2019年10月、私は初めて札幌室内管弦楽団の演奏会にうかがいました。きっかけはKitaraでたまたま見つけたチラシです。札響首席チェロ奏者・石川さんがソリストのドヴォコン!カップリングはブラ2!私、狙い撃ちにされています(笑)。これは絶対に聴きたい!と、すぐに留守番を頼む家族の予定を確認し、前売り券を購入しました。前売り1500円。こんなにお安くて良いんでしょうか…と少し気後れしながらも、私は当日を楽しみに待っていました。
札幌室内管弦楽団について詳しくは上の公式サイトを参照ください。「もっとクラシックを楽しく」のスローガン、良い生演奏を気軽に聴ける機会を増やしたいとの思い、共感いたします。プロ・アマ混成のオーケストラで、ステージ上の奏者の皆様を拝見すると、札響の大編成の演目でお見かけした顔がちらほら。言うまでもなく北海道唯一のプロオーケストラである札響は最高峰であり、比べてはいけません。しかし、私は今回初めて札幌室内管弦楽団の実演に触れ、その質の高さに失礼ながら驚きました。そして札幌の演奏家の層の厚さを実感し、聴き手としては大変恵まれている環境にあるなとも感じました。
では感想に進みます。いつものように素人コメントであることをご了承下さい。またひどい間違いは指摘くださいますようお願いします。
札幌室内管弦楽団 第14回 演奏会
2019年10月13日(日) 18:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
松本寛之
【独奏】
石川祐支(札響首席奏者)(チェロ)
【管弦楽】
札幌室内管弦楽団
【曲目】
ツイッターでの速報は以下。
今夜はドヴォコンとブラ2を聴きにKitaraへ。ソリストは札響首席奏者の石川さん。もう最高に良くてますます石川さんのファンになりました。無理好きちょっとこれ以上は言えない。そしてブラ2の解説を聞いて、指揮の松本さんとは絶対に気が合うと確信。実演では本気で涙が。やっぱり私はブラ2が愛しい。 pic.twitter.com/Rv44qgzbQn
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年10月13日
私ホイホイのソリストと演目で大満足の演奏を聴けて前売り1500円。札幌室内管弦楽団さんはプロとセミプロそしてアマチュアの混合オケのようで、札響の大編成の演目でお見かけした顔がちらほら。完成度の高いそして心のこもった演奏に感激です!札響だけでない札幌の演奏家の層の厚さがよくわかります。
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年10月13日
聴いた直後の興奮冷めやらぬ中でテンションおかしいツイートをしてますね…。こっそり告白しますが、実は私、札響首席チェロ奏者・石川さんの隠れファンです。あくまでひっそりと応援しています。石川さんの独奏をたっぷり聴けるなんて、夢のようでした。本当にありがとうございます。そしてブラ2が解説を含めとても良かったです。私にとってブラ2は、札響定期演奏会デビューのときにバーメルトさん指揮で聴いた思い出の曲です。今回はオケも指揮者も違いますが、良い席でリラックスして聴けたのもあり、素直に「楽しむ」ことができた気がします。
全席自由席で、私は2階前列のSS席にあたる席を確保。しかし大変もったいないことに会場はガラガラでした。これではソリストへの謝礼と会場費を支払った時点で赤字なのでは?と、失礼ながら心配になりました。お客さんが少ないため皮肉にも音がものすごく良くて、聴き手としては贅沢な時間を過ごすことができたのですが…。チケットは低価格で用意し、小ホールではなく大ホールで演奏会を開催する心意気は大変素晴らしいです。それでも、チケット代はもう少しお高くてもバチはあたらないと個人的には考えます。そして、やはりできるだけ多くのお客さんに入って頂きたいですよね。弱小個人ブロガーの私ですが、微力ながらここで大声で叫びます。「札幌室内管弦楽団の演奏会、良いですよ!次の演奏会には皆様ぜひ足を運んでください!」
オケの配置は、見慣れた札響のオーソドックスな配置と比べチェロとヴィオラの位置が逆で、舞台向かって右側の前列はチェロでした。そういえばPMFのGARAコンサートもそうなっていました。大きなオケであればステージマネージャーがいますが、配置は最終的には指揮者が決めるのかな?と少しだけ思いました。
演目に入ります。前半はドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調。演奏前に指揮の松本さんからお話がありました。まずは台風19号の被害へのお見舞いから。こんな気配りができるかたは素敵です。前半の曲名紹介と「皆様ご存じ」の枕詞でソリストのお名前紹介がありました。石川さんとリハーサルを重ねたことでオケが刺激を受けた旨のお話の後、石川さんをお呼びし、会場は拍手でお迎えしました。石川さんは片手でチェロを抱え颯爽と登場。きゃあああ石川さんんんん!!!私は心の中で大声援を送りました。特にお話はなく、石川さんはソリスト用に少し高くなった台の上の椅子に腰掛け、演奏準備。譜面台はありませんでしたので、暗譜です!もう完全にご自分のものにしていらっしゃるんですね。期待し過ぎちゃいけないと思いつつ、いやでも期待が高まります。第1楽章は、始まってしばらくはオケのターンです。メロディメーカーのドヴォルザークですから、聴きやすいメロディが次々と。そして満を持してチェロ独奏が登場。この感じキター!一音目からぐっと迫るチェロの音色!そこからチェロ独奏は忙しく、主旋律を奏でているときも、オケの木管の裏で伴奏のような形で演奏していても、とにかくずっと素晴らしい。低めの音で演奏するときの艶めかしさも、高いヴァイオリンのような音で奏でるときも、すべて。私の素人の耳で申し訳ないのですが、高音のときはむしろヴァイオリンより深みのある音で聞こえ新鮮でした。第2楽章、全体的に何となくさびしい感じがするこの楽章で(解釈が間違っていたらごめんなさい)、チェロ独奏は血の通った人間がそこにいるかのように感じられ、どんな時も寄り添ってくれるような良さがありました。第3楽章、まずはオケが盛り上げてくれた後にチェロ独奏が入ってきます。私、個人的にこの第3楽章のチェロ独奏がすごく好きです。最初の歌うようなところはもちろん、一旦オケのターンでコントラバスが低音を効かせるところから戻ってきてからの独奏チェロがまた良いんですよ。コントラバスとの対比になっているのがニクイ。細かすぎて伝わっている気がしない。楽章最初のメロディを、独奏チェロが哀しげに演奏した直後にオケが全員参加で派手に演奏する対比も好き。歌曲を独奏チェロが歌うようなところもあって聴かせどころしかないです。様々な盛り上がりの後、一旦ゆったりなペースになりますが、このゆったりしたところでこそ独奏チェロをしっかり味わえるのかもと、私は実演を聴きながらそう思いました。石川さんは独奏チェロの最後の一音まで超人的な集中力で奏でてくださり、最後はオケが全員参加の合奏で盛り上げて締めくくり。素晴らしい!チェロ独奏、痺れました!ソリスト石川さんと札幌室内管弦楽団の皆様の演奏、そして独奏チェロの見せ場てんこ盛りの曲を書いてくださったドヴォルザークさんに感謝です!
演奏が終わると、舞台袖から花束を持った女性が登場し、石川さんに花束が贈呈されました。石川さんはまずチェロを片手で抱え、花束を受け取った後はチェロと同じ腕で花束とチェロを抱きかかえるようにして、空いた片方の手で花束贈呈した女性と握手。いいなあ(←)。奏者のかたのこんなふるまいも観客はよく見ているので、こんなふうに自然に動ける奏者のかたはやはり株が爆上がりします。石川さん、これからもこっそり応援させてください!
ソリストアンコールはJ.S.バッハの無伴奏組曲 第6番より「サラバンド」。いつも思うのですが、なぜチェロ1つ弾く人1人なのに同時にたくさんの音が聞こえるんでしょう?素人丸出しで申し訳ないですし、一度にたくさんの音が聞こえるという例えが正しいかどうかもわかりません。しかし単純じゃないチェロの音色が私は大好きだと改めて思いました。そしてチェロの音の重なりは奏者によっても違っていて、私はやはり石川さんのチェロの演奏が好きなのだと再認識。大熱演のドヴォコンの後にソリストアンコールまで、ありがとうございました!
前半が終わってから気付きましたが、私ソリストしか観ていなかったです。オケあっての協奏曲なのにごめんなさい!ソリストのターンはもちろんのこと、オケのターンになっても汗を拭ったり次の演奏に入る前の瞑想をしたりといったところ、全部凝視していました。超絶重くてスミマセン。私、実は席を選ぶとき最前列に座ってガン見しようかと一瞬思ったんですよね。でもそれでは演奏しづらいかもと思い直し、これでも遠慮して2階席に座ったんですよ。SS席だけあって音も視界も良かったですが、奏者の表情まではよく見ることが出来なかったので、1階の5列目あたりにすればよかったかなと後で少しだけ思いました。どうかしている自覚はあります。こんなことは置いておいて、何より石川さんのチェロ独奏によるドヴォコンの実演が聴けたのが本当にうれしかったです。石川さん、札幌室内管弦楽団の皆様、重ねてありがとうございました!
後半はブラームスの交響曲第2番ニ長調です。こちらも演奏前に指揮の松本さんからお話がありました。ブラ2についての松本さんの解釈は、「『ブラームスの田園交響曲』との形容があるけれど、自然を描いているというよりは自分の内面を見つめているように思える」。うおー同志よ!!!私は心の中で松本さんとがっちり握手しました。私は同じ事をもう5億年前から言ってますから!私、松本さんとは気が合いそうですし、これは絶対に演奏にも期待できると確信しました。また松本さんはご自身の身の上話を少し交えながら、ブラ2の「物語」を提案してくださいました。初老の男性を主人公に、第1楽章は少年時代の「回想」、第2楽章は今自分が直面している「現実」、第3楽章は「冒険」、そして第4楽章は「人生賛歌」。当然ながらブラームスは標題音楽のつもりで書いたわけではないので、この物語はブラームス自身が意図するものではありません。しかしせっかくなので、私はご提案頂いた物語に丸ごと乗っかって鑑賞することにしました。主人公は、ブラ2を作曲した当時のブラームスで。第1楽章、思慮深い母の愛や素晴らしい音楽の先生に恵まれた子供時代ではありますが、貧しい家系を支えるためローティーンの頃から売春宿でピアノを弾いたブラームス。そのことについて彼自身は多くは語らないのですが、徹夜続きでフラフラになっていた彼を見かねた知人が田舎に招待することが時折ありました。その田舎での暮らしが彼を救ってくれて、生涯田舎をこよなく愛する人物に。私は、曲が始まってしばらくして登場する、ヴィオラが中心となって奏でる静かな美メロに泣けて仕方がありませんでした。彼自身大はしゃぎはしないけど、田舎の涼しい風は優しくて、彼のささくれた心を癒やしてくれたのだろうと思うともう無理です。しかし、なんとか気を取り直して曲に集中するようにしました。第2楽章は穏やかな美メロが次々と。しかしふいに向かい風が吹いたり雷雨に見舞われたりすることも。ブラ2作曲当時のブラームスは、ブラ1成功の直後で比較的落ち着いていた時期ではあります。しかし誰しもがそうであるように、ままならぬ現実に直面することはあったわけで。第3楽章。そうですよね、枯れるにはまだ早すぎる。若者のようなガツガツした感じはないものの、それなりの人生経験を踏まえた上で、新しいことにも目を向けて冒険する心は忘れていないのは素敵。第4楽章は、まさに「自分で自分を褒めてあげたい」なのだと思うのですが、それでもブラームスは最初のうちは遠慮がちですよね(笑)。自分に厳しすぎる人であっても、もうここまで頑張って結果を出してきたことは讃えられて然るべきです。早い段階からベートーヴェンの後継者と見られたため、生半可な作品は発表できず、自作品をどれだけ暖炉の火にくべてきたことか。そうして頑張って頑張って構築したブラ1の成功は、間違いなく彼自身がつかみ取ったもの。それは誰もがそう思っていますよ。吹っ切れたように曲が明るく盛り上がるのを聴くと、私はまるで自分のことのように嬉しくなりました。最後のクライマックスでティンパニの鼓動に乗って高らかに鳴るトランペットが、ブラームスを祝福してくれているようで、私はここでも涙が。嬉し泣きです。よかった、本当によかった。私、やっぱりブラ2は「愛しい」という形容がぴったりきます。ブラームスの他の作品も色々聴いてきましたし、4つの交響曲はそれぞれの良さがあってすべて好きです。しかし他の3つの交響曲にはない素直さが2番には感じられて、まるでお母さんになったかのような気持ちでとても愛しいと思うのです。素晴らしい演奏を聴かせてくださりありがとうございました。
カーテンコールのとき、控えていた打楽器奏者のかたお二人も舞台へ。指揮の松本さんは舞台袖から猛ダッシュしてきて指揮台に飛び乗りました。恰幅の良い松本さんが意外にも身軽でビックリ(失礼)。アンコールはドヴォルジャークのスラブ舞曲第8番。賑やかに盛り上げてくださいました。全力投球の演奏が終わり、会場は拍手喝采。指揮の松本さんは次回演奏会の案内をした後、「これで本当に終わりです!」とおっしゃって会場に笑いが起きました。楽しかったです!ありがとうございました!
終演後のロビーでは、石川さんがソリストとして札響と共演したCDの販売がありました。が、サイン会はありませんでした(涙)。私、サイン会があると期待して家からこっそりCD持参していたのですよ(笑)。また次の機会にぜひお願いします!
札響首席チェロ奏者・石川さんがソリストのドヴォコンについては、エリシュカさん指揮で札幌交響楽団演奏によるCDがあります。カップリングはブラ3です。私は既にエリシュカさんのブラームス交響曲全集を持っていたにもかかわらず、石川さんの独奏が聴きたくて購入しました。2曲とももうめちゃくちゃ良いですのでオススメします。ライブ録音です。実演が聴きたかったです私…。ちなみに今回の演奏会ロビーで販売されていたのはこちらのCDでした。
なんと石川さんにはブラームスのチェロソナタのCDもあります!うれしすぎです!私は見つけたときに即買いしました。シューマンとドヴォルザークの曲も入っていてオトク感があります。ブラームスのチェロソナタ、1番の若き日の苦悩も、2番の大人の余裕も、石川さんのチェロにかかると陳腐な言葉では言い表せない深みが感じられます。カップリング曲もすべて素敵で、私は特にシューマンの幻想小曲集op.73の第3曲がツボです。なんというか、石川さんらしいなと感じました。石川さんがオケのお仕事だけでもご多忙なのは存じておりますが、できればこちらのCDに収録された曲でリサイタルをして頂けたらうれしいです。ピアノ伴奏はもちろんCDと同じ大平由美子さんで。サイン会もぜひ!
私が石川さんのお名前をはっきりと認識したのは、江別での札響の演奏会でした。1曲目のロッシーニはそれが目当てで行ったわけではないのに、チェロ独奏に不意打ちされたのです。それはもうズキューンと。これは事故です(笑)。ソリスト成田達輝さん(ヴァイオリン)によるパガニーニ、そして後半メインのブラ1もとても良くて、遠征して本当によかったと思いました。その演奏会のレポートは以下のリンクにありますので、よろしければお読みください。
バーメルトさん指揮のブラ2は、私が札響定期演奏会デビューした記念すべき演奏会で聴きました。その演奏会のレポートも弊ブログにありますので、よろしければそちらもお読みください。私が5億年前から言っている「ブラ2は内面を見つめている」についても軽く触れています。以下のリンクからどうぞ。
ブラームスはドヴォルザークのチェロ協奏曲におおいに嫉妬したそうですが、ブラームスの二重協奏曲だって負けていないと私は思います。ブラームスの二重協奏曲は2019年8月の札響定期演奏会で演奏され、その様子がEテレ「クラシック音楽館」で放送されました。その番組レビュー記事は弊ブログにあり、演奏会そのもののレポート記事へのリンクも掲載しています。以下のリンクからどうぞ。NHKのカメラさんは、オケのチェロパート全体を映してから石川さんの手元にズームするというのを、番組内で少なくとも2回やってくださったので大好きです(←録画リピート再生しすぎだし変なところに着目しすぎ)。二重協奏曲、いつか石川さんのチェロ独奏で聴きたいです!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽(https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c