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クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

HTBノンフィクション「札幌交響楽団 喝采」(HTB制作・2019年3月15日放送) レビュー

今回レビューするのはHTB制作のドキュメンタリー番組、HTBノンフィクション「札幌交響楽団 喝采」(2019年3月15日(金)深夜0時50分放送)です。

www.htb.co.jp

放送内容の概要につきましては、上のリンクを参照願います。

昨年12月に「ドキュメンタリー札幌交響楽団 アルプス交響曲」を視聴して以来、私は札響を追いかける番組の放送を心待ちにしていました。12月の番組は後日BSで全国放送があったので、今回も全国放送があるといいなと思います。「水曜どうでしょう」(※個人的に大ファンです)で全国区になったHTBさんですが、こんな良質なドキュメンタリー番組も制作されていること、そして札響の良さをもっと全国の皆さんに知って頂きたいです。なお、私は12月の番組についてもレビューを書いています。以下のリンクからどうぞ。

 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

では本題に入ります。私の感想はあくまで個人的な考えですので、参考程度に留めて頂きたくお願いいたします。また、ローカル放送で北海道以外にお住まいのかたには申し訳ないのですが、雰囲気だけでも読み取って頂けましたら幸いです。もちろんどなたでも、記事の内容に間違いを見つけた場合はおそれいりますが指摘くださいませ。


今回の「喝采」も大変見応えありました!深夜放送だったのがもったいない。私は録画してから観ましたが、ツイッターではつい夜更かししてリアルタイム視聴したという札響ファンのかたもちらほら。わかります、うっかり見始めたら止まらないですよね。我が街のオーケストラ札響は、hitaruのような大劇場で一流の共演者達と一緒にオペラを創りあげることもあれば、空調や音響設備のない地方の体育館に自家用車で出向き演奏することもあります。その幅広さと懐の深さが、厚かましくもまるで自分のことのように誇らしくなりました。多くのかたが登場しましたが、とにかく音楽を届ける人も聴く人も画面に映ったすべての人の表情がとても良くて、ずっと見ていたいと思える充実した85分間でした。

昨年12月の番組が一つの演奏会をじっくり掘り下げるスタイルだったのに対し、今回の「喝采」は2018年シーズン4月から12月までの活動を追いかける形になっていました。北海道の季節の移ろいを背景に、様々なシーンでの演奏があり、それぞれの会場で観客との一期一会があります。入念に準備をしてきた多くのスタッフや奏者の思いがあるのと同時に、聴く側にもそれぞれの人生がありその音楽に喜んだり涙したりと受け止め方は様々です。当たり前のこととはいえ、演奏会は一つとして同じものはない贅沢な一度きりの時間なのだと改めて認識しました。

順番に見ていきます。初めは「アルプス交響曲」です。昨年12月に放送された番組の単なるダイジェスト版ではなく、未公開シーンもたっぷり。例えばライブラリアン中村さんの「書き込みが蓄積された楽譜は金銭的なもの以上の価値がある」旨のお話に対し、奏者が実際に楽譜に鉛筆で書き込みするシーンを見せて頂けて嬉しかったです。そして今回の放送で驚いたのは、舞台袖の扉の向こう側で演奏するバンダ(別働隊)の存在です。演奏ってステージ上だけではないんですね…。専属の指揮者がついているし、客席から姿は見えないのにきちんと正装しているしで、見ていてとても新鮮でした。また、こういった演奏が活きてくるためにはステージマネージャーの働きが欠かせないことも知りました。リハーサルでは、扉を全開にしたステージマネージャー田中さんに、閉める指示をしたバーメルト氏。聞き比べた上で「きみ(田中さん)の勝ちだね」とおっしゃったときは会場全体に笑いが起きてました。田中さんも余裕の表情でサムズアップして、とってもダンディなんです。ちなみにステージマネージャーの田中さんは、番組を見る限りではどうやら黒地に個性的なプリントがされたTシャツを着るのが信条の様子。ちなみに演奏会本番ではスーツでした。なお昨年12月の放送時、私は田中さんをステージマネージャーとは存じ上げず、Tシャツにばかり気をとられてツイッターで失礼なことを呟いてしまったことを告白します。ごめんなさい!


次は地方公演について。昨年7月に『イチオシ!』道内ニュースで放送された特集の再編成のようです。私はそのときはブログ記事ではなくツイッターで簡単に感想を呟いていました。以下に貼り付けておきます。

 

札響の年間およそ120回の公演のうち、約50回が地方公演なのだそう。北海道はでっかいどうで移動距離は半端ないはずなのに、団員達は自家用車に相乗りして会場に赴くようです。感謝すると同時に、なんとかならないのかなと具体策は出せないままぼんやり思いました。6月の稚内での公演では、毎年楽しみにしているという年配女性のお二人が印象的でした。「北海道の地元の交響楽団だって胸張りたいですよね」…同感です、私もご一緒に胸張りたいです!「生きていて動ける間は通いたいと思います」…その心意気がとても素敵です。年に一度の楽しみがあれば普段の生活にもきっとハリが出ますよね。そして稚内の会場にかなり早い時間に来て自主練をしていたのがフルート副首席奏者の野津さん。ご自身を「不器用」とおっしゃっていましたが、その実直さに頭が下がります。フルートといえば、首席奏者の髙橋さんが番組内でインタビューに応える機会が多く画面にもよく映っておられます。実際すごい演奏をされるかただというのは私もこの耳で確かめてきて知っています(※記事の末尾にその演奏会レビューへのリンクがあります)。そこに序列はなく良し悪しの話でもなくて、目立つ人もいればそうでない人もいる。そんな個性的な約70名の団員全員とまではいかずとも、多くのかたにマイクとカメラを向けて生の声を拾ってくださった番組に感謝です。奏者の誰もがそれぞれの信念を持つ独立した芸術家であり、一つの音楽を奏でるために全員が方向性をすりあわせて演奏し、唯一無二の札響の音を創りあげていることを再確認しました。

7月の夕張中学校の体育館での演奏では、ステージマネージャー田中さんがパーティションを利用して音響を工夫している様子もじっくりと。また演奏の合間には楽器紹介も。オーボエ副首席奏者の岩崎さんが、外して見せていたリードを挿してすぐにさらっとチャイコフスキー白鳥の湖」ソロパートを奏でたときは素直に驚きました。確かオーボエってすごく音が出しにくいんですよね…それを夏の暑い体育館(湿気は木管楽器とリードに酷だと思われます)でも、ぱっとリードを挿していきなり難なく演奏してみせるとは!只者じゃないです。そんな一流奏者ばかりの札響の生演奏を目の前で聴くという希有な経験をした中学生たち。足でリズムをとっていた子も目をキラキラしていた子も口をポカーンと開けていた子もハープを「人魚が弾くやつ」と形容した子もみんな、良い経験になりましたよね。キミたちの未来に幸あれ!なお、テロップで「チャイコフスキー くるみ割り人形より 花のワルツ」と出た曲はルロイ・アンダーソンの「舞踏会の美女」が正しい曲名だそうです。ツイッター上で教えて頂きました。ちなみに他の曲名についてのファクトチェックはしていません、あしからず。

続いては新人ヴァイオリニスト赤間さんを追いかけます。旭川で生まれ育った赤間さんは、4歳でヴァイオリンをはじめ、芸大付属の高校進学でお母さんと一緒に上京。大学卒業後に初めて受けたオーディションで札響に入団したそうです。ちなみに経歴紹介で静かに流れたBGMは第九の第3楽章だと思います(※違っていたら申し訳ありません)。厳しいオーディションを勝ち抜いてあがりではなく、まずは試用期間。プロ集団の中でついていくのは大変なことで、帰宅してからも防音室で鏡を見ながら自主練を続けます。一人暮らしの冷蔵庫にはお母さんの作り置き料理があり、またご両親は演奏会を聴きに毎月旭川から札幌へいらしているそう。音楽家として一人前になるためには、ご本人の才能と努力が必要なのは当然のこと。しかし、一人の若い音楽家が目標に向かってひたむきに進む陰には家族の全力サポートがあるのですね。札響の一員として歩み始めたばかりの赤間さん、これからのご活躍を応援しています。

2018年は札幌文化芸術劇場 hitaru がオープンした年でもあります。オープン2ヶ月前に札響が初練習したときは、札響の名誉音楽監督で札幌文化芸術劇場芸術アドバイザーでもある尾高さんが「弦楽器を50センチ前へ」と具体的に指示しながら調整していました。最良のホールであっても、さらに良いものを目指すため妥協はしないその姿勢にただただ感服です。こけら落とし公演の「アイーダ」リハーサルでは、天才と名高い若き指揮者バッティストーニさんの気迫に圧倒されました。「彼の心で音楽が燃えているのを感じる。120%の自分たちの実力が出せているかも」とコンマス田島さん。バッティストーニさん談「札幌交響楽団はプロフェッショナルで素晴らしいオーケストラです。私のオペラの経験を共有できていますし、オペラへの挑戦は札響にとって必ず価値あるものになるでしょう」。そして本番。超駆け足での映像でしたが、これは本当に生で鑑賞できたら最高だったろうなと、行けなかった一人として思いました。しかし本来見えないオーケストラピット内をカメラがじっくり映してくれたので、演奏する姿を見たい派の私としてはうれしかったです。トランペット首席奏者の福田さんが「感動しっぱなし。オペラはずっとやっていたいくらい」とおっしゃっていて、長丁場の演奏でも奏者のかたがそんな気持ちで演奏してくださっているのを嬉しく思いました。そして終演後にマイクを向けられた観客の皆さんはどなたも喜びに満ちた表情で公演を讃えていました。コンマス田島さんが「(届ける側が)心から盛り上がり、お客さんが喜んでくれる、最高の循環」とおっしゃっていたのが忘れられません。

そして2018年9月にはあの地震がありました。その約2ヶ月後の11月初旬に、札響コンミスの大平さんがヴァイオリンを持って自ら運転する車で被害が大きかった被災地へ。避難所にもなった公民館等をまわってソロコンサートを行ったそうです。単身で赴き、会場設営の指示も行い、会の進行もした上でのソロ演奏。耳なじみのある曲が次々と流れ、お客さんの中にはそっと涙を拭く人も。小さな子を抱いた若いお母さんらしき人が顔を伏せて涙していた映像では、私も思わずもらい泣きです。おそらく彼女はあの日以来、家族の安全を確保し、生活を立て直すのに精一杯で、ご自分のことを顧みる時間はなかったのかもと想像しました。また演奏後にひときわ大きな拍手を送り、明るい表情で「元気をもらいました」とおっしゃっていた女性も印象的でした。「頑張れ」といった励ましの言葉は時に暴力的です。そんな一方的な言葉ではなく、美しいメロディがそっと気持ちに寄り添ってくれる…こんな尊いことはそうそうないと思います。被災地にて普段着で演奏を聴きにいらした被災者の皆さんは、例えば何万円もするチケットを買って遠方の札幌までオペラを観に行くことは、もしかするとないのかもしれません。それでもこんなかた達にこそ音楽は必要なのだと、番組を見て私はそう思いました。その日その日を生きていくにあたって衣食住が優先されるのはその通りではありますが、張り詰めた精神を癒やしてくれる心の糧がなければ明日に向かって行くことはできないですよねきっと。音楽の力、私も信じたいです。東日本大震災では故郷の仙台のお母さんを思ったという大平さん、本当にありがとうございます。

最後は年末恒例の第九。札響合唱団出身のお若いソプラノ歌手・中江さんを軸に話が進みました。リハーサルの際にはトランペット奏者の前川さんと会釈。その前川さんは札響歴40年の大ベテランで、65歳定年により12月末での退団が決まっているそうです。35年ほど前から札響とご縁がある指揮者の大友さんは、札響を「伝統が引き継がれてとてもいいチームになっていると思います」とおっしゃっていました。そんな大友さん指揮による第九、ソプラノ歌手・中江さんやトランペット奏者の前川さんはもちろんのこと、多くのかたのアップを映してくれるカメラワークがありがたかったです。私はおなじみの第4楽章の合唱を聴くとやはりほっとします。日本人にすっかりなじんでいる第九、毎年コンサートを聴きたくなるのはわかります。同じ曲とはいっても、演奏会にまったく同じものはないわけですから。その時々で携わる人はまるで違い、音楽を届ける人も聴く人もすべてに思いがあるわけで、カメラ越しの鑑賞ではありますがやはり生演奏っていいなとしみじみ思いました。番組は第九を聴きながらそのままエンディングに。

内容は盛りだくさんで、とても見応えのある番組でした。今回は長期密着の取材と撮影はもちろんのこと、素材が多いため編集もさぞかし大変なことだったと拝察します。12月の番組ほどは演奏をじっくり楽しめる時間的余裕はありませんでしたが、限られた時間の中でも曲の良いところをうまく拾ってくださっていました。また細かいシーンを無理なくつなぐために、ナレーションでの説明が多くなるのは致し方ないかもしれません。しかしアナウンサーの語りはお二方ともとても落ち着いていて、邪魔にならずすっと入ってきました。そして番組全体の構成は、最初はチューニングから入り、第九の第1楽章でオープニング。第九の第4楽章の合唱に重ねてエンドロールが流れ、最後は拍手喝采でお開きと、演奏会の形式に似せてあるのが良かったです。そしてエンドロールは圧巻です!先頭に「札幌交響楽団」と出て、コンサートマスターから始まり奏者全員のお名前が出てきました。続いてステージマネージャーやライブラリアンといったスタッフ全員のお名前も。一連の協力団体等の名前が出て、HTBの番組制作スタッフは最後に。これだけ多くのかたが創りあげた札響の音楽そしてそれを私達に伝えてくださった番組に、部屋でテレビを見ている私達視聴者も拍手を送らずにはいられなくなりました。

全体を通して、あえての苦言は3つだけです。簡潔に。1つめ「個人情報がダダ漏れの映像がある」こと。詳細はここには書けませんが、具体的なシーンにつきましては番組プロデューサーにツイッター経由で直接お伝えしましたので、再放送や全国放送がある場合はご対応頂けるはずです。2つめ「地震の地滑りの映像にBGMを使った」こと。曲は第九の第2楽章で、もしかすると番組全体を第九で始まり第九で終わる形にする意図があったのかもしれません。しかし、あの地震では実際に死者が多数出て、復興はまだまだこれからであり、私達の記憶だって生々しいのです。にもかかわらず、ショッキングな映像に重ねて聞き覚えのある曲が流れたのはまるでドラマかバラエティ番組のような演出に感じられ、私は強い違和感を覚えました。あくまで個人的な考えですが、間違いなく私達の心身に爪痕を残したこの厳しい現実に対して、重ねて良い音楽はこの世には存在しないと思います。しかしこれは私の頭が固いだけかもしれませんので参考程度に。3つめ「エンドロールに指揮者の皆様と札響合唱団も入れてください」。せっかくの素晴らしいエンドロールに水を差して申し訳ありません。でもここまでやるのでしたら、なぜ指揮者と札響合唱団が入っていないの?とつい考えてしまうのがもったいないなと感じました。

少しだけ気になった点を述べましたが、言うまでもなく大満足の番組でした。HTB開局50周年ドラマ「チャンネルはそのまま!」(※道民特権でリアルタイム視聴しましたが、もう最高でした!こちらも全国放送希望です)にマンパワーが持って行かれている中、短い期間に番組を仕上げるのは至難の業だったと存じます。良い番組を本当にありがとうございます。今回は深夜にひっそりと放送でしたので、近いうちに再放送や全国放送をぜひお願いします。そして札響を追いかけるドキュメンタリー、きっとシリーズ化して頂けると信じています!次回作を気長にお待ちしています!


おまけ。12月の番組に背中を押されて、私もついに定期演奏会デビューしました。本当に行ってよかったです!こちらのコンサートは今回の放送分には含まれていませんが、もしかすると次回以降の番組で取り上げられるかもしれません。私の愛が重いレビュー記事は以下のリンクからお進みください。

 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

 長くなりました。最後までおつきあい頂きありがとうございました。


※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c