今回の札響名曲シリーズは「鉄道」がテーマです。鉄道愛にあふれた作品の数々を、鉄道を愛してやまない音楽家の皆様が演奏するユニークな演奏会。私、ついていけるかな?とちょっぴり不安を抱きつつ、Kitaraでの音楽による鉄道旅行に行ってまいりました。
札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~オーケストラで出発進行!
2021年9月25日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
秋山和慶
【サクソフォン】
上野耕平
【ナビゲーター】
岩野裕一
【曲目】
ロンビ コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ
J.シュトラウスⅡ ポルカ「観光列車」
E.シュトラウス ポルカ「急行列車」
ドヴォルジャーク 交響曲第9番「新世界より」第3楽章
イベール 交響組曲「パリ」より「地下鉄」
酒井格 シーサス・クロッシング~サクソフォンとオーケストラのための(新作初演)
坂本龍一(三浦秀秋編) 映画「鉄道員(ぽっぽや)」よりテーマ
三浦秀秋編 鉄道の歌メドレー
ヴィラ=ロボス ブラジル風バッハ第2番より「カイピラの小さな汽車」
コープランド ジョン・ヘンリー〔鉄道のバラード〕
オネゲル パシフィック231
(アンコール)ドヴォルジャーク 交響曲第9番「新世界より」第2楽章
「聴き鉄」で鉄分をたっぷり補給♪楽しかったです!今回は新作をはじめ初演や演奏機会が少ない曲が多く、準備はとても大変だったことと存じます。どの曲もバッチリ仕上げてこられたのはさすがです。ただ個人的には、ハイクオリティ演奏だった「新世界より」をフルで聴きたかった……なんて、そんなことを言ってはいけませんね。ごめんなさい。今回の演奏会はそんな趣旨ではないのは承知しています。新作初演を含む鉄道にまつわる曲を一度の演奏会でこんなに取り上げるなんて、めったにないでしょうし、鉄道に詳しいかたならより深いところに刺さる演奏の数々だったに違いありません。しかしマニアではない私でも、ここは鉄道のあの音を表現しているのかも?等、なんとなく把握して自分なりに楽しめました。そして演奏の合間のトークがとっても楽しかったです。プログラムノートも執筆されたナビゲーターの岩野裕一さん(乗り鉄、とプロフィールにありました)による司会進行で、指揮の秋山和慶さん(模型鉄)とソリストの上野耕平さん(全部鉄!)にマイクを向けるスタイル。秋山さんも上野さんも、幼少期の思い出や鉄道の話になると止まらないようでした。「発車時刻に遅れますので」がトークを強制終了させる決まり文句(笑)。また後半では秋山さんは広島電鉄の制服姿で登場!なんでも一日駅長(!)をしたときに名札付きで本物と同じ物を作ってもらい、そのまま譲り受けたのだそうです。一方上野さんは、とある番組の企画で某私鉄の制服を用意されたにもかかわらず、持ち帰り不可!「(悪用するつもりはなく)家で着たいだけなのに」とちょっと不満そうでした(えええ家で制服着て電車ごっこって、一体どんなことするんでしょう??)。子供の頃に好きになった物にいつまでも夢中でいられるって、イイですね!そしてその愛を音楽で表現できちゃうって、素敵です!
指揮の秋山和慶さんが入場し、すぐに演奏開始です。1曲目はロンビ「コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ」。演奏機会が少ないこの曲、私は運良くこの月の初め(2021/9/2)に弦楽四重奏と打楽器による演奏を聴いたばかりで、今回のオケ版の演奏もとても楽しみにしていました。機関車がゆっくり発車するように静かに始まり、汽笛や鐘の音が入ってシュッシュと煙をあげながらスピードを上げていき、少しずつゆっくりになって停車するまでが演奏から感じ取れて面白かったです。弦楽四重奏ももちろん素敵でしたが、やはりオケはスケールが大きく、木管金管の個性的な音色が入るとさらに華やか。そして、客演を含む大所帯の打楽器の皆様が素晴らしいです!やはり餅は餅屋。汽笛も鐘もここぞというときに発せられてツボに入るのが気持ちよく、シュッシュと紙ヤスリをこするような楽器も細かくリズムを変化させ生き生きと列車が駆け抜けていくよう。この曲に限らず今回は多彩な打楽器が大活躍でしたね。kitaraでの鉄道旅行は、幸先の良い出発でした。
お次はシュトラウスファミリーのポルカが2曲。兄のJ.シュトラウスⅡ「観光列車」は高音が弾み、弟のE.シュトラウスの「急行列車」(なんと指揮の秋山さんは初演!)は華やかな中でも時折入る力強い低弦がアクセントになっていました。3拍子の軽快なリズムは鉄道と相性が良いのかも?ちなみにJ.シュトラウス2世は列車嫌いだったようですね。余談ついでに、彼のお友達のブラームスは船と自転車が嫌い。しかしキライなものを題材に、こんな楽しい曲が書けちゃうワルツ王は偉いと思います。
今度は正真正銘、筋金入りの鉄ちゃんの登場です。ドヴォルジャークの交響曲第9番「新世界より」第3楽章。上野さんのトークを聞いた後だと、演奏はもう完全に列車が走る様子にきこえます(笑)。トライアングルは発車ベルだと前から思っていましたが、もしかして弦は発車からずんずん車体が進んでいく様子やSLが蒸気をあげる音を表現している?木管金管による景色の移ろいも目に浮かぶようで、よくできている曲だなと今更ながら実感。何より演奏が本当に素晴らしかったです!こんなキレッキレの「新世界より」、私は初めて聴きました。定番曲とはいえ予定調和とは違っていて、要所要所をビシッとシメつつも各パートのベストを引き出しそれらが重なるとどえらい演奏になる、これぞ秋山マジック!私よく知っている曲なのに、こんなにゾクゾクさせられて、あーん悔しい(笑)!第3楽章の演奏が終わったとき、このまま第4楽章を続けて!と強く願ったほど。ああ叶うならフルで聴きたかったです。楽章の抜粋演奏はムズムズしますね……。
イベールの交響組曲「パリ」より「地下鉄」。上野さんのお話によると、イベールはサクソフォンをうまく使う作曲家で、作品にはジャズのテイストがあるのだそう。副首席奏者によるトランペットソロがカッコイイ!走行区間はほんの一駅。札幌と大通の間くらいの短い演奏時間でしたが、都会の闇も垣間見える曲で、日の光を浴びて走る列車とはまた違った良さがありました。
そして今回の目玉、この日の演奏会のために書き下ろされ新作初演となる酒井格「シーサス・クロッシング~サクソフォンとオーケストラのための」。低弦の刻むような音から入り、小太鼓のリズムにリードされながら、「ガタンゴトン」がサクソフォンとオケの様々な楽器で表現されたり、トランペットとトロンボーンがシューッと蒸気をあげるような音を出したり、といった変化の多い演奏を楽しませて頂きました。数多のしかけのうち私がはっきりわかったのはJR北海道のチャイムくらいですが、おそらくマニアにはたまらない、鉄ヲタ魂に響くメロディの数々が次々とオーケストラサウンドから繰り出されたのだと思います。レトロな蒸気機関車だけでなく、現代の私達になじみ深い電車にまつわる色々な音を表現した音楽。これからきっと定番曲になりますね!演奏後は客席にいらした作曲家の酒井格さん(時刻表鉄)にも盛大な拍手がおくられました。
後半の1曲目は、坂本龍一(三浦秀秋編)の映画「鉄道員(ぽっぽや)」よりテーマ。北海道が舞台になっている物語のテーマ曲、地元の我らが札響が壮大で美しい演奏を聴かせてくださいました。列車そのものを描いた曲が多い中、こんな選曲も素敵です。続く三浦秀秋編「鉄道の歌メドレー」は、おなじみの鉄道にまつわる歌の数々をオケの演奏で。チェレスタのかわいらしい音色で♪汽笛一声新橋を♪の「鉄道唱歌」から始まり、「汽車ポッポ」「汽車」「高原列車は行く」「電車ごっこ」「花嫁」「線路は続くよどこまでも」と、さすがに私でも知っている曲が続いて、なんだか懐かしい気持ちになれました。
ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハ第2番より「カイピラの小さな汽車」。「カイピラ」は田舎の方という意味だそう。のどかな風景の中を、一両編成ででこぼこ線路を進むような愉快な感じ。コープランド「ジョン・ヘンリー〔鉄道のバラード〕」は、伝説の労働者ジョン・ヘンリーが機械と競って鉄道のトンネル掘り。本当は過酷な現場なのでしょうが、途中で脳内鉄道旅行をしているような明るさも感じられました。私が知らないだけで、鉄道にまつわる曲って色々あるんですね……。私は演奏を楽しく聴きながらも、このジャンルの沼の底知れなさを垣間見たような気持ちになりました。
トリを飾るのはオネゲル「パシフィック231」。オネゲルも鉄道マニアで有名なのだそうです。車輪配置の呼び方を表すタイトルから既に相当マニアック。岩野さんによると演奏はとても難しい曲とのこと。また演奏前の秋山さんは、「(オネゲルが狙いすぎたのか)あまりパシフィック231の音にはきこえない」と正直な印象をお話くださいました。鉄道マニアならではのこだわりをお持ちなのかもしれません。編成に低音木管が加わり、低弦やチューバも低音をきかせてパワフルな動力を思わせる演奏でした。スピードをあげても車体の重量感が感じられる、不思議な感覚。このあたりに「難曲」の秘密があるのかも。
アンコールはドヴォルジャークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章のショートバージョンでした。あの「家路」のソロは上野耕平さんによるサクソフォンの演奏(「コールアングレ(イングリッシュホルン)のかたにお休みいただいて」と上野さんからお断りがありました)。サクソフォンの都会的な音色が新鮮!よく知る風景に新風が吹き込んだようでとっても素敵でした。ドヴォルジャークに会ってみたいとおっしゃっていた上野さん。この演奏をドヴォルジャーク本人が聴いたらきっと喜んでくれますよ!そしてサクソフォンが静かにフェードアウトしてから、オケは弦楽八重奏、最後は弦楽三重奏へ。今回はにぎやかな曲が多かったので、ラストの優しい弦の音色がいっそう心に染み入りました。kitaraでの鉄道旅行、美しく終着駅に到着。とっても楽しかったです!ユニークな企画に楽しいトーク、素晴らしい演奏をありがとうございました!
【名曲コンサート】本日(9/25)開催しました秋山和慶(指揮)、上野耕平(サクソフォン)、岩野裕一(ナビゲーター)『名曲コンサート~オーケストラで出発進行!』にご来場いただきありがとうございました。
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2021年9月25日
酒井格作曲「シーサス・クロッシング」を初演しました。#札響
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私がロンビ「コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ」の室内楽版を聴いたのは、2021/09/02「ワールド・チャリティーコンサート ヴァイオリンの名手 大谷康子と札響3人の首席奏者たち&ピアノ佐藤卓史」です。我が町にkitaraと札響があってよかったと改めて思えた、幸せな演奏会でした!ツアーで遠方よりいらした方々は、次は札響オールスタープレーヤーたちによるフルオーケストラの演奏を聴きにkitaraへ戻ってきてくださると、私は信じています!
私が秋山和慶さんと出会ったのは、ほぼ1年前、NHK主催の2020/10/06「オーケストラでつなぐ希望のシンフォニー」札幌公演です。今まで経験したことがないスペシャルな体験でした!もう秋山さん大好きになってしまった私は、この後3度も代役として札響を指揮してくださった演奏会すべてを聴いています。秋山さん、これからも時々は札響にいらしてくださいね。どんな演目でも必ず聴きにうかがいます!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。