くるくると回っているような速いところも、ゆっくりステップを踏むようなところも、ずっと楽しい!細かくテンポが変化していくのを、4名全員が見事に同じ波長で演奏し、生き生きとした音楽を聴かせてくださいました。

カーテンコール。ごあいさつの後、「聴き足りないかたは、明日の福岡公演にいらしてください」との発言で会場に笑いが起きました。「来年のことはまだ何も決まっていませんが……」で、会場は大きな拍手。来年のツアーでもぜひ札幌へ来て頂きたいと、その日の会場にいた人達は皆そう思っていたはずです。「時間も時間なので」と、早速アンコールへ。フィッツェンハーゲン「アヴェ・マリア。やわらかな響きの美しい音楽。ゆったりとした流れの中、控えめに主張する美メロが心に染み入りました。秋の夜にそのまま眠りにつきたくなるような心地良さ。エクスプローチェの表現の幅広さを改めて実感しました。拍手喝采の会場にメンバー全員が戻ってきてくださり、なんとアンコール2曲目はピアソラリベルタンゴ!いったん心穏やかにさせておきながら、最後に超ド級の切り札を持ってくるとは!反則技では(最高に褒めてます)!?速いテンポで情熱的にガンガン攻める演奏は最高にアツイ!長丁場を全集中で演奏してきた皆様の、どこにこんなパワーが残っていたのかと思うほどの大熱演!クライマックス直前に2台のみで静かにじっくり聴かせるところがあり、次の瞬間、ガンと4名全員で床を踏み鳴らしてからのラストまでの全力疾走がすさまじかったです。会場がどよめき、ものすごい熱気の中で会はお開きに。「響炎する4本のチェロ」の初体験は超最高でした!アツイ夜を本当にありがとうございます!来年のツアーでもぜひ札幌はマストで!お待ちしています!


2016年7月リリースのCD「クァルテット・エクスプローチェ~響炎する4本のチェロ~」。私は自宅にてヘビロテ中です。どの曲の演奏も魅力的♪中でも私はポッパー「演奏会用ポロネーズ」とピアソラの3曲が好きすぎてつらいです(笑)。こちらのCD収録曲についても、いつか実演で聴けることを私は願っています。
※以下のリンク先で試聴および単品購入ができます。

www.e-onkyo.com


こちらは、ふきのとうホール主催公演です。この日の2日前に聴いた「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。札幌での演奏会を待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com


最後までおつきあい頂きありがとうございました。