自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

「ドキュメンタリー札幌交響楽団 アルプス交響曲」(HTB制作・2018年12月22日放送) レビュー

今回レビューするのはHTB制作のドキュメンタリー番組「ドキュメンタリー札幌交響楽団 アルプス交響曲」(2018年12月22日(土) あさ6時半から7時55分 放送)です。とても良いものを視聴した感激を記録に残したくて本記事を書くことにしました。ローカル放送で北海道以外にお住まいのかたには申し訳ないのですが、雰囲気だけでも読み取って頂けましたら幸いです。

 

www.htb.co.jp

放送内容の概要および出演者プロフィールにつきましては、上のリンクを参照願います。

はじめに率直な印象から。ご近所に札響というプロオーケストラがいること、しかもマティアス・バーメルト氏のような世界的な指揮者が首席指揮者に就任してくださり、Kitaraをはじめ良いホールも複数あることがいかにありがたいことか!札幌はクラシック音楽を聴く環境についてはとにかく恵まれていると再認識しました。私はこの環境にまず感謝したいです。私は札幌に住んでかれこれ14年近くになりますが、せっかくの良い環境をつい最近まで意識していなかったのがもったいない。今からでも遅くはないと信じ、これからは自分の手の届く範囲で追いかけていきたいです。

番組はマティアス・バーメルト氏の来札、記者会見、歓迎パーティーに始まり、3日間のリハーサルと定期演奏会本番を追いかけます。合間に奏者やスタッフへの数多くのインタビューが入ってきました。私は普段、オケのリハを見る機会はほぼないため、その様子を垣間見られたのがまず新鮮で画面に見入ってしまいました。マエストロの言葉一つ一つにうなずきながら皆さん真剣に取り組んでおられる様子がうかがえましたが、雰囲気はとても和やか。普段使い慣れない風や雷を表現する楽器を、打楽器奏者が何度もアドバイスを受けながら繰り返し演奏しているときは、他の皆さんはにこやかに温かく見守っている印象でした。コンミス大平さんが「すごく楽しかった」とおっしゃっていたのはきっと皆さんの総意なのでは?また私の場合、音を合わせて演奏するオーケストラはつい楽団を一つの人格として見てしまいがちでした。しかし今回は個別のインタビューが多かったためお一人お一人の考えを知ることができ、お一人お一人が名前を持った演奏家であるという当然のことを今更ながら実感しました。完成度が高い演奏をすればするほど、もしかすると奏者個々人の存在は目立たなくなってしまうのかも。しかし、奏者は誰もがプライドを持って演奏をしている芸術家に違いありません。私は次にオーケストラの演奏を聴くときは、つとめて個々の演奏者のかたを注視したいと思いました。

また、ライブラリアンのお仕事についても興味深かったです。楽譜は曲毎に収納棚に格納されていて、演奏前には各パーツ毎に分けてセットするとか、著作権消滅していない楽譜はレンタルが基本で購入するより費用がかかる場合が多い(具体的な数字もお話がありました)とか。購入して保管している楽譜は、都度書き込みがされているため次使うときの手がかりが増えていき、金銭的な価値以上のものというお話にはなるほどと頷きました。いつもツイッターで情報発信してくださっているらいぶらり庵さん( @ssolibrary )の中の人!とお顔とお名前を知る事ができたのも嬉しかったです。

何と言っても良かったのはマティアス・バーメルト氏へのロングインタビューです。言葉の一つ一つに重みがあり、私は一度ざっと見ただけではもったいないと感じて、録画を少しずつ再生しながらすべて書き起こした程です。お話されているのは英語でしたので、日本語字幕があって助かりました。ここにすべては書ききれないのですが、特に印象に残った部分を厳選して引用にて紹介します。アルプスの美しい山々を映し出す映像に重ねた「アルプス交響曲」の解釈と解説についても興味深いお話がたくさんありました。しかしそれをすべて書き起こすとかなり長くなってしまいますので、大変心苦しく申し訳ないのですが今回は割愛いたします。

私の野望は世界一の指揮者になることではなく、札響にとっての最高の指揮者になることなのです。

ほとんどの音楽をオーケストラは指揮者がいなくても演奏はできるのです。そのオーケストラが何を必要としているのか見極めなくてはなりません。もうすでに演奏出来ていることへの指示はそのオケにとって必要ないのです。実際これまで多くの指揮者がオケの演奏の邪魔をするということをしてきました。指揮者はオーケストラの演奏を助けるために精一杯のことをしなければなりません。

どんなオケを指揮するとしてもまず抱かなければいけない気持ちは、演奏するメンバーに楽器の演奏をお願いする気持ちです。そしてメンバーからは逆に『指揮をお願いします』という気持ちを持たれること。その根底にあるのは、お互いを信頼し尊敬することです。


謙虚で誠実…そんなありきたりな言葉では表現できません。良い演奏を聴かせて頂けるなら人間性や発する言葉は二の次三の次で構わないという建前が瞬時に吹き飛ぶインタビューでした。こんなかただからこそ、団員の投票でダントツで選ばれ、待ち望まれての首席指揮者就任だったのですね。本当に、こんなかたが我が町の札響の首席指揮者を引き受けてくださったことに改めて感謝したいです。

リハーサルでは強弱の特に「弱」について丁寧に追求している印象でした。指揮者になる以前は木管楽器を演奏されていたとおっしゃるマティアス・バーメルト氏が、弦楽器の奏法についても詳しく指示しておられました。バーメルト氏は「すでに演奏出来ていることへの指示は必要ない」とのお考えの持ち主ですから、別の見方をするなら、札響メンバーは強弱以外の部分についてはほぼ完成形の状態で指揮者を迎えたわけですね。「アルプス交響曲」は難曲だそうですが、各奏者のかたが入念に準備をした上で全体練習に臨んでいることがうかがえ、頭が下がりました。

そして本番当日。会場前に人が集まってきているとき、奏者一人一人が最後の練習を個々人でしている姿や会場スタッフが最後の打ち合わせをする様子が映し出されます。マエストロ入場、いよいよ演奏開始です。約50分の「アルプス交響曲」を20分に短縮しての演奏映像でしたが、不自然な印象はなく家にいながら良い演奏を堪能することができました。「ここで美しいオーボエソロ!」とか「風の音!雷の音!聞こえてますよ!」とか、マエストロのインタビューで強調されていた部分やリハーサルで特に練習を重ねたところをアップで映し出すカメラワークがとてもありがたかったです。会場は拍手喝采。舞台袖でのインタビューではソロをつとめた首席オーボエ奏者のかたが「(100点満点の)98点。高めでいいですか」と興奮気味にこたえておられました。コンマス田島さんは「お客さんが喜んでいた、心から感動したと感想を頂けた」とおっしゃていて、演奏会は大成功だった様子がうかがえました。

そしてマティアス・バーメルト氏「私は何も音を出していませんよ。オーケストラが奏でたんです。まさに素晴らしい、そして美しいオーケストラでした。もちろん最高でしたよ。大満足です!素晴らしい私のオーケストラ、最高に幸せです!」…どこまでもマエストロらしいコメントでした。しかし彼だからこそ、オーケストラの可能性をとことん引き出してくださったのだと思います。「北風と太陽」にたとえるなら、マティアス・バーメルト氏は間違いなく太陽。素晴らしい演奏を本当にありがとうございます。私は「場違い感」から定期演奏会は未体験なのですが、近い将来必ず定期演奏会にうかがいます!

この番組では、画面に出てくるのは出演者および札響の関係者のみで、音楽は札響が奏でる音のみ。ドキュメンタリーなので当たり前なのかもしれませんが、民放バラエティにありがちなタレントやアナウンサーが前面に出て派手に盛り上げるスタイルでなかったのが好印象です。番組の最初は演奏前のチューニングから入り、最後はアンコール曲(今回は「ラデツキー行進曲」)で締めくくる、実際の演奏会と同じ構成にしたのも粋な演出だと思います。失礼ながら民放ローカル局でこんな硬派なドキュメンタリーの制作をしているとは存じませんでした。とても見応えのある良質な番組をありがとうございます。この番組を一人でも多くのかたに見て頂きたいので、もし可能でしたら近いうちに再放送をお願いします。そしてこれからの番組にも期待しています。いつか再び札響を追いかける番組を制作頂けたらうれしいです。


最後までおつきあい頂きありがとうございました。


※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c