自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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第19回 北海道信用金庫 札響クラシック&ポップスConcert(2022/11)レポート

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北海道信用金庫が毎年開催している、札響クラシック&ポップスConcert。原則として文化の日に開催され、親しみやすい演目が取り上げられます。第19回となる今年(2022年)のポップスは、ジョン・ウィリアムズの映画音楽がテーマ。また指揮は北海道信用金庫の主催公演ではおなじみの尾高忠明さんが3年ぶりの登壇です。なお、チケットは早い段階で全席完売したそうです。

 

第19回 北海道信用金庫 札響クラシック&ポップスConcert
2022年11月03日(木)13:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
尾高 忠明(名誉音楽監督

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】(司会:宇都宮 庸子)
<オープニング>
村井邦彦:虹と雪のバラード

<第1部>クラシック
ドヴォルジャーク交響曲第9番新世界より

<第2部>ポップス~ジョン・ウィリアムズの世界~
「レイダース/失われたアーク」より レイダース・マーチ
シンドラーのリスト」より メイン・タイトル(ヴァイオリン独奏:会田 莉凡)
E.T.」より フライングテーマ
セブン・イヤーズ・イン・チベット」より テーマ(チェロ独奏:石川 祐支)
スターウォーズ」より メインタイトル

(アンコール)J.シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲


耳なじみのある音楽を迫力の札響サウンドで思いっきり楽しませて頂きました!当日の満員の会場の熱気からも、また販売開始して早々にチケットが完売したことからも、このような企画を札幌市民は待ち望んでいると私は強く感じました。コロナ禍において感染症対策を万全にした上で、全席2500円というリーズナブルな価格で、こんなに充実した演奏会を提供くださった北海道信用金庫さんにお礼申し上げます。また、一部の座席は盲学校の生徒さん達をご招待したとのこと。「ひまわり財団」を通じての社会貢献活動にも頭が下がります。

個人的に楽しみにしていたジョン・ウィリアムズの映画音楽は、壮大で明るくパワフルな音楽と、じっくりしっとり聴かせるソロ演奏が素敵な音楽、その両方をたっぷり楽しめてうれしかったです。ソロ演奏はさすが私達のコンミスと首席!札響メンバーはお一人お一人が素晴らしい演奏家でいらっしゃると改めて実感しました。スターソリストをお招きするのも良いけれど、もっと札響メンバーによるソロ演奏を聴きたいと、私は率直に思います。また尾高さんはご自分のことを「映画のセールスマンみたい」と仰るほど、曲の合間のトークでの映画にまつわるお話のあれこれは多岐にわたり、尾高さんの映画への愛が伝わってきました。ちなみに2018年の第16回公演の際、尾高さんは「指揮者になっていなければ映画監督になりたかった」と仰っていたと私は記憶しています。尾高さんの作品への理解と何より愛がある演奏のおかげで、ほんの短い演奏時間でも私達はその映画の世界にどっぷり浸ることができました。今回取り上げられたジョン・ウィリアムズの映画音楽は、クラシック音楽ではなかなか出会えないリズム感が新鮮!その一方、高音の美メロだけでなくがっちり低音の支えが効いている曲作りはクラシック音楽とも共通すると私は感じました。「100年後にはクラシック音楽の定番曲になっている」との尾高さんの言葉、本当にその通りだと思います。クラシック音楽とポピュラー音楽に本来垣根はないはず。来年度以降も、ぜひ尾高さんセレクトによるポピュラー音楽を、愛あふれる演奏で聴かせてくださいませ!

そして、超定番の「虹と雪のバラード」と「新世界より」、アンコールの「ラデツキー行進曲」も楽しかったです。いつものレパートリーを誠実に演奏するのはとても大切なことですよね。それに定番曲は聴く度に新たな発見があるのが楽しいです。例えば「新世界より」では、フルートが1stだけでなく2ndもソロ演奏をするとか、金管オンリーと思っていたところは木管も入っていたとか(※こんなレベルで申し訳ないです)。ちなみに今回私は2RAで聴いていましたが、オケを横から見ることで普段は見逃してしまいそうな魅力にも気付くことができました。特に、弦の皆様の演奏姿の美しさにはホレボレ!2階のステージ横の席は、一般的にはチケット代がお安いエリアでもありますから、一部の見切れを承知の上で選ぶのはアリ!と思いました。


オープニングはおなじみ村井邦彦「虹と雪のバラード」。1972年2月開催の札幌オリンピックのテーマソングで、北海道信用金庫が主催する札響コンサートでもテーマ曲として取り上げてきた演目だそう。冒頭のティンパニから気持ちを掴まれ、おなじみのメロディに聴き入りました。ほんの一部ですが、チェロが2パートに別れて演奏していたところを発見。サビの盛り上がるところの金管群とドラムセットがカッコイイ!今回の演奏もとっても素敵でした!

今回の「クラシック」は、超定番のドヴォルジャーク交響曲第9番新世界よりです。第1楽章、中低弦による静かな出だしに、重なる木管群。安定の演奏に聴き入りました。大迫力のティンパニに続いた、弦のトレモロにホレボレ。シャープな音もさることながら、その一糸乱れぬ弓の動きが超カッコイイ!比較的舞台に近い座席で横からオケを拝見すると、こんな発見もあるのがうれしかったです。クレッシェンドで盛り上がっていくところの力強さ!そして今回、フルートがやや低めの音で物悲しく優しく歌うところがとても心に染み入りました。第2楽章、低音木管金管群による出だしは、チューバもいるオーソドックスなスタイル。ぐっと重厚感のある響きでした。「家路」のメロディを歌うイングリッシュホルンは宮城さんがご担当。耳なじみのある温かな響きに癒やされました。併走するクラリネットの低音も素敵!弦楽合奏の澄んだ響きに、やはり弓の動きが美しく、耳と目でそれを堪能。また木管群が哀しく歌うところでは、弦の下支えの職人技を今更ながら実感しました。そして、弦楽八重奏、続いて弦楽三重奏へ。まるで惹かれ合う恋人同士の語らいのような、温かで優しい響き!kitara大ホールでのフルオケ演奏の中、この一瞬だけ弦楽三重奏に浸れる贅沢!何度でも聴きたい!雰囲気がガラリと変わる第3楽章は、新大陸を列車が走る勇ましさにゾクゾク。それだけでなく、各パートで細かくメロディを受け渡すところの職人技を目でも確認できたのがうれしかったです。途中下車(?)での明るい舞曲では、楽しくステップを踏むような木管群やヴァイオリンと、それを下支えする中低弦の重なりが素敵!再び盛り上がってくる波がまた良かったです。全員参加の力強い1音によるシメから、そのまま続けて第4楽章へ。冒頭の、弦楽合奏による低音が超カッコイイ!金管群の勇ましいところは、実は木管群も頑張ってくださっていたとは……今まで気付かずごめんなさい!また高音弦と呼応する低弦がやはり個人的にツボ。一打のみのシンバルを見届け、木管群が順番に歌うところで、合いの手を入れるチェロが印象的でした。これが別のところでは弦楽合奏が歌うところで木管群が合いの手を入れたのが面白かったです。聴きやすいメロディに変化が多い流れで、一瞬たりとも退屈しない音楽。何より毎回真剣な演奏で聴かせてくださる札響の皆様のおかげで、今回も楽しく聴くことができました。


後半は「ポップス」。今回は「ジョン・ウィリアムズの世界」です。最初は「レイダース/失われたアーク」より レイダース・マーチ。♪ダッ・ダダダダ・ダッダ♪のリズムに乗って、パワフルな金管がカッコイイ!迫力ある演奏によるおなじみのメロディに、客席のテンションも一気にアップした印象。中盤、少し落ち着いたところでのホルンと低弦の重なり、そこに続いたヴァイオリンとチェロが語らうようなところが個人的にツボでした。チェロはいつもクールですが、対するヴァイオリンの甘やかで美しい音色がすごく良くて!このヴァイオリンはチェロに恋してますよきっと!こんな素敵なシーンがあった意外性も楽しかったです。

シンドラーのリスト」より メイン・タイトル。ヴァイオリン独奏はコンミスの会田莉凡さんです。会田さんは、着席していたイスの前に立って演奏されました。オケの序奏に続いて登場した、独奏ヴァイオリンのぐっと深く哀しい音色!瞬時に世界を変えた音に、私ははっとさせられました。私の場合、弦は最初の音に心掴まれてしまったら、もう完敗です。いっそう切なさを際立たせたハープ、ありがとうございます!深い哀しみは、高音になると魂の叫びのようにも感じられ、包み込むオケが哀しいのにどこか温かく、心に染み入りました。木管群と呼応したところでは、中でもイングリッシュホルンの低く物悲しい響きが印象に残っています。ラストは、独奏ヴァイオリンがはかない高音でフェードアウト。短い演奏時間でこれほどまでに感情を揺さぶるヴァイオリン!超素敵でした!

E.T.」より フライングテーマ。最初からテンションMAXの清々しいオーケストラサウンドに、広大な世界が広がったようでした。華やかな高音だけでなく、ぐっとアンカーとなる低音もしっかり効いているのが好き。ハープや鉄琴など、客演による演奏も存在感抜群!澄んだ響きの弦、楽しくかわいらしい木管、パワフル金管と、札響の良さが全部入り!全体的に大音量大迫力での演奏の中、クライマックス直前での清涼剤のようなピッコロ独奏が印象的でした。

セブン・イヤーズ・イン・チベット」より テーマ。チェロ独奏は首席奏者の石川祐支さんです。トークの時間で第1ヴァイオリンの前に演奏台が設置され、石川さんはそちらに移動。またチェロパートは副首席から順番に繰り上がりで座席を移動なさっていました。壮大なオケの前奏に続いて、独奏チェロの登場。なんというか、哀しみをたたえた艶やかな音が素敵すぎて……もう絶対に敵いません。歌う独奏チェロに引き込まれ、特に高音に振れたときの切なさに胸打たれました。中盤、オケが東洋的な響きになって(中国の音階のような?また個性的な打楽器も存在感ありました)、そこに続いた独奏チェロもまた東洋的な音色に変化(!)。演出として揺らぐ音がすごく良かったです。ラストは、独奏チェロがぐっと低い音で闇に沈んでいくような演奏をされたのが忘れられません。私はまだまだチェロの魅力を知らなすぎる……今回もまた未知の音に出会えました!

プログラム最後の曲は、スターウォーズ」より メインタイトル。最初からテンションもりもりMAXの華々しいオーケストラサウンドに、スケール無限大の世界が広がりました。少し穏やかになってからの、美しいハープと重なるピッコロ独奏が素敵!♪ダン・ダン・ダダダダ♪のティンパニ強奏と同じリズムで音を刻む弦が楽しい!ホルンのパワフルでスケールの大きな響き!中低弦が主役となって歌うところがあったのがウレシイ。フィナーレは、パワフルな金管群にティンパニとドラムセットが超カッコイイ!大盛り上がりの締めくくりに、満員の客席の気持ちも最高潮に達しました。

カーテンコールの後、アンコールへ。定番のJ.シュトラウス1世「ラデツキー行進曲。指揮の尾高さんは時々客席の方を向いて、手拍子しながらお客さん達の音頭取り。今回の客席は比較的慣れているかたが多かったのか、手拍子はうまくてテンポが合っていたと私は思います。舞台にいる奏者のかたも、出番がないピアノや管楽器・打楽器の一部のかたが一緒に手拍子に加わってくださいました。中間部は手拍子はお休み(ここを間違える人はいませんでした)、じっくり演奏を聴くことができました。後半はまた手拍子で盛り上がり、華やかに締めくくり。とっても楽しかったです!定番曲の安心感と、多彩なジョン・ウィリアムズの世界。100年後もきっと聴かれている曲の数々を、尾高さん指揮による札響の演奏で聴けてうれしかったです。素晴らしい企画と演奏をありがとうございました!

終演後、司会のかたからご挨拶と、「ひまわり財団」への支援呼びかけ、来年度も11月3日にコンサート開催予定などのお話がありました。そして分散退場へ。最近は分散退場を取りやめている公演も多いですが、今回は満席だったこともありますし、混雑緩和のためにも良かったのでは?ちなみにチケット購入時には、時間を区切った入場整理券もセットで渡されました。万全の感染症対策をした上での演奏会の開催、改めて感謝です。来年度以降も素敵な企画をお待ちしています。


企業主催公演といえばこちらも。「タナカメディカルグループ主催 札幌交響楽団 無料招待コンサート2022」(2022/09/21)。指揮・横山奏さん ピアノ・石田敏明さん。リストの協奏曲では重厚なオケに負けない力強く優雅で美しい響きのピアノに魅了され、後半の有名曲の数々も高クオリティ。気分爽快になりました!

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kitara大ホールにて堂々たるソロ演奏で2000人超を魅了した、札響首席チェロ奏者・石川祐支さんが、20人弱の聴衆を前に弾いてくださった演奏会はこちら。「第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ」(2022/10/15)。小さな会場にて、少人数で聴くサロンコンサートはとても贅沢!秋に聴きたいチェロの小品の数々を、作品への愛が感じられる素敵な演奏で聴かせてくださいました。トークも楽しかったです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第648回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/10)レポート

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今回(2022年10月)の札響定期は、首席指揮者のバーメルトさんが今年5月以来となる久しぶりの登場です。また、今をときめく若手チェリストの佐藤晴真をソリストにお迎えするのは2021年2月のhitaru定期から1年9ヶ月ぶり。そしてメインの「戦時のミサ」では、第九以外で札響合唱団が出演するのは3年ぶりとのことで、大変注目されていました。

今回のオンラインプレトークは、札響の首席チェロ奏者 石川祐支さんと首席ティンパニ・打楽器奏者 入川奨さんがご出演。今回ソロの見せ場がたっぷりあるお二人が、ソロパートだけじゃない今回のプログラムの魅力をたっぷり語ってくださっています♪

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札幌交響楽団 第648回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年10月22日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
マティアス・バーメルト

【出演】
佐藤 晴真(チェロ)

安井 陽子(ソプラノ)
山下 牧子(メゾソプラノ
櫻田 亮(テノール
甲斐 栄次郎(バリトン

札響合唱団(合唱)
(合唱指揮:長内勲、大嶋恵人、中原聡章)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」
C. P. E. バッハ:チェロ協奏曲 イ長調
ソリストアンコール)J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 より サラバンド

ハイドン:ミサ曲ハ長調「戦時のミサ」


自分にとってはなじみが薄いミサ曲に、やや構えていた私。しかし今回の「戦時のミサ」は、合唱と4名の独唱がストレートに心に響き、その美しさに浸ることができました。人の声って良いですね!たとえ言葉の意味がわからなくても、その思いは共有できたと感じます。結局のところ人が歌うのは音楽の原点なのかも。そして演奏はもちろんのこと、ラストの音が消え入った後の静寂がとても良かったです。国際情勢や感染症拡大、それ以前にただまっとうに生きていくだけでも、心がざわつくことばかりの昨今。心の平穏を求める祈りのような時間があったのは、大変ありがたいことでした。一般受けする演目ではないためか、会場に空席が目立ったのがもったいない。しかし、トレンドとも奇抜さとも無縁の、長く生き続ける作品を折に触れて取り上げていくことが、クラシック音楽ではとても大切なのだと私は思います。多くの財団からの支援があったのもありがたいです。今の時代に大変重要な演目を取り上げ、素晴らしい演奏で私達に聴かせてくださった、バーメルトさんと札響の皆様、そして札響合唱団の皆様にお礼申し上げます。特に合唱は、コロナ禍もあり、人が集まっての練習は大変だったことと存じます。思いを一つにした合唱はとても心に響きました。ありがとうございます!

またC.P.E バッハのチェロ協奏曲では、まずソリスト・佐藤晴真さんの以前よりさらに深みを増した音に触れられたのがうれしかったです。独奏チェロは存在感ありながらもオケに溶け込んでいたと私は感じました。加えて、オケの室内楽のような緻密なアンサンブルによる古風な響きがとても新鮮!私が古風だと感じたのは、チェンバロの影響だけでなく、弦の音色自体がバロック期の音楽を思わせる硬質な音(うまく言えず申し訳ありません)だったからだと思います。おそらくスチール弦を張ったモダン楽器でも、こんな音で表現できるんですね!札響の弦メンバーのお力を改めて認識しました。こんなチェロ協奏曲に出会えてうれしい!個人的に、チェロはヴァイオリンと比べて協奏曲の数が少ないのをもどかしく感じていました。しかし私が知らないだけで、隠れた名曲はまだまだあるのかも!?これからもあまり知られていない作品を積極的に取り上げ、私達に聴かせてくださいませ。

そして1曲目のメンデルスゾーンの序曲では、バーメルトさん流の強弱の変化がしっかり感じられたのがうれしく、前回の定期での「海」とはまた違った「海」に出会えました。シーズンテーマに添って毎回異なる曲が聴けるのは良いですね!今回の「水」にまつわる曲も楽しかったです。


1曲目はシーズンテーマ「水」にちなんだ曲、メンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」。プログラムによると札響演奏歴は過去に5回で、前回の演奏は2009年10月だそうです。静かな出だしでは、海の深さのような重低音の低弦がとても印象的でした。高音弦と木管が美しい、穏やかな音楽は凪を思わせる響き。ヴィオラが美メロを奏でたところも印象に残っています。穏やかなところから少しずつ盛り上がり、パワフルな強奏に気分があがりました。盛り上がっては少し穏やかになる流れは、さすがバーメルトさん流の強弱の変化!また弦のうねりに、前回の定期での「大洋女神」のうねりとは違う海が感じられました。チェロパートが主役のところがあったのがウレシイ。そしてクラリネットが大活躍でした。来ましたティンパニのソロ!オンラインプレトークでお話があったため、私は楽しみにしていました。パワフルで存在感抜群!またティンパニが強く鼓動を刻むリズムで、オケの弦も跳ねるような演奏をしたのも楽しかったです。クライマックスでは、ティンパニに乗った金管が華やか!そしてオケ全体で盛り上がった後、ラストは波が引いていくように、冒頭の静かな凪を思わせる響きで締めくくったのも素敵でした。深く大きな海の上を、希望を抱いて航海する楽しさが感じられ、聴いていて気分爽快になりました。

ソリストの佐藤晴真さんをお迎えして、2曲目はC.P.E.バッハ「チェロ協奏曲 イ長調。札響初演です。編成は、独奏チェロと弦そしてチェンバロ。弦の5パートの人数は8-6-4-3-1と、少数精鋭でした。第1楽章、華やかな冒頭から素敵!高音の澄んだ明るさに、対する低音の安定感。独奏チェロははじめのうちはオケのチェロパートと同じ低音を演奏し、ずっとベースを作っているチェンバロとの重なりが古風に感じられて新鮮でした。満を持して独奏チェロのソロ演奏が登場。最初の深い音がぐっと来て引き込まれました。ああ佐藤さんのこの音!以前hitaruで聴いたハイドンの協奏曲より、さらに深みが増したように感じました。チェンバロとシンクロして歌う独奏チェロは、大声で主張するというよりは、大人の落ち着きで幸せを語っているよう。オケの弦が独奏の合間でさらに明るく盛り上げてくれて、独奏とオケとの室内楽のような密な絡みが素晴らしく、多幸感に聴き入りました。第2楽章は、重く哀しげな音楽に。ゆったりした流れの中で、じっくり歩みを進めるオケに続いて登場した独奏チェロ。はじめの高音の儚さも、少し低音になってからの切なさもとても素敵で、心に染み入りました。独奏を控えめに下支えするオケの低弦とチェンバロが、ぐっと深みを作ってくれたのも印象に残っています。再び快活になる第3楽章は、オケの高音弦が明るいのにどこか哀しい感じなのが印象的。独奏チェロもまた、甘く優しく歌っても内に秘めたものがあるようで心に響きました。また速いテンポかつ明るい流れの中で、少しゆったりするところの優しい響きがかえって印象に残り、良いアクセントになっていたと感じました。独奏とオケがダンスしているように、軽やかに駆け抜けた音楽。独奏チェロとオケの弦、いずれもその古風な響きの良さをしみじみ味わえました。

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ソリストアンコール、22日はJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番」より サラバンド。2021年2月のhitaru定期でも演奏された曲です。ゆったりとした舞曲のリズムに、重音の深い厳かな響きがとても印象的。hitaruとkitaraの響きの違い以上に、佐藤さんの音自体がグレードアップしたと、おこがましくも私は率直に感じました。やはり大バッハ無伴奏チェロ組曲は原点ですね!今の佐藤さんの演奏で拝聴することができ、うれしかったです。演奏機会が少ない協奏曲に加え、ソリストアンコールまで、素晴らしい演奏をありがとうございます!これからますますのご活躍を期待しています!これから先も佐藤さんのその時の音に、私は出会いたいです。お忙しいことと存じますが、時々は札幌にいらして演奏を聴かせてください!


後半はハイドンのミサ曲ハ長調「戦時のミサ」。こちらも札響初演です。プログラムには歌詞とその日本語訳が掲載されていました。4名のソリストの皆様はマスクなしでステージ前方に。合唱団の皆様はP席に1席飛ばしで入り、口元は大きな布(コーラスマスク?)で覆うスタイルでした。またオルガンはパイプオルガンではなく、コンパクトなものがオケ内に配置されていました。「キリエ」では、はじめの弦と木管の澄んだ響きに引き込まれ、合唱の登場で一気に気持ちが高揚。人の声は理屈抜きでハートに直接響きます!ソプラノ独唱の美しさ!ソリストの四重唱は神々しい!続けて合唱が盛り上がりを作ったところでは、あわせて強奏になったオケの高音も一緒に歌っているようでした。また、高音の下支えをする低音の良さが、全編にわたり個人的にツボでした。「グローリア」は合唱とオケ(トランペットの響きが素敵!)による華やかなところを経て、首席による独奏チェロの登場!穏やかなオケをバックに歌うチェロの心地良い響きは、ずっと聴いていたいほどでした。そしてほどなく登場したバリトン独唱は、穏やかなのにものすごく心に響く存在感!主を称える賛歌に説得力が感じられました。バリトン独唱や合唱のちょうど谷間に合わせて、美しいメロディの盛り上がりを歌う独奏チェロはさすがです。華やかな合唱再び。アーメンの繰り返しが印象的でした。「クレド」でも、はじめは華やかな合唱とオケ。中盤は厳かになり、バリトンから始まった各独唱と合唱が順番に語るような演奏。私は歌唱している部分をリアルタイムでは正しく把握できませんでしたが、ここは受難の場面かなとは想像しました。合唱と4名の独唱が交互にアーメンを繰り返す華やかなところでは、精神の高みが感じられました。「サンクトゥス」は、初めの穏やかなメゾソプラノ独唱に、重なるオケも繊細な響き。ここでは高音を活かすためか、低弦はチェロとコントラバスのそれぞれトップのみが演奏していたと思います。また穏やかな合唱に重なる木管の優しい響きが素敵でした。テノール独唱による賛歌が力強く華やか!「ベネディクトゥス」での、ソプラノが主役の四重唱がとても良くて、その神々しさに心が洗われるようでした。短調から長調へ、ほんの少しの変化で希望の光が見えてきた流れも素敵!「アニュス・デイ」は、穏やかな合唱とオケが、ティンパニに導かれてクレッシェンドしていくのが素晴らしかったです。強弱に一切の妥協をしないバーメルトさん流!ティンパニはごく小さな音から大音量まで存在感抜群で、まさに「太鼓ミサ」の要!そしてクライマックスの盛り上がりの合唱は圧巻でした。ラストに音が静かに消え入ってからも、しばらく会場は沈黙。祈りのような静寂の後に大きな拍手が起きました。オケと客席の気持ちが一つとなった感覚、この場にいられた私は幸せです!札響も札響合唱団も初演の大曲を、最後まで集中力を持って澄んだ響きで聴かせてくださり、ありがとうございます!来年度の「ドイツレクイエム」もどうぞよろしくお願いします!


【速報】2023-2024シーズン『札幌交響楽団主催演奏会』ラインナップが発表されました。定期演奏会のテーマは「夜」。合唱が入る「ドイツレクイエム」をはじめ、注目の公演が盛りだくさん♪今からとても楽しみです!

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前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第647回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/09/10)。フィンランド出身の指揮者オッコ・カムさんによるオールシベリウスプログラム。ソリスト三浦さんの独奏とオケの一体感。オケの音の波やうねり、グルーヴ感ある演奏に、札響とシベリウスの魅力を再確認しました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

Quartet Explloce カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演(2022/10) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2022/08/221015.pdf
↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

「響炎する4本のチェロ」、カルテット・エクスプローチェが結成9年目にして北海道初上陸です。2022年の全国ツアーの初回が札幌公演でした。私は、ふきのとうホールのサイトでこの公演を知り、早速申し込み。なお平日夜開催かつチケットは直接販売のみだったにもかかわらず、会場はほぼ満席。またロビーにはフラワースタンドやフラワーアレンジメントがいくつも飾られていました。

Quartet Explloce  カルテット・エクスプローチェ ツアー2022 札幌公演
2022年10月17日(月)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
辻本 玲(N響チェロ首席奏者)
市 寛也(N響チェロ奏者)
森山 涼介(都響チェロ奏者)
髙木 慶太(読売日響チェロ奏者)

【曲目】
J.S.バッハ(ヴァルガ編):シャコンヌ
A.クライン:叙情的断章 op.1a
ポッパー:2つのチェロのための組曲 op.16

レンゲル:2つのチェロのための組曲 op.22
レンゲル即興曲 op.30

ペルト:主よ、平和を与えたまえ
ピアッティ:ヴァカンスにて

(アンコール)
フィッツェンハーゲン:アヴェ・マリア
ピアソラリベルタンゴ


カルテット・エクスプローチェ、最高です!この日までカルテット・エクスプローチェを知らなかったことを悔やむほど、私はこの日の演奏に夢中になりました。デュオ作品で魅せてくださった技術力と表現力の高さ。お一人お一人がこれほどまでのチェリストでありながら、カルテットでの驚きの一体感。そしてリミッター振り切るときは全力で行く底力!チェロ好きを自認していた私ですが、今までチェロの魅力を知らなすぎたとつくづく思います。これは素人考えで当たり前のことを言っていると叱られてしまうかもしれませんが、中でも私が驚かされたのは、それぞれ個性的な4つのチェロが見事に溶け合う親和性です。例えば弦楽四重奏やピアノトリオのようにチェロは1つだけの編成ならわからなくても、チェロが複数いる場合は1つでも微妙にズレがあるとそこが悪目立ちする気がします(あくまで個人的な感覚です)。そんな違和感がこの日のエクスプローチェには皆無でした。普段は文化が異なる別々のオケで活動されている皆様が、短期間で調弦や細かな奏法・表現方法そして音楽への思いをすり合わせ、このカルテットの音を創りあげているって、すごいことでは!?一朝一夕には到達し得ない、長く一緒に活動してこられた方達ならではの、メンバー全員が同じ方向を目指す気持ちの良い音!このブレない音があった上での気合いの入った演奏、素晴らしいです!今回のプログラムは、「エクスプローチェ始まって以来初めてのチェロアンサンブルのオリジナル作品にスポットを当てた」とのこと。原点回帰とも言えるチェロアンサンブルの古典作品の数々を、結成9年の経験を活かした最高の演奏で聴けた幸せ!今回がカルテット・エクスプローチェ初体験だった私は超ラッキーだったと思います。私はカルテット・エクスプローチェの演奏をもっと聴きたいです。古典作品でも編曲モノでも、詰まるところ演目は何でも大歓迎!近い将来、再び札幌に来て下さる日を心待ちにしています。

また演奏の合間のトークも楽しかったです。曲の解説のみならず、メンバーのキャラ紹介や学生時代の思い出やプライベートなことまで話題は多岐にわたり、会場は大いに盛り上がりました。一応メインMCは髙木さん(北海道当別町出身。なお各会場でのメインMCは出身地が一番近いメンバーが担当するそうです)でしたが、メンバー全員が次々とマイクを持ち発言。その交代の流れはとても自然で、学生時代からずっと付き合ってきた人達だからこその、良い意味での気を遣わない関係性がうかがえました。普段は別々に活動されている皆様が、ひとたび集まると学生時代と同じ気心知れた仲間に戻れるって、すごく良いですね!こんなにも心通い合った仲間が一緒に活動できるって、素直にうらやましいです。トークは楽しくて、すべてのトピックにツッコミを入れたいのはヤマヤマですが、ここでは一つだけ!「事務担当」と同じノリで出た、「イケメン担当(!)」というパワーワードについて。もちろん任命されたかたは間違いなくイケメンでいらっしゃいます。しかし、これほどまでにカッコ良くチェロを奏で、かつアンサンブルで爆発的な魅力を開花させる、カルテット・エクスプローチェの皆様は4名全員が超イケメンだと私は思います!


メンバーの皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、J.S.バッハ(ヴァルガ編)「シャコンヌ。カルテット・エクスプローチェのバイブル的な作品で、演奏会では必ず取り上げるそうです。4台のチェロによる重音の重なりが全力で来る冒頭からすごいインパクト!こんなにもガツンと来るにもかかわらず、最初からすっと受け入れられたのには自分でも驚きました。それはホールの音響の良さ以上に、やはり迷いのない説得力ある音がストレートに心に響いたからだと思います。メロディを丁寧にリレーしていくところの緻密さ。高音メロディに呼応する息の合った低音伴奏。堅牢な建築物のように音をきっちりと組み立てていく一方で、優しいメロディのところは柔らかな布のように心地良い響きでした。中盤に長調になり温かな音色で歌うところは、厳格な中に光がさしたよう。続く少し駆け足になる明るいところの多幸感。そしてラスト直前の、ぐっと空気を引き締めてくれた重低音がとても印象に残っています。こんなにたくさんの音が重なる贅沢な響きにもかかわらず、まるでソロ演奏のようにも感じられる一体感!そして完成度の高さ!1曲目にがっちり心掴まれ、私はこの後の演奏への期待が一気に高まりました。

A.クライン「叙情的断章 op.1a」。先ほどの厳格さから一転、ロマンティックな月夜の情景が目に浮かぶような、優しい響きの音楽でした。ゆったりと美メロを歌う高音が美しい!また、支える低音の安定感も良く、この支えがあるからこそ高音のメロディが映えるとも私は感じました。ラストの儚げなピッチカートによる締めくくりも印象に残っています。

前半最後はデュオの曲。市さんと辻本さんによる演奏で、ポッパー「2つのチェロのための組曲 op.16」。こちらの演奏がとにかく良かったです!はじめの柔らかな響きに早速気持ちが持って行かれ、美メロを2台が音程をずらして併走したり、伴奏側が音を小刻みにしたりと、デュオならではの良さを感じました。バロック期の舞曲のようなところでは、メインとサブが呼吸を合わせ、1音ずつ交代し演奏するのがすごい!これ絶対に難しいはず!しかしまるでソロ演奏のような脅威のシンクロ率で、流れを止めずに細かくテンポを変化させながら見事な演奏を聴かせてくださいました。田舎の舞曲風のところは、スキップするような音楽が楽しかったです。その後の、歌うチェロが表情豊かですごく素敵!まるで映画音楽のよう!支える方も、ジェットコースターのように波を作ったり、ピッチカートで寄り添ったりと、変化が多くとても良い効果を生み出してくださっていたと感じました。終盤は、ラブソングを歌っているように甘やかかつ情熱的!チェロの一番高い音と思われる音域で歌うところはインパクト大!そしてこの高音域から低音域へ駆け下りるところで、対するサブは低音域から高音域へ駆け上ったのも印象的でした。主役にも下支えにもなれるチェロ。そのチェロの両方の魅力が満載の演奏、思いっきり楽しめました!


後半の1曲目もデュオ。こちらは髙木さんと森山さんによる演奏で、レンゲル「2つのチェロのための組曲 op.22」。こちらも大変素晴らしかったです!インパクトある低音から入った出だしに、私は一瞬バッハの無伴奏を連想。重音がさらに重なる、厳格な響きがとても素敵でした。ほどなく、2台とも休みなしで忙しく弓を動かす演奏に。目の前で繰り広げられるすご技に圧倒されつつ、古風でありながら情熱的な響きを味わいました。歌曲を歌うようなところに心癒やされ、少し哀しげで繊細なところのリズム感がよかったです。ゆったりとしたところでは、温かく美しい響きがとても心に染み入りました。そして、終盤のメロディをリレーしながらの高速演奏がすごい!またもや圧倒されました。バッハの無伴奏を思わせる厳格さとチェロの歌心が同居する作品を、超絶技巧も歌うのも見事な演奏で聴けてうれしかったです。

再びカルテットによる演奏へ。レンゲル即興曲 op.30」。前半、穏やかで美しい音の重なりにうっとり。デュオも素敵だけど、やはりカルテットの四者四様の音色が重なるのはとても贅沢でさらに素敵!曲の後半、まずは1台から「パパパパーン♪」を低音で奏で、次第に参加者が増えていく、このだんだんと盛り上げていく流れがすごく良かったです。来ましたメンデルスゾーン「結婚行進曲」!高音のメロディがとっても華やか!超絶技巧をそうとは感じさせず、とても美しく歌ってくださいました。また対する低音が、美しいソプラノにハモる男前なバリトンのようで超カッコ良かったです。やっぱりチェロカルテットはイイですね!

ペルト「主よ、平和を与えたまえ」。ペルトは現在も存命で、エストニアの作曲家ですと紹介がありました。今回の演目は、元々は声楽の曲をチェロ四重奏へ編曲したもの。昨今の情勢から、「平和への願いを込めて」とのことです。3台による低音の重なりが、まるでオルガンの響きのように多声的!その上を、儚くかすれる声で歌う高音がとても美しく、崇高な教会音楽を聴いているようでした。チェロって、こんな音も出せてこんな表現もできるんですね!チェロの可能性と何よりメンバーの皆様のお力、ただただ敬服いたします。

プログラム最後の演目は、ピアッティ「ヴァカンスにて」。出発・到着・田舎の踊りと、ピクニックに出かける感じの3曲構成です。第1曲、ウキウキと4人で歩き出したような、1,2,1,2の小気味よいテンポの音楽が楽しい。4人それぞれの個性があり、しかし重なると同じ目的地へ向かっていると感じられたのがよかったです。第2曲、ピッチカートのリズムに乗ってゆったりと歌うチェロの音色がとっても素敵で、聴き入りました。中盤の高速演奏は、(演出として)仲間内で少し波風が立った感じ。第3曲、くるくると回っているような速いところも、ゆっくりステップを踏むようなところも、ずっと楽しい!細かくテンポが変化していくのを、4名全員が見事に同じ波長で演奏し、生き生きとした音楽を聴かせてくださいました。

カーテンコール。ごあいさつの後、「聴き足りないかたは、明日の福岡公演にいらしてください」との発言で会場に笑いが起きました。「来年のことはまだ何も決まっていませんが……」で、会場は大きな拍手。来年のツアーでもぜひ札幌へ来て頂きたいと、その日の会場にいた人達は皆そう思っていたはずです。「時間も時間なので」と、早速アンコールへ。フィッツェンハーゲン「アヴェ・マリア。やわらかな響きの美しい音楽。ゆったりとした流れの中、控えめに主張する美メロが心に染み入りました。秋の夜にそのまま眠りにつきたくなるような心地良さ。エクスプローチェの表現の幅広さを改めて実感しました。拍手喝采の会場にメンバー全員が戻ってきてくださり、なんとアンコール2曲目はピアソラリベルタンゴ!いったん心穏やかにさせておきながら、最後に超ド級の切り札を持ってくるとは!反則技では(最高に褒めてます)!?速いテンポで情熱的にガンガン攻める演奏は最高にアツイ!長丁場を全集中で演奏してきた皆様の、どこにこんなパワーが残っていたのかと思うほどの大熱演!クライマックス直前に2台のみで静かにじっくり聴かせるところがあり、次の瞬間、ガンと4名全員で床を踏み鳴らしてからのラストまでの全力疾走がすさまじかったです。会場がどよめき、ものすごい熱気の中で会はお開きに。「響炎する4本のチェロ」の初体験は超最高でした!アツイ夜を本当にありがとうございます!来年のツアーでもぜひ札幌はマストで!お待ちしています!


2016年7月リリースのCD「クァルテット・エクスプローチェ~響炎する4本のチェロ~」。私は自宅にてヘビロテ中です。どの曲の演奏も魅力的♪中でも私はポッパー「演奏会用ポロネーズ」とピアソラの3曲が好きすぎてつらいです(笑)。こちらのCD収録曲についても、いつか実演で聴けることを私は願っています。
※以下のリンク先で試聴および単品購入ができます。

www.e-onkyo.com


こちらは、ふきのとうホール主催公演です。この日の2日前に聴いた「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。札幌での演奏会を待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル(2022/10) レポート

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↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

クラリネット奏者の吉田誠さんとピアニストの小菅優さんのデュオ・リサイタルが開催されました。ふきのとうホール主催公演で、コロナ禍での2度の公演中止を経て、ようやくこの日に開催が実現。私はお二人のCDと出会い、最初の企画発表があった2020年から、ずっとこの日を待っていました。

レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル
2022年10月15日(土)16:00~ ふきのとうホール

【演奏】
吉田 誠(クラリネット
小菅 優(ピアノ)

【曲目】
ブラームスクラリネットとピアノのためのソナタ 第2番 変ホ長調 op.120-2

ブラームス:子守唄 Op.49-4
ブラームス:眠りの精
シューマン:リーダークライス Op.39-5 より 月夜
ブラームス:さびしい森の歌 Op.85-6
シューマン:3つのロマンス Op.94
ブラームス:青春の歌Ⅰ「9つの歌曲と歌」 Op.63-5
シューマン:ミルテの花 Op.25 より 最後に

プーランククラリネットとピアノのためのソナタ FP 184
サン=サーンスクラリネットとピアノのためのソナタ  変ホ長調 Op.167

(アンコール)
サン=サーンス:鐘
サン=サーンス:もしもあなたが私に何も言うことがないのなら

ピアノはスタインウェイでした。


ようやく吉田誠&小菅優デュオのライブに出会えた喜び!しかも繰り返し聴いてきたCDのイメージを遙かに超えたクオリティ!お二人は何年も温めてきた企画を、待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。本当にありがとうございます!クラリネットソナタの演奏は、お二人の大切なレパートリーであるブラームスの第2番はもちろんのこと、後半のフランス系の作品もとても良かったです。プーランクでは度肝を抜かれ、サン=サーンスでは今までの作曲家のイメージが変わりました。また「サン=サーンスは、愛と情熱のブラームスに似ているかも!?」と思えたのには自分でも驚いています。そして歌曲の演奏が最高に素晴らしかったです。言葉はないのに歌っていて、私達の感情を揺さぶる演奏。お二人はBSP『クラシック倶楽部』にご出演された際、歌曲の演奏にあたって、詩にある言葉の意味と真摯に向き合い、ドイツ語やフランス語の発声まで意識したアプローチをなさっていました。日本語訳もご自分達の言葉で書かれますし、言葉をとても大切にされていらっしゃる方々とお見受けします。だからこその、これほどまでの説得力!加えて今回のプログラムは、一つの大きな物語をイメージした歌曲の選曲と演奏順の工夫が秀逸でした。各演目がまるで物語の章立てになっているようで、それぞれ独立した作品が根底では全部繋がっているとも思えてきます。違っていたら申し訳ないのですが、あくまで個人的には、今回の歌曲の演奏の流れに「シューマン家の末子・フェリックスの誕生から死まで」を見届けたブラームスの心情の移り変わりを感じました。要となった演目はブラームス「青春の歌Ⅰ Op.63-5(我が恋は緑)」(作詞はフェリックス)と思われますが、実は今回、こちらの演奏に私は雷に打たれたような衝撃を受けたのです。ありったけの情熱を前のめりに全力でぶつけてくる演奏は、痛々しくもまっすぐな若さのパワーがすごい!かつての私はこの曲を、青臭い詩に対して大袈裟な音楽がちぐはぐだと感じていました。でもそれは浅はかな考えでした。若い情熱の爆発は、大人の冷笑なんて吹き飛ばすほどのエネルギーに満ちている!私はようやくこの曲の本質がわかった気がします。私はお二人のプログラムと演奏による物語をもっと聴いてみたいです。ブラームスシューマン家のエピソードはそれこそ山のようにありますし、フランスの作曲家にまつわる物語にも惹かれます。ふきのとうホールにて再びデュオ・リサイタルが開催された暁には、私達がまだ知らない物語を、お二人の音楽でぜひ聴かせてください!

今回、ふきのとうホール主催公演にはめずらしく、プログラムには曲目解説に加え、歌曲の歌詞の日本語訳まで掲載されていました。執筆はすべて小菅優さんによるもの。文面からは作品への愛が感じられ、幅広い知識による解説は作品の深い理解に繋がる、何度でも読み返したくなる充実した内容です。プログラムは大切に保管します。あと大変個人的なことですが、開演前にプログラムに目を通した私が、はっとさせられたのが、シューマン「3つのロマンス Op.94」の解説にあった「昔話が伝えられるかのように物語的な語り口で描かれているように感じる」との一文。折しもこの演奏会の直前に聴いたサロンコンサートで、チェリストのかたがシューマン「幻想小曲集 op.73」のことを「短編小説を読んでいるよう」と形容されていたからです。これを単なる偶然とは思えませんでした。シューマンを突き詰めると文学的だという理解に至るのは、一体どんな要因や理由があるのでしょう?とても気になります。私はブラームスのことは好きでもシューマンは正直ピンとこなくて、今まであまり聴いてきませんでした。しかし、ブラームスシューマンは切っても切り離せない関係にありますから、シューマンの魅力がわかればブラームスも今よりもっと楽しめそうとも思います。クラシック音楽って奥が深い!一生かかってもすべて知り尽くすことは不可能な大海の、まだ波打ち際にいる私ですが、少しずつ泳ぎ出して新たな景色が見えてくるのはとても楽しいです。


吉田誠さんと小菅優さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、ブラームスクラリネットとピアノのためのソナタ 第2番 変ホ長調 op.120-2」。吉田さんと小菅さんが初めて一緒に演奏したという思い出の曲。2020年リリースのCDにも収録されています。第1楽章、冒頭の優しい響きのピアノと重なる柔らかなクラリネットの甘やかな歌から早速引き込まれました。メインとサブを流れるように入れ替わるピアノとクラリネット。小さな音で繊細に心情を歌うところはもちろんのこと、時折感情を爆発させ力強く歌うところがすごい!一度は引退を決めたはずの最晩年のブラームス、なんと情熱的なこと!終盤は落ち着きを取り戻し、静かに締めくくったのも素敵でした。第2楽章、悲劇的なピアノとほの暗いクラリネットの、哀しくドラマチックに歌うところの前のめりな感じが良くて、ピアノが沈黙するところの一人語りのようなクラリネットも印象的でした。この後に続いた、重厚なピアノが素晴らしい!私はこのぶ厚いピアノにものすごくブラームスらしさを感じ、とても胸打たれました。重なる低音のクラリネットの深さにも、清濁併せ呑んだ最晩年のブラームスの心情を垣間見たような気持ちに。ピアノもクラリネットもゆっくりと歩みを進めながら、高音域へ。輝かしいピアノと感極まったように高音で歌うクラリネットは、天に昇ったような神々しさ!私は胸が熱くなりました。第3楽章では、はじめの方の、ピアノとクラリネットの穏やかに会話しているような温かな響きに心癒やされました。個人的に、音階を駆け下りるのがブラームスで駆け上るのがシューマンだと勝手に思っていたのですが、ここでは穏やかな流れの中で自在に音階を駆け下りたり駆け上ったり。生き生きとした音楽が、ブラームスの遊び心のようでもあり楽しかったです。そして終盤、短調になってからのドラマチックな流れが圧巻でした。インパクト大なピアノから始まり、ピアノとクラリネットがダンスしているように情熱的に絡み、音が多いクラリネットの細やかな変化がすごい!クライマックスでは音階を駆け上り、希望に満ちたラストで気分爽快になりました。ああやっと出会えた!個人的に慣れ親しんできたブラームス最晩年のソナタですが、ここまで引き込まれる演奏を聴いたのは初めてです。

しかし真に驚かされたのはここからでした。ブラームスロベルト・シューマンの歌曲および「ロマンス」を組み合わせ、まるで一つの物語として繋がっているように続けての演奏。研ぎ澄まされた空気に客席も集中し、途中で拍手等による中断は起きませんでした。はじめはブラームス「子守唄 Op.49-4」。揺りかごのようなピアノの優しいリズムに、まるい音色で優しく歌うクラリネットが、温かなのにどこか哀しい感じ。歌詞の日本語訳の「神様がお望みであればまた起こしてもらえる」に、ドキっとしました。幼子を天から預かっているような感覚は、私も身に覚えがあります。続いてこちらも子守歌の、ブラームス「眠りの精」。同じメロディを優しく繰り返す音楽は、そのまま眠ってしまいそうな心地良さ。個人的には、20歳当時のブラームスシューマン家の子供達を寝かしつけるために歌っていたことを思うと、切ない気持ちになりました。そして子供達がようやく眠りについたのでしょうか。続く曲は、シューマン「リーダークライス Op.39」より「月夜」。規則正しく音を刻むピアノに、ひとり物思いにふけるように歌うクラリネットシューマン家の留守を守る若きブラームスは、「同じ月を見ている」クララさんへの手紙を書いていたのかもしれません。ブラームス「さびしい森の歌 Op.85-6」では、暗く深い森のようなピアノの響きと、物静かにやわらかく歌うクラリネットが印象的。叶わぬ恋にひとり思い悩むブラームスを想像しました。内面を見つめる曲が続き、シューマン「3つのロマンス Op.94」。第1曲、重厚なピアノに、憂いを帯びたクラリネット。時折、感情を吐露するようにクラリネットが強奏し、またピアノと一緒に音を刻んだ(付点のリズム?)ところの切なさが印象的でした。第2曲、心に平穏さを取り戻したかのように、温かな音色で優しく歌うクラリネット。しかし高音の切なさは、哀しみを内に秘めているよう。そのため中盤での嵐のような激しさも地続きと感じました。第3曲、一人語りのような暗さから、突然スキップするような明るさへ。この変化は個人的には唐突に感じられました。暗さと明るさが交互に登場しながら、ラストは明るく静かな締めくくり。気持ちがどこを漂っているのかが掴みにくい、今の私には少し難しい演目でした(ごめんなさい!)。そして時は流れ、ブラームス「青春の歌Ⅰ Op.63-5(我が恋は緑)」へ。ピアノもクラリネットも全力でくる演奏!この勢いこの情熱大爆発!前のめりな感情が、起承転結の「転」で魂の叫びとなり、そのひたむきさには打ちのめされました。あの幼子だったフェリックスは恋を語る青年に成長した!父親代わりに彼の成長をずっと見守ってきたブラームスの喜びも感じ取れました。クライマックスを経て、物語は終盤へ。シューマン「ミルテの花  Op.25」より「最後に」。先ほどから雰囲気は一変し、穏やかな音楽に。温かな音色で歌うクラリネットを、私は子守歌のようにも感じました。そして物語を静かに締めくくった、ピアノの後奏の優しさ美しさがとても印象に残っています。実の父親の顔を知らずに育ったフェリックスは、若くして父・ロベルトのいる天に召されました。天でフェリックスが父親と出会い親子水入らずの時を過ごしてほしい、この世では叶わなかった恋を実らせてほしいと、残された者達は願ったのかもしれません。ああなんという人生ドラマ!連作歌曲ではない、それぞれ独立した歌曲を、こんなにドラマチックに感じられたのは初めてです。素晴らしいプログラムと演奏を本当にありがとうございます。


後半の1曲目は、プーランククラリネットとピアノのためのソナタ FP 184」。第1楽章、冒頭からクラリネットの速いパセージに驚き、音を震わせる(奏法の名前がわからず申し訳ありません)のに心がざわつきました。ドイツ系とはカラーが違う、生真面目路線をあえて外してくる感じ。リズミカルでほの暗い音楽は、クラリネットピアノがシンクロするリズム感が良くて、意味ある休符がピタッと揃うのが気持ちイイ。少しゆったりしたところでは、繊細ながらも感情の波がくるように時折強い音が発せられたり、低音でうごめくようだったり。演奏の凄みに圧倒されました。第2楽章は、「神なる主、神なる子羊」のモチーフが使われているとのことで、重々しいピアノに深刻さが感じられました。また個人的には、寂しく歌うクラリネットシャンソンのように感じ、クラリネット小休止の際メロディを引き継いだピアノの切ない響きが印象に残っています。再び快活になる第3楽章は、駆け抜けるクラリネットがすごい!ピアノのターンでも音を震わせていたり、息つく間がないほど忙しく歌うクラリネット。ただただついて行くのに精一杯でした。ラストは引っ張らずにクラリネットとピアノの1音ですぱっと締めくくり。私は初聴きだったこちら、勢いとリズム感そして気迫ある演奏に度肝を抜かれ、のめり込みました。フランス流のエスプリと一言では片付けられないような、軽快さの影に隠れて得体の知れないものがあるように思えて、気分爽快とはなれない不思議な感覚。とても新鮮でした。今後時間をおいて、再び聴いてみたいです。きっと今回とはまた違った捉え方ができる気がします。

プログラム最後の曲は、サン=サーンスクラリネットとピアノのためのソナタ  変ホ長調 Op.167」。第1楽章、温かで優しい響きに引き込まれ、私は前半でのブラームスを思い起こしました。「十字架のモチーフ」の存在以上に、お二人の演奏からにじみ出る真心の温かさを感じたからと思います。時折哀しみを垣間見せたり、少し楽しそうに駆けていったり、しかし大声で主張する感じはない独り言のような音楽を心穏やかに聴きました。静かに消え入るラストも印象的。第2楽章は、クラリネットとピアノの軽快な掛け合いが楽しい。クラリネットが高音で切なく歌うところが素敵で、自在に音階を駆け下りたり駆け上ったりするところに一瞬ブラームスを想起しましたが、ブラームスはここまで自由な感じにはしないだろうなとも思いました。前の楽章では重厚さが感じられたピアノが、ここでは軽やかにステップを踏んでいるようだったのも素敵。そして個人的に強く心揺さぶられたのが第3楽章です。鐘の響きを思わせるピアノの重低音がズシンと来てから、一番低い音によるクラリネットの重厚な響きが重なり、厳粛な教会音楽を聴いているような気持ちに。ドラマチックなピアノのアルペジオの後、今度は高音域でささやくようなクラリネットと高音で控えめに寄り添うピアノが、切なく哀しく心に染み入りました。クラリネットが消え入ってからの、ピアノ独奏の儚げな美しさ!ガラリと雰囲気が変わって快活になる第4楽章は、クラリネットが息つく間もない程に忙しく歌い、時には音を震わせ、生命力のある音楽が素晴らしい!そして第1楽章の最初のメロディが再び。温かで優しい響きに、まるで人生を懐かしく振り返っているような気持ちになりました。めでたしめでたしと単純には言い切れなくても、様々な経験と思いを経て、この境地にたどり着けたのなら救われるのかなと。静かに消え入るラストでの、ピアノがボーン、ボーン、と2度響かせた和音がとても印象に残っています。作曲家最晩年のソナタは、なんと優しく美しい音楽!私はサン=サーンスのことをよく知りません。しかし、彼は皮肉屋さんの仮面を被っていても、その実とても心優しい人だったのでは?そして歌心のある人!そう思えたのは、私達のハートに直接語りかけるように歌った、吉田誠&小菅優デュオによる演奏のおかげです。


カーテンコールの後、マイクなしでお二人がご挨拶。3年ぶりにふきのとうホールに戻り、ようやくデュオ・リサイタルが開催できたことの喜びを語られました。小菅さんからアンコールの曲名紹介があり、アンコールへ。サン=サーンス「鐘」。鐘の響きのようなピアノの低音に、独白のようなクラリネット。中盤からはピアノが高音メインとなり希望の光が見えてきて、クライマックスでの高らかに愛を歌うクラリネットが素敵でした!拍手喝采の会場にお二人が戻ってきて、そのままアンコール2曲目へ。サン=サーンス「もしもあなたが私に何も言うことがないのなら」。か弱い存在を優しく包むピアノに、美しく穏やかに歌うクラリネットが素敵。個人的には幻想的な響きとも感じ、歌詞の内容(帰宅後に調べました)とは関係ないのに、演奏を聴いていた時はなぜか月夜に佇む女性を思い浮かべていました。また、ピアノの後奏の優しい響きもとても良かったです。前半ドイツものから後半フランスものと充実したプログラムの大熱演の後、アンコールを2曲も素敵な演奏で聴かせてくださり、ありがとうございます!

なお帰宅後に調べたところ、アンコールの2つの歌曲はいずれもビクトル・ユゴーの詩に曲をつけたもののようです。アンコールだったためプログラムに日本語訳はありませんでしたが、フランスを活動拠点とされている吉田さんによる日本語訳も拝見したいと私は思いました。今後吉田誠&小菅優デュオによるフランスもののCDをリリースする際には、ライナーノートにぜひ掲載お願いいたします!そして新CDをリリースした暁には、ふきのとうホールにて記念の演奏会を。お待ちしています!


2年前の記事になりますが、吉田誠&小菅優ブラームスクラリネットソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか」(2020年11月25日発売)CDを聴いた際のレビューが弊ブログにあります(※他のCDと同時レビューで申し訳ありません)。吉田誠&小菅優デュオで、次はフランスもののCDをぜひ!

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ふきのとうホール主催公演として、フランスの歌曲がたっぷり聴けたこちらの演奏会レポートも。「藤木大地 カウンターテナー・リサイタル」(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。

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第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ(2022/10) レポート

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札幌交響楽団の首席チェロ奏者・石川祐支さんの演奏による、アットホームな演奏会。今回の共演は地元札幌でご活躍のピアニスト・永沼絵里香さんです。なお同プログラム・同日2回公演のうち、私が聴いたのは第1公演です。

私にとっては「お初」の会場・Studio26は、札幌郊外にある古民家を利用した文化施設で、小規模な演奏会や講演会が定期的に開催されています。レトロな館内もお花がきれいなお庭もオーナーの気配りが行き届いた雰囲気もとっても素敵。また、石川祐支&大平由美子デュオのCDのジャケット写真は、この会場で撮影されたものとのことです。


第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ(第1公演)
2022年10月15日(土)13:30~ Studio26

【演奏】
石川 祐支(チェロ)
永沼 絵里香(ピアノ)

【曲目】
フォーレ:ロマンス op.69
カッチーニアヴェ・マリア
シューマン:幻想小曲集 op.73
ラフマニノフソナタより 第3楽章
カサド:愛の言葉
ポッパー:タランテラ
サン=サーンス:白鳥
バッハ:G線上のアリア


小さな会場にて、少人数で聴くサロンコンサートはとても贅沢!まるで演奏家が自宅に来てくださり、プライベートの演奏を聴いているような、夢のような時間を過ごすことができました。オーナーさんが「あの石川さんが」と仰っていましたが、まさにその通りですよね。kitara大ホールにて堂々たるソロ演奏で2000人を魅了する石川さんが、20人弱の聴衆を前に弾いてくださるなんて!この独り占め感、最高です!演奏自体はもちろん真剣でしたが、お客さん達はくつろいだ様子で演奏を楽しみ、終始和やかな雰囲気だったのも素敵でした。演奏の合間のトークもリラックスモードで、大きなホールでは聞けないようなお話(アンコールの演奏で途中がすっぽり抜けてしまった、とか!)もあって、こちらも新鮮で楽しかったです。また、永沼さんのピアノ伴奏はとても安心して聴くことができました。私は以前、別の会場で永沼さんのピアノ伴奏を聴いた際、コンパクトなアップライトピアノなのに華やかさと重厚感が感じられたのに感激し、今回の石川さんとの共演を楽しみにしていたのです。今回、永沼さんはソロ演奏もトークもなく支える役目に徹しておられましたが、大きなグランドピアノでの安定感ある演奏は、チェロと気持ちまでシンクロして私達のハートにすっと入ってきました。ありがとうございます!なお永沼さんと石川さんは、以前に映画音楽のコンサートでの共演経験があるとのことです。今回の演奏会では、石川さんから永沼さんをご紹介くださったときのお話ぶりと、何より息の合った演奏からお二人の信頼関係がうかがえました。今後もぜひお二人の共演をお待ちしています!

今回は「僕(石川さん)が音楽家ではなかったら、秋に聴きたい曲」をチョイスしたそうです。ちなみに石川さんはプライベートではクラシック音楽を聴かないらしく、それは「自分ならこうするのに」とつい仕事モードになってしまうため、純粋に楽しめないからだとか。そんな石川さんが、仕事抜きで聴きたいクラシック曲の数々!どの演目も作品への愛が感じられる、心に響く素敵な演奏でした。大曲を見事に演奏するのも良いものですが、いつものレパートリーを誠実に心を込めて演奏するのはとても大切で素晴らしいことですよね。また個人的には、「あの石川さんが」意外にもネット動画を参考にしているとのお話を聞き、ちょっと驚きました。現役のチェリストの演奏を良いなと思って今回演目に入れたとか、往年の名チェリストの演奏をとても参考にしたとか。いてもたってもいられず、私は帰宅後にお名前があがったチェリストの演奏動画を探して視聴。それらももちろん素敵な演奏でしたが……ごめんなさい、やっぱり私は石川さんの演奏の方が断然好き!演奏が魅力的なのは、やはり「自分ならこうするのに」があって、他の演奏家の良いところは取り入れつつも、最終的には石川さんオリジナルのものに仕上げているからですよね。

願わくばずっと聴いていたかったのに、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいました。石川さんはオケをはじめ室内楽や後進指導でもご多忙とは存じますが、今回のようなサロンコンサートに定期的に出演くださったらうれしいです。今回のテーマ「秋」だけでなく、冬も春も夏もぜひ!もっと言うと月イチや、可能なら週イチでも大歓迎!痛いファンでごめんなさい!どんな演奏会でも私は大人しくかしこまって拝聴しますので、万一「よく見る顔だな」と私の存在に気付かれてもどうかお気になさらず、これからも素敵な演奏を聴かせてくださいませ。


「こんにちは」とのご挨拶と一緒に、石川さんと永沼さんが会場へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、フォーレ「ロマンス op.69」。冒頭のチェロの低い音にぐっと引き込まれ、滑らかに高音域へ移るところでじんわりと気持ちも高揚しました。優雅で可憐なピアノに乗って歌うチェロの音色は、秋の物寂しい心を癒やしてくれる温かさ。時折音階を下降したかと思うと再び上昇する、その変化は穏やかでしたが、感情の波にそっと寄り添ってくれる感じ。先月のリサイタルのアンコールにも演奏された曲。石川さんは、その時と同じ事を言いますが……と前置きした上で、10年前のあるチェリストの演奏会で感銘を受けた曲を、ご自身も演奏したいと願ってきてようやく実現したとお話されました。「(フォーレの作品として)有名な『シチリアーナ』にも負けない、素敵な曲」とも。はい、フォーレのチェロの曲は名曲揃いですよね。フォーレの他の作品の演奏も、今後ぜひ聴かせてください。もちろん『シチリアーナ』も!

カッチーニアヴェ・マリア。一定のリズムでボンボンボン……と音を刻むピアノに、程なく重なったチェロが切なく哀しいのにとても美しくて、またもや心掴まれました。低音域で歌ったときはより哀しく、高音域で歌ったときはより切ない、同じメロディでも異なるニュアンスで聞こえるのが素敵。灯火が静かに消え入ったようにフェードアウトしたラストも印象的でした。心に染み入る美しい曲!素敵な演奏で私達にご紹介くださり、ありがとうございます。

シューマン「幻想小曲集 op.73」。元々はクラリネットのために書かれたもので、チェロでもよく演奏される曲です。石川さんのCDにも収録されています。石川さんはシューマンがお好きだそうで、ピアノトリオ第1番を取り上げる12月のトリオ・ミーナ演奏会をちょこっと宣伝。今回の「幻想小曲集」に関しては「短編小説を読んでいるよう」と仰っていました。第1曲は、美しくゆったりとしたピアノに乗って、落ち着いた甘やかな音色のチェロが、穏やかな流れの中で時折ふっと感情が揺らぐのが素敵。少し快活になる第2曲では、チェロとピアノが交互に音階を駆け上るところが印象的でした。秘めた想いはあっても、まだ落ち着いた感じ。そして大本番の第3曲。情熱的に音階を駆け上るチェロ!最高です!このがっちりした音が高音に振り切れたときに少し儚い感じになるのも、力強いピアノに支えられてやや切なく歌うところも、すべてが素敵!自信に満ちあふれた人が、繊細さを内に秘めている感じにぐっと来ます。堂々たるフィナーレでハッピーエンド。ああ人生バラ色!同じ曲の演奏でも、石川さんのチェロと、他の演奏家のチェロやクラリネットでは、すべて別の物語のように私には思えます。そして、先月のホールでのリサイタルと今回のサロンコンサートでは気持ちの距離感がまったく違う!すぐ目の前でシューマン「幻想小曲集」の石川さんによる演奏が聴けた喜びは格別でした。

ラフマニノフ「チェロ・ソナタ」より 第3楽章。「チェロのオブリガートつきピアノ・ソナタ」とも言えるほどピアノがとても難しい曲、と紹介がありました。なお「チェロもそこそこ難しい」そうです(笑)。またラフマニノフのことも、あの大きな身体が繊細で美しいメロディを生み出す、と仰っていたので、石川さんはきっとラフマニノフもお好きなのでは?ゆったりとした流れで、美しいピアノには奥行きもあり、私はロシアの広大な大地をイメージ。そして歌うチェロの甘く美しい音色が素敵すぎ!音を長くのばすところで、半音上がったり下がったりの微妙な変化に感情の機微が感じられ、ほろっとさせられました。ただ素人目からは、ピアノもチェロも落ち着いて優雅な感じだったので、難易度が高そうとは正直思えませんでした(ごめんなさい!)。しかし、難しいものを聴き手にそうとは感じさせないように演奏するのも演奏家のお力なのだと拝察します。ちなみにトークでは触れられませんでしたが、石川さんはラフマニノフチェロソナタを今年8月に首都圏で開催された2つの演奏会でお弾きになったようです。私も飛んでいきたかった……いつか札幌でも全楽章の演奏をぜひ聴かせてください!

カサド「愛の言葉」。カサドはチェリストで、この作品は信愛するチェリストであるカザルスへ捧げられたもの。「スペインのフラメンコのように情熱的」と、この曲を石川さんはかなり推しておられました。ダンスのステップのようなピアノの序奏から素敵!耳慣れた大平由美子さんの艶やかな感じも好きですが、今回の永沼さんの軽やかな感じも好き!そしてチェロが華やかに登場。来ました胸焦がす音色!聴く度に降参してしまいます。この音をどうやって生み出しているのか、今回じっくり観察してみたのですが、素人目では仕組みがわかりませんでした。魔法かもしれない……。切なく高音をのばすところは思いの丈をすべて吐露したよう。中盤、ピアノが沈黙しチェロがフラメンコのリズムで高音をかき鳴らすのが超カッコイイ!えぐいほどの高音で駆け抜けるクライマックスからラストまで、今回も清々しいほどカッコ良かったです。なお9月のリサイタルのレビューでは、私はこの曲の演奏について「チェロは一番高い音の弦1本で演奏していたかも?」と書きましたが、ごめんなさい間違っていました。この日に拝見した限りでは、主に一番高い音の弦と、時々はすぐ隣の弦も使っていたようです。演奏の様子がよく見えるのは小さな会場のメリットですね!ただ、私はもしかすると食い入るように見ていたかもしれず、視線が刺さって痛い思いをさせてしまったようでしたら申し訳ありません……。

ポッパー「タランテラ」。ポッパーもチェリストで、「ハンガリアンラプソディ」が有名です、と紹介がありました。先ほどのスペイン風とはまた違った、速いテンポの軽快な舞曲。独特なリズムで跳ねるようなところと滑らかなところが交互に来て、かわいらしいピアノの響きとちょっと陽気なチェロの音が楽しかったです。また、中間部でチェロがゆったり歌うところが艶っぽくて、感極まったような重音がとっても素敵!これは絶対に石川さんだけの音色!と思いました。クライマックスはピアノもチェロもどんどん加速していき、目の前で繰り広げられる超絶技巧に耳と目が釘付けに。聴き手としてはとても楽しく聴けた演奏でした!

サン=サーンス「白鳥」。「動物の謝肉祭」の中の1曲で、言わずと知れたチェロの定番曲ですね。キラキラした水面(ピアノ)の上を、ゆったり泳ぐ白鳥(チェロ)は、なんて優雅で美しいこと!一見、同じメロディの繰り返しのようでも、実際は少しずつ変化していて、そのすべての音の表情が素敵!ずっと浸っていたい。おそらく石川さんは目をつぶっても弾けるほど、何度も演奏されてきた曲と思われますが、今回もチェロの魅力たっぷりの演奏で聴かせてくださいました。

最後の演目は、バッハ「G線上のアリア。バッハの「アリア」をヴァイオリニストのウィルヘルミがヴァイオリン用に編曲し、G線のみで演奏することから「G線上の」と呼ばれるようになった、と解説。そして「チェロはG線だけでは弾けません。色々な弦を使います」と石川さんが仰って、会場が和みました。ピアノの優しい響きの上に、そっと重なったチェロの音色は、とても温かで柔らかな肌触り!大きく感情を揺さぶることなく、ただただ美しく崇高な音楽でした。ゆったりとした流れの中で、時折入る控えめなビブラートがほんの少しアクセントに。祈りのような音楽に、心洗われました。ヴァイオリンのG線のみでの演奏もイイけど、チェロの落ち着いた音色による演奏も素敵です!石川さんのチェロならなおさら!

出演者のお二人が拍手で見送られて退場し、オーナーさんからご挨拶と、石川さんのCDの紹介があった後、会はお開きに。休憩なしの1時間ちょっとの会は、最初から最後まで楽しくてあっという間でした。私はこのまま会場に残り、第2公演も聴きたい衝動に駆られましたが、次の予定が控えていたため後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしました。夢のような時間をありがとうございました。Studio26、こちらの素敵な場所に私は今後もうかがいます!


石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル」(2022/09/24)。地元で愛されるデュオ、結成10年の節目は独仏プログラム。フランクのソナタは、酸いも甘いもかみ分けた人の人生ドラマのようでした。CD化を切に希望します!

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第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2022/06/11)。札響にすごい若手ヴィオラ奏者がいらっしゃいました!愛と情熱のブラームス、超絶技巧のヒンデミット、超カッコ良いピアソラ。華やかで重厚感あるピアノも素晴らしかったです。

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フォーレ、そして彼と出会った作曲家たち(2022/10) レポート

http://watanabe-museum.com/event/img/2022/20221001.pdf

↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

miamoonlive.com

↑今回の演奏会はじめ、数多くの演奏会を企画・運営する music in art の公式サイトです。ピアニスト・小野寺あいさんが代表を務められています。

フランスの作曲家・フォーレをテーマにした室内楽のコンサートが開催されました。メンバーは、music in art の代表でピアニストの小野寺あいさんを中心に、弦は札響から2名と、札響の客演も多い地元でご活躍の2名。なお今回に先駆け、2022/9/16には豊平館にてプレコンサート「フォーレとその人生」が行われたとのことです。私は最近、演奏会でフォーレドビュッシーといったフランスものに出会う機会が多かったため、フォーレに興味を持ち、開催3日前に申し込みしました。

会場はちょうどkitaraの裏にある、渡辺淳一文学館。定員82名のコンパクトなホールでは、演奏会や朗読会などのイベントがよく開催されています。ちなみに私が訪れたのは今回が2回目で、前回は2018年11月に開催されたブラームスの歌曲のレクチャーコンサートでした。

フォーレ、そして彼と出会った作曲家たち
2022年10月01日(土)15:00~ 渡辺淳一文学館 地下1階ホール

【演奏】
佐藤 郁子(ヴァイオリン) ※札響ヴァイオリン奏者
林 ひかる(ヴァイオリン)
前 南有(ヴィオラ
坪田 亮(チェロ) ※札響チェロ奏者
小野寺 あい(ピアノ)

【曲目】
フォーレ:シシリエンヌ op.78 (Vc.&Pf.)

フォーレ:3つの歌 op.18 より 第3番 秋の歌 (Vla.&Pf.)
ドビュッシー:忘れられた小唄 より 第5番 グリーン (Vla.&Pf.)

ラヴェルフォーレの名による子守歌 (Vn.&Pf.)

ドビュッシー:ベルガマスク組曲 より 第3番 月の光 (Pf.)

ドビュッシー:月の光 (Vla.&Pf.)
フォーレ:2つの歌 op.46 より 第2番 月の光 (Vla.&Pf.)

サン=サーンス:エレジー ヘ長調 op.160 (Vn.&Pf.)

フォーレピアノ五重奏曲第1番

(アンコール)フォーレピアノ五重奏曲第1番 第1楽章より


ピアノはヤマハでした。


フォーレを中心にしたフランスの室内楽、しみじみ素敵で聴き入りました。重厚さでガツンと訴えてくるドイツ系とは違い、繊細な響きの変化がじわじわ心に染み入る感じ。メインのフォーレピアノ五重奏曲では、水彩画のように重なることで色合いが変化していく美しさが感じられ、個人的に慣れ親しんできたブラームス(がっつり油絵)ともシューマン(こちらも色合いくっきり)ともまったく異なるカラーを楽しみました。こんなピアノ五重奏曲も素敵!また前半の小品の数々も、演奏の良さはもちろんのこと、選曲とプログラムも気が利いていてとても良かったです。全部を同じ作曲家で固めるのではなく、関連する作曲家の作品を組み合わせるのは良いアイデアですね。並べて演奏することで、同じテーマでも作曲家によって個性の違いがあるのが面白く、毎回新鮮な気持ちで聴けたのもよかったです。

そして曲の合間には小野寺さんによる解説があり、これが超面白かったです!プログラムノート(曲目解説に加え歌曲の原詩と対訳もあり、こちらも大変充実していました)には書かれていない様々なお話から、作曲家の考え方や人柄も垣間見え、作品をより深く楽しめました。プレコンサートにも行けば良かった、と私はつい後悔したほど。演奏家の皆様は、これほどまでに作曲家自身と作品が生まれた背景を知り尽くして演奏に臨んでいらっしゃるとは!私は感激しました。これはまさに愛ですよね!


1曲目の出演者お二人が舞台へ。すぐに演奏開始です。フォーレ「シシリエンヌ」、チェロとピアノによる演奏でした。管弦楽版の「ペレアスとメリザンド」では、フルートとハープで演奏される美しい音楽。フルートの透明感はもちろん素敵ですが、チェロの哀愁ある響きも素敵です!特徴的なリズムのピアノに乗って、短調のメロディを歌うチェロ。ピアノがメインになるところでのピッチカートや、汽笛のような低音を効かせるのも印象的で、これはフルートにはないチェロならではの魅力!とも思いました。演奏の後の解説によると、「ペレアスとメリザンド」の劇付随音楽を依頼されたドビュッシーが結局オペラにしてしまい、フォーレが劇付随音楽を作ったものの、ドビュッシーフォーレのことをdisっていたとか。個人的には、この美しい音楽を前に、ドビュッシーは嫉妬メラメラだったのでは?と少しだけ思いました。

フォーレはサロンで活躍した作曲家で、歌曲をたくさん作り、同時代の詩人や作曲家に影響を与えたのも功績の一つ。ドビュッシーも結局はフォーレの影響を受けている、といったお話がありました。フォーレドビュッシー、それぞれの歌曲をヴィオラとピアノによる演奏で。まずは19世紀末の不安感が表れている、フォーレ「秋の歌」。重厚さのあるピアノに、哀しく歌うヴィオラ。冬に入りかけた晩秋のイメージの音楽でした。続いて、こちらは比較的明るい、ドビュッシー「グリーン」。緩・急・緩の流れで、緩のゆったりとしたところを私はなぜか東洋的と感じました。中間部のキラキラしたピアノと美しく歌うヴィオラは、まるで小さな幸せを噛みしめているかのような印象でした。

ヴァイオリン(林さん)とピアノによる演奏で、4曲目は有名なフォーレの「子守歌」ではなく、ラヴェルフォーレの名による子守歌」。雑誌の付録として出版社が企画し、フォーレの生徒7名にフォーレのオマージュとして作曲依頼したものの1つだそうです。こちらはフォーレ存命中の企画ですが、そもそもはドビュッシー没後にドビュッシーに関しての企画がヒットした出版社が、次はフォーレで、という二匹目のドジョウを狙う流れで企画されたものだそう。また、その時代は古い考え方が幅をきかせていたため、ラヴェルが権威あるローマ賞をついに取れなかったお話、「ラヴェル事件」等の紹介、フォーレが教育者として古い態勢を改革したといったお話も。今回取り上げられたラヴェルフォーレの名による子守歌」は、フォーレの名前の綴りを一つずつ音に当てはめてメロディを作っている、とのことです。私には具体的にどの音がどの音名に当てはまるのかはわからないのですが、こちらの演奏をとても興味深く聴きました。ゆりかごが揺れるような一定のリズムが面白く、素朴なタタタン、タタタン……のメロディが少しずつ変化する音楽。派手さはなくても、微妙な機微の違いを丁寧に表現するのが素晴らしく、演奏に引き込まれました。

ピアノ独奏で、ドビュッシー「ベルガマスク組曲 より 第3番 月の光」。言わずと知れた超有名曲ですね。神秘的な高音に対して、ぐっと深みを与える低音に余韻が感じられたのが印象的でした。中盤の流れるようなところがとっても素敵!澄んだ夜空に大きな満月が浮かんでいるのが目に浮かぶような、儚くも存在感ある響きでした。

「月の光」というタイトルの作品が続く前に、解説がありました。ドビュッシーは「月の光」というタイトルで、なんと3つも作品を生み出しているのだとか。有名なピアノ独奏曲に加えて、歌曲を2つ。いずれもヴェルレーヌの詩に基づいており、同じ詩でフォーレも歌曲を書いているとのこと。ちなみにドビュッシーは、フォーレの作品を聴いた後に2つ目の歌曲を書いたそうですから、半端なく意識していたんだなと私は妙に感心してしまいました……。またヴェルレーヌ周辺にはスキャンダルが多く、ドビュッシーヴェルレーヌの義理の母親にピアノを習っていたというトリビア紹介もありました。

ヴィオラとピアノによる演奏で、「月の光」というタイトルの歌曲を2つ。はじめはドビュッシー「月の光」、今回は作曲家が若い頃に書いた1882年の作品です。素朴なピアノ伴奏に、ヴィオラが時折揺らぐ音で美しく歌い、ミステリアスな雰囲気が感じられました。続けて、こちらは作曲家晩年の作品、フォーレ「月の光」。切なく透明感あるピアノの前奏に、私は早速気持ちが持って行かれました。今回の2曲ならフォーレの方が好き!と率直にそう思ってしまったほど。切なく高らかに歌うヴィオラも存在感があり素敵でした。なおドビュッシーの3つ目の「月の光」はまた別の機会に、とのことでした。

ヴァイオリン(佐藤さん)とピアノによる演奏で、前半最後はサン=サーンス「エレジー ヘ長調 op.160」。エレジーフォーレも作曲していますが、今回はサン=サーンスの最晩年の作品が取り上げられました。ちなみにサン=サーンスはエレジーを2つ作っているそうです。エレジーは「悲歌」という意味。しかし解説によると、サン=サーンスの最晩年の作品は、哀しみを表現するよりも人生を振り返って噛みしめているようで、サン=サーンスの若くして亡くなった友人が残した8小節のメロディを取り入れている、とのこと。また、サン=サーンスフォーレに仕事斡旋や出版社紹介等をし、フォーレサン=サーンスが亡くなるまで交流を続けた、とのお話もありました。こちらの演奏が私的ハイライト!冒頭の、体温を感じる柔らかく艶やかなヴァイオリンの音色に私は一瞬で引き込まれ、さらに甘やかに変化したところで完全に落ちました。音階を駆け上るところがすごい!感極まったような高音で歌うところが最高!しかしそんな美しい思い出は過去のもの……と終盤は音が小さくなり、優しいピアノの響きと一緒に温かく締めくくり。繊細な音の変化から人生を振り返る人の思いが感じられる、とても素敵な演奏でした。「エレジー ヘ長調 op.160」に、私は一目ぼれです!


後半はフォーレピアノ五重奏曲第1番」フォーレの2つあるピアノ五重奏曲のうちの1つで、フォーレ室内楽でもぐっと深みが増した作品と紹介されました。また、フォーレが研究していた教会音楽が随所に反映されているそうです。先に第1楽章と第3楽章を書いたものの中断。その後、ブラームスと同じ(ここでブラームスの名前が出てくるとは!)スイスの避暑地で第2楽章を作り、他楽章も調整して完成したとのこと。出演者5名が揃い、ヴァイオリンのパートは1st佐藤さん、2nd林さんでした。第1楽章、水面を思わせる美しいピアノに乗って、弦はまず2ndヴァイオリン、続いてチェロ、その後にヴィオラ、最後に1stヴァイオリンが参戦。各パートの重なりが増える度に少しずつ盛り上がっていく優雅な流れが素敵でした。弦がクレッシェンドとデクレッシェンドで感情の波を表現するのが美しく、まるで寄せては返す波のようでした。また、弦がソロで演奏するところでは、中でもヴィオラの存在感が印象に残っています。ピアニッシモでフェードアウトするラストの温かみのある響きがとっても素敵!少しゆったりする第2楽章では、穏やかな流れが感極まった後の、切ないピアノと哀しげに歌うヴィオラがとても良かったです。前半で聴いた歌曲のように、すっと心に染み入りました。そのメロディを引き継いだ1stヴァイオリンの美しいこと。それを支えるチェロも印象的でした。この楽章も温かで静かな締めくくり。第3楽章、はじめのピアノのリズムが舞曲のよう。個人的には初めて触れた感じのリズムがとても新鮮でした。弦が参戦してからしばらくは、重低音でピアノがリズムを刻んだのも印象に残っています。ダンスが楽しくなってきたような弦の盛り上がりが素敵。また、この楽章でもピアノとヴィオラによるパートがあり、他の弦が交互に出てきたのがまるで会話しているようにも感じられました。独特のリズムは活かしながら、クライマックスでは最初のメロディが華やかに盛り上がり、ラストは力強く締めくくり。美しい音楽の流れの中で色合いが変化していくのが素敵で、流れに身を任せられた、幸せな時間でした!

小野寺さんが「本当に数多くの演奏会がある中で、お越しくださりありがとうございます」と、ごあいさつ。アンコール……と小野寺さんが仰ったとき、すかさず会場には大きな拍手が起きました。アンコールは先ほど演奏された、フォーレピアノ五重奏曲第1番」第1楽章より、途中から楽章終わりまでをもう一度聴かせてくださいました。本来、この形で良いはずですよね。美しい響きを、繰り返し聴けてうれしかったです。

終演後、ロビーでは出演者の皆様によるお見送りがありました。おそらく常連さんが多いと思われるお客さん達と、出演者の皆様との温かな交流。コンパクトな会ならではの、こんなシーンも素敵です!札幌では小規模な演奏会が星の数ほど企画されているため、私はとても全部には行けないのですが、今回ご縁があってこちらにうかがえてよかったです。素敵な時間をありがとうございました。これからも様々な企画を楽しみにしています!


弊ブログの演奏会レポートのうち、フォーレドビュッシーといったフランスの作曲家の作品が取り上げられた先月の演奏会を2つをご紹介します。

石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル」(2022/09/24)。地元で愛されるデュオ、結成10年の節目は独仏プログラム。フランクのソナタは、酸いも甘いもかみ分けた人の人生ドラマのようでした。CD化を切に希望します!

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森 麻季&グザヴィエ・ドゥ・メストレ デュオ・リサイタル」(2022/09/18)。ソプラノ&ハープによる、歌曲やオペラアリアの華やかで多彩な表現。ハープ・ソロの管弦楽のような壮大さ。美しい響きに酔いしれ、天上世界にいたかのような幸せな時間でした。

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石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル(2022/09) レポート

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札幌交響楽団の首席チェロ奏者・石川祐支さんと、地元札幌でご活躍のピアニスト・大平由美子さんのデュオ・リサイタルが開催されました。今年はデュオ結成して10年となる節目の年で、今回のメインプログラムはフランクのソナタ(ヴァイオリン・ソナタのチェロ編曲版)。札幌市民の期待は大きく、残席わずかだった当日券(2階席の設定なし)も完売したとのことです。


石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル
2022年09月24日(土)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
石川祐支(チェロ)
大平由美子(ピアノ)

【曲目】
ベートーヴェン魔笛の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46
シューマン:幻想小曲集 op.73
ドビュッシー:美しき夕暮れ
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(ピアノ独奏)
カサド:親愛なる言葉

フランク:チェロ・ソナタ イ長調(ヴァイオリン・ソナタ チェロ編曲版)

(アンコール)フォーレ:ロマンス

お二人にしか生み出せない音楽にどっぷり浸れて幸せです!私、札幌市民でよかった!難曲を見事に弾きこなすのは当たり前(もちろん大変な努力の賜と存じます)。それ以上に、よく知る曲を、まだ知らない音と表情で聴かせ、聴き手の心を掴んで離さないのがすごいんです。私、やっぱりこの音が好き!またお二人が呼吸をぴったり合わせ、同じ感情を共鳴し合うのがこの上なく素敵だと私は感じました。この自然な一体感、一朝一夕には到達し得ない境地なのでは?今回、お二人が得意とするドイツ系はもちろんのこと、カラーが異なるフランスとスペインの作品でも、どのシーンもはっとさせられる程の豊かで多彩な表情を私達に見せてくださいました。入魂の一つ一つの音すべてが心に響き、今この瞬間にしかない音楽に身も心も預けて浸れる幸せ!特にメインプログラムであるフランクのソナタは、しっかりした和音や低音の土台があった上で、高音のメロディが繊細な心の機微や情熱を映し出すのが素晴らしく、まるで酸いも甘いもかみ分けた人の人生ドラマを見ているようでした。美しいだけでも、ましてや超絶技巧を披露するだけのものでもない、この曲の本質が少しだけわかった気がします。今回のフランクのソナタについては、CD化を切に希望します!デュオ結成10周年の記念として、地元ファンに必ず喜ばれるはずです。カップリングには今回登場したドビュッシーフォーレといったフランス作曲家の作品や、カサドはじめスペイン系もぜひ!

そしてお二人の演奏を聴きたいと、これほどたくさんの人が集まったことにも私は感激しました。私は比較的最近ファンになった新参者ですが、それこそ2012年の初リサイタルからずっと応援し続けている以前からのファンも少なくないと思われます。コロナ禍で演奏会ができなかった時期を経ても、こんなに多くのファンが集まるのは、お二人が長きにわたって地元ファンと良い関係を育んできたからこそですよね。お客さん達はお二人の演奏にまっすぐに向き合い、心からの拍手を贈り、トークではリラックスした空気。この会場の雰囲気の良さもとっても素敵でした。私の席の近くにいたご夫婦は、演目の区切り毎に演奏を賞賛していらっしゃいましたし、お隣にお一人でいらしたご年配の女性に「素敵な演奏でしたね」とお声かけ頂いたのも私はうれしかったです。演奏家とファンとの理想的な関係が、ここには確かにあると私は感じました。

それにしても、私、2012年の初リサイタルから追いかけられたらどんなによかったかと、つい悔やんでしまいます。お二人の演奏の変化を肌で感じたかったし、2016年リリースのCDに収録されたブラームスだって聴きたかった……しかし今更言っても詮無きこと。この出会いに感謝し、これからはずっと追いかけ続けます!地元で愛されるデュオとして、これからも私達に素敵な演奏を聴かせてください!


出演者のお二人が舞台へ。大平さんは、白地に花柄で肩の布が緑色のオフショルダーのドレス姿でした。すぐに演奏開始です。はじめはベートーヴェン魔笛の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46」。最初に主題が提示され、7つの変奏が続くスタイルの作品です。冒頭、チェロとピアノの堂々とした第1音がインパクト大!主題をピアノ、続いてチェロが高音域で歌うのが素敵です。音をのばさない軽快なリズムが楽しい第1変奏、スキップするような第2変奏、チェロとピアノが明るく会話するような第3変奏と、明るく楽しい音楽に、聴いている私達も楽しい気持ちに。そして短調になる第4変奏では、哀しげなピアノに続いて登場したチェロの低く深い音に引き込まれました。再び明るくなる第5変奏では、ピアノとチェロの軽快な掛け合いが楽しく、低音から高音へ駆け上るところが印象に残っています。ゆったりと歌う第6変奏から、最後の第7変奏へ。チェロとピアノがダンスしているようで、チェロが高音域で歌ったり低音のピッチカートを効かせたりと、表情の変化が楽しかったです。ラストはチェロとピアノで力強く締めくくり。様々な表情が楽しめた演奏。掴みはバッチリOKでした!

続いて、シューマン「幻想小曲集 op.73」。お二人のCDにも収録されている楽曲で、今回生演奏で聴けるのを私はとても楽しみにしていました。3曲で構成されています。第1曲、穏やかで優しい響きのピアノに乗って、ゆったりと流れるようなチェロに魅了されました。あくまでも穏やかな上で、感極まるような高音をのばすところがとっても素敵!ピアノと一緒に静かに消え入るところの繊細な響きも印象的でした。1曲目より少しテンポが速くなる第2曲は、ピアノとチェロが軽やかに会話するような流れがとても自然で、心地よく聴けました。シューマンらしい音階を駆け上るところも、ここではまだ控えめな感じで、この後に続く第3曲への期待が高まります。そして第3曲へ。情熱的に超高速で音階を駆け上るチェロがもう最高!知的な大人の男性がこんなふうに感情をあらわにする(あくまで個人的なイメージです)感じにぐっと来ます。高音の感極まるようなところが素敵すぎて、私は胸いっぱいに。この作品については、私は様々な録音(チェロもクラリネットも)を聴いてきましたが、やっぱり石川さんの演奏がピカイチです!その後のチェロが歌うところも「(演出として)気持ちが先走るような余裕のなさ」に、聴いている方も心かき乱される感じ。たまらなく良いです!ラストは自信に満ちあふれた堂々たる締めくくり。ああ人生バラ色!CDで繰り返し聴いてきた曲を、生演奏で聴けた感激はひとしおでした。

ここでトークが入りました。大平さんがマイクを持ち、「数多くの演奏会がある中で、私達の演奏会に足を運んでくださりありがとうございます」とご挨拶。満員の会場から拍手が起きました。コロナ禍で公演中止が続き、ようやく開催実現したお二人のリサイタルですから、この日を待ち望んでいたお客さんは多かったのでは?今回のプログラムについては、まずフランクのソナタをメインにすると決めて、フランスものとドイツものを組み合わせる形になったそうです。作曲家のフランクはバッハ研究もしていた人で、ドイツの重厚さの上にフランスの音楽を作っていると解説。今回のソナタは、ヴァイオリニストのイザイの結婚祝いとして作曲されたもので、フランクの友人のチェリストがチェロ用の編曲をしたのだそうです。なお、石川さんが以前人づてに聞いた「フランクのソナタは本来チェロ用に作曲された」という説については、どうやら違うようですと仰っていました。また他の演目についても簡単な紹介と解説がありました。

ドビュッシー「美しき夕暮れ」。歌曲をチェロが歌う演奏で、プログラムノートには解説に加えてオリジナルの歌詞と日本語対訳も掲載されていました(ちなみに詩の内容はぞっとする結末でびっくり……)。ゆったりとした幻想的なピアノに艶っぽく歌うチェロがとにかく素敵!かっちりしたドイツ系とは違った、たゆたう水のような響きが心に染み入ります。ラスト近くの盛り上がったところでビブラートがかかり、音の余韻が今この瞬間を慈しんでいるようでした。チェロとピアノが高い音で儚げにフェードアウトするラストが美しく鮮烈な印象。個人的には、たとえ日が沈んでも、朝になったらまた日は昇ると願いたいです……。

ピアノ独奏で、ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ。大平さんのお話によると、「パヴァーヌ」は第3音を抜いている(私は音楽の基本的なところが分かっていないため理解は及びませんが、仰ったことをそのまま記述します)、短調でも長調でもない曲だそうです。またラヴェル自身による管弦楽版もあるとのこと。低音のゆったりしたテンポに乗って、訥々と語るようなメロディ。短調ではないのにどこか寂しさのある音楽で、低音が効いたところでの遠くに聞こえる高音が美しく、重なる厚みのある和音が印象に残っています。同じメロディが終盤は高音がキラキラする感じで演奏され、ラストはたくさん音を重ねて締めくくり。しみじみ素敵な演奏でした!プログラムノートによると、ラヴェルのスペイン(母の祖国)への憧憬も窺えるというこの作品。素晴らしい演奏はもちろんのこと、次の演目への布石となっている選曲も気が利いています。

独仏プログラムの今回、ここで差し色としてスペインの曲が入りました。カサド「親愛なる言葉」。カサドが名チェリストのカザルスに贈ったという曲です。情熱的なピアノに続いて登場した、高音で胸焦がす音色のチェロが素敵すぎます!同じ演奏家が同じ楽器を弾いているのに、先ほどのドビュッシーとはまた別の表情。引き出し多過ぎです!演出としてかすれる音や揺らぐテンポに、否応なしに気持ちを全部持っていかれてしまいます。中間部で、一度少し低い音になってからの、加速しながら高音で細かく音を刻むところが超カッコイイ!その後の、ドラマチックなピアノに合わせて、思いの丈をすべて吐露したかのような切ないチェロすごく良くて。情熱いっぱいに駆け抜けたラストまで、超素敵な演奏を聴かせて頂きました!私の席から見た感じでは、もしかするとチェロは一番高い音の弦1本で演奏していたかも?舞台が遠かったので、もし間違っていましたら申し訳ありません。


後半、大平さんは大きな花柄のアンシンメトリーなデザインのドレスに衣装替えされていました。いよいよ大本番、フランク「チェロ・ソナタ(ヴァイオリン・ソナタ チェロ編曲版)」です。3月のチャリティコンサートでは前半のみの演奏だったため、今回ついに全楽章の演奏を聴けるのを私はとても楽しみにしていました。第1楽章、ピアノの和音が印象的な冒頭から、程なくチェロが登場。ピアノとチェロが綾を織りなす穏やかな流れのなんと美しいこと。感極まりチェロが高音で頂点に達したところがとても素敵で、私は思わず感嘆の溜息が。続くピアノ独奏の美しさにも胸打たれました。その後、同じメロディが変化しながら繰り返し登場する度に、チェロは音階が下がるところでぐっと低音になったり高音で儚げに歌ったり、またピアノもきらびやかだったり厚みのある和音だったりと、細やかな感情の機微が感じられました。第2楽章、ダイナミックなピアノの序奏から気分があがります。続いて登場したチェロの第1音から私はハートを射抜かれました……。身構えていてもこうなってしまう、もう絶対に敵いません。ピアノとシンクロして情熱的に駆け抜けるチェロが、熱量高いのに超クールでカッコイイ!少しゆったりしたところから、力強いピアノと切ないチェロによるドラマチックな展開も素敵でした。そしてやはりクライマックスでの、チェロが低い音でじっくりエネルギーをため、次第に加速して高音でメロディを歌う流れが圧巻です!これはやはりチェロのために書かれた曲なのでは?と、ついそう思ってしまうほど。第3楽章、ピアノとチェロがそれぞれ単独で交互に演奏する流れでは、チェロが1度目に登場したときの重音が印象的でした。また幻想的なピアノに合わせて、歌曲を歌っているようなチェロがとても美しく、抑えた感情の発露のようなチェロの高音が胸に来ました。そして第4楽章へ。ピアノとチェロが会話し合うようにメロディを歌うのがとても幸せな感じ。メロディを少し変化させてチェロが切なく歌うところや、ぐっと低音の効いたところ、魂の叫びのようなドラマチックなところと、目の前で生まれる音楽がすべて素敵で、私はずっと惹きつけられていました。クライマックスでの高音で歓喜を歌う天上的な響き!ただただ感激です。輝かしいフィナーレで幸せな気持ちは最高潮に。ああ聴けて本当によかったです!ヴァイオリンとは違う味わいでも、私にとってフランクのソナタ=この日の演奏となりました。ありがとうございます!

カーテンコールの後、トークがありました。「フランクのソナタを弾いた後はいつもフラフラになるんです」と大平さん。会場が和みました。本当に、大熱演でお疲れのところ、トーク時間まで設けてくださり感謝です。石川さんと大平さんはデュオ結成して今年で10年になるそうです。「10年間、色々なことがありました」と、2016年にはお二人のCDがリリースされたことや、石川さんは札響でエリシュカさん指揮によるドヴォルジャークのチェロ協奏曲を演奏しCDになったこと等のお話がありました。「石川さん、エリシュカさんのことをお話ください」と大平さんからいきなり無茶ぶりされて、石川さんは少し慌てた様子でした。石川さんのお話によると、エリシュカさんは札響に来た当初から石川さんに「ドボコンを一緒に演奏しよう!」と提案くださっていたそうです。約束は実現し、CDにも収録され、「彼(エリシュカさん)にはとても感謝している」と石川さんは仰っていました。なお9月はエリシュカさんが亡くなった月でもあるとのことで、今回の演奏会は追悼の思いも込めた、と大平さん。また、デュオ結成やCD制作にご尽力くださった、前の事務局長のかたへの感謝の気持ちも述べられました。

石川さんたっての希望でという、アンコールフォーレ「ロマンス」。10年ほど前にあるチェリストの来日公演で取り上げられた曲で、石川さんはずっと演奏したいと願っていたそうです。チェロは初め低い音から入り、ほどなく高音域に。優雅で美しいピアノに身を任せ、甘やかに歌うチェロに心癒やされました。基本は高音域で、時折低音が入るのがアクセントに。秋の夜に心に染み入る演奏でした。大熱演の後に心穏やかになれるアンコールまで、ありがとうございました!これから先もデュオでの演奏を聴かせてください。ずっと応援していきます!


弊ブログの演奏会レポートのうち、今回ご出演のお二人に関連するものを3つご紹介します。

骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート」(2022/03/05)。有名曲が中心のアットホームな会で、会場は終始和やかな雰囲。クラシック音楽になじみがない人も以前からのファンも、クオリティの高い演奏を心から楽しませて頂きました。

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Kitaraアクロス福岡連携事業> 安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」(2022/03/17)。オーケストラのような重厚なアンサンブルによる全身全霊での熱量高い演奏は、想像を遙かに超えるものでした。心を強く揺さぶられたこの日の演奏会を私はずっと忘れないと思います。

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Trio MiinA トリオ・ミーナ第3回公演 小児がんチャリティコンサート」(2021/11/23)。クオリティの高さと楽しさ親しみやすさが同居する、心温まる演奏会。隠れた名曲グラナドスに王道メントリの素晴らしさ。そして世界初演パスカル・ヒメノは斬新で超面白かったです!

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なおトリオ・ミーナ第4回公演は、2022年12月23日(金)に開催予定。私はとても楽しみにしています!

www.kitara-sapporo.or.jp


最後までおつきあい頂きありがとうございました。