チェリスト林峰男さんと門下の3名のチェリストによる、チェロアンサンブルの演奏会。今年2021年10月、このチームで全国の数カ所をまわるコンサートツアーが開催されています。私はザ・ルーテルホールのサイトを見て札幌公演を知りました。チケットセンター等での販売はなく、チケットは主催団体から直接購入。チェロ好きな私は当日を楽しみにしていました。目立った宣伝はなかったにもかかわらず会場の8割程度の席が埋まっており、お客さんの中には地元札幌でご活躍のチェリストのかたも数名お見かけしました。
Cello4 林 峰男と仲間たち(札幌公演)
2021年10月15日(金)19:00~ ザ・ルーテルホール
【演奏】
林 峰男(チェロ)
宮地晴彦(チェロ)
玉川 克(チェロ)
三森未來子(チェロ)
【曲目】
アルビノーニ(トーマス・ミフネ 編) アダージョ ト短調
ピアッティ 休日に
J.S.バッハ(ヴァルガ 編) 無伴奏パルティータ第2番BWV1004よりシャコンヌ
ビゼー(山本祐ノ介 編) カルメン より
フィッツェンハーゲン 演奏会用ワルツ
フレスコバルディ=カザド(小林幸太郎 編) トッカータ
ポッパー(エック 編) 演奏会用ポロネーズ
(アンコール)ドビュッシー 月の光
個性が重なるアンサンブルの良さ!チェロ四重奏、やっぱりイイですね!私にとっては初聴きの曲が多かったのですが、それぞれ演奏時間が短いながらも個性が光る名演奏ばかりで、いずれも新鮮な気持ちで楽しく聴けました。またお名前だけ存じ上げていたチェリストの皆様の実演に触れられたのもうれしかったです。本当に、札幌まではるばるお越しくださりありがとうございます。そして演奏の合間の様子から、4名のチェリストの皆様は仲がよいとお見受けしました。息の合ったアンサンブルは一朝一夕にできあがるものではないのですよね。この日の演奏では、曲毎に席順が入れ替わったものの、イスと譜面台はそのままで奏者の皆様はチェロと楽譜を持って移動。途中にトークは入らず、曲の合間の休みはほとんどナシでした。しかも編成はずっとチェロ四重奏。皆様がっつり続けての演奏で、大変だったことと存じます。ちなみに一度だけ林さんが曲の合間に左手首をほぐすように振り会場が和みました。確かにこんなに手元が大忙しなら、手がつりそうになりますよね!
実はこのところ個人的に心労が重なりこの日までずっと頭痛に悩まされていたのですが、演奏会が終わるといつの間にか頭痛が消えていました。私には音楽が、チェロがあってよかったと思います。ただ、私の体調がよくなかったためか、特に前半では時々高音が耳に触ることがあって、きちんと聴けていなかった自覚があります。申し訳ありません。私、普段はチェロの高音は大好きなんですよ念のため。ちなみに慣れてきたのか、後半では高音も素直に聴けました。そんな状態で大変恐縮ですが、その時の私が感じたことを簡単にレポートします。
1曲目はアルビノーニ「アダージョ ト短調」。プログラムノートによると、研究家のジャゾットが「アルビノーニの自筆譜の断片を発見し、それをもとに編曲」と発表したものの、後にバス声部のみアルビノーニのもので他はジャゾットによる創作と判明した曲だそう。演奏は3名が順番にメロディを担当しながら伴奏も(おそらくジャゾットによる創作部分)、そして1名だけ固定で1,2,1,2のリズムを低音やピッチカートで下支え(こちらはアルビノーニによるバス声部?)。個人的にはこの下支えがインパクト大でした。切なく美しいメロディ部分(こちらも素敵でした)が映えるのは、がっちり下から支えるバス声部があるからこそ!私の低弦好きを再確認できた演奏でした。
ピアッティ「休日に」は、初めからチェロ四重奏のために書かれた作品で、短めの3曲を続けての演奏でした。前の曲とはがらりと雰囲気が変わり、明るい舞曲のような音楽。まるでスキップしたり走ったり、かと思うとゆったりくつろいだりと、変化が多く楽しく聴けました。聴く方はリラックスモード。しかし細かくテンポが変化しながら高音を出したり高速だったりと、素人目で見ても演奏は大変そうです。個人的にはここでも支える低音に惹かれました。
J.S.バッハ「シャコンヌ」。私は以前この曲の演奏を別のアンサンブルで初めて聴いたとき、あまりのパワーに圧倒されてしまったのですが、今回は少しは落ち着いて聴けました。低音がきいた丁寧な演奏から、荘厳さや厳格さを真正面に受け止めながら、終盤の天国的な響きを美しいと感じる余裕もありました。しかしやはりすごいです。もちろん原曲を生み出したバッハが一番偉いのですが、チェロ四重奏版に編曲したヴァルガも偉いと思います。チェロの音色の深みが存分に味わえて、まるで初めからチェロのために書かれた曲のよう。チェロアンサンブルの定番曲として、これからも様々なチームによる演奏を聴いてみたいです。
後半の最初はビゼー「カルメン」より、名曲の数々をメドレー形式で。チェロの低い落ち着いた音色はカルメンの雰囲気に似合いますね!支える低音の深みやリズムを刻むピッチカートに引き込まれました。ギターをかき鳴らすようなピッチカートで、カスタネットのようなリズムを刻んだのが面白い&カッコイイ!メロディは基本オクターブ低くしての演奏でしたが、特に最初の方では次はこう来るだろうと予想した音が実際は違っていたことが何度かあって、正直少し戸惑いました。チェロの音域や得意な表現方法にあわせての編曲だったのかも?しかし演奏が進むにつれて些末なことは気にならなくなるほど、カルメンの世界に夢中になれました。編曲ものとしては独奏ヴァイオリンが主役のサラサーテ「カルメン幻想曲」が有名ですが、チェロによる演奏ももっとメジャーになるといいのに!と思います。
フィッツェンハーゲン「演奏会用ワルツ」。皆様息ぴったりの演奏によるワルツのリズムが心地よかったです。中でも、1stの上品なダンスのようなメロディに対して2ndがまるで楽しくかけ回るかのような軽快な演奏をしたところや、クライマックスの全員による連続ピッチカートがとても印象に残っています。聴いている側が安心して音楽の流れに身を任せられるのは、もちろん奏者の皆様がよどみなく完成度の高い演奏をしてくださっているからに他なりません。この曲にはかなり高い音も登場したのですが、違和感なく聴けました。
フレスコバルディ=カザド「トッカータ」は、イタリアバロック期の作曲家フレスコバルディのオルガン用トッカータ集の1曲を、カザドがピアノとチェロ用に編曲。今回はさらにチェロ四重奏にアレンジされた曲が演奏されました。格調高い序奏に続く、明るい旋律を各チェロが楽しそうに追いかけっこで演奏するところがツボ。バロック期特有の繰り返しって素敵!との思いが私はいっそう強くなりました。特に弦は弾く人によって音が違うので、そんな個性の違いが楽しめるのもよかったです。
ポッパー「演奏会用ポロネーズ」。ポッパーの作品の数々を、エックがチェロ四重奏にアレンジした曲。独特なテンポに心掴まれ、2対2に別れた際のサブ担当2名による小刻みに刻む音が印象的。そしてなんといっても次々交代したメイン奏者の手元がすごかったです。例えば弦を抑える左手が高速で上下に移動して、低音から高音まで滑らかに奏でるのって、おそらく難易度高いですよね。そんなハイレベルな技を皆様当たり前のようにクリア。トリにふさわしい、超絶技巧てんこ盛りの曲を見事な演奏で聴かせてくださいました。
カーテンコールの際、林さんがマイクなしで会場へごあいさつ。アンコールはドビュッシー「月の光」をチェロ四重奏で。林さんがメインで他の皆様はサブとなる演奏スタイルでした。おなじみのピアノの高音によるメロディを、チェロの落ち着いた低音で聴くととても新鮮!ピアノでは左手で奏でる部分も、複数のチェロが重なり合いとっても素敵でした。4名のチェリストの皆様、札幌まではるばるお越しくださり、素晴らしい演奏を聴かせてくださりありがとうございます!
「Cello4 林 峰男と仲間たち」、今後2021/10/23(土)には東京のトッパンホールでも演奏会予定されています。
またチラシによると、10/29鹿児島、10/30熊本、10/31佐賀、と九州3カ所でも開催予定です。お近くのかたはぜひ!
ザ・ルーテルホールなう。私には、音楽が❗️チェロがある❗️ pic.twitter.com/iZO36v1KOY
— f_a_f (@faf40085924) 2021年10月15日
2021/8/29にウィステリアホールで聴いた、チェロアンサンブル&ピアノの演奏会のレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。仙台フィル&札響のチェリスト4名の協演!皆が同列でお互いに高めあうアンサンブルの良さ!トークも楽しく、とても幸せな時間を過ごすことができました。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。