自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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藤村実穂子 メゾソプラノ・リサイタル(2023/04) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2023/02/230422.pdf

↑今回の演奏会のチラシです(pdfファイルです)。

2023年4月に、世界的なメゾソプラノ藤村実穂子さんが朋友であるピアニストのヴォルフラム・リーガーさんと一緒に全国4カ所を周ったリサイタル。札幌ではふきのとうホールのホール主催公演として開催されました。なおチケットは全席完売したとのことです。


藤村実穂子 メゾソプラノ・リサイタル
2023年04月22日(土)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
ヴォルフラム・リーガー(ピアノ)

【曲目】
モーツァルト
 静けさは微笑み K.152
 喜びの鼓動 K.579
 すみれ K.476
 ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼く時 K.520
 夕べの想い K.523

マーラーさすらう若人の歌
 1.恋人の婚礼の時
 2.朝の野を行けば
 3.胸の中には燃える剣が
 4.恋人の二つの青い眼

ツェムリンスキー:6つの歌 Op.13
 1.三人姉妹
 2.目隠しされた乙女たち
 3.乙女の歌
 4.彼女の恋人が去った時
 5.いつか彼が帰ってきたら
 6.城に歩み寄る女

細川俊夫:2つの子守歌(日本民謡集より)
 ※以下はプログラム掲載順
 1.江戸の子守歌
 2.五木の子守歌

(アンコール)
ツェムリンスキー
 子守唄
 春の日
 夜のささやき


ピアノはスタインウェイでした。


藤村実穂子さんのお声の力!存在感抜群のお声の説得力に度肝を抜かれ、豊かな表現による歌曲の深い世界にどっぷり浸れた、唯一無二の体験でした。これを愛するふきのとうホールで聴けた幸せ!藤村さんの演奏は、発声した瞬間から単語の末尾の子音に至るまで細部にわたり神経を張り巡らしていて、一音一音すべてに驚くほど説得力がありました。その上で、言外の意味まで汲んだ表現の細やかさと凄みがあり、私達の想像をはるかに超えた世界を見せてくださいました。命が吹き込まれた歌曲たちは時にオペラ的であったり内面をぐっと掘り下げたものだったりと、すべてが唯一無二の世界。オーバーアクションではないものの身振りや目線にまで力があったのは、すっかりその役になりきっているからこそ!また長く共演を続けているヴォルフラム・リーガーさんのピアノは、藤村さんの演奏との掛け合いのタイミングが絶妙で、安心して聴くことができました。お声とピアノのみでこんなにも私達を惹きつける演奏、本当に素晴らしいです!私は今回、予習なしのまっさらな状態で聴きましたが、たとえ言葉の意味がわからず作曲家のことを知らなくても、演奏を通じて作品が持つ本来の意味を体感できました。音楽をただ感受性で受け止め心揺さぶられる喜び!原点回帰できたこの体験は、つい余計な事を考えがちだった最近の私への戒めにもなりました。

どの演目も大変素晴らしいものでしたが、中でも私が特に印象深かったのはツェムリンスキーです。喜怒哀楽のシンプルな言葉では片付けられない、人の内面の複雑な感情を垣間見たようで、私がきちんと受け止められたかどうかは別として、大きな衝撃を受けました。ちなみにツェムリンスキーについて、私が辛うじて知っていたのは名前「だけ」。帰宅後に少し調べたところ、マーラーの妻となった女性と師弟関係があって、その女性からルッキズムの面でマイナス評価をされていたとか、音楽の仕事においても世間からマーラーほどの評価はされなかったとか……ざっとネットから得た情報だけで分かった気になってはいけないのですが、これなら複雑な思いを抱えてしまうかも?と率直に感じました。今回のツェムリンスキーの演奏は、前半のマーラーのドラマチックさと比べると淡々としていたと私は思います。大袈裟に出来ないからこそかえって難しいと思われますが、演奏は表面をさらっと流すものではなく、複雑で深い内面を感じさせるものでした。ちなみに私は、つい作曲家の人格や人生を作品と混同したり、妄想で過度の深読みをしたりしがち(日々反省しています)です。しかし今回は何も知らないまっさらな状態で聴いた上で、素直に感じることができました。藤村さんとリーガーさんの真摯な演奏のおかげです。ありがとうございます!


出演者のお二人が舞台へ。藤村さんは鮮やかな紫色のドレス姿。なお藤村さんは全曲暗譜でした。はじめはモーツァルトの歌曲から5つ。歌詞は1曲目と2曲目がイタリア語で、他はドイツ語のようです。「静けさは微笑み K.152」は、'r'を重ねた第一声がインパクト大で、最初から気持ちを持っていかれました!穏やかなピアノに乗って喜びを歌うメゾ・ソプラノは、高音域でコロコロ歌うのが幸せな感じ。ただ、大はしゃぎしているのではなく大人の落ち着きのある幸せのように感じました。「喜びの鼓動 K.579」では、明るく楽しい流れの中で、ほんの一瞬だけ陰りがあったところがどこか不安そうで印象に残っています。「すみれ K.476」は、かわいらしいピアノに乗ってスキップするようなところと切なく一人語りするようなところの対比が良く、ふと沈黙したところが意味深で印象的でした。「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼く時 K.520」は、モーツァルトらしくないと個人的には感じた、激しい感情を露わにする曲で、クレッシェンドしながら激しさのボルテージが上がっていくところにゾクゾク。1つ前の K.476 とこの K.520 はとても迫力のある演奏で、個人的にはオペラのようにも感じました。「夕べの想い K.523」は、どこか哀しげで、しっとりと美しい響きが素敵!儚く消えてしまいそうな雰囲気の中、「アーアアア♪」の高音を上下するところや「ああ!」と短く感嘆したところに芯の強さを感じました。言い切ったラストとピアノの後奏が清々しい!一見、素朴な歌曲たちが、説得力あるお声の力によって壮大な物語の世界に。私は藤村さんの演奏にすっかり魅了されました。

マーラーさすらう若人の歌。 1.恋人の婚礼の時 は、ぐっと暗い第一声にぞくっとして、運命の足音のようなピアノに心がざわつました。語尾を強く言い切るところに男性的な力強さを感じ、また小鳥の鳴き声のようなツクーツクー♪がなんとも哀しい響き。 2.朝の野を行けば は、ピアノもお声も跳ねるような演奏で、一見楽しげな雰囲気。しかし胸中は複雑なのに、頑張って自分を鼓舞しているようにも感じられました。「ハア!」と感情が上り詰めたところの気迫がすごい! 3.胸の中には燃える剣が では一転して激しくなり、ぶ厚いピアノに魂の叫びをあげる低い声の迫力!「おお!」と何度も繰り返される悲鳴では、手で顔や頭を抑える動作もあり、迫真の演技からも痛みが伝わってきました。 4.恋人の二つの青い眼 は、重苦しい空気の中をトボトボ歩いているような演奏が、終盤は明るい光が見えてやわらかな響きに。しかしラストは命の火が消えるように、ピアノと一緒に次第に沈んでいくお声。なんと素晴らしいこと!音量は下がっていくのに鮮烈な印象のラストでした。連作歌曲ならではの、主人公の気持ちの変遷が描かれた世界。藤村さんとリーガーさんのドラマチックな演奏によって、血が通った主人公がそこにいるように感じられた、圧巻の演奏でした!

後半、はじめはツェムリンスキー「6つの歌 Op.13」。 1.三人姉妹 は、第一声からものすごい気迫!中盤の盛り上がりの激しさはもちろんのこと、それ以外のところでもずっと闇を感じる響きだったのが忘れられません。 2.目隠しされた乙女たち は、澄んだお声が暗闇を彷徨っているような凄み!音が少ないピアノがより不気味さを際立たせていました。 3.乙女の歌 は、タイトルからは想像できない暗い曲で、お声が(演出として)やや震えるところに現世とは違う雰囲気を感じました。 4.彼女の恋人が去った時 は、沈みゆくような重たいピアノの音に対して、孤高な感じのお声が印象的でした。 5.いつか彼が帰ってきたら では、声の雰囲気と目線の向きを変えて、一人芝居のように2人の登場人物を演じ分け。その世界に引き込まれました。片方の人物が声を荒げて感情を爆発させたところの突き抜け方がすごい! 6.城に歩み寄る女 では、ようやく明るく穏やかになった?と思ったのも束の間、穏やかな感じは保ちつつも決してハッピーにはならないのが、個人的には想定外で戸惑ってしまいました(ごめんなさい!)。フェードアウトするラストでは、何度も登場するドイツ語の語尾の't'に存在感があったのがとても印象に残っています。今まで出会ったどんな歌曲とも違う、独特な世界。一見、淡々としているようでも、心の奥には深い闇を抱えているよう。その深さを垣間見たのは衝撃で、忘れられない体験になりました。

プログラム最後の演目は、細川俊夫の2つの子守歌。プログラム発表時から演奏順に変更があり、先に演奏されたのは「五木の子守歌」でした。重々しく哀しい響きで、怨念さえ感じるメゾ・ソプラノのお声がものすごいインパクト!私は日本語としては単語を聞き取れなかったのですが、方言だったのでしょうか?幼子を寝かしつけるというよりは、子守する人自身が思いの丈を独白しているように感じました。2曲目の「江戸の子守歌」は、おなじみの「ねんねんころりよ」の歌詞を今度は日本語として聞き取れました。こちらは哀しげではあるものの、ささやくようなところもあり、幼子を寝かしつけるための歌という「らしさ」も少しあったと思います。日本において子守とはなんと哀しいものなのかと、心にズシンと来た演奏でした。

カーテンコールの後、アンコールへ。なおトークや解説は無く、曲名は終演後のアンコールボードで知りました。すべてツェムリンスキーの作品で、なんと3曲も!1曲目は「子守唄」。寂しげなピアノに乗って、お声もはじめは静かに語りかけるようでした。しかし中盤は感情を吐露するように力強くなり、優しい世界ではない子守唄が印象深かったです。拍手喝采からの、2曲目は「春の日」。穏やかなピアノに、やわらかなお声が美しい!ただこちらも大はしゃぎする明るさとは程遠く、どこか影を感じる不思議な魅力がありました。これでおしまいと思いきや、舞台へ戻ってきてくださったお二人。ピアノのリーガーさんがジャケットの内側に隠し持っていた楽譜を取り出して、会場にどっと笑いが起きました。3曲目は「夜のささやき」。星が瞬くようなピアノに、お声の優しいささやき。ここに来てやっとほっと出来ました!ラストの曲でもドイツ語の語尾の't'にインパクトがあり、最後の最後までお声の細部にまで魂が込められていた演奏。素晴らしいです!最初から最後まで想像をはるかに超えた世界を見せてくださった演奏を本当にありがとうございます!鳴り止まない拍手の中、最後にリーガーさんが鍵盤の蓋をそっと閉めて、会場は和み、お開きに。私はロビーで六花亭のお菓子のお土産を頂いて(いつも感謝です)、帰路につきました。


藤木大地 カウンターテナー・リサイタル」(2022/06/11)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!唯一無二のお声と真心ある演奏に魂が揺さぶられました。

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ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ」(2022/07/31)。ソプラノ中江早希さん&ピアノ新堀聡子さんによる愛の物語。シューマン「女の愛と生涯」や中田喜直「魚とオレンジ」、直江香世子さんの小品等、魂の込められた演奏を通じて様々な人生を生きたスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

ロジネットジャパンチャリティーコンサート2023(2023/04)レポート

www.sso.or.jp
今年(2023年)のロジネットジャパンチャリティーコンサートは、指揮に角田鋼亮さん、ゲストに札幌出身のアルト・サックス奏者の寺久保エレナさんをお迎えして、ジャズのスタンダードナンバーから定番クラシックまで幅広く楽しめる演奏会でした。当初2020年に開催予定だった企画が今回ようやく実現!なお売り上げの一部は(公財)廣西・ロジネットジャパン社会貢献基金に寄附され、福祉や交通遺児への就学費用の助成等に活用されるとのことです。

 

ロジネットジャパンチャリティーコンサート2023
2023年04月15日(土)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
角田 鋼亮

【アルトサックス】
寺久保 エレナ

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島 高宏)

【曲目】
<第1部> 編曲:狭間美帆
D.ガレスピーチュニジアの夜
H.カーマイケル:ジョージア・オン・マイ・マインド
山下洋輔:ノース・バード
寺久保エレナ:ロッキー
ガーシュウィン:「すべてを知っている場所」からの便り~ガーシュウィン・メロディーズ

<第2部>
シベリウス交響詩フィンランディア
ボロディン交響詩中央アジアの草原にて」
リムスキー=コルサコフスペイン奇想曲 op.34
(アンコール)エルガー:行進曲「威風堂々」第1番


ジャズもクラシックもまっさらな気持ちで夢中になれた楽しい演奏会でした!演目はいずれも親しみやすく、演奏はクオリティ高く、オーケストラって良いなと私は改めて実感。こんな素敵な演奏会をリーズナブルなチケット料金で聴けて、楽しむ事でチャリティにも参加できるなんて、大変ありがたいです。企画・実施くださったロジネットジャパンさんと、素晴らしい演奏を聴かせてくださった指揮の角田鋼亮さんとソリスト寺久保エレナさん、そして札響に大感謝です!

前半のジャズでは、寺久保エレナさんのアルトサックスに痺れました!一口にジャズと言ってもバラエティ豊かで、リズムやカラーは曲ごとに異なります。そんな個性的な演目の数々を、寺久保さんは自由に伸び伸びと演奏し、多彩な表情で私達に聴かせてくださいました。小柄な身体から、ものすごくパワフルで艶っぽい音がどんどん湧き出てくるのがすごい!しかも楽譜に忠実なクラシック音楽とは異なり、独奏部分は即興(!)とのこと。寺久保さんは小学生の頃からご活躍されていらっしゃる才能豊かなかたですが、そこにとどまらず、現在は在籍する海外の学校にて作曲も学ばれているそうです。お若く勢いのある寺久保さん、これからますますのご活躍とさらなる成長に期待大です!また、いつもとは違う「ジャズの札響」も新鮮で素敵でした。狭間美帆さんによるオーケストラ編曲の良さもあって、オケは独奏の伴奏を超えた魅力が満載!オケは多彩な打楽器にハープ、金管木管もオールスター勢揃いで、弦の1stヴァイオリンは12名(12型というのでしょうか?)という大所帯。にもかかわらず各パートの個性が際立ち、全員合奏はとてもスケール大きい!特にガーシュウィン・メロディーズは、王道クラシックに引けを取らない素晴らしさでした。聴けてよかった!

後半のクラシック曲もとても楽しかったです。いつか生演奏で聴きたいと願っていた「札響のフィンランディア」はもちろんのこと、初聴きだったロシア人作曲家による2つの作品も想像以上の良さでした!「中央アジアの草原にて」は、異国の人との出会いが素敵に描かれていて、侵略の歴史に関係するフィンランディアと好対照。もとより今回の演奏会が企画された当初は、まだロシアによるウクライナ侵攻は始まっていません。しかし今このタイミングで「中央アジアの草原にて」の演奏と出会えたのは不思議な巡り合わせで、私は平和を願う気持ちが一層高まりました。そして「スペイン奇想曲」はオーケストラの醍醐味が味わえてとても面白かったです!特に出番が多かったコンマスソロをはじめ各ソロ演奏はいずれも個性豊かで、全員合奏は壮大かつ華やか!短い演奏時間の中で次々とカラーが変化するのも楽しめました。これは前半のガーシュウィン・メロディーズと好対照で、今回のプログラムはとても気が利いていたと思います。もちろん演奏を心から楽しめたのは、指揮の角田鋼亮さんと札響の皆様のおかげです。ちなみに私が角田さん指揮による演奏を聴いたのは、5年前の「きがるにオーケストラ」以来。普段クラシック音楽をあまり聴かない人達へ門戸を開いたその演奏会で、超初心者だった私は「オーケストラって、札響っていいな」と素直に思ったのでした。それからほんの少し経験を積んだ私は、最近ちょっと頭でっかちになっていたかもしれません。そんな私が今回、多彩な響きを無心に楽しめて、理屈抜きで「オーケストラって、札響っていいな」と改めて思えたのがうれしかったです。本当にありがとうございます!次は角田さん指揮の札響による演奏で、協奏曲や交響曲といった大作もぜひ聴かせてくださいませ。


第1部はアルトサックスの寺久保エレナさんとの協演です。なお演奏の合間には、指揮の角田鋼亮さんから寺久保エレナさんへインタビューするスタイルによる短めのトークがあり、寺久保さんの音楽歴や曲にまつわるお話などをうかがえました。1曲目はD.ガレスピーチュニジアの夜」。冒頭、オケの低弦ピッチカートが超カッコイイ!いつものクラシック音楽とは違うリズムがとても新鮮で、今日は絶対に楽しくなる♪とワクワクしました。ほどなく登場したアルトサックスは速いテンポでの艶っぽい響きが素敵!打楽器にはドラムセットもあり、リズムも響きもまさにジャズ!私はそんなジャズの世界に引き込まれながらも、ラスト直前の美しい弦アンサンブルには「札響の弦」を感じ、少しほっとしました(笑)。

H.カーマイケル「ジョージア・オン・マイ・マインド」。今度はゆったりしたテンポで、ソロもオケも愛が感じられるあたたかな響き!中でもホルンソロとアルトサックスが会話するようなやり取りをしたところがあって、お互いを思い合う感じがとても素敵で強く印象に残っています。

山下洋輔「ノース・バード」。2010年にリリースされた寺久保さんのデビューアルバムのタイトル曲で、山下洋輔さんから寺久保さんへ贈られた曲だそうです。タッターター♪のベースを作るオケの包容力!ここでも私は特にホルンが良いなと感じました。アルトサックスは速いパセージを勢いよく演奏したり真っ直ぐに歌うようだったり、とても自由に飛び回るよう。また基本的に高音域での明るい音楽の中で、トロンボーンが効いたところがあり、それが良いスパイスになっていたのも印象的でした。

寺久保エレナ「ロッキー」。寺久保さんのオリジナル作品(寺久保エレナ・カルテット初のレコーディング作品とのこと)を、今回はオーケストラとの協演での演奏です。アルトサックスはまさに歌っているよう!独白のようだったり強い感情の吐露だったり、等身大の寺久保さんの思いが伝わってきました。その独奏をリフレインするオケがまた優しさあふれる感じでイイ!しっとり聴かせる音楽を、控えめな打楽器陣がさりげなく素敵に彩ってくださっていました。キラキラした音の出る打楽器(ウィンドチャイム?)がキレイ♪

前半最後は「すべてを知っている場所」からの便り~ガーシュウィン・メロディーズサクソフォン奏者の須川展也さんのために書かれた曲とのことです。Summer time では、強弱の波が寄せては返すオケに、歌うアルトサックスは孤高の大人っぽい雰囲気が素敵でした。一転して華やかなStrike up the band では、息の長いアルトサックスのパワフルさ!I Got Rhythm はジャズ特有のリズムがカッコ良くて、ソロもオケもノリノリでした。Someone to watch over me での高音弦のトレモロとハープによる序奏が美しいこと!アルトサックスは女性ボーカルが情感たっぷりに歌っているようなのがとっても素敵!またオケが一瞬、弦のトップ奏者たちによる弦楽四重奏になり、ささやくように独奏に寄り添っていたのがニクイです。大編成とのギャップもあって、耳をそばだてて聴きたくなる良さがありました。It ain't necessarily so は低音が効いた管楽器・打楽器と弦ピッチカートが作るリズムがフィンガースナップのようで、ミュート付きトランペットの独特な音色が印象的。ここでのアルトサックスは、ほの暗さと芯の強さから男性ボーカルの太い声のように感じられました。Fascinating rhythm は大編成オケの賑やかな盛り上がりが楽しい。クライマックスではオケが沈黙し、たっぷりのアルトサックス独奏が超カッコイイ!情熱的に何度も音階を駆け上ったのが大迫力でした!ガーシュウィンの有名なメロディをぎゅっと濃縮した盛りだくさんなメドレー。寺久保エレナさんの変幻自在でパワフルなソロと、もちろんオケのおかげで、思いっきり楽しめました!


第2部はオーケストラのみで定番クラシック曲が演奏されました。1曲目はシベリウス交響詩フィンランディア。冒頭の低音管楽器群とティンパニによる力強い響きがすごい!徐々に音が大きくなるところは、つらさや哀しみの感情が心の奥底からこみ上げてくるように感じられ、強く印象に残っています。重苦しく悲劇的な流れの中で、空気を切り裂くようなトランペットがインパクト大!次なる歩みを始めた低音の管と弦にぐっと来て、全員が足並み揃えて強奏になった流れにこちらも一気にテンション上がりました。トライアングルが重なる、キレッキレの弦がカッコ良すぎ!木管群が歌うフィンランド賛歌がとても心に沁みて、メロディを引き継いだ弦の響きには、北国の大地を思わせる広がりを感じました。勝利に向かうフィナーレの力強さがすごく良かったです!録音で繰り返し聴いてきた札響のフィンランディアを、ついに生演奏で聴けた喜び!またオケの各パートが重なることで立体的な響きになり、壮大な世界が広がる様を体感できたのがうれしかったです。

ボロディン交響詩中央アジアの草原にて」。ヴァイオリンの超高音が大地の冷たい空気のよう!中低弦のピッチカートに乗ってクラリネットやホルンが牧歌的に歌い、ほどなく登場したイングリッシュホルンが鮮烈な印象!東洋的なメロディに音の揺らぎがとても魅力的で、私はつい「だったん人の踊り」を連想(そちらはオーボエですが)しました。木管群の歌を経て、全員合奏がすごい!広大な大地を思わせる広がりがある響きに、私は爽やかな気持ちになれました。また個人的には、イングリッシュホルンと一緒にチェロが東洋的なメロディを奏でたところがツボ。それに応えるように、今度はヴァイオリンがメロディを歌ったのが、ロシア人が東洋人を迎え入れたように感じられ、じんわりと心温まりました。終盤は再び冒頭と同じような感じになり、ヴァイオリンの超高音の上で今度はフルートが穏やかに歌いながら少しずつフェードアウトしたラストがとても印象深かったです。異国の人と出会い、再び日常に戻る情景が目に浮かぶようでした。いがみ合わず戦わず、こんな穏やかで心温まる出会いもある!とてもよいものを聴かせて頂きました。

プログラム最後の演目は、リムスキー=コルサコフスペイン奇想曲 op.34。5つのパートをすべて続けての演奏でした。1.アルボラダ の華やかな出だしが爽快!コロコロ歌うクラリネットは前半のジャジーな音色とはまた違った魅力があって、コンマスソロの軽やかな響きは喜びあふれる感じ!2.変奏曲 では中低弦のぐっと来る前奏に続いた牧歌的なホルンの温かさ!エキゾチックなイングリッシュホルンとホルンソロの対話がとっても素敵でした。また壮大な世界を広げてくれた弦に、私は思わずシェエラザードを連想(私って単純……)。この大所帯の弦メンバーが一斉に弓をうねらせる演奏は見た目にも壮観で、波打つような響きからも、私は大海を思い浮かべました。ラストの息が長いフルートが美しい!3.アルボラダ は1とは少し雰囲気が違い、金管打楽器大活躍の賑やかさ!コンマスソロとクラリネットソロはさらにパワーアップして、高速でとても明るいのが楽しかったです。4.ジプシーの情景と歌 はスネアドラム連打にトランペット&ホルンのファンファーレがカッコイイ!コンマスソロは魅惑的で超素敵!弦による独特のリズムでの音階駆け上りとアクセントに入るピッチカートが超クール!各木管ソロとハープソロもとっても魅力的でした。終盤にはチェロ独奏が登場。情熱的なスペインの音楽が最高に似合うチェロ、素敵すぎます!重なるオーボエが異国情緒たっぷりでまた素敵でした。5.アストリア地方のファンダンゴ では、パワフルな金管カスタネットやタンバリンのリズムがキレッキレ!そして弦の音色が先ほどのクールな感じから明るく幸せ感じに変化したのがとても印象的でした。コンマスソロと木管群が幸せに歌うのも素敵!クライマックスはどんどんスピードを増して全員参加による最高潮の盛り上がりに。華やかでパワフルな締めくくりが気分爽快!短い演奏時間の中にオーケストラの魅力がてんこ盛りな音楽、理屈抜きで心躍り思いっきり楽しめました。指揮の角田さんと札響の皆様、最高です!

スペイン奇想曲のフィナーレの熱量そのままに、アンコールはおなじみのエルガーの行進曲「威風堂々」第1番。勇ましい行進でのズンズンくる弦やドストライクな打楽器にパンチある金管。ホルンセクションの歌はさすがの貫禄!オルガンなしでハープは1台の編成とはいえ、大所帯のオケによる演奏は迫力あってとても楽しかったです!地元に札響とkitaraがあってよかった!最初から最後まで無心に楽しめる演奏をありがとうございます。ロジネットジャパンさん、素敵な企画をありがとうございました。来年以降の企画も楽しみにしています♪


いつもとはひと味違うオーケストラの演奏といえばこちら。「札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~アキラさんの名曲コンサート」(2023/02/18)。お堅いイメージのクラシック音楽の神アレンジと熱量高い演奏に、アキラ流アナリーゼたっぷりのトーク。サプライズ企画にアンコールのマツケンサンバまで、「超」を無限につけたいほど、超楽しかったです!

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今回ソロ演奏をたっぷり聴かせてくださったコンマスの田島高宏さん。先月にはデュオによる演奏会もありました。「骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~」(2023/03/14)。カザルスをテーマに、四者四様のバラエティ豊かな演奏。内なる繊細な感情と作曲家の思いを大切に扱ってくださったブラームスに感激!心温まるトークも楽しかったです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

牛田智大 ピアノ・リサイタル(2023/03) レポート

doshin-playguide.jp


www.japanarts.co.jp
↑「今シーズンのリサイタルプログラムについて」、牛田智大さんへのインタビュー記事です。

ピアニストの牛田智大さんが全国各地を回った2023年のリサイタルツアー。その最終日となる札幌公演です。個人的に愛してやまないブラームスソナタに、彼に大きな影響を与えたシューベルトシューマンソナタを聴けるとあって、企画発表当初から私は楽しみにしていました。

はじめて弊ブログをお読みくださる皆様へ。アクセスありがとうございます!私はピアノはもちろん他の楽器も一切演奏できない「聴き専」かつ演奏会通い歴は4年ほどのヒヨッコです。また家で聴く録音は別として、演奏会は室内楽やオーケストラを中心に通っており、今までピアノリサイタルはほとんど聴いてきませんでした。演奏家へのリスペクトは常に心がけているつもりですが、素人が感じたままに書いているコンサートレビューのため、至らないところは多々あると存じます。おそれいりますが、弊ブログの記述はどうか真に受けずさらっと読み流して頂けましたら幸いです。もちろん何かありましたら遠慮なくツイッターにてコメントをお願いいたします。


牛田智大 ピアノ・リサイタル
2023年03月31日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【出演】
牛田 智大

【曲目】
シューベルト:アレグレット ハ短調 D.915
シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120 D.664
シューマン:ピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 Op.11
ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5

(アンコール)
J.S.バッハブゾーニ編曲:コラール前奏曲 “われ汝に呼ばわる” BWV639
J.S.バッハブゾーニ編曲:シャコンヌ
パデレフスキ:ノクターン Op.16-4


重量級プログラムの大変充実した演奏に圧倒され、音楽そのものに無心で浸ることができた、あっという間の2時間半でした!私にとってははじめましてのピアニスト・牛田智大さんの演奏は、この日聴いた限りの印象ではとても実直で丁寧かつ情熱的!奇をてらうことなく一音一音じっくりと積み重ねることで、曲そのものが持つパワーを最大限に引き出していらしたと私は感じました。その貫禄ある演奏に、「お若いのに」なんて色眼鏡は瞬時に消え去ってしまったほどです。一方、一音一音の生命力ある強さや、まっすぐで情熱的な響きは、その若さがあるからこそ!かといって力任せに弾いているわけではなく、重厚なところの力強さと同じくらい、柔らかで美しいところでは細やかな心くばりが感じられる繊細さがありました。しかもどの演目においても、あたかもそれが第1曲目であるかのような全身全霊での演奏で、力強さも繊細さもベストを尽くして体現されていらしたのには恐れ入りました。すべて暗譜による演奏でトークや箸休め的な企画はナシ。そんな本プログラムだけでも大変なはずなのに、たっぷりのアンコールに至るまで集中力と勢いを保ち、どの演目も超がつくクオリティの高さ!その姿勢と力量、ただただ敬服です!ピアニスト・牛田智大さんとの出会いに感謝いたします。

今回メインで取り上げられた独墺ロマン派の3つのピアノ・ソナタは、いずれも作曲家が若い頃に自分が持てる力をすべて注ぎ込んで生み出した大作揃い。生半可な気持ちでは到底太刀打ちできないと思われる難しい演目たちを、牛田さんは豊かな音と表現力によって作曲家の姿まで浮かび上がるような演奏で聴かせてくださいました。歌心あふれるシューベルトはただ素敵♪で終わるのでなく、暗い影や心の揺らぎをじっくり表現した演奏から内面の孤独感や不安も垣間見え、とても奥行きが感じられました。また個人的によく掴めずにいたシューマンの二面性が、この日の演奏では自信に満ちたブレない軸があった上での陰と陽だったため、自然と受け入れることができました。そしてブラームスです。作曲当時ブラームスは20歳そこそこで、管弦楽作品はまだ書いていない頃。しかしピアノ・ソナタ第3番は交響曲にも引けを取らない重厚さと壮大さ!かつブラームス流の歌心と若さゆえの迸るパッションもある、とんでもない作品と改めて実感しました。シューマンに期待ゲージMAXの記事で世に紹介されて、半端ないプレッシャーの中、ピアノ一つでその期待を超える作品を生み出した若き日のブラームス。牛田さんの誠実で生き生きとした演奏を聴きながら、若き日のブラームスのことを思い浮かべた私はこみ上げてくるものがありました。そもそも演奏機会が少ないブラームスのピアノ・ソナタで、これほどまでに充実した演奏に出会えたなんて感激です!本当にありがとうございます!牛田さん、近い将来きっとブラームスのピアノ・ソナタの第1番と第2番の演奏を、例えばベートーヴェンショパン、リストのピアノ・ソナタとの組み合わせで聴かせてください。さらにオケとの協演でブラームスのピアノ協奏曲もぜひ!若さと祈りの第1番も、円熟の交響曲的な第2番も、私は牛田さんのピアノで聴きたいです。いえ詰まるところどの作曲家のどんな演目でも良いので、牛田さんの演奏によって作曲家に出会える喜びを何度でも体感したい!これから先も、その時の牛田さんのアプローチによる演奏を私達に聴かせてくださいませ。


1曲目はシューベルトのアレグレット ハ短調 D.915。初めの寂しげなメロディに早速引き込まれました。不穏な感じの和音を2回鳴らしたところが、運命が扉を叩くようで強く印象に残っています。この物悲しさに対し、ふと明るさを見せたところがなんとも優しく美しい!ピアニッシモの響きが心に深く沁み入りました。個人的には、まるで魂がどこかへ行ってしまいそうなのを繋ぎ止めているようにも感じた、不思議な魅力のある音楽でした。

2曲目はシューベルトのピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120 D.664。第1楽章。素朴に歌うような、明るい高音のメロディは身体にすっとなじみました。タタタタタン♪の優しく切ない響きが胸に来て、メロディが低音になったときは暗い影を落としたよう。それでも高音と低音が呼応し合ったり、何度も音階を駆け上ったりに、私は生命力を感じました。「魂がどこかへ行ってしまいそう」と感じた1曲目の直後だったからかも?第2楽章。穏やかな子守唄のような音楽は、しかし時折登場する音の揺らぎに心がざわつきました。個人的に、ここはブラームスの連作歌曲『美しきマゲローネのロマンス』op.33の第12曲に似ている?と思ったり(マニアックでごめんなさい!)。またこの楽章で特に印象深かったのは、ごく小さな音からクレッシェンドでぐっと盛り上がった流れです。思い悩んでいた人が、自らの意思で運命を好転させたようにも感じました。第3楽章。軽やかにステップしたりクルクル回ったりと、楽しくダンスしているような可愛らしい響きが素敵。それと交互に現れるパワフルな低音が効いたところや、何度も登場する力強い音階駆け上りがとても生き生きとしていて、生命力あふれる感じ!明るく力強い締めくくりに、私は気分爽快になりました。暗い影や切なさや揺らぎがあったからこそ、ラストの明るさが一層輝いて感じられたのかもしれません。演奏時間が比較的短い作品でも、一つの物語を味わえたような深みのある演奏でした。

前半最後はシューマンのピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 Op.11。第1楽章。はじめの悲劇的なメロディに、うねるような低音の存在感!この低音が私は忘れられません。堰を切ったように速いテンポで進む流れでは、高音と低音が呼応したり高音に低音が併走したりがとてもリズミカル!加えて強弱の波や細かく変化するテンポが感情の機微を表しているようでドラマチック!ぐっと暗く沈んだ締めくくりから、一転して第2楽章は穏やかで明るい音楽に。明るく歌う高音が美しい!それに対しての低音が、タタータ♪の繰り返しによる下支え、また高音の旋律をこだまするように繰り返していたのが印象に残っています。第3楽章。ジャズや映画音楽を思わせる、即興的にテンポを細かく変化させ、跳ねるような音が新鮮!シューマンの知らなかった一面を垣間見たようで、素直に面白かったです。第4楽章。タッタター♪のリズムに乗って、前向きで勇ましいところと、ピアニッシモで低音が効いた影のあるところが交互に現れました。この陽と陰が一つの流れの中で違和感なく繋がっていたのがすごい!一見異なる性質が矛盾なく同居していたのは、音の一つ一つにしっかり存在感があったため、(シューマン自身の)自分軸がブレていない(あくまで個人的な感覚です)と思えたからかも?また様々な形での音階駆け上りが何度も登場し、私はそこにもシューマン「らしさ」を感じました。クライマックスでの少しずつ加速しながら力強く進むところが男前でカッコイイ!堂々たる響きの締めくくりが圧巻でした。一筋縄ではいかない性質で様々な変化を見せつつも、がっちり芯が通っていると感じた、骨太のシューマン!クララさんが父親の反対を押し切ってシューマンの元へ走ったのも頷ける、そんな演奏でした。

後半は、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5。第1楽章。弾き始めの力強さがものすごいインパクト!その熱量に最初からガツンとやられました。じっくりと着実に進む演奏で、一つ一つの音が説得力を持って響いてくるのがすごい!重低音が一歩一歩前進するようなところも、幻想的なメロディの下で一定のリズムを刻む低音の存在感も、バスを重視するブラームスらしさが感じられシビレました。重厚な音楽はまるで交響曲のよう。明るく希望に満ちた部分では、オーケストラの木管群と高音弦が作る壮大な世界!?と私は一瞬錯覚してしまったほど!第2楽章。ゆったりとした、優しく美しい歌曲のような音楽。丁寧な演奏によって、右手の語りに対して左手が細かく呼応したり、歩幅を同じく寄り添って歩んだりしていると感じ取ることができました。これは愛し合う2人なのかも!ほぼピアニッシモなのに、心に訴えかけてくるものはとてつもなく大きいものでした。次第に盛り上がり、感極まったところでの堂々たる響きがすごく素敵!なんてピュアな愛!その真っ直ぐさは若き日のブラームスそのものと感じました。第3楽章。冒頭の音階駆け上りからインパクト大!(演出として)前のめりなメロディと、それを支える低音の力強さ。迸る情熱を、熱量高い思い切った演奏で聴かせてくださいました。ブラームス壮年期の「秘めた情熱」とは違い、これは若さゆえに抑えきれないパッション!まだ何一つ諦めてなどいない瑞々しさがまぶしい!中間部の少し穏やかなところでは、一音一音の存在感からぐっとエネルギーを蓄えていると感じられ、そこから再び盛り上がっていく流れが胸熱でした。第4楽章。メロディは第2楽章と似ていても、支える低音は運命が扉を叩くようにタタターン♪と繰り返し鳴るのが不穏な感じでとても印象的。ピアニッシモで沈んでいくのが、希望の光が見える第2楽章と好対照でした。第5楽章。前半での分厚い音の響きがとてもドラマチック!ここでも低音の存在感が印象に残っています。少し明るくなる後半、しばらくは前半と同じ低音が続いていたのと、クライマックスで出てくる軽快なメロディの前触れがあった事に、私はこの日初めて気付きました。大曲をここまで弾いてきても、当たり前とはいえお疲れを見せず一音一音を大切に演奏くださっていることに感激です!軽快なメロディから始まるクライマックスでは暗さは一掃され、自信に満ちた響きが晴々しい!ラストの音の余韻まで希望があふれているようでした。現在23歳である牛田智大さんの誠実で生き生きとした演奏によって、ようやく作曲当時20歳のブラームスに出会えた喜び!私は胸がいっぱいになりました。素晴らしい演奏を本当にありがとうございます!


アンコール1曲目は、J.S.バッハブゾーニ編曲のコラール前奏曲 “われ汝に呼ばわる”  BWV639。振り子時計のようなリズムを刻む重低音に、一人語りのようなメロディ。ブラームスの若さ瑞々しさを聴いた直後だったためか、こちらはすごく大人の落ち着きあるしっとりした演奏と私は感じました。

アンコール2曲目は、J.S.バッハブゾーニ編曲のシャコンヌ。左手の低音から入ったので、私は一瞬ブラームス編曲による「左手のためのシャコンヌ」かと早とちり。しかしすぐに両手での演奏になり、この時点で有名なブゾーニ版では?と気づきました。ちなみに私は実演では初聴きで、まさかここで聴けるなんて!と心の中で大喜び。ヴァイオリン独奏の原曲に忠実な単旋律のところの繊細な良さはもちろんのこと、原曲には存在しない音が盛り盛りのところの分厚さと低音のパワフルさがすごい!派手に音階を駆け上がるところはピアノならではのきらびやかさ。後半での天国的な響きは重厚なのに美しい!ここまで弾き続けてきたお疲れはまったく見せずに、力強さ緻密さのあるがっちりした演奏。まるでもう一つ大作のソナタを聴いたようでした。重量級の本プログラムの後に、こんなすごい切り札まで用意してくださったなんて!私は度肝を抜かれ、そして心の底から感激しました!

しかしここでは終わらず、なんとアンコール3曲目までありました。パデレフスキのノクターンOp.16-4。ゆったりとしたタタタン・タタタン♪のリズムに乗って、優しく可愛らしいメロディがとっても素敵!厳格で重厚なシャコンヌの後に、ホッと出来てうれしかったです。ラストの消え行く音の余韻まで愛しい!私は、盛りだくさんの演奏をめいいっぱい楽しませて頂きながら、願わくばもっともっと聴いていたい……とつい欲張りにもそう思ってしまったほど、牛田さんのピアノにすっかり魅せられてしまいました。牛田さん、充実した演奏にて名曲の数々をたっぷり聴かせてくださり、ありがとうございます!これからますますのご活躍を大期待&また演奏を拝聴できる機会をとても楽しみにしています!

 

牛田智大さん公式ツイッターへのリンク失礼します。


ありがたいことに、2023年3月の札幌kitaraは「ブラームス祭り」とも言えるほど、ブラームス作品を聴く機会に恵まれました。今回はブラームス最初期のソナタでしたが、最後のソナタop.120-1が聴けた演奏会はこちら。「Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって、作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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今回と同じく、前半にシューベルトシューマンで後半ブラームスという組み合わせの室内楽のコンサートはこちら。「アンサンブルコンサート 愛と悲しみを謳ったロマン派時代の音楽家たち」(2022/12/16)。シューマンシューベルトの歌曲は、一つ一つが短いながらも完結した物語!ブラームスのピアノ四重奏曲第3番は、情熱的で血の通った演奏に、最初から最後まで夢中になれました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ(2023/03) レポート

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↑指揮者の山田和樹さんからのメッセージ動画がKitara公式YouTubeチャンネルで公開されています。また今回ご出演のオケメンバーの中から、フルートの北川森央さん、ヴァイオリンの長岡聡季さん、オーボエの荒絵理子さんのスペシャルメッセージ動画もあります。

Kitara開館25周年記念に、指揮者の山田和樹さんと横浜シンフォニエッタが来てくださいました。山田和樹さんが創設した横浜シンフォニエッタkitaraと同じく25周年を迎えたとのこと。また協奏曲のソリストにはヴァイオリニストの川久保賜紀さんが登場。個人的に好きな演目を注目のオケと演奏家で聴けるとあって、企画発表当初から私は楽しみにしていました。


札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ
2023年03月17日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
山田 和樹

【ヴァイオリン】
川久保 賜紀

管弦楽
横浜シンフォニエッタコンサートマスター:高木 和弘)

【曲目】
小田 実結子:Olive Crown(新作初演)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ソリストアンコール)J.S.バッハ:パルティータ 第2番 サラバンド BWV826

ベートーヴェン交響曲 第7番 イ長調 作品92
(アンコール)ベートーヴェン交響曲 第2番 ニ長調 作品36 第4楽章 アレグロモルト


2時間20分の公演時間があっという間!想像を遙かに超える、充実した楽しい時間を過ごすことができました。新作初演の爽快さ!ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、存在感抜群の独奏と厚みのあるオケが一体となって、まるで交響曲のようにも感じられた濃密さ。そしてメインのベト7がすごい!演奏機会が多い演目を、慣れ親しんだkitara大ホールにて、まるで初めて出会ったかのように聴けたスペシャルな体験となりました。あえて極端に特色を打ち出してきた今回の横浜シンフォニエッタの演奏は、まさに唯一無二。自分にはまだまだ知らないことが無限にあると痛感し、何度も聴いた演目を「また聴いてみたい」と思えたほどです。クラシック音楽って奥深い!そして楽しい!この出会いに感謝いたします。

演奏会に先立ち、kitara公式Twitterにてオケメンバーのメッセージ紹介、YouTubeチャンネルにてスペシャルメッセージ動画の公開があったのも良かったです。私達地方の聴き手は、地元オケであればメンバーの人となりを大まかに把握しているものの、「お初」のオケの場合はメンバーの事をほぼ知らない状態。その一部のメンバーだけでも「顔が見えた」ことで親しみがわきました。そしてその動画からの情報によると、地元札幌で演奏活動と後進指導をされているヴァイオリンの長岡聡季さんは、横浜シンフォニエッタの創立メンバーでもあるとのこと。今回の演奏会では2ndヴァイオリンのトップを務められ、プログラムノートの解説(新作初演を除く)も長岡さんによるものでした。また今回の横浜シンフォニエッタの出演メンバーには「北海道に関わりがある人」が7名もいらっしゃると、演奏会当日のトークで知りました。北海道とは浅からぬ縁がある横浜シンフォニエッタさん、ぜひまた山田さんと一緒にkitaraにいらしてください!


開演前、指揮の山田和樹さんによるプレトークがありました。札幌は2度目で、前回はアンサンブル金沢の公演でいらしたそう(kitaraで8年前に開催されたようです)。今回、平日の夜の開催となったのは、指揮の山田さんとオケメンバーのスケジュールが合う日程の中で、ホールが空いていた日時だったからだとか。山田さんが設立した横浜シンフォニエッタは、元は芸大で指揮科の学生たちがシンフォニーの指揮をしたいために作ったと仰っていました。なお設立当初の名称は、山田さんがお嫌いなトマトを冠した「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(!)。ベートーヴェン交響曲は第1番からすべて演奏してきたそうで、中でも今回取り上げる第7番は、デビュー公演や節目となる時に必ず取り上げてきた大切な演目なのだそうです。(オケの創設から25年・Kitaraの開館25周年といった)記念の演奏会に、何か特別な事をしたいと考え、今回は小田実結子さんに新作をお願いしたとのこと。またブラームスのヴァイオリン協奏曲のソリスト川久保賜紀さんと共演するのは初めてで、楽しみと仰っていました。そして「このまま後半の話もした方がいいですか?」と、会場に対して「今がいい人」と「後半がいい人」の2択で拍手による多数決が行われました。後者の方が多かったため、ベト7のお話は後半へ持ち越しに。「精一杯演奏するので楽しんで!」と山田さん。トークはここでいったん終了となりました。

オケの編成は、各木管とトランペットは2管ずつにホルンは4つ、ティンパニ、弦は10-8-6-6-4でした。また弦の配置は舞台に向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。チェロの後方にコントラバス。地元の札響での通常配置はヴィオラとチェロの位置がこの逆なので、とても新鮮でした。1曲目は、小田実結子「Olive Crown」。この日の公演のために書かれた新作初演です。この曲のみホルン2つでした。トランペットとホルンによる冒頭から、ティンパニでぐっと盛り上がり、美しい弦で視界が開けたように感じられました。明るく耳なじみの良い音楽で、木管群による温かみのある歌が素敵!また転調し少し低音を効かせたところは、しかし重苦しくはなく、澄んだ水の底を見たかのような深さが感じられました。プログラムノートに掲載されていた作曲者の小田実結子さん自身の解説によると、この作品は指揮者の山田和樹さんのお名前から「平和の象徴であるオリーブの樹」「オリンピックの勝者に贈られるオリーブの冠」をイメージしたとのこと。スケールが大きく、希望の光が見えるような音楽は、聴いていてとても気持ちが晴れやかになれました!演奏後、作曲者である小田実結子さんが客席から舞台へ。小田さんを指揮の山田さんがハグ!客席も温かな気持ちになれました。

ソリスト川久保賜紀さんをお迎えして、ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」。第1楽章。オケの前奏は丁寧で、強弱のメリハリがはっきり。個人的には、少しゆっくりかも?と感じましたが、テンポにはすぐに慣れました。木管が印象的なやわらかな響きも、弦の深刻なところも素敵!満を持して独奏ヴァイオリン登場。最初の低音からの音階駆け上りが鮮烈な印象!オケの弦が良いタイミングで合いの手を入れてくれて、存在感ある独奏がオケとすんなり親和したと感じました。やわらかな響きでゆったり歌うところも、重音の厳しさも、さすがの貫禄!個人的には、オケの弦が主役の時に独奏ヴァイオリンが繊細な音色で重なったところや、小休止の後に再登場した独奏ヴァイオリンがとてもふくよかで味わい深い音色で歌ったところが強く印象に残っています。また、オケのターンでのオケは壮大な広がりで、同時期の作品であるブラ2のような爽やかさも感じられました。カデンツァはヨアヒム作のものだったと思います(違っていましたら申し訳ありません)。はじめの深い低音から、ヴァイオリン独奏のみで作る世界にぐっと引き込まれました。連続する重音がすごい!また間合いにも気迫が感じられ、高音のフェードアウトからオケが次第に重なっていく流れがとても良かったです。重なったオケでは遠くから聞こえてくるようなホルンの響きが印象的でした。独奏ヴァイオリンとオケが一体となって駆け抜けた楽章締めくくりが爽快!第2楽章。やはり前奏のオーボエソロがとっても素敵!他の木管群が牧歌的な響きで重なったのも素敵で、心穏やかになれました。柔らかな高音から入った独奏ヴァイオリンもまた、優しく美しい!悲劇的な独奏の雄弁さ!しかしそれだけではなく、オケがゆったり美しく歌うところでの独奏ヴァイオリンの仕事ぶりが素晴らしいと私は感じました。繊細な超高音でオケと併走する独奏ヴァイオリンは、大きな音で主張するわけではないのに存在感抜群!オケと独奏は一心同体!そして第3楽章へ。生き生きと力強い独奏ヴァイオリン。その「タータタタタータタタタッタッタ(ン)タッター♪」の(ン)のところでぐっと力を溜めて上昇するのかカッコイイ!またそれをオケが再現する際にソリストと同じように演奏していたのがニクイです。明るい流れの中、独奏ヴァイオリンとオケが最適な間合いで呼応し合うのが気持ちよく、オケ全体での盛り上がりはとても清々しい。また少しクールダウンするところでは、独奏ヴァイオリンが控えめな音量でも緻密かつ流麗に演奏していたのが素晴らしいです。終盤、独奏ヴァイオリンはいっそう明るく自信に満ちた響きとなり、ラストはパワフルに独奏とオケが一緒にビシッと締めくくり。ソリストとオケがお互いに高め合い、一体となった濃密な時間。これぞまさにブラームスの協奏曲!聴けて本当にうれしかったです。演奏後、ソリストの川久保さんを指揮の山田さんがまたしてもハグ!欧米か!?(笑)。でも自然な感じでとても素敵だと私は思いました。演奏はもとより、こんな振る舞いがスマートにできるのも、世界のヤマカズだからこそですね!

ソリストアンコールJ.S.バッハ「パルティータ 第2番 サラバンド BWV826」。印象深い重音や控えめなビブラート、kitara大ホールに響く研ぎ澄まされた音色を堪能できました。ヴァイオリニストにとっては最高に大変なブラームスの協奏曲の後に、バッハの無伴奏の純度の高い演奏まで、素晴らしい演奏をありがとうございます!


後半の演奏に入る前にも、指揮の山田さんによるトークがありました。オケメンバーに「北海道に関わりがある人」と挙手を求め、その7名の自己紹介(山田さん自らマイクを持ち一人一人のもとに駆け寄るスタイル!)。皆様お名前と出身地(札幌市内であれば区まで!)くらいの簡単なもので、ちょっと駆け足で進められました。ちなみにあるかたが「しゃべってもいいですか?」とたずねたところ、山田さんがブンブン首を横に振り「巻き」のジェスチャー(手をぐるぐる)をして、会場に笑いが起きました。そしてベト7についてのお話。「7は虹の色の数ですね」といった事から始まり、「音階の数でもある」として、ベト7の第1楽章で音階を1つずつ上っていくところをオケの実演付きで解説(!)。ベートーヴェン自身はこの交響曲の数字「7」を意識していたと、山田さんはお考えのようでした。また、第3楽章での2番目の旋律(ホルンが伸びやかに歌うところ)も実演付きで、「ここはワルツですが、ズンチャッチャ無しでの(リズムの)踊り」と解説。大きく2点をお話くださいましたが、私はいずれも思いも寄らなかった視点で大変興味深かったです。またこの短い解説の中でも、山田さんは何度も「ベートーヴェンは天才」と仰っていたのも印象に残っています。

いよいよメインプログラム。ベートーヴェン交響曲 第7番」。第1楽章。冒頭はパン!とインパクトある強奏から。丁寧に繰り返されるタタタタタタタタ……の1つずつ音階を上がるところでワクワク。同時にとても愛しく感じられました。フルートが明るく歌うところは重なる他の木管群も素敵!続く弦が一気に音階を駆け上るところ、ここも音階を1つずつ7段のぼっている!と私は今更ながら気付きました。明るくパワフルな演奏は気分爽快!ピアニッシモからフォルテッシモへ段々と盛り上がっていく流れが明快で、強奏の後に来る意味ある休符がビシッと揃うのが気持ちイイ!中盤のオーボエを中心とした木管群の少し哀しげな歌も印象的でした。うんとパワフルに盛り上がってから、そのまま続けて第2楽章へ。個人的に、ここでは弦の仕事の緻密さに目と耳を奪われました。管楽器群の和音に続き、中低弦がピアニッシモで一歩ずつ歩みを進めるところの厳かさ!続いて2ndヴァイオリン、1stヴァイオリン、と参戦する弦のパートが増えていっても葬送行進曲の歩幅は一定に保たれていました。全員合奏での悲劇的なところからの、木管群の天国的な響き!木管群が葬送行進曲を歌うところでの、弦ピッチカートが作るリズムにも私は惚れ惚れしました。静かに楽章締めくくった後、一呼吸置いてから第3楽章に。ここでは2つのトリオのコントラストがすごく面白かったです!はじめは少し速いテンポでリズミカルに。ティンパニがカッコイイ!そして解説で取り上げられた2番目のトリオは、思いっきりゆっくりじっくり演奏。長く音をのばすトランペットが華やか!交互に現れる2つのトリオは、極端なほどにテンポを変えたことで個性の違いが際だったように感じられました。チャッチャッチャッチャッチャッ♪の明るい楽章締めくくりから、そのまま続けて第4楽章へ。パワフルかつ生命力あるリズムが超楽しい!弦リレーからぐっとエネルギーを溜めて上昇するのが爽快!音楽はぐいぐい進みクライマックスではさらにパワフルになって、熱量高い演奏に最高に気分があがりました!ジャカジャン・ジャカジャン♪の締めくくりまでずっと楽しかったです!やはりベートーヴェンは天才……いえそれ以上に指揮の山田さんとオケの皆様は天才!よく知る曲がこんなに新鮮に感じられるなんて!最高に気分があがりました。ありがとうございます!

カーテンコールでは、全パートが順番に起立を促され、盛大な拍手が贈られました。そして指揮の山田さんとオケの皆様は、正面だけでなく四方八方の客席に向かってお辞儀(!)。拍手喝采の中、指揮の山田さんがマイクなしでアンコールの演目をご紹介くださいました。アンコールは、ベートーヴェン交響曲 第2番」から、第4楽章。こちらもリズムが楽しい曲でした!最初に拍が来るリズミカルで勢いある演奏。私は、パワフルなのは確かにベートーヴェンだと思いつつ、なんとなくモーツァルトっぽい?とも感じました。全体的に明るい感じではありましたが、ファゴットが歌うメロディに少し影が感じられたのが印象に残っています。終盤、長めの休符のところで指揮の山田さんがチラッと客席の方に振り返り、クスッと笑いが起きました。そこから次第にエネルギーを増していき、再び生命力あふれる感じに。フィナーレのホルンにやはりモーツァルトの雰囲気を感じ、明るくパワフルに締めくくり。大熱演の後のアンコールに、なんと交響曲の1つの楽章をフルで聴かせてくださるなんて!最初から最後まで思いっきり楽しませてくださりありがとうございます!

最後に、指揮の山田さんとオケの皆様が客席に大きく手を振ってくださいました。山田和樹さん、横浜シンフォニエッタと一緒にまたkitaraへいらしてくださいね。機会がありましたら地元の札響の指揮もぜひお願いします。お待ちしています!


今回、横浜シンフォニエッタにご参加のオーボエ・荒 絵理子さんが、「東京六人組」のメンバーとして出演された演奏会はこちら。「Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組」(2022/11/15)。3つのホールによる共同委嘱新作・ハイドンバリエーションやきらきら星変装曲等、オーケストラの響きをぎゅっと濃縮したカラフルな演奏はとっても楽しかったです!

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ありがたいことに、ここ最近kitaraではブラームスの作品を聴ける演奏会が続いています。この日の2日前に聴いた公演はこちら。「Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

〈Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~(2023/03) レポート

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札響副首席ヴィオラ奏者の青木晃一さんと、地元札幌で演奏活動と後進指導をされているピアニストの石田敏明さん。2017年にデュオ結成し、道内各地で演奏活動を続けてこられたお二人のリサイタルがKitara小ホールにて開催されました。今回の演目はすべてヴィオラのために書かれたオリジナル作品。また「ブラームスから拡がる」とサブタイトルにもある通り、ブラームスと彼よりも後に生まれた作曲家たちの作品が取り上げられました。


Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~
2023年03月15日(水)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
青木晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
石田敏明(ピアノ)

【曲目】
ミヨー:ヴィオラとピアノのためのソナタ 第1番 Op.240
ブリッジ:2つの小品
バンチ:ヴィオラとピアノのための組曲

コレッティ:3つの小品
クラーク:モルフェウス
ブラームス:ピアノとヴィオラのためのソナタ 第1番 ヘ短調 Op.120-1

(アンコール)
チャイコフスキー:ただ憧れを知る者のみが op.6-6
カッチーニ(伝):アヴェ・マリア


ヴィオラって、なんて魅力的!今回ブラームス以外はほぼ初聴きだった私。しかしどの演目もヴィオラの魅力を余すところなく引き出した演奏のおかげで、最初から最後までずっと夢中になれました。ヴィオラはたとえヴァイオリンのような派手さはなくても、その音色は人のバイオリズムにちょうど合う感じで心地よく聴けます。さらに青木さんのヴィオラは、なじみやすい音色であっても人の心に刺さるインパクトがあり雄弁!私はヴィオラによる演奏で最初の1音から引き込まれたのは初めてでしたし、「歌う」ところではすべてのシーンを異なる色合いにて楽しめて、現代曲での超絶技巧の数々にはただただ驚愕しました。オケでも室内楽でもほぼ下支えとなるヴィオラが、主役として思いっきり輝いていたのは、紛れもなく演奏そのもののお力によるものだと私は思います。素晴らしい演奏をありがとうございます!「ブラームスから拡がる」作品群に、青木晃一&石田敏明デュオによる演奏で出会えて本当によかったです。

そしてブラームスが60代で書いた最後のソナタ作品を、今回のお二人による演奏で聴けたことが何よりうれしかったです。ちなみに元々クラリネットのために書かれたブラームスソナタOp.120は、作曲家自身の編曲により、弦楽器ならではの奏法や感情表現を盛り込んだヴィオラのための曲になっています。孤独や絶望、諦念を経て、そんな過去の思い出を懐かしく思える境地に至った最晩年のブラームス。ただ、穏やかに明るく振る舞ってはいても心の奥底でうずく傷はあるわけで、その表現はむしろ感情爆発させる作品よりも難しいのでは?と個人的には思います。今回の演奏では、雄弁さや歌心の良さはもちろんのこと、個人的に胸打たれたのは細やかな感情の表現です。あえて目立たずさりげなく、感情の機微を丁寧に表現した演奏に、私は最晩年のブラームスの秘めた思いを垣間見たような気持ちになりました。また私はちょうどこの前日にブラームス50代の作品であるヴァイオリン・ソナタ第3番を聴いたばかりで、聴き比べが出来たのもうれしかったです。人生に悲観したヴァイオリン・ソナタ第3番作曲の頃から10年の時を経て、さらに喪失を山ほど経験したにもかかわらず、今回聴いた最晩年のソナタは過ぎ去った苦悩の日々すら慈しんでいるかのよう。ブラームスはついにここまで来たんだと思うと、こみ上げてくるものがありました。さらに今月末にはブラームス最初期(まだ20歳そこそこ)の作品であるピアノ・ソナタ第3番を聴く予定があります。その何一つ諦めていない頃の瑞々しさを、今回聴いた最晩年の境地と聴き比べるのもとても楽しみです。今回のお二人の演奏を聴いたことで、私自身のブラームスへの思いが「拡がって」います。素敵な出会いに改めて感謝いたします。


1曲目はミヨー「ヴィオラとピアノのためのソナタ 第1番 Op.240」。第1楽章、最初のヴィオラから、私はその音色がすっとなじんで流れに乗れました。ヴィオラをピアノが追いかけるスタイルに、私はバッハを連想。振り子時計のような一定のテンポによる素朴なメロディを心地よく聴きました。第2楽章は少しテンポが速くなり、「フランセ」の名の通りフランス舞曲風。次々と生まれ出てくるヴィオラの音に対し、ピアノが追いかけっこしたり対になる旋律を奏でたり。何度か重音でタッターン♪とアクセントが入ったのも印象的でした。第3楽章、民謡風の哀しげな歌がとっても素敵!ヴィオラは、ヴァイオリンのような高音で歌うところも味わい深い低めの音での歌も、どちらも人の体温を感じるようで、耳と身体に自然となじみました。第4楽章は舞曲風で、よどみなくあふれてくるヴィオラとピアノの音に聴いている私達の気持ちもウキウキ。中盤に少し違うテンポが出てきたのも楽しかったです。ちょうど身体のバイオリズムに添うような、心地よい音楽でした。ミヨーは20世紀の作曲家ですが、プログラムノートによると、この作品は18世紀の作曲者不明の旋律に基づくとのこと。バロック期の舞曲の薫りがしたのも納得です!

ブリッジ「2つの小品」。プログラムノートによると、作曲家ブリッジはヴィオリストでもあり、一時期はヨアヒム弦楽四重奏団でも演奏していたのだそう。第1曲、ヴィオラのぐっと低い音に引き込まれ、中盤には高音の盛り上がりもあって、その表現の幅広さと音色の陰影にヴィオラならではのものを感じました。第2曲、高音で力強く情熱的に歌うヴィオラがとても魅力的!もしかするとヴァイオリンでも置き換えられるかもしれませんが、ヴィオラが持つ少し影のある音色で歌うからこその色っぽさを感じて、なんて素敵なの!と私はその音に夢中になりました。ふとささやくようなところも素敵で、ヴィオラをよく知る作曲家が書くとヴィオラはこんなに輝けるんだとしみじみ。そう思えたのは、もちろんお二人による素晴らしい演奏のおかげです。

K.バンチ「ヴィオラとピアノのための組曲。はじめの2曲については、私はまさに青木晃一&石田敏明デュオによる演奏で以前聴いたことがあり、今回全5曲を聴けるのを楽しみにしていました。第1曲は、ヴィオラのほの暗い最初の1音からぐっと引き込まれ、ピアノの和音がガツンと来て、掴みからすごい!情熱的なところでのヴィオラの揺らした音が艶っぽく、ゆったりした流れでの音色は神々しくさえあり、自在に変化する音色が素敵!ピアノのグリッサンドがカッコイイ!第2曲は、弓を譜面台へ置いてからスタート。連続ピッチカートによる演奏が面白くて、目と耳が釘付けになりました。神秘的なピアノと一緒にリズムを刻み、時折入る重低音のアクセントがインパクト大!中盤での弦を擦る演奏は思いっきり情熱的な感じ!第3曲は、少し哀しげな歌曲を歌っているようで、重いピアノの和音に対し、ヴィオラは滑らかで美しいと感じました。やわらかな高音をのばしながら続けて第4曲へ。なんとヴィオラ独奏!はじめはゆったりと美しく、しかし次第にスピード感あるシャープな演奏に。様々な奏法が出てきて、私は初めて聴く音ばかり!演奏は音を発している時はもちろん、間合いにも気迫が感じられました。そのまま続けて第5曲へ。アップテンポなジャズを思わせる音楽で、音を刻むヴィオラにジャズ風のピアノがクール!クライマックスではどんどん勢いを増し、鬼気迫る演奏がとにかくすごい!「主役としてのヴィオラ」の圧倒的な存在感。私はヴィオラの事を知らなすぎました!


後半。はじめはコレッティ「3つの小品」。第1曲、ゆったり歌うヴィオラが、音階を上ったときにふっと音がまるくなるのが素敵!現代曲でも、とても温かさと優しさが感じられる心地よい音楽でした。高音でのフェードアウトがきれい!ガラリと雰囲気が変わった第2曲は、ドラマチックでまるで映画音楽!哀愁たっぷりのピアノの序奏から引き込まれ、続いて登場したヴィオラの哀しい歌がとても素敵でした。哀しいけどどこか温かで、人の心に寄り添ってくれる音色が素敵!途中で登場した短いヴィオラソロは一人語りのよう。中盤、ピアソラのタンゴのようなテンポでの大人っぽい感じがカッコイイ!そして第3曲には度肝を抜かれました。即興演奏のようにキュイーンと鳴らした序奏から入り、舞曲のようなメロディの演奏は、あり得ない程にどんどんスピードを増していって、目の前で繰り広げられる超絶技巧にただただ驚愕!2002年発表の比較的新しいこの作品を、すごい演奏で聴かせて(見せて)頂き感激です!

クラーク「モルフェウスモルフェウスギリシャ神話における夢の神だそう。その名の通り、霧がかかったような響きのピアノに乗って、ヴィオラの曲線を描くようなゆらぐ音が印象的でした。繰り返すピアノのグリッサンドに乗った、ヴィオラの味わい深い低音での歌が心に沁みます。高音でのトレモロインパクト大で、私はなぜかラヴェルを連想。超高音でフェードアウトするラストが素敵!まるで歌曲のような表情豊かで美しい響きが楽しめました。

プログラム最後の演目は、ブラームス「ピアノとヴィオラのためのソナタ 第1番 ヘ短調 Op.120-1」。第1楽章。序奏の分厚いピアノに、私は「ブラームスのピアノ、キター!」と心の中で大喜び!そこに滑らかに乗ったヴィオラのほの暗い音色もまさにブラームスの響きで、最初から心掴まれました。ヴィオラが高音で感情を露わにするところでは芯の通った力強さを、音階を次第に上っていくところには内に秘めた思いが感じられ、すごくドラマチック!クラリネットだと一番低い音から一番高い音への移行となるところでも、ヴィオラはさすがの音域の広さで、低音域にも高音域にもまだまだ余裕がありそう。中盤の穏やかなところでは、ほんの少し希望の光が垣間見えたと感じました。滑らかな重音奏法がとっても素敵!まるで哀しみさえも慈しんでいるかのよう!第2楽章、ピアノの優しい響きに乗って、静かに語るようなヴィオラ。まるで歌曲のような美しさ!強弱の波や音の揺らぎを丁寧に表現する演奏から、繊細な感情の機微が感じられました。ヴィオラが一呼吸のときのタイミングで響くピアノ、これは愛!私が好きなブラームス流の愛と優しさが感じられたのがうれしかったです。第3楽章、2人でゆったりダンスしているような幸せな感じ!ピアノとヴィオラがメインとサブを何度も交代しながら演奏。その流れがごく自然でまったく無理がないのは、何度も共演を重ねてきたお二人だからこそ!ピアノがメインのときのサブのヴィオラがとても細やか。またヴィオラが歌いながら低音域から高音域、高音域から低音域へゆっくりと移動したところにも、複雑な思いを垣間見た気持ちになりました。第4楽章、明るいピアノの序奏から気分があがります。ヴィオラは流れるようなところも音を刻むところも軽やか!リズミカルな掛け合いは楽しく、ピアノのソロでの堂々たる響きや可愛らしいところの変化も素敵!中盤、明るさにほんの少し影が差すところでのヴィオラは、深刻になりすぎない(あくまで個人的な感覚です)のがとっても良かったです。ヴィオラが2回、音階を駆け上っての明るい締めくくりが清々しい!苦悩多き人生での様々な思い超えて、ここに至ったブラームス。最晩年のブラームスに、そしてそんな彼に会わせてくださったお二人の演奏に、大拍手です!

カーテンコールで青木さんがマイクを持ちごあいさつ。客席へのお礼をおっしゃった後、アンコールとなりました。チャイコフスキーの歌曲「ただ憧れを知る者のみが」。原曲はゲーテの詩に曲を付けた歌曲で、今回はヴィオラが歌うスタイルです。ピアノの序奏からとても温かで優しい感じ。しっとり歌うヴィオラが美しい!感極まったところでの高音の重音がすごく素敵!青木さんのヴィオラが持つ歌心の良さを改めて感じました。

拍手喝采の中、青木さんが「もう1曲、弾いてもよいでしょうか?」とおっしゃって、会場はさらに盛大な拍手で盛り上がり、アンコール2曲目へ。カッチーニ(伝)「アヴェ・マリア。私は以前チェロによる演奏を聴いたことがあり、とても好きな曲です。ボンボンボン……と音を刻むピアノの序奏からとてもドラマチック!程なく登場したヴィオラの歌心にまたしても魅了されました。切ないメロディを哀しく歌うヴィオラが美しい!低音域も高音域もどちらも素敵で聴き入りました。盛りだくさんの演目に加えアンコールを2曲も!最初から最後までヴィオラの魅力満載の演奏をありがとうございました!次は、ヴィオラのオリジナル作品の数々と、やはりブラームスソナタ第2番を、お二人の演奏で聴かせてくださいませ。お待ちしています!


この日の前日に聴いたのはこちら。「骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~」(2023/03/14)。カザルスをテーマに、四者四様のバラエティ豊かな演奏。内なる繊細な感情と作曲家の思いを大切に扱ってくださったブラームスに感激!心温まるトークも楽しかったです。

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そして2023/06/23には、青木晃一さんと石田敏明さんも参加される「ブラームス室内楽シリーズ ~イ調で結ぶ作品集~」が開催予定です。弦奏者は全員札響メンバー。演奏機会がとても少ない「ピアノ、ヴィオラとチェロのための三重奏曲 op.114」(クラリネット三重奏曲のヴィオラ版)に大注目!今からとても楽しみです。

www.kitara-sapporo.or.jp


最後までおつきあい頂きありがとうございました。

骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~(2023/03) レポート

doshin-playguide.jp
北海道骨髄バンク推進協会主催によるチャリティコンサート。今回は私達の札響コンマスであるヴァイオリニスト・田島高宏さんと、札響へのエキストラ出演も多いピアニスト・田島ゆみさんの夫婦デュオが出演されました。なお収益は骨髄バンクのボランティア活動に活用されるとのことです。


骨髄バンクチャリティー 田島高宏&田島ゆみ ~春待ちコンサート~
2023年03月14日(火)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
田島高宏(ヴァイオリン) ※札幌交響楽団コンサートマスター
田島ゆみ(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ イ長調 BWV1015
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ短調 op.108

ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
サラサーテカルメン幻想曲

(アンコール)マスネ:タイスの瞑想曲


4つの大曲を「四者四様」のバラエティ豊かな演奏で聴けて、とっても楽しかったです!同じ演奏家が同じヴァイオリンとピアノで演奏しているにもかかわらず、すべて異なるカラーの音楽。メインディッシュを一度に4つも頂けて、しかも全部味わいが違うため、毎回新鮮な気持ちで聴けました。当たり前ですがオケとは違い指揮者がいない中、演奏家のお二人で方向性を決めて多種多様な音楽を創りあげてくださったのですね。ありがとうございます!また今回はヴァイオリンの演奏会にもかかわらず、チェリストのカザルスがテーマというのもユニークでした。一人の演奏家を軸に、性格が異なる様々な演目を集めるアイデア、とっても面白いです!これから流行るかも!?

個人的には、やはり大好きなブラームスをお二人による演奏で聴けたのがうれしかったです。今回取り上げられたヴァイオリン・ソナタ第3番は、実を言うと第1番や第2番と比べ私はそこまで好きになれずにいました。第1番や第2番のブラームスらしい歌心ある音楽に対して、第3番はどうも演奏家の勝負曲として扱われるイメージが強くて、演奏家は目立ってもブラームス自身の姿はよくわからない?というモヤモヤを抱えていたのです。しかし今回、他の作曲家との組み合わせかつ前半での演奏だったのと、とにかく演奏自体が心を込めた大変素晴らしいものだったおかげで、私は第3番をとても好きになれました。強い感情の発露は、そこだけが注目されがちなのですが、ブラームスの場合はそこに至る過程とその後にも意味がある!今回の田島デュオによる演奏は、強弱や音色のニュアンスを細かく変えながら、微妙な感情の揺らぎや移ろいを丁寧に表現。その積み重ねが結果として強い感情に繋がる流れになっていて、大変説得力があると私は感じました。また、歌うところの温かさもとっても素敵!やはりブラームスは歌心が大事!派手さや技巧に凝る「演奏家ファースト」とは一線を画して、内なる繊細な感情と作曲家の思いを大切に扱ってくださる――みんなが付いていく田島コンマスはこんなお方なのだと実感し、私は胸が熱くなりました。ちなみに田島高宏さんは「ブラームスは個人的に一番好きな作曲家」なのだそうです。私、確かに聞きましたよ!今後、田島高宏&田島ゆみデュオで第1番と第2番の演奏もぜひお願いします♪

今回の演奏会の収益は寄附とのこと。頭が下がります。演奏の合間のトークでは、北海道骨髄バンクの活動についての紹介もありました。その心温まるトークも楽しかったです。お話ししたのは田島高宏さん。とても誠実なお話ぶりにはお人柄の良さが感じられました。また発言なさる度に会場には温かな微笑みがあふれ、終始和やかな雰囲気。お客さん達にとても愛されていらっしゃる!そしてお二人で演奏開始のタイミングを合わせる際は、お互いにアイコンタクトをしてニコッとスマイルされていたのが本当に素敵でした。田島高宏&田島ゆみデュオ、地元にこんな素晴らしい演奏家がいてくださることに感謝!お二人はオケや後進指導等でご多忙とは存じますが、これからも時々はデュオでの演奏を聴かせてくださいませ。チャリティーでも、もちろん通常のリサイタルでも。


お二人が舞台へ。田島ゆみさんの衣装は、限りなく白に近いグレージュ色のふわっとしたドレスでした。すぐに演奏開始です。はじめは、J.S.バッハ「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ イ長調 BWV1015」。第1楽章では、ヴァイオリンはかすれる音色で音を震わせて歌い、それを追いかけるピアノもチェンバロ風の音。この独特な音色と規則正しいテンポに、私はバロック期の音楽「らしさ」を感じました。第2楽章は、少しテンポが速くなり強弱のメリハリもある躍動感あふれる感じに。ピアノの上を高音で華やかに歌うヴァイオリンは、まるで「春」の喜びのよう!弓を大きくうねらせ軽やかに音を奏でる姿が印象的でした。第3楽章は雰囲気がガラリと変わり、陰りのある寂しげな音楽に。ヴァイオリンの震わせた音がとても切なく響いて素敵!またピアノは右手のメロディはもちろんのこと、左手の低音に存在感があると感じました。第4楽章、ヴァイオリンとピアノが会話するように細かく呼応しながら、明るくテンポ良く跳ねるような音楽が楽しい!モダン楽器による演奏で、こんなにもバロックらしい音楽を楽しめるなんて!大枠は規則正しくても、その制約の中で明るさや憂いの表情をごく自然に表現する演奏。とっても素敵でした!

ここで田島高宏さんがマイクを持ってごあいさつ。「普段演奏しているオケでは、しゃべることはないので、原稿を作ってきました」と、譜面台から原稿をさっと取り出されました。早速会場が和み、温かな雰囲気に。トークはその原稿を参照しながら進められました。はじめに「骨髄バンクチャリティー」という今回の趣旨と、「音楽を通じて楽しい時間を過ごしたい」との思いを。また今回のテーマは「カザルス没後50年」にちなんだものとのこと。チェリストであるカザルスは、バッハの無伴奏チェロ組曲を発掘し世に広めたことでも有名ですね。またブラームスをとても愛していたのだそう。そして同時代を生きて面識あるドビュッシー、同郷(スペイン)のサラサーテ。田島高宏さんは、図書館で借りたカザルスの本(こちらでしょうか?『カザルスとの対話』J.M. コレドール (著), 佐藤 良雄 (翻訳) 白水社)がとても面白かったと仰って、そこに書かれていたエピソード紹介(チャリティコンサートのゲネプロにて指揮者の心ない発言にカザルスが怒り、裁判沙汰にまでなったお話。このゲネプロにはドビュッシーもいたのだそう)もありました。

ブラームス「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ短調 op.108」。作曲当時ブラームスの周辺では同世代の知人が次々と亡くなっていて、憂いや憧れ、嘆き……といった感情を抱えつつも温かい音楽、といったお話がありました。第1楽章。厚みあるピアノに乗って、そっと入ったヴァイオリンに、早速気持ちが持っていかれました。うまく言えないのですが、繊細な感情をそっと扱ってくれる、さりげない優しさが感じられる音。私はこの音に一目ぼれです!ピアノとヴァイオリンが一緒になって、細かくクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すのが、揺らぐ気持ちを表しているよう。感情の機微を丁寧に表現してきたからこそ、ヴァイオリンによる高音の悲鳴が胸にきました。ヴァイオリンに最初のメロディが帰ってきたとき、今度は明快な音に変化していて、前向きな意思が感じられたのが素敵!楽章締めくくりに向かう流れでは、ヴァイオリンは次第に低音へ沈みながらフェードアウトして、一方のピアノは高音へ上っていったのがとても印象に残っています。ゆったりとした第2楽章は、優しい響きのピアノの上で、甘やかに歌うヴァイオリンが温かな響きで心地よかったです。感極まった重音がとっても素敵!第1番や第2番に引けを取らない「ブラームスの歌心」がなんとも温かく心に沁みました。第3楽章では、ピアノとヴァイオリンが呼応しながらの2拍子のリズム。緊迫感ある演奏に引き込まれました。細かく入る休符では2人でピタッと息が合うのが気持ちイイ!感情が頂点に達した重音のシャープさはもちろん、その後に続く切なく哀しいところに私はとても胸打たれました。少しゆったりしたところのヴァイオリンの細やかさ!そして第4楽章へ。音の刻みがなんて情熱的!またヴァイオリン小休止のときのピアノがとても良くて、特にしっかりと歩みを進めているような低音がドラマチックで印象的でした。ピアノのメロディを引き継いだヴァイオリンが、大泣きするのではなく、清濁併せのんだ大人が哀しみを内に秘めているような感じなのがブラームスらしくて超素敵!ラスト直前の休符での沈黙は間合いが絶妙!悲劇的で力強い締めくくりに圧倒されました。技巧的な面が注目されがちなブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番に、ようやく作曲当時のブラームスの姿が見えた気がして、私は感激しました!曲に隠された複雑な心の機微を丁寧にとても大切に表現してくださり、ありがとうございます!演奏後、田島高宏さんが「休憩時間は自由に過ごされて良いのですが」と前置きした上で、「(骨髄バンクに関する)ロビーの展示をご覧ください」とアナウンス。休憩時間となりました。


後半、田島ゆみさんはマーメイドラインの黒のドレスにお着替え。はじめはドビュッシー「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ。作曲家の遺作とのことです。晩年は第一次世界大戦と重なり、薪を買うお金にも困窮していたというドビュッシー。最晩年に様々な編成の室内楽を6つ作る計画をして、生み出された3番目の作品が今回取り上げるヴァイオリン・ソナタなのだそう。4番目以降は幻になってしまったのですね……。また今回のヴァイオリン・ソナタに関しては、ドビュッシーは第3楽章の推敲を繰り返したとのことで、「そのように演奏できるよう努力したい」とも仰っていました。第1楽章。はじめの幻想的なピアノの響きに続き、小さな音から入ったヴァイオリン。静かな夜を思わせる感じから、ぱっと強奏になり高音で訴えかけてきたのがインパクト大!滑らかに変化する強弱の波に、低音でたゆたうようだったり超高音で消え入ったりのヴァイオリン、ぐっと低音を効かせたり高音キラキラだったりのピアノと、変化が多く立体的な音の響きを体感できました。第2楽章。出だしのヴァイオリンが鮮烈な印象!ヴァイオリンとピアノがリズミカルに掛け合うのが小気味よく、ピアノのターンでのヴァイオリンのピッチカートがカッコイイ!この楽章も変化が多く、ヴァイオリンはフワフワ宙を彷徨うような感じだったり、一定のテンポで高音を刻み続けたりと、ミステリアスな感じなのが素敵でした。第3楽章では、幻想的な雰囲気は残しつつも、明快な音による勢いある演奏は、今を生きる人そのものだと私は感じました。クライマックスは次第に力強くなり、超高音でのトレモロがカッコイイ、生き生きとしたエンディング!希望の光が見えるようで、ドビュッシーがこれを作曲した時にはまだ生きる気満々だったのでは!?と思えた演奏でした。

サラサーテカルメン幻想曲」。「ずっとソナタを演奏してきたので、1つくらいは楽しい曲を」と考えて選曲されたそうです。でも「難しいですね……」と演奏家の本音が出て、会場が和みました。「皆さんは自由に楽しんでください」と、演奏開始です。アラゴネーズのメロディは、パワフルなピアノの序奏がクール!程なく登場したヴァイオリンの妖艶な音色にぐっと引き込まれました。超高音で歌ったかと思うとぐっと深い低音になったり、ピッチカートでも歌ったりと、多彩な表情を見せる演奏に目と耳が釘付けに。中でも弦を抑える左手を滑らせる奏法(名前がわからずごめんなさい!)が見た目にも鮮やかでとても印象に残っています。ハバネラのメロディでは、低音でゆっくりステップを踏むようなピアノの序奏から入り、重なるヴァイオリンがここでも様々な表情を見せてくれて、とても魅力的でした。出ました左手ピッチカート!また、あえてずらしていると思われますが「タタン、タッタ♪」のリズムはピアノとヴァイオリンが交互に演奏して決して重なり合わなかったのが不思議な感覚で、一筋縄ではいかないカルメンの魔力のようにも感じました。トゥ・ラララのメロディでは、ピアノは時折ポンと短い音を発する程度で、際立ったヴァイオリンソロは孤高な感じなのがカッコイイ!セギディーリャのメロディは、再びピアノ前奏から。ダンスのステップを思わせる音楽に、ピッチカートや超高音などでアクセントが入るのが素敵!ジプシーの歌では、速いテンポでの繰り返しが表情を少しずつ変えながら、どんどんスピードを増していきました。ラストスパートの超高速演奏がすごいことすごいこと。超絶技巧てんこ盛り、すごいものを見せて(聴かせて)頂きました!

拍手喝采の中、田島高宏さんのごあいさつとトーク。今回の演奏会は、骨髄バンクの活動について考えるよいきっかけになったと仰っていました。そして札響の話題に。オケ自体はもちろんのこと、メンバーそれぞれがソロや室内楽でも活躍していると仰って、「札響の応援の程をよろしくお願いします」。会場に大きな拍手が起きました。「今の争いがおさまりますように。皆様の幸せを願って」、アンコールへ。田島高宏さんが額の汗を拭ってから(大熱演でしたからね……)、演奏が始まりました。マスネ「タイスの瞑想曲」。ピアノの優しい響きに乗った、ゆったり歌うヴァイオリンが美しい!高音で歌うところも、時折低音を効かせるところも素敵で、心が安らぎました。大熱演の後にしっとりとしたアンコールまで、素敵な演奏をありがとうございます!

カーテンコールではお二人への花束贈呈がありました。終演後、私は募金箱に心ばかりの寄附をしてから帰路へ。田島高宏&田島ゆみデュオによる演奏で、個性豊かな名曲の数々を聴けて幸せです!北海道骨髄バンク推進協会さま、今年も素晴らしい企画をありがとうございました。来年以降も素敵な企画をお待ちしています!


この日の5日前に聴いた、本年度(2022年度)最後の札響主催公演はこちら。なお田島ゆみさんは前半プログラムにてピアノ兼チェレスタをご担当。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第12回」(2023/03/09)。バッハ演奏の第一人者・鈴木雅明さん指揮による、矢代秋雄とチャイ6の2つの交響曲。この2曲を組み合わせた心意気と、リズムを活かした生き生きとした演奏に感激!私にとって記念すべき出会いとなりました。

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この日のちょうど1カ月前、田島高宏さんのソロ演奏がたっぷり堪能できた特別演奏会はこちら。なお田島ゆみさんはチェンバロ奏者としてご出演されました。「札幌交響楽団 in ふきのとうホール Vol.4」(2023/02/14)。バーメルトさんと札響によるハイドン交響曲の朝・昼・晩。独奏たっぷりで各パートの見せ場も多く、物語のような展開もある、小編成ならではの魅力満載!親密で心温まる演奏会でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第12回(2023/03) レポート

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↑指揮者の鈴木雅明さんからのメッセージ動画が札響公式YouTubeチャンネルで公開されています。

本年度(2022年度)最後のhitaru定期では、日本人作曲家の作品(矢代秋雄)とロマン派を代表する作品(チャイ6)の2つの交響曲が取り上げられました。指揮はバッハ演奏の第一人者である鈴木雅明さん。ちなみに鈴木雅明さんは矢代秋雄さんに作曲を師事されたとのことです。


札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第12回
2023年03月09日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru

【指揮】
鈴木 雅明

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
矢代秋雄交響曲(1958)
チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」


事前予想を良い意味で裏切ってくれた、私にとって記念すべき出会いとなりました。この2つの交響曲を今回の札響の演奏で聴けてよかったです!まったく知らない曲も知っているつもりの曲も、やはり実演に触れるまでその真価はわからないと改めて実感。正直なところ今の私には難しそうと思っていた矢代秋雄は、いざ実演に触れると日本人のDNAに響くような独特のリズムが面白くて、自分なりに楽しむことができました。また録音ではそれなりになじんできた(ちなみに生演奏では今回がお初でした)後半チャイ6についても、ベースには心臓の鼓動のような温かなリズムがあると感じられて、今まで気付かなかった魅力を発見。一見まったく似ていない今回の2つの交響曲は、命を感じるリズムがあり人間味あふれるのが共通していると私は感じました。あと細かなところでは、第1楽章の音型が第4楽章にて異なるカラーで再現することや、盛り上がりの頂点でキマる打楽器の存在、クライマックスで一旦沈黙がある(終わりと勘違いしそうな?)ところも似ているかも。指揮者の鈴木雅明さんの、この2曲を組み合わせた心意気と、もちろんリズムを活かした生き生きとした演奏に感激!そして今回は2曲ともフライング拍手等はなく、演奏後にしばしの沈黙があり、残響の余韻をじっくり味わえたのがとても良かったです。

今回は対向配置。ヴァイオリンがステレオで聞こえたり、低弦の振動がいつもとは反対側から伝わってきたりと、慣れているのとは違う感じが新鮮でした。また今回の私の席は舞台に近かったためか、奏者お一人お一人の音が比較的クリアに聞こえたのがよかったです。ホール全体の響きについては今の私にはよくわからないのですが、目の前で演奏が繰り広げられるからこそ、奏者お一人お一人の呼吸や間合いや音の振動がダイレクトに感じられて、立体的な響きを五感で楽しめる良さもありました。やはりライブはイイですね!ただ視界の面では、舞台の後方は見えず、かつ前に座った人の頭で遮られがちだったのがちょっと残念でした。座席選びは難しいです。


前半は矢代秋雄交響曲(1958)。今回が札響初演とのことです。対向配置で、舞台向かって時計回りに1stヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリンの並び。コントラバスはチェロの後方に配置されていました。弦の人数は多く(正確な数は把握できず)、低音管楽器が入り、多彩な打楽器にハープ2台、チェレスタとピアノは兼任で1名という大所帯!第1楽章、寄せては返す波のようなヴァイオリンの神秘的な音色にぞわぞわ。時折入る様々な打楽器の音、中でも何度も登場した鐘(チューブラーベル?)と盛り上がりの頂点でのシンバルが印象的でした。しかしこの段階では、私は正直まだ乗れずにいました。そして噂の第2楽章へ。ティンパニを要に「テンヤ、テンヤ、テンテンヤ、テンヤ」の特徴的なリズム!低弦ピッチカートにパンチある金管ビブラフォン等の音階のある打楽器など、各楽器で丁々発止のやりとりをするのが面白かったです。気迫ある演奏で立体的な響きを全身で感じられ、自分なりに楽しめました。大音量でのシメの一撃がインパクト大!続いて第3楽章は、はじめ弦が沈黙し、低音のイングリッシュホルンとアルトフルートがゆったり会話するようなやりとり。私の席からは奏者のお顔が確認できなかったのですが、静寂の中に浮かび上がる2つの低音木管の音色には演奏家の体温が伝わってくるような人間味が感じられ、心にしみ入りました。ハープのグリッサンドに続いて他のパートが参戦してからは、特に打楽器の刻む独特のリズム(「タンタン、タタ」のような?)がとても日本的に思えて、不思議と懐かしさを覚えました。またこの楽章ではヴィオラのソロとヴィオラパートのみのトレモロがあり、ほの暗い演出がとても良かったです。第4楽章、プログラムノートに「雅楽能楽を想起させる」とあった2つのピッコロの音がインパクト大で、盛り上がりの頂点でバシッとキマる打楽器の存在感!弦や管によるメロディの演奏で独特のリズム(「タタン、タタタタン」のような?)を刻んでいたのが印象的でした。クライマックスでは、大音量での盛り上がりの後にしばし沈黙があり、ここで終わり?と思いきや続きがあって驚き(笑)。もう一度盛大に盛り上がって、華やかに締めくくり。独特なリズムを全身で感じ取れて、それが「生きている」実感となる喜び!予想よりもはるかに楽しく聴くことができました。


後半はチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」。札響では過去80回の演奏歴がある定番曲。今回のオケは対向配置かつ金管群が左右に分かれて配置されていたようです(私の座席からははっきり確認できず)。第1楽章、コントラバスファゴットによる厳かな出だしがぐっと来て、早速引き込まれました。弦による音階の駆け上りが素敵!哀しいけど美しく、世界が広がり希望の光が見えた気がしました。そしてクラリネットソロのほの暗く優しい響き!チャイ5の冒頭のクラリネットソロをふと思い出したりしながら、しみじみ聴き入りました。音が消え入ってから、バン!とオケ全体による大音量が来て、私は心底ビックリ!よく知るはずのこの曲でも、その時は気持ちがすっかりクラリネットに持って行かれていたので……。しかしスピード感ある流れに華やかな金管と、気持ちがぐいぐい引っ張られていくのが快感でした。第2楽章、冒頭チェロが哀しげに歌うのがすごく素敵!個人的に好きなこのメロディを札響メンバーの演奏でついに聴けて、とてもうれしかったです。メロディを受け渡した各パートの演奏も素敵で、弦がかわいらしいピッチカートでリズムを作っていたのが印象的。メロディが変化してからの流麗な流れでは、ずっとティンパニが細かくリズムを刻んでいたのが、まるで心臓の鼓動のような温かさを感じました。弦と木管群の会話するようなやりとりが温かく、やはりこの楽章は愛!としみじみ。第3楽章、タッタッタッタッのリズムが楽しく、華やかな盛り上がりが素敵!管楽器群はもちろんのこと、弦はピッチカートだけじゃなく弦を擦る演奏でも跳ねるように音を発し、聴いていてウキウキしました。高音弦から低弦へのスピード感あるリレーに、全員合奏でのジェットコースターのような音階駆け上りと下りがカッコイイ!絶妙なタイミングでのシンバルの一撃!パンチある金管!この楽章はリズムに乗れて超楽しかったです!そのまま続けて第4楽章へ。悲愴な弦の音色がとっても素敵!音階駆け上りは、第1楽章とは違って今度は命の終わりを予感させるようでした。ファゴットの沈んでいくような低音、ホルンの音の刻みが心にしみ入り、盛り上がっていく流れで頂点に達した時のティンパニの一撃!休符の後、再び美しい弦から始まる流れでは、小さな音でリズムを刻むタムタムとそこに重なる金管群がとても素敵でした。教会音楽のような、哀しいのに温かな響き!そしてラストの、コントラバスとチェロのみで次第に音が小さくなり消え行く流れが最高!録音ではピンとこなかったここが、まさに目の前で火が消えていくような感じで体感できたのは、想像以上の良さでした。ライブで、しかも札響の低弦で聴けた喜びはひとしお!今回の演奏では、チャイコフスキー自身が「この交響曲の本質は人生」と言った、その本質を初めて体感し実感できてうれしかったです。ありがとうございます!


命の鼓動を感じるリズムに気分が高揚し、自信に満ちた力強い堂々たる響きに圧倒されたシューベルト「ザ・グレイト」がメインプログラムだった演奏会はこちら。「札幌交響楽団 第650回定期演奏会」(日曜昼公演は2023/02/14)。異次元の世界に触れた武満作品、天国的な響きを楽しめたモーツァルトの協奏曲、そしてメインのザ・グレイト。プログラム内容も演奏も超グレートでした!

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