自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ(2022/07) レポート

www.msnw-wishall.jp

今回のウィステリアホール プレミアムクラシックはソプラノ&ピアノ。昨年の「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)で中江さんの大ファンになった私は、別会場のブラ2を含む公演を見送り、迷わずこちらの公演へ足を運びました。演奏会当日、ほぼすべての座席を使用した会場は、他の大規模な公演と被ったにもかかわらず9割ほどの席が埋まっていました。


ウィステリアホール プレミアムクラシック 17th ソプラノ&ピアノ
2022年07月31日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
中江早希(ソプラノ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
中田喜直:魚とオレンジ/阪田寛夫 (作詩)
 1. はなやぐ朝 / 2. 顔 / 3. あいつ / 4. 魔法のりんご 5. 艶やかなる歌 / 6. ケッコン / 7. 祝辞 / 8. らくだの耳から(魚とオレンジ)

山田耕筰:風に寄せてうたへる春のうた/三木露風(作詩)
 1. 青き臥床をわれ飾る / 2. 君がため織る綾錦 / 3. 光に顫ひ日に舞へる / 4. たゝへよ、しらべよ、歌ひつれよ

直江香世子:金子みすゞの詩による三つの小品/金子みすゞ(作詩)
 1. つゆ / 2. 花屋の爺さん / 3. 雪

クララ・シューマン
 ワルツ/リザー(作詩)
 我が星/ゼレ(作詩)

ロベルト・シューマン:女の愛と生涯 作品42/シャミッソー(作詩)
 1. 彼に会ってから / 2. 彼は誰よりも素晴らしい人 / 3. わからない、信じられない / 4. わたしの指の指輪よ / 5. 手伝って、妹たち / 6. 愛しい人、あなたは見つめる / 7. わたしの心に、わたしの胸に / 8. 今あなたは初めてわたしを悲しませる

アルノルト・シェーンベルク:4つの歌曲 作品2/Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ :デーメル、 Ⅳ:シュラーフ(作詩)
 1. 期待 / 2. ぼくにあなたの金色の櫛をください / 3. 高揚 / 4. 森の日差し

(アンコール)越谷達之助:初恋/石川啄木(作詩)


ピアノはベーゼンドルファーでした。


中身の濃い「濃厚なプログラム」の演奏を通じて、2時間たっぷり様々な人生を生ききった演奏会でした!今回、私はすべての演目が初聴き(まっさらな気持ちで聴きたくてあえて予習ナシで臨みました)で、開演前は中江さんの美声を味わいたい♪と、のんびり構えていたのです。しかし演奏が始まると、時にどす黒い感情をも全力で表現する演奏に圧倒され、私は良い意味で中江さんへの見方が変わりました。一切の手加減なしでごまかしのない演奏は、表現者としての矜持であり、同時に私達聴き手を信頼してくださっている証。私はますます中江さんのファンになりました。こんなに素晴らしい演奏家が、地方都市である札幌の小さな会場で、ここだけのプログラムを上演してくださるなんて!その会場に私もいられたなんて、感激です!ありがとうございます!いうまでもなく、中江さんとご一緒にプログラムから当日の演奏まで作り上げた新堀さんにも大感謝です。そして企画立案から開催まで取り仕切ってくださったウィステリアホールさんにお礼申し上げます。

演奏は最初から最後まで素晴らしいものでしたが、今回私が最も感銘を受けたのは、最初の中田喜直「魚とオレンジ」です。ものを言うことが許されなかった時代の女性の感情を、ここまで赤裸々に描いた作品があったとは!ヒロインは、醜い感情を持ち自分の運命を嘆く、有り体に言えば「かわいげがない」女性。しかし男性である詩人も作曲家も、この女性への眼差しが優しいと私は思いました。感情をありのままに吐露させ(それすら女性には許されなかった時代)、最後には救いがある物語。作品を生み出した詩人と作曲家、そして魂の込められた演奏のおかげで、私は凄みに圧倒されながらも、作品中で「愛がない」と絶望していたこのヒロインをたまらなく愛しく思いました。この出会いに感謝!もちろんそう思えたのは、何より演奏が素晴らしかったからです。「かわいげがある」女性を演じるより遙かに難しいはずの、「魚とオレンジ」のヒロインに命を吹き込んだ演奏は、見事としか言いようがありません。もちろん他の作品も、懸命に生きる人が目の前にいると感じられる素晴らしい演奏で聴かせてくださいました。時代が今とは違うから、あるいは詩人や作曲家が男だから女だから、そんなことは大した問題ではありません。どんな時代でも置かれた場所で懸命に生きる人は尊い存在であり、また他者を想像して描いている以上、どんな作品も多かれ少なかれファンタジーだと私は思っています。そんな作品の中にいる人達を、リアリティのある生きた存在として私達の目の前に出現させてくださった、中江さんと新堀さんを心よりリスペクトします。本当にありがとうございます。


開演前のプレトークは中江さんと新堀さんのお二人で。今回のテーマは「作品から見る女の愛と生涯」。シューマンの作品を取り上げることが真っ先に決まったそうです。女声だと音程低めのメゾソプラノやアルトのかたがよく演奏する演目を、ソプラノの中江さんは勉強したいと以前から考えていらして、新堀さんにお話したとのこと。今回取り上げる直江さんの作品は、直江さんが大学の試験で作曲されたもので、大学の同級生である中江さんが初演。「3曲で一つの物語になるように作曲した」ものだそうです。また他の演目についても簡単な解説がありました。

前半は日本語の歌です。最初の演目は中田喜直「魚とオレンジ」。1曲目の「はなやぐ朝」は、和風で華やかなピアノ前奏から入り、ソプラノの高く美しいお声に初めから気分があがりました。さらにもう一段高い声で玉を転がすように歌ったところが素晴らしい!中江さんの十八番の「夜の女王のアリア」を思わせる貫禄でした。天真爛漫な少女がそこにいるようで、聴いている私達も爽快な気分に。また育った家の庭の描写(?)で「魚の目玉」や「みかん」という台詞が出てきたので、私の中で意味は繋がらなかったのですが、これがタイトルの元になった?とは思いました。ただ驚いたのは2曲目以降。1曲目の明るさは何だったの……と戸惑うほどの変化。しかし魂の込められた演奏は、まるで舞台演劇のようで、聴いている私達もその世界観に引き込まれました。2曲目「顔」は、不穏なピアノ伴奏に合わせて澄んだソプラノが思春期にありがちな容姿コンプレックスを歌っている、とゆったり構えていたら、「そんな目で見ないでください」とピシャッと厳しく言い放たれ、会場の空気が一変。3曲目「あいつ」は、自分を挑発したあいつに恨みを募らせ、ころす!と強く言い放ち、しかもそれは結婚した後にって……。続く、白雪姫の毒リンゴを欲しがる4曲目「魔法のりんご」も、おどろおどろしいピアノの響きに、高く澄んだソプラノが発する怖い台詞が、ぞっとする恐ろしさでした。少し華やかになった5曲目「艶やかなる歌」では、聴いて頂戴、と世の中の人達に自分がプロポーズされたのを自慢するも、「なんていうのかな、嫌いじゃ無かったのよ」と普通のおしゃべりのように言ったのと、ラストの「私をみーてー!」がとても印象に残っています。6曲目「ケッコン」は、おめでたいはずなのに、けだるく「金襴緞子」「花嫁ざんす」と最後の「す」に韻を踏みながら言い捨てるように言葉を発し、「ゴケッコンでーす」と機械的に言ったのに胸が締め付られました。人生すごろくを進めてはいても、結婚に対して希望などない、そんな心情が痛いほど伝わってくる演奏。7曲目「祝辞」では、結婚式の最中に目で会話した母親に、二十数年後の自分の姿を見るというもので、夫に子供2人にイヌがいて、でも愛がない……聴いていてとてもつらくなってしまいました。日本の女の人生は何と窮屈なことか。先は全部見えているのに「(それでもこの人に)ついて行くの」との悲痛な叫びが忘れられません。そして終曲は、最初のほうはうまく聞き取れなかったのですが、地球を離れた私を「みてみてみてみて」(ものすごい気迫が感じられました)と、何にだってなれる「私は魚、私はオレンジ」。どんな形かはわからないけれど、この女性の魂が解放されたように感じられました。よかった……と言っていいかはわかりません。しかし、音楽に1曲目の明るさが戻って来たのを聴き、もし彼女が天真爛漫だった少女の気持ちに戻れたのだったら、救いなのかなと。美声だけじゃない中江さんの愛(ある意味型破りなこの作品の女性に命を吹き込んだ演奏、これこそ愛だと私は思います)と表現力に、ただただ打ちのめされました。隠れた名曲を、希代の名演奏で聴かせてくださりありがとうございます!

続いて山田耕筰「風に寄せてうたへる春のうた」。壮大なピアノとのびやかに歌うソプラノ、あふれる生命力!3曲目に少し心の揺らぎが垣間見られたのが印象的で、ラストの4曲目のきらびやかで幸福に満ちあふれた感じがインパクト大!古風な歌詞で正確な意味を把握できなかったのですが、字面通りの春を讃える歌というよりは、恋の始まりの喜びを表現しているように個人的には感じました。そして、もしもこの作品を単体で聴いたなら、清々しくて素敵!と、私は素直に楽しめたかもしれません。しかし、「魚とオレンジ」を聴いた直後だったためか、純粋無垢な恋にどこか哀しみを感じました。この先、窮屈な人生が待っていることにまだ気付いていないのか、あるいは気付かないふりをしてほんの短い春を必死で謳歌しているのか。いずれにしても居たたまれないなと。あくまで個人の感想です。

直江香世子「金子みすゞの詩による三つの小品」。「誰にも言わずにおきましょう」と、ささやくように始まった「つゆ」は、ピュアな少女が思い浮かびました。ピアノの響きがはじめスキップするようだったのが次第に夕暮れの寂しさを思わせるように変化した「花屋の爺さん」は、ラストの「花屋の爺さん夢に見る、売ったお花の幸せを」がとても印象深かったです。1曲目からの流れで、娘をお嫁に出した男親の心情の暗喩とも考えられるなと、個人的にはそう思いました。ドラマチックなピアノの序奏から入った「雪」は、はじめ「青い小鳥が死にました」と淡々と歌われたのに、ぎょっとした私。しかし後半、魂が天に召される描写ではソプラノもピアノもとても温かで、ちっぽけな存在への愛を感じました。深読みするなら、3曲の流れから「青い小鳥」は遠くへ嫁いだ女とも考えられるかも?大切な作品を心の込もった演奏で、良いものを聴かせて頂きました。


後半はドイツ歌曲で、演奏に合わせてスクリーンには中江さん訳による日本語訳が映し出されました。初めはクララ・シューマンの作品から2つ。「ワルツ」はピアノによるワルツの軽快なリズムに乗って、春の咲き誇る花のように歌うソプラノにホレボレ。私は、中江さんのドイツ語の発声、特に語尾で鼻に抜ける感じの柔らかい発声が好きなんです!これが聴きたかったの!と自席でひとり喜んでいました。歌詞を追うと、どうやら男が若い娘にアプローチしている内容。「一度咲いてしまったものは、二度と咲くことはありません」といった趣旨のところが、ソプラノもピアノも意味深な響きになったように感ました。「我が星」は、会えない夜に愛する人を思う内容でしょうか。透明感あるソプラノに、夜空の広がりを思わせるピアノがとっても素敵!一定のリズムを刻むピアノが、高音キラキラではなく厚みのある響きだったのにはぐっと来ました。クララの夫・ロベルトや友人・ブラームスの作品に見られるピアノ伴奏と似ている気がして、個人的にうれしかったです。それにしてもクララさんのラブソング、とってもピュア!初聴きだった今回の2曲を、私はすっかり好きになりました。

そして今回の山場、ロベルト・シューマン「女の愛と生涯 作品42」。おそらくは平凡な女性が恋をして結婚・出産して……というストーリー。愛に一途な一人の女性が目の前にいるように感じられる演奏で、私は最初から最後まで没頭しました。1曲目は、恋をして「何も見えなくなったみたい」という女性の心情。控えめなピアノに、ひとりで物思いにふける感じのソプラノが、純粋でうぶな乙女のようでとっても素敵!2曲目は、彼は素晴らしい人と讃えながらも、自分は不釣り合いだと卑下しふさわしい女性と一緒になるのを願う内容。力強い演奏は、自分に言い聞かせている感じもしました。3曲目はあこがれの彼が自分を選んでくれた戸惑い、4曲目は婚約指輪を身につけて静かに結婚への覚悟を決める内容。あんなに不安な気持ちでいっぱいだったのが、結婚が決まると彼と生きる道を迷わず進む、その変化がとても印象的でした。5曲目、結婚式当日に花嫁衣装を身につける際に、手伝ってくれている妹たちへの語りかけ。自分の幸せのことで頭がいっぱい(それでいいと私は思います)と思いきや、ラストは妹たちとの別れにしんみり。ピアノの後奏がちょっと切なく余韻を残したのが素敵。6曲目は、直接的な表現はありませんでしたが、おそらく初夜を迎えた後に妻が夫に語りかけているシーン。個人的にはこの曲が最も印象深かったです。娘が女に生まれ変わった、というのは肉体的な意味では無く精神的な成長という意味で、そう感じられました。ゆったりとした揺りかごのようなピアノに、優しく愛に満ちたソプラノが神々しい!娘時代は不安で揺れる自分の気持ち中心だった女性が、今や夫を胸に抱き寄せて愛で包んでいる!すごい!中江さんのお声が愛に満ちあふれていて素敵すぎました。揺りかごの置き場所を確認して、赤ちゃんを待ち望んでいるといった歌詞も印象に残っています。7曲目は、赤ちゃんが生まれて喜びを歌う内容。スキップのようなかわいらしいリズムを刻むピアノに乗った、意思が感じられるソプラノに「母」になったという自覚がうかがえました。そして終曲は……どうやら私は盛大な勘違いをしていたようです。大変失礼しました。後日復習しようと日本語訳を見直した際に、ようやく自分の解釈間違いに気付きました。思い込みが激しい性分で、お恥ずかしい限りです。他にも細かな思い違いはあるかもしれませんが、この終曲の件は許容できる範囲を超えていると思いますので、終曲についての私の感想はここには書かないことにします。一番の肝である終曲を正しく受け止められず、申し訳ありません。

ここでトークが入りました。作品を通じて、昔も今も同じような苦しみがあると思えること。まだまだ世の中は不安定な状況でも、音楽に触れることで心の中のわだかまりが少しでも晴れてくれたら……といった趣旨のお話がありました。そして最後の演目であるシェーンベルク作品についての紹介へ。ちなみに中江さんは大学院では近現代の音楽の研究をされていたそうです。シェーンベルク新婚当時に、妻がシェーンベルクの友人の画家と駆け落ちした(!)頃に作曲された作品で、不安定さと妻への熱い想いがあるとのこと。十二音技法より前の、官能的でシェーンベルク本来の姿が浮かび上がる、といった解説でした。

プログラム最後の曲はシェーンベルク「4つの歌曲 作品2」。男性が女性を想う愛の歌でした。1曲目は、月明かりを思わせる幻想的な響きがとっても素敵!2曲目は、翻訳を目で追っていると、暗喩でも性的な表現が出てきて私はぞっとしてしまいました。肉欲から離れられない男の性を頭では理解しても、気持ちはどうしても受け入れられず(ごめんなさい!)。しかし音楽は美しく、女の愛を求める男の切ない気持ちが感じられ、胸打たれました。3曲目は華やかなピアノに高らかに歌うソプラノが情熱的で、ロマン派の作品のように感じられ印象深かったです。4曲目は、穏やかで幸せな時間を思わせる音楽で、繊細で優しい響きのピアノと、一層柔らかいお声のソプラノの重なりが素敵でした。男性の愛だってこんなにロマンティック!シェーンベルクにこんな一面があったなんて!作品の紹介と素敵な演奏に感謝です。

アンコール越谷達之助「初恋」。最後にゆったりとした穏やかな音楽で中江さんの美しいお声を聴けてうれしかったです。「初恋の痛みを」と高い声で切なく歌うところがとても印象的でした。恋や愛の痛みは、真剣に向き合ったからこそ!今回の演奏会は、魂が揺さぶられる演奏を通じて、様々な人生を生ききったスペシャルな体験でした。本当にありがとうございます!これからも中江さん&新堀さんデュオによる演奏を聴きたいです。ぜひ企画と開催を続けて頂きたく、お願いします!


ソプラノ中江さん&ピアノ新堀さんがご出演された、昨年度のウィステリアホールプレミアムクラシック 「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)ブラームスの歌曲とクラリネットソナタ。めずらしい編成でのシュポアシューベルト。アンコールに至るまで、耳に身体に心地よい響きで、ずっと聴いていたい演奏でした。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回はバリトン&ピアノ」(2022/06/05)でした。ヴォルフとシューマン、いずれも詩人・アイヒェンドルフの詩に曲をつけたドイツ歌曲。作曲家の個性の違いが楽しく、愛あふれるトークと演奏のおかげで食わず嫌いの私でもヴォルフを楽しく聴けました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

第15回 Sound Space クラシックコンサート ファゴットとピアノの奏(2022/07) レポート

私にとっては「お初」のSound Space クラシックコンサートです。第15回となる今回は、札響副首席ファゴット奏者の夏山朋子さんと、地元札幌でご活躍のピアニスト・水口真由さんによる演奏会。オケの演奏でおなじみの夏山さんが、ブラームスクラリネットソナタファゴットで演奏される!しかも共演はトリオイリゼ・リサイタル(2022/01/21)で素晴らしい演奏をお聴かせくださった水口さん!ぜひ拝聴したい!ということで、kitaraと同じ中島公園の敷地内にある豊平館へ。ちなみに私は、豊平館の中に入ったのは初めてでした。


第15回 Sound Space クラシックコンサート ファゴットとピアノの奏
2022年07月30日(土)18:30~ 豊平館

【演奏】
夏山朋子(ファゴット) ※札幌交響楽団副首席ファゴット奏者
水口真由(ピアノ)

【曲目】
ヴィヴァルディ:ファゴット協奏曲 イ短調 RV497
デュテイユー:サラバンドと行列
バーンスタイン:ウエストサイドストーリーより

ブラームス:3つの間奏曲 作品117より 第1番 第2番
ブラームスクラリネットソナタ ヘ短調 作品120-1

(アンコール)ガーシュウィン:サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー


ファゴットの魅力と愛がいっぱいの素敵な演奏会、とっても楽しかったです!ファゴットのためのクラシック作品では、ファゴットの得意な音域で様々な奏法による多彩な音楽を、またモダン作品ではクールで洗練された音楽を聴かせてくださいました。そして音域が異なるクラリネットのための作品をファゴットに置き換えて演奏した、ブラームスソナタがとっても良かったです!ただでさえ難曲なのに、音域も奏法も異なる楽器で演奏するのは大変なことと存じます。しかし今回、ブラームスの歌心をファゴットの温かみのある響きを活かして歌うことで、オリジナル楽器に引けを取らない魅力的な演奏になっていたと感じました。また共演のピアノともテンポ良く掛け合った生き生きとした演奏は、聴いていてとても幸せな気持ちになれました。ちなみに今回のメインであるブラームスクラリネットソナタ 作品120-1」を、夏山さんは大学の卒業試験でも演奏されたそう。長い時間大切に向き合ってこられた作品を、今回愛を込めた素敵な演奏で聴かせてくださり感謝です。

また曲の合間のトークも楽しかったです。トークの中で、夏山さんとお親しいカメラマンのかた(ここではKさんとします)との交流についてのお話が色々ありました。Kさんはブラームスゆかりの地を巡ったとのこと。その時の資料写真を夏山さんが会場へ持ち込み、いくつか私達にも見せてださいました。そのKさん曰く「ブラームスクラリネットソナタは、作曲の前年に亡くなったかつての恋人ヘルミーネ・シュピーズへの愛」(!)……ちょっと驚きましたが、とても新鮮でした。ブラームス本人や周囲の証言はないため断定はできないものの、こんな大胆な想像も素敵です!確かに「クラリネットソナタ 作品120-1」は、最晩年の作品にもかかわらず諦念よりは情熱や朗らかさが感じられますし、ブラームスがヘルミーネ・シュピーズと一番幸せだった頃の作品群(作品番号100の前後)の多幸感や歌心にも通じるものがありそうです。ブラームスとは穏やかな交際を長く続けた後、別の人と結婚して程なく亡くなったヘルミーネ。もし彼女と幸せだった頃の思い出が音楽に反映されているなら、これはまさに「愛」ですよね!もとよりブラームスの作品はすべて「愛」なのですが(笑)。

会場は古い洋館の広間で、物理的な距離だけでなく気持ちの距離もぐっと近く、まるでサロンでのプライベートコンサートのようでした。トークでは曲の解説のみならず様々な楽しいお話があり、会場は終始和やかな雰囲気。なお会場には、夏山さんと水口さんの熱心なファンとお見受けするかたも大勢いらしたようでした。コンサートホールでのかしこまった演奏会もいいけど、こんなリラックスした雰囲気で演奏家とお客さん達が心通わせるサロンコンサートも楽しい!心通わせ心温まる演奏会、これもやはり愛ですよね!


出演者のお二人が拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目はヴィヴァルディ「ファゴット協奏曲 イ短調 RV497」。39曲のコンチェルトを残したヴィヴァルディは、ファゴット奏者の大切なレパートリーとのこと。今回の曲は急緩急の3楽章構成でした。第1楽章、ピアノの少し長めの序奏から始まり、満を持してファゴットの登場。速いテンポで駆け上るのがカッコイイ!バロック期の作品でも、ロマン派の作品のような情熱が感じられました。少しゆったりする第2楽章は、切ないメロディが素敵。ファゴットもピアノもビブラート(?音を震わせる演奏)がチェンバロ風でもあり、バロック期の音楽らしさを感じました。再びテンポが速くなる第3楽章は、息の長いフレーズを音程を変えながら自在に吹くファゴットが素晴らしい!ピアノの情熱的な後奏も印象的でした。ファゴットって素敵!ファゴットの魅力がたっぷり味わえた演奏でした。

デュテイユー「サラバンドと行列」。作曲家26歳の時の作品で、本来は「バッソン」(ファゴットに似た楽器?)で演奏するためのものだったとか。コンセルヴァトワールの試験にも使われるそうで、「ファゴットってこんなこともできるんだよ」というのを知ってもらいたい、といったお話がありました。私は、ヴィヴァルディを聴いた直後だったためか、はじめのピアノの序奏がバロック期の音楽のようにも聞こえたのですが、ほどなく登場したファゴットは現代的な印象でした。演奏では様々な奏法が出てきて、ゆったり歌ったり、高速で音を駆け上ったり、重低音を響かせたりと盛りだくさん。私は興味深く聴きました。楽器はまったくできない私から見てもおそらく演奏は難しいのだと思われますが、夏山さんはさらっと演奏されて難しさはまったく感じさせなかったのはさすがです。またパワフルで情熱的なピアノと、心地よい響きにもかかわらず存在感抜群のファゴットが、お互いが打ち消すことない絶妙なバランスで重なり合うのが素敵でした。近現代の音楽ではあるものの、ほの暗く情熱的な音楽はカッコ良くて、自分なりに楽しく聴けた演奏でした。

バーンスタイン「ウエストサイドストーリー」より3曲。ちょうどPMF開催期間中でもあり、PMF創始者バーンスタインが思いやりの気持ち(愛)を込めた作品、とのこと。私は、トークの中で紹介された今回の3つの曲名をちょっと聞き取れず(ごめんなさい!)、またストーリー自体を知らないのですが、いずれも聞き覚えのある親しみやすい曲でした。1曲目は、都会的なムードたっぷり。2曲目は、美メロを息を長くのばして歌う輝かしい音楽。3曲目は、ゆったりとしたちょっと切ない大人の雰囲気。様々な奏法を使っての「歌う」ファゴットを楽しませて頂きました。


後半のはじめは、ブラームス「3つの間奏曲 作品117」より、第1番と第2番をピアノ独奏で。作曲家自身が「我が苦悩の子守歌」と呼んだ、最晩年のピアノ小品です。一歩一歩、歩みを進めながら少ない音の中に優しさも哀しみも内包した第1番、切なさと寂しさに胸打たれる第2番。いずれも高音の控えめで美しいメロディに対しての、ブラームスらしい低音の重なりがとても良かったです。演奏前のトークで水口さんがご自分の若さから謙遜されていらっしゃいましたが、心が込められた演奏はとっても素敵でした!10年後20年後、円熟した演奏もぜひ拝聴したいです。もちろん今回の演奏は素晴らしいものでしたが、第3番が無かったのが個人的に少しムズムズしたので(笑)、次はできれば3曲すべてを続けての演奏でお願いします!第2番の最後に余韻を残す音は、第3番の冒頭の1音に繋がっているので、その流れも含めて味わいたいです!

いよいよメインプログラム、ブラームスクラリネットソナタ ヘ短調 作品120-1」クラリネットファゴットに置き換えての演奏です。第1楽章、ドラマチックなピアノの序奏で掴みはOK!続けて登場したファゴットの仄暗い音色が想像以上にこの曲にハマっていて、早速引き込まれました。重厚感あるピアノと掛け合いながら、温かみのある音色で苦悩や内なる叫びを歌うファゴット、素晴らしいです!あとは、楽器が異なるため致し方ないかも?と思う部分はありました。例えば原曲ではクラリネットの見せ場の一つである、クラリネットの一番低い音から少しずつ高い音まで上昇するところは、ファゴットでは高い音をオクターブ下げたためにほぼ平行移動に。しかしまだ枯れていない情熱を内包した感じがあって、演奏自体はとても良かったです。他にも速いパッセージのところ等でやや力業?と思われる部分がありましたが、音楽の勢いとテンポ感は崩さずに駆け抜けた演奏は見事でした。穏やかな第2楽章は、私は「子守歌」だとずっと思っていました。もちろんそれでも良いと思いますが、今回ヘルミーネのことを意識して聴くと、大樹のような包容力のあるピアノ(=ブラームス)に、のびやかに歌うファゴット(=ヘルミーネ)と思えてきました。過去の思い出を慈しむような、優しい響きがしみじみ良かったです。第3楽章は、ゆったりとした素朴な舞曲のようで、ピアノとファゴットが主役と脇役をなめらかに交代を繰り返す、愛らしい音楽に心温まりました。ファゴットの温かみのある音色がぴったり!第4楽章は一転してテンポが速い軽やかな音楽に。この楽章の演奏がとっても良かったです!音を細かく刻んだり玉を転がすように歌ったり、息が長いフレーズも朗らかで軽快なファゴットが素敵でした。情熱的なピアノとの掛け合いも良くて、ピアノが主役に躍り出た時、ファゴットが音量を下げて伴奏に回ったその流れもごく自然。堂々たる響きで明るく駆け抜けた、輝かしいラストが素晴らしい!愛あふれる作品を、愛情を込めた素敵な演奏で聴かせてくださりありがとうございました!

カーテンコールの後、ごあいさつと次回の演奏会の宣伝がありました。そしてアンコールの演奏へ。ガーシュウィン「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」。「ワイン片手に楽しんで頂きたいような」と夏山さん。私達も気持ちだけはそんな感じで、リラックスして楽しませて頂きました。大人の夜にぴったりの音楽を、ピアノもファゴットも甘く語りかけるように歌ったのがとっても素敵!ファゴットが感極まったように低い音から高い音へ駆け上ったところがとても印象的でした。演奏にトークに、最初から最後まで愛あふれる楽しい演奏会をありがとうございました!


ブラームスがヘルミーネ・シュピーズと一番幸せだった頃の作品「ヴァイオリン・ソナタ 第2番 op.100」がメインに取り上げられた演奏会はこちら。「辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル」(2022/07/19)。愛あふれ歌心あるブラームスソナタ2番は想像以上の素晴らしさ!クララやシューベルトストラヴィンスキー等バラエティ豊かな演目を、信頼し合った上で重なり合う幸せな共演で聴かせてくださいました。

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水口さんがご出演された「トリオイリゼ・リサイタル」(2022/01/21)。札響の赤間さゆらさん(Vn)と小野木遼さん(Vc)、そして水口真由さん(Pf)の新進演奏家3名によるピアノ三重奏団の演奏会。ロマン派のような感情が垣間見えたモーツァルトに、人知れず苦悩を抱えたメンデルスゾーン、そして朗らかで情熱的なブラームス。重厚な独墺プログラムの演奏は圧倒的な熱量で素晴らしかったです!

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ブラームスヴィオラソナタ 作品120-2」(ブラームス自身によるクラリネットソナタヴィオラ編曲版)が取り上げられた演奏会はこちら。「櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2022/06/11)。札響にすごい若手ヴィオラ奏者がいらっしゃいました!愛と情熱のブラームス、超絶技巧のヒンデミット、超カッコ良いピアソラ。華やかで重厚感あるピアノも素晴らしかったです。なおヴィオラの櫨本さんは、次回の第16回Sound Space クラシックコンサート(2022/10/10、共演はギターの佐藤洋美さん、会場は渡辺淳一文学館)にご出演予定です。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

PMFホストシティ・オーケストラ演奏会(2022/07) レポート

www.pmf.or.jp

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今年(2022年)のPMFホストシティ・オーケストラ演奏会は、指揮にPMF客演指揮者のケン=デイヴィッド・マズアさん、PMF教授陣からゲストコンサートマスターにライナー・キュッヒルさん、ソリストにはダニエル・マツカワさんをお迎えしての独墺プログラム。ちなみに私がPMFの演奏会を聴くのは実に3年ぶりです。また今年のPMFで私が聴けるのは結果としてこのホストシティ・オーケストラのみとなりそうです。


PMFホストシティ・オーケストラ演奏会
2022年07月22日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
ケン=デイヴィッド・マズア

ファゴット
ダニエル・マツカワ

管弦楽
札幌交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル

【曲目】
ブラームスハイドンの主題による変奏曲 作品56a(聖アントニーのコラールによる変奏曲)
モーツァルトファゴット協奏曲 変ロ長調  K. 191

シューマン交響曲 第4番 ニ短調 作品120(1841年初稿版)


PMFでしか聴けない札響」による王道の独墺プログラムは、札幌の初夏のように爽快で気持ちよく、かつ安定感ある演奏で安心して聴けました。奇をてらうことはなくても勢いとパワーがあって、世界中から集まった若いアカデミー生たち(会場にちらほらお見かけしました)には良い刺激となったのでは?またPMFからお越しのお三方も札響メンバーも終始にこやかに、とても楽しそうに演奏していらしたのが印象的でした。PMFのお三方は当然PMFでの指導や演奏が立て込んでおり、札響だってこの時期は地方公演が目白押し。そんな中、短い準備期間で今回限りのチームを作り上げ、クオリティの高い演奏を聴かせてくださったことに感謝です。

ブラームスの変奏曲では、ブラームスらしい控えめな美メロとしっかりした低音の重厚さが感じられました。各変奏が順に登場する流れが交響曲のようにも感じられたのが面白く、各変奏はそれぞれ独立しているとはいえ順番と構成も考えて作られているのかも?と勝手に推測。私は宗教的な要素や変奏曲の本質的なところがわかっていないので、表層的な聴き方ではあるのですが、自分なりに楽しめたのがうれしかったです。またモーツァルトファゴット協奏曲は、都会的な独奏ファゴットがとっても素敵で、独奏の繊細さを潰さないように柔らかな響きで包み込んだオケとはとても幸せな共演と感じました。そしてメインのシューマン交響曲第4番」は、勢いがあって力強いカッコ良さがあり、シリアスすぎず(シューマンの鬱展開は今の私にはちょっと重たい)、素直にいいと思えました。妻クララへの誕生日プレゼントだったそうですが、彼女が好んだチェロの見せ場を用意したのはサービス?とも思ったり(勝手な想像です)。また、明るいところとシリアスなところが交互に来ても、一つの流れの中で不思議と違和感なく受け止められた気がします。ここ最近、約半年の間に札響の演奏でシューマン交響曲を3つ聴いた私ですが、今回の4番は2番や3番とは違う形でのシューマンの二面性が新鮮でした。なお第4番については現在演奏されるのは主に改訂版で、今回のように初稿版が取り上げられるのはめずらしいとか。私は先に初稿版を聴いてしまいましたが(笑)、今後改訂版の演奏を聴く機会があったら、2つの版の違いも意識してみようと思います。ちなみにこのシューマン交響曲第4番については、ロベルト・シューマン他界後、彼の作品を整理した妻クララと友人ブラームスがどの版を採用するか揉めた(クララは改訂版、ブラームスは初稿版を支持)という逸話があるので、一体どの辺りが両者の判断ポイントだったのかを推測してみると面白いかも。


1曲目はブラームスハイドンの主題による変奏曲(聖アントニーのコラールによる変奏曲)」。はじめの主題は、低弦のピッチカートの下支えに、柔らかな響きの木管が素敵。ファゴットコントラファゴットに導かれた第1変奏と、ほの暗く情熱的な第2変奏は、冴えた高音弦がカッコイイ!また対する低弦の存在感がブラームスらしくて個人的にはうれしいポイントでした。穏やかな第3変奏は牧歌的なホルンと低弦とのやりとりが印象的。第4変奏では、オーボエとホルンの哀しげな響きと美しい弦の重なりが素敵でした。駆け足でかわいらしい感じの第5変奏を経て、ホルンとファゴットから入った第6変奏へ。全員参加で盛り上がったこの壮大な第6変奏が個人的には最も印象深かったです。再び穏やかになった第7変奏は、美しいフルートと澄んだ弦に視界が開けるようでした。プログラムノートに「陰鬱な雰囲気」と書かれていた第8変奏は、揺らぐように歌った木管がミステリアスで、暗さの中にもキラリと光るものを私は感じました。そして終曲へ。はじめの低弦が素敵!各木管が変奏をリレーして、クライマックスではトライアングルも加わり思い切り華やかに。スピード感ある輝かしい締めくくりまで、とても楽しかったです!

ソリストのダニエル・マツカワさんをお迎えして、2曲目はモーツァルトファゴット協奏曲」。作曲家18歳の時の作品だそうです。オケの編成はコンパクトになり、弦は少数精鋭、管はオーボエ2とホルン2、金管打楽器ナシでした。第1楽章、小編成でも華やかなオケによる序奏は、ザ・モーツァルトな品の良い響き!ほどなく登場した独奏ファゴットは温かな音色でコロコロ歌い、個人的にはクラリネットのようにも感じました。高めの音域で細かく音を刻みながらの独奏は、低い音をのばすファゴットの通常イメージとは少し違った洗練した響き。カデンツァは速いテンポで流暢に聴かせてくださいました。第2楽章は、優しくゆったりしたオケの響きに、独奏ファゴットも穏やかな感じに。高い音を長くのばして歌うのはサクソフォーンのようにも感じましたが、時折ファゴットお得意の重低音がアクセント的に入るのがツボでした。またオーボエと会話するようなところが印象に残っています。この楽章でのカデンツァは高い音を長くのばして歌う形で、前の楽章との違いが楽しめました。第3楽章は、オケのメヌエットに乗って、独奏ファゴットが音を駆け上ったりのばしたりと軽やかに歌うのが自由な感じで素敵。おそらく演奏は難しいのだと思われますが、息の長い演奏は流麗で、響きの心地良さを楽しめました。主役として歌うファゴット、とっても素敵でした!

後半はシューマン交響曲第4番」の1841年初稿版。全楽章を区切らずに続けての演奏でした。第1楽章、華やかな第一声はベト7に似ている?と一瞬思ったものの、すぐにシリアスな感じに。高音が主役の華やかなところと低音が効いた重厚なところが切れ目無く交互に登場する形で、中低弦がカッコイイ!時折クレッシェンドで力強い波が来るのが刺激的でした。また、シーンが変わるところのパンチが効いたバストロンボーンの存在感が印象に残っています。第2楽章、柔らかな木管群が印象的なところから弦も加わったオケのゆったりと哀しげな響きに続いて、コンマスソロの登場!美しく歌うコンマスソロで世界がぱっと明るくなったようで、支えるオケも温かな響きに変化したのが印象的でした。独奏フルートが駆け上った後に、独奏オーボエと独奏チェロが同じメロディを哀しく歌ったのがとっても素敵!第3楽章、タンッタンッタンッ!と歯切れ良いリズムで力強い音楽にゾクゾク。ティンパニとホルンがカッコイイ!また高音弦に対する低弦が自分好みで、ぐっと引き込まれました。穏やかなところの木管の柔らかな響きも素敵でした。第4楽章、厳かなトロンボーンが印象的な序奏から、ジェットコースターのような勢いある流れで一気に生命力あふれる華やかな感じに。同じタンッタンッタンッ!でも前の楽章とは違って明るく軽やか。勢いある流れの中で、穏やかな木管と弦が滑らかにメインとサブを交代したり、重低音の金管の後に弦がティンパニと一緒にクレッシェンドで浮かび上がってきたり、高速で低弦から高音弦へメロディをリレーしたりと、澄んだ弦の音色が素敵でした。パワフルで高速のフィナーレから、堂々たる締めくくり。音楽の勢いに乗って没頭できた、あっという間の30分弱でした!王道プログラムを爽快で勢いのある素敵な演奏にて聴かせてくださり、ありがとうございました!



この日の3日前(2022/07/19)に聴いた「辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル」。愛あふれ歌心あるブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番は想像以上の素晴らしさ!クララやシューベルトストラヴィンスキー等のバラエティ豊かな演目を、信頼し合った上で重なり合う幸せな共演で聴かせてくださいました。

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変奏曲といえばこちら。前回の札響定期(土曜夜公演は2022/06/25)は、指揮とヴァイオリンにドミトリー・シトコヴェツキーさんをお迎えし、シトコヴェツキーさん編曲の弦楽合奏ゴルトベルク変奏曲がメインプログラム。緻密かつ心に染み入る演奏でバッハの偉大さを再認識しました。また「白鳥の湖」では、美メロだけじゃないチャイコフスキーの骨太な魅力も堪能できました。

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シューマン交響曲モーツァルトの協奏曲といえばこちら。前々回の札響定期(日曜昼公演は2022/05/29)のメインプログラムはシューマン交響曲第3番「ライン」。ライン川を思わせる壮大な響きのシューマン。華やかな「水上の音楽」に、アンヌ・ケフェレックさんの可憐で繊細なピアノによるモーツァルト。首席指揮者マティアス・バーメルトさんによる、シーズンテーマ「水」がよどみなく流れるような演奏に、清々しい気持ちになれました。

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辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル(2022/07) レポート

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ヴァイオリニストの辻彩奈さんとピアニストの阪田知樹さんのデュオリサイタルが開催されました。2022年7月に全国10カ所を回るコンサートツアーの一つで、札幌公演ではブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番がメインプログラム。また演目の中にはクララ・シューマンの作品も!これは絶対に聴きたい!と、私は早い段階でチケットを入手し、当日を楽しみにしていました。


辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル
2022年07月19日(火)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール

【演奏】
辻 彩奈(ヴァイオリン)
阪田 知樹(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハG線上のアリア
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 D384 op.137-1
ストラヴィンスキー:イタリア組曲

クララ・シューマン:3つのロマンス op.22
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 op.100

(アンコール)
マスネ:タイスの瞑想曲
パラディス(S.ドゥシュキン):シチリアーノ


ピアノはスタインウェイでした。


愛あふれ歌心あるブラームス、想像以上の素晴らしさでした!辻さんと阪田さんはともに20代のお若いかたにもかかわらず、作曲当時50代のブラームスの想いを見事に形にしてくださったことに大感謝です!ヴァイオリン・ソナタ第2番は、「雨の歌」の愛称で親しまれている有名な第1番と、完成度が高く演奏家の勝負曲でもある第3番の2つに挟まれた真ん中っ子で、やや影が薄い存在かもしれません。しかし、ブラームスが若いアルト歌手のヘルミーネ・シュピーズに恋をしていた(※ブラームスにはクララ以外にも恋バナがいくつかあります)幸せいっぱいな頃の作品。優しく美しいメロディをずっと「歌って」いて、他の2曲に引けを取らない名曲だと私は思っています。第2番をメインに選ぶなんて、お目が高い!とはいえ派手さはなく、一歩間違えると単調でつまらなくなる怖さがある難しい曲です。そんな作品を、辻さんと阪田さんはずっと歌いながらもテンポや演出に変化をつける演奏で、男女の心情や駆け引きの機微(ヴァイオリン=ヘルミーネ、ピアノ=ブラームス、と私は勝手に設定)を丁寧に表現してくださいました。これは何度も共演を重ねてきたお2人が、高い技術があった上で、愛情込めて真摯に作品に向き合ってこられたからこそと拝察します。傍目にはさらっと演奏しているように見えても、ここに至るまでには相当な努力の積み重ねがあったに違いありません。本当にありがとうございます!

また他の選曲もとても気が利いていました。ロマンティックなブラームスソナタ2番の前座は、ブラームスと縁のあるクララ・シューマンの作品。また前半のシューベルトブラームスとはまた別の個性の「歌う」音楽で、ストラヴィンスキーは懐かしさと作曲家の個性が同居する「踊る」ような音楽。そして1曲目とアンコールの小品の数々は心穏やかになれる美しい音楽と、バラエティ豊か。しかしいずれの演目の演奏も、ヴァイオリンとピアノは対立するのではなく、信頼し合った上で重なり合う幸せな共演と感じられました。聴いている私達も幸せな気持ちになれて、音楽ってステキ!としみじみ。テレビではよくわからなかった、お2人の呼吸や間合いが絶妙に合うのを肌で感じられたのもよかったです。辻さんと阪田さん、素晴らしいデュオとの出会いに感謝!今後お2人の演奏がどのように変化していくのかもとっても楽しみです!


奏者のお2人が舞台へ。辻さんは青いドレス、阪田さんはダークスーツに白シャツにノータイでした。すぐに演奏開始です。1曲目はおなじみJ.S.バッハG線上のアリア。ゆりかごのような優しい響きのピアノに乗って、ヴァイオリンが低めの音でゆったりと美しいメロディを奏でるのにうっとり。心洗われました。丁寧にビブラートを効かせたところも印象に残っています。超有名曲をお2人の個性が感じられる演奏で、掴みはバッチリOK!

2曲目はシューベルト「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 D384 op.137-1」。第1楽章、堂々として快活な出だしがインパクト大で早速引き込まれました。明るい音楽の流れの中で、メロディをヴァイオリンとピアノが追いかけっこしたり、細かく攻守交代しながら呼応するようにやり取りしたり、意味ある休符がぴたっと足並み揃ったりと、奏者のお2人が息ぴったりなのが素晴らしい!中盤にヴァイオリンが一瞬ふと哀しげな響きになったのも印象に残っています。第2楽章、主にピアノがメインで奏でた、ゆったりしたリズムの舞曲の響きが心地よかったです。ヴァイオリンは、ピアノがメインのときは音量を下げて細やかな演奏、逆に主役となったときは素朴でも存在感ある歌を聴かせてくださいました。第3楽章は再び快活に。スキップするようだったり駆け足だったりとテンポを細かく変化させながら、ヴァイオリンとピアノがウキウキと会話しているようで楽しい。輝かしく潔い締めくくりがインパクト大!とっても素敵でした!ヴァイオリンとピアノが対等で息ぴったりのやり取りをしながら歌っている演奏に、私は後半ブラームスへの期待がゲージMAXまで上昇しました。

ここでお2人のトークが入りました。今回の札幌公演は、全国ツアー10カ所のうちの8番目。前日は松山でリサイタルがあり、お2人はこの日に飛行機で移動してきたそう(ハードスケジュールですね……!)。着いてみたら札幌も意外と暑かったと阪田さん。「(同じ時間に)大ホールではPMFの演奏会があって、迷ったかたも多かったと思いますが、こちらを選んでくださりありがとうございます」と辻さん。いえ私の場合、こちらのリサイタルのチケットは発売初日に購入したので迷いはなかったです!ただ後から発表されたPMFの企画には、大好きなブラームスのピアノトリオ第1番があって、もし開催日時がずれていたらPMFの方も聴きたかったなとは思いました……。最後に阪田さんから今回の演目それぞれについて簡単な解説があり、トーク終了となりました。

前半ラストはストラヴィンスキー「イタリア組曲ストラヴィンスキーバレエ音楽『プルチネルラ』をヴァイオリンとピアノのために編曲したものだそうです。第1曲、ヴァイオリンの第一声から入り、すぐさまピアノとヴァイオリンが一緒に同じリズムに乗るのが素晴らしい!あうんの呼吸とはまさにこの事!安定感あるピアノに乗って、バロック期の作品のような懐かしいメロディを奏でるヴァイオリン。メロディが繰り返される度に高音で華やかだったり低音でシリアスだったり少し不穏な雰囲気だったりと表情が変化するのが楽しかったです。第2曲、低音のピアノのリズムに乗って、切なく歌うヴァイオリンが素敵。中盤の、感極まったような重音とピッチカートがインパクト大でした。第3曲、細かく音を刻みながらもスピード感ある演奏に圧倒されました。民族音楽のようでありながらどこか都会的な雰囲気。ボン、と一度だけのピッチカートで締めたのも印象的でした。第4曲、素朴な舞曲が心地よく、華やかなヴァイオリンと低音で支えるピアノが一緒にダンスしているよう。第5曲、疾走感あるリズミカルな音楽を、ヴァイオリンが時にかすれるような音でパワフルに演奏。第6曲、前半メヌエットではピアノの重低音がとても印象的でした。後半は変化が多く気迫に満ちた感じに。リズミカルで超カッコイイ!時に優等生路線から外れたりもする自由自在なヴァイオリンに、がっちり骨太で支えるピアノ。2つが見事にシンクロしながらダンスしているような演奏が最高!すごいものを聴かせて頂きました!


後半の1曲目はクララ・シューマン「3つのロマンス op.22」。私は以前ブラームスのヴァイオリンソナタ全曲演奏会にて出会い一目惚れした曲で、今回久しぶりに聴けるのを楽しみにしていました。阪田さんによると「ロマンティックな曲で、ロマン派の作曲家たち、メンデルスゾーンブラームスロベルト・シューマンのようなところもある」とのこと。せっかくなので、今回私はそれを意識して聴いてみることに。第1曲は、絵画的なメンデルスゾーンの雰囲気。ロマンティックに歌うヴァイオリンが水面を優雅に進む小舟のようで、美しくも落ち着きあるピアノは穏やかな水面のよう。そんな情景が目に浮かぶ、しっとりとした素敵な演奏でした。第2曲は、哀愁漂うヴァイオリンと寄り添うピアノが心の内面を表しているようで、1曲目とはまた違う良さがありました。強いて言えばロベルト・シューマンのシリアス展開に近いかも?個人的には、クララの曲はロベルトほど深刻ではなく、まだまだ気持ちに余裕があるようにも感じました。高めの音のピッチカートで締めくくるラストがチャーミング!第3曲、厚みのあるピアノに情熱的に歌うヴァイオリン。とってもブラームスっぽい!ピアノが旋律を引き継いで主役に躍り出た時は、ヴァイオリンはピッチカートで合いの手を入れるというところまで「らしい」!クララがこの曲を書いたときはまだブラームスとは出会っていないはずですが、ヴァイオリニストのヨアヒム(クララはこの作品をヨアヒムに献呈しています)を通じて既に2人には共通する想いがあったのかも!と、私は自席で密かに喜んでいました。クライマックスの盛り上がりを経て、曲は静かに締めくくり。私はクララの奥ゆかしい感じの締めくくりも好きですが、もしブラームスなら何かしらインパクトのあるラストを用意したかも?とも思いました(笑)。この後に続くメインのブラームスの前に、クララのロマンティックな曲が聴けてうれしかったです。

いよいよ本日のトリ、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 op.100」。第1楽章、温かみのあるピアノと柔らかく呼応するヴァイオリン!限りなく優しく美しい、この曲の本質に迫る出だしから早速心掴まれました。明るさに陰りが見える少しシリアスなところ(こちらも印象的でした)を経て、歌曲『メロディのように op.105-1』に似たところへ。大きな愛で包み込むようなピアノと甘やかに歌うヴァイオリンが素敵すぎました。お互いの信頼と愛が感じられ、まるで作曲当時のブラームスとヘルミーネが目に浮かぶよう。明るく力強い締めくくりが清々しかったです。続く第2楽章は、緩・急・緩・急……と、2種類の旋律が少しずつ変化しながら交互に登場するスタイル。「緩」では伸びやかに歌うヴァイオリンがとっても素敵!天真爛漫だったり哀しみを垣間見せたりと、豊かな表情の変化を聴かせてくださいました。また影ながらそっと支える、大人の落ち着きあるピアノも良かったです。そんなピアノが「急」では(演出として)ややぎこちなくなるのが個人的にはツボ。ここでのピアノは「好きな女性にもっと近づきたくて距離感を探っている不器用な男性」と私は勝手に妄想しています。今回、細かく音を区切りながら切ないメロディを奏でるピアノがすごく良くて、当時の作曲家自身の心情を思い胸焦がされました。そのピアノに呼応するヴァイオリンがまた素晴らしかったです。独特のリズムを刻むピアノに対して、低い音で合いの手を入れたり同じ旋律をピッチカートしたり旋律を引き継いだり。男性のアプローチに女性の方の心情が変化していく様が感じられました。この掛け合いの見事さは何度も共演を重ねてきたお2人だからこそ!そんなやり取りを最後は「なーんてね」と冗談っぽく駆け足で締めくくり。リズミカルで明るい感じに、思わず笑みがこぼれます。第3楽章は、はじめの低めの音程でゆったりと歌うヴァイオリンと包容力ある響きのピアノの重なりがとっても素敵でした。思い合う2人は落ち着いた関係になったのだなとしみじみ。多幸感に影が差す、ピアノのアルペジオも印象に残っています。歌曲『わが恋は緑 op.63-5』に似たところでは、はじめヴァイオリンが切なく歌い、続いてピアノとヴァイオリンが交互に歌う……ああ素敵すぎ!思い合う2人の語らい、これって愛ですよね!この小粋な演出を奏者のお2人は自然に流れるような演奏で、それこそ歌うように聴かせてくださいました。そして重音が印象的な、ふくよかで幸せいっぱいの明るいラストが最高でした。歌詞のない歌曲を歌っているようで、あふれる愛が感じられる演奏。こんなブラームスに出会えて本当に幸せです!ありがとうございます!

カーテンコールの後、お2人のトークに。辻さんは「くだけた話をします」と前置きした上で、「札幌と言えば六花亭。私は六花亭のマルセイバターサンドが世界で一番好きなお菓子です」と告白。私もです!0キロカロリーなら無限に食べちゃうくらい好き!また、ドレスは風呂敷に包んで持ち運ぶという辻さんは、六花亭の包装紙と同じ花が描かれている風呂敷が欲しいのだそう。それがポイント交換の景品と知って「六花亭のお菓子を頑張って食べて、ポイントを貯める」と、とっても健気なことを仰っていました。六花亭さんお願いします、辻さんに風呂敷をプレゼントしてくださいませ。そして、sns上では「バームクーヘン大使」のハッシュタグで各地のバームクーヘンを取り上げている阪田さんは、六花亭のお菓子ならチョコマロンがお好きなのだそうです。六花亭さん、もうこれは「辻彩奈&阪田知樹デュオリサイタル in ふきのとうホール」の開催待ったなしですよ!個人的には辻さんと阪田さんのデュオでブラームスのヴァイオリン・ソナタの第1番と第3番、お2人がライフワークとしているフランクのソナタの演奏も拝聴したいです。ぜひご検討をお願いいたします!もちろん楽屋にはマルセイバターサンドとチョコマロンをたくさん用意してください♪できれば六花亭の札幌本店限定で持ち帰り不可の「マルセイバターサンドアイス」も♪

トークの最後に阪田さんから曲名紹介があり、アンコール1曲目はおなじみマスネ「タイスの瞑想曲」。波のような優しい響きのピアノに、高い音でゆったりと天国的に歌うヴァイオリン。名曲を美しい響きで聴かせてくださいました。途中でぐっと低い音が登場するところもツボ。ちなみに私はこの曲の演奏にうっとりしつつ、この日の最初に聴いた「G線上のアリア」を連想。もちろんカラーが異なる曲ではありますが、包容力のあるピアノと、そのピアノに乗って伸びやかに歌うヴァイオリン――辻さんと阪田さんのデュオの良さのコアはこれなのかも?と、私は勝手ながらそう感じたのでした。

拍手喝采の会場にお2人が戻って来てくださり、曲名紹介ナシでアンコール2曲目へ。パラディス(S.ドゥシュキン)「シチリアーノ」。今回の演目のうち、この曲のみ私は初聴きで、その時は曲名はわからないまま聴いていました。独特のリズム感がある、切なくも美しい音楽が新鮮!一歩一歩、歩みを進めるような丁寧な演奏で、少しビブラートがかかったところも印象的でした。辻さん阪田さん、アンコールに至るまでバラエティ豊かな演目の数々を素晴らしい演奏で聴かせてくださり、ありがとうございました!近い将来、再び札幌でのリサイタル開催をぜひお待ちしています!

※おことわり。辻彩奈さんのお名前の「辻」は配布されたプログラムでは「一点しんにょう」の表記になっていました。しかし「一点しんにょう」の場合、web閲覧環境によっては文字化け等で読めなくなるおそれがあるため、大変申し訳ありませんが弊ブログでは「辻」の表記を採用いたしました。ご了承くださいませ。


最後に読書感想文のご紹介。ブラームス回想録集』全3巻、愛が重いレビュー記事です。「人間ブラームス」の魅力満載、そして当時の音楽文化全般についても耳よりな情報が盛りだくさん。ブラームスのファンであってもなくても超おすすめの本です!アルト歌手のヘルミーネ・シュピースがオイタしたエピソードや、ブラームスと親しかったスイスの文学者ヨーゼフ・ヴィトマンによる、ヴァイオリン・ソナタ第2番につけた歌詞(!)もありますよ。

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札幌室内管弦楽団 第19回演奏会(2022/07) レポート

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プロアマ混合オケの札幌室内管弦楽団定期演奏会。今回は昨年8月からの延期公演です。札響副首席トランペット奏者・鶴田麻記さんをソリストにお迎えしての協奏曲に、後半はブラ4。私は企画発表当初から楽しみにしていました。


札幌室内管弦楽団 第19回演奏会
2022年07月03日(日)18:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
松本寛之

【トランペット】
鶴田麻記 ※札幌交響楽団副首席トランペット奏者

管弦楽
札幌室内管弦楽団コンサートマスター:野村聡)

【曲目】
モーツァルトフィガロの結婚 序曲
フンメル:トランペット協奏曲 変ホ長調
ソリストアンコール)アンダーソン:トランペット吹きの子守歌

ブラームス交響曲第4番 ホ短調 作品98
(アンコール)ブラームスハンガリー舞曲 第5番


ソリスト鶴田麻記さんによる歌心あふれる表情豊かな演奏、とっても素敵でした!トランペットはファンファーレのようなパンチが効いた演奏だけでなく、今回のような温かみのある音色で歌うのも素敵です!おそらく難易度が高い演目を、鶴田さんは安定感ありながらも軽やかに歌うように演奏。心地良い響きはずっと聴いていたいほどでした。もちろん独奏とごく自然に溶け合ったオケも素晴らしいです。1年以上前から決まっていた企画。依然続くコロナ禍の中で、ソリストの鶴田さんもオケも、本番を迎える日までモチベーションを保ち、様々な制約がある中でリハーサルを重ねたのは大変だったことと存じます。今回とても良い形で初共演が実現し、クオリティの高い演奏を聴かせてくださったことに大感謝です。

また後半ブラ4の作品への愛が感じられる丁寧な演奏も素敵でした。私自身、繰り返し聴いてきた思い入れのある演目ですが、何度でも聴きたいですし、聴く度に新たな発見があるのがうれしいです。今回、私にとって大収穫だったのは、やや異質な第3楽章を第2楽章からの流れで違和感なく受け入れられたこと。あくまで個人的な感覚なのですが、自分が今まで聴いてきた第2楽章の演奏は厳格なものが多く、どうしても第3楽章の明るさとのギャップを感じていたのだと思います。一方、今回の演奏での第2楽章は優しさと温かさに満ちていたと感じました。これはブラームスなりの「愛」で、穏やかな優しさの第2楽章から陽気な明るさへ振り切る第3楽章は地続きなのかも?と、ようやく自分なりの受け止め方が出来た気がします。あとは正直に言うと、私はこの曲を聴きこんできた故に、演奏にちょっと注文したくなる部分もありました。しかし技術的なものより大事なのは、作曲家と作品へのリスペクトと愛情。今回の演奏からもそれらが感じられたのがうれしかったです。些末なことにこだわっては本質を見失ってしまいます。思えば初めて札幌室内管弦楽団の演奏会を聴いたとき(2019年10月)、私はブラ2の演奏に心から感激したのでした。初心を忘れずに、まっさらな気持ちで目の前の演奏を心から楽しむのが一番!帰りに地下鉄駅へ向かう道すがら、常連さんと思われる皆様が口々に「良い演奏会だった」と仰っていたのは、本当に素敵だと私は思います。そしてこんな素敵なファンが大勢ついている札幌室内管弦楽団は、やはりとても素敵なオケだと改めて実感しました。


1曲目はモーツァルトフィガロの結婚」序曲。序奏に続いて華やかな盛り上がりになり、聴いている私達の気分も一気にあがります。速いテンポでの快活な流れの中で、個人的に好きな中低弦がメロディ担当したところや、木管が主役の穏やかなところ、すべて素敵でした。弦がごく小さな音からクレッシェンドで浮かび上がってくるところがとっても良かったです。ラストはうんと華やかな盛り上がりで、掴みはOK!

協奏曲の演奏に入る前に、指揮の松本さんがマイクを持ってごあいさつ。続いて前回の演奏会でのソリストを讃えた上で、今回のソリスト紹介がありました。ソリストの鶴田麻記さんをお迎えして、2曲目はフンメル「トランペット協奏曲 変ホ長調。鶴田さんは淡い黄色のふんわりしたドレス姿、髪をアップにまとめていました。第1楽章、オケによる序奏はモーツァルトのような華やかさとベートーヴェンのような力強さが感じられました。満を持して独奏トランペットの登場。華やかな冒頭からインパクト大!音量があっても耳に触る感じは皆無で、温かなまるい音色がとても心地よかったです。基本的に明るく歌った独奏トランペットでしたが、時折ふっと陰りを見せたのが印象に残っています。音を震わせたり細かく刻んだりといった奏法や息が長いフレーズも、流れるようにごく自然な演奏で聴かせてくださいました。オケは、独奏トランペットが主役のときは音量を下げて支えに回り、独奏と会話するようにメロディをやり取り。また独奏が小休止のときは自然に音量を上げ、華やかに盛り上げたのも素晴らしかったです。第2楽章は哀しげな感じに。哀しいのに優しい響きの独奏トランペットが超素敵でした!音を長くのばすだけでなく、細かく音程を変えたり震わせたりと、音楽自体はゆったりなのに演奏はきめ細やか。対するオケも良い仕事をしていて、特に独奏に合いの手を入れた木管群の包容力ある響きや、終盤の低弦が効いたところが個人的にはツボがでした。そのまま続けて第3楽章へ。スキップするような独奏トランペットの演奏が楽しい!リズム良く合いの手を入れるオケの、中でもホルンの響きがとても良かったです。クライマックスでの独奏トランペットによるテンポが速く息が長いフレーズが圧巻でした。ラストは独奏トランペットとオケが一体となって華やかに締めくくり。伸びやかに歌う独奏トランペットと優しく包み込むオケ、気持ちの良い協演でした!

カーテンコールでは、鶴田さんへ花束が贈られました。ソリストアンコールアンダーソン「トランペット吹きの子守歌」。音を刻みながらも穏やかに流れるような音楽。温かく優しい響きに、心穏やかになれました。同じアンダーソンの「トランペット吹きの休日」のイケイケドンドンとは違った、こんな響きのトランペットも新鮮で素敵!鶴田さん、協奏曲に続いてソリストアンコールまで、トランペットの魅力たっぷりの演奏をありがとうございました!


後半、演奏前に指揮の松本さんがマイクを持ってお話されました。4月の公演(第20回)と今回7月の公演(第19回)の番号が前後しているのは、コロナ禍での延期によって企画順と開催順が入れ替わったためとのこと。これから演奏するブラ4は「美しさと力強さが同居」する、松本さんが大好きな曲なのだそうです。そんなお話があった後、演奏に入りました。ブラームス交響曲第4番」。第1楽章、ささやくような出だしに早速引き込まれました。曲が進むにつれて次第に熱量が増していった流れがごく自然で、高音とそれを追いかける低音の呼応がとても良かったです。情熱を秘めたブラームスはこうでなくっちゃ!ブラームスの歌心が感じられる演奏はどの部分も良かったのですが、中でもホルンとチェロによるもの悲しいメロディが素敵でうれしかったです。ここ好きなんです、ありがとうございます!クライマックスでのドラマチックな強奏では、特にティンパニの思い切った強打が印象に残っています。第2楽章、開始のホルンの響きに胸打たれました。この後ホルンは組み合わせを変えながら何度も登場し、もの悲しくも温かな響きはいずれも素敵でした。ホルンに続いた木管のまるい音色による歌が心に染み入り、終盤の弦の優しいメロディがとにかく素晴らしかったです。やはりブラームスは愛!天国的な響きのラストでは、ティンパニが前の楽章とは違って穏やかな響きだったのが印象的。私はこの第2楽章の演奏に深く感銘を受け、続く異色の楽章を地続きと感じ、すんなり受け入れられました。第3楽章は、この曲の中では唯一明るい楽章。派手な盛り上がりの中で、この楽章のみに登場するトライアングル大活躍!リズム感とメリハリがある演奏が楽しく、潔い締めくくりまで、気分爽快な演奏でした。そして第4楽章へ。この楽章で初めて登場したトロンボーンの荘厳な響きがとても良かったです。悲劇的な弦がカッコイイ!フルートソロ、お見事でした。続いた木管群と支える弦、トロンボーンは温かで包容力ある響き!深刻になりがちなこの曲の中で、時折光が差すような穏やかなところがしっかり生きていた演奏でした。パワフルなトロンボーンインパクト大のクライマックスを経て、堂々とした締めくくり。愛と情熱のブラ4、とっても素敵でした!

アンコールはおなじみブラームスハンガリー舞曲 第5番」。先ほどのブラ4と同じ編成で、仄暗くもパワフルな演奏でした。中盤の穏やかなところでは、思いっきり力を溜める演奏で優しく温かな響きになったのが印象に残っています。潔く締めくくるラストが気持ちよく決まり、聴いていて清々しい気持ちになりました。カーテンコールの後、最後に松本さんが舞台へ戻って来て、「これで終わりです。気をつけてお帰りください」と仰って、会はお開き。今回も楽しかったです!愛ある素晴らしい演奏をありがとうございました!これからの演奏会も楽しみにしています!


指揮の松本寛之さんのYouTubeチャンネルにて、今回の公演と今までの公演の一部が聴けます。要チェックです♪

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前回はこちら。「札幌室内管弦楽団 第20回演奏会」(2022/04/03)。札響副首席ヴィオラ奏者・青木晃一さんの独奏は、高音の華やかさから低音の深さまで多彩な表情で客席を魅了し、存在感抜群でもオケと自然にシンクロ。ベートーベン「運命」は堂々たる響きの丁寧な演奏でした。

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札幌交響楽団 第646回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/06)レポート

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名ヴァイオリニストで名指揮者のドミトリー・シトコヴェツキーさんと札響との初共演が、コロナ禍での公演中止(2020年10月)を経て、今回ついに実現しました!シトコヴェツキーさん編曲による弦楽合奏版のバッハ「ゴルトベルク変奏曲」は札響初演。またシーズンテーマ「水」にちなんだ音楽として、チャイコフスキーの「白鳥の湖組曲が取り上げられました。

今回の「オンラインプレトーク」は、札響のヴァイオリン奏者・土井奏さん、ヴィオラ副首席奏者・青木晃一さん、チェロ副首席奏者・猿渡輔さんがご出演。シトコヴェツキーさん編曲による弦楽三重奏版のゴルトベルク変奏曲を演奏してきたことやシトコヴェツキーさんに会いに行った(!)お話、プレーヤー視点からの聴きどころなど、今回のメンバーならではのトークは必聴です!

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札幌交響楽団 第646回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年6月25日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮・ヴァイオリン】
ドミトリー・シトコヴェツキー

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
J.S.バッハ(シトコヴェツキー編):ゴルトベルク変奏曲弦楽合奏版)
チャイコフスキー:「白鳥の湖組曲


弦楽合奏版のゴルトベルク変奏曲、この日の演奏に出会えた私は幸せです!レベル高そうと敬遠していた曲に夢中になれたのは、まさに編曲と演奏によるマジック!私は予習で少しかじったピアノ版をとっつきにくいと感じてしまったのですが、編曲によって各パートが際立ったためか、今回の弦楽合奏版の演奏はすんなり受け入れることができました。不眠症の伯爵を楽しませるために作曲されたとの逸話があるこの曲は、きちんと計算されているにもかかわらず堅苦しさは感じられず、むしろ心地よい誰でもウェルカムな音楽と思えたほどです。また、感情表現でも物語を描くのでもない純粋な音楽だからこそ、いたずらに心をかき乱されずにそのままの形で味わえる良さもありました。加えて、緻密な演奏によって音楽の構成が浮き彫りになったおかげで、音楽の構成自体に後の時代の作曲家にも通じるものがあると感じられ、バッハの偉大さを再認識。流行廃りとは無縁のクラシック(古典)とは、まさにこのような作品なのですよね。今回の出会いに大感謝です!私は、今回の弦楽合奏版のみならず、同じくシトコヴェツキーさん編曲の弦楽三重奏版も聴いてみたいですし、慣れてきたら原曲にも再チャレンジしたいです。

世界的な芸術家のシトコヴェツキーさんが自身の編曲作品を弾き振り、加えて会場はkitara大ホール!最高の条件が揃っている中で、音楽に命を与えたのはやはり札響メンバーお一人お一人のお力によるもの。本来はチェンバロ独奏の曲を、複数の奏者による合奏、しかも弾き振りの指揮に合わせるのは素人考えでも相当難しそうです。また派手さや物語でごまかせない上に、計算通りきっちり演奏しないとバランスが崩れてしまうため、高度な演奏スキルが必要と思われます。しかし札響の弦奏者の皆様はさすがの安定感で、初演かつ1時間超の大曲を見事に演奏してくださいました。そしてシトコヴェツキーさんの独奏ヴァイオリンに引けを取らない、首席の皆様のソロ演奏がとにかく良かったです。お一人お一人がすごいプレーヤー揃いの札響を代表しての独奏は、誰もが納得する貫禄!そんな札響の弦メンバーが緻密に音を繋いで奏でたゴルトベルク変奏曲は、まるで壮大な宇宙のようでした。この日の演奏を、その場で聴けた私達はもちろん幸せですし、札響を導いたシトコヴェツキーさんも喜ばれたに違いありません。原曲を生み出したバッハも、この日の演奏を聴いたらきっと喜んでくれるのでは?

後半の「白鳥の湖」は、気合いの入ったパワフルな演奏で、美メロだけじゃないチャイコフスキーの骨太な魅力も堪能できました!見せ場となるソロ演奏の良さは言うまでもなく、どのパートも大活躍で、弦だけじゃない札響の良さを改めて実感。今回、前半の(イメージとして)ハイレベルな演目に対し、親しみやすい演目をチョイスしたシトコヴェツキーさんの心意気と、マエストロの生まれ故郷であるロシアの風土を感じさせる力強い演奏、とっても素敵でした!なお「白鳥の湖組曲の札響定期での演奏は、意外にも今回が2回目とのこと(1962年7月以来60年ぶり)。ちなみに定期以外での抜粋演奏なら、バレエ公演を除いても札響演奏歴は実に481回!おそらくは第1曲「情景」を中心とした超有名曲の抜粋がほとんどと思われます。しかし名曲の宝庫の「白鳥の湖」、超有名曲をほんの少しだけなんてもったいない。今後、超有名曲に限らず他の曲の演奏機会も増えるとうれしいです。時々は定期でもがっつり取り上げてください!


前半はJ.S.バッハゴルトベルク変奏曲」のシトコヴェツキーさん編曲による弦楽合奏です。指揮台は無く、シトコヴェツキーさんがコンマス席(背の高いイスに浅く腰掛けていました)で弾き振り。オケの配置は、通常とは2ndヴァイオリンとヴィオラの場所が入れ替わり、コントラバスは舞台中央のいつもは木管群がいる場所に。またチェロの後ろあたりにチェンバロ(演奏はKitara専属オルガニストのニコラ・プロカッチーニさん)が配置されました。私ははじめ演奏を聴きながら今何番目の変奏かを指折り数えていたものの、早い段階で怪しくなり(苦笑)、それからは目の前の演奏に集中することに。以下のレポートには、自分の記憶を録音と照らし合わせて数値を書き入れましたが、ズレがあるかもしれません(ごめんなさい!)。演奏は「アリア」からスタート。シトコヴェツキーさんと各パート首席による弦楽五重奏、ゆったりとした切なく美しく純粋な響きが素敵すぎて、早速引き込まれました。以降も首席が代表して演奏するシーンは多く、また全体の構成の中でのかっちりした役割は協奏曲のソリストとはまた違った難しさがあると思われ、首席の皆様はとても大変だったことと存じます。しかしそこは私達の札響首席の皆様ですから、どのシーンでも期待以上の素晴らしい響きを聴かせてくださった上で、屋台骨をがっちり支えてくださいました。アリアの後は30種類の変奏へ。通奏低音としてチェンバロが加わりました。最初の方は全員参加による華やかな盛り上がり。高音弦の明るいメロディが心地よかったです。また高音弦に対する低弦が、例えば第1変奏では鏡のようで、第2変奏ではこだまのよう。このような低弦のバリエーションが全編にわたりとても自分好みでした。ブラームスがやりそう!と一瞬思ったのですが、どう考えてもバッハの方が先ですよね……。また3の倍数はカノン(「かえるのうた」のような追いかけっこ)になっていて、第3変奏はまったく同じメロディ、第6変奏は2度、第9変奏は3度……と追いかける側の音程が1つずつズレていることや、高低が逆になる「反行カノン」を確認できたのも楽しかったです。心地よい音楽は最初から最後まで楽しめましたが、部分的には、小鳥がさえずるような華やかな独奏ヴァイオリン(第7変奏と第14変奏?)、カノンとはまた違った追いかけっこの形(第10変奏?私はこのあたりで何番目かわからなくなった気がします)、厳かなところからの華やかな盛り上がり(第15変奏から第16変奏の流れ?)、軽やかなピッチカートのリズム(第19変奏?)、首席奏者たちによるテンポの速い掛け合い(第23変奏と第29変奏?)、短調で哀しく歌う独奏ヴァイオリン(第25変奏?)、ピアニッシモよりさらに小さな音による全員参加の演奏(第28変奏?)、等が特に印象に残っています。そして第30変奏はカノンではなく「クオドリベット」という、複数の歌を重ねる形式に。カオスになるかも?との予想はうれしくも裏切られ、複数のメロディがシンクロして素敵なハーモニーになっていました。そしてラストは最初の「アリア」に戻り、ゆったりと美しい弦楽五重奏に。静かに消え入るラストがとても印象的でした。宇宙空間を旅してきたような感覚、1時間超があっという間でした。聴けて本当によかったです。緻密かつ心に染み入る素晴らしい演奏をありがとうございました!


後半はチャイコフスキー白鳥の湖組曲。今回は8曲バージョンでした。シトコヴェツキーさんはヴァイオリンを指揮棒に持ち替え、指揮台へ。前半より弦の人数は増員。コントラバスは舞台向かって右側後方のいつもの場所へ移動し、舞台中央と後方には木管金管・打楽器・ハープが配置されました。最初は超有名な第1曲「情景」。ハープと弦のトレモロに続いて魅惑的なオーボエソロ登場。何度聴いてもイイ!全体的にテンポが速い(体感速度ではいつもの1.2倍速くらい)と感じられましたが、このスピードでも演奏が乱れることはなく美しい音楽を聴かせてくださいました。また、他の管楽器とティンパニが加わってからの盛り上がりがとてもパワフルだったのも印象に残っています。第2曲「ワルツ」は、最初の弦ピッチカートから力強く、ワルツのリズムに乗った弦による艶っぽいメロディがとっても素敵。弦の皆様、前半の大曲を弾き終えた後にもかかわらず、こんなに素敵な演奏を聴かせてくださるなんて、もうありがとうございます!壮大で華やかなところはもちろんのこと、穏やかなところでの木管群のまるい音色と、かわいらしいトライアングル、温かなトランペットのソロも印象的でした。木管金管に多彩な打楽器も加わったラストの大盛り上がりは清々しく、私はついチャイ4を連想。この頃には自分が慣れたのか、テンポの速さの違和感はなくなっていました。続いては第3曲「白鳥たちの踊り」バレリーナたちのステップのようなリズムで、各木管が音を刻みながら演奏するのが素敵。低弦のピッチカートと、ヴァイオリンとヴィオラの合いの手もバッチリでした。まさに「オンラインプレトーク」で「タイミング合わせるのが難しい」とのお話があったところ!そして「オデットと王子の愛の踊りを表現」している第4曲の「情景」へ。木管群に続いて登場したハープ独奏が麗しく、物語への期待が高まりました。来ましたヴァイオリン独奏(オデット)!美しく華やかで少し影があるヴァイオリン独奏は存在感抜群でした。満を持してチェロ独奏(王子)が登場!待ってました!高音域で歌うチェロにたちまち心掴まれ、もうずっと聴いていたかったです。ヴァイオリンとチェロの重なりは素敵すぎて泣きそう。私もオデットになりたい。しかし演奏は、第5曲「チャルダッシュハンガリーの踊り」へ。弦による冒頭からインパクト大!超素敵!でもでも、前の曲の余韻は半ば強引に終了(笑)。ハンガリーの風を感じる演奏はとっても素敵で、哀愁を帯びた前半とテンポが速くなる後半のコントラストも楽しかったです。第6曲「スペインの踊り」。独特なリズムを刻む弦に、合いの手を入れるカスタネットとタンバリンが超カッコイイ!第7曲「ナポリの踊り」は、やはりコルネット(小ぶりなトランペット)の独奏ですよね!南国の太陽のような温かな響きがとっても素敵でした。何度でも聴きたい!最後の第8曲「マズルカは、はじめから大迫力の盛り上がり!中盤の木管のターンでは、中でもクラリネット2つの掛け合いがとても印象に残っています。思いっきり華やかな締めくくりまで、とっても楽しかったです!札響は弦だけじゃなく木管金管も打楽器も全部すごいと改めて。皆様最高です!ありがとうございました!


前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第645回定期演奏会」(日曜昼公演は2022/05/29)。首席指揮者マティアス・バーメルトさんが今シーズン初出演!華やかな「水上の音楽」に、アンヌ・ケフェレックさんの可憐で繊細なピアノによるモーツァルトライン川を思わせる壮大な響きのシューマン。シーズンテーマ「水」がよどみなく流れるような演奏に、清々しい気持ちになれました。

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札幌市と札響の主催による特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)。チケットはサービス価格設定(一般1000円、65歳以上500円)で、平日昼間にもかかわらず会場はほぼ満席でした。有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん!ちなみにチャイコフスキー白鳥の湖組曲からは、第1曲“情景”と第5曲“チャルダッシュ”が取り上げられました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。

第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート(2022/06) レポート

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↑「北海道循環器病院」のサイトにて、今回のコンサートの様子が写真付きでUPされています。

北海道循環器病院が開催する、もいわ山麓コンサート。今回は札幌交響楽団ヴィオラ奏者の櫨本朱音さんと、札幌でご活躍のピアニスト・永沼絵里香さんのデュオコンサートです。前回(2021/10)、札響副首席ヴィオラ奏者の青木晃一さんによる「主役としてのヴィオラ」に触れその魅力を知った私は、今回の演奏会も楽しみにしていました。

第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート
2022年06月11日(土)15:30~ 北海道循環器病院 本館1階特設会場

【演奏】
櫨本朱音(ヴィオラ) ※札幌交響楽団ヴィオラ奏者
永沼絵里香(ピアノ)

【曲目】
エルガー:愛のあいさつ
クライスラー:愛の悲しみ
リスト:愛の夢(ピアノ独奏版)
ブラームスヴィオラソナタ第2番 op.120-2

クライスラーシンコペーション
ヴォーン・ウィリアムズ:グリーンスリーブス幻想曲
ヒンデミット無伴奏ヴィオラソナタ op.25-1 より 1,2,4楽章
ピアソラ:タンティ アンニ プリマ
ピアソラ:タンゴの歴史 より 1,2,3曲

(アンコール)サティ:ジュ・トゥ・ヴー


櫨本朱音さん、札響にすごい若手ヴィオラ奏者がいらっしゃいました!お一人お一人がこんなに素晴らしい演奏家なのですから、札響の演奏は良いに決まってますよね!櫨本さんは2019年10月に札響に入団、その時点でオケの最年少だったというお若い女性です。一見、天然キャラでふんわりした雰囲気の櫨本さん。そんなイメージとは裏腹に演奏は真剣そのものかつクオリティ高く、王道クラシックも近現代の作品もお手の物。小品ではかわいらしさや美しさで私達を魅了し、大曲では迫力ある演奏で私達を圧倒しました。もちろんオケとは別のレパートリーを、いつもとは違い「主役になって」演奏することには人知れずご苦労があったことと存じます。オケでの活動がお忙しい中、今回のデュオコンサートでも最高のパフォーマンスをありがとうございます!

また共演のピアニスト・永沼絵里香さんのピアノがとにかく素晴らしかったです。コンパクトなアップライトピアノで、あの華やかさと重厚感!ヴィオラが主役のところでは控えめに、逆にピアノが主役の時は存在感抜群にと、ごく自然に役割を演じ分けながら、ヴィオラとの掛け合いは息ぴったりでした。ちなみに私が永沼さんのピアノを聴くのは、札幌市役所の市民ロビーコンサート(2020年10月)以来。その時はトロンボーン(札響副首席の中野耕太郎さん)との共演で、演目のためかピアノは大人っぽい印象でした。今回は、小品のかわいらしさ美しさに、独奏の華やかさ、ピアソラのカッコ良さ、そしてブラームスの重厚さ!と様々な表情のピアノが聴けてうれしかったです。

そしてなにより、今回も素敵な演奏会を企画・実施くださった北海道循環器病院さんにお礼申し上げます。参加費ワンコインで、一流の演奏が聴けるのは本当にありがたいです。回数を重ねたイベント、会場には常連と思われるお客さんも大勢いらっしゃいました。地域に開かれた、誰もが音楽に親しめる場所を提供し続けてくだり、ありがとうございます。

前半は、「愛」がテーマ。なお私は1曲目の演奏開始ギリギリのタイミングで会場に入ったので(ごめんなさい!)、開演前の様子(あいさつ等があったかも?)についてはわかりません。1曲目はエルガー「愛のあいさつ」。ピアノの短い序奏に続いて登場したヴィオラの深い音色に早速心掴まれ、この時点で来て良かったと実感。甘く歌うところも、中盤の少し寂しげなところも、静かに消え入るラストまで、とっても素敵でした。おなじみの曲による「ごあいさつ」で、掴みはOK!

クライスラー「愛の悲しみ」。はじめの方の有名なフレーズは、ピアノもヴィオラもステップを踏むような音を細かく刻む丁寧な演奏。中盤の切なく歌うところ、終盤のヴィオラの音を震わせる演奏も印象的でした。元々はヴァイオリンのために書かれた曲とはいえ、ヴィオラの影のある音色が驚くほどぴったりで、その響きをしみじみ味わいました。

ここで櫨本さんが一旦退場して、ピアノ独奏でリスト「愛の夢。はじめの方は、低めの音でゆったりと甘く歌ったピアノ。想いが溢れたような高音の盛り上がりが力強く情熱的でインパクト大!感極まった後のキラキラした音が華やかで儚げで素敵すぎて。甘く情熱的な「愛」に、私は胸がいっぱいになりました。こちらのピアノ独奏を拝聴して、私は次のブラームスへの期待値がゲージMAXまで上がりました。

前半の山場、ブラームスヴィオラソナタ第2番 op.120-2」。演奏前に曲についての解説があり、まずは永沼さん、続いて櫨本さんがお話されました。元々はクラリネットソナタとして書かれたものを、作曲家自身がヴィオラ用に編曲。老いて創作意欲を失っていたブラームスが、クラリネットの名手に出会ってから作曲した経緯があり、タイトルに「愛」はないけれどクラリネットへの愛が込められている、といった趣旨のお話でした。「(愛は)こじつけです」と櫨本さん。いえいえ、ブラームスの作品はすべて愛で出来ていますから!第1楽章、穏やかな冒頭から引き込まれました。ヴィオラが高音域で甘く歌うのと、ピアノの下支えが高音で優しく寄り添いながらも重厚感があったのが素敵。またピアノがダイナミックな響きになるところが印象に残っています。幸せな感じから一転、短調になる第2楽章でも冒頭でぐっと心掴まれました。仄暗く切ないヴィオラの歌に、低音で寄り添うピアノ。またヴィオラ小休止のシーンでピアノが情熱的に躍り出るところがすごく良かったです。中盤、ヴィオラが丁寧に音を繋ぎながら少しずつフェードアウトしてからの、じっくりと歩みを進めるようなピアノの重厚な響きと、後から重なったヴィオラ(高音→低音→重音)がドラマチックで素敵すぎました。ここ大好きなんです、ありがとうございます!第3楽章、ヴィオラとピアノが穏やかに会話するような掛け合いが息ぴったりで、優しく美しい響きを堪能。クライマックスではテンポが速くなり、ハンガリー舞曲を思わせる快活な盛り上がりで締めくくり。作曲家最晩年の作品の、優しさと愛に満ち、しかしまだ情熱の火は消えていない良さが伝わってきました。こんなに素敵なブラームスに出会えてうれしかったです。ありがとうございます!


後半は、「20世紀の作曲家の作品」がテーマです。1曲目はクライスラーシンコペーション。タイトルの通り、規則正しいリズムを刻みながら、ウキウキと小さくステップを踏むような楽しい音楽。ピアノとヴィオラが手を取り合い素朴な舞曲を踊っているように感じられました。ラストはピアノの高音の一打とヴィオラのピッチカートの重なりで締めくくったのが、可憐でとても印象に残っています。

ヴォーン・ウィリアムズ「グリーンスリーブス幻想曲」。前の曲とはガラリと雰囲気が変わり、ひとり草原に佇み冷たい風を受けているような、寂しさを感じる曲。高い音から入ったヴィオラが次第に低い音に移るところで引き込まれました。中盤、メロディがピアノに移ってからのヴィオラの重音も素敵。最初のメロディが戻ってくると、ヴィオラが今度は低い音程で切なく歌ったのも心に染み入りました。演奏が終わると櫨本さんは「来週の土曜日にオーケストラでこの曲を演奏します」と、hitaru公演(hitaruのひととき ~尾高忠明 presents 偉大なる英国の巨匠たち~)をしっかり宣伝。抜かりナシ。完璧です!

ピアノの永沼さんが一旦退場し、ヴィオラ独奏でヒンデミット無伴奏ヴィオラソナタ op.25-1」より 1,2,4楽章ヒンデミットヴィオラを弾く作曲家ですと紹介があり、「演奏にびっくりするかも?」と前置きした上で、演奏に入りました。はじめの方の、ヴィオラの深みのある音色による重音や悲鳴のような音に会場の空気が一変。心地よいメロディではないものの、その気迫に圧倒されました。中盤、高低や強弱が細かく変化する音の波がすごい。パワフルなところだけでなく、ごく小さな音での演奏もインパクトありました。そして終盤、弓も弦を抑える手も超高速!超絶技巧と繰り出される音楽に度肝を抜かれました。すっごい!札響はとんでもない秘密兵器を隠し持ってましたね!

「皆さん大丈夫ですか?お子さんは泣いていませんか?」と、お客さん達を気遣った櫨本さん。「次は心が落ち着く曲を選びました。血糖値を下げてください」(!?)……はい!血圧でも中性脂肪でも(笑)。曲は、ピアソラ「タンティ アンニ プリマ」。映画の挿入歌だそうです。穏やかな波のようなピアノに、ゆったりと歌うヴィオラ。美しい音楽に心洗われました。血圧が20くらいは下がったかも(笑)。

プログラム最後はピアソラ「タンゴの歴史」より 1,2,3曲。「盛り上がってください。踊れる人は踊っちゃってください!」と櫨本さん。年齢層が高めの会場で、さすがにタンゴが踊れる猛者はいませんでしたが、所謂クラシック音楽のお上品なイメージとは違う音楽に、会場の熱気が上昇したのが感じられました。はじめ、ヴィオラとの掛け合いで、ピアノが鍵盤ではなくピアノ本体を打楽器のようにリズミカルに叩いて音を発したのが超カッコ良かったです。タンゴ特有のリズムで、ピアノの低音の下支えに乗ってヴィオラが高めの音域で陽気に奏でる音楽。時折ヴィオラがキュンと高音へ駆け上ったところが素敵!中盤のしっとりした美しいところにも聴き惚れました。終盤はぐっと妖艶な雰囲気になり、ヴィオラの音色も少しダミ声に変化。駒の内側の弦を擦ってギーギー鳴らしたところがインパクト大!音を駆け上るのも、1曲目の明るさとは違う、夜の酒場に似合う感じなのがカッコイイ!超楽しかったです!

子供達からの花束贈呈があり、櫨本さんがごあいさつされました。アンコールサティ「ジュ・トゥ・ヴ」。日本語では「あなたがほしい」との訳で知られている有名な曲ですね。ピアノは低音域、ヴィオラは高音域で甘く歌うのがとっても素敵でした。ラストは音を引っ張らずにすぱっと清々しく締めくくり。1曲目の「愛のあいさつ」と好対照のアンコール、素晴らしいです!

終演後は出演者のお二人によるお見送りもありました。コンサートホールとは勝手が違う会場で、演奏は大変だったことと存じます。クラシック音楽の演奏会に慣れていない人達をも魅了した、本物の演奏をありがとうございました!今後、室内楽やもちろんオケでの演奏も楽しみにしています。


北海道循環器病院が開催する、もいわ山麓コンサート。前回は「青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2021/10/30)でした。味わい深い音色に超絶技巧の数々。札響副首席・青木さんによる「主役としてのヴィオラ」はヴァイオリンに引けを取らない表現力で、「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめました!

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札幌はリーズナブルな価格で本物の演奏が聴ける機会に恵まれていると思います。この日の9日前に聴いた、札幌市と札響の主催による特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)。チケットはサービス価格設定(一般1000円、65歳以上500円)で、平日昼間にもかかわらず会場はほぼ満席でした。有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん。ちなみに演目にはエルガー「愛のあいさつ」の管弦楽版もありました。

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この日の前日に聴いた「藤木大地 カウンターテナー・リサイタル」(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!日本とフランスの曲を中心に、唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。ちなみにリスト「愛の夢」はオリジナルの歌曲が演奏されました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。