ありがたいことに11月のピアノ五重奏曲に始まり、ピアノ四重奏曲第1番、そして今回ピアノ三重奏曲第1番と、今年の年末は3回もブラームスの室内楽を聴く機会に恵まれました。今回レポートするのはピアノ三重奏のコンサートです。私が密かに応援している札響チェロ首席奏者の石川さんが出演されて、しかもブラームスを演奏してくださるなんて、聴きたいに決まっています!
レポートはいつものように素人コメントであることをご了承ください。また、ひどい間違いは指摘くださいますようお願いします。
Trio MiinA 第1回公演 小児がんチャリティコンサート
2019年12月18日(水) 18:30~ 札幌コンサートホールKitara小ホール
【演奏】
西本夏生(ピアノ)
鎌田泉(ヴァイオリン)
石川祐支(チェロ)※札響チェロ首席奏者
【曲目】
(アンコール)
なお会場のピアノはスタインウェイでした。
ツイッターでの速報は以下。
今夜はピアノ三重奏チャリティコンサートへ。Pf西本さん、Vl鎌田さんそしてVcは札響首席チェロ奏者の石川さん。ハンガリー風のハイドン、美しくも影があるフォーレ、若き日の自分を受け入れ昇華させたブラームス。三者三様の作曲家の個性そして奏者の皆様の演奏が素敵で、心豊かになれた演奏会でした。 pic.twitter.com/aBa1EaWY2e
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年12月18日
収益はすべて寄付とのこと、頭が下がります。Brahms1番の演奏はおそらく改訂版。解説は3曲を3人で分担して執筆。ハイドンのVlにモーツァルトらしい美を、フォーレのPfはまるでジャスのような響きを、ブラームスのVcは円熟期の実績に裏打ちされた自信と若き日の瑞々しい情熱の両方の良さを感じました!
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年12月18日
今回トリオミーナとしては第1回の演奏会、会場も1階席は9割近く埋まっていました。ご盛会おめでとうございます!次の演奏会でもできればBrahmsを入れて頂けたらうれしいです。次回は3番か2番、あとはキルヒナー編曲の弦楽六重奏曲1番2番のピアノトリオ版(ドマイナーですが・汗)とか、ぜひ!
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年12月18日
しみじみと心にしみる良い演奏でした。ちょうど1週間前のピアノ四重奏がゾクゾクなら、今回のピアノ三重奏はときめき!親しい人同士の会話のような印象から、きっと親しい人にしか明かさない胸の内まで音楽で聴かせてくださったように思えました。理由は演目によるものが大きいかもしれません。いずれも個性的な演目が揃った演奏会でしたが、1週間前のピアノ四重奏ではすべて短調かつ抑えきれない感情の発露が感じられる曲で、今回は2曲が長調かつ短調のフォーレも含め美メロが穏やかに感情を語る曲が揃っていました。室内楽って奥深いです。そして今回もまた、足し算ではなく掛け算の良さ!ピアノもヴァイオリンもチェロも単体で十分に活躍できる楽器にもかかわらず、主役級の3つが共演するとぐっと表現の幅が広がるのを感じました。また第2ヴァイオリンやヴィオラがいないため、奥深さを出すためにはどの楽器も脇役に徹する力量だって必要で、それも難なくやっておられた印象です。奏者の皆様はそれぞれにお忙しく、トリオ結成して日が浅いにもかかわらず、素晴らしい演奏を披露してくださいました。ありがとうございます!私は正直チェロの石川さんが出演されるからとの理由で足を運んだわけですが、ピアノもヴァイオリンも良い意味で想定外の良さでうれしかったです。トリオ・ミーナの演奏会、今後も第2回第3回と末永く続いてくださるのを願っています。そして演目にはぜひブラームスを入れて頂けましたらうれしいです。生粋のピアノ三重奏曲は他に2番と3番があり、編曲も視野に入れればまだまだ候補はたくさんあります!
また今回のピアノトリオで印象的だったのは、チェロ奏者とピアノ奏者が目配せして演奏開始していたことです。もしかするとチェロが牽引していたのかも。ちなみに1週間前のピアノ四重奏および1カ月前のピアノ五重奏では、奏者の皆様は第1ヴァイオリンに注目しそこに合わせて演奏している様子でした。このあたりはガチガチの決まりはなくて、そのユニットがやりやすいスタイルで進めているのかもしれません。
小児がんチャリティコンサートということで、収益はすべて小児がんのための活動に寄付されるとのこと。頭が下がります。会場の客入りは上々で、キャパ453席のKitara小ホールにおいて、2階席はわかりませんが1階席は9割近く埋まっていました。トリオ・ミーナとしては第1回目の記念すべき演奏会、ご盛会おめでとうございます!また未就学児は無料で入場可となっていましたが、私が見たところ未就学児はいないようでした。ちなみに小学生くらいの子は親同伴で来ていたのを見ました。私はギリギリの時間に到着したものの、お一人様の身軽さで比較的前寄りのちょうど真ん中あたりに空いた席に着席。最前列も空いてはいましたが、私が目の前で凝視しては奏者の皆様はきっと演奏しづらいと考えて遠慮したんですよ(笑)。
拍手で迎えられた奏者の皆様、チェロの石川さんは黒い長袖シャツとスラックス姿で真っ赤なネクタイを着用。ピアノの西本さんはラメをちりばめ少しグレーがかった黒のドレス、ヴァイオリンの鎌田さんは落ち着いたえんじ色のドレス姿でした。石川さんは女性奏者お二人の衣装の色を取り入れていたのですね。肩を出したデザインのカラードレスの女性奏者がお二人もいると、やはり華やかです。そして石川さんは入場は一番目でも退出するときには最後で、しかもピアノの譜めくり係の人に会釈していたのが好印象です。また、配布されたプログラムの曲目解説は、奏者の皆様がそれぞれ分担して執筆されていました。
演目に入ります。1曲目はハイドンのピアノ三重奏曲第25(39)番。プログラムの解説は鎌田さん。別名ジプシー・トリオとも呼ばれる、ハイドンのピアノトリオの中では比較的演奏機会が多い曲のようです。第1楽章、朗らかなヴァイオリンがずっと楽しくおしゃべりをしていて、チェロがヴァイオリンに相槌入れながら傾聴している印象。ピアノはモーツァルトのキラキラに似た感じでずっとキラキラしていました。私はヴァイオリンとピアノの高い音での美メロを楽しみつつ、脇役に徹しているチェロがすごく良いなと思って聴いていました。この楽章に限らず、この曲でのチェロはずっと脇役。しかも通奏低音のような決まった形ではなく、ちゃんと主旋律にそって変化しながら下支えです。妄想ですが、女の結論の無い長い話にいやな顔ひとつせず寄り添っている知的な男性のよう。そう、共感が大事なんですよ。結論やら解決策やらは言わなくてよろしい(笑)。こんな男性は絶対にモテますよね。余談失礼。第2楽章になると、今度はピアノのターンです。ピアノの美メロを弦2つが支えますが、途中からまたヴァイオリンが主張し始めて、そんな変化も楽しかったです。第3楽章、楽しく時々は憂いを帯びてハンガリー舞曲風のメロディが駆け抜けていきます。実演を聴いた時点で私はプログラムの解説は未読でしたが、「ジプシー風」と言われる第3楽章を「ハンガリー舞曲風」だとその時の私は感じたのでした。私が何を持ってハンガリーっぽいと感じたのか、自分では説明できなのですが…。ハイドンの楽曲はほとんど聴いてこなかった私でもまったく退屈せず素直に楽しめた曲でしたし、解説にある通り肩肘張らない曲なのがリラックスできてよかったです。最初の曲で体も心も温まりました。
1曲目の演奏が終わっても奏者の皆様は退出せず、ピアノの西本さんがマイクを持って簡単にお話をされました。この日集まった人達へのお礼と、活動の趣旨、演目について等のお話でした。
2曲目はフォーレのピアノ三重奏曲。プログラムの解説は西本さん。フォーレ最晩年の作品で、体調が思わしくない中で書かれたようです。なのに溜息が出るほどの美メロとみずみずしさ!素晴らしいです。第1楽章、短いピアノの導入の後はすぐチェロの聴かせどころが来て気持ちを持って行かれます。続いてヴァイオリンもチェロのメロディを繰り返し、その後はチェロとヴァイオリンが会話しているかの印象でした。大人っぽく基本は静かに、時には激しく。歌う弦も良いですが、バックのピアノもとても素敵。第2楽章、私はプログラムを読む前に「二人で湖畔で月を眺めているよう」と感じたのですが、あながち間違ってもいなくて、第2楽章のみ湖に面した街で書かれたのだと後で知りました。この湖だの月だのと私が想像する根拠は何なのか、自分でも分かりません(笑)。そしてこの楽章だったと思うのですが、チェロが高音でヴァイオリンが低音を担う通常とは逆のところがあって、チェロとヴァイオリンそれぞれの音域の広さと可能性を知りました。第3楽章、今まで比較的ゆったりしていた曲がこの楽章で加速しました。チェロとヴァイオリンの会話は議論白熱な感じに。でも若者の殴り合いではなくあくまで大人の知的な会話な印象です。一度だけピチカートで空気を一変させたところはラヴェルのような雰囲気を一瞬だけ感じました。確かラヴェルはフォーレに師事したことがあったんですよね。そして今まで脇役に徹していたピアノが思いっきり変化しました。聴いていたその時の私が「まるでジャズみたい」と思ったほど、即興演奏のような音とテンポが素晴らしくて、この曲の世界観がぐっと広がったように感じました。人生の終わりが見えていたフォーレが、美メロを生み出しかつ遊び心も忘れていなかったことに拍手を送りたいです。もちろんこの魅力を私達に伝えてくださった素晴らしい演奏に感謝します。
休憩中に私はプログラムを熟読。フォーレのピアノ三重奏曲はヴァイオリンをクラリネットに置き換えて演奏されることもあると知ります。そこで私が思い出したのは、ブラームスのクラリネット三重奏曲でした。こちらも作曲家の晩年の作品で、クラリネット・チェロ・ピアノの編成。私は好きな曲ですが、弦楽四重奏にクラリネットを加えたクラリネット五重奏曲の知名度と演奏機会の多さに比べて影が薄いようです。またクラリネットソナタ同様、クラリネットをヴィオラに置き換えての演奏がある様子。素人がよくわからずに言っていますが、これ、ヴァイオリンでも可能でしょうか?もし可能ならトリオ・ミーナの演奏で、クラリネットをヴァイオリンに置き換えてブラームスのクラリネット三重奏曲の実演を聴いてみたいとふと思いました。勝手な思いつきですので軽く聞き流して頂けましたら幸いです。
休憩後の後半はいよいよブラームスのピアノ三重奏曲第1番です。プログラムの解説は石川さん。作品を徹底的に管理するブラームスにはめずらしく、版が2つある作品です。21歳の1854年出版の初版と、58歳の1891年出版の改訂版。今回演奏されたのは改訂版だと思います(※間違っていましたら指摘ください)。1854年はロベルト・シューマンの自殺未遂と入院があった年ですが、構想を練っていたと思われる前年の1853年はブラームスはシューマン夫妻と出会った幸せな年で、まだクララへの想いも顕在化していない心穏やかな時期と考えられます。3つの楽器がまるで会話をする3人の音楽家のようだなと個人的には思っています。第1楽章、冒頭のピアノから既に素敵で、続くチェロに早速心奪われます。こんな作品番号1桁台の作品で、もう最初からブラームス節全開。ブラームスがあの苦悩に満ちたチェロソナタ第1番よりも前にチェロが静かに喜びを語る美しい曲を書いてくれたのがとにかく良かったと思いますし、それを今この時代にチェリスト石川さんが奏でてくださるのがなによりうれしい。ヴァイオリンが参戦するとさらに喜びが増します。少し不穏な雰囲気になってからもまた良いんです。頭の中がお花畑じゃない人が、大はしゃぎせずに喜びを噛みしめているから良いんですよ。ヴァイオリンとチェロの対話を、ピアノがオーケストラのような響きで支えてくれるのもブラームスらしいです。第2楽章は、まだ掴みきれない何かを探るような雰囲気のチェロから入り、ピアノ、ヴァイオリンも続きます。メリハリが効いていて小刻みな音の後にダダダーンと強く弾くところがツボで、この楽章の不穏な雰囲気と明るさが同居している感じがとても好きです。第1楽章で聴いたメロディが帰ってくるとまた美しく、主旋律をチェロに任せてヴァイオリンが高い音で小刻みに音を刻んで伴奏する高揚したところがとても良くて。ブラームス独特のピアノのキラキラは「らしい」ですし、でもキラキラで終わらず低音で力強いところも。おそらくピアノ演奏はものすごく難易度が高いと思われますが、見た感じの印象では難なく弾きこなしておられました。ピアノの高い音に続いて弦のピチカートが2回入るところも可憐で良いです。第3楽章、ゆったりしたピアノ伴奏に合わせて静かに語るヴァイオリンとチェロが素晴らしい。その後チェロが低めの音程で歌うところはチェロの魅力たっぷりでうれしくて、私はまばたきを忘れてチェロの手元を凝視していました。ヴァイオリンのターンに入ってからもチェロの低音が効いています。もう一度楽章のはじめのメロディが戻ってきて、次の楽章へ。第4楽章、冒頭はまたもやチェロ!もうブラームスのピアノ三重奏曲第1番、大好きです!この選曲でしかも石川さんが弾いてくださるのに感謝します。激しくなったり少し不安な感じになったりまた喜びを語ったりと雰囲気がめまぐるしく変化するのですが、演奏は流暢で楽器は3つしかないのにスケール大きいです。しかし第1楽章が喜びで始まったこの曲は、喜びのままでは終わらず、新たな不安に対峙したかのような締めくくり。素晴らしい!プログラムには「どこまでブラームスを表現できるか挑戦するつもり」とありましたが、なんというか「ザ・ブラームス」だと私は感じました。ブラームスはメンタル強いと思わせるエピソードには事欠かないですし、特に管弦楽ではいかめしく武装しがちなのですが、室内楽やピアノ曲や歌曲を聴くと本当は繊細でロマンチストで情に厚い人ではないかと私は思えるのです。20歳そこそこのまだ何者でも無かった彼が、既に人間のむき出しの欲や醜さも知ってるにもかかわらず、素直にかつ控えめに喜びを表現していること。そして晩年になって曲を改訂し完成度を上げたにもかかわらず、初稿はそのまま残したこと。一言ではとても言い表せない様々な感情を、すべて飲み込んだ上で昇華させたこと。なにもかもがブラームスらしいと私は感じました。以前は私は正直このピアノ三重奏曲第1番をどう聴けばいいのか掴みかねていました。しかし今回の演奏を聴いて、様々な感情が同居する矛盾を素直に受け入れられた気がしたのです。大好きな曲になりました。本当にありがとうございます!
カーテンコールで舞台へ何度も戻ってこられた奏者の皆様。何度目かに着席して、ピアノの西本さんがマイクを持ってお話されました。息も絶え絶えでご挨拶なさって、演奏に全力投球なさったのだとよくわかりました。曲名紹介のあと、アンコールへ。アンコールはピアソラ「リベルタンゴ」。大人の妖艶な雰囲気が本プログラムの3曲とはまったく違っていて素敵。はじめはヴァイオリンとピアノ、次にチェロとピアノ、続いて三重奏と、組み合わせが色々の演奏でした。ずっとピアノがタンゴ独特のリズムを奏でていて、重なる弦が歌う感じ。同じメロディでも当然ヴァイオリンとチェロの表情は違っていて、どちらもゾクゾクしました。テンポがやや速い気がしたのですが、それは私が感覚的にそう感じただけで楽譜の指示と違うかどうかはわかりません。会場は拍手喝采。アンコールまで全力疾走の、素晴らしい演奏をありがとうございました!
この演奏会のちょうど1週間前に開催されたピアノ四重奏のコンサートについても弊ブログにレポートをあげています。後半のメインプログラムはブラームスのピアノ四重奏曲第1番!8月に札響定期で演奏されたシェーンベルク編曲による管弦楽版の原曲です。奏者はピアノの浅沼さんに、弦のメンバーには札響コンマスと副首席奏者が揃っている強力な布陣でした。以下のリンクからどうぞ。
今回出演された札響首席チェロ奏者の石川さんが、ソリストとして札幌室内管弦楽団と共演したコンサートが2019年10月にありました。石川さんのチェロ独奏、痺れましたよ!何度でも聴きたい!よろしければそのレビュー記事もお読みください。以下のリンクからどうぞ。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽(https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c