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タマーシュ・ヴァルガ ソロ・リサイタル(2024/06) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2024/03/240601.pdf

↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

ふきのとうホール主催公演で、ウィーン・フィルの首席チェリストであるタマーシュ・ヴァルガさんのソロ・リサイタルが開催されました。今回の来日では、ピアノとの共演や協奏曲のソリストとして全国各地の演奏会に出演されているヴァルガさん。札幌・ふきのとうホールの公演はバッハの無伴奏チェロ組曲コダーイ無伴奏チェロソナタを取り上げる、出演者はヴァルガさんお一人の演奏会でした。札幌市民の期待は大きく、チケットは早い段階で完売。私もチケット販売初日に残り僅かな席からなんとか1席を確保して、当日を楽しみにしていました。

タマーシュ・ヴァルガ ソロ・リサイタル
2024年06月01日(土)16:00~ ふきのとうホール

【演奏】
タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)

【曲目】
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第2番 二短調 BWV1008

Z.コダーイ無伴奏チェロソナタ Op.8

(アンコール)
K.ヴァルガ:黄色のバラード
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 より サラバンド
カタロニア民謡(P.カザルス編):鳥の歌


タマーシュ・ヴァルガさんお一人で創りあげる世界にどっぷり浸れた、得がたい体験でした。素晴らしいチェリストとの出会いに感謝です。この日初めて体感したヴァルガさんの音楽は、力強さや技巧の見事さだけではない、とても説得力ある音楽と私は感じました。コダーイソナタは、超絶技巧の凄さはもちろんのこと、なにより「歌」が素敵!母国語で語っているように歌うチェロに魅了されました。ハンガリーの冷たい風が吹く大地にて、人々が口ずさむ民謡。そんな歌がそこかしこにあふれている感じ!昨年聴いたコンサート(バルトークが取り上げられた、2023年5月の名フィル定期)のトークにて、指揮の井上道義さんが「(ハンガリールーマニアでは)農民が歌っている」と仰っていたことが、ようやく私はわかった気がします(もとより想像の域を超えないのですが)。また前半のバッハは「祈り」。精神性の高さが窺える音楽から、キリスト教の思想とは縁遠い生活をしている私でも、「神」に限らずあらゆるものに畏敬の念を抱く気持ちに自然となれました。ただ、この日の私は自分のコンディションが良くなかったためか、時折混ざるキーンという高音にぞっとしてしまい、前半のバッハは正直うまく聴けていません。申し訳ありません。それでも低音メインのところでの深さや、全体を通じての崇高さはとても素敵と感じました。それに後半コダーイ(特殊調弦でも高音弦は変更無いはず)では高音の艶っぽさにも魅了されたので、私の感覚は本当にあてにならないです。

そして会場のふきのとうホール、改めて良いホールですね!ヴァルガさんのとても良く鳴るチェロと共鳴する、ホールそのものも素晴らしい「楽器」だと感じました。有名な音楽家であれば通常オーケストラが使う大ホールでリサイタルを行うことがしばしばありますが、私はやはりソロやデュオ等は室内楽向けの小さなホールで聴きたいです。それがふきのとうホールなら最高にうれしい!これからも主催公演を楽しみにしています!


前半は、バッハの無伴奏チェロ組曲を2つ。はじめはJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009」前奏曲 音階を上り下りする流れでの、重低音の重量感!輝かしいメロディの合間に入るこの低音と、終盤に登場した重音の貫禄にホレボレしました。アルマンド 舞曲のリズムが楽しく、時折登場する控え目なトリルが印象的。ここでも私はやはり低音と重音がぐっと来ました。クーラント 速い流れにもかかわらず、あくまで軽やかにステップを踏んでいるよう。ウキウキした楽しい印象を持ちました。サラバンド 一転してゆったりした流れに。真摯な心からの祈りのようで、何度も登場する低い音の重音がとっても素敵でした。ブーレ 1つめの舞曲は素朴で楽しい感じ!中盤2つめの舞曲と好対照の明るさがとても魅力的でした。ジーグ こちらが個人的にはハイライトでした!明るかったり少し哀しげだったり情熱的だったりと、シーンが変化していく流れが自然で、強弱の波やテンポの変化でメリハリくっきり。生き生きとした音楽に、聴いている方も楽しくなりました。

前半2曲目は、J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第2番 二短調 BWV1008」前奏曲 寂しく哀しい響きが胸に来ました。先ほど聴いた第3番の前奏曲の輝かしさとは真逆の厳しさ。しかしとても崇高に感じられる音楽でした。アルマンド 哀しくも、こちらは情熱的に。細かな音の連なりはクラシックギターで切なく歌っているようにも感じました。クーラント 速いテンポで前のめりな演奏に引き込まれ、聴いている方もドキドキしました。サラバンド こちらが私的ハイライト。素晴らしかったです!まるで教会で歌われる厳かな宗教歌(詳しくはないです)のよう。重厚な低い音の重音の鳴りがぐっと来て、じっくり歌う高音は清らかで、純粋な響きに心洗われました。メヌエット 1つめは厳しくも艶っぽく、2つめは楽しそう。2つのメヌエットはステップを踏んでいるようなリズム感が良く、また2つの個性は途切れず滑らかに繋がっていたと感じました。ジーグ タッター タッター♪の艶っぽいリズムから前のめりで音盛り盛りの情熱的な音楽に!この波に、精力的な演奏に、圧倒されました。組曲1つだけでも大変なところを2つも!ヴァルガさんお一人で作る崇高な世界に引き込まれました。

後半は、Z.コダーイ無伴奏チェロソナタ Op.8」。この時は特に説明はありませんでしたが、特殊な調弦(低音域の弦2本=G線とC線を半音下げる)で演奏される作品のようです。第1楽章 開口一番の強奏がものすごいインパクト!瞬時に空気を変えたこの鳴り、すごい……。堰を切ったようにぐいぐい迫り来る音に私は圧倒され、ギターをかき鳴らすようなピッチカートでハッと我に返りました。少し穏やかになるところでは空気がゆらぐ感じに気持ちを惹きつけられ、力強いところでは低音の重みと気迫がズシンと来るのが快感!そして個人的にとても印象深かったのは、超高音で歌ったところです。これほどのチェロの高音は初めて聴くかも?未知の音にやや戸惑いつつ、しかし完全にコントロールされていると思われる高音の艶やかな音色と、曲線的な波長にすごく引き込まれました。重音がガツンと来る力強いところと、神秘的にゆらぐところ(幽霊が出てきそう!)と、2つの異なる性質が同居していて、そのどちらにも強いインパクトがありました。第2楽章 はじめ、ぐーっとのばしながら浮かび上がってくる低音にゾクッとしました。高音域の弦2本を使っての歌に、低音域の弦2本を左手ピッチカート(!)にて打楽器のようにボン・ボン♪と合いの手を入れるのがすごい!何度も登場した左手ピッチカートをはじめ、弦を押さえる指が小刻みに動く等、超絶技巧が次々と。しかしその技のすごさ以上に、ハンガリーを思わせる(私は行ったことはないので想像でしかないのですが)、寂寥感ある素朴な歌が心に染み入る演奏でした。低音域でじっくり歌うところでは、深みある音の響きに吸い込まれ、深淵に引き込まれる感覚に。中盤少しだけ登場した舞曲のようなところはハッキリしていましたが、それ以外はずっとどこかを彷徨っている感じ。しかしその揺れる空気に吸い寄せられました。圧巻だったのは、楽章締めくくりでのフェードアウトです。楽章の始まりとは逆に、ここでは次第に音が小さくなっていく形式。音が消えていくのを自然な響きに任せるのではなく、弓をひきながら少しずつ弦から離していき、最後まで神経張りつめてコントロールされていました。すごい……!第3楽章 力強い重音から、情熱的に駆け抜ける演奏がアツイ!バルトークルーマニア民族舞曲に似た(と私は感じました)、民謡風のメロディが生き生き!高音を細かく連ねる高速演奏や、ガンガン弦をかき鳴らすピッチカート、弦をめいいっぱい擦り続ける(火花が散るよう!)等、目と耳が釘付けになる凄技が次々と。音のインパクトと演奏の気迫に圧倒されっぱなしでした。それでも音楽から民謡風のメロディや舞曲のリズムが感じられ、これは「歌」だとも思いました。堂々たる締めくくりに至るまで、すべてが母国語で自然に語り歌っていると思える説得力!その空気に引き込まれる、ものすごい演奏でした!満席の会場は大いに沸き、スタンディングオベーションしていたお客さんも大勢いました。

拍手喝采の会場に戻ってきてくださったヴァルガさん。英語でごあいさつとアンコールの曲目紹介をしてくださいました。色々とお話しくださいましたが、私の乏しい語学力で聞き取れた事はほんのわずかです。申し訳ありません。またアンコールの演奏では、調弦を通常のものに戻していらしたのかコダーイを弾いた時のまま(G線とC線を半音下げる特殊なもの)かは、私にはわかりませんでした。ヴァルガさんはカーテンコールで何度も戻ってきてくださり、その都度演目に関するトークをしてくださった上で、結果的にアンコールの演奏はなんと3曲も!大サービス、ありがとうございます!アンコール1曲目は、K.ヴァルガ「黄色のバラード」。ヴァルガさんの息子さんであるコンラート・ヴァルガさんが、コダーイ無伴奏チェロソナタにインスピレーションを得て作曲した、無伴奏チェロのための作品のようです。開口一番の強奏は先ほど聴いたコダーイソナタと似ている?しかしコダーイソナタの厳しさよりは、柔らかな歌で、その歌に人の真心があるように個人的には感じました。しみじみ素敵な演奏に、私は高ぶっていた気持ちが静まり心癒やされました。アンコール2曲目は、J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲 第5番 BWV1011」 より サラバンド。低音でゆっくりじっくり進む音楽は、残響音まで崇高な感じ。まさに祈り!滑らかな演奏を聴き手としては当たり前のように聴いていましたが、もしこれを特殊調弦のままで弾いていたとすればすごいことですよね。チェリストにとって血肉となっているバッハの無伴奏組曲ですからなおさら。そしてアンコール3曲目は、カタロニア民謡(P.カザルス編)「鳥の歌」。曲目紹介の前に、カザルスが少年時代に古本屋でJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲を「発見」したという、有名なエピソード紹介がありました。私はピアノ&チェロによる演奏は何度か聴いていますが、無伴奏チェロでの演奏はこの日が初めて。おなじみのメロディが登場する前に、なんと前奏がありました。ええっ前奏があったなんて!恥ずかしながら私は初めて知りました。カナカナカナ……と鳥が鳴くような音の震えに胸打たれ、高音の余韻はどこまでも高い空に吸い込まれていきそう!単旋律で歌うチェロは、少ない音に思いが込められているようで、聴き手の心にまっすぐ響いてきました。音が盛り盛りだったコダーイにも圧倒されましたが、この「鳥の歌」の寡黙な人の雄弁さもズシンと来ました。チェロって奥深い!そしてヴァルガさんの引き出しの多さに驚愕!他の作品の演奏も聴いてみたいです!

終演後、ロビーではサイン会がありました。私は購入したCDにサインを頂き、帰路につきました。ヴァルガさん、遠路はるばるお越しくださり、チェロの奥深い世界に誘ってくださりありがとうございます!サイン入りCDは家宝にします!きっと再会できますように。

会場で購入し、サインして頂いたCDは「ブラームス:雨の歌~チェロのためのソナタ名曲集/ヴァルガ、ボーグナー」です。本来チェロ以外の楽器を想定して書かれた作品たちをチェロにて演奏。

www.camerata.co.jp


自宅で聴いてみました。はじめからチェロのために書かれたものと思えるほど自然で、3つの作品それぞれの個性ある歌がとっても素敵!ヘビロテ確定です!今度はぜひピアノとの共演でヴァルガさんの演奏を拝聴したいです。


「ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.4 ベネディクト・クレックナー&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2023/06/29)。バッハに強い影響を受けた第1番、円熟期にのびのび楽しく書いた第2番。愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタ2曲に再び恋に落ちた、最高に素敵な出会いでした!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

「札幌交響楽団 in ふきのとうホール Vol.5」(2024/03/30)。最初の企画から4年以上の年月を経て実現した企画は、小さな空間からどこまでも広がる小宇宙。悲劇から魂の浄化へ。アンコールも含めたプログラム全体で1つの物語のような流れは、聴く人すべてにとって救いとなりました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。