11月に聴いたコンサートはこちらのみ。六花亭本店のふきのとうホールでの室内楽です。レポートはいつものように素人コメントであることをご了承ください。また、ひどい間違いは指摘くださいますようお願いします。
エリーザベト・ヴェーバーと仲間たち
2019年11月19日(火)19:00~ ふきのとうホール
【出演】
エリーザベト・ヴェーバー(ヴァイオリン)
森岡聡(ヴァイオリン)
樹神有紀(ヴィオラ)
伊東裕(チェロ)
船橋美穂(ピアノ)
【曲目】
- V.ススリン 「旅立ち」のカプリッチョ
- F.ドレーゼケ 2本のヴァイオリンのための組曲 嬰ヘ短調 op.86
- G.マーラー ピアノ四重奏曲断章 イ短調
- J.ブラームス ピアノ五重奏曲 ヘ短調 op.34
今回のピアノはスタインウェイでした。
ツイッターでの速報は以下。
今夜はふきのとうホールの「エリーザベト・ヴェーバーと仲間たち」へ。私がブラームス作品で一番好きなピアノ五重奏曲がメイン。素晴らしい演奏でした。初めての実演がこの演奏会でよかった!前半はマーラーのピアノ四重奏曲に度肝を抜かれ、2つのヴァイオリンで弾く2曲の「音」にゾクッとしました。 pic.twitter.com/IWs19DChCO
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年11月19日
作曲家の「らしくない」良さがブラームスにもマーラーにも感じられました。アンコールはナシでしたが、十分です。普段は別々に活動している奏者の皆様が、難曲をこの完成度で聴かせてくださったことに感謝します。
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年11月19日
そして今回は六花亭さんのお菓子のお土産付きでした。明日の朝いただきます💕 pic.twitter.com/S0nseEVSXV
メインプログラムがブラームスのピアノ五重奏曲!ということで行くのを決めた演奏会でしたが、後半ブラームスだけでなく、初めて聴いた前半の3曲も私にとっては新鮮で刺激を受けました。私がきちんと受け止められたかどうかは別として、演奏機会が少ない曲を素晴らしい演奏で聴くことができたのはありがたいです。
私は前の方の中央寄りの席にいました。会場の客入りは9割程だったと思います。演目が比較的マイナーなものであっても聴きに来る人が多い札幌は文化的な土地柄だと思いますし、なによりこういった企画を継続して出してくださる六花亭さんには頭が下がります。また、今回はお菓子のお土産まで頂き、帰宅してからも幸せな気分を味わえました。
奏者の皆様、私はどのかたもお初にお目にかかります。プロフィールを拝見すると、皆様輝かしい経歴をお持ちのかたばかりで、自分が知らないだけで才能と技術をお持ちの素晴らしい演奏家のかたはおられるのだなと今更ながら思いました。私は割と奏者のお名前で演奏会を選んでしまいがちなのですが、それを反省するきっかけになりました。エリーザベト・ヴェーバーさんは背の高い女性で、最初の2曲は髪をさげて、マーラーとブラームスでは髪をまとめて演奏されていました。そしてヴィオラの樹神有紀さんは紺色のベアトップのドレスをお召しになっていて、他の皆様の衣装は黒。黒い長袖シャツとスラックスの男性2名は、シャツの首元までボタンをかっちり閉じていてジャケットなしでも着崩した感じではありませんでした。また男性奏者お2人は、入退場の際は必ず女性を先に通しておられました。
1曲目と2曲目はエリーザベト・ヴェーバーさんと森岡聡さんお2人のヴァイオリストによる演奏。V.ススリンの「旅立ち」のカプリッチョは、なんだか不気味な雰囲気の曲で、高いきゅーっという音が続いたかと思ったら突然激しくなるところも。私はこの曲をどう捉えれば良いのか正直わかりませんでしたが、美音や美メロを楽しむタイプの曲ではなさそうとは思いました。続くF.ドレーゼケの2本のヴァイオリンのための組曲は、最初の曲よりはメロディの美しさが感じられましたが、こちらも不穏な雰囲気の曲でした。基本は第1ヴァイオリンが高い音、第2ヴァイオリンが低い音で演奏しながら、時々は高低が入れ替わることも。またこの曲のみ楽譜がタブレット端末で、足踏み式のリモコンが用意されていました。ちなみにリモコンの出番はありませんでした。最初の2曲はおそらく選曲にも演奏にも深い意味があったと思われます。にもかかわらず、私はめずらしい曲を聴いたなと思った程度で、本質的なことを感じ取れず、申し訳ないです。
3曲目はG.マーラーのピアノ四重奏曲断章。まず私は「マーラーに室内楽がある!」という時点で驚きでした。マーラーといえば編成の大きな交響曲と歌曲のイメージしかなかったので…。ネット情報によると、作曲者16歳くらいのときの作品で、作曲科の試験での提出作品とのこと。現在私達が聴けるのは第1楽章のみで、他の章は書かれなかったのか現存しないだけなのかはわかりません。演奏に話を移します。初めの2曲を演奏した第2ヴァイオリンの森岡聡さんはお休みで、他の出演者のかた4名による演奏でした。演奏が始まってすぐに「これはマーラー!?」とまたビックリ。マーラーはブラームスを嫌っていたそうですが、この曲に関して言えばなんとなくブラームスに雰囲気が似ているように感じました。ただ低音が効いているとはいえ、ブラームスであれば特にピアノにもう少し甘美なところが入るかもと感じたので、これはやはり若き日のマーラーの作品です。歌うヴァイオリンと、それについていくヴィオラ、低音で支えるチェロ、全体を哀しげに包むピアノ、すべて素敵でした。他の章も聴きたいと思う反面、第1楽章のみに全力投球してくれたからこその完成度なのかもとも思いました。若き日のマーラーの意外な面が見られた曲でした。
休憩後の後半はJ.ブラームスのピアノ五重奏曲です。何を隠そう、ブラームス好きな私がブラームス全作品の中から1曲だけ選ぶなら、このピアノ五重奏曲を選びます。全部の作品が好きという大前提がある上であえてこのチョイス。ある意味ブラームス「らしくない」のがたまらなく好きです。様々な奏者による録音を何度も聴いてきた曲ですが、私は実演を聴くのは今回が初めて。家で録音を聴くときは塊として聴いてしまいがちなため、今どの楽器がメインで演奏しているのかをじっくり拝見しようと行く前から考えていました。演奏は、弦楽四重奏にピアノという編成で、5名の奏者の皆様全員が登場。第1楽章、冒頭はピアノと第1ヴァイオリンとチェロから。程なくピアノがリードして弦4つが揃って応えるのを形を変えて3回、そのままピアノが駆けのぼりここからは冒頭のおとなしかった旋律が情熱的に展開されます。最初からガツンと来るここを聴いて、私は大丈夫乗れると確信し演奏についていくことに。そして本来であれば第1ヴァイオリンとピアノについていくのがセオリーなのかもしれませんが、その時の私はチェロに目を奪われて主にチェロに注目して聴いていました。チェリスト伊東裕さんは演奏中はずっと片足のつま先を小さく上下してリズムをとっているようでした。主旋律を奏でるときはもちろん、縁の下の力持ちとして低音を奏でるときや他の弦より多いピチカートで心臓の鼓動のようなリズムを作っているところがとても印象的。ベースを作りビートを刻む…ロックはほぼ知らない私が言うのも変ですが、これってロックなんじゃないかと思ったんです。もちろんブラームス作曲当時にロックは存在しません。それでも今現在に繋がる原型は既にあったのかもと。間違っていたらごめんなさい。話を戻します。第1楽章中盤、ピアノにピチカートで合いの手を入れていたチェロが失速する感じのところが一瞬あり、ここは個人的にとても好きなところなので、チェロがバシッとキメてくれてうれしかったです。ここは他の奏者のかたも緊迫感ある演奏をしてくださいました。第1楽章最後でヴァイオリンが悲鳴を上げようなところは、エリーザベト・ヴェーバーさんさすがの安定感です。比較的穏やかな第2楽章も私は好きで、ゆったりした美メロを楽しませて頂きました。ほんの一瞬切なくなるところがあるのも好き。そしてチェロのピチカートから入る第3楽章が個人的には一番好きです。無邪気に容赦なく襲いかかる運命に打ちのめされ、実はつらいのに無理して笑っているんじゃないかという、その意味ではとてもブラームスらしい楽章だと思います。「らしくない」ところは、感情を抑え込まないこと。これは他作品にはあまりない良さだと私は思っているので、思いっきり慟哭し取り乱しそれでもなお笑ってみせる感じが表現されるといいなと思っていました。実際の演奏は良かったのですが、私が期待しすぎたせいで少し薄味に感じてしまったことを告白します。これは私のせいです。申し訳ありません。いきなり終わる第3楽章の後は終楽章である第4楽章へ。最初は様子をうかがうようにゆっくりと始まりますが、次第に本性が現れて(笑)、次々と新しいメロディが個性的な楽器の数々の演奏で怒涛のように繰り広げられていく、喜怒哀楽の感情を全部出しといった印象のとにかく変化が多くて聴き所しかない楽章です。無駄なところはどこにも無いし足すところだって無いと思います。だからこそ、譜面をめくるわずかな間が個人的には気になってしまいました。ピアノには譜面をめくる係の人がついていますが、弦の4名はご自身でめくります。休符ではないところで細かく間が空いてしまったと感じられるところがちょこちょこあって、そのたびに勢いがそがれてしまうのが惜しいと思ってしまいました。しかしこれは私の思い入れが強すぎたからだと思いますし、全体の演奏の素晴らしさと比べたら些末なことです。手を替え品を替えの展開、聴き手としては楽しませて頂きました。最後の最後は奏者の皆様全員が力強く弾ききってバシッと決めて締めくくり。40分を超える大作、緊張感を保ち最後まで演奏してくださいました。また普段は別々に活動されている奏者の皆様が揃って室内楽に取り組むのは、時間的な制約に加えなにより同じ方向性で演奏すること自体大変だったことと拝察します。素晴らしい演奏をありがとうございました!
アンコールはありませんでしたが、十分です。お開き後はホワイエで奏者の皆様とのふれあいがありました。しかし奏者の皆様がいらしたときは私はエレベーターに乗り込んだ後だったため、失礼してそのまま帰宅しました。今回とは別の編成でも、奏者の皆様とまたお目にかかる日が来るのを楽しみにしています。
いつも多彩な演奏会が開催されている六花亭主催コンサート。ランチタイムミニコンサート以外で私が前回聴いたのは3月でした。今回は実に8ヶ月ぶり。気になる公演は多々あったものの、予定が合わなかったり気付いたときには完売だったり…。しかし六花亭主催のコンサートは奏者も素晴らしければ演目も凝っていて、私は信頼しています。3月の竹澤恭子さんのリサイタルは特に素晴らしく、私にとっては今でも忘れられない貴重な体験となりました。その時のレポートは以下のリンクにありますので、よろしければお読みください。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽(https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c