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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第20回~宮田大×菅野祐悟の「十六夜」(2025/03) レポート

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2024年度ラストのhitaru定期に、札響の正指揮者・川瀬賢太郎さんが登場です。現代の作曲家・菅野祐悟さんがチェリスト・宮田大さんのために書いたチェロ協奏曲「十六夜」に、今年2025年が生誕100年にあたる芥川也寸志「トリプティーク」、そしてシューマンの傑作「ライン」という豪華なプログラム!いままさに聴いておきたい演奏会に、平日夜にもかかわらず会場には多くのお客さん達が集まっていました。


札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第20回~宮田大×菅野祐悟の「十六夜
2025年03月19日(水)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
川瀬 賢太郎<正指揮者>

【チェロ】
宮田 大

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島 高宏)

【曲目】
芥川 也寸志:トリプティーク(弦楽のための三楽章)
菅野 祐悟:チェロ協奏曲「十六夜

ソリストアンコール)滝 廉太郎:荒城の月

シューマン交響曲第3番「ライン」


札響の正指揮者となって「3」年目の川瀬賢太郎さんのお導きで、三位一体(作曲家&指揮者&演奏家)による完成度の高い演奏が聴けた会。完璧な数字「3」が揃い踏み、また限りなく完璧に近付いた演奏(なお厳密には完璧な音楽や演奏は存在しないと個人的には思っています)で、年度の締めくくりに相応しい演奏会でした!前半は、ソリストアンコールを含め日本人作曲家の作品を「3つ」。既に古典となっている芥川也寸志滝廉太郎は、私達日本人に刷り込まれ血肉となっているコアな部分にしっくり来る音楽だと、今回改めてそう感じました。そして期待のチェロ協奏曲「十六夜」は、私達が先祖代々受け継いできたDNAに共鳴し、かつ「新しさ」も楽しめる音楽!作曲家・菅野祐悟さんによる唯一無二の作品を、まさに今この作品が誕生した瞬間に立ち会えたような、鮮烈な演奏にて体感することができました。プレトークでうかがったお話しによると、今回リハーサルにおいて作曲家の菅野さんとオケとでディスカッションしながら演奏を仕上げていったとのこと。作曲家が現役で、演奏する側と直接話し合えるのは、新しい作品の良いところですね!クラシック音楽は作曲家が既に故人であることがほとんどなので、作曲家&指揮者&演奏家(=ソリストとオケ)のそれぞれにとって、とても良い刺激や学びになったことと拝察します。今後きっと古典作品となっていく「十六夜」との、素敵な出会いに感謝です。

そして、指揮の川瀬さんが「大好き」という、シューマン交響曲第「3」番の充実ぶりが素晴らしかったです!流れる水が、そのそばにいる人達が生き生きと感じられる演奏にホレボレ。日本人という枠を超え、人間としての「生きること」や「敬虔な思い」を実感しました。また前半プログラムの2作品は元々3楽章構成でしたが、シューマン「ライン」については、3・4・5楽章を切れ目無く演奏したことで三部構成に。それがマエストロ川瀬の明確な意図なのかはわかりませんが、いち聴衆としては、「3」をとても意識させられた演出でした。川瀬さんと札響はここまで来たんですね!あと、これは私の完全な思いつきなのですが、この交響曲第3番「ライン」はシューマンの「英雄」と呼べるのでは?ベートーヴェンの第3番とは堂々たる感じが共通しているなと、肌感覚ですがそう感じました。少なくともブラームス交響曲第3番(ある指揮者が「ブラームスの『英雄』」と称するも定着せず)よりは、シューマン交響曲第3番は「英雄」の名に相応しいと思います。2月のkitara定期のブラームスに続いて今回3月のhitaru定期ではシューマンと、思いがけず交響曲第「3」番を続けて聴けたことで、そんな事をふと思ったりしました。


開演15分前からの「プレトーク」。はじめに指揮の川瀬賢太郎さんがお一人で舞台へ登場し、ごあいさつと自己紹介。今回の演目について簡単に紹介くださいました。今年(2025年)が生誕100年にあたる芥川也寸志の「トリプティーク」、チェリスト・宮田大さんのために書かれたチェロ協奏曲「十六夜(いざよい)」、そして川瀬さんご自身が大好きな曲で、ポストを持つオケでは必ず取り上げてきたというシューマン交響曲第3番「ライン」。札響の正指揮者となって3年目の川瀬さんは、「札響の皆さんと大切な作品を演奏できること」の喜びを語られました。続いて作曲家の菅野祐悟さんを舞台へお呼びして、ここからは川瀬さんが菅野さんに質問する形で進められました。菅野さんはごあいさつの後、本題に入る前に「ジンギスカンが美味しかったです」。会場が和みました。菅野さんによると、チェロ協奏曲を書くことになった経緯は、菅野さん作曲の交響曲第2番を聴いた宮田さんに「ぜひチェロ協奏曲を書いて」とお願いされたからだそうです。「十六夜」をテーマにした理由は、「音楽は『血』」(!)。日本人の「一歩引いた奥ゆかしさ」は西洋にはない魅力、と仰っていました。「十六夜」は、目立つ十五夜の翌日に現れるもので、しかし十六夜十五夜よりも長く夜を照らす、とのこと。札響とのリハーサルでは、ディスカッションをしながら音楽を仕上げたそうです。また、元々は(大河ドラマ軍師官兵衛』など)ドラマや映画にフィールドがある菅野さんがクラシック音楽を書く意義については、「オーケストラの編成・響きが好き」。まず題材があってそれに音楽を付けるのとは異なり「自分と向き合うもの」。ドラマ等のお仕事とバランスを取るためにも、クラシック音楽は必要なのだそうです。そして「十六夜」の作品そのもののお話しになり、川瀬さんは「美しい曲。日本人が持つ繊細な美」「ソリストの宮田大さんが素晴らしい!冒頭の『5.7.5.7.7』を宮田さんが弾いたとき、血が騒いだ」と仰っていました。最後に「札幌と札響の印象」について、菅野さんは「気温は寒いけれど温かい。雪に光があたって美しい」「この美しさを日常的に取り込んでいる、皆様は特別な感受性を持っている」。「ぜひ皆様にお楽しみ頂けると思います。菅野祐悟でした」とシメのごあいさつをされてから菅野さんは退場。川瀬さんが「皆様お楽しみ下さい」と締めくくって、トーク終了となりました。


前半1曲目は、芥川 也寸志「トリプティーク(弦楽のための三楽章)」。札響での演奏歴は過去に17回で、前回は2019年2月23日(指揮:尾高忠明)。編成は弦のみ、コントラバス7の14型。なお弦は以降の演目でも固定でした。第1楽章 低音効かせた出だしが超絶カッコイイ!14型の大人数によるパワーが半端なく、ゾクゾクしました。民族楽器のような掠れる音、魅惑的なコンマスソロ!コントラバスのピッチカートがバシバシ鳴るのが大迫力でした。強弱の波のメリハリ、シャープなところとまろやかなところが地続きで、目まぐるしく変化。個性的な音色とリズム感、勢い躍動感がたまらなく良かったです!第2楽章 はじめはヴィオラのみによる「子守歌」。暗く悲しげで、日本の子守歌「らしさ」を感じました。ヴァイオリンがメロディを引き継ぐと、その美しく神秘的な響きに、私は月明かりをイメージ。低弦ピッチカートが温かで、中低弦が楽器本体を叩いて鳴らす響きとリズムは、どこか懐かしい感じがしました。やはり個性的な音色そのものが魅力的!西洋音楽でなじんでいる音とは少し違う、東洋的(?)な音色に魅了されました。第3楽章 祭り囃子を思わせる音楽に血が騒ぐ!ただ、都会的でスマートな印象を受けました。激しく盛り上がり、ビシッと締めて、ゆったりになる、動と静が鮮やか!「動」のスリリングさ、「ゆったり」の厚みと大らかさ、どちらも素敵!14型の大所帯が驚きのシンクロ率で、一糸乱れぬ演奏を展開する、そのプロフェッショナルな仕事ぶりに大感激!あっという間に終わってしまいましたが、片時も目と耳が離せない、充実の演奏を楽しませて頂きました。

ソリストの宮田大さんをお迎えして、2曲目は菅野祐悟のチェロ協奏曲「十六夜。今回が札響初演で、改訂版としては世界初演。オケの編成は弦に加えて、木管はそれぞれ2(ピッコロ持ち替え)、金管はホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1。ティンパニに多彩な打楽器、ハープ、ピアノでした。第1楽章:Moon 冒頭は独奏チェロによる「5.7.5.7.7」のメロディ。和歌の型を意識して聴くと、そこに歌を詠む人がいるように感じられました。この研ぎ澄まされた空気!宮田大さんのチェロ、さすがの存在感!ほどなくオケの弦が重なり、様々な打楽器の響きが重なり、朧月夜を思わせる幻想的な色合いに。音楽が盛り上がったり静まったりするのは、雲の動きで明るさが変化しているよう。美しい月の光は、決して消えることなく、たとえ音楽が静まっても音が残ったまま次のシーンへ受け継がれているように私は感じました。また、ピアノを挟んで場面転換が行われるのは、聴き手にとっては掴みやすかったです。静かな夜の幻想的な美しさにじっくり浸っていた私は、楽章終盤でぱっと躍り出た情熱的な独奏チェロにハッとなりました。オケの弦が重なって、さーっと潮が引くようにフェードアウトしたラストの引力!第2楽章:Woe ガツンとパワフルな冒頭のインパクト!サンダーマシンをはじめとした多種多彩な打楽器が大活躍で、前の楽章とはガラリと変わってビシッビシッとキレ味抜群なのがカッコイイ!激しい嵐や怒りの暗雲を思わせるオケが大迫力でした。超絶技巧満載で駆け抜ける、独奏チェロが鮮烈!個人的には、まるでヴァイオリンのよう(例えが適切ではないかもしれませんが)とも感じ、その華麗な凄技に圧倒されました。荒波にもまれながらも乗り越えていく、その強さ!また激しい中でも異色の存在だった、きらびやかなハープが印象的でした。ラストの打楽器たちが残した余韻、その引き締まった空気がぐっと来ました。第3楽章:Rebirth 静かで時の流れがゆっくりに。木管たちが順番に歌うのが美しく、月明かりが傷ついた心を癒やしてくれる様をイメージできました。寂しげなトランペットが素敵!低音金管群の力強さ!また私が驚愕したのは、独奏チェロがガガガガ……とひたすら鳴り続け、重なるオケが色合いを変化させていったことです。オケの要となった独奏チェロの鳴りの強さと貫禄!こんな独奏の活かし方があるのですね。独奏チェロが歌うシーンでは、エスニックなカスタネットのリズムに合わせて歌ったところが印象深かったです。冒頭の「5.7.5.7.7」の歌詠みとはまた違った個性!終盤は再び月明かりを感じさせるものになり、音が途切れずに連なっていく様に、私は第1楽章を思い起こしました。前向きに進む独奏チェロは頼もしく、オケの弦が独奏を包み込んで、「美しい朝日」が現れたような輝かしいラストが圧巻!演奏後、指揮の川瀬さんが手を向け、客席にいらした作曲家の菅野祐悟さんへ盛大な拍手が送られました。

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ソリストアンコール
は、滝廉太郎「荒城の月」。単旋律で一言一言を大切に発する歌は、「十六夜」の冒頭「5.7.5.7.7」にも通じるものを感じました。歌で言うところの1番は朗々と、2番は儚く、と表情が変化。すーっと消え入るラストが美しい!「日本の月」繋がりの粋な選曲と、言葉少なくかつ雄弁な歌の良さ!協奏曲の素晴らしい独奏から気の利いたソリストアンコールまで、私達聴き手を惹きつけてやまない演奏をありがとうございます!


後半は、シューマン交響曲第3番「ライン」。札響では過去19回(ほか楽章抜粋2回)取り上げられ、前回は2022年5月29日(指揮:マティアス・バーメルト)。ちなみに前回は私も聴いています。オケは弦に加え、木管はそれぞれ2、金管はホルン4、トランペット2、トロンボーン3、そしてティンパニの編成。第1楽章「生き生きと」 冒頭からとても華やか!はじめから大いなる川を私達聴き手に印象付けるものでした。弦が美しく歌いティンパニが鼓舞し、堂々たるホルンが爽快!ぐっと低音で支えるコントラバスの底力!弦の力強いトレモロはまさに水が跳ねているようで、さすがの仕事ぶりにホレボレしました。また落ち着くところでは、明るさの中でふと陰りを見せた木管群が素敵。水が絶え間なく流れるように、シーンが移ろっても音楽が途切れず、迷いの無い流れと勢いに身を任せられるのが最高に気持ちよかったです。第2楽章「極めて中庸に」 フォークダンスを思わせる素朴で美しいメロディとリズムが心地よい!なだらかに歌うところの温かみ、音の刻みとピッチカートの愛らしさ。ダンスのみならず、水も生きて動いていると感じました。ダイナミックな動きも素敵でしたが、個人的に印象深かったのは少し陰りが見えたシーン。素朴でも心惹かれる管楽器の歌、そして感情や水の動きを演出した弦がとても良かったです!好き!第3楽章「速くなく」 クラリネットファゴットの素朴な歌、優しく寄り添うヴィオラに心温まりました。美しいフルート&オーボエはダンスしているよう。やはり弦に「水の動き」を感じられ、木管に寄り添って囁くときも、大河を思わせる広がり(頼れる低弦ベース!)も、弦の包容力がとても良かったです。優しい木管の響きと、重なる弦の密やかなピッチカートが愛らしい!そのまま続けて第4楽章「荘厳に」へ。 個人的にとても心打たれた楽章です。特に金管群に魅了されました。厳かで悲劇的でもある弦の厚み。その厳しさをベースにしての、トロンボーンやホルンの響きは、敬虔な祈りや哀しみが感じられる深さ。金管群全員による壮大な拡がりが素晴らしい!血の通った人の温かさ、愛を感じました。そのまま続けて第5楽章「生き生きと」へ。 第1楽章とはまた違った「生き生き」。ウキウキする感じや上がり調子の音の波は楽しく、上手く言えないのですが私は何となく「ドイツの故郷」を思い起こし、親しみを感じました。ティンパニと一緒にパパパン♪と鳴るトランペットが華やか!弦はトリルやトレモロが印象的で、ここでも「水」の生き生きとした動きを感じました。高音弦のフレーズを繰り返した中低弦の重低音が個人的にツボ。堂々たる金管群は気分爽快でした。華やかに一気呵成に駆け抜けたラストが輝かしい!雄大な大河とその大河のそばにいる人々を映し出した、堂々たる音楽。それに丸ごと身を委ねる事ができた、幸せな時間でした!

カーテンコール。舞台に戻っていらした川瀬さんは、はじめに木管全員、続いてホルントップ(客演首席は高橋将純さん)とホルン全員、他の金管パート、ティンパニ、と順に起立を促して讃えられました。弦は最前列にいる各パートの2トップと1stヴァイオリンから順に握手(コントラバスは奥まで歩いていって握手)。最後、川瀬さんは客席に向かい両手でバイバイの仕草。会はお開きとなりました。豪華プログラムを思いっきり楽しませてくださりありがとうございます!正指揮者となって3年目の川瀬さん、これからも札響と札響ファンの事をよろしくお願いいたします!


こちらではブラームス交響曲第3番が取り上げられました。「札幌交響楽団 第667回定期演奏会」(土曜夕公演は2025/02/22)。前・札響首席指揮者のマティアス・バーメルトさんによるモーツァルトブラームス。グラン・パルティータは、名手たちによって奏でられる柔らかく美しい音楽に、時を忘れて浸れる贅沢な体験!ようやく生演奏で出会えたブラ3は、細部にわたってブラームスの優しさと愛があふれる音楽。音そのものの良さと作品の本質に触れられる喜びを、しみじみと噛みしめたひとときでした。

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