自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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札幌交響楽団 森の響フレンド名曲コンサート~はるかなる銀河を:ジュピターとヤマト(2025/02) レポート

www.sso.or.jp
本年度(2024年)最後の名曲シリーズは、札響首席客演指揮者の下野竜也さんによる「ジュピターとヤマト」です。注目はアニメ「宇宙戦艦ヤマト」による大交響曲ソリスト陣は三浦文彰さん(Vn)、高木竜馬さん(Pf)、隠岐彩夏さん(Vocalise)という、豪華な顔ぶれで、なんと下野さんが東京交響楽団を指揮した時(ライブ録音のCDがリリースされています)と同じソリスト陣とのことです。なお前売り券は完売。会場には原作アニメのファンのかたも大勢いらしていて、大ホールの入り口にはヤマトのファンの皆様から贈られたフラワースタンドが飾られていました。


札幌交響楽団 森の響フレンド名曲コンサート~はるかなる銀河を:ジュピターとヤマト
2025年02月15日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
下野 竜也<首席客演指揮者:2024年4月就任>

【出演】
三浦 文彰(ヴァイオリン)
髙木 竜馬(ピアノ)
隠岐 彩夏(ヴォカリーズ)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
(追悼演奏)モーツァルト:ディヴェルティメント K.136 第2楽章

モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」
羽田健太郎交響曲宇宙戦艦ヤマト


豪華な音楽による未知なる世界への旅!交響曲宇宙戦艦ヤマト」は、まっさらな私でも心からドキドキワクワクし、壮大な宇宙旅行を楽しむことができました。指揮の下野さんのキビキビした進行と、豪華なソリスト陣の鮮やかなソロと、もちろん札響の高クオリティ演奏によって、約1時間の比較的長い演奏時間があっという間に感じられたほど!なお私は古典作品でも「知っている」と言えるものはごくわずかなので、いつもと同じように大船に乗ったつもりで身を任せていたに過ぎません。しかし信頼の指揮・下野さんと札響についていけば大丈夫。私が思い描いた情景は、原作アニメに詳しい方とは違っていたかもしれませんが、自由に想像力を羽ばたかせて楽しみました。

前半ジュピターについても、私は先入観なしで臨み、大いに楽しみました。私はモーツァルトの三大交響曲のうち、40番は何度か実演に触れる機会があったものの、41番はこの日が「お初」。小さな編成による、美しく堂々たる交響曲に、人類の英知の極みを見た気持ちになりました。ちなみにここでの「ジュピター」は「木星」ではなく「万能の神」の意味なのだそう。「ド・レ・ファ・ミ」の「ジュピター音型」が交響曲ヤマトに登場する(プログラムノートより)そうですが、この時の私には一体どこに登場したのかわからなかったです(ごめんなさい!)。ジュピターと交響曲ヤマトは、成立年代も編成もカラーも異なるもの。しかし私にとっては、まっすぐに聴いて素直に楽しめたという点において「古典作品」も「現代作品」も同じです。その時の自分の感受性を大切にして素直に聴くことは、「知っている・知らない」よりもずっと大切なことだと考えます。それにしても、壮大な宇宙、万能の神……いまだ人類が実体を掴めてはいないものについて、音楽で描き出すという作曲家の天才性には驚かされます。私は平凡な人間ではありますが、天才が生み出した音楽を通じて、想像の世界で体感できました。素晴らしい音楽を生み出した作曲家と、それを私達の目の前に創り出してくださった演奏に、改めて感謝です。

今回のKitara大ホールには、普段はクラシック音楽になじみが薄い方も大勢いらしていた様子。原作アニメに詳しくてモーツァルトはよく知らない人、逆にアニメはわからないけれどモーツァルトには親しんできた人、ついでに私のように両方ともよく知らない人。立ち位置が異なるそれぞれの人が同じ時間を共有し、同じ演奏を聴いて楽しめたのは本当に素晴らしいことだと思います。これぞまさに「名曲」コンサートですね!来年度以降も名曲シリーズを楽しみにしています!


開演15分前からのプレトーク。今回は、指揮の下野竜也さんによるトークでした。なお開演前のこの時間は人の出入りが多くて騒々しく、一部聞き取りづらい部分がありました(お話し自体は明瞭でした)。以下レポートでは私が聞き取れた範囲内にて内容を要約して書きます。ご了承くださいませ。はじめに「ようこそ。首席客演指揮者の下野です。よろしくお願いします」とごあいさつ。まず、交響曲宇宙戦艦ヤマト」について詳しくお話しがありました。羽田健太郎さんと宮川泰さん(アニメの劇中音楽を作曲)の「2つの才能が掛け合わってできた作品」。「せっかくですので、札響ファンにめずらしい曲を紹介したい」とお考えになったそうです。大友直人先生の指揮で初演され、その時のピアノは作曲者の羽田健太郎さんで、ソロ・ヴァイオリンは徳永二男さん。徳永さんは三浦文彰さんの師匠にあたるかたで、「先生が初演した曲を弾いてみませんか?」と下野さんが三浦さんにお声がけしたのだそうです。作品自体については、メドレーではなく作曲家の羽田さんが創りあげた1つの宇宙になっているとのこと。しかし「ヤマトのファンにとっては懐かしいなと思って頂けると思います」。また下野さんの個人的な印象として、「大袈裟かもしれないけれど」ベートーヴェンの第九のように壮大で、第2楽章のゆったりしたところはブルックナーのよう、と感じるそうです。実際、羽田さんはブルックナーがお好きだったそうで、オマージュ?と思えるところもあり、そういった点でも楽しめると仰っていました。続いてモーツァルト交響曲第41番「ジュピター」についてのお話しに。「ジュピター」のネーミングは「宇宙」を連想するかもしれないけれど、「万能の神」の事だそうです。「(聴く前に言うのは)無粋かと。許して」と前置きしつつ、「第4楽章を聴く度に『天国の扉が開いたよう』と感じる」。「とても高度な『カエルの歌』(=フーガ)」「流れ星」といった言葉も出て、R.シュトラウスが「人間が書いたとは思えない」と言ったというエピソード紹介もありました。「自画自賛だけど、Kitaraがプラレタリウムになるような演奏」だそう!そして、先日「急にお亡くなりになった」指揮者の秋山和慶さんのお話しになりました。下野さんにとっては先生にあたるかたであり、「我々も気持ちの整理がつかない」。ちなみにkitaraのオープニングコンサートは秋山さんが指揮されたのだそうです。東京公演で行ったものの「札幌ではまだ行っていなかったので」、演奏会前に献奏を行うことと、その曲目紹介もありました。「秋山さんには明るい曲がふさわしい。秋山さんへ感謝を込めて」。「間もなくでございます。ご静聴ありがとうございました」とのシメのごあいさつで、トーク終了となりました。


はじめに、2025年1月26日に逝去された元札響ミュージックアドバイザー兼首席指揮者の秋山和慶氏への追悼演奏が行われました。モーツァルト「ディヴェルティメント K.136」 第2楽章。編成は弦のみで、コントラバスが3の12型。親しい人達同士が、ゆったりと優しく語らっているような、素敵なアンサンブルでした。ささやくように歌う高音の美しさ、それに寄り添う低音の優しさ。しめやかに、しかし明るく、清らかな音楽。聴いている私達は、気持ちが穏やかになりました。演奏後、しばらく会場は沈黙。指揮の下野さんが退場される時に一部の客席から拍手が起きました。事前にアナウンスがなかったのと、今回はクラシック音楽の演奏会になじみが薄いお客さんも多かったため、致し方ないと思います。しかしそれを咎めるような空気にはならず、聴く人それぞれが静かに故人に思いをはせる時間になったのがとてもよかったです。

前半は、モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」。オケの編成は、弦は献奏からそのままコントラバスが3の12型で、加えてフルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニでした。第1楽章 はじめにテーマが登場。力強い弦にティンパニによる鼓舞、堂々たるオープニングに胸がすく思いでした。柔和なシーンと、パワフルなシーンが交互に来るスタイル。休符で一旦静まり(ホールに響く余韻が素敵!)、指揮の下野さんがガッと踏み込んで次のシーンへと、キビキビと切り替わるのが気持ちよかったです。またどのシーンにおいても、最初のテーマが陰に陽に繰り返し登場するのを面白く聴きました。第2楽章 はじめの美しく柔らかく歌うヴァイオリンに引き込まれ、美しく穏やかな音楽にゆったりと浸りました。やや悲劇的なシーンへの入り口となった、ファゴットのもの悲しい響きが印象深かったです。また、滑らかに歌うのみならず、各パートで優しくこだまし合ったり、音を細かく刻む(スタッカート?)があったり、弱音で囁くように歌ったりと、細やかな変化とそれぞれの表情も楽しめました。第3楽章 美しいヴァイオリンから入った、メヌエットは品良く、パッと豪華に盛り上がる、そのメリハリ!ソロで登場したオーボエが温かで幸せな感じ!弦も管もトリルが華やかでした。中間部のトリオは、内緒話をしているような楽しさ!第4楽章 はじめのヴァイオリンによる密やかな「ドー・レー・ファー・ミー」。これが「ジュピター音型」かな?と把握。力強い盛り上がりはとても華やかで、コントラストが鮮やかでした。『カエルの歌』のような追いかけっこをする弦の流麗さ。管も加わって一層複雑な構成になっても、きっちりかつ流れるように進み、快活にぐんぐん進む流れに乗るのが快感でした。フルートやオーボエが美しく歌った後に、ガツンとティンパニが入って力強く切り替わる、そのメリハリが気持ちイイ!金管ティンパニに祝福され、明るく華やかに『天国の扉が開いたよう』に締めくくり。これが前座なんてもったいないと思うほどの、美しく堂々たる交響曲!比較的小さな編成による、まっすぐ明快な演奏で、モーツァルト最後(かつ究極)の交響曲を楽しむことができました。

後半は、羽田健太郎交響曲宇宙戦艦ヤマト。独奏は、ヴォカリーズ(第3楽章)、ヴァイオリンとピアノ(第4楽章)。オケの編成は、弦がコントラバス7の14型。金管はホルン4、トランペット4、トロンボーン3、チューバ。木管は基本の2管に加えてピッコロ、イングリッシュホルンバスクラリネット。多彩な打楽器とティンパニ、他ハープ2、ピアノ(オケパート用)とチェレスタ(ピアノと兼任)が加わりました。第1楽章『誕生』 冒頭の弦による低音!宇宙の「闇」を思わせる深遠な響きにぐっと引き込まれ、続いたホルンに果てしない宇宙の拡がりをイメージしました。そろりと始まった主題歌のテーマ(宇宙戦艦ヤマトをよく知らない私でさえも、ささきいさおさんが歌う有名な主題歌だけは知っています)。テーマを繰り返しながら次第にダイナミックになっていき、聴いている私達も無理なくその世界に入っていけました。派手に鳴るシロフォンに気持ちがアガる!金管打楽器が切れ味抜群!ビシッビシッと引き締まった音が気持ち良かったです。ホルンに続いて、オーボエがテーマ(「イスカンダル」の主題?)を奏で、目の前に広がる世界がぱっと切り替わりました。優美なオーボエ、断然頼れる!オケも先ほどのシャープで緊迫感ある感じから曲線的で穏やかに変化。壮大で美しいオケに聴き入りました。戦闘力高い感じに切り替わり(ワープした?)、深刻な弦、華やかなフルート、勇ましいトランペットが超カッコイイ!キレッキレな打楽器陣に鼓舞されました。そして再び穏やかな空間へ。ゆったりと歌う弦が美しい!先月の定期で聴いたシベリウスが風を感じる透明感なら、このヤマトではここは宇宙空間なのだと思わせてくれる拡がり。どちらも大好き!第2楽章『闘い<スケルツォ>』 動→静→動、の構成。「動」では、低音金管群とティンパニの重低音がガツンと来る!激しく鳴る打楽器に血が騒ぐ!中でも舞曲のような音楽にスパイスを効かせたカスタネットとタンブリンが印象的でした。シャープに駆け抜ける弦にゾクゾク!華やかな金管群は閃光が飛び交うようで、地上戦の血みどろな感じとはまた違った現代的な印象でした。中間部の「静」は柔らかく美しく、穏やかで少し哀しい感じの弦、温かみある木管群がとっても素敵!プレトークで指揮の下野さんが「ブルックナーのよう」と仰っていた中間部は、単に美しいだけでは終わらない、そこに生きる人の思いがあると感じられました。第3楽章『祈り<アダージョ>』 オケは時間の流れがゆったりになり、音は穏やかな表情になり、先ほどの「闘い」とはガラリと変化。まるで別世界に来たかのよう!敬虔な祈りを思わせる音楽に、聴き手は高ぶった神経が静まっていきました。壮大で、歌っているようでもあり、個人的にはここはブルックナーではなくマーラーをイメージ(どちらも私は詳しくはないのですが)。オケが盛り上がった後、ヴォカリーズの登場!ソリスト隠岐彩夏さんは、オルガンの前に立っての歌唱でした。「アーアー♪」と歌詞のない歌、透明感と果てしない拡がりのあるお声!心洗われました。支えるオケは、一層お声の美しさを際立たせてくださっていて、とりわけハープ、チェレスタ、フルートの美しさが印象に残っています。一旦歌が終わると、引き継いだオケは思いっきり盛大に!激しさが慟哭のようにも感じられ、ドラマチックで胸打たれました。再び「アーアー♪」の祈りのような歌唱を経て、後に続いたオケは今度は希望が見える感じに!美しい弦に壮大で温かなホルン、優しく幸せな木管!この世のものとは思えない美しさ。また私がとても良いなと思ったのは、締めくくりの流れです。穏やかな音楽を、ふっと眠りについたように一度しっかり収束させ(でも気持ちは繋いだままで)、わずかにためてから美しい高音をのばしてフェードアウト。あいまいにせずに細部をきっちり作り込む、さすが私達のシモーノさんと札響です!第4楽章『明日への希望<ドッペルコンチェルト>』 演奏が始まる前に、舞台中央に設置されたピアノの蓋が開けられ、ソリスト三浦文彰さん(ヴァイオリン)と髙木竜馬さん(ピアノ)が拍手で迎えられました。重厚なオケの前奏に続いて、独奏ピアノが登場。主題歌のテーマを織り込んでダイナミックに奏でられるピアノがインパクト大!迫力あるオケとの掛け合いがすごい!続いて独奏ヴァイオリンが登場。艶っぽい音色で繊細に美しく歌うヴァイオリンの引力!独奏ヴァイオリンは、はじめは孤高な存在で、勇ましいオケを経て再び登場したときは前向きで勇敢に変化したと個人的には感じました。独奏ピアノは、音盛り盛りの躍動感あるところも、ピアノ小品を思わせる内省的なところも、変幻自在!内省的なピアノと重なった、独奏ヴァイオリンの切なさ美しさ!壮大なオケが合流すると、独奏ヴァイオリンが希望の光のように変化したのが素敵でした。ピアノに乗って独奏ヴァイオリンが舞曲風に歌うところの艶っぽさ!リズム感と跳ねるような音がとても魅力的で、オケのチェロトップが一瞬加わりピアノ・トリオになったのがニクイ演出。力強い独奏ピアノと艶やかな独奏ヴァイオリンが、勇壮なオケと掛け合うのはなんとも贅沢でした。そして終盤のピアノによるカデンツァが素晴らしかったです!最初の1音からものすごい力強さ!音を連ねながらドラマチックに、少し切ない表情を垣間見せたりもして、厚み奥行きが半端ない!独奏ヴァイオリンが合流し、はじめは切なく、次第に加速して超高速な舞曲風に。2つの独奏の掛け合いがスリリング!オケが合流して華やかな盛り上がりになり、トランペットが最高にカッコイイ!もちろん最初から最後までオケのどのパートも大活躍でしたが、中でもこの終盤に登場したトランペットが個人的には一番印象深かったです。そして主題歌のテーマを力強く繰り返すエンディングのド迫力にガツンとやられました!急がず雄大に繰り広げられる、フルオケ&2つの独奏によるサウンドの圧倒的な力!果てしない宇宙空間の旅が(きっとこの先も続くだろうけど)、1つの到達点へ向かう、感動のフィナーレを体感できて震えました。会場は万雷の拍手!私はハッとなって、周りに少し遅れて拍手を送りました。

カーテンコール。指揮の下野さんは、ソリストのお三方と一緒に何度も舞台へ戻ってきてくださいました。またオケの各パートを、はじめは打楽器(12種類を5名の奏者で!)、ハープ、オケのピアノ、金管はトランペット首席から、木管はフルートから、最後の弦はコントラバスから順に起立を促し、結果的に全員を讃えられました。客席からの拍手が鳴り止まない状態にて、指揮の下野さんがグランドピアノの蓋を閉じ、オケのスコアを大きく掲げられ、会はお開きに。交響曲宇宙戦艦ヤマト」は、きっとこの先モーツァルトのような「古典」になる!新たな歴史の1ページとなった、素晴らしい演奏をありがとうございます!下野さん、これからも札響の事をよろしくお願いいたします。


私が年明けに聴いた札響の公演2つ、以下はそれぞれのレポートのリンクです。小樽ニューイヤーは下野さん指揮によるウィーンプログラム、1月定期は広上さん指揮による「これぞ札響」プログラムでした。

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