突然ですが、私はヴァイオリン奏者の竹澤恭子さんの大大大ファンです。テレビ番組での演奏を聴いて一目ぼれし、2019年3月にふきのとうホールで催されたリサイタル(※この記事の末尾に私が書いたレビュー記事のリンクがあります)で完全に打ちのめされて、少しずつCDを買い集めながら今に至ります。その竹澤さんが再び来札され、しかも大好きな札幌交響楽団と共演!となれば見逃せません。演目はなんでもいいですし(!)、2回あるなら2回とも聴きたいです。ということで、私は札響の第620回定期演奏会に早い段階で2回行くと決め、留守番を頼む家族に仕事の調整までしてもらって当日を楽しみにしていました。だって私の誕生日だし…って理由は何だっていいんです(笑)。
ちなみに今回、私は一回券をバラバラに買うよりオトクになる「マイ・フェイバリット3」を購入しました。好きな公演を3つ(※同じ公演の日付違いも選択可)選べますが、座席は選べません。しかし原則A席ということで間違いはないと考え、自分では選ばない席に座る楽しみもあると判断し決めました。なお今回座った席については後述します。
そして公演の日が近づいたある日、らいぶらり庵さん( @ssolibrary )がこんなツイートを。
今週は2年ぶりの「ガン付き生」週間ですがいい曲ですね😍 https://t.co/nDqBnbLHKX
— らいぶらり庵 (@ssolibrary) 2019年6月19日
サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」の生演奏は「ガン付き生」と言うんだそうですよ皆様!しかも後日、本物のパイプオルガンではないオルガンでの演奏は「ガンもどき」ということまで発信されていて、ツイッター上では多くの人の印象に残ったと思われます。私自身、竹澤恭子さんのことで頭がいっぱいだったので、メインプログラムであるサン=サーンス交響曲第3番も意識するようになりありがたかったです。それにしても、「ガン付き生」は立派なパイプオルガンを備えたKitaraだからこそできる演目ですよね。最高のホールがあって、世界のオケにも引けを取らない札響がいて、しかも世界的な指揮者がタクトを振る…やはり札幌は恵まれています。そしてツイッターがきっかけとなって定期演奏会に行くのを決めた皆様には、「ガン付き生」を堪能するのはもちろんのこと、ぜひとも竹澤恭子さんの演奏を目の当たりにしてそのすごさを知って頂きたいなとまで私は勝手に思いました。
私は気付いたら4月5月6月と2019年度の始まりからずっと続けて札響定期に来ています。ところが定期会員ではないんですよね…。いっその事定期会員になってマイシートを持ったほうがよかったかもしれないなと少し思いました。私自身もう少し経験を積み、子供があと少し大きくなって留守番の心配が無くなったら前向きに考えます。
6月、札幌は一年で一番良い初夏の季節に入っています。しかし今回の定期公演では金曜も土曜もあいにくの雨模様でした。隣接する公園の池にいる子ガモは成長して、親鳥とさほど変わらない大きさに育っていました。
それでは演奏会の感想に進みます。いつものように素人コメントであることをご了承下さい。またひどい間違いは指摘くださいますようお願いします。
札幌交響楽団 第620回定期演奏会(金曜夜および土曜昼公演)
2019年6月21日(金) 19:00~ 2019年6月22日(土) 14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
ユベール・スダーン
【ヴァイオリン】
竹澤恭子
【管弦楽】
札幌交響楽団
【曲目】
- (ロビーコンサート)クーツィール 「子供のサーカス」より
- チャイコフスキー 組曲第4番「モーツァルティアーナ」
- プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第2番
- (ソリストアンコール)
21日:J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番BWV1005より「ラルゴ」
22日:J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より「ガヴォットとロンド」 - サン=サーンス 交響曲第3番「オルガン付き」
まずはツイッターでの速報ツイートを貼り付けておきます。今回は投稿数が多いため、各日先頭のもの一つずつにします。すべてつなげていますので、他も読みたいかたはお手数ですがこれらのツイートから辿ってお読みください。
日付変わりましたが、今夜は札響定期へ。竹澤恭子さんカッコ良すぎです!弾き始めた瞬間に会場の空気が一変。鬼気迫る演奏に終始圧倒されっぱなし。無理好きだいて…。噂のガン付き生もがんもどきでは味わえない荘厳さと迫力。生って最高!チャイコフスキーのモーツァルト愛あふれる組曲も素敵でした💕
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年6月21日
予定通り金曜夜に続き土曜昼も同演目の札響定期に。ソリストアンコールは別の曲でした。協奏曲はヴィオラ・チェロ・コントラバスが増強され、大好きな低弦が活躍するだけでもドキドキなのに、その大勢に竹澤恭子さんがお一人で対峙するのに痺れます。やっぱりお姉様カッコ良すぎです!無理好きだい(ry pic.twitter.com/5syT7yKmh1
— にゃおん (@nyaon_c) 2019年6月22日
ツイッターでも書きましたが、今回も行ってよかったです!しかも私は2回とも聴いた果報者です。会場をざっと見渡すと、金曜は7割強、土曜は8割強の席が埋まっていたでしょうか?空席がもったいないって、いつも思います。そして私はツイッター上でもブログの長文でも、何かためになることは一つも書けませんが、今回も自分の感激を少しでも覚えておきたいためにレビューを書きます。読んでくださる皆様には、私のような音楽に明るくない人でも思いっきり楽しんでいますよという雰囲気だけでも感じて頂けましたらうれしいです。
本番前のロビーコンサート。私は金曜は到着が遅くてほとんど聴けなかったため、土曜に聴いた感想を簡単に書きます。時間になると、いつもの場所にピカピカの金管楽器を携えて奏者の皆様が登場し、拍手で迎えられました。曲目はクーツィール「『子供のサーカス』より」。短い曲を6曲続けての演奏でした。金管五重奏曲で、トランペット2、ホルン1、トロンボーン1、テューバ1の編成。楽器が大きいチューバ奏者のかたはイスに腰掛けて、他の皆様は立っての演奏です。楽しい曲ばかりで、聴いているこちらはとてもリラックスできました。金管楽器はけたたましいだの怖いだのってこっそり思っていた過去の私をグーパンしたいです。金管楽器の音は大きく響きますが音色は心地よく、キタラの広いロビー全体に素敵な音楽が鳴り響きました。これもロビーコンサートの良さだとしみじみ。メロディはトランペットがメインで受け持ち、ホルンとトロンボーンはサブの旋律を担当したりハモったりして、テューバが重低音で支える感じ。曲の合間に音を出さずに空気を送ることがあったり(唾液を追い出している?)、カップ(ミュート?)を装着すると音が変化するのがわかったり、口元は空気を送り込んでいるだけでなく細かく震えて音を出しているのだと知ったり、近くで拝見できたからこその発見が色々とありました。また、土曜はおそらく吹奏楽部であろう制服姿の中学生達が大勢いました。彼らが遠くの方から一生懸命背伸びして演奏を見ていたのが印象に残っています。3校ほど来ていて人数が多く、一般のお客さんの邪魔にならないよう引率の先生方に後ろの方に待機させられていたのだとはなんとなくわかります。でも、身勝手な言い分ではありますができれば前の方で見せてあげたかったです。ともあれプロの演奏を目の前で聴くのは良い経験となったはず。この日の中学生達の中に、未来の札響の奏者がいるかもしれませんね。
今回のテーマは「憧憬」。もちろん個人的にはあこがれの竹澤恭子さんがソリストだから!というのが大きいのですが、それは選曲とはまったく別の話です…。曲目を見ると、チャイコフスキーがモーツァルトを尊敬していたのは有名なので1曲目はわかります。他は?と考えたとき、サン=サーンスの場合は、あこがれというよりは一種のコンプレックスが発端かも?とちらっと思いました。サン=サーンスが交響曲第3番を発表した時期は、交響曲のジャンルはドイツ・オーストリア圏の作曲家が目立っていた頃です。フランスにはベルリオーズ先輩がいたものの、交響曲での他のビッグネームは私は思い浮かびません。そんな時代に、フランスのサン=サーンスが渾身の力を込めて世に送り出したのが交響曲第3番なのかなと。しかもベルリオーズとは違い絶対音楽で勝負。自身がオルガンの名手であることから、オルガンを効果的に使う切り札も使って、自身の最後となる交響曲でやれることはすべてやり尽くそうとしたのかも。もちろん私の勝手な想像でしかないため違っていたら申し訳ありません。そして、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番の「憧憬」が一体何なのかは、今の私にはわかりません。演奏旅行の合間に書き進められたようなので、例えば第1楽章はフランス、第3楽章はスペインの雰囲気が感じられ、異国へのあこがれ?と少し思いましたが、そんな単純なものではない気がします。また曲の発表当時はプロコフィエフがフランスのパリからソ連へ完全帰国した頃にあたり、望郷の思いがすなわち「あこがれ」?いえそう簡単に言い切れるものでもなさそうです。若い頃に亡命するきっかけとなったのはロシア革命。帰国時には祖国はソ連と名を変えており、亡命以前の常識は通用しない程に社会情勢その他が変化していたでしょうし、この頃の彼の心理を想像するのは今の私には難しいです。
指揮のユベール・スダーンさん、お初にお目にかかります。プログラムによると、札響とは付き合いが長く1975年以来共演を重ねているそう。指揮棒は持たず、金曜のサン=サーンスで低めのお立ち台を使った以外は床に直接立って指揮。身振りもさることながらここぞというときの呼吸が印象的でした。そして今回のコンマスは田島さんでした。
さて本番。1曲目はチャイコフスキー「組曲第4番『モーツァルティアーナ』」。モーツァルトを愛してやまないチャイコフスキーが、モーツァルトの小曲4つを管弦楽にアレンジしたものだそうです。私はモーツァルトの原曲を知らずにチャイコフスキーのアレンジのみを生演奏で聴きました。メロディはモーツァルト的でありながら、各楽器の活用方法はチャイコフスキーらしく、ゆったりとした気持ちで聴けてとても楽しめました。主に主旋律を担当するのはヴァイオリンやフルートやクラリネットやオーボエといった高音の楽器たちで、時々ハープや鉄琴も入ってキラキラ感を添えます。そしてホルンとトランペットの温かみのある音色や、やはりファゴットや低弦の下支えが良い仕事をしてくれています。私は金曜は主にメロディの高音を追いかけ、土曜は低音を追いかける聴き方をしてみました。第3曲は低音と高音が対話したり協奏したりの変化が楽しいです。終曲のヴァイオリンソロはコンマス田島さん。さすがの安定感、美しいです…。何度でも言いますが、こんな素晴らしい演奏をするかたが札響のコンサートマスターなんですよ皆様!この美しい組曲、プログラムによると札響では1987年に北海道厚生年金会館で一度演奏したきりだったようです。様々な楽器がそれぞれの持ち味を生かして活躍し、モーツァルトとチャイコフスキーの良いところが一度に味わえる曲なのにもったいない!今後は演奏機会が増えるといいなと思います。
1曲目が終わると、舞台転換のため、第1ヴァイオリンの皆様と、一部の管楽器やティンパニ等の2曲目では出番がないパートのかた達が退場。第1ヴァイオリンのイスが全体的に少し下げられ、奏者が増えるパートはイスが追加されました。舞台が整うと、第1ヴァイオリンの皆様と増えたパートの奏者の皆様が入場。ヴィオラにチェロそしてコントラバスの数がぐっと増えて、低弦好きの私はテンション急上昇。そして拍手で迎えられたソリスト竹澤恭子さん。待ってました!衣装は3月のリサイタルの時と同じ、黒を基調にしたタイトなドレスでした。もしかすると、日本に常に置いてある勝負服なのかもしれません。肩と腕を潔く出したそのお姿、カッコイイです!金曜はかなり近い場所から拝見することができたので、私は演奏の手元だけでなく腕の筋肉の動きまで凝視しました。なお竹澤さんは暗譜されていたようで、ソリストの譜面台はありませんでした。
2曲目はプロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第2番」。この曲はヴァイオリン独奏から始まります。その最初の一音で一気に引き込まれました。そうこの感じ!3月のリサイタルでもそうだったのですが、竹澤恭子さんは一瞬でその場の空気を変え聴いている人すべての心を掴んでしまうんですよね。ファンのひいき目を大きく割り引いても、竹澤さんの演奏が特別なのは素人目にもわかります。もう一生ついて行きますお姉様!第1楽章は妖艶な雰囲気から始まり、フランスっぽいメロディも時折顔を出しますが、すぐまた妖しげになって駆け抜けていきます。フランスって一見華やかなようでいてその実は闇が深いのかもしれないなと、演奏を拝聴して何となくそう感じました。以前、竹澤さんのリサイタルでフランクのヴァイオリンソナタを聴いたときも意外にシリアスだと感じたので、パリを拠点に活動されている竹澤さんならではの思いがそこにあるのかもしれません。第2楽章は比較的優雅です。ヴァイオリン独奏のメロディは美しく、竹澤さんはさすがの貫禄で美しいながらも少し憂いを感じさせる演奏を聴かせてくださいました。木管も金管もゆったりとした温かなメロディで受け入れてくれて、弦はハモったりピチカートしたりで静かに寄り添ってくれます。楽章の終わり頃にチェロの皆様が奏でる旋律が個人的にツボです。この楽章はプロコフィエフが完全帰国する前、ロシア南西部の河港都市に滞在していた頃に書き進められたそうなので、ウキウキ気分ではないもののどこか懐かしい気持ちが表れているのかもと思いました。第3楽章は、冒頭からスペインの舞曲風の華やかで艶めかしいヴァイオリン独奏がカッコイイです!一方でオケは、もちろん見事に調和しているのですが、なんだか不穏な雰囲気。普段は下支えに徹するコントラバスまで加わり、低弦の皆様が大人数で束になって主張するところはドキドキしましたし、それに対峙するヴァイオリン独奏が毅然とした態度かつ余裕の表情で返すのには痺れました。またこの終楽章においては、1曲目のチャイコフスキーではごく控え目だった打楽器が大活躍します。大太鼓・小太鼓・シンバル・トライアングル・カスタネットを男性奏者と女性奏者の2名で分担して大忙しの様子でした。竹澤さんの情熱的な独奏に合いの手を入れるカスタネットは、男性奏者のかたが演奏。これ、少しでもテンポや音がズレたら全てが台無しになると思うのですが、ぴたっと寄り添った響きで感激しました。練習で合わせた時間はごく限られていたと思われますのに、本当にありがとうございます!カスタネットのかたは、確かアルプス交響曲のドキュメンタリーで拝見した、雷や風の音を表現する打楽器を担当されたかたですよね?扱う楽器は多岐にわたり、流れを生かすも殺すも打楽器の一打にかかっているシーンは多いと思われます。頭が下がります。話を戻します。今回の曲はソリストがゆっくりできるところがほぼ無いにもかかわらず、竹澤さんは終楽章の高速のクライマックスに至る最後の最後まで超人的な集中力で見事に弾いてくださいました。いえうまいだけの人なら世の中にいくらでもいると思います。高度な技術は当然のこととして、竹澤さんは聴き手の想像や期待を遙かに超える衝撃を聴き手に与えてくださるんですよね。私はこの打ちのめされる快感がたまらなく好きで、もう何度でも演奏を聴きたいと思うのです。竹澤さんがここに至るまでには、きっと尋常ではないご苦労があったことと拝察します。特にお若いうちはおそらく理不尽な目にもあってきたのでは?「演奏家は実力がすべて」という聞こえの良い建前がある一方で、いくら技術面が優れていてコンクールの実績があったとしても、日本人の若い女性奏者がヨーロッパで最初から歓迎されたとは考えにくいです。そんなきれい事だけでは済まない厳しい業界においてまさに「実力」で勝負し続け、そして「世界のKYOKO TAKEZAWA」の名声が不動のものになった今でもさらに高みを目指し続ける竹澤さん。すごいでは言葉足らずですが、すごすぎます!もう私がここで言葉を尽くしたところで伝わっている気がしません…。まだ竹澤恭子さんの生演奏を聴いたことがないかたは、ぜひともコンサートに足を運びその素晴らしさをご自分の五感で感じてください。そして打ちのめされて震える快感を知って頂きたいです。
ちなみに今回の協奏曲に関しては、私は竹澤さんが海外オケと共演した1990年録音のCDを持っています。もちろんそちらも素晴らしいですが、今回の札響との共演はお若い頃の録音よりもさらに良いと感じました。今回の竹澤さんの演奏は年齢と経験を重ねたからこその深みがあり、そして札響との相性も抜群に良かったです。もし今回の録音があるのでしたら、ぜひCD化して頂きたくお願いします!欲を言えばDVDが欲しいですが、撮影カメラは見当たらなかったので…。
ソリストアンコールはJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン曲で、金曜と土曜は別の曲でした。拍手喝采の会場は、竹澤さんがヴァイオリンを構えると一瞬で静まりかえり、一音も聞き漏らすまいという体制に。この大きなホールにいるお客さん達が揃って竹澤さんに魅了されていると思うと、私はまるで自分のことのようにうれしくなりました(※図々しい)。竹澤さんは先ほどまでの熱演の疲れは感じさせず、ヴァイオリン一丁のみで大きなホール全体に素晴らしい音を響かせてくださいました。大拍手です。竹澤恭子さんのような素晴らしい演奏家と同時代に生きていて、しかもその演奏を目の前で聴けるなんて、こんな幸福はそうそうないと私は強く思います。遠路はるばるお越しくださり最高の演奏をしてくださった竹澤恭子さんはもちろんのこと、今回この企画を立案・進行してくださった皆様そしてソリストをがっちり受け止めた指揮のユベール・スダーンさんと札響の奏者の皆様に、心からお礼申し上げます。ありがとうございます。
休憩をはさみ後半はサン=サーンス「交響曲第3番『オルガン付き』」。編成が大きく、オルガン付きどころか連弾のピアノまで付いています。やっと出番が来たトロンボーンとチューバをはじめ、イングリッシュホルンにバスクラリネットにコントラファゴットと、低音の管楽器も揃い踏みです。Kitara専属オルガニストのシモン・ボレノさんもオルガンの前に着席して、全員揃ったところで指揮のユベール・スダーンさんが登場。この大人数なのに、第1楽章第1部の最初はごくごく小さな音から入ります。小さな音でも美しく聞こえるのは、ホールの音響が良いだけでなくやはり演奏のレベルが高いからですよね。やがて木管も金管も弦も主張し始めティンパニも入ってきて、全体を通して何度も出てくる印象的なメロディを複数の楽器が奏で始めると、聴いているこちらはゾクゾクして音が重なる管弦楽の良さが最初から味わえました。まだオルガンとピアノは登場しないものの、この後どのように入ってくるのかが楽しみに。第1楽章第2部の冒頭からオルガン登場です。オルガンに合わせて弦の皆様が奏でる美しい旋律に、ゆったりとした気持ちになれます。低弦のピチカートも良い仕事していますし、ちょっとだけコントラバスが主役になるところが個人的に好きです。木管とホルンの音色も温かく、トロンボーンが入ると教会音楽のような雰囲気に。第2楽章第1部は印象ががらりと変わって、ゲーム音楽であれば戦闘モード(と、家でCDを聴いた息子が言ってました)な雰囲気で始まります。特にフランスの曲でよく言われる「循環形式」がなんたるかは私はわかっていませんが、第1楽章第1部で聴いたメロディが別の形で戻ってきたなと何となく感じ取れました。戦闘モードが終わると、木管の軽やかな演奏に続いて低音から高音に駆け上るピアノがかわいらしく登場。束の間の楽しい散策モードを経て、弦の強奏が中心の戦闘モード再び。しかしそれを過ぎると低めの音で金管が一瞬主役になるところがあり、金管楽器の魅力に気付かされました。オーボエソロと続く他の木管の美メロにうっとりしていると、途切れなく第2楽章第2部へ。冒頭いきなりオルガンの大音量が鳴り響き、たとえ予備知識があっても実際に生演奏を聴くと驚かされます。客席でもビクッとしていたかたが数名。荘厳な響きとはいえ、心臓に悪い…。そのオルガンの合間に入ってくる弦と木管が気分を盛り上げてくれます。キラキラした高音のピアノも入って、気分は最高潮に。時々オーボエ・フルート・クラリネットがソロをリレーする穏やかなところを挟んでメリハリをつけながら、オルガンを中心に全員参加の合奏で盛り上がります。私は会場で聴いていてただただ圧倒されました。荘厳かつ壮大に曲は締めくくり。会場は拍手とブラボーで、指揮のユベール・スダーンさんは何度もカーテンコールに戻ってきてくださいました。どの楽器もそうではあるのですが、特にパイプオルガンは録音と生演奏ではまったくの別物だと私は思います。家でCDを聴いたときとは比べものにならないくらい、私は今回の生演奏には感激しました。発表当時、この曲が大絶賛されたのはうなずけます。この成功を賞賛して、サン=サーンスのことを「フランスのベートーヴェン」と言った人がいたそうですね。しかし私はむしろベートーヴェンとは全く違う、サン=サーンスが彼にしか作れない曲を生み出したことを讃えたいです。サン=サーンス「交響曲第3番『オルガン付き』」は、きっと後に続く作曲家の「あこがれ」になったはず。
今回の演目は、本来もっと短めの曲が来るはずの1曲目も長く、また2曲目の協奏曲はソリストの気迫を受け止めるために相当なパワーが必要だったと思われます。そんな前半だけでも合わせて約1時間あり、後半も約40分と長丁場。中でも出番が続いた上に担当パートの休符も少ない奏者のかたは、ずっと演奏しっぱなしで大変だったことと存じます。にもかかわらず、ごく小さな音から大音量の全員参加の合奏まで、最初から最後まで美しくかつパワフルな演奏でした。指揮のユベール・スダーンさんそして札響の皆様、本当にありがとうございました!
今回はめずらしくアンケートが配布されました。終演後、私はしばらく座席に残ってアンケートを記入。ふとステージを見ると、今回もコントラバス奏者の皆様がご自分のコントラバスを布で磨いておられました。客演の女性奏者のかたも同じくです。演奏でお疲れのところ、頭が下がります。縁の下の力持ちのコントラバス、特に今回は重低音でメロディを奏でる場面もあり大活躍でしたね。大変お疲れさまでした!
終演後にソリスト竹澤恭子さんのサイン会があることを密かに期待していたのですが、ありませんでした(涙)。私は協奏曲のCDを2枚(金曜と土曜の両日分)持参して、準備万端だったのですが…。人見知りの私でも、サインを頂くという「合法的にあこがれの演奏家に近づけるチャンス」があれば勇気を出して列に並ぶんですよ。しかし、今回のお客さんの数は3月のリサイタルの時と比べてざっと10倍近くいるわけですから、人が殺到して何かあっては大変という事情があったのかもしれません。それに聴き手としては、目の前で最高の演奏を聴かせて頂けたことが何よりの記念です。竹澤恭子さん、きっとまた札幌にいらしてくださいね。そして再び私達を容赦なく打ちのめしてください!お願いします!
ちなみに今回の席は、金曜がLAブロックの真ん中あたり(※5月の定期と近い席でした)、土曜がRBブロック後方でした。LAブロックはステージの一部が見切れてしまうのは残念なのですが、指揮者もソリストもそして奏者の皆様も至近距離で拝見できるので、私は結構気に入っています。そしてRBブロック、とっても良いですね!中央のCBブロックのすぐ横だったおかげかもしれませんが、耳と肌で感じる音のバランスが良いと感じましたし、ステージも俯瞰できます。ただ、やはりステージは少し遠く、演奏家の手元や表情まではよく見えません。私は今回、買ったばかりの双眼鏡を持参して、時々はグラス越しにステージを見ました。それでも視界がピンポイントになるし続けて使うと酔うしで、そんなに頻繁には使いませんでした。RBブロックの前方なら視界面でもよさそうなので、一回券を購入する際は選択肢に入れようと思います。RBブロックの前方はS席になりますが、一回券であればA席と500円しか差は無いですし。
また今回特筆すべきは、ステージのホルンの場所に奏者がいない席が一つ設けられていたこと。私は金曜夜のツイッターでそのことを知り(※金曜の席では見切れてしまって気付けませんでした)、土曜にステージを見ると確かにそうでした。プログラムにはホルン副首席奏者の橋本さんの訃報があり、今回はご逝去直後の定期演奏会。橋本さんの席が用意されていたのですね。お隣の奏者のかたがホルンを2つ持って入場され、橋本さんの席に1つ置きその前の楽譜を開く…私はそれを拝見してうるっとしました。また層が厚い札響なら当たり前とはいえ、ホルンパートが完璧な演奏をしたことも胸にきました。どんな組織であれ、たとえ重要な人が欠けても残った人達で回していくのだと思います。でもだからこそ、大切な人が戻ってこれる席が用意されていたことは、その存在のかけがえのなさを尊ぶこの上なく真心のこもった計らいだと感じました。そしてその席が空席であることの痛みを同じ会場にいる人達皆で受け止めたことを、私はずっと忘れません。私は新参者のため、残念ながら橋本さんの演奏をコンサートで直接聴く機会はありませんでした。しかし最近購入したエリシュカさん指揮のブラームス交響曲全集では、ホルンを愛するブラームスの交響曲すべてにおいてホルンがとても印象的な演奏をしています。おそらく橋本さんはその演奏の要になっておられたのだと思います。そして闘病生活で橋本さんがお休みしていた札響で、私が生演奏を聴いたブラームスの1番2番4番いずれにおいてもホルンは素敵でした。他のホルン奏者の皆様が橋本さんの精神を確かに受け継いでくださっています。1978年の入団から長く札響を牽引してくださった橋本さん、ありがとうございました。どうぞ安らかに。
なお今回の公演の専門的なレビューは、次号の「さっぽろ劇場ジャーナル」誌面に掲載されると思われます。さらに今回は特別に、竹澤恭子さんの協奏曲のレビューが早くもweb公開されています。ぜひお読みください。以下にリンクを置きます。ちなみに私は自分のレビューを書きあげる前でしたので、この文章を書いている時点では未読です。弊ブログのこの記事を公開後に拝読します。
また、2019年3月にふきのとうホールで催された竹澤恭子さんのリサイタルにつきましては、「さっぽろ劇場ジャーナル」第3号の誌面に掲載のレビューがとても読み応えがあり分析も興味深いです。もしお手元に本誌がない場合はぜひ入手してお読みください。そして私が「さっぽろ劇場ジャーナル」第3号を読んだ感想は以下のリンクにありますので、そちらも参考までにどうぞ。リンク先の記事の冒頭で「さっぽろ劇場ジャーナル」の入手方法について紹介しています。
おまけ。竹澤恭子さんのリサイタルのレビューは弊ブログにもあります。以下にリンクを置きますので、よろしければお読みください。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽(https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c