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2025年度最初の札響定期は、エリアス・グランディさんの首席指揮者就任記念公演!昨年度(2024年度)の交響曲第1番「巨人」に続くマーラープロジェクトの第2弾として、今回はマーラーの交響曲第2番「復活」が取り上げられました。ファンの期待は大きく、会場には遠征組を含め多くのお客さん達が集まっていました。
札響公式youtubeの企画「札響プレイヤーズトーク」。今回(2025年4月)は、コントラバス奏者の大澤敬さんと下川朗さんのお2人によるトークです。マーラー「復活」の掴みはコントラバス(だけ!?)。札響歴33年(!)の「親分」大澤さんによるマーラー「復活」の思い出話や、エリアスさんの音楽作りについてのお話し。親分・大澤さんは「ブラームスってなると気合いの入り方が違う」!?そしてリサイタルの宣伝まで、ノリノリで超楽しい♪
札幌交響楽団 第668回定期演奏会~エリアス・グランディ首席指揮者就任記念(日曜昼公演)
2025年04月20日(日)13:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
エリアス・グランディ<札響首席指揮者 2025/4~>
副指揮 / ケンス・ルイ
【出演】
マリ・エリクスモーエン(ソプラノ)
カトリオーナ・モリソン(メゾソプラノ)
合唱 / 札響合唱団、新アカデミー合唱団(合唱指揮:長内勲、大嶋恵人、中原聡章)
【曲目】
(ロビーコンサート)ブラームス:弦楽五重奏曲第2番 より 第1楽章
(出演:ヴァイオリン/会田莉凡、竹中遥加、ヴィオラ/廣狩 亮、鈴木勇人、チェロ/石川祐支)
ドラマチックで圧倒的な「復活」。エリアスさんと札響による演奏でマーラーを体感でき、エリアスさんと札響の現在地を知ることができたシーズン初回定期でした。個人的には、今回のエリアスさんは前回(前年2024年のマーラー第1番「巨人」)と比較して、特にぐっとエネルギーをためるところに細心の注意を払っていたと感じました。「柔よく剛を制す」事によって、とても引き締まった演奏になり、盛り上がりのインパクトがさらに増したのでは?また、例えばソリストの位置関係、バンダの配置場所、合唱団の入場タイミングや起立のタイミングといった個々の工夫は、ドラマチックな演出に繋がっていたと思います。全部が指揮者のオリジナルとは限らない(作曲家の指示だったり、あるいはオケメンバーからの提案だったり)かもしれませんが、アイデアを上手く活かしたのはやはり指揮者の手腕!壮大な演奏をより際立たせる効果的な演出のおかげで、まるでkitaraが大劇場になったかのように感じられました。1時間半以上にも及ぶ長大な作品、エキストラも多く加わった大編成オケ――たとえ老練の指揮者であっても、率いるのは並大抵のことでは無いと存じます。出会ってまだ日が浅いエリアスさんと札響が、短期間でここまで来ていることに感激です!エリアスさんと札響による大プロジェクトの1つ「マーラープロジェクト」は、この先もっと面白くなるに違いありません。改めまして、エリアスさん、札響の首席指揮者をお引き受けくださりありがとうございます!これから末永くよろしくお願いします!
独唱と合唱は素敵で、オケの各パートの力量の高さも素晴らしかったです。コントロールされた演奏そのものも、気の利いた演出も、とても良かったと思います。ただ作品そのものが自分に合うかどうかは別の話です。正直に言うと、この時の私は少々塞いでいた事もあってか、あろうことか大本番の第5楽章でついて行けなくなってしまいました(ごめんなさい!)。作品自体が持つ「生きる気満々」のエネルギーに負けてしまう、マーラーは気力体力が充実した人向きの音楽なのかも?と気弱になってしまい……これは私個人の問題です。もしかすると今回の2番がたまたま合わなかっただけで、他の作品なら大丈夫な可能性だってあります。それに今の私がマーラーに不慣れなのは確かなので、今の段階で「自分はマーラーが苦手」と決めるのは早計です。今後、マーラーに慣れた上で私自身が元気を取り戻すタイミングが合えば、2番だって好きになれるかも!もう少し頑張ってみます。
一方、ロビーコンサートは心から楽しむことができました。マーラーの室内楽作品はピアノ四重奏曲断章くらいしか思い浮かばず(他にもあったらごめんなさい!)、ピアノが加わる編成はロビコンでは難しそう。他の作曲家の作品をチョイスするなら何だろう?と思っていたところ、なんと前回2月に引き続きブラームス作品!ブラームス好きの私は大喜びでした。選曲の意図は、ブラームスの交響曲を世に広めた指揮者のハンス・フォン・ビューロー(彼の葬儀で「復活」がコラールで歌われたことにマーラーは強い感銘を受けたとか)繋がり?それともブラームスがこの作品を最後に引退を決めるも後に撤回した事(=ブラームスの「復活」!?)にちなんで?いえ、理由は何だっていいのです!実演では滅多に聴けない作品を、豪華メンバーによる演奏にて楽しめるなんて、最高にうれしい。本プログラムと同様、これからもロビーコンサートを楽しみにしています!
開演前のロビーコンサート。今回の演目は、ブラームス「弦楽五重奏曲第2番」 より 第1楽章。ブラームスばかり聴いている私でも、生演奏では今回が「お初」です。実演される機会がとても少ない作品を、この錚々たるメンバーによる演奏で聴けるなんて夢のよう(感涙)。私は待ちきれずに、開場時間の随分前に到着し、期せずして扉越しに最終通し稽古の音漏れまで拝聴(!)できました。いざ本番。全員が着席での演奏で、ヴァイオリン2つとヴィオラ2つがチェロを挟む形で並びました。ヴァイオリン&ヴィオラによる序奏は、高音の音の波がキラキラと美しい。まるで春の木漏れ日のよう!ほどなく堂々たるチェロが登場。力強いはじめの1音の後、2音目に入る前に力を込め直し、落ち着いた低音から豊かな高音へと風が薫りたつように、次第に切なく歌う。この貫禄と風格!ようやく出会えた感激で、私は早くも胸いっぱいになりました。やや感傷的なチェロが美しい1stヴァイオリンと会話するように進み、全員による力強いトレモロがなんて素敵なこと!まるで花吹雪!以降も様々な形で登場したトレモロがとても魅力的でした。2つのヴィオラによる歌は穏やかで明るく、そのメロディをヴァイオリンが丁寧に繰り返す優しさ。親しい2人の会話のようで、ジーンときました。支えに回る弦が細やかに波を作って、一緒に盛り上がりを演出するのがニクイ!情熱的で力強い盛り上がりでは、たった5名による演奏でもブラームスが薫りたつのがうれしい!ぐっとエネルギーを溜めて盛り上がるところの情熱、密やかに進むところの細やかさ、いずれのシーンでも5名が織りなす演奏の良さに引き込まれました。また華麗な音楽の中に、今まで登場した要素が細やかに織り込まれていて、春を思わせる音楽に晩年の哀愁もうかがえる。どんなシーンでもブラームス「らしさ」が感じられたのがうれしかったです。そして終盤、1stヴァイオリンが最初のチェロのメロディを高音域でこの上なく美しく奏でて、私は思わず涙が。ここまで何とか持ちこたえてきたのに、あふれる思いに抗えませんでした。歌曲を思わせるゆったりと美しいところは、叶うことならもう一度聴き直したい。豊かな重音が印象的な、華やかなラストが輝かしい!弦楽五重奏曲第2番は、ブラームスがこの曲を最後に引退すると決めた(※後に撤回)作品です。これは私の勝手な妄想ですが、人生を振り返りふと寂しく思うブラームス(チェロ&ヴィオラ)がいて、彼にそっと寄り添う存在(クララさん、あるいは他の人かも?)がいる(ヴァイオリン)。そんな2人を重ねて聴くことができ、ブラームス好きの私は大感激でした。本当にありがとうございます!
開演に先駆け、指揮のエリアス・グランディさんによるプレトーク(通訳付き)がありました。はじめに日本語で「皆様こんにちは」とごあいさつ。以降は英語で話され、日本語通訳(札響の事務局のかた)が入りました。満席近いお客さんが集まったことに「とても嬉しい」と率直に語られ、「ようこそ。ここに来て良かったと思って頂けると思います」。客席に問いかける形で「キタラは初めての人?(2人?)」「初めて生で『復活』を聴く人?」「昨日も聴いた方?」→「Thank you very much」といったフレンドリーなやりとり。そして「皆様勉強してこられたと思いますが、(作品は)長いので、短くご説明したいと思います」と、作品について簡単に解説してくださいました。キリスト教に関係した副題『復活』が付いているけれど、宗教的な意味以上に「人としての生き方」を教えてくれる。第1楽章は約20分と長く、打ちのめされる苦しみや悲しみを表現。第1楽章が終わると、楽譜には「長い休憩(5分?)を取るように」と指示が書かれているため、今回もその時間を頂きます、とのこと。第2楽章は、「もしこうだったら、違っていたのでは?」を表現。第3楽章は「何したって物事は変わらない」諦め。第4楽章はアルト(=人の声)が「これで解決策になるのでは?」と希望を持ってくる。その気持ちは自分だけでなく神や周りの人へも向けられる。第5楽章は、今までの流れをまとめるような形で始まり、ソプラノと合唱団が入って、「声」がこれからの人生をどうしていくかを歌い、ヒューマニティに満ちている。といった内容でした。「『あまり喋るな』と言われたのに話してしまいました。これから音楽家の皆さんが登場します」と締めくくり。トーク終了となりました。
マーラー交響曲第2番「復活」。プログラムノートによると、今回の版は、2010年出版の国際マーラー協会新全集版(レナーテ・シュタルク=フォイトとギルバート・カプランの校訂による)とのこと。札響での演奏は過去に4回で、前回は2007年6月24日(指揮:尾高忠明)。実に18年ぶりの登場です!オケは対向配置(舞台に向かって左から1stVn.→Vc.→Vla→2ndVn.、Vc.の後方にCb.)で、弦は16型(16-14-12-10-8)の大編成!管楽器・打楽器その他もとても多く、バンダ(別働隊)を含めると(兼任もいるため)実際の人数は私には把握できませんでした。目立つところでは、ティンパニ3(舞台2・バンダ1)、ハープ2、オルガン、多彩な打楽器には鐘(ベルリオーズ「幻想交響曲」で使われるのと同じものだそうです)もありました。また第4楽章からアルト独唱、第5楽章ではソプラノ独唱と混声合唱が加わりました。第1楽章 高音弦のトレモロに続き、重厚な低弦キター!プレーヤーズトークでも触れられていた冒頭の低弦、ド迫力にしびれる!やはりこれは実際に体感してわかる良さ!私は低弦の重低音にゾクゾクしつつ、これから始まる壮大なドラマに向き合う覚悟を決めました。ガツンと迫力あるところと、ぐっと息を潜めるところ、どんなシーンも神経が行き届いていて、はじめからエリアスさんと札響の気合いがひしひしと伝わってくる演奏。第1楽章は演奏時間が長い上に内容も濃く、マーラーに不慣れな私はなんとかお腹で受け止めました。跳ねるような木管群に続いた金管群のザラ付く響き、金管打楽器による激しい盛り上がりでの木管群のベルアップ等、耳でも目でも驚きの連続。ヴァイオリンが美しく歌ったところで、少しほっとできました。寂しげに歌うホルンに「葬送」らしさを感じ、木管が順番にゆったり歌うところは祈りのようで、重なるハープが美しい。私は、コールアングレの歌と重なるバスクラリネットの響きに、冷たい「お墓」を連想。大迫力の盛り上がりではシンバルがインパクト大!その後の幸せに歌うフルート&コンマスソロの美しさ!それにしても剛と柔のギャップがすごい……。クライマックスは「これで完結なのでは?」と思わせる程の盛り上がりに圧倒されました。今までの流れの「おさらい」を経て、葬送行進曲は締めくくり。長い沈黙(楽譜で指定された5分までは行かない長さだったと思います)を経て、第2楽章へ。 弦楽合奏による幸せな舞曲がとっても素敵!各管楽器のソロが伸びやかに歌い、弦が細やかに呼応し、チェロが大らかに歌う。個人的にはこんな音楽がとても好みで、札響による幸せな音楽に心癒やされました。中盤は悲劇的で重厚になり、力強い波が寄せては返す、強弱の変化を付けた抑揚が印象的でした。終盤、弦のピッチカート(ヴァイオリン&ヴィオラは胸の前に楽器を抱えてギターをつま弾くように演奏)にハープと木管が加わった「ささやき合い」に引き込まれ、幸せな回想を経て、極めつけはラスト!弦の小さなピッチカートをまず1回、そしてじっくり溜めてから2回目。この集中力の高い引き締まった空気!ぐっと来ました。第3楽章 ダダン!とティンパニ強打による開始(めちゃくちゃビックリしました……)。打楽器も管楽器も弦も、細かく音を刻む演奏と滑らかな演奏が絡み合って、個人的には「不思議の国」に迷い込んだような気持ちになりました。弦はピッチカートのみならずコルレーニョ奏法も登場。また、神秘的なシーンもあれば、ちょっとコミカルなシーンもあり(トライアングルが印象的)、金管がユニークな音を響かせたり華々しく鳴ったり穏やかに歌ったり。ド派手な盛り上がりもあえて優等生路線を外した「おふざけ」のように私は感じ、面白かったです。そんな中に登場した、トランペットの温かな歌とフルートの美しさが印象に残っています。なお演奏の途中で(盛り上がりの中でさりげなく)アルト独唱のカトリオーナ・モリソンさん(赤いドレス姿)が入場。チェロとコントラバスの間に用意された座席に着席されました。第4楽章 始まりは、瞑想するように「おお紅きバラの花よ(日本語訳)」とアルト独唱。落ち着いたお声による歌は崇高で、私は息を呑みました。金管によるコラール風のメロディが遠くから聞こえてきて、この時のバンダは舞台裏にいたような気がします。哀しみや苦しみを歌うアルトに、重なる弦も、とても室内楽的な印象を受け、ぐっと引き込まれました。おそらく「天国へ行きたいと願う」シーンだと思うのですが、アルトの消え入る語尾に、私は本当に吸い込まれてしまいそうな不思議な感覚に。しかし地上にとどまり、温かく優しいオーボエに我に返りました。クラリネットとコンマスソロが寄り添うシーンは寂しげで、その後は哀しみを湛えつつも前向きに変化したと感じられ、ハープと一緒にゆっくり上昇していくラストは「この世に居ながらにして救われた」と私は感じました。ほんの短い楽章でしたが、とてもドラマチックで、個人的には最も印象深い楽章でした!そして、おそらくここで(正確なタイミングはうろ覚えです)、P席に合唱団とソプラノ独唱のマリ・エリクスモーエンさん(白いドレス姿)が入場し、着席(ソプラノ独唱は最前列に)されました。第5楽章 大音量ド迫力の開始(心臓止まるかと思いました……)。これこそマーラーの真骨頂なのかもしれませんが、強烈な響きをこの時の私はちょっと受け止めきれませんでした。最初でつまづいた私は、少し疲れが出はじめたのもあってか、この後に何度か登場した大音量の盛り上がりでもなかなかついて行けず……。まともに聴けないのを申し訳なく思い、同時に自分の気力体力のなさを憂いました。しかし谷間の静まった部分は素直に聴くことができました。各管楽器による洗練されたソロはいずれも素晴らしかったです。トロンボーンとチューバによる祈りのような歌、大音量の盛り上がりの後に登場したトロンボーンソロ、バンダの遠くに聞こえる金管群(L側の客席の後ろを移動しながらの演奏?)と重なるピッコロが特に印象的でした。ようやく合唱の登場!合唱団は着席のままで、ささやくように歌いはじめました。低めの声でひそやかに進む合唱に重ねて、ぱっと登場したソプラノ独唱はさながら「天の声」!オケも希望の光が見えるように穏やかで美しくなり、個人的には中でもトランペット&トロンボーンの響きが印象的でした。アルト独唱とソプラノ独唱の対話は、視覚的な効果もあって、私は地上と天の対話を自然に想像。室内楽的で自分の内面を見つめ直すようでもあり、引き込まれました。二重唱が次第に盛り上がっていき、合唱団がパート毎に順に起立していき、オケと一緒に盛大なフィナーレへ!オルガンの前にずらりと並んだバンダも合唱と一体になって歌い、見た目にも壮観!カーンカーンと鐘が鳴り、非の打ち所がない「復活」の大迫力は圧巻!これはライブでしか味わえない体感!大編成の超大作を見事に体現してくださった、エリアスさんとオケ、独唱お2人と合唱団の皆様に大拍手です!
カーテンコール。拍手喝采の舞台へ、指揮のエリアスさんはお2人のソリストや合唱指揮者、副指揮者といった共演者のかた達と一緒に何度も戻ってきてくださいました。そしてオケでは、トランペットトップに始まり、管楽器から順に各パートに起立を促して讃え、最後は弦の各2トップと握手(後方のコントラバスとはエア握手)。大編成による大曲を駆け抜けた、エリアスさんと出演者の皆様に大拍手!次回2025年6月の札響定期(札幌交響楽団 第670回定期演奏会、こちらはグランディ・リヒャルトコレクションの第1弾!)も楽しみにしています。ちなみにマーラーと同様にR.シュトラウスも超初心者の私ですが、覚悟を決めて挑みます。
「エリアス・グランディ:マーラープロジェクト #1」は、交響曲の第1番「巨人」でした。「札幌交響楽団 第665回定期演奏会」(土曜夕公演は2024/11/30)。札響次期首席指揮者のエリアス・グランディさんが登場。「白鳥を焼く男」では、ヴィオラの無限の可能性を魅せてくださったニルス・メンケマイヤーさんの独奏に驚愕!メインのマーラーの交響曲第1番は、ダイナミックで熱量高い大熱演!華々しい新時代の幕開けとなる記念すべき会に居合わせることができ、今のエリアスさん&札響の音楽を体感できて幸運でした。
声楽&合唱を伴う大規模作品、昨年度(2024年度)はアニバーサリーイヤーでもあったブルックナーが取り上げられました。「札幌交響楽団 第664回定期演奏会」(土曜夕公演は2024/10/19)。ブルックナーを得意とする指揮者の上岡敏之さんが札響と初共演!未完の「交響曲第9番」と、宗教曲「テ・デウム」を、途中休憩を挟まずに続けて演奏。「人の声」と管弦楽が一緒になって創造した荘厳で美しい音楽は、天に昇る青龍のよう!ブルックナー初体験は、心に深く刻まれる記念すべき出会いでした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。