自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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ブラームス『美しきマゲローネのロマンス』op.33 を聴いてみる

今回はブラームスの連作歌曲『美しきマゲローネのロマンス』op.33 についてです。近く生演奏を聴く機会があるので、予習を兼ねて物語を把握した上で聴いておこうと思いました。内容に関する記述は超大づかみで、感想はあくまで私の主観です!参考程度にさらっと流してくださいませ。

今回聴いたCDはこちら。物語の朗読が入っていて、歌詞の日本語対訳と解説が詳しいです。私はネットでなんとか在庫を見つけて購入しました。ちなみに札幌の中央図書館にも置いてあります。

www.camerata.co.jp


また、作品の背景や物語自体についての記述は、CDのライナーノートと『作曲家別名曲解説ライブラリー ブラームス』(音楽之友社)を参考にしています。こちらも購入し手元にあるのですが、分厚い本でまだ通読はしておらず(苦笑)、今は辞書のように使っています。

www.ongakunotomo.co.jp

 

【作品について】
『美しきマゲローネのロマンス』(ティークの「マゲローネ」のロマンス)op.33は、オペラを残していないブラームスが「物語」に曲を付けた唯一の作品ともいえる連作歌曲です。作曲時期は、ブラームス20代後半から30代にかけての1861~69年。ちなみに作曲時期が近い大作に、ピアノ協奏曲第1番op.15(1854~58年)、ドイツ・レクイエムop.45(1856~68年)があります。バリトン歌手のユーリウス・シュトックハウゼンに献呈されました。ブラームスより7歳年上のシュトックハウゼンは、ブラームスの歌曲を積極的に演奏した人物です。しかし当時はまだ作品が少なかったため、シュトックハウゼンブラームス(ピアノ伴奏)の演奏会ではシューベルトシューマンの連作歌曲をよく取り上げたのだそうです。そして若きブラームスも連作歌曲を作りたいと考えるようになります。

ブラームスが題材にしたのは、L.ティークの小説「マゲローネ」(ドイツ語)。マゲローネとペーターの恋物語はヨーロッパに古くから伝わる説話で、各地で枝分かれして様々な形の物語になって伝承されているそうです。ティークは、イタリア語の原本がフランス語に訳されたものをさらにドイツ語に訳した「美しきマゲローネとプロヴァンスのペーター伯爵との不思議な恋物語」をもとに全18章の物語を書き、それぞれの章に一つずつ詩を挿入。ブラームスはその18編のうち15編の詩に曲を付け、さらに第10曲・第13曲には原作にはない表題も付けています。この全15曲の歌詞だけでは物語がつながらないので、曲の間に物語の朗読が入る演奏がよく行われているようです。

また、異教徒の娘「スリマ」の挿話などは、ティークが土台にした原本にはない(ティークの完全な創作かあるいは他からの引用かはわかりません)そうです。高貴な姫との駆け落ちはよくある話ではありますが、ティークによるドラマチックな脚色や、各章に独自の詩をつけてあるところが、愛読していた10代のブラームスの心に刺さったのかもしれませんね。ただ個人的には、スリマはあまりに不憫で、スリマの挿話はナシのほうがよかったのでは?と思ってしまいました……。しかし男の冒険物語には、異国での恋物語にアナザーストーリーがあるほうが盛り上がるのかも。

 

【各曲について】
全部で15曲あります。今回聴いた録音は、2曲を除きエルンスト・ヘフリガー(テノール)、女性の心情をうたう11曲と13曲のみ松本理佐子(ソプラノ)による演奏です。テノールでも落ち着いた声と歌い方なのが物語にとても合っていて、また女性の心情部分をソプラノにしたことでオペラのような広がりが感じられます。朗読は加藤剛、ピアノは岡田知子。以下、ざっくりあらすじと、(あくまでこの録音を聴いた限りの)私の感想を順番に。曲のタイトルはCDに記載の日本語訳そのままです。

第1曲:誰も悔やみはしなかった
プロヴァンスの若きペーター伯爵に、吟遊詩人が旅へ出ることをすすめる歌。曲の出だしの歌声ははつらつとしていて、これから始まる冒険物語に期待が膨らむ感じ。しかし、時折ふっと寂しげにきこえるところがあったり、ピアノ伴奏の低音がきいていたりもして、人生経験を重ねた年配者だからこその語り口なのかも?とも感じました。

第2曲:うけ合おう! 弓矢があれば
両親の許しを得て(母親は息子に「愛する女性が現れたら渡すように」と3つの指輪を託す)、ペーター伯爵が旅へ出るときに自らを奮い立たせるために歌った曲。歌詞も歌声も勇ましくはあるのですが、ピアノ伴奏がどっしりとしていながらも不安そうな雰囲気があって、やや複雑な胸の内がうかがえます。

第3曲:悲しみなのか喜びなのか
ナポリに着いて、美しいマゲローネ姫の噂と騎士の馬上試合があることを知ったペーター伯爵は、素性を隠して競技に参加し、優勝。祝宴でマゲローネ姫を間近に見て恋に落ち、その心の揺らぎを歌う曲。ぼーっとなって、不安になり涙して、いや彼女と離れたくない!との思いに至ります。この曲は感情の変化にシンクロするピアノがとても良いです!ブラームスってこんなふうにも書けるんだなと、良い意味で驚きました。

第4曲:恋人は遠くの国をめぐって
マゲローネ姫もあの日の騎士(ペーター伯爵)を忘れられず、彼を見つけてほしいと乳母に懇願。乳母はペーター伯爵を教会で見つけ、姫の思いを伝えると、ペーター伯爵は指輪1つと愛をうたう詩を書いた紙を乳母に託します。その詩の歌。歌詞は情熱的ですが、曲自体は落ち着いています。ただ、途中で少し速くなったり不安定になったりと、抑えきれない感情が感じられるのが印象的です。

第5曲:あなたはこの哀れな男に
ペーター伯爵からまたもや指輪(2つ目)と愛をうたう詩が送られます。乳母からマゲローネ姫の様子を聞いたペーター伯爵は、姫に愛されていることを確信して、前の曲よりも明るく自信に満ちた感じに。それでもやや不安が感じられます。1,2,1,2のリズムを刻むピアノも素敵です。

第6曲:どのようにしてこの悦びに
乳母を通じて、ついにマゲローネ姫と逢い引きできることに!ペーター伯爵はそわそわして落ち着かず、リュートを手に歌います。かすかな不安を抱きつつも、やたら饒舌。おそらく恋愛の中で一番楽しいときですよね。ピアノはリュートのポロンポロンのような音やドキドキとした胸の高鳴りを表現しているようです。

第7曲:この唇をふるわせていたお前なのに
いざ2人で会い、言葉を交わして思いを確かめてから、3つ目の指輪がマゲローネ姫に渡され、姫も自らのネックレスをペーター伯爵の首にかけ、愛を誓い合います。そして一人で宿に帰ったペーター伯爵が逢瀬を思い出しながらリュートを手に歌った曲です。喜びに満ちてはいるのですが、個人的には想像していたよりも物静かだと感じました。大はしゃぎではなく思いを噛みしめている印象。実際の恋愛だって、思いが遂げられた後は案外そんなものなのかも?でもまあ感情爆発させないところはブラームス「らしい」ですよね。

第8曲:わたしたちは別れなければならぬ
マゲローネ姫は、父が決めた結婚相手に輿入れさせられる前に、自分をどこへでも連れて行ってとペーター伯爵にお願いします。駆け落ちすることになり、ペーター伯爵は宿での最後の夜に、宿のリュートを手にリュートとの別れを歌います。別れなければならぬ「わたしたち」とは、ペーター伯爵とリュートのことで、愛する2人ではないようです。タイトルが紛らわしい!とはいえ、直接的にはリュートのことだとしても、ナポリの地を去ることであったり、あるいはこのまま手をこまねいていたら本当に愛する2人が別れなければならなくなる可能性だったりと、様々な意味を含むのかもしれません。歌ははじめ切ない感じ、次に前を向いて強い意志を表し、静かに締めくくり。派手ではないものの、細やかな心情が伝わってきます。

第9曲:お休み、可愛い恋人よ
乳母にも内緒で夜中に一人で城を抜け出したマゲローネ姫。ペーター伯爵と共に馬で遠くへ遠くへとひた走り、やがて疲れを覚えて木陰で休むことに。眠りにつく姫にペーター伯爵が歌った子守歌です。有名なブラームスの歌曲の「子守歌」や「眠りの精」は幼子が相手ですが、こちらは愛する女性が相手。ゆりかごのようなピアノのやさしい音色、本来は力強い男声がここでは慈しむような歌声になっていて、それらが重なりとっても素敵です。それにしても、なんとまあブラームスは子守歌を書くのがうまいことか!この第9曲だけ取り上げて演奏されることが多いのも頷けます。ちなみにこの詩に限って言えば、シュポア等他にも多くの作曲家が曲を付けているそうです。

第10曲:〔絶望〕
姫が持っていた「3つの指輪」が入った袋を、カラスが持ち去ってしまい、ペーター伯爵はカラスを追いかけます。カラスが袋を岩礁に置いたのを取りに小舟をこぎ出すも、波が荒く遭難。その時の「絶望」を歌った曲です。先ほどの子守歌とは雰囲気ががらっと変わり、ドラマチックなピアノは荒波やペーター伯爵の胸の内を、また歌声はストレートに悲劇を表しているよう。同じピアノ・同じ歌手とは思えないような、振り幅の大きさがとても印象的です。

第11曲:どんなにあっさり消えてしまうのでしょう
目を覚ましたマゲローネ姫は、ペーター伯爵がいないことに気づき、探し回るも見つからず、森の奥の羊飼い老夫婦の家に厄介になることに。マゲローネ姫が糸車を回しながら寂しさを歌う曲。糸車が回るようなゆっくりとしたピアノに、はかなげな女声が切なさを際立たせます。泣き叫んだり何かを恨んだりしないところが、深窓の姫らしくもあり、またブラームスらしくもあるかなと思います。

第12曲:別れがなければならないのか
ペーター伯爵は海賊に拾われて、バビロンの君主サルタンのもとへ連れて行かれ、君主に気に入られて宮殿の庭番に。香り高い花々にマゲローネ姫とのことが思い出され、ツィター(ハープのような楽器?)を手に苦悩や哀しみなどがない交ぜになった心情を歌います。ポロンポロンと弦をはじくような美しいピアノの響きに、重なる歌声が不安定さを醸し出していて、強く印象に残ります。

第13曲:〔スリマ〕
君主サルタンの娘スリマがペーター伯爵に心を寄せ、駆け落ちしましょうと持ちかけます。望郷の思いが強くなっていたペーター伯爵は、きっとマゲローネ姫は亡くなったに違いない、せめて異教徒の娘を故郷へ連れて帰ろうと一度は決心。ところが夢にマゲローネ姫が出てきて、ペーター伯爵は一人で舟をこぎ出します。その時聞こえてきたのは、スリマが本来出発の合図のために歌った歌。軽快なピアノに、歌詞はあくまで前向きな旅の内容なのに、歌声が時々哀しそうになります。これ、おそらくスリマはペーター伯爵に置き去りにされたのに気付いてますよね……。歌詞の字面だけでは読み取れない、複雑な心情が音楽から感じ取れます。

第14曲:何と喜び勇んで
やがてスリマの歌が聞こえなくなり、ペーター伯爵は船上でこれからのことに思いをはせます。意気揚々としたペーター伯爵の思いが歌声から感じ取れ、その気分アゲアゲな様子や波の音を表現するピアノが良いです。この先どうなるのかなんてまだ何もわからないのに、この自信に満ちた感!ひとりで故郷を出るときやマゲローネ姫への恋の前に不安だった頃とは、もう違いますね。

第15曲:誠実な愛は永くつづき
色々あって(話すと長くなります……端折ってスミマセン!ちなみに例の3つの指輪は一足先に故郷プロヴァンスの両親の元に戻っています)、ペーター伯爵は羊飼いの家にたどり着きマゲローネ姫と再会!2人はペーター伯爵の故郷プロヴァンスに帰り、結婚します。マゲローネ姫の父ナポリ王もこれを許し、祝福。2人が再会した場所には夏の別荘が建てられ、羊飼い夫婦に膨大な報酬を与え夏の家の采配を任せます。2人が永遠の愛を誓って、毎年歌ったのがこの最後の第15曲。ゆったりしたピアノに、落ち着いたしかし確信にあふれた歌声で永遠の愛を歌います。つつましく締めくくるラストがとっても素敵。おそらく夫婦で仲良く年齢を重ねたのだろうなと、かえって物語の本質を雄弁に語っているようです。

以上、何か大きな間違い等がありましたらご指摘ください。


ここまで内容を追ってきましたが、予備知識ナシ・ドイツ語のスキルなしのまっさらな状態で純粋に音楽として聴くのだって大いにアリだと私は思います。たとえば私は今回の録音を手に入れる前は、ドイツ・グラモフォンの46枚組「Brahms Complete Edition」に入っているディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウバリトン)/ダニエル・バレンボイム(ピアノ)の演奏録音を聴いて楽しんでいました。表情豊かな演奏で、言語の意味がわからなくても、体温が伝わるというか生きた人の感情が感じ取れます。骨太のピアノに、もうとにかくバリトンのお声が超イイです!フィッシャー=ディースカウさんは他にもブラームスの数多くの歌曲やドイツ・レクイエム、そして『美しきマゲローネのロマンス』に関しても複数の録音を残しているようなので、今後聞き比べてみたいと思います。

DGのブラームス全集。今はプレミア価格がついていますが、私が購入した約3年前は8000円程度でした。特に歌曲関係はひとりで全て揃えるのは難しいですし、さらにどの録音を聴いても全部「アタリ」。良い買い物をしました。

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。