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2025年2月の札響定期は、前・札響首席指揮者(2018年度から2023年度まで在任)のマティアス・バーメルトさんによるモーツァルト&ブラームスのプログラムです。6年間の在任期間中、ドイツ・レクイエムをはじめとした数々の名演奏を聴かせてくださったバーメルトさん。私はバーメルトさんとの再会と、愛してやまないブラ3(なんと生演奏ではお初!)との出会いを楽しみにして、この日を迎えました。待ちわびたファンが大勢集まった今回。比較的地味なプログラムにもかかわらず、土曜夕公演は会場の8割以上が埋まる盛況ぶりでした。
札響公式youtubeの企画「札響プレイヤーズトーク」。今回(2025年2月)は、コンサートマスターの会田莉凡さんとホルン奏者の折笠和樹さんによるトークです。2月定期と3月hitaru定期についてのイントロダクションはもちろん、誕生日談義や、「『インスペクター』とは?」のお話し、折笠さんが留学中に目撃したベルリンの壁崩壊について等、超盛りだくさん!「十六夜」の読み方は要チェックです♪
札幌交響楽団 第667回定期演奏会(土曜夕公演)
2025年02月22日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
マティアス・バーメルト
【曲目】
(ロビーコンサート)ブラームス:弦楽六重奏曲第2番 より 第1楽章
(出演:ヴァイオリン/福井岳雄、桐原宗生、ヴィオラ/廣狩 亮、荒木聖子、チェロ/石川祐支、荒木 均)
モーツァルト:セレナード第10番「グラン・パルティータ」
ブラームス:交響曲第3番
バーメルトさんと札響が創る音楽で「お初」の作品に出会える幸せ、音そのものの良さと作品の本質に触れられる喜びを、しみじみと噛みしめたひととき。私、やっぱりバーメルトさんが大好きです!音量や勢いをしっかりコントロールして細部を丁寧に描くことで、作曲家が聴き手に届けたかった部分が明確になり、ノイズは一切ないクリアで純粋な音楽を体現するのが「バーメルト流」だと私は再確認。もちろん「弱音を大切にする」のは一つの方法に過ぎず、音楽の本質を見極めた上での様々なアプローチを積み重ねていった結果なのだと拝察します。バーメルトさんに鍛えられた(!?)札響は、美しく芯のある弱音を奏でる。そして私達聴き手は、Kitara大ホールに響く繊細な音に耳をそばだてる――私達聴き手もまた、バーメルトさんと札響に鍛えられてきたのです!札幌にバーメルトさんが来て下さって、地元に札響がいてKitaraがあって、本当に良かった!このご縁と出会いに改めて感謝です。
モーツァルト「グラン・パルティータ」は、13名のメンバーそれぞれが持つ音の個性とアンサンブルの良さを大いに楽しむことができました。名手たちによって奏でられる柔らかく美しい音楽に、時を忘れて浸るのはとても贅沢な体験!そしてブラームス「交響曲第3番」は、ドイツ音楽の重厚さに加えて、ブラームスの優しさを感じることができて私は胸が熱くなりました。シャイなブラームスは決して声高に主張したりしないけれど、彼の音楽には優しさがあふれている!細部を丁寧に描き出してくださった演奏のおかげで、私はそれに気付く事ができました。ブラームスの4つの交響曲のうち、なぜか第3番は演奏機会が少なく、ブラームスばかり追いかけている私でも生演奏では今回が「お初」。しかし今回、こんなにも素晴らしい演奏に出会えたことで、最高の形で積年の想いが昇華されました。たとえこれが最初で最後の出会いだったとしても悔いはないと思えるほど!ちなみに私の札響定期デビュー(2019年1月)での指揮もバーメルトさんでした。超初心者だった当時の私が、その時のブラ2から肌で感じ取った「風がそよぎ森が薫り立つ」イメージを、6年経った今回のブラ3で体感できたのもうれしかったです。思い出は宝物。今回の出会いもまた大切な宝物になりました。ありがとうございます!
今回の演奏会に先駆けて、練習見学会(2025/02/21 12:00~)が開催され、私も参加しました。その簡単なレポートを記します。見学者はCBブロック(開放されたのはこのエリアのみ)の半分くらいの席を埋めていたと思います。リハーサルが始まる前は、団員さん達がそれぞれ自主練をしていて、聞き覚えのあるフレーズがあちこちから聞こえてくるのが面白かったです。リハーサルでは、ブラームス「交響曲第3番」を最初から最後まで中断することなく演奏(!)。人が少ないKitaraの響きは抜群にキレイで、1曲まるまる聴けたのはとても幸運でした。通しで演奏した後に部分的に振り返り。よく出来ている上で更に磨きをかけていたイメージです。バーメルトさんは各パートを褒めてもいました。予定13時15分までのところを13時前にはリハーサル終了。その後、コンマスや他の団員さん達が個別に相談しに指揮台へ集まっていました。一通り終わると、バーメルトさんは舞台からマイクを持って私達にお話しくださいました(英語でのトーク、通訳が入りました)。バーメルトさんは、札幌に来ると「自分の家に戻ってきたような懐かしい気持ち」になる、と仰っていました。札響の首席指揮者に在任した6年間は「人生の中でベストな6年間」。他のオケを指揮する際は、いつもはじめに札響を思い浮かべるそうです。「皆さんが来てくださるのがとても大事。来る人がいなければ、リハーサルするだけのオーケストラになってしまう(!)」と軽く冗談を交えつつ、「支援に値するオケ」と結ばれました。最後にスタッフのかたからロビーコンサートの宣伝があり、「本日はありがとうございました」のごあいさつ。見学会は終了となりました。
開演前のロビーコンサート。今回の演目は、ブラームス「弦楽六重奏曲第2番」 より 第1楽章。2025年2月末にて退団される、福井岳雄さんがヴァイオリンの第1奏者でした。この曲も私は生演奏では「お初」。とても好きな曲で、企画発表された時から楽しみにしていました。いざ実演に触れると、私はいちいち胸打たれて情緒が大忙し!6名が絶妙な呼吸で、若き日のブラームス流「愛と情熱」を目の前に体現してくださって大感激です!ヴィオラに始まった、肌触りの良い音の波、心地よく優しいピッチカート、1stヴァイオリンか歌う少し切ないメロディ。1stヴァイオリンに寄り添う他パートは、柔らかく包み込んだりメロディをリフレインしたりと、さり気ない愛情が繊細に重なり合うのが良すぎる!次第に気持ちが高まっていき、頂点に達するその情熱!明快さ!気持ちが途切れずに、そのまま続けて明るく歌うのがまた良い!そして1stチェロが柔和に優しく歌い、1stヴァイオリンと語り合うのが最高に素敵……思い合う2人の会話のようで、私は胸がいっぱいになりました。全体で密やかになるところも、丁寧に音を紡ぎ、作曲者の思いを汲んだ奏者の皆様の愛情を感じました。穏やかなところから様々な要素を積み重ねていき、ドラマチックに展開していく流れがアツイ!ぐっと重厚なアンサンブルの良さを堪能。明るく輝かしい締めくくりは胸がすく思いでした。不器用だけどまっすぐで愛情深い、若き日のブラームスに、ようやく出会えました。ありがとうございます!それにしても……叶うことなら第1楽章だけではなく、続きを全部聴きたいです!
前半は、モーツァルトのセレナード第10番「グラン・パルティータ」。プログラムノートによると、札響の過去の演奏は4回(楽章抜粋の演奏は2回)。編成はユニークで、12の管楽器とコントラバス1。舞台向かって左からオーボエ2(コンサートマスターのポジションにはオーボエ首席奏者の関さん)、ファゴット2、バセットホルン2、クラリネット2、の木管群が扇型に並び、その後方にホルン4、ファゴットの後方にコントラバスが配置されました。ホルンの客演首席奏者は井澤滉一さん。7楽章構成(!)、演奏時間は1時間近い大作ですが、心地よい響きとアンサンブルの良さが楽しめて、初聴きの私もとても面白く聴くことができました。またそれぞれの楽器の様々な表情をじっくり味わえるのは、小編成ならではの良さですね。ちなみに私が特に印象に残っているのは、第2楽章と第4楽章(いずれも2つのトリオを持つメヌエット)、第6楽章(主題と変奏)です。第1楽章 はじめの、ゆったりとした音楽の心地良さ!なんてまろやかな和音!じっくり歌う木管の温かな音色が幸せで、深みを演出したコントラバスの低音が印象的でした。快活になると、元気いっぱいな全体合奏と「おしゃべり」しているような各パートの掛け合い、どちらも楽しい!フレーズ末尾でタッタッ♪と音が跳ねるのが愛らしく、また明るい一辺倒ではなくやや陰りが垣間見えるシーンがあったのが印象的でした。第2楽章 はじめのメヌエットは、オーボエが歌うメロディが華やかで、低音ベースが作るリズムが心地よく、明るかったりほの暗かったり。1つめのトリオは、バセットホルン2&クラリネット2の4名のみ(!)にて演奏し、幸せな響きが素敵でした。まるで踊りの輪を抜け出した2人が語らっているよう。そして2つめのトリオにて、ぱっと登場したオーボエの艶っぽい音色に魅了されました!オーボエがリードする音楽は、切なくて少し足早で、恋が急展開したようにドラマチック!いずれのパートも、どんなに速く演奏しても音がきれいで、響き合うそれぞれの音色も楽しめました。第3楽章 映画「アマデウス」において、作曲家サリエリがモーツァルト出会った時に流れていたという楽章(プログラムノートより)。ゆったりと刻まれる一定のリズムがとても心地よく、大らかに全体を包み込むホルンの温かさ!そのベースの上で、オーボエやクラリネットが時に哀しみを垣間見せながら優しく歌い、とても品の良い美しい音楽を聴かせてくださいました。第4楽章 メヌエットは、緩急が交互に来たり、明るいのが暗くなったりと様々に変化。私にはパートナー同士が駆け引きをしているようにも思えました。木管のフレーズ末尾で音が跳ねるのが楽しく、私はダンスにてエレガントかつ素早くターンしているのをイメージ。また個人的に印象深かったのは中間部のトリオです。とても心地よいリズムを作ってくれた、コントラバスのピッチカートがなんとも魅力的でぐっと来る!その上で、滑らかだったり跳ねるようだったりと、木管たちが伸び伸びと歌うのが愛らしい!生き生きとしたアンサンブルがとても良かったです!第5楽章 息の長いフレーズをゆったりと柔らかく。その音色に聴き入りました。駆け足になる中間部は、ファゴットの連続演奏(すごい!)をベースに、他の楽器がほの暗く歌うのがカッコイイ。エキゾチックな印象でした。第6楽章 主題と6つの変奏からなる楽章(私調べ)。小さい行進曲風な愛らしい主題が様々に変奏されていくのを楽しめました。中でも印象深かったのは、各パートが細かな音を次々と繰り出して豊かに重なり合うところ(第3変奏?)、他パートの温かな音が穏やかに立ち込める(とっても素敵!)中でオーボエが美しく歌ったところ(第5変奏?)です。第7楽章 ずっと木管風だったホルンも金管らしくなり、最後の楽章は全員合奏で快活に。テンポ良く掛け合い、生命力ある、元気いっぱいで楽しい音楽!新たなメロディが次々と登場し、主旋律はもちろんのこと、それを装飾する音や、メロディと対になる旋律の演奏も見事でした。ラストは明るく力強く!大作を最初から最後までクオリティの高いパフォーマンスで聴かせてくださった奏者の皆様に大拍手です!演奏後、指揮のバーメルトさんは扇型に並んだ木管奏者の皆様と順に握手し、後方のホルンとコントラバスはエア握手をされました。
後半は、ブラームス「交響曲第3番」。今回、バーメルトさんは暗譜にて指揮!プログラムノートによると、札響の過去の演奏は26回(第3楽章抜粋の演奏は8回)で、前回は2013年10月12日(指揮:ラドミル・エリシュカ)。今回は先月(2025年1月)の定期と同様、舞台に大きく段差が設けられていました。オケの編成は、弦がコントラバス7の14型。木管は基本の2管に加えてコントラファゴット。金管はホルン4、トランペット2、トロンボーン3。そしてティンパニ。ホルンの客演首席奏者は、前・札響首席奏者の山田圭祐さんでした。第1楽章 はじめの管楽器による「モットー」のインパクト!続くメロディの冴え渡る高音弦にズンズン来る中低弦!ああ最高!しかし驚くのはまだ早かったのでした。最初の盛り上がりが一旦静まる流れから、オケ全体による弱音の精細な美!細やかな強弱の波による空気の流れが良すぎました。個人的には「風がそよぎ森が薫り立つ」のをイメージ。札響の弦はとんでもなく上手いと改めて痛感しました。幸せなダンスのようなところは、クラリネットに続いてヴィオラが歌ったのにブラームス「らしさ」を感じて、私は思わずにっこり。幸せなダンスから、物憂げな感じになって、ぐっと重厚に盛り上がって行くのがまた良すぎます。様々な表情が地続きのまま、無理なく展開していき、それに身を任せるのは幸せでした。低音でほの暗く歌う中低弦が超カッコイイ!そして、どっしりとした弦のベースに乗って、伸びやかで壮大なホルンが登場。温かで優しくて、ああなんて素敵なの!山田さんのホルン、断然頼れる!コントラファゴットの重低音、ティンパニの弱音からのクレッシェンド、めっちゃイイ!再現では、高音はより冴えて低音はぐっと重厚に。はじめの方での弱音の美にも心奪われましたが、終盤の奥行き分厚さにも大感激です!そして締めくくりへの流れがさすがでした。木管と弦が交互に囁き合う繊細さ、ティンパニの後にゆったりとメロディを奏でる高音弦の美、音をのばして消え入るラストの温かな余韻!最高かよ!第2楽章 クラリネットを中心に木管群大活躍の楽章。私は前半に聴いたグラン・パルティータを思い出しながら、ゆったりと浸りました。木管アンサンブルの心地良さ、そっと風が吹くように入る中低弦の優しさ。オーボエが主役になってから、少しずつ盛り上がっていく流れにじんわり心温まり、高音弦が爽やか!そして、またしても弱音の精細な美にやられました。kitaraに響くその美しい響きを味わえる幸せ!また、第4楽章の先取りのような寂しげな音を管と弦がこだまし合ったのに気づき、ハッとなりました。木管アンサンブルの幸せな歌の下で、弦が作る控えめなうねりがなんとも優しく素敵。メロディを奏でる高音弦の透明感、オケの壮大な拡がり!今この時を慈しむように、ゆったりと幸せに音をのばして消え入るラストの余韻がまた素敵!第3楽章 映画やCM等にもよく使われる有名な楽章。あの切ないメロディを、チェロから順に各パートで奏でるのが胸に来ました。コントラバスのピッチカートや、メロディ担当以外の弦が作る繊細な波は、胸の鼓動やざわめきのよう。ブラームス流の愛と優しさを感じて、ジーンときました。思いを大切に大切に、丁寧に静かに合奏が消え入ってから、ホルンの登場。メロディを歌うこのホルンの良さ!すっと心に入ってきて、哀しみに寄り添う愛情を感じました。ああやっと会えた!むせび泣くような盛り上がりから、ピッチカートで静かに締めくくるラストまで、愛と優しさが身に沁みる。第4楽章 ファゴットによる低音のうごめきから始まり、ホルンとオケとの密やかなやり取り、コントラファゴットのざらつく低音。忍び足で着実に歩みを進めていくのにドキドキしました。ホルンとティンパニによる盛り上がり、シャープな弦に震える!深刻なところから、チェロの開放的なメロディから始まった明るくぐんぐん進むところへ、重厚パワフルな盛り上がりへと、ドラマチックに表情が変化していく展開にゾクゾク!トレモロでさざ波からぐっと盛り上がりの山を繰り返し作る、弦がやっぱり上手すぎます。弱音でじっくり進む歩みに耳をそばだて、空気を切り裂いたヴァイオリンに、その後の重厚骨太展開に痺れる!キレッキレの高音とぐっと重厚な低音、一緒に刻むリズムの気迫!また、はじめのファゴットのメロディは様々なパートに受け継がれましたが、私が最も印象深かったのは終盤に登場したヴィオラパートです。少し切なく、しかしひどく悲観するのでもない、優しく美しい歌い方にぐっと来ました。そこから木管群がゆったりと歌い、温かで幸せなラストへ向かう流れが最高に良かったです。歌う木管も、大きく包み込んでくれる金管も、丁寧に音を連ねる弦も、思いを一つにして昇華させていく。そのひたむきさともちろん音楽の素晴らしさに、私は静かに感激していました。弦によって、第1楽章のはじめのメロディが柔らかく優しくリフレインされ、控えめなティンパニに導かれた幸せな締めくくりは、天に昇ったかのようでした。ようやく生演奏で出会えたブラームス「交響曲第3番」は、細部にわたってブラームスの優しさと愛があふれる音楽。バーメルトさんと札響のおかげで、心に深く染み入る最高な出会いとなりました。ありがとうございます!
カーテンコール。今月末で退団されるヴァイオリン奏者の福井岳雄さんへ花束贈呈がありました(プレゼンターは指揮のバーメルトさん!)。福井さん、31年8か月半年にわたり、札響を支えてくださりありがとうございます!そしてバーメルトさん、次回の名曲シリーズ(2025年6月8日、森の響フレンド名曲コンサート~モーツァルトとバーメルト)での再会を今から楽しみにしています!
この日の1週間前に聴いた、札響の主催公演です。「札幌交響楽団 森の響フレンド名曲コンサート~はるかなる銀河を:ジュピターとヤマト」(2025/02/15)。豪華な音楽による未知なる世界への旅!交響曲「宇宙戦艦ヤマト」では壮大な宇宙旅行を楽しめ、美しく堂々たる「ジュピター」では人類の英知の極みを見た気持ちに。信頼の指揮・下野さんと札響、豪華なソリスト陣のおかげで、「壮大な宇宙」「万能の神」を想像の世界で体感できました。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。