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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第18回~モルダウ・・・「わが祖国」全曲(2024/08) レポート

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今回の札響hitaru定期は、「下野竜也 首席客演指揮者就任記念」公演。生誕200年記念のスメタナの連作交響詩「わが祖国」と、生誕110年記念の早坂文雄「二つの讃歌への前奏曲」が取り上げられました。札幌市民の期待は大きく、平日夜の公演にもかかわらず会場の1階席は9割以上の席が埋まる盛況ぶりでした。

札響公式youtubeの企画「札響プレイヤーズトーク」。今回(2024年8月)は、指揮の下野竜也さんと同郷、トロンボーン首席奏者の山下友輔さん、ヴァイオリン首席奏者の桐原宗生さん、トランペット奏者の佐藤誠さんによる「鹿児島県人会」トークです!世代は異なっていても、地元の話題で大盛り上がりできるって素敵&楽しい!「茶碗蒸しの歌」は必聴です♪

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札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第18回~モルダウ・・・「わが祖国」全曲

2024年08月01日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
下野 竜也<首席客演指揮者:2024年4月就任>

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
早坂 文雄:二つの讃歌への前奏曲
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」


愛する地元オケが生み出す「大河」の流れに身を任せ、地元のお客さんたちと同じ時間を共有できた喜び!指揮の下野さんと札響による、誠実で愛情あふれる演奏は、作品に込められた作曲家自身の思いや息づかいまでもが伝わってくるようでした。また演奏を通じて、作品そのものからも迷いのないひたむきさが感じられたのがうれしかったです。聴き手は身も心も丸ごと委ねられ、大船に乗った気持ちで壮大な世界に浸ることができました。若き日の早坂文雄が書いた「二つの讃歌への前奏曲」は、オーケストレーションの不慣れな部分をまるで感じさせないほど、作曲家の思いがあふれる響きが素晴らしい!後年の「左方の舞と右方の舞」(私は2021/1/28のhitaru定期にて聴きました)を彷彿とさせる、和の「雅」な響きがとても魅力的でした。演奏機会が極めて少ない作品を、作曲家自身の思いと誠実に向き合った演奏で聴けたことに感謝です。そして大作であるスメタナ「わが祖国」は、長編大河ドラマを一気見したような充実のひととき!作曲家がたくさん書いた音符たちが、生き生きと跳ねて踊り、大きな流れとなって壮大な世界を形成していくのを目の当たりにしました。また繊細にもダイナミックにもなる大河の流れは、現実に目を背けることなく故郷の姿を映し出した上で、故郷とそこに住む人達を愛ある温かな眼差しで見守っていると感じられました。私は比較的新しい札響ファンのため、札響での伝説の名演奏を知りません。加えて、スメタナについても、チェコの歴史や文化についても疎いです。それでも「地元を愛する気持ち」の尊さを肌で感じられたのは何よりの喜びでした。作曲家自身の思いと祖国愛が伝わってきたのは、ひとえに誠実で愛情あふれる演奏のおかげです。ありがとうございます!

hitaru定期名物のホワイトボードは、早坂文雄スメタナを大河を挟む形で書いた(描いた)超力作!またプログラムと一緒に配布された(kitaraでの札響名曲シリーズでも事前配布されました)、札響STAFFによる気まぐれ通信「かぷりっちょ」は、首席客演指揮者に就任する下野竜也さんの事とスメタナ「わが祖国」について手書き文字でびっしりと記述。いずれも大変読み応えありました!これも「愛」ですよね!

今回私は1階席の後方(2階席が被さる場所)にて聴きました。事前に深く考えずに取った席が最前列(!)で、4月のhitaru定期ではそのまま着席しましたが、今回はスタッフのかたにお願いして、後方の空席に席替えしてもらいました(大変お手数おかけしました。ご配慮に深謝いたします)。頭上にすぐ天井があると心理的な圧迫感があって落ち着きませんが、音響は良かったですし、たまたま私の前列が空席だったためか視界も良好で、舞台を俯瞰できてよかったです。「ベスト」ではなくとも「ベター」な席。今後また別の席にて聴いてみたいと思います。


開演15分前からの「プレトーク」。今回は、指揮の下野竜也さんお一人によるトークでした。以下、抜粋でレポートします。首席客演指揮者就任のごあいさつ(「鹿児島県人会4人目」と仰っていました)に始まり、札響で今まで指揮してきた公演についてさらっと振り返り。また、hitaruシリーズ恒例の日本人作曲家として今回取り上げる早坂文雄については、時間を使って詳しいお話しがありました。「札幌が生んだ二大巨頭(もう一人は伊福部昭)」は、伊福部さんの方が先に世に出たのだそう。早坂さんは伊福部さん宛ての手紙で、悔しいという思いと、そう思ってしまう自分がみっともないという事を書かれているとのことです。「人柄を感じさせる手紙」「早坂さんは人間らしい」と、下野さんは仰っていました。ちなみにこの頃の早坂さんは切手も買えないほどの貧しさだったとか。今回取り上げる「二つの讃歌への前奏曲」は若い頃に書かれもので、その演奏(指揮は山田耕筰!)をラジオで聴いた早坂さんは「思っていたのと違う」と言った、とのエピソード紹介がありました。またユニークなタイトルは、「早坂さんが夢みたもの(讃歌)へ、畏敬の念を込め『前奏曲』としたのでは?」と下野さんは「妄想」。なお自筆譜の写し(貸し出しもコピーも不可)が東京音大にあり、そこで教鞭を執る下野さんは、4時間ほど図書館に籠もって(!)、自筆譜を研究されたとのことです。作曲家への敬意として「弾きにくい指示も今日は行います!」。一例として、「カーエールーのーうーたーがー♪」と歌いながら「弓を下方向に振り下ろし続ける」ジェスチャーを繰り返し。弾きにくくても、この方が「浪曲の雰囲気が出る」と仰っていました。しかしハープは1台の指示のところを今回は2台にするとのこと。それは1台では弾けないから(作曲当時の早坂さんがハープをよく知らなかった可能性もあるとのこと)というのと、後半スメタナ「わが祖国」にハープを2台を使うため用意もあるから、だそうです。「どうぞ早坂さんの響きを味わって」と仰っていました。後半「わが祖国」については、「札響も全曲演奏は少ない」。また、よくある6曲のちょうど真ん中に休憩を挟むスタイルではなく、全6曲を続けて演奏。長丁場となるからでしょうか?「皆さんにお願いです。前半(早坂文雄)の後の休憩時間は、どうぞ『行ってきて(※どことは言いません、とも)』ください。お水もたくさん飲んで」。しかし6曲続けて演奏することで、「歴史小説のような大きなアーチを感じて頂けると思います」。「耳が聞こえなくなったスメタナは、たくさんの音符を書きました」。そして、「今日から(札響の)家族になったので遠慮無く」と前置きした上で、「今後とも札響をどうぞよろしくお願いします」と締めくくり。トーク終了となりました。


前半は、早坂文雄「二つの讃歌への前奏曲。札響では過去に1回(1968年8月10日、指揮:西田直道)、「札幌市創建100年記念式典」の演奏会にて取り上げられ、この時は伊福部昭の「交響譚詩」があわせて演奏されたそうです(プログラムノートより)。弦は14型でしょうか?コントラバスは1つ追加の7(hitaruの場合はたいていコントラバスが1つ増員されていると思います)。他の楽器編成は、フルート2、オーボエ1、イングリッシュホルン1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、ティンパニ。そして2台のハープは、舞台向かって左側に並んで配置されました。1曲目 個人的には「雅」な印象でした。ヴァイオリンのトレモロによる出だしの美しさ!和風で雅な感じの音色に驚きました。西洋楽器でこんな音色が生み出せるんですね!またフルートのややくぐもった音色は、和楽器の横笛を思わせる響きでした。ハープは、メロディのみならず、余韻を残さない1音1音の響きがまるで和琴のよう!すごくきれい!そこにパッと登場したイングリッシュホルンのぐっと落ち着きある音色が存在感抜群でした。またプレトークにて指揮の下野さんが仰っていた、「弓を下方向に振り下ろし続ける」シーンは、チェロの半プルトヴィオラが行っていたと思います。「浪曲の雰囲気」はよくわかりませんでしたが(ごめんなさい!)、レガートで演奏するよりも独特のリズム感ができて、「和」の雰囲気が感じられたかも。作曲家の思いを汲んだ演奏、しかと見届けました!2曲目 個人的には、どちらかというと「武」の印象を持ちました。ここではハープは沈黙。金管が華やかで勇ましく、力強く刻まれるリズムは士気を上げる感じ。ただ、チャンチャンバラバラの激しい戦いではなく、神仏に奉納する舞のように私は感じました。ティンパニと低弦がぐっと来るカッコ良さ!大好き!ソロ演奏では、ぐっと重厚感あるバスクラリネット、ほの暗いクラリネット、空気を変えたコンマスソロが印象深かったです。個人的にはまったく初めて聴いた曲。本質的な理解には遠く及ばなかったかもしれませんが、日本的な雰囲気と各楽器の珠玉の音色を自分なりに楽しむことができました。演奏後、指揮の下野さんはスコアを大きく上に掲げて、作曲家への敬意を表しました。

後半は、スメタナの連作交響詩「わが祖国」。札響での全曲演奏は過去に4回で、前回は伝説のラドミル・エリシュカさん指揮(2009年10月31日)。ちなみに「ヴルタヴァ(モルダウ)」のみ抜粋演奏は過去に253回(!)のようです。弦は前半と同じ14型。木管は基本の2管に加えピッコロ1。金管はホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1。打楽器はティンパニ、シンバル、トライアングル、大太鼓。そしてハープ2台は舞台の両翼に1台ずつ配置されました。第1曲「ヴィシェフラド(高い城)」 はじめのハープ二重奏がなんて美しいこと!ポロンポロンとつま弾かれる音は竪琴のよう。グリッサンドによる華やかで美しい響きは目が覚める鮮やかさ。木管群がゆったり歌うのが素敵!私は大河ドラマの幕開けをイメージしました。澄んだ弦のスケールの大きさ、トランペットのファンファーレの温かさ!母なる「わが祖国」への畏敬の念と愛が伝わってくる、壮麗な音楽に心洗われました。緊迫感あるところから、全員合奏の盛り上がりに。高音のメロディがなんとも華やかで、大太鼓がドンドン鳴るのに気持ちが高揚。この華やかさが暗転するところの、沈み行く弦のトレモロにゾクっとしました。クラリネットの歌が哀しい。穏やかで壮大な締めくくりに向かう直前に登場した、ハープの美しさはまた格別で、「わが祖国」は大変美しい国なのだろうなと想像しました。そのまま続けて第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」 冒頭のフルート二重奏が素敵すぎて鳥肌モノでした!哀しくも美しいメロディが、それこそ立て板に水のごとく、よどみなく流れる音楽。大きくなったり小さくなったりと変化しながら、水の流れは留まることなく続いていて、息継ぎのタイミングがわからなかったほど。ちなみにゲスト首席は札響の元フルート首席奏者の高橋聖純さんでした。クラリネットが合流すると流れはダイナミックになり、弦ピッチカートは水が跳ねているよう。大変有名なメロディをヴァイオリンが奏でると、美しく哀しい響きが胸に来ました。同時に「川の流れ」を低弦が表現していると気づき、流れが途切れずに続いている事に感激!金管打楽器の壮大さに、大河の雄大さを思いました。「村の婚礼」のダンスは、ステップを踏むリズムが楽しい!次第に音が小さくなっていったのは、婚礼が行われている場所から離れ、川の流れが別の場所へ移ったからでしょうか?フルート&クラリネットによる澄んだ川の流れにハープの輝かしさ、ヴァイオリンの天国的な美しさ!とても美しい場所へ来たようでした。低音金管群が効いた力強い盛り上がりは、大きな濁流のよう。低音メインの中でも、存在感抜群だったピッコロが印象深かったです。速い流れでリズミカルに明るく盛り上がるクライマックスは胸が熱くなりました。母なる大河は、祖国の様々な土地とそこに住む人達を見守っている!第2曲が終わると、ハープ奏者のお2人が退出されました。第3曲「シャールカ」 ジャン!と開口一番からインパクト大!戦闘を思わせる勇ましいメロディに胸が高鳴り、細かく休符が入るキレッキレのリズムに血が騒ぎました。そして他パートが沈黙する中、寂しげに歌うクラリネットと優美に歌うチェロの対話にハッとさせられました。一旦和解したのでしょうか?その後しばらくは幸せな感じになり、聴く方も少しほっとできました。しかしそこから再び戦闘に入る、少しずつ盛り上がっていく流れがすごかったです。滑らかに上昇するのではなく、地の底からマグマがぐわっと噴き出てきたような(例えが上手くなくてごめんなさい!)、ものすごいエネルギーと気迫!金管打楽器が派手に鳴り、弦が音を小刻みに震わせながら悲劇的なメロディを奏でたのには圧倒されました。この凄まじさ、すごい!第4曲「ボヘミアの森と草原から」 壮大な音楽!ティンパニ金管の響きの力強さ!弦は哀しく美しくしかし力強く、さすがの奥行きと厚みでした。中低弦のベースに乗って各木管が順に歌うところの温かさ、ヴァイオリンが歌うところの澄んだ響き、ホルンの牧歌的な歌など、森と草原の様々な表情を音楽が映し出しているよう。弦とその他のパートが交互に演奏して対話しているようだったのが面白かったです。後半の舞曲は「スラブ舞曲」に似ていると率直に感じ、独特のリズム感や少し哀しいメロディを楽しめました。木管群のターンでは、中でもフルートとホルンの幸せな響きが印象深かったです。第5曲「ターボル」 ホルンと低弦による重く暗い響きに気持ちがざわつき、ティンパニ強打から全員による強奏がガツンと来ました。その迫力に震える!全体を通じてベースにタタターター♪のリズムがあり、ほの暗かったり重厚だったり華々しかったりと色合いが変化していたと感じました。重厚なところの弦の厚みがカッコ良くてビリビリくる!華々しいところの金管、中でも力強いトロンボーンインパクト!また強奏の谷間での、ほのかな光を感じるクラリネット独奏が素敵でした。戦闘シーンを思わせるテンポの速い流れでは、低音が効いた勇ましく重厚な響きの中で、光を放つピッコロが存在感抜群!ティンパニが鼓舞する、トランペットのタタターン♪の繰り返しが印象的でした。低弦がぐっと低い音でゴリゴリ弾き進めるところが超カッコイイ!第6曲「ブラニーク」 打楽器が派手に鳴り、戦闘シーンの続きのような音楽は、重厚な弦が力強く刻むリズムが印象深かったです。そしてパッと現れたオーボエにハッとさせられました。地上の争いから遠いところにある崇高な美しさ!他の木管群と重なったり対話したりする流れはとっても温かく優しい世界。戦闘シーン再びの後に登場したホルンの穏やかな歌が心に染み入りました。そこからは音楽全体が前向きに変化。終盤の第1曲の回想(「かぷりっちょ」にあった、指揮の下野さんが「いつも感激する」と仰っていたところ)は、華やかで堂々とした演奏が清々しく、ここまでの長い道のりを思うと込み上げてくるものがありました。大団円に感無量です!

カーテンコールでは、ハープ奏者のお2人も舞台へ。指揮の下野さんは各パートに順に起立を促して(管はトップ奏者→パート全員、弦はパート毎に、最終的にオケ全員!)讃えられました。私にとって記念すべき名演奏との出会いに感謝!大河ドラマ雄大に描き出したシモーノさんと札響の皆様に大拍手です!本年度から新しく「家族」になってくださった、指揮の下野竜也さん。札響に来てくださりありがとうございます!そしてこれからも末長くよろしくお願いします!

前回のhitaru定期です。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第17回~童話と絵と音楽と」(2024/04/25)。ブルッフの協奏曲は、大巨匠のボリス・ベルキンさんの鮮烈かつ層の厚い独奏と、応えた札響との幸せな競演!尾高惇忠「音の旅」は絵本をめくるように楽しめ、「展覧会の絵」はオーケストラだからこその響きをたっぷり堪能。マエストロ広上のご縁から出会えた音楽に浸れた贅沢な夜でした!

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「伊達メセナ協会創立30周年記念事業 札幌交響楽団コンサート」(2024/07/13)。札幌からプチ遠征。私達のコンミス・会田莉凡さんのカッコ良すぎるソロとオケの包容力。カワケンさん流「苦悩から歓喜へ」の、突き抜けてパワフルかつ明快な演奏は気分爽快!会う度に素敵なサプライズが待っていて、今までよりもっと好きになる札響サウンドは、この日も私を夢中にさせてくれました!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。