自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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フォーレ、そして彼と出会った作曲家たち(2022/10) レポート

http://watanabe-museum.com/event/img/2022/20221001.pdf

↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

miamoonlive.com

↑今回の演奏会はじめ、数多くの演奏会を企画・運営する music in art の公式サイトです。ピアニスト・小野寺あいさんが代表を務められています。

フランスの作曲家・フォーレをテーマにした室内楽のコンサートが開催されました。メンバーは、music in art の代表でピアニストの小野寺あいさんを中心に、弦は札響から2名と、札響の客演も多い地元でご活躍の2名。なお今回に先駆け、2022/9/16には豊平館にてプレコンサート「フォーレとその人生」が行われたとのことです。私は最近、演奏会でフォーレドビュッシーといったフランスものに出会う機会が多かったため、フォーレに興味を持ち、開催3日前に申し込みしました。

会場はちょうどkitaraの裏にある、渡辺淳一文学館。定員82名のコンパクトなホールでは、演奏会や朗読会などのイベントがよく開催されています。ちなみに私が訪れたのは今回が2回目で、前回は2018年11月に開催されたブラームスの歌曲のレクチャーコンサートでした。

フォーレ、そして彼と出会った作曲家たち
2022年10月01日(土)15:00~ 渡辺淳一文学館 地下1階ホール

【演奏】
佐藤 郁子(ヴァイオリン) ※札響ヴァイオリン奏者
林 ひかる(ヴァイオリン)
前 南有(ヴィオラ
坪田 亮(チェロ) ※札響チェロ奏者
小野寺 あい(ピアノ)

【曲目】
フォーレ:シシリエンヌ op.78 (Vc.&Pf.)

フォーレ:3つの歌 op.18 より 第3番 秋の歌 (Vla.&Pf.)
ドビュッシー:忘れられた小唄 より 第5番 グリーン (Vla.&Pf.)

ラヴェルフォーレの名による子守歌 (Vn.&Pf.)

ドビュッシー:ベルガマスク組曲 より 第3番 月の光 (Pf.)

ドビュッシー:月の光 (Vla.&Pf.)
フォーレ:2つの歌 op.46 より 第2番 月の光 (Vla.&Pf.)

サン=サーンス:エレジー ヘ長調 op.160 (Vn.&Pf.)

フォーレピアノ五重奏曲第1番

(アンコール)フォーレピアノ五重奏曲第1番 第1楽章より


ピアノはヤマハでした。


フォーレを中心にしたフランスの室内楽、しみじみ素敵で聴き入りました。重厚さでガツンと訴えてくるドイツ系とは違い、繊細な響きの変化がじわじわ心に染み入る感じ。メインのフォーレピアノ五重奏曲では、水彩画のように重なることで色合いが変化していく美しさが感じられ、個人的に慣れ親しんできたブラームス(がっつり油絵)ともシューマン(こちらも色合いくっきり)ともまったく異なるカラーを楽しみました。こんなピアノ五重奏曲も素敵!また前半の小品の数々も、演奏の良さはもちろんのこと、選曲とプログラムも気が利いていてとても良かったです。全部を同じ作曲家で固めるのではなく、関連する作曲家の作品を組み合わせるのは良いアイデアですね。並べて演奏することで、同じテーマでも作曲家によって個性の違いがあるのが面白く、毎回新鮮な気持ちで聴けたのもよかったです。

そして曲の合間には小野寺さんによる解説があり、これが超面白かったです!プログラムノート(曲目解説に加え歌曲の原詩と対訳もあり、こちらも大変充実していました)には書かれていない様々なお話から、作曲家の考え方や人柄も垣間見え、作品をより深く楽しめました。プレコンサートにも行けば良かった、と私はつい後悔したほど。演奏家の皆様は、これほどまでに作曲家自身と作品が生まれた背景を知り尽くして演奏に臨んでいらっしゃるとは!私は感激しました。これはまさに愛ですよね!


1曲目の出演者お二人が舞台へ。すぐに演奏開始です。フォーレ「シシリエンヌ」、チェロとピアノによる演奏でした。管弦楽版の「ペレアスとメリザンド」では、フルートとハープで演奏される美しい音楽。フルートの透明感はもちろん素敵ですが、チェロの哀愁ある響きも素敵です!特徴的なリズムのピアノに乗って、短調のメロディを歌うチェロ。ピアノがメインになるところでのピッチカートや、汽笛のような低音を効かせるのも印象的で、これはフルートにはないチェロならではの魅力!とも思いました。演奏の後の解説によると、「ペレアスとメリザンド」の劇付随音楽を依頼されたドビュッシーが結局オペラにしてしまい、フォーレが劇付随音楽を作ったものの、ドビュッシーフォーレのことをdisっていたとか。個人的には、この美しい音楽を前に、ドビュッシーは嫉妬メラメラだったのでは?と少しだけ思いました。

フォーレはサロンで活躍した作曲家で、歌曲をたくさん作り、同時代の詩人や作曲家に影響を与えたのも功績の一つ。ドビュッシーも結局はフォーレの影響を受けている、といったお話がありました。フォーレドビュッシー、それぞれの歌曲をヴィオラとピアノによる演奏で。まずは19世紀末の不安感が表れている、フォーレ「秋の歌」。重厚さのあるピアノに、哀しく歌うヴィオラ。冬に入りかけた晩秋のイメージの音楽でした。続いて、こちらは比較的明るい、ドビュッシー「グリーン」。緩・急・緩の流れで、緩のゆったりとしたところを私はなぜか東洋的と感じました。中間部のキラキラしたピアノと美しく歌うヴィオラは、まるで小さな幸せを噛みしめているかのような印象でした。

ヴァイオリン(林さん)とピアノによる演奏で、4曲目は有名なフォーレの「子守歌」ではなく、ラヴェルフォーレの名による子守歌」。雑誌の付録として出版社が企画し、フォーレの生徒7名にフォーレのオマージュとして作曲依頼したものの1つだそうです。こちらはフォーレ存命中の企画ですが、そもそもはドビュッシー没後にドビュッシーに関しての企画がヒットした出版社が、次はフォーレで、という二匹目のドジョウを狙う流れで企画されたものだそう。また、その時代は古い考え方が幅をきかせていたため、ラヴェルが権威あるローマ賞をついに取れなかったお話、「ラヴェル事件」等の紹介、フォーレが教育者として古い態勢を改革したといったお話も。今回取り上げられたラヴェルフォーレの名による子守歌」は、フォーレの名前の綴りを一つずつ音に当てはめてメロディを作っている、とのことです。私には具体的にどの音がどの音名に当てはまるのかはわからないのですが、こちらの演奏をとても興味深く聴きました。ゆりかごが揺れるような一定のリズムが面白く、素朴なタタタン、タタタン……のメロディが少しずつ変化する音楽。派手さはなくても、微妙な機微の違いを丁寧に表現するのが素晴らしく、演奏に引き込まれました。

ピアノ独奏で、ドビュッシー「ベルガマスク組曲 より 第3番 月の光」。言わずと知れた超有名曲ですね。神秘的な高音に対して、ぐっと深みを与える低音に余韻が感じられたのが印象的でした。中盤の流れるようなところがとっても素敵!澄んだ夜空に大きな満月が浮かんでいるのが目に浮かぶような、儚くも存在感ある響きでした。

「月の光」というタイトルの作品が続く前に、解説がありました。ドビュッシーは「月の光」というタイトルで、なんと3つも作品を生み出しているのだとか。有名なピアノ独奏曲に加えて、歌曲を2つ。いずれもヴェルレーヌの詩に基づいており、同じ詩でフォーレも歌曲を書いているとのこと。ちなみにドビュッシーは、フォーレの作品を聴いた後に2つ目の歌曲を書いたそうですから、半端なく意識していたんだなと私は妙に感心してしまいました……。またヴェルレーヌ周辺にはスキャンダルが多く、ドビュッシーヴェルレーヌの義理の母親にピアノを習っていたというトリビア紹介もありました。

ヴィオラとピアノによる演奏で、「月の光」というタイトルの歌曲を2つ。はじめはドビュッシー「月の光」、今回は作曲家が若い頃に書いた1882年の作品です。素朴なピアノ伴奏に、ヴィオラが時折揺らぐ音で美しく歌い、ミステリアスな雰囲気が感じられました。続けて、こちらは作曲家晩年の作品、フォーレ「月の光」。切なく透明感あるピアノの前奏に、私は早速気持ちが持って行かれました。今回の2曲ならフォーレの方が好き!と率直にそう思ってしまったほど。切なく高らかに歌うヴィオラも存在感があり素敵でした。なおドビュッシーの3つ目の「月の光」はまた別の機会に、とのことでした。

ヴァイオリン(佐藤さん)とピアノによる演奏で、前半最後はサン=サーンス「エレジー ヘ長調 op.160」。エレジーフォーレも作曲していますが、今回はサン=サーンスの最晩年の作品が取り上げられました。ちなみにサン=サーンスはエレジーを2つ作っているそうです。エレジーは「悲歌」という意味。しかし解説によると、サン=サーンスの最晩年の作品は、哀しみを表現するよりも人生を振り返って噛みしめているようで、サン=サーンスの若くして亡くなった友人が残した8小節のメロディを取り入れている、とのこと。また、サン=サーンスフォーレに仕事斡旋や出版社紹介等をし、フォーレサン=サーンスが亡くなるまで交流を続けた、とのお話もありました。こちらの演奏が私的ハイライト!冒頭の、体温を感じる柔らかく艶やかなヴァイオリンの音色に私は一瞬で引き込まれ、さらに甘やかに変化したところで完全に落ちました。音階を駆け上るところがすごい!感極まったような高音で歌うところが最高!しかしそんな美しい思い出は過去のもの……と終盤は音が小さくなり、優しいピアノの響きと一緒に温かく締めくくり。繊細な音の変化から人生を振り返る人の思いが感じられる、とても素敵な演奏でした。「エレジー ヘ長調 op.160」に、私は一目ぼれです!


後半はフォーレピアノ五重奏曲第1番」フォーレの2つあるピアノ五重奏曲のうちの1つで、フォーレ室内楽でもぐっと深みが増した作品と紹介されました。また、フォーレが研究していた教会音楽が随所に反映されているそうです。先に第1楽章と第3楽章を書いたものの中断。その後、ブラームスと同じ(ここでブラームスの名前が出てくるとは!)スイスの避暑地で第2楽章を作り、他楽章も調整して完成したとのこと。出演者5名が揃い、ヴァイオリンのパートは1st佐藤さん、2nd林さんでした。第1楽章、水面を思わせる美しいピアノに乗って、弦はまず2ndヴァイオリン、続いてチェロ、その後にヴィオラ、最後に1stヴァイオリンが参戦。各パートの重なりが増える度に少しずつ盛り上がっていく優雅な流れが素敵でした。弦がクレッシェンドとデクレッシェンドで感情の波を表現するのが美しく、まるで寄せては返す波のようでした。また、弦がソロで演奏するところでは、中でもヴィオラの存在感が印象に残っています。ピアニッシモでフェードアウトするラストの温かみのある響きがとっても素敵!少しゆったりする第2楽章では、穏やかな流れが感極まった後の、切ないピアノと哀しげに歌うヴィオラがとても良かったです。前半で聴いた歌曲のように、すっと心に染み入りました。そのメロディを引き継いだ1stヴァイオリンの美しいこと。それを支えるチェロも印象的でした。この楽章も温かで静かな締めくくり。第3楽章、はじめのピアノのリズムが舞曲のよう。個人的には初めて触れた感じのリズムがとても新鮮でした。弦が参戦してからしばらくは、重低音でピアノがリズムを刻んだのも印象に残っています。ダンスが楽しくなってきたような弦の盛り上がりが素敵。また、この楽章でもピアノとヴィオラによるパートがあり、他の弦が交互に出てきたのがまるで会話しているようにも感じられました。独特のリズムは活かしながら、クライマックスでは最初のメロディが華やかに盛り上がり、ラストは力強く締めくくり。美しい音楽の流れの中で色合いが変化していくのが素敵で、流れに身を任せられた、幸せな時間でした!

小野寺さんが「本当に数多くの演奏会がある中で、お越しくださりありがとうございます」と、ごあいさつ。アンコール……と小野寺さんが仰ったとき、すかさず会場には大きな拍手が起きました。アンコールは先ほど演奏された、フォーレピアノ五重奏曲第1番」第1楽章より、途中から楽章終わりまでをもう一度聴かせてくださいました。本来、この形で良いはずですよね。美しい響きを、繰り返し聴けてうれしかったです。

終演後、ロビーでは出演者の皆様によるお見送りがありました。おそらく常連さんが多いと思われるお客さん達と、出演者の皆様との温かな交流。コンパクトな会ならではの、こんなシーンも素敵です!札幌では小規模な演奏会が星の数ほど企画されているため、私はとても全部には行けないのですが、今回ご縁があってこちらにうかがえてよかったです。素敵な時間をありがとうございました。これからも様々な企画を楽しみにしています!


弊ブログの演奏会レポートのうち、フォーレドビュッシーといったフランスの作曲家の作品が取り上げられた先月の演奏会を2つをご紹介します。

石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル」(2022/09/24)。地元で愛されるデュオ、結成10年の節目は独仏プログラム。フランクのソナタは、酸いも甘いもかみ分けた人の人生ドラマのようでした。CD化を切に希望します!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル」(2022/09/18)。ソプラノ&ハープによる、歌曲やオペラアリアの華やかで多彩な表現。ハープ・ソロの管弦楽のような壮大さ。美しい響きに酔いしれ、天上世界にいたかのような幸せな時間でした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。